やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。   作:セブンアップ

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夏休みでも、彼女達は自由である。

 

「お兄ちゃんっていつからモテ期来てたの…?」

 

「…知らん。これがモテ期なら終わりもんだろ」

 

 俺と小町は遠い目で、今の様子を眺めている。俺の部屋に女子が4人もいるんだから。

 

「やっぱり冷房の効いた部屋は快適ね〜…」

 

「あら、小説もあるじゃない」

 

「字ぃばっかりの本って何が楽しいんだよ」

 

「ここが、八幡さんの部屋……」

 

 無防備にベッドに寝転ぶ博麗、本を漁るマーガトロイドと霧雨、部屋を見渡す魂魄。女3人寄れば姦しいと言うが、3人どころではなかった。ついこの間、東風谷が来ただけでも手を焼いたってのに。

 

「しかもみんな美人だし……コミュニケーション能力ゴミカスのお兄ちゃんが、何したらこんな人達連れて来れるの?」

 

「何もしてねぇからな。こいつらが厚かましいだけだ」

 

「ご、ごめんなさいっ。やっぱり、大勢で押しかけるのは非常識ですよね」

 

「…前言撤回。魂魄は厚かましくない」

 

 魂魄は大丈夫だよ。こいつは人の心を持ってる。まぁマーガトロイドも、最低限の常識は持ち合わせているし、許容範囲内だ。

 だが博麗と霧雨。お前らはなんだ。来て早々人のベッドにダイブしたり、エロ本探そうとしやがって。

 

 そもそもなんでこうなったか。始まりは、魂魄からのラインだ。

 

『八幡さん。少しお話しがしたいので、学校の正門に来てくださいませんか?服装は私服で大丈夫ですので』

 

 魂魄から改まった内容のラインが来た。何事かと思い、俺は自転車を漕いで学校の正門に向かった。

 

 しかし、そこにいたのは。

 

『妖夢が呼び出したら本当に来たわね』

 

『おっす、八幡!』

 

 魂魄だけでなく、博麗、霧雨、マーガトロイドが私服姿で待っていたのだ。何故こいつらまでここにいる。

 

『…魂魄。何これ』

 

『この間、八幡の家行くみたいな話しただろ?でも私や霊夢じゃ無視られると思ってさ。だから妖夢に呼んでもらったんだ!』

 

 つまり何か。俺は霧雨の策に嵌められたのか。霧雨ごときに嵌められたというのか。

 

『…とはいえ、もし家に迷惑がかかるようならまた別の機会にするけれど』

 

 ここで俺が断れば万事解決……とはならないのだ。断れば、また次の機会があるということだからだ。ならさっさと来てもらってさっさと終わらせてしまえば、面倒事を後回しせずに済む。

 

『…もういいよ』

 

 そんなこんなで、泣く泣く彼女達を家に招くことにした。結果、悪夢だった。

 

「…悪いな。しばらく騒がしいけど」

 

「まぁ良いけどね。小町も今から出かけるし。あっでも、小町がいないからって、変なことしちゃダメだよ?」

 

「しねぇよ」

 

 出来るわけがない。しようものなら、間違いなくその瞬間俺の死が確定する。

 小町は「んじゃ、頑張りなよ!お兄ちゃんっ」と言って去って行った。何を頑張れと言っているのかは不明だが、少なくとも何事もないように頑張ろうとは思う。

 

 まぁ既に事は起きてるんだけどね。

 

「私もこんなベッドで寝たいわねー……これ宅配便で送ってくれない?」

 

「送るかバカが」

 

 なんで俺のベッドを博麗に譲らなきゃならないんだ。

 

「ねぇ、八幡。気になる小説があったのだけれど、少しの間借りても良いかしら」

 

「ん、まぁそれは構わねぇよ」

 

「ちょっと。アリスは良くてなんで私は無理なわけ?」

 

「理由くらい考えろ学年1位」

 

 しかし、理由さえ考える気すら見せない博麗。依然、ベッドでゴロゴロしている。あの、それ俺が普段寝てる場所って分かってる?ていうか逆に俺が恥ずかしくなるからやめて欲しい。

