やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。   作:セブンアップ

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彼は多少なりとも、周りに想われている。

 

 生徒会選挙も終わり、魂魄は無事生徒会長に。そして書記には余計な射命丸が。いや本当に余計だ。なんで書記に立候補したんだよ。

 

「…八幡さん?大丈夫ですか?」

 

「魂魄。俺もう生徒会辞めたい」

 

「急に何故っ!?」

 

 だって余計な奴いるし。確かに書記には向いてるかも知れないが、そもそも人として生徒会に向いている人材かあいつ。それは俺も同じか。じゃあ俺も余計なやつか。はっはっは。

 

「ま、まさか、私が何かしたんじゃ…」

 

「いや、魂魄は何もしてない。むしろありのままでいてくれ。それで安心出来るから」

 

「八幡が唐突にわけ分からんこと言うのは今に始まったことじゃないさ。にしても、最近やたらと目が異常に腐ってるけど。何かあったのかい?」

 

 原因は俺の隣で座っているこの烏。こちらを見てニコニコしている胡散臭さトップクラスの射命丸文、その人である。

 

「あやや、もしかしてオーバーワークかも知れませんね。私が保健室に連れて行ってあげましょう!」

 

「いや、それだと連れてかれる先は保健室じゃなく多分ゴミ捨て場に…」

 

「病人に口無しですよ、八幡さん!それじゃ、私はこの人を連れて保健室に行きますので!」

 

 そう言って射命丸は俺の腕に、自身の腕を組んで強引に生徒会室から連れ出した。廊下を歩き、しばらくすると射命丸は俺の腕を離して、強く背中を押す。

 

「態度に出し過ぎなのよ。そんなに私がいるのが不服かしら?」

 

 先程、生徒会の面々に見せていた仮面を取って、射命丸本来の人格を表す。

 

「そりゃそうだろ。少なくとも俺はお前のことが嫌いだ」

 

「奇遇ね。私も貴方のこと、好きじゃないの」

 

「ならなんで生徒会に入ったんだよ。俺が生徒会にいることぐらい、お前の情報網で分かるだろ」

 

「だからよ。貴方が生徒会にいることは知っているけれど、生徒会での貴方を知らないからね。ネタを掴むために入った、とでも言っておくわ」

 

 おそらくネタとは、俺の弱点か何かだろう。でなければ生徒会での俺を知らない、なんてセリフを言う必要が無いからな。それを掴んで強請ろうって魂胆か。やっぱ性格悪いなこいつ。

 

「別に俺をどうしようがお前の勝手だけども、あんま他の生徒会の面々まで巻き込むなよ」

 

「あら意外。そんなにあの生徒会のメンバーに思い入れがあるのね」

 

「そんなんじゃねぇよ」

 

 何かあれば、四季先輩のありがたい説教をくらうだけだから。それを避けるためだ。

 

「私だって無闇矢鱈に喧嘩売ったりしないわよ。貴方みたいな弱い存在じゃない限りね」

 

「はいはい。そうですか」

 

 もうこいつと会話すると疲れる。封獣とはまた違う面倒くささ。強い奴には下手に出て、弱い奴に威張り散らす。山賊みてぇなキャラだな本当。

 俺は適当に会話を切り上げて、射命丸に背を向けて廊下を歩く。

 

「どこ行くの?」

 

「保健室。頭が重いんだよ」

 

 さっきから頭がだるい。寒気は無いから熱では無いかも知れんが、生徒会選挙とか、これからの学園祭のこととかで少し働き詰めだったからな。疲労が出たのかも知れない。

 

「本当に私が連れて行ってあげましょうか?」

 

「要らん。余計にしんどくなる」

 

 俺は重たい足取りで保健室に向かった。扉を開けようとすると、先に扉が勝手に開く。目の前に現れたのは、薄紫色のショートボブに白いターバンのような物を巻いた女生徒。

 

「ごめんなさいね」

 

 そう謝罪して、女生徒は立ち去る。女生徒が出て行ってから、保健室の中に入室する。椅子に座り、書類に何かを書き込む八意先生が挨拶をする。

 

「あら、比企谷くんじゃない。どうしたの?」

 

「頭が痛いんで。少し仮眠取らせて下さい」

 

「熱?」

 

「分からないですけど。とりあえず体温計貸してください」

 

「分かったわ」

 

