やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
夏休みも終盤になり、今日は8月29日。ただの休みの日……と思う人間がいる傍ら、この日を楽しみにしている人間もいた。
「神社来るなら賽銭箱に金入れて行きなさいよね。出店よりこっちに金を費やすべきでしょ」
祭りが開かれているとある神社の巫女は、ぶつくさと文句を溢し。
「楽しみだな、今日の祭り!」
「…そうね」
金色の髪をした2人の女子高生は、祭りを楽しみにしており。
「そういえば今日が最終日なのよね。博麗神社の夏祭り」
「らしいですね」
「…折角だし、少し顔を出しておこうかしら。咲夜、支度をなさい」
紅い館に住むお嬢様は、その周囲の人間を連れて顔を出すことを決め。
「夏祭りだからこそ、気が緩んで不貞を働く者が現れるのです。生徒会長として、治安の維持に努めなければなりません。小町」
「準備は出来てますよー」
生徒会長と副生徒会長は治安の維持のために、神社の警備を行うことになり。
「ぬえは行かないのか?」
「…面倒だから行かない」
「…仕方あるまい。私達だけで行くとしよう」
とある寺院の皆々は、心が荒んだ少女を連れて行くことを諦め。
「私とてゐと優曇華は、怪我人が出た場合の救護班として派遣され夏祭りに行きますが……姫様は行きませんか?」
「私がそんな有象無象の平民に紛れて祭りを楽しむわけが無いでしょう。というか暑いんだし」
「師匠!準備出来ました!」
「分かったわ。あ、それと怪我人が少ないようでなければ、2人とも少しの間は周っても良いわよ。おそらく同じクラスの子とも会うだろうし、一緒に周っても構わないわ」
「本当ですか!?…八幡もいるのかな…」
「!ちょっと待ちなさい。あの不調法者も来るのかしら?」
「え?いや、分からないですけど……知り合いが強引に連れて行きそうですし、もしかしたら…。というか不調法者?」
「気が変わったわ。仕方ないから私も行ってあげる」
「いえ、そこまで無理して…」
「行くわ」
とある診療所の面々は、派遣のために、また1人の男を籠絡させるために神社の祭りに参加し。
「さとり様は行かないのですか?」
「えぇ…あまり人混みが好きじゃないもの。お燐とお空は気にせずに行ってらっしゃい」
「あれ、こいし様は?」
「あの子ならとうの昔に出て行ったわよ」
銭湯を経営しているお嬢様は祭りに行くことはせず、代わりに2人の付き人に行かせることに。
「今日は何を食べようかしら〜」
「幽々子様。お願いですから店を潰すような真似は控えてくださいね」
庭師はご主人の食欲を危惧して、予め釘を刺し。
「1日……2日……2ヶ月足りないって、うぉっ」
夏休みが終わる現実を受け入れ切れない腐った目をした男は、ソファから落ちる。
各々の8月29日という1日が、始まった。
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夏休みはまだまだあっても良いと思うのだ。クーラーが効いた部屋でゴロゴロするという緩い日常が、学校という厳しい機関のせいで壊されてしまうのだから。せめて、2学期が始まるまでは家にずっと引き篭もっていたいものだ。
「お兄ちゃん。小町今日夏祭り行ってくるから」
「あれか。あのカラフルな連中とか」
「そゆこと。…というか、お兄ちゃんも誰かと夏祭りとか行かないの?」
「行かない。めんどい」
「はぁ……これだからごみぃちゃんは…」
そうやって人のことをゴミ扱いするのやめようか。大体そんな単語どこから仕入れて来たのかな?やっぱあのカラフル連中が悪影響になったりしてない?
