やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
「あっつ…」
「まだ着いてねえのにテンション低いぞ、八幡」
俺は朝からこのクソ暑い中、外出しております。俺の隣には、霧雨魔理沙ただ1人しかいない。
博麗やマーガトロイドはどうしたのかって?今回出番はありません。何故なら、今日は霧雨の罰ゲームを行う日だから。
その罰ゲームを行うために、九十九里浜にある海水浴場にやって来ている。千葉県内とはいえ中々遠いのだ。
というか、男女2人で海水浴に行くってこれ大丈夫ですか?意味が出てませんか?大丈夫ですか?
「うっわ人多いな…」
海水浴場に到着すると、どこを見ても人、人、人だらけ。まるでゴミのようだって言いたいぐらい、人で溢れ返っている。
「じゃ、とりあえず水着に着替えて来ようぜ!」
「…へいへい」
俺達は更衣室の中に入って、私服から水着に着替えた。海パンを履き、ラッシュガードのパーカーを着る。水着に着替え終えた後、俺は外に出て彼女を待つ。
「…暑ぃ…」
夏休みに外に出て海に行くとかアホ過ぎる。いやマジ死ぬ。軽く死ねる。暑さで倒れる未来が容易に想像出来る。
「待たせたぜ!」
と、どうやら着替え終えた霧雨が浮き輪を持って堂々と登場。
黒がベースで、白のフリルが付いた水着を着ている。色合いが霧雨にめちゃくちゃ合っているからか、何の違和感も無い。
「どうだ?私の水着!」
そう言って、近づいて水着をアピールしてくる霧雨。
「…まぁ、良い感じじゃないですかね」
あんま水着姿で近寄らないで。思春期男子の純情な心を弄ばないで欲しい。
「そっか。なら良かったぜ!」
朗らかにそう笑む霧雨。彼女の笑顔はいつでも明るく見える。太陽ですら霞んでしまうほどに。
「それじゃ、早速パラソル借りて場所を確保しようぜ!どっか休める場所は作っておかねえとさ!」
「ん、そうだな」
俺達はパラソルをレンタルして、空いている所に差し込んだ。パラソルの中にシートを引いて、座り込む。
「八幡八幡。日焼け止め、塗ってくれないか?」
「は?」
「自分で届くとこは塗ったんだけどさ、背中が届かないっつか、塗りにくいんだよ。だから、な?」
「え、嫌なんだけど。頑張れよ」
冗談じゃない。そんなんやってられるか。
というか、なんでこいつも異性に身体を触られる事に躊躇が無いの?倫理観大丈夫?
「頼むって」
「ざけんな自分でやれ。つか前提からしておかしいだろ。俺男だよ?男に塗られるとか嫌だろ普通」
「まぁそこら辺の男なら確かに嫌だぜ?でも、八幡なら私は良いと思ってる。これが理由じゃまだダメか?」
「っ…」
なんでこうも信頼出来るんだ。普通なら襲ってるぞ。こいつらマジで貞操の概念が狂ってんじゃねぇのか。
「…後で文句言うなよ」
こうなればさっさと塗って終わらせよう。
俺は霧雨から日焼け止めを受け取り、中のクリームを出す。霧雨はうつ伏せになり、塗りやすいように水着の後ろのホックを外す。
「…じゃ、塗るぞ」
クリームを掌に出した俺は、掌同士で擦る。掌全体に行き渡ったクリームで、俺は霧雨の背中を塗り始めた。
「んっ…」
「変な声出さんでくれる?」
「あ、わ、悪い…ちょっとくすぐったくてさ…」
頼むから無言でいてくれ。理性保たんぞマジで。
引き続き、俺は霧雨の背中に日焼け止めを塗り続けた。
「あっ…は、八幡っ…んっ…」
「やめろってマジで」
心頭滅却だ。心を無にしろ。何も考える必要はない。これは作業だ。決して、決して美味しい展開じゃない。
俺は暴れる理性を抑えながら、日焼け止めを塗っていった。
「…もう終わったぞ。早よ着けろ」
「ん、ありがとな」
霧雨は水着を着けて、身体を起こす。
良かった。手を出さなかったぞ俺は。これは褒められても良いのではないか。