 八意先生から体温計を受け取り、脇に挟んで熱を測る。少し待ち、アラームが鳴って表示された体温を見る。

 

「36.6℃。平熱ではあります」

 

「過労やストレスかも知れないわね。ベッドは空いてるから、ゆっくり寝てて良いわよ。まだ私、ここで仕事しなきゃならないし」

 

「ありがとうございます」

 

 俺はベッドを借りて、横になる。頭が重いのが緩和されるわけでは無いが、少し楽になった気はした。

 

「…疲れた…」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『俺はお前のことが嫌いだ』

 

 明確な拒絶。特に傷ついたわけでも無い。あの劣等者が私を嫌おうがなんだろうが、そんなので心に傷を負うわけがない。そんな柔いメンタルじゃジャーナリストなんて出来やしない。

 

「相変わらずの嫌われようねえ。まっ、あんたに好感抱くなんて人は、そういないと思うけど」

 

「…途中から聞いてたのね」

 

 背後で気楽そうな様子で声をかけたのは、姫海棠はたて。相変わらず鬱陶しい。

 

「あったり前じゃない。廊下歩いてたら文とあの有名人が絡んでたんだから。そりゃ盗み聞きするわよ」

 

「そう。まぁ盗み聞きしたとしても、私の新聞の内容が悪くなることはない。いくらでも聞いていればいい」

 

「じゃあ盗み聞きついでに1つ聞いていい?」

 

 私がその場から去ろうとすると、はたてが引き止めて質問する。

 

「何?」

 

「あんた、ネタを掴むためって言って生徒会に入ったわね。それさ、マジなわけ?」

 

「…どういうこと?」

 

「文って確かに自分より弱い奴に喧嘩売ったりするけどさぁ、そもそも心底どうでもいいって思うタイプでしょ?自分より弱い奴なんて。にも関わらず、あの有名人に突っかかって行くじゃない。期末テスト、体育祭で引き分けたとはいえさ」

 

「引き分けたからよ。…あの屈辱は2度と忘れない。私と引き分けておいて、"俺はお前のこと相手にしてねぇよ"感丸出しの態度がイラつくのよ。あの澄ました態度、絶対に歪ませてやる」

 

 あいつを私の足元で跪かせてやる。跪かせた上で、私専用の奴隷にする。私1人じゃ記事を作るのも限界がある。はたての花果子念報を超える記事を作る。そのために、あの劣等者をボロボロになるまで使うのよ。

 

「…こっわ。あんた、まるで封獣ぬえね」

 

「は?やめてよそんな気色悪いこと言うのは。それだとあの劣等者を私が病むほど好きみたいになるじゃない」

 

「違うの?」

 

「当たり前よ。むしろ、あんな人間を好きになる理由が見当たらない」

 

 くどいようだが私があの人間に突っかかるのは、あの態度が気に入らないから。

 私より全て劣っている癖に、見透かしたかのようにして思い上がるあの態度が。私なんて眼中にないってあの態度が。

 

 全部が気に入らないのだ。

 

「ふうん。ま、あんたが八幡のことどう思おうが私の知る由じゃないけどね。美味いネタゲット出来ればそれでよし。無ければそれまでなわけだから。八幡と恋仲になったら連絡しなさいよ。すぐに記事にしてあげるからさ」

 

「ならないわよ。絶対に」

 

 あいつと恋仲?想像しようと思っても想像出来ない。人間として私より劣る人間なんて、恋愛対象でもなんでもないから。

 

「それじゃあね。精々私の踏み台になる新聞でも作ってなさい」

 

 はたてにそう吐き捨てて、来た道を辿る。普通の人間なら保健室にでも行って見舞いでもするのだろうが、私が行く理由なんてない。歓迎すらされないし。互いにメリットが無い。

 

「…文、あんたやっぱ怖いって」

 

 はたての呟きに耳を傾けることもなく、私は生徒会室に戻る。中断していた仕事に戻ろうとすると。

 

「八幡さんは?」

 

「え?」

 

「いや、保健室に連れて行ったんですよね?具合はいかがだったんですか?」

 

「え、あぁ…」

 

 劣等者の具合を尋ねられ、少し詰まった私。突然のことだったから、すぐに出なかっただけだ。

 

「頭が重たいそうですよ。とりあえず、八意永琳先生に任せて戻って来ました」

 

