やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。   作:セブンアップ

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これにて、彼と彼女らの祭りは幕を閉じる。

 

 体育祭、午後の部。応援団による応援合戦から始まった。それが終了し、次は2年生による騎馬戦が始まった。

 

「いただき!」

 

 騎手である小野塚先輩が、相手の額に巻かれている帯を引ったくる。あれでもう3本目だ。

 

「大漁大漁!」

 

 一方で、村紗先輩を乗せた騎馬も序盤から帯を奪っている。奪った帯を掲げて高らかに笑う。

 

「盛り上がってるわね〜」

 

 と、欠伸をしながら眺める博麗がそう呟く。次の対抗リレーまで暇なのか、退屈そうにしている。

 

「次は確か棒引きだったよな…」

 

 棒引きに出場するのは、物部、蘇我、火焔猫、そして霊烏路だ。なんかすごい組み合わせだ。

 

「それが終われば、次は200m走ね」

 

 射命丸との勝負を着ける200m走。負けたら俺の学園生活はその時点で終了する。内容が内容だけに負けられないし、小野塚先輩に付き合ってもらった借りがあるからな。

 

 思い返せば、今までの運動会や体育祭で、俺がここまで本気になるなんて初めてなのではないか。元を辿れば、俺が地雷を踏んだ結果なんだけどね。

 

「緊張してるの?」

 

 俺の様子を見て、心配そうに窺う十六夜。

 

「緊張というより後悔かもな。ちょっと今時間を巻き戻す方法を考えてた」

 

「ドラえもんがいないから無理ね」

 

 知ってる。逆にいたら捕獲してるっつの。

 そんな下らないことを考えていると、あっという間に時間は過ぎていく。騎馬戦が終了すると。

 

『200m走に出場する生徒は、入場門に集まってください』

 

 遂に200m走の呼びかけがかかる。今から始まるのは棒引きだが、これが終わると200m走だ。

 

「よっし!頑張ろうぜ八幡!」

 

「…おう」

 

 気合いを入れた霧雨に対して空返事。

 緊張より不安が勝っている。期末試験じゃ俺の得意分野だったから、負けない気でいたし、実際負ける気がしなかった。

 しかし、身体能力じゃ射命丸が上手だ。足の速さは半端じゃない。「そんなん出来ひんやん普通」って言いたくなる。

 

 200m走に出場する俺、霧雨、そしてもう一人、長いストレートの黒髪の女子は入場門前にて、前の種目の棒引きを観覧している。

 棒引きに出ている物部達が気になって見ているというより、心を落ち着かせるため。「負けたらどうする」という不安がよぎっているため、こうして他に集中させて落ち着かせている。

 

 そうでもしないと、ノイローゼにでもなりそうだ。それともストレスで禿げそうだ。いっそそっちの方が清々しいだろうな。

 

「…はぁ…」

 

「…さっきから顔色悪いけれど、大丈夫?熱中症にでもなったの?」

 

 と、黒髪ロングの女子が心配する。誰だっけこの子。名前忘れたんだが。

 

「…顔色悪いのは元からなんでな。気にする必要ねぇよ」

 

「それは気にしなきゃダメじゃないのかしら」

 

 誰だか知らんけど、これがデフォルトなんだ。気にせんでくれ。

 

『決着!3年生による棒引きは、白組の勝利!』

 

 どうやらああだこうだ考えているうちに、3年の棒引きが終了。

 棒引きのプログラムが終え、出場した生徒達は退場門に向かって走って行く。

 そして、一人残らず退場して行くと。

 

『次のプログラムは、200m走です。選手入場です』

 

 入場の音楽が鳴り始め、それを合図に入場門からグラウンドへと入場する。その行進の一歩一歩が、俺の鼓動を早くしていく。

 グラウンドのレーンの内側に入り、第1走目の走者が各レーンに位置に着こうとしている。F組からは霧雨だ。他のクラスからも、きっと足に自信がある猛者をぶつけてくるに違いない。

