【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
「──やられた! 奴ら、この事を知っていて……!」
「キャロル!?」
「ノエル! これは罠だ! すぐに外と合流を──」
何かに気づいたキャロルが叫ぶが──もう遅かった。
「行くわよ二人とも!」
空間転移により、ノーブルレッドの三人はキャロル達を囲うように位置取り、両手を翳していた。
迷宮には怪物がいるという認識を元に、それを因果逆転させることで怪物がいる場所こそが迷宮──それを実現させる哲学兵装こそ、彼女達の最大奥義。
その名は、ダイダロスの迷宮。
「しまった!」
ノエルが叫ぶが──その声もすぐに聞こえなくなる。
キャロル達は、ノーブルレッドの作り出した脱出不可能な迷宮に囚われてしまった。
しかし、それを見て彼女達は言う。
「おそらくすぐに出てくるわね」
「そうでありますね。相手は奇跡の完遂者。その程度なら……」
「だが、これで……」
コクリとヴァネッサが頷き。
「ええ、時間が稼げるわね」
そう言って彼女は、上を──神が居る場所を見上げた。
第十話「Yes,just believe」
「未来!!!」
響が伸ばした手はしかし、届く事なくギアが解除され落下。
シャトーに叩きつけられる寸前に、マリアが彼女を受け止め、そして空を仰ぎ見て、神を睨み付ける。
その目を睨み返しながら、未来──否、シャム・ハはゆっくりとマリアの前に降り立つ。その周囲に追いかけて来た装者とフィーネが集う。
シェム・ハは周りの装者達を見渡し──心底不思議そうに呟く。
「何故だ……? 何故貴様らからアカシアの気配がする?」
そして次の瞬間──場を圧縮するかのようなプレッシャーが彼女達を襲った。
苛立ち。たったそれだけで装者達は呼吸が難しくなる。
次元が違う。
そんな中、彼女に言葉を投げかける者が居た。
「シェム・ハ……様……」
「──む。貴様、フィーネか?」
旧知の人間に出会ったからか、シェム・ハの威圧が収まる。
彼女は珍しいものを見たと呆けた顔をした。
「あれから長い時が経ったが、なぜ貴様が此処に?」
「──それは」
神の前だからか、元巫女であるフィーネはシェム・ハに強く出れないでいた。
シェム・ハはジッと彼女を見つめ──察した。
「そうか。貴様、アカシアの事を識ったな」
「──!」
その言葉にフィーネは心底驚いた表情を浮かべた。
何故、悠久の時から目覚めた彼女がそのような事を──その事を識っている?
答えは簡単──シェム・ハは全てを識っていたからだ。
シェム・ハは月を見上げて嘲笑う。
「あの月の形から察するに、エンキへの想いを捨てきれず、統一言語を奪われた事への虚しさから、我の代わりにバラルの呪詛を解こうとしたようだな」
「──っ」
「──ハハハ。エンキの献身を無に帰してでも、想いを伝えたかったか! ヒト風情が! それがエンキにとって、アカシアにとって最も残酷な仕打ちと知らずに!」
「ちが、私は……決してそのような想いで!」
フィーネの頬から涙が伝う。
全てを知った今、彼女は理解していた。自分にしてきた事は、想い人を、尊敬する友を裏切る行為だと。
それを改めて突きつけられた彼女は、心が軋む。
シェム・ハはそれを嘲笑いながら見続け──。
「いい加減に……して!」
それをクリスが怒りの表情で止めた。
「確かにフィーネは間違った事をした! たくさんの人に迷惑をかけた! でも、その想いは本当だった──その想いを踏み躙る権利は誰にもない!」
「何も知らない小娘がよく囀る」
「確かに何も知らない! でも!」
クリスはフィーネを見て、力強く断言した。
「フィーネは優しい人だ──だから、彼女の行動には愛がある! これ以上わたしの大切な人を貶めるのなら、許さない!」
「クリス……」
フィーネは、呆然とクリスを見ていた。
最後に会った時よりも成長していた。強くなっていた。──自分よりも。
その後ろ姿がとても大きく見え、思わずフィーネは微笑んだ。
その光景をシェム・ハはつまらなそうに見つめ──己に強く干渉する力に、苦悶の表情を浮かべた。
「ぐ、あああ……!」
「未来!?」
「──これは」
響が叫び、マリアは未来の体に取り付けられたソレを見て目を見開いた。
忘れる訳がない。アレは響を闇から守る為にウェルが開発した──ダイレクトフィードバックシステム。
それが、シェム・ハを拘束する為に悪用されている。