 

「あ、私も漫画借りていいか?」

 

「あぁ、別に…」

 

「やめておきなさい八幡。魔理沙の借りるは返ってこないから」

 

「良くないな。お前人様の漫画を何パクろうとしてんだ」

 

「何言ってんだよ。死ぬまで借りるってだけだぜ?」

 

 「何言ってんだよ」はこっちのセリフな。なんでそんな堂々と借りパク発言出来んだよ。こいつちょっとした泥棒じゃねぇか。危うく持って行かれるとこだったわ。

 

「そういえば、射命丸はどうした?なんかあいつも来るみたいなこと言ってなかったか?」

 

「文は来ないらしいわ。用事があるとかって」

 

「そうか」

 

 危険因子が1人いないのは大きいな。射命丸がいたら、俺の部屋を撮影しまくっていただろうし。プライバシーもクソも無くなりそうだからな。

 

「八幡の部屋にみんなで遊べるの無いのか?」

 

「やめてあげなさい魔理沙。八幡をディスるのは」

 

「多分だけどディスってんのお前だよな。"こんなやつに友達なんていないからそんなセリフはやめてあげなさい"って揶揄してんだよな」

 

「そんなこと言ってないでしょ。被害妄想が過ぎるわね、ぼっちまん…じゃなかった、八幡」

 

「もう言ってるから。なんか可哀想なヒーロー名みたいに呼んじゃってるから」

 

 大体どう間違えたらぼっちまんと八幡を間違えるんだ。国語クソかお前。

 

「やっぱ霊夢と八幡って仲良いよなぁ」

 

「ですね。今ので気付く辺り、似たようなやり取りを何回かしてるんでしょうか」

 

「今のどこに仲良い要素あったよ。一方的にディスられただけなんだけど」

 

「嫌よ嫌よも好きの内と言う名言があるじゃない」

 

「お前らには俺がマゾか何かに見えてるの?」

 

 俺の部屋なのになんでこんな敵だらけなんだろうか。四面楚歌とはまさにこのことかな。あ、敵しかいないのは普段からそうか。世の中はなんて残酷なんだろうか。

 

「…ところで話戻るんだけどさ、みんなで遊べるやつ何かないのか?Switchとかあるじゃねえか」

 

「…あるにはあるが、俺と小町しか遊ばねぇからコントローラーは2つしかない」

 

「人生ゲームとかドンジャラは?」

 

「あるかどうかすら分からん。探せば見つかるだろうが、必要ないと判断して捨ててしまった可能性がある」

 

「…八幡の家ってつまんねえな」

 

 喧嘩売ってんのか。人の家に図々しく上がって来た分際でこのアマ。

 

「じゃあこんなゲームしようぜ!その名も、ルーレット罰ゲーム!」

 

「何その悪魔みたいな名前したゲーム」

 

 絶対ロクでもないゲームだろそれ。

 

「物は試しさ。八幡、ルーズリーフとハサミはあるよな?」

 

「お、おう」

 

 俺は机からルーズリーフとハサミを持ち出し、霧雨に渡す。受け取った霧雨は、紙を適当な大きさで切る。その紙を俺達に渡していく。

 

「なんでもいいから、とりあえず罰ゲームを書いてくれ。周りの誰にも見せないようにだ。ただ、エッチなやつは無しだぜ」

 

「だそうよ、八幡」

 

「お前さっきからなんなの?俺をどうしたいの?」

 

 なんでそんな俺を犯人に仕立て上げたいの?