 

 例えば、E組のレーン。背の高い長い赤髪をした女子で、どっかで見たことあると思ったら紅魔館の眠れる門番、紅美鈴がいる。門番と言うからには、侵入者撃退の術を持ち合わせているだろう。

 

 つまり、それ相応の身体能力があるということだ。

 

「位置に着いて!よーい…」

 

 開始と同時に地面を蹴って走り始める。6レーンの中で目立つのはこの二人。

 霧雨と紅だ。霧雨のスペックの高さは体育で知っているが、紅に関しては身体を動かしたところを見たことがない。故に、霧雨と同等の速さで走る紅に少し驚いている。

 

『E組紅美鈴とF組霧雨魔理沙のデッドヒート!先にゴールするのはどちらか!』

 

 この二人がなんで体育会系の部活に入っていないのかと疑問に思うくらいの身体能力の高さ。火花散る二人の200m走、どちらに軍配が上がったのか。

 

『ゴォール!接戦を演じ、その果てに1位に躍り出たのは!F組霧雨魔理沙!』

 

「よっしゃあぁー!!」

 

 霧雨は嬉しそうにガッツポーズする。2位の紅は悔しそうではあるが、霧雨に対して拍手し、賞賛している。

 

「…凄ぇな」

 

 霧雨や紅も十分速い。というか、普通に考えてあいつらに勝てる気がしない。なのに、それ以上の速さを誇る射命丸と勝負。マジ無理ゲー。負けイベントもいいところだ。

 

 次は第2走目。さっきの髪が長い女子が走るようだ。

 

「位置に着いて!よーい…」

 

 発砲音と同時に、彼女は駆ける。まるで獲物を狙う狼のように、やや低い姿勢で颯爽と走りゆく。

 

『速い速いッ!今泉影狼!狼を連想させる走りで、地を駆けて行く!』

 

 どうやらこのまま1位を取る…と思いきや。

 

『A組の犬走椛(いぬばしり もみじ)!F組の今泉を抜き去って1位に躍り出たぁ!』

 

 白いショートの髪に白い肌、赤い瞳。アルビノを思わせる容姿をした女子が、今泉とやらを抜き去る。

 

『犬走!そのまま1着でゴール!今泉、惜しくも1位を逃しました!』

 

「くッ…」

 

 今泉は惜しくも2着。とはいえ、2着でも十分誇れる戦績だ。

 俺なんて、1位になれる気なんてしない。

 

「さぁ。私と貴方、どちらが優れているか見せてあげるわ」

 

 射命丸は余裕綽々といったところだ。対する俺は、彼女の軽口にすら返さず、心を鎮めるために深呼吸しながら、俺が走るレーンの位置に着く。

 

「頑張れよ、八幡!」

 

 先に終わった霧雨が俺を応援する。俺は彼女の応援に頷き返し、いつピストルが撃たれても大丈夫なように準備し始める。

 

「…ふぅ…」

 

「位置に着いて!」

 

 いよいよ始まる。俺の学校生活を懸けた、運命の一戦が。

 

「よーい…」

 

 刹那。スターターピストルによる発砲音が鳴り響き、それを合図に一斉に走り始める。

 悪くないスタートを切った…が。

 

『速い速い!C組射命丸文!快速を飛ばしてゴールを目指す!』

 

 やはり射命丸の独壇場。

 しかし、こちらとて負けられない理由がある。

 

「くッ!」

 

『おっとしかし!F組の比企谷八幡が彼女を追う!』

 

「へぇッ、そこそこ速いじゃないの!」

 

 未だに余裕の笑みが崩れない射命丸。その射命丸は、コーナーに差し掛かる。コーナーさえ走り切れば、ゴールは目前だ。

 

 しかし。

 

「ぁあッ!」

 

 コーナーの途中で躓いたのか、射命丸が勢いよく転んでしまう。

 

『あぁ!射命丸文、コーナーで躓き転倒!』

 

 射命丸に悪いが、追いつくチャンス到来だ。今なら抜かせる。そう思ったのだが。

 

「ぅぐ……うぅ…」

 

 射命丸の様子がおかしい。左足首を抑えて蹲っている。まさかさっきのは躓いたんじゃなく、挫いたのか?

