やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
体育祭が終わり、終業式も終わって夏休みとなった。1学期の全ての行事が終えて、生徒会も2学期になるまでしばらく休みとなる。
普段であれば、冷房の効いた部屋でゴロゴロしていたのだが、どうしても最近発売されたゲームを買いに行きたくて、わざわざ外に出て来たのだ。
「あ。あった」
俺が買いに来たのは、袋化け物の金剛石と真珠のリメイク。要するにポケモンのダイパリメイクである。わざわざ日本語に直した意味。
家にSwitchはあるし、自称ポケモンマスターの俺としては買いたいと思っていたのだ。さて、どちらにしようか。
「比企谷くん、ですか?」
「え…?」
背後から掛けられる女の声。その声には、聞き覚えがある。
中学の頃の同級生なんて、既に記憶から消えているものだと思っていた。なのに、彼女の声を聞いた瞬間、一気にあの頃の記憶が蘇る。
「こ、ちや……?」
振り向くと、そこには中学の頃の同級生、
「やっぱりそうです!お久しぶりですね、比企谷くん!」
「…あぁ。まぁ、そうだな」
俺は正直、あまりこいつと話したくない。
彼女が嫌いというわけじゃない。あの頃の俺がバカすぎただけだったのだ。たかだか趣味が少し似ていただけで、話が盛り上がっただけで、勘違いして、告白までしてしまったんだから。
問題は、こいつがそれを覚えているか否か。
「比企谷くんも、ポケモンを買いに来たんですかっ?」
「…まぁな。ポケモンは長年やってたし、リメイクとあれば買わんわけにはいかないからな」
とはいえ、15年前の作品だ。つまり、俺が生まれてるかどうか分からない時期だ。だから俺の世代ではないが、母ちゃん達が家に残していたゲームで遊んだ記憶がある。
「ですよね!リメイク決定ってなった時、キタコレーってなりましたよ!」
何故ここまで平然と接してこれるんだこいつ。覚えてないだけか、覚えている上かは分からないが、変に意識してる俺がバカみたいに思えてくる。
もういいや。さっさと買ってさっさと帰ろう。もう二度と会わない人間のことを気にしても仕方がない。そう決めて、俺はパールを選ぶ。
「比企谷くんはパールですか。じゃあ私はダイヤモンドにします」
「え、いや、なんで俺に合わせんの?」
「へ?だってダイヤモンドとパールじゃ出てくるポケモン違うじゃないですか。同じバージョンを買っちゃったら交換とか意味が無くなっちゃうでしょう?」
ごめんその前になんで俺と交換する前提で話進めてんの?
東風谷とは学校が違う。だから二度と会わないって思ったのに。
「そういえば、私比企谷くんにメルアド送りましたよね?中学の頃に」
「あー…や、昔ケータイ変えた時になんかこう、それでね」
流石に面と向かって連絡先消したとは言えんだろ。
「あぁ、アドレス変えてましたよね。それならライン教えますよ?」
「や、いらないから」
「まぁまぁそう言わずに」
「そう言わずに、じゃなくてね?」
なんなの?なんでこいつ俺から連絡先貰おうとすんの?
もしかして中学の同級生に「ヒキタニのライン貰ったんだけど、これSNSで拡散しない?」みたいなことするの?やだ何それ悪質。俺のラインとか誰が欲しがるんだよ。
「早く早くっ。Hurry up」
ポケモンのためにわざわざ連絡先を交換しようとするのは、後にも先にもこいつぐらいだろう。最悪、邪魔になれば消してしまえばいい。
「…ほれ」
東風谷に俺のスマホを渡す。東風谷は俺のスマホと自分のスマホを操作して、ラインの交換を行う。
「はい、交換出来ました!」
俺はスマホを返してもらい、新たに追加された東風谷のプロフィール画像を見る。なんだこのケロケロ。ゲコ太か?
