やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。 作:セブンアップ
「えー、学園祭があります」
俺は教壇の前に立って、クラスの連中全員に伝える。こういうのは担任の役割な筈だが、稗田先生はどうも人の前に立つ役割を俺に押し付ける節がある。
「1クラスに2人、文化祭実行委員を募ることになってる。基本的には生徒会と連携して働くことが多い。クラスで何やるかも大事だが、まずは文化祭実行委員を決めることにする。誰かやりたい人はいるか?」
と尋ねてみたものの、誰も手を挙げず、誰も声を発さないものだと思っていた。しかし意外なことに、2人の女子が手を挙げる。
「文化祭実行委員なら私と、静葉がやるわ!」
手を挙げたのは秋穣子、そして秋静葉。苗字から察するに、姉妹なのだろう。
「誰もやらないんなら頼むけど。良いのか?」
「文化祭と言えば秋!秋と言えば私達、秋姉妹よ!」
「その理屈はよく分からんが。じゃあまぁ頼んだわ」
思いの外、文化祭実行委員が早く決まった。もう少し時間がかかるものだと思っていたが、よく分からん理論を振り翳した秋穣子に感謝しよう。穣子か静葉かどっちか分からんけど。
「じゃあ文化祭実行委員が決まったところで、次は出し物を決める時間だ。何か禁止されてる出し物とかありますかね?」
隅で椅子に腰掛ける稗田先生に尋ねる。
「基本的にはありませんね。常識に囚われない、というのがこの学園の売り文句。ただ自由にして良いというわけではありません。全て自己責任を承知の上です。その辺りを履き違えることが無いのであれば」
「だそうだ。飲食店でも良いし、演劇発表でも良い。とりあえず名前の順から片っ端に聞いていく。無いなら無いでそれで良い。まずは秋姉妹」
「秋にちなんで、秋の季節の食品を提供するのはどう?焼き芋にぶどう、秋の野菜の天ぷら。秋を体感出来るお店が良いと思うの」
「そうすれば、生徒も先生も外から来た一般人も秋の素晴らしさを味わえるわ!」
「季節限定か。悪くないな」
アリス・マーガトロイドの場合。
「私は、人形展示会で良いと思うわ」
「お前の独壇場だな」
第一の転校生、十六夜咲夜の場合。
「メイド喫茶で良いわ」
「本職じゃねぇか」
今泉影狼の場合。
「人形じゃなく、竹林展示発表会でどうかしら?」
「その竹林どこから持ってくるんだよ」
宇佐見蓮子の場合。
「お化け屋敷で良いじゃない?」
「妥当な案だな」
「私ちょうど、その道の物品を部室に保管してるのよ。あれ置いたらポルターガイスト起きるかも知れないし」
「お前幽霊を客として招くつもりか」
奥野田美宵の場合。
「居酒屋にしましょう!」
「普通に喫茶店じゃ駄目なのかよ」
火焔猫燐の場合。
「あたいは猫の動画の鑑賞会がいいね」
「ぜひうちのカマクラも出演させてもらおう」
霧雨魔理沙の場合。
「きのこ料理屋さんでどうだ!?きのこスパゲッティにきのこハンバーグ!絶品揃いだぜ!」
「お前が食べたいだけじゃねぇのか」
クラウン・ピースの場合。
「びっくりハウスにしようよ!」
「お化け屋敷とどう違うんだ?」
「まず入り口にチョークの粉が大量に含まれた黒板消しを挟んで落とし、そっから部屋を暗くして足元には紐を張り巡らせるんだよ!極め付けは四方八方からカラーボールがバァーン!どう?」
「停学」
さっきからまともな奴いないんだけど。マーガトロイドと秋姉妹、火焔猫、霧雨辺りだけだよ、まともな奴。
黒谷ヤマメの場合。
「蜘蛛観察会にしようよ。可愛いでしょ?」
「怖ぇよ」
赤蛮奇の場合。
「びっくりハウスかお化け屋敷に頭を飛ばすって工程を付けようか」
「追い討ちの案やめろ」
蘇我屠自古の場合。
「文化祭で粗相する奴の公開処刑をしようか。この学園に喧嘩売る奴には雷が落ちることを証明すんだよ」
「それもう出し物じゃない」
博麗霊夢の場合。
「博麗神社出張版で決まりね。1人千円で参拝して、取り憑いてる霊を祓うのよ。勿論、ギャランティは全部私行きだけどね」
「悪徳商法だろ」
