この素晴らしい世界で、死なない俺は生を謳う。 作:shoon K
「...おお」
俺の周りを包む光が雲散すると、先ほどの場所とは雰囲気が変わっていた。上を向けば青い空、辺りを見渡せばただっ広い草原。小鳥のさえずりや植物が風に吹かれている音、もっと奥を見れば人が住んでいると思われる街がある。
美しいことには変わりはない。生前いた場所よりずっと晴れやかで眩しいから落ち着かない自分がいる。
そして、第一に懸念していたことも心配無くなった。人が住んでいる町があるのならば俺が地理方面で困ることはないだろう。食料面は、まあ...不老不死があるから大丈夫だと思う。
もし目の前に広がる街が廃墟だった場合は、気楽に歩き旅をすることにしよう。何せ、俺には無限の時間があるのだから。
俺は町に向かって歩き出す。草原に吹く風をこの身で味わいながら、所々で飛んでいるカエルを尻目に前に進む。
...あれ?カエルってあんなに大きいか?
―うぎゃぁああああああああああ!!!助けてアクア!アクア様ぁああああああ!!!!
道中、東の方角から男の悲鳴が聞こえた。俺は歓喜する。ここら辺に人がいるということは、目的地の街は少なくとも廃墟ではなく、人が栄える街である筈だ。
早計かもしれないが、逆に生きている人間が廃墟の辺りをうろつくだろうか?
俺は悲鳴の聞こえる方へと足を運び、ちょうどいい高さの丘に着いたところで腰を下ろす。座り心地がいいしよく見える。
悲鳴を上げた男の方を見ると、例のカエルに追われていて、後ろにいる女性が笑っていた。
女神さまから聞いた話にモンスターを討伐する冒険者というものがいると聞いた。あの人たちは、そうなんだろう。
―ああ、やっぱり美しい。演者が躍る姿は、感情が躍り、世界が沸くその舞台は。それだけでもこの世界に来た価値はあるし、不老不死も選んでよかったのだ。
「...いいなぁ。」
俺が座っているすぐ下で、声がした。見るとそこには体育座りをして彼らを眺める女の子がいた。服装はかなり際どいし、この角度からだと
そんなもの、至極どうでもよかった。
「...あ」
その子が、こちらに気付いた。すると何故か俺を見つめたまま動かない。
俺は無視を決め込んでいたが、その子もまた、俺の顔を見たまま動かない。何の進展もないこの状況を少々うっとおしく感じた。
「...あの人たちのところへいかないのか?」
視線に耐え切れなくなった俺は彼女に声をかけた。すると何故か頬を紅潮させ、もじもじしだす
「え、えっと、そのぉ...」
口籠るだけで、何も言わない。だが、何かを言いたいのは何となく分かる。彼らの元に行きたくてもいけないのだろう。
恐らくはコミュ障、というやつだ。
だから俺は深追いをしない。ちゃんと彼女が喋るまで待つさ。
「...行きたいけど、私なんかがあそこに入って良い訳が...」
「良い訳がない?そんなわけない。」
口を出す。そういう言い訳をするのは、俺だけで十分なのだ。
「俺は君がどんな理由でそう思うのかは知らないが、人間と関わらない理由にはならないはずだ。」
「それは......そうですけど」
「なら行くべきだ。行って助けて、ほんの少しの勇気を振り絞って話しかけてみるんだ。それだけでいい。それだけで君は多分、変われる」
「...そうですかね......?」
「当たり前だ」
俺みたいなカスが演者に与えられるのはこんな言葉しかないが、それでもその言葉で踊ってくれるのなら、俺は十二分に得をする。
俺の言葉が響いたのか、彼女は少し固まって...その後立ち上がり、叫んだ
「我が名はゆんゆん!アークウィザードにして上級魔法を操りし者!...ありがとうございます!私、やってみます!」
中々に癖のある名のりをした彼女は、こちらに向かって一礼した後、彼らの方へ向かって走り出した
......が、彼女はまるで忘れものに気付いたかのように立ち止まると、俺の方を振り返り俺の手を取る
「あああ貴方も一緒に来てくれませんか...!!」
...WOW、なんてこった
無言で振り切ろうとしたが、思ったよりも手を握る力が強く振りほどけなかった。
情けない...俺はこんなにも非力だったのか......
「...仕方ない、わかったよ。」
「ありがとうございます!それじゃあ行きましょう!」
しぶしぶと言った俺の了承を受け取ると同時に、俺の手を引っ張って走り出した。
その速さは前世で知る女性のそれではなく、陸上選手のような安定した速さの走り。
女性でこれなら男衆はどれほど隆々したゴリラなんだろうか、なんて思いながら、俺は引っ張られるまま彼らの元へと向かっていった
===
現場に着いた。俺の体はすこし擦れて傷が出来たが、この程度、前世でいくらでも受けているので今更痛いとは思わない。
それよりも彼女、ゆんゆんだ。走った疲れもあるかもだが、少し青ざめ、過呼吸のような呼吸をしながらカエルに嬲られている冒険者たちを見ている。
瞳には興奮と怯えの色、からだは少々震えている。
「...大丈夫、いけるさ。」
俺は手を背中に当て、囁いた。びくりと彼女は反応したが、こちらを見て安堵の表情を浮かべ、前方のカエルに向かって、手を掲げた
「ライトオブセイバーッッッッ!!」
魔法の名を声高々に彼女は告げる。掲げた手から光の光線が現れ、化物の様なカエルの肉体を豆腐のように簡単に切り裂いていく
魔法が使えるとは聞いていたがこれほど派手で精巧だとは思わなかった。なんだろう、俺まで興奮してきた!
切り裂いたカエルは爆発し、飲み込まれていた三人の女性が吹き飛ばされた
全員思い切り地面に衝突しているのに外傷は全く見られない。異世界の人ってこんなに頑丈なの?と戦慄している俺をよそに話は進んでいく
「誰だか知らないけど助かったよ、ありがとう」
「た、助けたわけじゃないですから、ライバルがカエルなんかにやられたりしたら、私の立場がないから仕留めるだけで...」
もごもごと、ゆんゆんは誤魔化す様に何か喋る。
まあ、言いたいことは分らんでもないが、俺は人と直接関りを持つのは控えたいから助け船は出さない。今更が過ぎるかもしれないが
「なになに?その女の子
...え
「私は知り合いというか、ライバルといいますか......。久しぶりねめぐみん!約束通り私は修行をして帰ってきた!見ての通り上級魔法だって扱える!!さあ、今こそあの時の約束を果たすとき!今日こそは、長きにわたった決着をつけるわよ!!」
「...? どちら様ですか?そして駄目ですよ?こんな場所に小さな
「いやお前も小さいだろ」
「な、なにおう!!」
何故?何故俺が女の子扱いされている?
いや確かに身長は低いよ?髪の毛も切れてないから長いしボサボサだけど、男なんだが??
「...俺、男だぞ?歳は15だし、
「「「「「え」」」」」
その日、ライトニングセイバーで響いた轟音よりも遥かに大きな絶叫が、平原中に木霊した―