【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
「貴様! セレナ達を何処にやった!」
「何、不相応にもアカシアの力を使う奴らに相応しき地に送ったまで」
そう言ってシェム・ハは空を仰ぎ見て──マリアはそれで全て察した。
「まさか……月!?」
「何だと!?」
それに驚きの声を上げたのは錬金術師であるキャロル。
テレポートジェムは錬金術師が作り出したもの。当然用途や効果を熟知している。
だからこそあり得ないと、シェム・ハの言葉を頭が否定する。あれだけの大人数に加えロケットや大地を転送するにはたった三つのジェムでは不可能だ。
しかし、現実に起きており、つまりは──。
「神の力……!」
「ふん。あの程度造作もない──さて」
シェム・ハの体から再び赤い鎖が伸び、己の体に取り込む。
すると、場を支配していたエネルギーが霧散し、フィーネとサンジェルマン達に力が戻る。
「くそ!」
「よくも!」
三人の錬金術とフィーネの聖遺物による攻撃、さらにキャロルとマリアもそれぞれ遠距離攻撃を放つ。
しかしシェム・ハに当たる直前に空間が歪み、明後日の方向へ逸らされてしまう。
「無駄なことを──我はもう往く」
「往く……? 月にか?」
「いいや──過去にだ」
そう言ってシェム・ハは己の腕を見せつける。
そこには腕輪はない。その事にようやく気付いた彼女たちは驚愕に顔を歪める。
未来はあの腕輪により、シェム・ハに体を乗っ取られている。にも関わらずこうして彼女の意識がシェム・ハのままなのは──もう一人のシェム・ハが何かしたという事。
そして彼女はこのタイミングで過去に向かう。
時間をかけて力を取り戻し、未来でより完全体に近づく為に。
「待て!」
「待たぬ──未来で会おうぞアカシア」
それだけ伝えるとシェム・ハは──この時間軸から消え失せた。
第十三話「この今日へと 続いていた昨日を」
「はぁあああああ!」
「ぐぅううううう!」
夜空に二つの光が駆ける。
一つは、アカシアのパートナーであるエンキ。もう一つは──この星にいるヒトを怪物にしようと企む神シェム・ハ。
そして、その戦いの行く末を見守るのは──アカシア。
ギリギリとつば競り合いをするなか、シェム・ハは怒りの形相でエンキに叫ぶ。
「エンキ! 貴様、何故──何故アカシアを殺そうとする!」
彼女の頬から涙が伝い、それをアカシアは悲しそうに見つめる。
「何故もっと模索せぬ! 時は既に無いが、それでも我は諦めぬ!」
血を吐くようにして叫ぶ。
「愛した者をみすみす死なせる貴様が憎い! 何故貴様が選ばれた! 何故我が選ばれなかった!」
「……」
「答えろ! この薄情者!」
ガインっと音を立ててエンキの刃を弾き、シェム・ハは力の限り剣を振り下ろした。
しかし──エンキはそれを冷静に避けると、シェム・ハを大地に向けて蹴り落とす。
「シェム・ハ。貴様の野望は潰えた──」
「──確かに、そうかもしれないが……!」
ギラリとシェム・ハの瞳が怪しく光り、それを見たアカシアは嫌な予感がした。
「気を付けろエンキ! 彼女はまだ!」
「──だとしても! 我はアカシアと!! 添い遂げるのだ!」
不意打ちで放たれた彼女の銀の煌めきを、エンキは避ける事ができず受け止めようとして──激痛に声を上げた。
「ぐ──ぁああああああ!?!?」
「エンキ!」
「く、くははは……白銀に変わり、死ねエンキ」
しかし──エンキもまた諦めなかった。
物質変換された腕を自ら斬り落とす事で、全身が変えられる事を防ぐ。
神が神の力で斬り落とした為、彼の片腕はもう治らない。故に、シェム・ハは驚きに目を見開く。
「貴様、自ら腕を──」
「──シェム・ハァァァァアアアア!!」
天から地に堕ちたシェム・ハに向かってエンキが突っ込み──彼女の心臓に剣を突き立てる。
シェム・ハの口から大量の血が吐かれ、命が絶たれる。
「ぐ……己の腕を犠牲に命を取ったか。ならば我は──己の命を糧に未来を手に入れよう」
彼女の瞳から光が消え失せ、シェム・ハは顔をアカシアの居た方向へと向け。
「さよならだ──アカシア」
そのまま息を引き取った。
そんな彼女を、既にエンキの後ろに移動していたアカシアが、シェム・ハの死に絶えた横顔を見送った。
結局、最期まで彼女とは分かり合えず──同じ方向を向けず、視線も合わす事ができないまま……別れる事となった。
「ぐ──かはっ!」
「っ! エンキ! すぐに治療を!」
「いや、力は使うな……それよりも、早くネットワークジャマーを……!」
死に体の状態でエンキは歩き出し、それをアカシアは悲しそうな顔をしながら着いていく。
「──すまない、フィーネ」
彼が呟いた言葉を聞こえないフリをしながら。
◆
「……っ、今のは」
気絶していたセレナは妙な夢を見ていた。
エンキ。シェム・ハ。……そしてアカシア。
先史文明期の記憶だろうか? 夢にしては鮮明に覚えており、何故今この瞬間に見たのだろうと考え──直ぐにアガートラームとアカシアの力が共鳴したからだ、と理解した。
根拠は無いのに何故……?