「よし、遊ぼうぜ!」
「遊ぶっつっても、何すんだよ。砂の城でも作るのか?」
「それは後だ!海に来たってんなら、やっぱ泳がねえとさ!」
霧雨はそう言って、浮き輪を持って海へと走って行った。
「早く来いよー!」
「…本当、自由だな」
彼女の背を追って、俺も海に向かって歩く。
海なんて、一体いつ以来なんだろう。両親は共働きで忙しい上に、友人と呼べる人物がいないから海に来る事も無い。
「八幡!」
「あ?…って、冷てっ!」
海に近づいた途端、霧雨は右足で海水を蹴って俺にかける。かけた霧雨は満面の笑みだ。
「あははっ!」
まるで太陽を思わせる笑顔。俺とは別の世界の人間だ。そんな俺に優しくしてくれる霧雨は、酷く優しい人間なのだ。俺より余程。
「…やれやれ」
俺も海水に足を浸けて、徐々に霧雨のところに歩み寄る。霧雨は浮き輪の上に座って、ゆったりと寛ぎ始めた。
「八幡、押してくれよ!」
「…はぁ」
俺は彼女が座る浮き輪を押しながら、奥へと泳いでいく。足がギリギリ地に届く範囲まで押していき、そこからは適当にゆっくりと時間を潰していく。
「八幡八幡!写真撮ろうぜ!」
そう言って、彼女はスマホのカメラを内側にして俺達を映した。
「落としても知らんぞ」
「大丈夫だって。防水だぜ?」
防水=大丈夫とも限らんだろうよ。水に落とした事無いから分からんけど。
「んじゃ、撮るぜ」
何枚か写真を撮影し、その後再び浮き輪でその辺を彷徨き周った。
浮き輪で寛いでいる霧雨は楽そうで良さそうなのだが、後ろから押している俺としては水着姿の霧雨が至近距離でいる事に平常心を保てない。
これがリア充ってやつですかそうですか。
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「やっぱ海に来たら、海の家の昼飯だよなー!」
一頻り泳ぐと、お昼時になっていた。互いにお腹を空かしていたので、浜辺に建てられている海の家に赴き、焼きそばを2つ購入した。
「後でかき氷も買いに行こうぜ!」
「はいはい」
パラソルの陰の下で、焼きそばをずるずる啜っていると。
「なんで桃のかき氷が無いのよ!」
「いやなんでって言われましても。とんだクレーマーですね」
「地元じゃ桃のかき氷あったじゃない!」
「ここ千葉です。後、海の家ではそんなマイナーなかき氷は提供してません」
何やらかき氷屋の付近から、女の子の荒げた声が聞こえてきた。
腰まで届く青髪のロングヘアに、頭には桃の実と葉のようなアクセサリーが付いた丸い帽子を被った女の子。
隣では青紫色の髪の女性が、青髪ロングの女の子の言葉に、呆れた物言いで返している。
「何騒いでんだあれ」
「…知らん。あんま関わらん方が身のためだろ」
どう考えても関わったら面倒な予感しかしない。知らん子に申し訳ないが、俺のセンサーが反応してる。あれは地雷だと。
「もう!折角の観光が台無しよ!」
「はぁ」
「そもそも引っ越す場所を間違えたわ!千葉県って、なーんにもないじゃない!」
「そうですね」
「大体何よ!名産品が梨とか落花生って!梨まだ時期じゃないでしょうよ!」
なんなんだあいつ。さっきから千葉を侮辱しやがって。
梨と落花生だけが名産品なわけないだろ。千葉に旅行するならもっと事前に調べろや。
「八幡?なんで睨んでるんだ?」
「あ?元からこんな目付きだろ」
誰も睨んでねぇし。千葉を侮辱されたからって怒ってるとかそんなんないし。
「…あ」
目が合っちまった。
いや、気のせいだ。俺は彼女を見ていたわけじゃない。かき氷屋を見ていたのだ。
だから今目を逸らした俺に彼女が近づいて来ているのは気のせいだと思いたい。
「そこのあんた。さっきから何睨み付けてたのよ」