 

「くッ…」

 

 射命丸がゆっくりと立ち上がろうとするが、左足が痛むのか、再び跪いてしまう。

 コーナーに入り、射命丸に追いついた俺は、彼女の安否を尋ねる。

 

「おい、お前…」

 

「うるさい…!さっさと、行けばいいじゃない…」

 

 どうやら彼女は、試合を諦めたようだ。今から走れば余計に悪化することを悟ったのだろう。

 なら俺は、こいつを放置してゴールに向かえば、こいつとの勝負は俺の勝ちになる。つまり、射命丸の奴隷にならずに済むのだ。

 

 済む、のだが。

 

 それでいいのか?

 少なくとも、こいつは正々堂々と勝負をした。卑怯な手は一切使ってない。これで勝って、学校生活を守って、それでいいのだろうか。

 射命丸を放って置いてまで得た勝利に、俺は罪悪感を感じないのだろうか。勝ったことに、誇れるのか。

 

 世の中、結果が全て。汚かろうがなんだろうが、結果が優れている者が賞賛を浴びる。

 そのことに対して、俺は間違ってはいないと思っている。人間、勝つために手段を選ばない。言い換えれば、勝つための努力を惜しんだということなのだから。

 

 だが。

 目的のために直向きに頑張った人間が報われないなんて、俺は嫌だ。

 

「…クソッタレが」

 

 こんなこと、俺のキャラじゃないっつの。バカバカしい。

 心の中でそう呆れながら、俺は射命丸の隣にしゃがみ込む。そして、彼女の左腕を俺の首の後ろに回す。

 

「な、何してるのよ…」

 

「見りゃ分かるだろ。ゴールに連れて行くんだよ」

 

「貴方バカなの?そんなことして、私に恩を売ったつもり?」

 

「別にお前が気にする必要はねぇよ。これは自己満足だ。お前を放置してゴールしても、勝った気にならないだけだ」

 

 我ながら酷い言い訳だ。現文試験満点の人間が言う文じゃねぇなこりゃ。

 

「痛むか?」

 

「痛いに決まってるわよ…」

 

 射命丸をゆっくり立ち上がらせて、左足に負担が掛からないように歩速をゆっくりにする。

 そんなこんなしてる間に、他のクラスはとっくにゴールしていた。

 

「…なんでこんなバカバカしいことするの。貴方が勝てば、私は貴方に金輪際近づかないのに。私の奴隷にもならずに済んだのに」

 

「この場合じゃ勝敗は着かない。両者共に最下位で引き分けだ。つまり、賭けも引き分け。互いに命令が出来ない。だから別にこの結果でも良いと、俺は思ってる」

 

 金輪際近づくなという命令より、俺は俺の学校生活を守りたかった。負けていれば、二度と平穏な学校生活が送れなかったからな。だから引き分けでも俺は良いと思っている。

 小野塚先輩には悪いが、後で土下座しよう。折角練習に付き合ってもらったというのに、結果が芳しくなかったからな。

 

「…変な人間」

 

「ほっとけ。世の中大体変な人間が多いんだよ」

 

「…それもそうね」

 

 そのままゆっくり射命丸を連れて歩き、そしてゴール。途端、四方八方から拍手が送られる。

 

「比企谷くん、彼女を」

 

 グラウンドに、保健医の八意先生がやってくる。射命丸を八意先生に預けて、俺は最下位の列に並ぼうとした時。

 

「…次は負けないから」

 