「とりあえず、夕飯は勝手に食べててね」
「了解」
そう言って、小町は家を出て行った。
時刻は夕方の6時を過ぎている。夕飯にはちょっと早いが、俺もどこかに出掛けて食べに行こう。どうせなら、久しぶりになりたけでも行くか。
寝転んでいた俺は起き上がり、スマホを手に取った瞬間、振動が手に伝わり始めた。
「…霧雨?」
なんと霧雨からの着信だった。俺は通話ボタンを押して、スマホを耳に当てる。
『八幡、祭り行こ』
すぐさま通話ボタンを切った。今のは間違い電話だろう。
念のため、電源を切っておこう。こういうのはもう一度掛かって来る可能性があるからな。
「…よし」
財布とスマホを持って、俺も家から出て行った。
暑い中で熱いラーメンを食べるなんて気が狂っていると思う人間がいるかも知れないが、ラーメンとは年中食べて美味しい料理なのである。
最近は忙しかったり外に出るのが面倒だったりしたので、なりたけに行くのは本当に久しぶりだ。
久しぶりのなりたけにワクワクしながら街中を歩いていると。
「見つけたぜ!八幡!」
後ろから肩をガッと強く掴まれてしまった。
おかしい。何故こんな街中で、しかもピンポイントであいつがいることが。
「全く、魔理沙が何度も電話しても出ないなんて……スマホの電源でも切っていたのかしら」
なんでだ、電源切ったってのに。今年はとことん運が悪いのか俺は。
俺は観念して、後ろを振り向く。そこには、浴衣姿の霧雨とマーガトロイドがいた。
「…はぁ」
「なっ!人の顔を見るなり溜め息は失礼だろ!」
相変わらず元気だね。こんな暑いのに。
「…それで、何か用か?俺今からラーメン食いに行くんだけど」
「前に言ってただろ、夏祭り!行こうぜ!」
一応言っておくが、忘れていたとかじゃない。普通に覚えていた。が、覚えておくのが嫌だったので忘れることにしていた。
「…分かったよ。行くよ」
「よっし!そうと決まれば、早速行こう!」
霧雨が先頭を歩き、その後ろを俺とマーガトロイドが付いて行く。すると隣にいたマーガトロイドが、こちらを見つめている?
「…なんだよ」
「私達の浴衣を見て、何も言うことは無いの?」
「……まぁ、悪くないんじゃねぇの」
「…ふふ、八幡らしい感想ね」
俺達は博麗神社に向かった。神社に近づく度に、人が多くなっていくのが分かる。神社に需要があるのも一つの理由だろうが、境内の中だけで無く、外にも出店が出ているのも理由の一つだろう。俺達が通っている道は既にチラホラ出店が出ている。
「やっぱ祭りって出店だよな。何から食べようか」
「そこまで食べるつもりは無いわよ。太るし。というかそもそもそんなに食べれる胃を持ち合わせていないから」
構えた出店の道を通るだけでも、祭りの雰囲気を味わうことが出来る。
「幽々子様食べ過ぎですよ!店を潰すおつもりですか!?」
「えぇ〜。だってここの八目鰻、とっても美味しいんだもの。あ、後もう10本追加お願い出来るかしら?」
どうやらこの夏祭りにカービィが参加したようだ。それを嗜めるメタナイトも参加している。ふむ、関わるべからずだな。
「とりあえず出店は後にするとして、先に境内に入ろう。多分後から人混むし」
「そうね。ここで時間を割けば境内に入れなくなるかも知れないし」
そんなわけで、出店は後にして先に境内へ向かった。やはり境内の中も出店が構えられていて、人もそれに連ねて多くなっている。
「そういや博麗は一緒じゃないのか?」
「霊夢は巫女舞の準備中。それが終われば合流するって言ってたわ。"巫女舞を見物した代金として1人1万徴収するから用意してなさい"とも」
「ぼったくりじゃねぇか。やってる事荒くれ者だろ」
もうほとんど脅迫なんだけど。一体どういう教育したらああなったんだ。校長の育て方が悪かったんか。
「あやや?御三方も祭りにいらっしゃったんですか?」
この胡散臭い話し方は…。
「おう!終業式以来だな」
「どうも!オフバージョンの清く正しい射命丸です!」
体育祭以降、話すことが無かった射命丸。人格が2つあるのかと疑うほどの裏表があり、元から少し苦手意識を持っていた。
そんな苦手な人間の部類に入る射命丸は、変わらずカメラを片手にやって来て、霧雨やマーガトロイドと話している。
「やはり、今日の夏祭りの目当ては霊夢さんの?」
「それもそうだけど、やっぱ出店をさ!今年は八幡もいるし、一緒に行きたかったんだ!」
「なるほど……。あ、よろしければ私も付いて行ってよろしいですか?」
待てふざけるな。お前は今すぐ回れ右しろ。何付いて来ようとしてるんだ。
「私は全然良いぞ?アリスと八幡は?」
「余計なことをしなければ構わないわ」
霧雨は勿論、マーガトロイドも渋々了承した。こうなってしまうと俺は断れない。なんせ、多数決なら間違いなく俺の負けだからだ。
「…俺も良いけど、あんま絡んで来んなよ。クソ混んでる上に暑いんだから」
とりあえず混んでる+気温の相乗効果で、射命丸から物理的に距離を置く。関わって来なければ、正直いてもいなくても構わない。
「ではそういうことで、私も付き添わせていただきまーす」
射命丸文が仲間になった!