 つーか罰ゲームって言われてもな…。まぁ無難に"厨二病っぽい台詞を一言"とでもしておこう。無難かどうか分からんけど。

 

「書けたら紙を裏返しにして、私に渡してくれ」

 

 霧雨の言う通り、みんなは紙を裏返しにして渡していく。

 

「…で、書いた罰ゲームをどうすんのよ」

 

「名前の通り、ルーレットで決めるのさ。裏面に適当に1から5の数字を記入する。次はいよいよ、ルーレットの開始だ。誰がなんの罰ゲームになるか分からないっつうスリルが、このゲームの良いところだぜ」

 

 霧雨がスマホを操作する。画面には、俺達5人の名前が書かれたルーレットが映されていた。

 

「じゃあ最初は妖夢。妖夢が回してくれ」

 

「私からですか?」

 

 魂魄がルーレットの開始のボタンを押すと、勢いよく針が回転。そして徐々に針の回転の速さは遅くなり、次第に針が静止する。

 

 罰ゲームに選ばれたのは。

 

「…俺なのかよ」

 

「あんた運悪いわね」

 

 と、鼻で笑うように見下す博麗。初っ端から貧乏くじを引くあたり、確かに運が悪いのかも知れない。

 

「じゃあ次のルーレットだ!罰ゲームは八幡だから、八幡が回してくれ!」

 

 今度は、1から5の数字が記入されたルーレットが映される。俺はルーレットを回して、何の数字が出るのか固唾を呑んで見ている。

 

 結果、出た数字は。

 

「3か」

 

「それじゃあ、八幡!3番の紙を表にして、内容を確認してくれ!」

 

 一体誰が書いた罰ゲームなのだろうか。

 3と書かれた紙を表にすると、罰ゲームの内容が書かれていた。曰く、「誰か一人に壁ドンする」と。

 

「あ、それ私が書いた罰ゲームよ」

 

 お前かマーガトロイド。なんつうもん書いてくれたんだ。お前そんなこと書くキャラじゃないだろ。

 

「さっき八幡の部屋にあった本に、壁ドンしてるシーンがあったから。なんとなく書いてみたのよ」

 

「1番タチ悪ぃ…」

 

 だから嫌だったんだよこんなゲーム。誰も幸福になれない悲しいゲームだぞ。

 

「で、誰を選ぶんだ?」

 

 ここに小町がいれば即小町を選んだのに。周り全員女子とかマジ罰ゲーム過ぎる。

 

 こうなれば、意趣返しさせて貰おう。

 

「博麗」

 

「は?」

 

「誰を指定するかは罰ゲームを行う俺が決めていいんだろ?なら、博麗だ」

 

 俺は普段から博麗に苦しめられている。この罰ゲーム、一見俺だけが辛い目に遭うように見えるがそうじゃない。やられた側も、なんらかのダメージが与えられる筈だ。

 

 即ち、痛み分けだ。

 

「むぅ…」

 

「なーんか、気に入らないんだぜ。なんで即答で霊夢を選ぶんだよ」

 

「気に入らないわね」

 

 魂魄らは頬を膨らませ、霧雨は少し拗ねる。マーガトロイドに関しては無表情で、少し冷たく言い放つ。「何故そんな反応を」という疑問に対して問うのは今回止めておこう。

 

「私を選ぶなんて、あんたも偉くなったわね」

 

 とはいえ、博麗は何故か冷静だ。もしかすれば、人選を間違えたか?

 

「じゃあ早速罰ゲーム開始だぜ!因みに、壁ドンだけじゃ味気ないからなんかセリフも入れてくれよ!」

 

「味気とかいらんでしょ。海苔じゃないんだから」

 

「ほら文句言わずに!早く早く!」

 

「はぁ…」

 

 俺は溜め息を吐いて、博麗に近づく。

 博麗は最初から壁ドンをされる体勢に、つまり壁にもたれているため、俺は博麗の顔の横に、右手か左手の掌を壁に叩けばいい。セリフに関しては、典型的なやつにしよう。

 

 俺は博麗の顔の横に手を伸ばし、壁に掌を置く。これだけでも十分顔が熱いのだが、ここまで来たらもうやり切るしかない。

 

「お、俺のものになれよ」

 

 何?俺のものって何?こんなセリフどこに需要あるの?ちょっとキョドっちゃったしさ。セリフのチョイス、俺の目と同様に腐ってる。

 

「ふ、ふふふ……ふふ……」

 