「そう、ですか……」

 

 あからさまに心配する素振りを見せる。この女もそうだけど、あの男に惹かれる理由が分からない。ただ優しく声を掛けられただけで、助けられただけでほの字になる女が多い。馬鹿らしい。

 

「でも八幡が保健室行くぐらい崩れるなんて珍しいね。いつも表情死んでるから分かりづらいけどさ」

 

「…そうね。季節の変わり目でもあるし、風邪を引いたのかもね」

 

「でも大丈夫じゃないですか?勉強合宿で雨風に濡れてましたけど、その翌日翌々日は風邪引きませんでしたし。なんだかんだで頑丈な人だと思いますよ」

 

 私がF組にお邪魔して見た限り、出会ってから学校を欠席したところを見たことが無い。遅刻はたまにあるけれど、なんだかんだで出席しているのだ。

 

「…私、後で見舞いに行きます」

 

 そこまで心配する必要もないだろうに。見た感じ、ただの過労か何かだ。熱なら身体が熱い筈だ。それが無かったのなら、そこまで大事にするようなことじゃないということだ。

 

「なら、今行って来な」

 

「え…?」

 

「急がなけりゃならない仕事は特に無いし、妖夢がよく働いてるから多少早く切り上げても余裕はあるんだよ」

 

「小町はただサボりたい口実作りたいだけじゃないの?」

 

「ばっかお前、あたいはサボる時は正々堂々とサボるさ」

 

「別に誇れることではないのだけれど…。というか、今の八幡に似てたわね」

 

 なんなんだこいつらは。どうしてあの人間のことになると、こうも動きたがる。

 

「あたいも行ってあげたいけど、複数人で行って八幡の負担になったらあれだしね。代表として、妖夢が行って来たらいい」

 

「小町さん……」

 

「それじゃ、ここら辺で切り上げて。また明日にしよう」

 

 流れのままに、今日の生徒会は終了した。早く終わることに越したことは無いが、あの男ごときに生徒会が動くとは思いもしなかった。

 

 あの劣等者には、惹かれる何かがある。私には理解出来ない、何かが。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 生徒会を早く切り上げて、私は八幡さんの鞄を持って保健室に。扉をノックし、向こう側から返事が返ってくるのを確認して入室する。

 

「あら、新しく生徒会長になった子じゃない」

 

 保健の教諭と永遠亭という病院の薬師を掛け持ちしている八意先生、回転式の椅子を回転してこちらに視線を向ける。

 

「八幡さんは…?」

 

「八幡…?あぁ、比企谷くんね。比企谷くんならそこのベッドで熟睡してるわ。過労で少し頭にきていたようね」

 

「過労、ですか…」

 

 指差した先のベッド。白いカーテンを開くと、そこには眠っていた八幡さんの姿が。

 

「…八幡さん」

 

「心配かしら?」

 

「まぁ、はい。…新しく生徒会になったばかりで、引き継ぎとか諸々仕事ありましたし。それ以前に生徒会選挙で八幡さんには負担を掛けてしまいましたし」

 

 過労で体調を崩した原因が、もしかしたら私かも知れない。あれだけ八幡さんを支えると豪語しておきながら、この人の体調すら把握出来てなかった。

 

 何が傍で支えます、よ。全然出来てないじゃない。

 自分はこの人に何度も支えてもらって、その恩を返せていない。これじゃ八幡さんの傍にいても、邪魔になるだけだ。

 

「…ん……んん…」

 

 そう悔やんでいると、八幡さんがゆっくりと目覚め始めた。

 

「…結構、寝た気するな……って、魂魄?お前なんでいんの?」

 

「あっ、その。もう今日の生徒会は終了しましたので、八幡さんの鞄をと…」

 

「あぁ、悪いな」

 

 カーテンが開かれて、八意先生が様子を見に来る。

 

「起きたようね。具合はどう?」

 

「寝る前に比べたら、まだマシです」

 

「なら良かったわね。帰ったら早く寝ることね」

 

「そうします」

 

 八幡さんはベッドから降りて、私から鞄を受け取る。

 

「それじゃ、失礼しました」

 

「あ、待ってください!私もご一緒させてください!」

 

「お、おう。ていうかあんま大声出さんでくれ。頭に響く」

 

「す、すみません…」

 