「あっそうだ!どうせ帰ってポケモンやるなら、一緒にやりましょうよ!」
「なんでだよ。対戦ってある程度育ててからでいいだろ」
「そうじゃなくて、一緒にストーリー進めましょうってことです!最初のポケモン何選ぶとか、それだけでも楽しいじゃないですか!」
「いや知らんて」
ポケモンは大体一人で進めるもんだろ。たまに小町と対戦とかしたりしたけど、昔の話だぞ。
「そうと決まれば、早く買って始めましょう!」
「いや決まってないから。二人でやるのおかしいから」
思えば、中学の頃もそうだった。
東風谷の趣味はサブカル系などが特徴的で、俺も彼女と共通の趣味を持っており、そんな彼女と話していた。毎日のようにゲームや漫画の話をしていて、俺はいつの間にか彼女を好きになっていた。
けれど。
『ごめんなさい……私、比企谷くんとは今の関係のままが良いんです…』
結果は失敗に終わった。彼女は俺のことをただの話し相手としてしか見ていなかった。俺は彼女のことを好きな異性として見ていた。
彼女はおそらく、共通の趣味を持つ者であれば誰でも気さくに話しかけるのだろう。それが普通だ。自分のことが好きだから毎日話しているのでは?とか思っていた俺が悪いのだ。
苦い記憶だ。東風谷にも要らぬ迷惑を掛けた。なのにこいつは。
「早くレジに並びましょう!」
まるで無かったかのように振る舞っているのだ。まぁ変に気を遣われるよりかはマシなのだが。
彼女に強引に押されてしまい、俺はレジに向かってソフトを購入した。その後に、東風谷も。
「じゃ帰るわ」
「待った!ですよ、比企谷くん」
「何お前どこの弁護士?」
異議ありって言って何か突き付けてくんの?
「言ったでしょう?一緒にやるって」
「いや、今手元にSwitch無いし…」
「じゃあ、私が比企谷くんの家に行けば万々歳ですね!」
「なんで」
万々歳じゃねぇよ。なんで今日久しぶりに会った同級生を家に招かなきゃならねぇんだよ。
「だってSwitch取りに行くために家に戻ったら、絶対来ないじゃないですか」
「そ、そんなわけないだろ。大体、お前取りに行くにしても俺ん家知らねぇだろ」
「あー…確かに比企谷くんが私の神社に着いて来てしまったら手間が掛かりますしね……あ、そうだ。じゃあ比企谷くんが家に帰った後、位置情報で家の場所教えてください」
どんだけ来る気なんだよ怖ぇよ。
「もし来なかったらラインの通知が大変なことになりますので」
どんな脅しだよ。
帰ったら即電源切ろうそうしよう。
「あっやっぱり私の神社まで着いて来てください」
「え」
「比企谷くんのことだから、意地でも位置情報を送らないためにスマホの電源切ったりしそうですし」
ねぇなんで俺の考えてること分かるの?エスパーなの?タイプはエスパーなの?
「さぁ、行きましょう!私の神社、
こうして、俺は東風谷に強引に守矢神社に連れて行かれてしまった。
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着いた先は、守谷神社。
鳥居を潜ると、2本の柱が立てられており、その間の奥に神社がある。近くには、池や手水舎がある。
何故、この神社に来たのかというと、守矢神社は東風谷の実家のようなものだからだ。博麗が博麗神社に住んでいると同様に、東風谷は守矢神社に住んでいる。
つまり、東風谷も巫女だということだ。細かく言えば、この神社の
「それじゃ、少し待っててください!」
東風谷は神社の中に入り、Switchを取りに行った。
彼女を待つこと2分。ウエストポーチを持った彼女が戻ってきた。どうやらその中に、Switchを入れて来たのだろう。
「では比企谷くんの家に出発しましょう!」
守矢神社を出発し、俺は東風谷を連れて家に向かった。誰かを家に招くなんて、ゴールデンウィークに封獣を招いた時以来だ。人の家に赴く時も面倒事が起きていたが、人を家に招く時も面倒事が起きそうだ。
そんな憂鬱な気分を抱えたまま、我が家に到着してしまった。
「ここが比企谷くんの家ですか〜…」
「あんまいらんことすんなよ。したら叩き出すからな」
「そんな野暮なことはしませんよ。いくらベッドの下にエッチな本があるからといって」
「なんでベッドの下に本がある前提なんだよ」
「ベッドの下はエッチな本を置くためのスペースでしょう?」