 ほら笑われた。死にたい。今すぐそこの窓から頭から飛び降りて記憶全部消去したい。

 

「…本当、あんたって女慣れしないわね。顔も変だし、キョドるし。滑稽過ぎて本当笑えるわ。ありがとう」

 

「仕方ねぇだろ……こんなんやったことないんだから」

 

 壁ドンする勇気無いし、第一相手を泣かせてしまう。そんでついでに俺も泣く。なんなら先に俺が泣いてしまいたい。

 

「でも、間違えてるわ。あんたのセリフ」

 

「…言わなくていいだろ。チョイスミスだってことは…」

 

「そうじゃなくて」

 

 すると博麗は俺の服の胸ぐらを掴み、無理矢理手繰り寄せて耳元で囁く。

 

「私があんたのものになるんじゃない。あんたが私のものになるの」

 

「なっ…」

 

「八幡に私を動かす決定権も、支配する所有権も無いのよ。だからあんたは間違えてる。あんたじゃなく、私が八幡を支配するの」

 

 その言葉が俺の意識を縛り始める。耳元で囁いてるから尚のことか、彼女の言葉が俺を支配する。博麗は何も言い返せずに固まってしまった俺を離して、普段の様子に戻る。

 

「こういうのはイケメンがやるからときめくだけで、八幡じゃ不向きでしょ」

 

「全然動揺しませんでしたね…」

 

「ていうか霊夢、八幡になんか言ったのか?胸ぐら掴んだ時に」

 

「ん?私に偉そうな態度取るなって脅しただけよ」

 

 普段の、サバサバした博麗の様子。

 前もそうだった。罰ゲームで博麗の奴隷になった時も、突然豹変した。あの時は自分だけの罰ゲームだったから、誰かに邪魔されるのを嫌っているのだと思っていた。

 

 しかし、罰ゲームが終わっても博麗の様子は変わらない。普段見せるサバサバな博麗、時折闇を垣間見せる博麗。罰ゲーム絡みじゃないとなると、やはり封獣のような依存体質なのだろうかと思われる。

 

 罰ゲームの時に、甘やかし過ぎたせいかも知れない。

 

「じゃあ次のラウンドだぜ。アリスの罰ゲームを消費したから、アリスはもう一度罰ゲームを書いてくれ。選ばれてない罰ゲームは、そのまま次のラウンドに使おう」

 

 つまり、俺と博麗、霧雨、魂魄の罰ゲームは消費するまで残り続ける。マーガトロイドの罰ゲームは今消費したから、新しい罰ゲームを作成するということだ。

 

「…書けたわ」

 

「じゃあ次は、そのままアリスが回してくれ」

 

「分かったわ」

 

 今度はマーガトロイドがルーレットを回した。選ばれた人物とは。

 

「私、ですか…」

 

 今度、罰ゲームを受けるのは魂魄だ。

 

「妖夢の罰ゲームが決まったってことで、妖夢がルーレットを回してくれ」

 

「分かりました」

 

 魂魄は恐る恐る、ルーレットを回した。ぐるぐると回転し、次第に遅くなり、静止する。針に示された番号は。

 

「1番です」

 

「1番は……"厨二病っぽい台詞を一言"」

 

「俺のだわそれ」

 

 まさか俺の罰ゲームが当たるとは。こんな純真無垢な魂魄に。ごめんね。

 

「厨二病とは、なんでしょうか?何かの病気ですか?」

 

 おっとまさかこの子、厨二病を知らんとな。いやまぁ、そういう人物と関わり無さそうだしな、こいつ。

 

「はい八幡。説明」

 

「…先に言うが病気じゃない。まぁある意味精神疾患とも捉えることも可能っちゃ可能だけどな。簡単に言うと、何かの役を下敷きにして演じることだ。フィクションの世界にしか出てこないキャラを、現実で演じる。それが厨二病」

 

「お芝居をしているようなもの、ですか?」

 

「そう捉えてもらって構わない」

 

「具体的には、どういう感じなの?」

 

 マーガトロイドがそう尋ねたので、俺は目を閉じて答える。

 