 背中越しで彼女はそう告げ、八意先生に連れて行かれた。

 

「…次なんてやりたくねぇよ」

 

 射命丸との勝負はこりごりだ。やっとの思いで引き分けになったんだから。

 俺は小さく呟き、最下位の列に並んだ。

 

 あー疲れた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「…捻挫ね。体育祭が終わった後、永遠亭に連れて行くけれど。それまでは保健室で足を休めなさい」

 

 私とあろう者が、たかだか200m走ごときに足を負傷させてしまうなんて。準備運動は怠っていなかったのに。

 

「…彼、優しいわよね。自分が不利になっても、負傷した貴女を心配するのだから」

 

「…変な人間ですよ。あれは」

 

「変、ね。確かに彼に当てはまる言葉ね」

 

 何やらクスクス笑っている。今の何が面白かったのだろうか。

 

「…でも、変な人間でも。彼はとても優しい子なのよ。自分よりまず他人を優先して動くなんて、中々出来ないわ。人間、自分が大切なのだから」

 

「…そうですね。あれの優しさに充てられたから、F組の一部の人間は彼の周りに集まるんでしょうね」

 

「異性が彼だけだからというのもあるけどね。女って生き物は、上っ面の優しさじゃなく、心から心配してくれる人に弱いのよ。彼みたいに、捻くれて文句言いながら助けたりね。あれが下心あるかないかは小学生でも分かる」

 

 癪だが、確かにあの人間は優しい。

 

 文句は言うし、悲観的だし、人を知ったような口振りをする。でも、彼の心は誰かに寄り添える優しさを持っている。不器用ながらも、誰かに寄り添える優しさが。

 

 その優しさを充てられた彼女達は、今度は「自分だけを見て欲しい」と思い始めるのだ。彼独自の、捻くれた優しさを独占したいのだ。

 

「もし歳が近かったら、アプローチしていたかもね。私」

 

「…私は興味ありませんよ。彼を意識するわけがない。周りみたいに狂うほど、私はバカじゃない」

 

 そう。あんな人間を誰が意識するか、バカバカしい。ちょっと優しくしてもらっただけで、私は彼を好きになどならない。

 

 弱い人間に、興味はない。

 

「まぁ貴女の価値観だからね。否定はしないわ。けれど、少なくとも彼は貴女に対してあの時、善意を持って手を差し伸べた。それだけは、分かってあげて」

 

 …まぁ、優しくしてもらって悪くはなかったけど。だがあんなのは、誰に対してもやるようなことだ。いちいち勘違いするわけがない。

 

 比企谷八幡、か…。本当、変な人間。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お疲れ様」

 

「悪かったな。1位取れなくて」

 

 観客席に戻った俺は、真っ先に謝った。

 

「いいわよそんなの。誰も貴方を責めやしないわ」

 

「中々カッコいいことしてくるじゃねぇか。私はああいうの、嫌いじゃないぞ」

 

「うむ!やっぱり八幡は優しいのじゃ!」

 

 どうやら誰も気にしていない様子だ。最下位になったというのに顔色変えずに許すなんて、どいつもこいつもこころが広いな。

 

「それより、始まるわよ。全学年種目の対抗リレー」

 

 マーガトロイドの言葉で、俺達はグラウンドに視線を向けた。F組から出場するのは、鈴仙、十六夜、霧雨、そして博麗だ。スペックが高いあいつら4人なら、1位を取ってもおかしくはない。

 

 他クラスで俺が知っている人物が出場してるのは、C組からは魂魄、E組からは紅、B組からは姫海棠だ。

 2年の部では、小野塚先輩、ナズーリン先輩、村紗先輩が出場している。3年の部は、風見先輩、寅丸先輩だ。

 

「位置に着いて!よーい…」

 

 発砲音と共に、1年の部のリレーが開始した。いち早く飛び出したのは、鈴仙だ。

 