さらに事態は動く。
『刻印──起動!』
「──」
翼の脳内に訃堂の声が響き──翼の精神は彼に掌握された。
翼は、剣をサーフボードにすると苦しむシェム・ハを抱えて空を飛ぶ。
その行動にその場に居た全員が、翼へと驚きの視線を向ける。
「翼、何を!」
奏の叫び声を翼は冷たい目で見下ろし、吐き捨てる。
「もうお遊びは終わりなんだよ、奏」
「──つ、ばさ……?」
「この国を守るのに必要なのは歌なんかじゃない──力だ!」
そして。
「それを為す力は、今ここに風鳴が手に入れた」
「お前、何言って──」
「お別れだ奏、みんな──せいぜい生き残りな」
「待て、つば──」
しかし奏の静止の声虚しく翼は飛び去って行き。
「追うぞ!」
「うん──む。ちょっと待って。これは……」
突如、チフォージュ・シャトーが大きく揺れ動き始めた。
装者達はその大きな揺れに狼狽し、何が起きているのかを把握する前に──。
シャトーは、訃堂が仕掛けていた大量の爆弾により大きく傾いた。
そして、その内外に居た響やキャロル達は──すぐに動く事ができない程のダメージを負った。
◆
「──ついに、神の力がこの手に」
現在、翼が連れてきたシェム・ハはダイレクトフィードバックシステムによる精神制御が推し進められている。
それもアカシア・クローンであるイグニス達の生命エネルギーを使っている為、より早く、より深く、神の力を掌握する事が可能だ。
しばらく経てば、次世代抑止力が完成し──もう二度と日本が外国に蹂躙される事はない。
翼は充てがわれた部屋に連れて行かれ──吐き続けていた。
刻印により無理矢理頭の中を弄られ、防人としての自分とツヴァイウィングとしての自分がごちゃ混ぜになり、本当の自分が何なのかを分からないでいた。
「オレは……わたしは──」
だが──訃堂が一度刻印を起動させれば、防人となり、護国の為に剣を振るうだろう。
そう、例えば──訃堂が推し進めた護国災害派遣法で、鎌倉の家宅捜索をしようとする日本政府とそれに協力するSONG等……。
「果敢無き哉……」
すぐに彼らは来るだろう。その時訃堂は迷いなく切り捨てる。
護国の為に。
──しかし。
「……」
訃堂はある部屋に訪れた。
そこには布団が敷きられており、その枕元には──コマチがぐっすりと眠っていた。
「イー……プイ……イー……プイ……」
「ふん」
訃堂は、空になったお椀と皿が乗ったお盆を手に持つと、代わりの物をそっと枕元に置く。
お盆の上に乗っているのは、響やクリスの好きな食べ物──つまり、コマチがここ最近彼女達と過ごし始めて好きになり始めた食べ物だった。
訃堂はその事を知らない。ただ、コマチがそれらを美味しそうに食べているのを知っているだけだ。
「モノノケ。貴様は──」
訃堂がそっとコマチに手を伸ばそうとし──しかし止める。
「果敢無き哉」
それだけ言うと、訃堂は部屋を出て襖を閉じると結界を構築させる。そして何も言わずその場を立ち去った。
◆
「皆はどうだ?」
「軽傷ね。土壇場で駆け付けてくれたサンジェルマン達のおかげだわ」
頭に包帯を巻いたマリアは、発令室にて弦十郎に報告を行なった。
シャトーで起きた爆発。
いくらシンフォギアといえど、まともに食らえば無事では済まない。そんな彼女達を救ったのは、サンジェルマン達だった。
しかし彼女達も爆発に巻き込まれてしまった為、治療の為に一度協会に戻っている。
「キャロルとエルフナインくんは?」
「ノーブルレッドの哲学兵装で何度も衝撃波を喰らったそうで、今は寝ているわ」
そして、そんな二人をオートスコアラー達が看病している。
「そうか……」
「それで、秘密の招集について教えてちょうだい」
『俺から話そう』
モニター越しに八紘は語る。日本政府の要請により鎌倉へ家宅捜索を実施。場合によっては殺害許可も出ており──それは翼にも適用される。
現在動ける装者──それも成人している者はマリアしか居ない。
故に、彼女に協力要請が出た訳だが──そこに待ったの声が掛かる。
「あたしにも行かせてくれ」
「奏!?」
「あなた、傷はもう良いの?」
「こんなの、気にしている暇はねぇよ!」
今回の作戦、弦十郎は絶対に奏に知らせるつもりがなかった。
翼の変化。裏切り。そして殺害許可。
とてもではないが、翼と一緒にツヴァイウィングとして歩んできた彼女に話せる訳がなかった。
傷も深く動けるとは聞いていない。マリアも嘘は言っていない。
では、何故──?