「お前ベッド創業者に謝れよ」
つーかなんでそんなコテコテのネタぶっ込んでくるんだよ。気さくな女子友達が主人公の家に行った時にするやつじゃねぇか。
「…まぁいいや。とりあえず入るぞ」
俺は我が家の扉を開けて、玄関に入る。リビングから小走りする音が聞こえてくる。
「お兄ちゃん、ポケモン買えた……の……」
リビングから出てきた小町は、東風谷は姿を見ると目をぱちぱちさせて動かないでいる。
「お、お兄ちゃんが…女子を連れて来た…だと…!?」
「驚くのも無理はないけど驚き過ぎだろ」
「初めまして!中学の頃、比企谷くんと同じクラスだった東風谷早苗です!」
「あ、これはご丁寧にどうも!妹の小町です!やー、まさかお兄ちゃんが中学の同級生を連れて……えっ中学の同級生?」
「?はい」
「ち、ちょっとすみません!お兄ちゃんカモン!」
何やら焦りを見せる小町は、すごい速さで手招きする。靴を脱いで、小町のところに行くと、小さい声で俺に尋ねる。
「あの人中学の同級生って言ってたけど。思いっきり地雷臭するんだけど」
「バチバチだな」
「…大丈夫なの?」
小町は心配するようにこちらを見る。
俺の中学の武勇伝は小町も知っている。だからこそ、また何かあったらと心配してくれるのだろう。
「…心配すんな」
小町の頭を優しく撫でて、東風谷の方に振り返る。
「早よ上がれ」
「へ?あ、はい!お邪魔しまーす!」
東風谷はスニーカーを脱いで、ちゃんと揃える。
俺は家で使うであろう場所、トイレや洗面所を先に案内し、そこから俺の部屋へと連れて行った。なんだか文字に表すとやらしい気がするが、まぁいい。
部屋の扉を開けて、先に東風谷を中に入れる。
「おぉ…男子の部屋って初めて入りましたけど、案外普通なんですね。壁にキャラクターのポスター貼ってあるとか、フィギュアが置いてあるとか無いんですね」
「まぁ欲しいもんが無かったからな。それだけだ」
「へえ〜。あっでも、漫画やゲームはいっぱいある!」
こいつ厚かましく人の部屋物色しやがって。まぁ後ろめたい物は何もないからいいんだけど。
「ポケモンやらねぇなら帰れよ」
「やりますやります!それじゃ、失礼して…」
東風谷は人のベッドにゆっくり腰を下ろした。
何してはるん?この人。東風谷には思春期男子の気持ちを知らないのだろうか。ただでさえ部屋に上げているのに、挙げ句の果てに男子のベッドに腰掛ける。危機感ねぇな。
「さぁ始めますよ!ナナカマド博士に会いに行きましょう!」
「早い。まだソフトすら開けてないっつの」
つーかその言い方だと、博士に会いに行くのがゲームクリアみたいに聞こえるんだけど。
俺はパッケージを開けて、Switchにソフトを挿入する。
「お茶、出してくるわ」
いくら厚かましいとはいえ、客であることに変わりはない。客人を持て成さなければ、小町に怒られてしまいそうだ。
俺はリビングに向かい、ガラスのコップに冷えたお茶を注ぐ。自分の分と、東風谷の分を注ぎ終え、自分の部屋に戻る。
「ほれ、お茶」
「あ。ありがとうございます!」
ベッドでくつろぐ彼女の隣に俺も腰掛ける……わけがなく、勉強机の椅子に座ってポケモンをやり始める。
「なんでこっち来ないんですか?」
「や、あれだよあれ。女子の隣に座るとかマジ卍的な」
「何言ってるんですか?」
「分からん」
いや、普通に考えて抵抗感しかないだろ。自分のベッドに女子が腰掛けていて、その隣に俺も座る。それは危ねぇ予感しかしない。
「これじゃ一緒にやる意味ないじゃないですか!」
「最初から言ってるだろ。一緒にやる意味ないって」
「むぅ…」
うっわあざとい。頬膨らますとかあざと過ぎるだろ。東風谷ってこんなキャラだったっけ。高校デビューでもしたのだろうか。
とはいえ、このままでは平行線だ。無駄に追い出そうとして疲れるくらいなら、諦めた方が気が楽なのかも知れない。
「…はぁ」
諦めた俺はベッドに腰掛けた。わざと彼女と間を空けたというのに、一気に詰めて来やがった。
「あ、始まりました!」
タイトル画面になり、俺達はゲームをスタートする。最初に言語設定を行い、それを完了すると、真っ暗な画面の下にシンプルな吹き出しが現れ、「ウム!!よく来た!」と表示されている。
「世代じゃねぇのに、なんか懐かしいな…」