「…元々この世界の7人の神。創造神たる三柱の神、賢帝ガラム、戦女神メシカ、心守ハーティア、そして…」

 

「何を言ってるんですか?」

 

「…最後まで言いそうになったわ。あっぶねぇわ」

 

「あんたが言い出したんでしょうが」

 

「…まぁ要するに、何かを演じたカッコいい台詞とかならなんでもいいってことだ。オリジナルの台詞でも構わん」

 

「なるほど…分かりました。では、失礼して」

 

 魂魄は立ち上がり、一度咳払いをする。

 

「この私に斬れぬものなど、あんまりない!」

 

 魂魄の決め台詞は完璧に決まった。

 

「おぉー」

 

「なんで副詞入れたのよ。普通なら"斬れぬものなどない"でいいのに」

 

「それだと全て斬れると断言してしまうので……流石の私もそこまで慢心はしていません」

 

「や、演技なんだから別に良くない?」

 

 とはいえ、妙に合っていたから全然良いんだけど。元ネタどこだろうか。魂魄のオリジナルか?

 

「じゃあ八幡の罰ゲームを消費したから、新しい罰ゲームを作成してくれ」

 

「了解」

 

 この罰ゲームは無作為に選出される。つまり、俺が書いた罰ゲームが俺に当たる可能性も無くはない。そう考えると、あまりダメージの無い罰ゲームが良い。

 

「…作ったぞ」

 

「OK。そのまま八幡回してくれ」

 

「了解」

 

 3度目のルーレットは俺が回す。針がくるくる回り、その針の先端が示された名前は。

 

「私だぜ」

 

 今度は霧雨の罰ゲーム。次に霧雨が、番号が記入されたルーレットを回す。ルーレットが止まり、針が指す番号は。

 

「5番は……"誰かに甘えること"……ってこれ私が書いたやつだ」

 

 どうやら霧雨は自分が作成した罰ゲームを喰らうことになったらしい。

 さて、この罰ゲームもまた、誰かもう1人がいないと成立しないのだが。甘えると言っても、一体誰に…。

 

「…おいおい。ちょっと待て」

 

 霧雨はジリジリとこちらに詰め寄る。俺は嫌だぞ。さっき色んな意味で寿命が縮んだってのに、また縮められるのは。

 

「なぁ八幡」

 

「なんだ。近づきながら俺の名前を呼ぶな。用件言え」

 

「さっきのさ、八幡の罰ゲーム。ちょっと不満があるんだぜ。霊夢を即答で選んだこと」

 

「待って。俺は悪くない。あの罰ゲーム書いたマーガトロイドに文句言って」

 

 しかし、止まることなく霧雨はこちらに近寄る。それに合わせて俺も後ろに下がって行くが、もう下がれなくなってしまった。

 俺と霧雨の間の距離は10cmも満たないレベルにまで、距離を詰められる。

 

 そして。

 

「少しは私のこと見てくれなきゃ、嫌だ」

 

 頬を膨らませ、拗ねるような物言いで放ったその台詞。

 今の台詞悪くないですね、うん。というかグッときました。

 

「八幡?おーい」

 

「ふぁっ!?」

 

「えっなんだ?急に変な声出して…」

 

「い、いや。なんでもねぇ…」

 

 不覚にも、霧雨にときめいてしまった。これじゃあ誰の罰ゲームか分からんな。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 時間は夕方。なんだかんだと暇を潰してると、空が既に夕焼け色に染まっていた。時計の針は6時を指している。

 

「夜飯どうすっか?」

 

「私、そんなに金を持ち合わせていないわよ。奢ってくれるなら俄然行くけど」

 

「なら、今日の夕飯は私が作りましょう。八幡さん、後で台所借りてもいいですか?」

 

 魂魄が手を挙げて名乗り出る。魂魄の料理は食べたことあるし、腕は折り紙付きだが。

 

「それは良いが…流石にお前だけ作らせんのもな…」

 

「良いですよ。普段30人前なんて気が狂った量を作ってますから」

 

 若干幽々子様に対する皮肉入ってるよね?大丈夫?

