【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
白銀の煌めきと歴戦の刃が激突し、屋敷が揺れる。
マリアと訃堂の衝突は、もはや人類が立ち入れる領域を脱しており、近くで援護をしようとしていた緒川は、力なくクナイを下す。
あの戦いに割り込む事は不可能だ。
「はぁ!」
「ぬぐ……!」
弦十郎は親子の情により訃堂を殺す事ができず、そこを隙として突かれて敗北してしまった。
しかし、マリアにはそれはない。
時限式だが、弦十郎と互角の力を持つ彼女ならば訃堂と渡り合う事が可能だ。
「風鳴訃堂!」
しかし、マリアは訃堂を倒す事を目的として彼と刃を交えている訳ではない。
「お前が防人に、護国に拘る理由はなんだ! ──何故子である司令や翼に、そのような非道な事ができる!」
彼女は、訃堂の腑の奥を見ようとしていた。
しかし、訃堂は失笑し、彼女の言葉に返す。
「知れた事。先達から引き継いだ心を守る為。国を守る為──その為に儂は外道に堕ちても良いと心得た。鬼になると決めた!」
だから躊躇なく弦十郎を殺そうとできたし、翼も操り人形にした。
さらに、己の後継者を作る為に、息子の心に決めた女を孕ませ、最高の防人を産ませた。
そして、未来を依代にシェム・ハを復活させ、操ろうとした。
それを聞いたマリアが眉を顰め、しかしずっと感じていた違和感を彼に聞いた。
「ならば何故──リッくん先輩を、アカシアを使わなかった」
「──」
訃堂の言葉が、刃が止まる。
「──何を」
「どうした! 答えられないのか!? 四年前、貴様は彼の存在に気づいた。しかし──今のいままで、その力を使おうとしなかった!」
マリアの問いかけに、訃堂は──彼女を強く睨み付けて答えた。
「──護国に、アレは不要だと断じたまで」
「外道に堕ちた貴様がか? 違うだろう──訃堂、お前は」
──まだ非道に成り切れていない人の部分があるんだ。
マリアのその言葉を聞き、訃堂は──遠い日の記憶を呼び起こす。
第十一話「二人でなら翼になれる Singing heart」
風鳴訃堂。5歳。
「えい! やぁ!」
風鳴家の保有する屋敷の一つ。そこで彼は一人、己の技を磨いていた。彼の周囲には、彼を世話をする者は居らず、血の繋がった者は別の屋敷に居た。
防人の為に必要な事だった。
「たー! やー!」
しかし、幼い彼にとってそれは──。
「……ぐす」
辛く、寂しい事だった。
それでも防人は泣いてはならないと。ご先祖様に顔向けできないと木刀を振り続け。
『君、いつも振り回しているね。疲れないの?』
「え……?」
そんなある日──訃堂は妖怪を目にする。
「うわああああああ!?!?」
叫び声をあげて、後へと思いっきり退がり、石に躓いて転ぶ。
頭を打ったのか、彼は目に涙を溜め、しかし泣かないように努めた。
そんな彼を覗き込んだ妖怪は、クスクスと笑い始めた。
「へんなの〜」
それが訃堂とアカシアの初めての出会いだった。
『あ、またやってる〜』
「……また来たのか、モノノケめ」
あの日以来、モノノケは訃堂の元へ度々訪れた。
最初は妖怪退治だと斬り掛かった訃堂だったが、あっさりと負かされてしまい、再び目に涙を浮かべる羽目になった。
しかしモノノケは訃堂を揶揄う以外には悪さをせず、それ所か屋敷の使用人と仲良くなる始末。
妖怪に屋敷を乗っ取られたとあっては防人の恥と、訃堂はモノノケを追い出そうとするが──全戦全敗。
あっという間に力関係が構築され、訃堂はモノノケが現れるとムスッと顔を歪ませる。
『ほらほらそんな顔しないの。かわいい顔が台無しだゾ』
顔を真っ赤にさせ怒り心頭な訃堂が木刀を振り下ろすが、モノノケはそれをヒョイっと容易く避ける。
「降りて来い貴様! その無駄に回る口、二度と聞けないように掻っ捌いてやる!」
『え〜……訃堂ちゃんこーわーいー』