俺達はチュートリアルを進めて、最初のポケモンが貰える場所、シンジ湖へと向かった。
「比企谷くんは何選びますか?」
「…ポッチャマだな。進化すれば応用が効くからな」
「私は…んー…ナエトルにします!」
そうして、まだ登場すらしていないのに最初のポケモンを何選ぶかを決めた。
ストーリーが進み、いよいよ3体のポケモンが登場する。俺はペンギンのポケモン、東風谷はカメのポケモンを選ぶ。そして最初に登場する野生の鳥ポケモン、ムックルを倒すことに。
なんかオラワクワクすっぞ。
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なんだかんだで楽しんでしまった。雑談しながらストーリーを進めていたが、気付けばジムバッジ3個くらい入手してしまっていた。ポッチャマがポッタイシに、ナエトルがハヤシガメに進化しちゃった。
「やっぱり1人でゲームをするより、誰かと一緒の方が楽しいですねっ」
「ストーリー自体は完全な1人用なんだけどな」
協力プレイなんて要素はない。あるのは、交換と対戦程度だ。
「でも、楽しかったでしょう?」
「……まぁ、悪くなかった」
最初は、東風谷と一緒にいることに対してあまり良く思わなかった。勘違いで告白したとはいえ、振った相手と過ごすのだから。
だが一緒にゲームをすると、中学の頃に一緒にゲームの話をしたあの日々を思い出す。共通の趣味を話し合ったあの日々を。
あの頃の俺であれば、いつまでもこんな時間が続いて欲しいと思っていたことだろう。
しかし、あの告白以降俺と東風谷の関係は終わってる。今の俺はあの時のように夢を見ない。東風谷は誰にでもこういう人間なのだと割り切っているのだ。
だから俺は二度と勘違いしない。こいつがあの頃のように接するのは、同じ共通の趣味を持つ者がいるからだ。それ以上でもそれ以下でもない。
「そういえば、比企谷くんってどこの学校に行ってるんですか?」
「…東方だが」
「あぁ、あの女子の割合が多いことで有名なとこですね。あーあ、私もそっちを受験すれば良かった…」
「まぁ確かに、女子の割合多いからな。同性の友達作るなら…」
「そうじゃなくて」
東風谷がこちらを覗き見る形ではにかんだ。
「比企谷くんと一緒の学校だからですよ」
読者の前の皆さん。特に男性諸君。
これは勘違いしても仕方ないと思うのだが、どうだろうか。いよいよ東風谷に問題があるのではないかと思うのだが。
こいつ本当大丈夫?思春期男子がそんなん言われたら絶対にほの字になるだろ。今の俺ですらグッときちゃったんだから。
「…さて、そろそろ帰ります。夕飯の買い物もまだですし、神奈子様と諏訪子様を待たせるわけにはいきませんから」
「そうかい。ならさっさと帰った帰った」
早く俺は落ち着きたい。東風谷がガンガン距離詰めてくるもんだから、半ばゲームに集中出来なかった。思春期男子の敵だよ、東風谷は。
帰る支度を終えた東風谷を玄関まで連れて行く。スニーカーを履き、こちらに振り向いて。
「また遊びましょうっ!比企谷くん!」
「…気が向けば、な」
これが二度三度あると考えると、なんだか億劫になる。ただでさえ夏休み、家から出るのが嫌だってのに。
「じゃあ気が向くようにラインで誘いまくりますから!それじゃ、お邪魔しました!」
「えっ、ちょ」
危険な発言を残したまま帰ってしまった東風谷。あいつのライン、ブロックしようかな…。
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「楽しかったなぁ〜…」
私は帰り道、先程までの時間を振り返っていた。
中学の頃にクラスが一緒になった、比企谷くん。第一印象は特に目立つことがなく、静かな人だった。時々、女の子と話す時は挙動不審になっていたが。
一時期、彼とは隣の席になった。隣になった彼に、私は社交辞令の挨拶をした。比企谷くんもおぼつきながらが、返してくれた。
隣の席だから、彼の様子がよく見えた。ブックカバーを掛けた中の本の内容も。その本の内容は、私が知る物であった。
『その本、私も知ってるんです。今度アニメやりますよね』
その会話がきっかけで、比企谷くんとは話すようになった。
年頃の中学生と少しズレた私の趣味。それがサブカルチャーだ。特にロボットに関連する作品、ガンダムやダンボール戦機など。