『F組鈴仙速い!あっしかし、D組の水橋(みずはし)パルスィが何やらぶつぶつと呟きながら追いかける!妬ましいのでしょうか!?』

 

 何がだ。何が妬ましいんだ。

 

『1位のF組、第二走者の十六夜咲夜にバトンが渡った!F組に続き、他のクラスも次々と第二走者にバトンを渡す!』

 

 未だに1位はF組。いや、本当に強いなうちのクラス。

 

『1位は依然F組!しかし、2位が入れ替わってB組に!姫海棠はたて、十六夜咲夜の後を追う!』

 

 あまり話した事のない姫海棠。だが、意外にも彼女もスペックが高いようだ。とはいえ、十六夜にはまだ及ばない。

 

『F組、十六夜咲夜から第三走者の霧雨魔理沙にバトンが渡った!』

 

「いっくぜぇーッ!」

 

『F組霧雨魔理沙の独壇場!おっとしかし、背後からA組の清蘭(せいらん)がすごい勢いで他を抜き去り、F組に迫る!』

 

 青髪を二つおさげにして纏めた女子が、徐々に霧雨との距離を詰める。

 

『F組遂にアンカーにバトンが渡る。次にA組がアンカーに!』

 

 F組のアンカーは、博麗だ。A組は、先程200m走に出場していたアルビノっぽい女子だ。

 

「せやあぁぁッ!」

 

『C組アンカーの魂魄妖夢!凄まじい勢いでF組、A組との距離を詰めていきます!いやしかし!E組紅美鈴も恐るべき快速で後を追います!』

 

 1位はF組だ。しかし、先程のように圧倒的な差が無く、徐々に距離が縮まって来ている。C組、E組も遂にA組と並ぶ状況に。

 

『まさにデッドヒート!この戦いに勝利し、栄冠を掴み取るのは一体誰なのか!?』

 

 白熱の対抗リレーも、そろそろ終わりが来る。実力が拮抗したこの対抗リレー。1位に輝いたのは。

 

『ゴォール!序盤から1位を独占し、栄冠を掴み取ったのはF組です!!』

 

 このリレーを見て思ったのだが、普通にやったら間違いなく射命丸に負けてたなマジで。

 射命丸の速さは博麗や霧雨をも凌ぐという。あいつら2人も陸上部に入ったら全国で間違いなく活躍出来るレベルなのに、それ以上の速さを誇る射命丸は最早人間なのだろうか。妖怪か何かじゃないのだろうか。

 

「…文がアンカーにいたら、C組が勝っていたのかもね」

 

 マーガトロイドがそう呟く。

 

 射命丸は先程のアクシデントで保健室にいる。おそらく対抗リレーにもエントリーしていたのだろうが、捻挫で走れないので代わりにアンカーが魂魄に変わったんだろう。

 とはいえ、魂魄は魂魄で十分速かったし、結果的にC組は3位だ。アンカーとしての役目は努めていただろう。ただ、あの面々の中では、博麗が速かった。としか言いようがない。

 

『続きまして、2年の部の対抗リレーを行います!』

 

 2年制達が指定されたレーンに着き、走る準備を行なっている。村紗先輩、ナズーリン先輩は最初に走るようだ。それぞれ別クラスだったのか。

 

「位置に着いて!よーい…」

 

 2年の部の対抗リレーが開始された。一番速く目立つのは、村紗先輩だ。ナズーリン先輩も速く見えるが、村紗先輩の方が速く見える。

 

『C組村紗水蜜!1位のまま、今第二走者にバトンを渡す!』

 

 どのクラスも走力のレベルが高い。接戦を演じ、遂にアンカーにバトンが渡る。

 

『2年の部もいよいよ大詰め!果たして1位に輝くのは誰か!』

 

 すると、1番ビリのクラスが勢いよく次々と他クラスのアンカーを抜き去って行く。

 

『は、速い!2年A組小野塚小町!最下位から一気に順位が上がっていく!』

 

「…カッケェな…」

 

 思わず呟いてしまう程、小野塚先輩の姿は輝いていた。あんなん男女関わらず惚れるんじゃないだろうか。

 

『小野塚小町!1位だったB組を抜き去り、そのままゴールに一直線!そして!』

 

 ゴールテープを切り、1着となる。

 

「へへっ、どんなもんさ!」

 

 えっ待ってなんであんなカッケェのあの人。マジで惚れそうなんだけど?大丈夫?惚れて玉砕するまでの未来が見えちゃったんだけど?