「や、だからこういう目付きだって言ってんだろ」
「初めて聞いたわよ」
青髪の女の子が腕を組んで、俺を睨み付けている。
「総領娘様。一般人に不躾な真似はやめてください。恥ずかしいです」
「衣玖!あんた前からちょいちょい私をディスってるわよね!?」
「馬鹿になどしていません。ただ愚か者を見ていると口が緩くなる症候群で」
「それを馬鹿にしてるって言ってるのよ!」
なんで目の前でコントを見せられてるんだろうか。
「そこの不調法者。私を睨み付けていたのは知っているわ。何のつもりか答えなさい」
「い、言いがかりだろ。自意識過剰って言われても仕方ないぞ」
いやまぁ見てたんですけど。そこそこ距離あったのによく目が合った事分かったな。
「確かに。もしこの方が総領娘様ではなく、総領娘様の後ろにあった屋台を眺めていたのなら、とんだ自意識過剰ですね。ぶっちゃけタチ悪い」
「どっちの味方よあんたは!」
やっぱりコントを見せられてるんですかね。案外息も合ってるし。
「ていうか、あんたら誰なんだ?」
霧雨は2人に名前を尋ねた。
「私は
「そういう事よ!私を崇めなさい、そこの不調法者!」
「知ってるか?」
「知らん」
比那名居一族なんて聞いた事が無い。まぁ感覚的で例えるなら、スカーレット家みたいなものか。あっちのお嬢もこっちのお嬢も、どっちも面倒くさいな。
「あっ、私は霧雨魔理沙だ。で、こいつは比企谷八幡。今日は一緒に遊びに来てるんだ」
「…なるほど。どうやら私達はお邪魔なようです。さぁ総領娘様。あちらに行きましょう。先程桃のかき氷が出たと風の噂で告げられています」
「嘘付け!そんなの聞いてないわよ!」
比那名居とやらは粘って、こちらに詰め寄って来る。いやちょっと近い近い近い。
「絶対睨んでたわよね、あんた」
海に入ってる筈なのになんでこんな良い匂いすんの?女の子って所々不思議だよね。
「…そうだな。八幡、思いっきり睨んでたぜ」
「えっ霧雨?」
「ほーらやっぱり!」
黙ってくれとは言って無いけど、なんかチクられた。しかもちょっと不機嫌気味だし。
「さぁ吐きなさい!なんで私を睨んでたのかを!」
「…睨んでたっつうか、千葉をあれだけボロカスに言ったら気に触るわ」
「は?」
「千葉の名産品が梨と落花生なのは間違いない。だがそれだけじゃない。枇杷や瓜、更にはマッカンなど、様々な名産品が千葉にある。付け焼き刃の知識で千葉を語ってんじゃねぇよ」
「この方は千葉のガイドさんか何かですか?」
「単なる千葉好きの高校生だぜ」
「地元愛が強いんですね」
故郷を愛するのは当たり前だ。それをさぞおかしいかのような言い方はちょっと納得いかないな。
「あんた、地元の高校生なの?」
「だからなんだよ」
「いえ、私つい最近千葉に引っ越して来たから。私も千葉にある高校に転校するのよ」
なんだろ。千葉に引っ越して来たって聞いて、尚の事嫌な予感がしたんだけど。
「だから下見ついでに観光しに来たのだけど…。あんた、千葉について博識なのね」
「ハッ、こちとら生粋の千葉県民だぞ」
「なら私に披露してみなさいよ。千葉の全てを」
「そんなもん余裕で…」
「八幡。私、もう一回海に遊びに行きたい」
比那名居とやらに千葉の素晴らしさを語ろうとすると、拗ねたような表情で霧雨はそう言う。
「えっいや、こいつに千葉の良さを…」
「誰もが千葉の良さを理解するとは限らねえだろ。そんな事より、早く海に行きたい」
霧雨は俺の腕を掴んで、強引に引っ張って行こうとする。
「ちょっと待ちなさいよ!今こいつの相手は私なんだから、あんたは1人で遊んでなさいよ!」
「確かに八幡が突っかかったのが悪いが、八幡の相手は私で手一杯なんだ。お前が入って来る余地なんてねえよ」
「!この女…」
何このよく分からん争い。まさかの修羅場?