「っ! それよりみんなは!」
気絶する前の事を思い出し、セレナは辺りを見渡して、すぐ側にクリスと響が居た事に気が付く。
「良かった、二人とも無事で……」
しかし何やら様子がおかしい。外を見て呆然と──。
「──これは」
ようやくセレナも異常事態に気づいた。
ノーブルレッドのアジトか、シェム・ハが屹立させたユグドラシルの中枢部に連れて来られたのかと思えば、思いもよらない場所に飛ばされていた。
闇の中で輝く星々。その中で青々と彼女たちに存在を示すのは──地球。
「ここは、もしかして──」
セレナ達は、月に飛ばされていた。
◆
「それじゃあ、セレナ達は無事なのね」
「ああ。フロンティアに記された情報によると月遺跡には人が生命を維持する為に空気、重力、その他諸々が完備されている。遺跡外に飛ばされない限りはな」
「その話は本当かと。月面よりギアのシグナルを発見しました」
「となると、問題は──」
如何にして月遺跡に飛ばされた装者達を地球に帰還させるか、だが……。
「ブイブイ!」
「ええ、そうですね。アカシア様であれば今すぐにでも」
アダムとの戦いを経て、コマチは神の力を保有している。
今なら、宇宙空間を移動できる個体──レックウザにも変身する事が可能だ。
しかし、その為には。
『邪魔だね、シェム・ハが。必ずするだろう、妨害を」
「それに、種子島で使役していた三体の神が居る以上、こちらもそう思い通りに行動は……」
通信越しに二代目が、そしてサンジェルマンが懸念を口にする。
あの時戦ったシェム・ハは確かにこの世界に居ないのかもしれない。しかし、あれから時を掛けて力の癒着を行ったのがもう一人のシェム・ハだ。
「それに、腕輪を二つにしたって事はパワーアップしていると考えても良いわよね」
「あまり考えたくない戦力差なワケダ」
シェム・ハ自身を抑えつつ、三体の神の相手をし、そしてこれから行われる敵の行動に対処。
どれもが対応策が無く、戦力も削がれてしまい──はっきり言ってピンチであった。
「一つ良いですか?」
そんな中、絶望の中に潜む光を模索し見つけた者が居た。
「あ、ボクから……というよりノエルからも一つ話が」
「……恐らくオレが思いついた事と同じであろうな」
皆の視線が──ウェル、エルフナイン、そしてキャロルに向けられた。
◆
「ふむ、どうやらアカシアの力に反応し、月遺跡の防衛システムが眠りついたままのようだ」
月に送ったノーブルレッドから、遺跡で起きている状況を把握するシェム・ハ。どうやらノーブルレッド達はそれぞれ別の場所に転移させられてしまったらしい。仲間と合流するよりも、遺跡のコントロールルームに辿り着くよりも敵と遭遇する方が早そうだ。
そして、シンフォギア装者達にもアカシアの力が宿っており、防衛システムに引っかからない。
思ったよりも早く衝突しそうだと彼女は笑う。
「既にユグドラシルは地球の地深くに根を張り巡らせている──怪物どもよ。アカシアを救う為に奔放せよ」
そう呟いて彼女は笑い──ピクリと体を震わせる。
「ほう、驚愕だ」
シェム・ハは己の両腕を見る。この世界の腕輪と並行世界の腕輪。
全く同じ物を、自分を依り代と強く結びつける完全聖遺物は問題なく稼働している。にも関わらず、彼女の体の奥深くにて──本来の持ち主の意識が抗っていた。
シェム・ハは意識を沈め──未来の前に現れる。
「放して! わたしの中から出て行って」
「おかしな事を言う──貴様が我を求めたというのに」
「なにを!」
シェム・ハの言葉を否定しようとし。
「アカシアに嫉妬したのだろう?」
「──」
続く彼女の言葉に閉口した。
「友を救えぬ己と違い、何故彼は? と心に闇を巣食う──滑稽だ」
「ぁ……」
「そして」
ニヤリとシェム・ハが嗤い、未来が恐れから顔を引き攣らせる。
「立花響に嫉妬しているのだろう」
今度こそ未来は押し黙った。
「強欲よなぁ小日向未来。貴様はどちらも欲し、しかし彼の者らの間に割り込めず──故に貴様はとことん我を欲した」
シェム・ハはアカシアを強く求めている。その心は凄まじく──腕輪の中で5000年もの間、アカシアな事を想い続けてその精神を擦り切らせる事なく、こうして復活させるくらいには。
「お前に代わって我が全てを手に入れてみせよう。未来もな」
その言葉を最後に──未来は意識を再び闇の中に落とした。
◆
「夢?」
「はい。おそらくアガートラームとリっくん先輩の力が見せたのだと思いますが……」
状況を確認し、落ち着いた所でセレナは二人に夢の事を話した。
今この場所で見たあの夢が、この月遺跡と無関係とは思えなかった為。
しかし情報が少く、判断に困り──突如、セレナのギアが光を灯した。
「わ!? 今度は何?」
「わたし達を導いている……?」
試しに導かれるままに歩き扉に近づくと、まるで彼女たちを歓迎するように開いた。
この先に進めという事だろうか。
不思議と罠だとは思えなかった。今までセレナと共に戦ってきた力だからだろうか?
兎にも角にも、彼女たちに選択肢はなく、導かれるままに遺跡内を進む。
そして──。
『──アカシアの遺伝子情報を確認。どうやら、彼女が語った未来に辿り着いたようだな』
「貴方は……?」
遺跡の中枢部分と思われる場所で、三人はかつての神を模したプログラムデータと邂逅する。
『オレは、エンキの人格を元に作り出されたオペレーティングシステム』
「エンキ……さっきの夢の?」
『状況は把握している──ルル・アメル達よ。どうかオレの頼みを聞いて欲しい』
彼は、響たちに告げる。
『シェム・ハからこの遺跡を守り通し、バラルの呪詛の解除を阻止して欲しい──アカシアの為にも』
彼は語り出す──シェム・ハがこれから為そうとする恐るべき行いを。
そしてバラルの呪詛の事を。
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