 

『これにて、2年生の部は終了します。続きまして、3年生の部を開始します』

 

 3年は風見先輩と寅丸先輩が出場しているが、どうやらどちらもアンカーを任されているようだ。

 

『第一走者の生徒は、指定されたレーンに着いてください』

 

 アナウンスの指示で、レーンに着く。深呼吸する者、瞑想する者、様々な思いが交差する対抗リレー。

 

「位置に着いて!よーい…」

 

 ピストルの発砲音が勢いよく鳴り、それを合図に一気に走り出す。

 

『さぁ始まりました!対抗リレー3年の部!1位はE組の、牛崎潤美(うしざき うるみ)!闘牛を思わせる走りで、第二走者のいる位置を目指します!』

 

 3年の対抗リレー。それは先程の2年の部とは比べ物にならなかった。小野塚先輩でさえ速く見えたというのに、彼女達はそれ以上を見せつける。

 

『E組ここで第二走者にバトンをパス!しかし、続くF組もバトンを渡します!おっと!ここで3位のB組がE組、F組を抜き去ります!B組のヘカーティア・ラピスラズリ!そのまま第三走者の位置目掛けて走る!』

 

 すんごい名前だな。苗字が宝石の名前て。

 

『すごい激戦です!意地でも負けられないという思いの強さ故でしょうか!』

 

 対抗リレーも、いよいよ最終局面へ。本当に盛り上がるのは、ここからだろう。

 

『B組のアンカー純狐(じゅんこ)!今バトンを受け取りゴールを目指します!あっいや、しかし!ここでC組のアンカー風見幽香が勢いよく迫る!』

 

 B組とC組の一騎打ちのように見えるが、他のクラスもそう甘くはないようだ。

 

『A組寅丸星もバトンを受け取り、1位を目指して駆け抜けます!しかし、E組のアンカー吉弔八千慧(きっちょうやちえ)も負けていません!』

 

 どのクラスもトップレベルを誇る速さだ。誰が1位になったっておかしくないほどの。

 

 その強者の中で、1位に躍り出たのは。

 

『ゴォール!!3年の部!1位に輝いたのは、C組の風見幽香!!』

 

 1位を取っても尚、風見先輩は凛とした佇まいをしている。まるで、最初から勝つことが分かり切っていたように。

 

「すごい盛り上がりだったわね……見ていて心が踊らされるようだったわ」

 

「…そうだな。凄かった」

 

 博麗も霧雨も、小野塚先輩も風見先輩も。まさに体育祭の目玉競技と言っても過言ではない。

 

「次で最後のプログラムか。3年生によるダンスだとよ」

 

「だんす、と言うと演舞のようなものか?」

 

「まぁ認識としちゃ間違っちゃいねぇけど…」

 

 そういえば、3年が何を踊るのか知らないな。ダンスをすることしか知らなかったし。

 

「おーっす!」

 

「おう、お疲れ」

 

 リレーに出場していた霧雨達が戻って来た。

 

「悪かったな。200m走、いらんことして」

 

「あぁ、あれか?そんなの気にすんなよ!むしろ良いことしたんだし、誇って良いと思うぜ?」

 

「…ならいいんだが。後ろの博麗には思いっきり睨まれてるんだけどな」

 

「…別に。結局助けるあたり、あんたは他人に甘過ぎるのよ。バカみたい」

 