常識に囚われないのが売り文句とは言え、囚われなさすぎだろ。自由もここまで来ると悪質だよ。
次は、第二の転校生の比那名居天子。
「桃よ!千葉は落花生とか梨が有名らしいけれど、桃こそこれからの千葉を担う象徴となるべき果実よ!桃をベースにした飲食店を出店すれば…」
「お前千葉から追放すんぞ」
二ッ岩マミゾウの場合。
「うどん屋でどうじゃ。秋とは言え空気が冷たい。温かいうどんを提供すれば、売れると思うのじゃが」
「お前の発想が温かい」
俺の後ろの出席番号の奴はとても温かい奴だ。
「まぁその汁の中に大量の七味をぶっ込んでおけばもっと温かくなるがのう」
「前言撤回」
マエリベリー・ハーンの場合。
「スイーツをメインにしたお店で良いんじゃないかしら」
「ここに来て採用高確率の案が」
物部布都の場合。
「この教場に神子様の像を置き、我々と共に神子様を崇め奉る!これ以外に一体何をすると申すか!」
「いやあるだろ。普通に」
つうか誰だよ神子様。巫女ならそこにいるぞ。まぁあんなん崇めても何の意味も無いけど。
「何かしら?言いたいことがあるなら裏で聞くわよ」
「俺をボッコボコにする気かお前」
「そんな酷いこと出来るわけないじゃない。可愛い巫女がそんな乱暴なこと出来るわけないでしょ?」
「ハハッ」
「何今の夢の国の主要人物の笑い方は」
千葉県民ですから。そいつの真似が出来なくて千葉県民を名乗れるか?名乗れるな。うん、全く関係ない。
「次だ次。プリズムリバー、何かやりたいことあるか?」
「…まぁ、得意分野を披露するって意味なら音楽を使う発表会ね。それが通るかどうかさておいて」
「悪くはない案だな」
霊烏路空の場合。
底抜けにアホのこいつからまともな案が出るわけがない。仮にラーメン屋とか言ってみろ。俺が賛成する。
「八幡からぎゅーってしてもらうの!」
「は?」
まともな案じゃないのは分かりきってた。でもなんでそうピンポイントな願望言ってくるの?言われた俺恥ずかしいんだけど。何人かすんごい目で俺と霊烏路を見てくるんだけど。レーザーポインター浴びせられてるんだけど。
「い、いや、そうじゃなくてだな。もっとなんかあるだろ。ラーメン屋とか」
「なんで例えがラーメン屋なのよ」
知ったことか。俺の趣味だ。
「やりたいこと何かって聞いたじゃん!だから八幡からぎゅーっとしてもらいたいって言ったの!」
「額面通りに捉えすぎだよ!お空、これ今何の話をしてるか分かってるの!?」
「え?分からないよ?」
「マジかお前」
ここまで人の話を聞いてないことを堂々と言える奴がいるのか。なんか頭痛くなってきたぞ。また保健室にお世話になっちまうぞ。
「…もういいや。次、鈴仙。お前何したい」
「餅屋さんで良いんじゃない?餅米と臼、そして杵を用意。餅つきを体験し、自分が突いたお餅を持ち帰る。季節的には早いけど、中々体験出来ることじゃないし」
「お前最高」
「へっ!?」
ここまで人に寄り添った案、今までにあったか?良くて秋姉妹とマーガトロイド、火焔猫辺りの案だけど、こんなん聞いたら採用したくなるわ。泣くぞ。
「ずるい!八幡の浮気者!」
「なんでだよ」
「文化祭の出し物は八幡の首を展示するので決定ね。大丈夫、魂すら残さないであげるから」
「浄化しないでくれる?ていうかそれ以前に首チョンパすんなよ」
全く大丈夫じゃねぇし。
「かっかっか。儂の前の人間はとんだ助平じゃのう」
「お嬢様に今の一部始終伝えておくわね」
「本当、そういうとこ良くねえぞ!」
鈴仙の案が魅力的だったから褒めただけなのに、この言われようは解せぬ。
「俺の死刑は一旦置いとけ。最後は…ホワイトロックだな。やりたいことは?」
「そうね……寒い日にはうってつけのデザートがあるわね」
「ほう。それは?」
「かき氷」
「はい終了」
全員分聞いた結果、大喜利みたいになった。誰がボケろって言ったよ。全部俺がツッコミ入れてるじゃねぇか。
「実現不可、よく分からんもんは不採用で」
竹林展示発表会、神子様、博麗神社出張版、粗相した奴の処刑、蜘蛛観察会、びっくりハウス、俺の抱擁会、桃。これら全部不採用確定。
「なんでよ…」