幼き日の訃堂の顔立ちは、翼とほぼ同じであった。
所謂男の娘というものであり、訃堂はそんな自分の事を気にしていた。
そしてモノノケはその事に気づいていながら、あえて揶揄っている。
『防人語を使う男の娘訃堂ちゃん、萌え〜』
「面妖な言葉で理解に苦しむが、私をコケにしているのは分かった!」
このように、二人はいつも喧嘩を繰り返し、しかしいつしかお互いに心を許し合う仲になっていた。
訃堂はモノノケに対して奇妙な友情を感じており、しかしその事を口に出す事を恥と思い。
モノノケも普段の巫山戯た様子からは考えられない程、変わらず接してくれる彼に感謝していた。
そんな日々が十数年続き──ある日突然終わる。
異国の兵器による蹂躙により、人が、地が、国が──汚された。
燃やされ汚染された土地の前で──守ろうとして、しかし守れなくて死にゆく友を抱きながら、訃堂は泣き叫んでいた。
「──」
『訃堂……』
訃堂は、この日──防人のままでは祖国を護れないと判断した。
甘さを捨てる事ができなければ、こうして友を失うと──身を以って思い知った。
故に訃堂は喜んで外道へと成り果てる。
しかしそれでも──変わらなかった想いがある。
◆
「──契りを交わした! 先達に──友に! 志半ばに倒れれば顔向けできぬわぁ!」
気迫と共に、マリアを弾き飛ばす訃堂。
絶対に倒れない。目的を遂行するという強い意志がそこにあった。
マリアはビリビリと震える腕を抑えながら、さらに波導を高めようとし──背後から肩に手を置かれる。
「代わってくれ、マリア」
「翼……」
「アイツとは──今回の失態の取り返しは、オレがしないといけないんだ」
そう言って前に出る翼を、マリアが止めようとして、そんな彼女を奏と八紘が止める。
「行かせてくれマリア」
「奏……」
「アイツの戦いを、見届けてやりたいんだ」
「俺からも頼む」
八紘は、優しい目で……父親の目で翼の背中を見た。
彼の目には、かつて自分が愛した女と重なって見えた。
「翼を信じてくれ」
「──分かったわ」
マリアは、二人の説得に頷き。
そして、翼は訃堂と向き合う。
「刻印の呪縛から抜け出したか」
「ああ」
「ふん──」
訃堂が刀を振り下ろす。斬撃が飛び、翼の髪が揺れ動き、彼女の横を通り過ぎる。
「傀儡のままで居れば、苦しまずに済んだものを」
「確かにアンタの言う通りなのかもな。今こうして立っている間にも、愛する仲間に対して申し訳なくて──死にたくなる」
──だとしても。
「オレは戦うと決めた。羽ばたき続けると決めた──オレはツヴァイウィングの翼! 防人なんかじゃない!」
「果敢無き哉! 風鳴の面汚しが──引導を渡してくれる!」
叢雲を握り締めた訃堂が一瞬で翼の前に立ち、老体とは思えない力で振り下ろす。
翼もアメノハバキリで受け止めるが、ビキリとヒビが入る。
「っ!」
「貧弱……惰弱! それで世界を守るだと? 笑わせる!」
訃堂が翼以上の速さで、技で、力で圧倒し、アメノハバキリのギアを端から削っていく。
「それでも、オレは──」
彼女は思い出す──片翼と雷光との温かい想出を。
「光彦に──誓ったんだぁぁああああ!!」
切り返したアメノハバキリから青い羽が舞い上がり、風に吹かれて翼を包み込む。
「虚仮威しよ!」
それを訃堂が一閃し──中から出て来たのは、絆を胸に刻み込んだ翼の姿。
背中から何処までも飛んでいける両翼を広げ、人を守る為の剣を構える。
──アメノハバキリ・フリューゲル。
その姿を見た訃堂は──どうしてもかつての日々を思い出す。
「──っ。惑わされぬ! 儂は──私は!」
翼が、空から上段に構えた剣を振り下ろす。その刃に全てを乗せて。
訃堂は、叢雲にこれまでの技、力を乗せる。
二つの刃が衝突し、拮抗は一瞬。
アメノハバキリが真っ二つに折れ、叢雲が翼の喉元へと迫る。