こんなにいらん仲間は初めてだ。仲間にした途端逃すを選択したい。
「それでですね、八幡さん」
ほら、どうせ絡んで来ると思ったよ。こいつが素直に聞き入れてくるわけが無い。無視だ無視。今俺の隣がうるさいのは烏が鳴いている。そういうことにしよう。
「おーい。八幡さーん」
色んな出店がある。やっぱ買うとすれば、食い物系に限るわな。焼きそばや唐揚げ、焼き鳥に…。
「無視するな」
「ッ!」
夏の暑さもびっくりするような冷ややかな声が耳の中にまで伝わってきた。
「引き分けになったからって随分な態度ね」
「引き分けじゃなくても同じ態度だったろうな」
そもそも基本的に射命丸のこと苦手だし。
「2学期も覚悟しなさい。中間と期末、今度こそ完封してあげる」
「え、まだその勝負すんの?俺もうする気無いんだけど」
「は?」
「いやこっちがは?なんだけど。そもそも引き分けで終わったんだから良いだろ。互いにやるメリットが無い。というか俺には無い」
前に喧嘩売られたのは、俺が射命丸の地雷を踏んだから。というか俺が喧嘩売ったことになるんかな、この場合。
まぁそれはさておいて、俺にはもう勝負をする理由もメリットも無い。
「八幡!射的やろうぜ、射的!」
「勝手にやっとけよ」
しかし、そんな言い分は霧雨に通るわけもなく、強引に腕を引っ張られた。射命丸を置いて。
「…絶対逃がさないんだから…」
そんな憎しげな言葉が聞こえる訳も無く、ただただ無情に引っ張られた。
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「そろそろ行きましょう」
それなりに時間が経ち、マーガトロイドが呟く。
先程までは、やたらと学校の人間に出会すことが多かった。四季先輩と小野塚先輩や、紅魔館の面々、永遠亭の皆々など、まるでオールスターのごとく次々に出会った。
「巫女舞目当てに、人の流れが激しくなるわ。そうなる前に、特等席を取って霊夢の舞を観覧しましょう」
「いつもどこで踊るんだ?」
「例年は大体、博麗神社の拝殿の目の前で踊ってる。今の時間帯だと、巫女が踊る十分なスペースを確保してるところじゃないかしら」
「巫女舞目当てもありますが、大半以上は霊夢さん目当てもありますからね。巷では、"楽園の素敵な巫女"と呼ぶ者もいます」
あいつそんな有名人だったのか。身近にいた人間が有名なアイドルだったって告げられたレベルの驚きだな。
「さ、早く行かねえと霊夢の舞を目の前で見れないぜ!」
俺達は出店を後にして、神社の拝殿へと向かった。幸い、今からスペースを確保し始めたのか、まだ思いの外人が集まっていないようだ。人混みの中に紛れて、少し強引に巫女舞を目の前で見れる特等席を確保した。
博麗が踊るまで待機していると、徐々に人が増えてきた。やはり、博麗を目当てにやって来ている人が多いのだろうか。
すると、唐突に竹笛の音が聞こえ始める。
「そろそろだぜ」
霧雨がそう言って拝殿に視線を向けると、中から博麗が現れた。制服でも無く私服でも無く、肩と腋の露出した赤い巫女服を纏い、扇子を持ってゆっくり歩いている。
その姿に、思わず目を奪われてしまった。
拝殿から出てきて、中心に止まる。その場で、彼女はゆっくりと舞い始めた。扇子を、巫女服の袖を、自身の髪を、伝う汗すらを惜しみなく押し出して、観覧する人々を一気に魅了する。