「神子様の良さを伝える良い機会なのに!お主は何を考えとるんじゃ!」
「私のギャランティは!?」
「蜘蛛可愛いのに…」
「人を驚かせるチャンスなのに!」
「桃が不採用だなんて不調法者!」
「つうか、かき氷が不採用じゃねぇってどういうこった。季節外れにもほどがあるだろうがよ」
「採用するとは言ってないけど、実現可能だろ。例えば博麗のあんな悪徳商法とか認められるわけないだろ」
「そりゃそうだけどよ」
不満があるようだが、因果応報だ。ふざけた案なんぞ出すからそうなる。俺の判断は間違ってない。比那名居、お前だけは気に入らんから却下。千葉を馬鹿にするからだ。
「というか、八幡はどうなのよ。さっきから意見してばかりじゃない」
「俺はラーメン屋で良いと思うんだが」
「なんでよ」
「美味いだろ、ラーメン。暗殺教室見ろよお前、あいつらつけ麺作ってたぞ」
「何の話よ」
クソ、村松と殺せんせーさえいればどんぐりつけ麺作れたかも知らないのに。出てきたのはうどんだし。しかも辛いのぶち込もうとしてるし。
ていうか、こんな色んな案が出てきたら1つに絞るのに時間がかかる。
「……あ」
「?どうかしましたか?」
「今泉、蘇我。お前らの案も、案外悪くないかも知れん」
「え?」
今、我ながら良い案が思い付いたかも知れない。
「1年F組の出し物は、和風喫茶でどうだ?」
「和風喫茶?」
全員の案を1つにまとめることは流石に出来んが、大多数の案であれば取り入れて1つにまとめることが出来る。それが和風喫茶である。
「メニューはうどんでも良いし餅でも良い。きのこが乗ってる和風スパゲティでも良いだろうし、さつまいもやぶどうを使ったデザートだって出来る。邪魔にならない場所に竹林、和の人形とかを置くのだってありだ。接客業については……」
「私が指導すれば良いのね?」
「そういうことだ」
「あ、接客なら私も出来ますよ!居酒屋でバイトしてますし!」
「待て。そういう話なら私も出来る」
「なら奥野田と赤蛮奇、そんで十六夜が主軸となって動いてくれ」
どうせ博麗なんて「は?なんであんたに持って来なきゃならないの?あんたが私に持って来なさいよ」とか言いそうだし。最低限、接客が出来る術を十六夜と奥野田、赤蛮奇に叩き込んでもらう。
「でだ。これだけ女子が多い学校で、しかも外部からも客が来る。下心満載の男も来るかもしれん。もし接客最中に何かしようとすれば…」
「私が叩き出しゃ良いんだな?任せろ」
「その上で金巻き上げれば良いのね?」
「…暴力はやめてね。一応」
あんま関わったことないから分からんけど、本当に叩き出しそうで怖い。博麗、ナチュラルに金取ろうとすんな。
「和風スタイルの店だ。店内の音楽を和楽にしたいところだが…」
「…出来ないことは無いわ。胡弓を使えば、それなりに」
「頼んだ」
インテリアにメニューは大まかに決まった。接客業に関しても、あの3人に任せておく。
「後は厨房。十六夜には最低限の接客業だけ叩き込んでもらった上で、厨房に入ってもらいたい。負担がかかるが、頼めるか?」
「任せなさい。紅魔館に比べれば赤子の手を捻るよりも簡単よ」
「厨房ならあたいにも任せな!地霊殿ではあたいが料理担当だし」
「私も、永遠亭で料理作るから大丈夫だと思う」
「ならその3人は厨房確定だな」
十六夜、火焔猫、そして鈴仙。このクラスに料理が出来る人間がいて良かったと思う。
「和食なら私も出来るわよ」
「お前は……そうだな、頼むわ」
博麗が自分から名乗り出たのが驚きだが、こいつに接客業させるよりも裏で働いてくれた方が安全性が高い。蘇我と一緒に客をフルボッコにして叩き出しそうで怖いもん。
「流石に全員の案を取り入れることは出来なかった。だからこの案に異議がある奴もいるだろう。だから謝らせてもらう」
俺は頭を下げる。「なんで私の案は取り入れてもらえないの」って思う奴がいるだろうから。
「私は別に構わないわよ。なんなら日本人形をインテリアの一部として使わせてもらうし」
「人形を造るのであれば、神子様の人形も造ろうぞ!」
「じゃあ私は粗相した客の前に蜘蛛を垂らして帰すよ。これでも十分驚くだろうし」