「彼女に機会を与えたらどうですか?」
「ウェル? まさか、お前!」
「奏さんの愛なら、翼さんの目を覚ます事ができる。そう思って優先的に治療させて頂きました」
「お願いだ旦那──行かせてくれ。あたしが絶対にあのバカを連れ戻すから!」
奏の懇願に、弦十郎は──。
◆
そして──日本政府並びにSONGによる家宅捜索が開始された。
現場にはエージェントの他に八紘、弦十郎、緒川、マリア、そして奏が居た。
八紘の権限で開門され、エージェント達が証拠を収めに突入しようとし──それをマリアが止める。
「何を!?」
「よく見て」
マリアの指差す先には──アルカ・ノイズ。
もしこのまま突っ込めば命はなかった。
訃堂がアルカ・ノイズまで使用している事に、弦十郎達が目を見開くが……すぐに精神を立て直す。
「ノイズはわたしが引き受けるわ!」
「頼んだぞ!」
弦十郎達は屋敷の中へと入っていき、そして奏は──。
「よぉ翼──良い夜だな」
「何しに来た──奏」
先日と同じように冷たい目で見下ろす翼と、真っ直ぐ視線を交わしていた。
◆
屋敷の奥の奥へと向かう弦十郎とエージェントたち。
果たしてそこで待ち構えていたのは──護国の鬼。
「──っ!!」
「ぁ……」
一睨み。それだけで特殊な訓練を積んでいるエージェント達が臆し、後退さる。
ならば、彼と相対できるのは──同じ血を持つ者のみ。
弦十郎は、エージェント達を下がらせ、一人前に出る。
「国連の犬に成り下がった親不孝者めが──どの面下げてこの戦場に足を着ける」
「無論、アンタを止める為だ」
訃堂と弦十郎が激突し──部屋が吹き飛んだ。
しかし、それをマリアは気にせずノイズを駆逐していき。
奏は、翼と激しく打ち合っていた。
「翼! お前、本当にこんな事をしたいのか! 未来を攫って! よく分からん力埋め込んで! それで大嫌いな防人って叫んで!」
「ああ、そうだ! オレは本来こうするべきだったんだ!」
「違う!」
「違わない!」
翼の言葉を奏が強く否定する。
一歩、奏が前に出る。
「お前は優しい奴だ! 自分の母親との約束を守る為に! 大好きな歌を歌い続ける為に! あたしと! 一緒に! 羽ばたいて来たんじゃねえのかよ!」
「ぐ……!」
一歩、翼が後に下がる。
「今までの全部! 嘘だったのかよぉ!」
奏の槍が翼の剣を弾く。
「光彦との約束、忘れたのかよぉ!」
剣を握る翼の手に力が入る。
「──黙れぇぇぇェェエエエエ!!」
三歩前に出て、奏の槍を弾く。
「それで何が守れた!? 何も守れなかったじゃないか! ──忘れたのか!? あの日、死んだ皆を! お前を助けて死んだ光彦の事を!」
「っ!」
「力ではなく、歌を選んだ結果──オレは全てを取り零した!」
だから。
「もう、あんな思いはしたくないんだよ!」
「──だったら」
奏が鍔迫り合いの状態で勢いよく頭を後ろに下げ──。
「らしくなく考えるな!!」
ゴンっと鈍い音が響く。
頭突きだ。
まともに喰らった翼は痛みでたたらを踏み、その隙に奏が彼女を地面へと押し倒す。
「なんであたしに相談してくれなかったんだよ! なんでそんなになるまで塞ぎ込んぢちまったんだよ! ……もっと頼ってくれよ。あたし達──」
二人でツヴァイウィングだろ?
「──」
「翼、あたしもあの時無力だと、守れなかった自分を許せなかったさ。凄く辛かった。どうしてって思った──でもさ、力だけを求めても人は救えないんだ」
かつて、家族を失い、ノイズに復讐する為だけに生きていた奏。
しかしそれだけではダメだと気付かされた。
それを教えてくれたのは──自分が助けた人達だった。
「翼、お前力を手に入れてどうするんだ──それで、守れた人も、守れなかった人も……忘れるつもりか?」
「──」
「翼、それは絶対にやっちゃあいけない事だ」
いつの間にか、二人の槍と剣は──握られていなかった。
「翼、一緒に歌っていこう。それがあたし達だ」
いつの間にか、二人は手を繋いでいた。
「翼──苦しみも、楽しさも、辛さも、一緒に抱えていこう。そして絶対に忘れないようにしよう。そして──」
歌で、世界を守ろう。
それが──。
「──あたし達、ツヴァイウィングだ」
「──奏」
翼の頭の奥でガラスの砕ける音が響き──彼女の頬に涙が伝う。
「奏……ごめん。オレ……オレッ!」
「ったく。世話の焼ける奴だぜ」
「奏……奏ぇ!」
戦場の中央にて翼が涙を流し続けて、そんな彼女を奏が抱き締め。
そして、その光景をマリアが見守り──鋭い殺気を察知する。
その殺気は翼に向けて放たれており、斬撃となって襲いかかる。
故にマリアはその身を割り込ませて、斬撃を逸らす。
「司令は──」
マリアの視界に、頭から地面に埋め込められ力なく倒れ伏す弦十郎を見つける。
おそらく──目の前の怪物、訃堂に倒されたのだろう。
「どけ、国連の犬めが!」
「親なら子どもを見守りなさい!」
叫び、マリアは奇跡の石を取り出す。
「我が呼びかけに応えよ、奇跡の石! 進化を超えろメガシンカ!」
マリアの姿が全盛期となり、ギアも黒く染まり──手にするのは波導の力。そして心にあるのは勇者の姿。
「風鳴訃堂──アナタとは一度話したかった」
「ふん──果敢無き哉」
訃堂の威圧とマリアの波導が正面かぶつかり合い──ギシギシと空間を震わせた。
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