普段のガサツな彼女からは想像も付かない、優美な姿。一体どれほどの人間が、彼女の舞に、彼女に魅了されただろうか。
そう思わせるほど、今の博麗は美しいと言える。
「凄いだろ?」
「…あぁ…。…凄ぇよ」
ありきたりな感想しか出なかった。けれど、それしか出なかった。
舞は終幕に近づき、博麗は中心部から出てきた拝殿へとゆっくりと戻って行く。完全に姿が見えなくなると、多大な拍手が送られる。
しばらく拍手が送られた後、徐々に拝殿から人が離れて行き、引き続き祭りを楽しみ始めた。
「霊夢が出てくるまで待つか」
俺達は博麗が出てくるまで拝殿の近くで待っていた。しばらく待っていると、首を鳴らしながら拝殿の裏側から博麗が現れた。
「あー疲れた。毎年毎年面倒ったらありゃしない」
「よう、お疲れ!」
「良かったですよ。カメラ越しから霊夢さんの優美さが伝わると思うくらいです」
「そんな賞賛の声はいらないから、代わりに観覧料を払えっての。何ポケーっと見てるだけなのよ」
「…霊夢はこうでないとね」
普段のガサツな博麗。彼女のそんな姿を今一度見てみると、先程までの姿のギャップに心が揺られる。
「何人の顔見てボーっとしてんのよ。ほら」
すると彼女は、手を差し出してくる。
「…何これ」
「決まってるじゃない、観覧料よ。1万」
「え、絶対嫌だ」
「チッ、ケチ臭いわね」
払ってたまるか。いや、人によれば払おうとする人は存在するかも知れない。
「まぁ良いわ。ずっと神社に篭ってたから、出店周りたいのよね。1万は良いから、何か奢りなさい」
「いつまでも厚かましいな、お前」
博麗も合流し、再び出店を周ることにした。博麗が合流したことで、このメンバーの鬱陶しさがプラスになった。比較的、マーガトロイドはまだマシな方である。
しばらく5人で周って。
「もう結構周ったわね…」
「そうだな……」
ずっと歩き周っていたからか、俺とマーガトロイドは足にキていた。そろそろどっかのベンチに座りたい。
「じゃあ締めはあれだな!」
「?あれって何よ」
「私は今から買いに行くからさ!」
「あ、じゃあ私も行きますよ」
「霊夢達は、神社の近くにある公園で待ってろよ。後で行くから」
そう言って、霧雨と射命丸は目の前から去って行った。
「…なら私達は先に行ってましょうか」
マーガトロイドの言うことに賛成し、先に公園へと向かった。霧雨達が戻って来るまで、俺達はベンチに腰掛けて待っていた。
「…凄かったぞ」
「は?何急に」
「お前の舞だ。巫女舞なんて生まれて初めて見たが、なんか凄かった。…というか、他に形容する言葉が見つからねぇわ」
「八幡、霊夢の踊りを食い入るように見てたわね」
「…あっそ、ありがと」
暗いからきちんと見えないが、博麗の顔が少し赤いように見えた。
「夏休みももう終わりね」
「始業式はサボっちまおうかな…」
「それ賛成。どうせ授業しないんだし」
「典型的な問題児じゃないの」
3人でそう雑談していると、2人ほどの駆け足の音が聞こえてきた。
「買って来たぜ、花火!」
「…あぁ。あれってそういうこと」
キャンドルに火を着けて、各々が好きな花火を使って点火させる。
霧雨や射命丸がはしゃいで遊び、その姿を微笑ましく眺めているマーガトロイド。その傍ら、俺はマッカンを飲みながら、線香花火を眺めて楽しんでいた。その隣には、博麗がやって来て。
「…2学期もよろしくね、八幡」
「…おう」
ただそれだけを交わし、夏を締める線香花火を眺め続けた。