「はーいはい。総領娘様、喧嘩は御法度です。私達はこれでお邪魔しますので、どうぞお二人はごゆっくりお過ごし下さい」
永江さんという人物が介入し、比那名居の腕を掴んで連れて行く。
「あっちょ!離しなさい!私はあいつから千葉の事を…」
「後でググりましょう」
「そんなのより地元民に聞いた方が…ってあんた力強いわね!全然振り解けないんだけど!?」
そうして、永江さんと比那名居は目の前から去って行った。
不用意に人を睨んじゃいけませんでした。人を睨むと、ああして嵐が来ちゃうからやめようね。
「八幡ってさ、やっぱり女誑しだよな。あっちこっちで女を引っ掛けて」
「ちょっと待て。誑した記憶無いんだけど」
俺よりやや低い身長の霧雨は、拗ねた表情で俺を睨み付けながら見上げる。
「今日は私の罰ゲームなんだぞ。他の女と遊ぼうとするなよ」
「…お前それ…」
「今日だけはずっと八幡は私のだ。あの女に千葉を語る必要なんて無いんだよ」
可愛らしい嫉妬。と言えば可愛らしいのだが、いかんせん周りにいる女子の考えてる事が分からん時がある。
故に、今霧雨が何を思っているのかも完全に理解は出来ない。
とはいえ、罰ゲームを邪魔されて不機嫌になったのは分かる。鈍感系ならそこすら分かっていなかっただろうが。
「…悪かったな。迷惑かけて」
「だと思うなら、今度はちゃんと私と遊ぶ事!分かったか?」
「…了解」
あれはイレギュラーだ。さっきみたいな事がそうそう起きるとは思わない。
「でも、またもし女を引っ掛けたら…」
「?」
「その時はどうなるか分かんないぜっ」
「えぇー……」
満面の笑みでそう言う霧雨だが、普通に怖いんだけど。
女子がこうやって具体的な事を言わないって事は、具体的な事を言えないような事をする可能性がある。封獣が良い例だ。
というか前から思ってたんだけど、罰ゲームになると人格が若干凶暴になるのなんなの?
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時刻は午後の7時。夕方にはぞろぞろ帰って行く人が多い中、未だに九十九里浜の海水浴場にいる。そんな時間まで海で何をしているのかと言えば。
「やっぱ夏の夜は花火に限るよな」
花火をしていました。まだ海水浴場にチラホラ人がいるが、昼間に比べれば圧倒的に少なくなっている。
「なんかまるで夏休みが終わる錯覚が起こってるわ」
「まだ夏休み始まったばっかなのにな」
海に来る事同様、誰かと一緒に花火をする機会が今までなかった。花火大会であれば、小町と一緒に行ったりしたけど。
「今日はすっげえ楽しかった。八幡と海に来る事が出来てさ。今度霊夢達も連れて行こうぜ!」
「あいつの事だから、"えっ普通に嫌なんだけど。熱い中なんでわざわざ海に行かなきゃならないの?"って言うだろうな」
「微妙に似てる!あははっ!」
博麗とはどことなく似てるところがある。何かに対して面倒くさがるところとかな。
「高校生活がまだ始まったばっかだってのにさ、今でこれだけ楽しいのって幸せだよな。この時間がまだまだ続くんだから」
「…どうだろうな。クラスが変われば人間関係はリセットされたりするし」
「絶対させねえ」
霧雨のそんな強い言葉に、思わず彼女の方に視線を向けた。
「霊夢が、アリスが、八幡が例え別のクラスだったとしても。例え転校したとしても。私は絶対に今の関係をリセットなんてさせねえ」
「…凄ぇな、お前」
本当何このかっけぇ女の子は。本当に男女関わらず惚れるってマジで。勇まし過ぎだろ。
「ずっと続く関係なんて無いのかも知れない。でも私は続けたい。そういう関係が欲しい。たかだか数年で別れる関係なんて嫌だろ?」
「中々無茶苦茶な事言ってるな、お前」
「私は強欲なもんでな。欲しいって思ったら、ずっと欲しいって思うのさ。…気になった本、美味しいと思った食べ物、心の底から寄り添いたいと思った人。手を伸ばせるものは全て欲しいんだ」
例え手が届かないと分かっていても、それでもいつか自分の物になると信じて手を伸ばす。何かに直向きになれる彼女だからこそ、あり得る願いなのだろう。
しかし、強欲というのは7つの大罪の内の1つ。彼女の意思が、今後どういう風に転ぶか分からない。強欲のあまり、自分の身や周りを滅ぼす事も、あり得ないわけじゃないからな。
…まぁ、霧雨なら大丈夫だとは思うけど。多分。
「八幡っ」
「なんだ?」
「夏休み、また一緒に遊ぼうなっ」
「…気が向けばな」
「じゃあ絶対気を向かせてやるぜ!」
外は夜で暗いというのに、彼女の笑顔はいつまでも明るく見えた。直射日光にも程がある。眩し過ぎる彼女の笑顔。
でも、不思議と一緒にいて不快とは思わない。むしろ、悪くない。