 

「それに、妹さんにも振る舞いたいので。夕飯がいらないって連絡は来てないでしょう?」

 

「まぁ、そうだが」

 

 良いやつ!こいつ本当良いやつ!

 こういう子が仕事から帰って来た夫を癒してくれるんだろうなあ。毎朝味噌汁作って欲しいわ。こいつに。

 

「それじゃ決まりです。では早速、買い出しに行きましょう」

 

「俺も行く。流石にこれぐらいは手伝う」

 

「私も行くわ。個人的な買い物もしたかったし」

 

「じゃあみんなで行こうぜ!な、霊夢!」

 

「…はぁ。仕方ないわね」

 

 こうして俺達は、近くのスーパーに向かい、夕飯の買い出しを始めた。

 

「夕飯は何にしましょうか…」

 

「きのこスパゲッティ!」

 

「貴女昨日きのこのシチュー食べてなかった?」

 

 めっちゃきのこ好きやん。何?お前そのうち大きくなるきのことか探しに出ちゃうの?

 

「妹さんは何か嫌いな物あります?」

 

「いや、基本的に無いな。因みに俺はトマト嫌いだから」

 

「じゃあ今日の夕飯はトマトに関係した物にしないと。好き嫌いはダメよ、八幡」

 

「お前隙あらば俺に突っかかるの何?」

 

 夕飯は何するかの話し合いで盛り上がっていると、その場に水を差す人物が現れた。

 

「あ、比企谷くん!」

 

 ちょっと待てついこの間会ったばっかだろ。なんでこのタイミングでこいつに出会すんだ。

 

「東風谷…」

 

 カートを押しながらこちらにやって来たのは、中学の同期の東風谷早苗。

 

「知り合いか?」

 

「…中学の同期だ」

 

「どうも!比企谷くんと中学が同じだった東風谷早苗です!」

 

 礼儀正しく挨拶して、頭をぺこりと下げる。

 

「これはご丁寧にどうも。私は魂魄妖夢と申します」

 

「私は霧雨魔理沙!よろしくな!」

 

「アリス・マーガトロイドよ」

 

「博麗霊夢」

 

「博麗……?」

 

 どうやら何か思い当たるところがあるらしく、顎に手を当てて思い出そうとしている。そして思い出したのか、「あ!」と発して目を開く。

 

「もしかして、博麗神社の関係者の方ですか?」

 

「まぁそうね。というか私そこの巫女だし」

 

「そうだったんですか!私、守矢神社の風祝を務めています!」

 

「守矢神社……なんか最近やたらと信仰が増えた所よね。あれどうにかしてくれる?私の所に参拝者来ないの、半分以上あんたらの所が原因だし」

 

 なんつう八つ当たりだこの巫女。

 

「そうは言われても…当然の結果としか言いようが無いです」

 

「あ?」

 

 八つ当たりに対して挑発し始めたよこの風祝。

 

「あ、そうだ。比企谷くんも、守矢神社に信仰しませんか?比企谷くんが信仰してくれると、私嬉しいんだけどな…」

 

「ざけんじゃないわよ。八幡、あんな女に尻尾振るんじゃないわよ。あんたは博麗神社のために、私のために尽くさなきゃならないんだから」

 

「普通にどっちも嫌なんだが」

 

 どう考えてもどちらに転んでもメリットが何一つない。つまりどちらにも賛同する必要はないって事だ。

 

「…まぁ、そう返されると分かってはいましたけどね。今度は私が振られちゃったか」

 

 なら聞くなよ。

 

「でもいつかは守矢神社に、私に信仰させてみせますから。ちゃんと私を受け入れる準備を整えててくださいね。…では」

 

 東風谷は手を振って、目の前から去って行く。

 

「…ちょっとした神社同士の抗争でしたね」

 

「あの女から喧嘩売ってきたのよ」

 

「どちらかというと霊夢から喧嘩売ってたように見えたけど?」

 