まぁそれだけでなく、漫画やアニメ、ゲーム全般が好きなのだが。
とにかく、彼と話が合う。共通の趣味を持った人が隣にいることは、私にとって嬉しいことだった。
年頃の中学生は、アニメや漫画を読むことを隠したがる。見ていたとしても、とても有名な作品とかだろう。夜に放送されるアニメを見ようものなら、間違いなくオタク扱いになる。だからそれを隠す人間がいる。または、単純に興味がないだけか。ドラマやバラエティなどを見る中学生が半分以上だろう。
故に、話せる人がいなかった。まぁドラマやバラエティは私も見るし、周りの話に合わせることは可能だ。だが趣味じゃない話をしても、心の底から楽しいかと言われたら、そうじゃない。
話の合うクラスメイト。私はいつしか、彼と親しくなった。周りからは「ヒキタニと関わるのはやめといた方が良い」みたいなことを言われたが、私は別に気にしなかった。
彼の隣にいたからと言って、私に何か不幸が降りかかるわけじゃない。それに、趣味の合う人を手放すのは惜しいのだ。だから私は関わり続けた。
でも。
『ず、ずっと前から好きでした!俺とっ、付き合ってください!』
放課後、私は彼に呼び出された。理由は彼からの告白。
私は迷った。彼からの告白を受けるべきか否か。ここだけの話、私は彼のことが。比企谷八幡のことが。
好きだ。
趣味が合うという理由が大きいが、それだけじゃない。
彼は優しい。どれだけ周りに揶揄われても、どれだけ周りに嫌われていても、彼の根はずっと優しい。というのは建前で、本当は一緒にいた時間が比例したからかも知れないけど。
私は怖かった。
告白を受け入れることで、彼との関係が変わってしまうんじゃないかって。今の心地いい関係が、どうなってしまうのか分からないのが怖かった。
だから私は。
『ごめんなさい……私、比企谷くんとは今の関係のままが良いんです…』
そう告げた。私の本音を。
でも、彼は絶望に満ちた表情で私の前を去った。以降、私と比企谷くんは話すことが無くなった。
結局、比企谷くんとの関係が変わってしまった。以前のように、楽しくお喋りが出来なくなった。私はそんな悲しみで、泣きそうになってしまった。
どうすれば良かったの?現状維持を保つことの、一体何が悪いの?
しばらく時が経つと、今度はこんな噂が流れた。
『ヒキタニが折本に告白した』
彼が、他の女の子に?
そう聞いた瞬間、私は一気に胸が苦しくなった。心臓に
比企谷くんとの関係が壊れた以上に、彼が私以外の女の子に告白したのが苦しくて仕方なかった。
結果は失敗に終わったらしい。でも。
もし彼がその折本さんと楽しく話していたら?
2人で仲良くゲームをしていたら?
そんな姿を目撃したら?
そう考えるだけで嫌になる。彼と楽しく話していたのは私だけだったのに。私が断ったせいで、他の女の子に行ってしまう。そんなIFのことを考えてしまっていた。
あの告白以降、結局彼と話すことが出来ずに卒業した。
それから私は決めた。彼のことを忘れようと。守矢神社の仕事もある。ずっと彼のことだけを考えるわけにはいかないし、それが必然なのだと割り切った。
二度と会うことはない。そう思っていたのに。
『比企谷くん、ですか?』
『こ、ちや?』
最近新しく出たポケモンを買いに行くために出かけると、比企谷くんと出会ってしまった。忘れようたって忘れられない彼の姿。話したいことがたくさんある。今度は一緒に遊びたい。隣にいたい。
色んな思いが溢れ、私は彼に話しかけた。
結果、とても充実した時間だった。心の底から、楽しめたような。
やっぱり、私は彼が好きなんだ。それを再確認した。
もう二度と、あんな過ちは絶対しない。現状維持なんて考えた私がいけなかった。今度は逃げない。絶対に。
きっと彼からの好感度は、告白以降リセットになったに違いない。なら、また彼からの好感度を上げるだけだ。そして、彼が私を好きになったと分かった瞬間。
今度は私から告白する。
彼が私だけを見るように。彼の意識が私だけに向くように努力する。他に比企谷くんを好きになった人がいても、関係ない。
恋愛は戦争だ。蹴落とした人間が勝利なんだ。だから、比企谷くん。
今度は逃げないから。
比企谷くんも、私から逃げないでね。
逃げたら、マッハ20ばりの速さで追いかけるから。