 博麗はそう突っぱねるような言い方で、自分の席に座って水を飲む。

 

「まぁ、終わったことだからいいでしょう。それより、今から3年生のダンスが始まるわよ」

 

 十六夜が話を終わらせて、グラウンドを指差す。

 

 するとグラウンドには、ほんの少し露出のある着物を着た3年が立っていた。グラウンドのレーンに内側に沿って、観客と目が合うように長い円になって待機している。20人6クラスだからか、一人一人の距離感が大きい。

 その上、偶然なのかどうかは分からないが、目が合う程度の近い距離に、四季先輩がいる。

 

『これより、3年生により集団舞踏を行います。観客の皆様、盛大な拍手をお願いします』

 

 今から踊る3年生に、拍手が送られる。そして観客からの拍手が鳴り止むと、音響機器から音楽が流れ始める。その音楽を合図に、3年生達の踊りは始まった。

 

 何の音楽は分からないが、少なくとも最近流行りの曲では無さそうだ。しかし、不思議と音楽と踊りが合っている。キレがあり、少し艶めかしい踊り。

 

『おいでませ 極楽浄土』

 

 どうやらサビに入るようだ。

 

『歌えや歌え 心のままに

 アナタの声をさぁ聞かせて

 踊れや踊れ 時を忘れ 

 今宵 共に あゝ狂い咲き』

 

 分からない音楽なのは依然変わらない。だが、四季先輩達の踊りに魅了されてしまうのも事実。

 四季先輩だけでなく、風見先輩、寅丸先輩、レミリアお嬢様。別々のところで踊っているが、彼女達の一挙手一投足に魅入ってしまう。

 

 乱れる髪、艶めかしく動く身体、暑さ故の汗。それらが渾然一体となり、周りを魅了していくのだろう。

 

 普段、情緒が不安定な四季先輩が、今では凛々しく見えてしまうのだ。

 

『ゆきましょう 極楽浄土』

 

 音楽的に、どうやらラストスパートのようだ。

 彼女達は最後の1秒まで全力で踊り、そして最後には音楽が終わると同時に決めポーズ。

 その瞬間、グラウンドは大きな歓声と拍手に包まれた。霧雨やマーガトロイドも拍手を送っている。十六夜なんて、所々で赤面してたけど。

 

『これより、閉会式を行います』

 

 3年のダンスが終わり、閉会式が始まる。空はまだ青いが、夕焼けに差し掛かろうとしている空模様だ。

 

『では校長先生から、結果の発表をしてもらいます』

 

 マイクを持った八雲紫先生が壇上に立ち、口を開く。

 

『ひとまずはお疲れ様。校長の長ったらしい話は聞き飽きてると思うから、さっさと発表するわね。…第88回東方体育祭。優勝は…』

 

 赤か白か。どちらに軍配が上がるのか。

 

『赤組よ』

 

 その瞬間、赤組に属するクラスは歓喜の声を上げる。

 

「まぁ当然よね」

 

 前にいる博麗はクールにそう言う。対して、霧雨なんてもうお祭り騒ぎもいいところだ。

 

『僅差だったわ。白組が勝ってもなんら不思議では無かった。それほどまでに、両組共に実力が拮抗していたわ。今年も素晴らしい体育祭だったと、言い切れる』

 

 なんだか今日一日が長く感じた。けれど、あっという間だった気もする。これが長いようで短い、という言い回しだろうか。

 

『続きましては、生徒会長の閉会式の挨拶です』

 

 次は、四季先輩がマイクを持って壇上に立つ。

 

『お疲れ様でした。どの学年も、どのクラスも精一杯頑張ったことでしょう。楽しかったこと、悔しかったこと、それぞれ思うことはあると思います。しかし、それはこの体育祭に対して全力で取り組んだ証明でもあります』

 

 四季先輩の話に、全校生徒は耳を傾ける。

 