 私達は保健室を後にして、夕日に照らされた玄関へと向かった。

 

「八幡さん……すみませんでした!」

 

 私は頭を下げて、謝罪をする。

 

「え?何どうした」

 

「八幡さんが過労って聞いて、もしかしたら私のせいでって……」

 

「なんでだよ。別に魂魄が悪いとかじゃないだろ。俺の体調管理がなってなかっただけだ」

 

「だって!…学園祭のこともそうですけど、生徒会選挙で八幡さんにだいぶ負担を掛けてしまったじゃないですか」

 

「俺が勧誘したんだ。お前が気に病むほどじゃないし」

 

 あくまで八幡さんは私を責めない気だ。いっそ突き放してくれた方がどれだけ楽か。

 

「何をそんなに暗い顔してるのかは知らんけど、俺がぶっ倒れた原因はお前じゃない。自分のせいだとか言うのもやめてくれ」

 

「私は!…私は八幡さんを支えると豪語しました。でも、結局は支えられてばかり。恩の1つも返せていない」

 

「それなんだよ。恩を返そうとしなくていい。生徒会選挙も元を辿れば、俺がお前を勧誘したんだ。なら最後まで付き添う責任がある。恩を感じる必要が無い」

 

 八幡さんは優しい。私に無理させないために、恩を感じなくていいと言ってるんだ。

 私は何度もこの人に支えてもらった。八幡さんの言葉が、私の心の支えにもなっている。

 

 でも、じゃあ八幡さんは?

 

 八幡さんは誰かを支えてる。でも、八幡さんを支える人は?八幡さんの周りには博麗の巫女や人形使いなど、個性豊かな人物が集まってる。でも、どの人も八幡さんの支えになっているのかは分からない。

 

 八幡さんは誰かを支えてるのに、その八幡さんを支える人が見当たらない。八幡さんは誰かが辛い時、寄り添っているのに。八幡さんが辛い時、誰が寄り添ってくれるのだろうか。

 

 私は、八幡さんを支えたい。辛い時は寄り添いたい。

 傲慢な願いかも知れない。八幡さんは求めていないのかも知れない。私の自己満足かも知れない。

 

 それでも、私は。

 

「恩だけじゃないんです。…私は、貴方を支えたい。貴方が辛い時、心を休ませる拠り所になりたい。きっと八幡さんは求めていないかも知れない。傲慢だって思うかも知れない。…それでも、私は支えたいんです」

 

 貴方の傍でずっと支えたい。だって、貴方のことが好きだから。

 この役目は誰にも譲らない。譲りたくない。貴方の傍で支えるのは、私が良い。

 

「…特別なことはしなくていい。お前はいつも通りのお前でいてくれりゃそれでいい」

 

「っ…!」

 

 私の気持ちが届かなかった。誠意を見せれば伝わるとは思っていなかった。でも、八幡さんは私の気持ちなんて全く…。

 

「普段と違うことをされる方が気持ち悪いんだ。さっきも言ったが、お前はお前のままでいてくれ。…それに、お前にそう言ってくれるだけで十分支えられてる」

 

「え……?」

 

「自分のことは自分で。辛かろうがなんだろうが、それは自分の問題で、他人を巻き込んで良い理由にはならないと思ってた。きっとそれはこれからも思うことだと思う。癖みたいなもんだからな」

 

「…はい」

 

「でも、お前は支えるって言った。今まで言われなかった言葉だったから、動揺した。反面、悪い気分にならなかった。だから、その…なんだ?お前がそう言ってくれただけで、支えになったってことだ」

 

「っ!」

 

「まぁ、あれだ。…ありがとな」

 

 八幡さんの、不器用な言葉。そこには私の想いが届いていた。八幡さんは、支えになったと言ってくれたんだ。

 

 嬉しい。とても、嬉しい。

 

「…え、ちょっと?何か反応して?俺恥ずかしいんだけど」

 

 決めた。八幡さんを支えるのは、この魂魄妖夢だ。他の誰にも譲らない。博麗の巫女にも、あの封獣ぬえにも。誰であっても、譲る気はない。

 

「八幡さん」

 

「え、な、何?」

 

「貴方の傍で、これからも支えさせていただきます」

 

 貴方が死を迎えるまで、これから、ずっと(一生)

 




 ヤンデレじゃないよ?純愛だよ?
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