残りの除外された案を出した連中は、快く受け入れてくれた。こういうクラスに居ることが出来て、たまに悪くないと思う。
「…なら、和風喫茶で決まりな」
1年F組の出し物は、和風喫茶で決定した。
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「和風喫茶店とは洒落てるじゃないか。あたいも寄らせてもらうとしよう。八幡が接客してくれるんだろう?」
「しませんて。普通に受付だけなんで」
「つまらないな。妖夢と文のクラスの出し物はなんだい?」
「私達のクラスは演劇発表会です。題名は、"春雪異変"」
「おお〜。どんな内容か全く分からないけど凄そう!」
「私達はおでん屋よ。少し時期は早いけれど、肌寒くなってきたから丁度良いって理由で」
魂魄と射命丸のクラスは演劇発表会、河城先輩と鍵山先輩のクラスはおでん屋だそうだ。おでん屋は良いな。寄る時間があれば寄らせてもらおう。
「小町のクラスは何出すの?」
「あたいのクラスはライブだね」
「そういえば小町のクラスには雷鼓と九十九姉妹いるじゃん。そりゃライブ一択になるよ」
知らん登場人物が出て来たが、流れ的に演奏が得意な人物なんだろう。プリズムリバーと近い存在だろうか。
「後はバックダンサーみたいな感じ?」
「ほとんどはね。でもあたいも雷鼓達と一緒に歌うから、ぜひ見て欲しいね。なぁ八幡?」
何故指名する。
「…暇があればですけどね」
「サボりの先輩が教えてやるよ。八幡、暇は作り出すものさ」
なんだそれかっけぇ。俺もそのセリフ貰おう。流石は四季先輩の監視を潜り抜けてサボる能力がある先輩だ。後で見つかる確率100%だけど。
「と言っても、この時期はサボりたくてもサボれないんだけどね。時期的に、あいつが来るだろうし」
と、後半の言葉を重く伝える小野塚先輩。
「あいつ?」
「過去に2度、この学園を荒らそうとした不届者がいたんだよ。まぁ生徒指導の茨木先生や校長の八雲紫と側近の八雲藍とかが出張って追い払ったけど」
「あー、その話は私も聞いたことありますよ。天邪鬼、
「そんな奴がいたのか…」
「奴の動機はよく分かんないんだけどね。でも2度目は少し厄介だったし、学習して狡猾になっていってる。それに動機が動機だから、2回だけでは終わらないと思う。今年も来ると見ていい」
「えぇ…」
サボるどころじゃねぇ。むしろ忙しくなるのかよ。何してくれてんだ鬼人正邪とやら。2度あることは3度あるって言葉を知らねぇのかよ。
「学園祭の時は特に警備を強化してるけどね。素性も知らない一般人を招くわけだから。それでも侵入出来るんだから、大したもんだ」
「私、茨木先生と鬼人正邪が戦ってるところ見たけど。あの子体術とか、運動神経がかなり優れてるわよ。それに逃げ足が速い」
「あんた達3人は今年入学したばっかりだし、鬼人正邪の見た目とか分からないだろう。けど外部の人間だけでなく、内部の人間にも目を光らせておけよ。この学園の制服を着て侵入する、なんてこともあったからね」
勉強合宿といい、なんで学校のイベントってトラブルが付いてくるのだろうか。そんなんフィクションの中だけでしか見たことねぇよ。なんだよ学園祭荒らすって。ジェントル・クリミナルかよ。
「…分かりました。しかし、私が生徒会長になったからにはこの学園祭に手出しなんてさせません!誰が来たって、力でねじ伏せれば良いだけです!」
「やる気があって良いねぇ。…八幡、ちょいちょい」
小野塚先輩は俺を手招きする。そして、耳打ちする。
「妖夢のこと、ちゃんと見ておくんだよ。あの子は責任感が強い。万が一、鬼人正邪にしてやられた時、自分を責めるだろうから」
「小野塚先輩…」
本当良い人だなぁ。
「後、何事も無かったらサボってあたいらのライブ見に来ておくれよ。待ってるからさ」
「…何も無かったら、ですけどね」
こういうイベントは大概何か起きるものだ。むしろ何も起きない方が異変でしかないまである。何それ嫌すぎる。何か起きてる方が平和なのかよ。
それから、日が経ち。
東方学園祭、開催。