討ったと訃堂が確信し──折れた二つのアメノハバキリがクルリと回り、叢雲を砕いた。
「我が命に等しき叢雲が──!?」
訃堂が信じられないと目を見開く中、翼は宙に舞う刃を握り締め──両手に二つの剣を握り締める。
そして、まるで鳥の様に両手を広げ──。
「オレは──オレ達は! 何処へだって飛んで行くんだぁああああ!!」
翼の──否、奏と翼、そして光彦の夢の剣が訃堂を斬り裂き。
そして、訃堂は──その身に歌を刻み込まれて、意識を失った。
◆
「ぐ……」
「司令、無事ですか?」
気絶していた弦十郎は、緒川によって助け起こされていた。
目が覚めた彼が目にしたのは、捕縛されている訃堂。そして、涙を流している翼を抱き締めている奏とそれを優しく見守る八紘とマリア。
どうやら全て終わったらしいと弦十郎は安心しつつも、役に立てなかった事に息を吐き──地面が揺れている事に気づく。
それだけではない。
「なんだ、これは……」
屋敷の奥から光の柱が空へと伸びており、とてつもない力を感じる。
そして、その光から出てきたのは──。
「遺憾である。道具風情が我を使役しようなどと」
──神・シェム・ハ。
彼女は完全に自我を取り戻した状態で、弦十郎達を見下ろしていた。
「さて。先ほどは面白い話を聞いた──先ずは」
そう言って彼女が取り出したのは──三つの赤い鎖。
ある命を削って作り出したそれを、シェム・ハはその力を行使する。
すると、この世界の隣でこちらを見ていた存在に──首輪をかけた。
「そら出て来い──異界の神共よ」
グイッとシェム・ハが引っ張る動作をすると──空が割れた。
そして、そこから三体の神が堕ちてきた。
その神は屋敷を押し潰しながら地に倒れ伏し、苦しみもがむ。
「ディアアア!?」
「パルゥ……!」
「ギラァ!!」
その神達の名は──ディアルガ、パルキア、ギラティナ。
この世界ではない、遠く離れた世界に存在する──ポケモンという名の幻獣。
「我に従え」
『──』
三つの赤い鎖を使い、シェム・ハが命じると──その神達は沈黙した。
そして──驚くべき光景が広がる。
「な──!?」
赤い鎖で繋がったポケモン達は、そのまま鎖の持ち主であるシェム・ハと繋がり──そのまま彼女の体へと飲み込まれてしまった。
質量を無視したあり得ない出来事。
弦十郎達は何が起きているのか理解できず呆然とし──。
「──ブイ!」
そこに、結界が壊れた事により外に脱出できたコマチが、皆の元へと駆けつける。
そして彼の傍には、サイコキネシスで浮かばせて運ばれたイグニス達が居た。どういう訳か激しく消耗し、ぐったりしている。
「光彦!」
奏がコマチを抱き上げ、翼とマリアはそれぞれアカシア・クローン達を抱える。アカシア・クローン達は衰弱しているが、コマチの身には何も変化が無かった。
「ブイブイ!」
コマチは訴える。早くイグニス達を助ける為にSONGに戻ろうと。
彼の言う事は最もだが──今、此処には無視できない存在が居る。
「──会いたかったぞ」
そして、その存在が──音も無く奏のすぐ横に現れ、コマチを奪い取り、蕩けた顔で彼を見つめる。
「アカシアァ……!」
彼女の目は──とても熱く、深く、ドロリと濁っており。
アカシアしか映っていなかった。
コマチはその目を見て──背筋を凍らせた。
──5000年の時を超えて、神達は再会する。
◆
「ようやくこの時が来たか」
ノーブルレッドに主人と言われていた女が、バサリとフードを下ろす。
視線の先には神が降臨した事により空間が歪んだ風鳴本家。
「さて、先ずは顔を合わせよう──我と、な」
ニヤリと笑みを浮かべるのは──シェム・ハであった。
「ようやくお前を救えるぞ──アカシア」
そう言って彼女は空に浮かぶ月──バラルの呪詛を見た。
古の呪いが今、解かれる。
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