『こういった感情や経験は、皆さんの唯一無二の宝物になるでしょう。私もこの思い出を一生忘れません』

 

 俺は目を見開いた。四季先輩の声に何の異常も無かった。なのに、彼女の瞳から涙が溢れている。

 

『私達は今年で最後の体育祭ですが、これから先、東方学院の後輩が東方体育祭を盛り上げてくれることを私は信じています。最後になりましたが、私達の勇姿を最後まで見届けてくれた保護者と教諭に感謝の、そして私達には努力した自分自身への、拍手を送りましょう。本当に、お疲れ様でした』

 

 四季先輩が壇上で頭を下げると、再びグラウンドは拍手に包まれる。今の四季先輩の言葉に影響したのか、涙ぐむ人もチラホラ。

 というかなんだろ。なんか俺まで泣きそうになって来たんだけど。俺ってばもしかして涙脆かったりするのん?

 

『これにて、第88回東方体育祭の閉会式を終わります。生徒の皆様、お疲れ様でした』

 

 閉会式が終わり、俺達は自分の席を教室に戻すために観客席に戻った。

 

「なぁなぁ!みんなで集合写真撮ろうぜ!」

 

 と、霧雨がスマホを取り出してそう提案する。

 

「…そうね。クラスの集合写真なんて、滅多に撮れるものじゃないし」

 

 マーガトロイドや、他の面々も霧雨の提案に賛同する。

 

「じゃあ、私が撮りましょうか」

 

 担任の稗田先生が現れて、そう名乗り出た。

 

「先生も折角だし、一緒に映ろうぜ!」

 

「…えぇ。喜んで」

 

 先生を含めた集合写真を提案する霧雨。稗田先生は柔らかい笑みで頷き、近くにいた他の先生に霧雨のスマホを渡す。

 

「華扇さん。写真撮っていただけますか?」

 

「ええ、いいわよ」

 

 華扇と呼ばれる先生がスマホを受け取り、横に持って俺達に向ける。

 

「ほら八幡!お前も前に来いって!」

 

「え、嫌なんだけど。後ろあたりでいいんだけど」

 

「あんたの場合心霊写真になるでしょうが」

 

「人の存在感の無さを揶揄しないで?」

 

 霧雨や博麗が前に座り、その間に俺が座り込む。霧雨の左隣にはマーガトロイド、博麗の右隣には十六夜や鈴仙がいる。俺の後ろには、火焔猫や霊烏路や物部が立っている。

 

「ちょっと?」

 

「?なんだ?」

 

「や、ナチュラルに肩に手ぇ回してる件について」

 

「いいじゃねーか!なっ!」

 

 余計に力を入れる霧雨。汗かいてる筈なのに、こいつなんで良い匂いすんの?

 

「で、お前は何してんの?」

 

 俺の隣は霧雨だけじゃない。逆サイドには、博麗が座っている。だけならまだ良いのだが、こいつは俺の頬を引っ張っている。

 

「良いじゃない。耳から頬に変わったんだから」

 

「どっちも対して変わらんし。つか痛い」

 

 何が良いのだろうか。暑さのせいで頭がイカれてしまったのだろうか。

 

「それじゃあ撮るわよ。ハイ、チーズ」

 

 その掛け声で、俺達は顔をスマホに向けた。何枚か写真を撮ってもらい、撮影に使ったスマホを霧雨に返した。

 

「…良い写真ですね」

 

 彼女のスマホを、次から次に覗き見る。

 確かに、思ったよりかは悪くない。博麗の仏頂面も、霧雨の朗らかな笑顔も。

 

 こうして集団で写真を撮るのは、思いの外悪くない。

 

「あんたやっぱ目腐ってるわね」

 

 ただし、俺の写真映りは想定していた通り、普通に悪いのだ。

 

 




 東方×ダンスってなったら割と使われる音楽の一つだと思ったのが『極楽浄土』でした。
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