 というか、なんでスーパーの中で神社同士の抗争勃発したんだよ。何そのシュールな絵。

 

「八幡。1つ気になったんだけど」

 

「ん?どうかしたか?」

 

「あの女、()()()()()()()()()()()()って言っていたけど。あれどういう意味?」

 

「…んなこと言ってたか?」

 

 俺は気付かない振りをする。

 確かに東風谷はそう言っていた。しかし、あそこで俺がなんらかの反応を見せれば、少なくとも博麗が突っかかるのは目に見えていた。

 だから敢えてスルーすることで、何かあったことを悟られないようにしたのに。

 

「言ってたわ。はっきりね」

 

「確かに、私も聞きました。どういう意味なんだろうとは思いましたけど…」

 

「言われてみれば、確かにそうだったかも…」

 

 マーガトロイド、魂魄、霧雨の三者三様の反応を見せるが、要するにみんなちゃんと聞いてたわけね。これもう気付かない振り無理じゃね?

 

「さ、話して。中学の同期だけって関係じゃないんでしょ?」

 

 あーこれ最初から詰んでたんだ。泳がせてくれてたんだ。

 観念した俺は、彼女達に全てを白状した。別に俺が悪いわけじゃないのに、何この理不尽。

 

「…今でも、好きなんですか?」

 

「んなわけないだろ。嫌いじゃないが別に好きじゃない。ただ一方的に願望押し付けていただけだったし、あれは俺の勘違いで終わりだ」

 

「…ふうん。それなら良いけど」

 

 博麗はどこかまだ納得していない様子だが、逆にどこに納得しない部分があるのか教えて欲しいものだ。

 

「じゃあもう二度と、あの女に尻尾振らないことね」

 

「怖い。お前言ってること怖いから」

 

 その話をなんとか打ち切り、俺達は買い出しを続けた。大量の食材を購入し、我が家へと戻る。

 

「あ、お兄ちゃん」

 

「おう」

 

 どうやら、小町と同じタイミングで家に帰って来たようだ。

 

「およ?そのレジ袋何?」

 

「これは夕飯の食材です。お邪魔させていただいたお礼として、私が振る舞おうと思いまして…」

 

「え、良いんですか!?ありがとうございます!」

 

 今ので一気に小町への好感度がアップしたな。魂魄って、素でこれだから無意識に男を落としてそうで怖いんだよな。無自覚系女子的な。

 我が家に上がって、魂魄以外はリビングで談話している。魂魄はエプロンを付けて、台所で夕飯の支度をしている最中。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん!あの人すっごい嫁度が高いんだけど!お兄ちゃんには勿体ないくらい良い人だよ!」

 

「いや本当それな」

 

 というかなんだ嫁度って。何その頭悪そうな単位は。

 

「早くアタックしないと取られちゃうよ!」

 

「なんでそうなるんだよ…」

 

 だが、確かにお世辞抜きで魂魄は良いお嫁さんになる。嫁度が高いのも頷ける。

 

『八幡さん、ご飯が出来ましたよ』

 

『お仕事、お疲れ様です。八幡さん』

 

『ご飯にしますか?お風呂にしますか?そ、それとも………わ、私…ですか…?』

 

 うわやっべぇ変な妄想しちまった。最後に至っては典型的なやつじゃねぇか。

 いかんいかん。これじゃまるで思春期の男子じゃねぇか。

 

 あっ俺思春期真っ只中だったわ。

 

「八幡」

 

「ふぁ!?」

 

 本日二度目の「ふぁ!?」が出てしまいました。ボーっとしていたところを、博麗が睨み付けている。

 

「あんた、今変な妄想したでしょ」

 

「し、してねぇし?」

 

「大方、妖夢の姿を見て"あーあんなお嫁さん欲しいなー"とか思ってたんでしょ。キモい」

 

「えーそれはキモいよお兄ちゃん…」

 

 すーぐ矛先が俺に向いてくるんだけどどうすればいい?

 家ですら彼女達に虐げられるって、俺の安息の地は一体どこ?教えて、ドラえもん。

 

 

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