【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第十五話「バトンを渡しても」

 サンジェルマンが作り出したアカシア・クローン──イグニス達は少々特殊だった。

 元来、クローンは短命であり、それはアカシア・クローン達も例外ではなかった。

 キャロルは己の想い出を分け与え続ける事で延命させ、その体組織を作り変えていた。

 

 イグニス達も短命である。

 作られた当初はエネルギー不足により一週間保たないと判断されていた。

 しかしサンジェルマンはそれを自分たちとリンクさせる事で、短命の問題をクリアしていた。

 不死である彼女の存在によりイグニス達は生かされ、絆により双方に影響を与え限界を超えた力を得る事ができる。

 

 唯一無二の存在だった。

 

 故に、アカシア・クローン達が連れていかれる際、サンジェルマン達は激しく抵抗し、そんな彼女達の立場を想いイグニス達は自ら査察官達に従った。

 

 結果、訃堂に利用され未来を操るダイレクトフィードバックシステムのエネルギー源となり。

 

 目覚めたシェム・ハにより、ディアルガ、パルキア、ギラティナを使役する為の道具、赤い鎖の材料にされ。

 

 コマチに救出された時は既に──己の体を動かす事すらできなかった。

 

 再会を果たしたサンジェルマン達は──涙を流し、怒りに燃えた。

 シェム・ハ討伐に名乗りを上げたのは、彼らの為でもある。

 

 そして、イグニス達は──体力を回復させる事ができず、己の主人が必死に戦っているのを見ている事しかできない。

 それどころか、イグニス達の傷を癒す為に自分たちの魔力を渡している所為か、動きが鈍かった。

 

 イグニス達はそれが辛かった。

 このままでは自分たちは足手纏いだ。

 

 だから彼らはずっと考えていた。

 

 自分達の命の使い方を。

 

 

 第十五話「バトンを渡しても」

 

 

 地球にて激戦が繰り広げられている頃、月遺跡でも激しい戦いが行われていた。

 

「切ちゃん!」

 

 調が叫ぶと同時に、切歌はその声に反応し跳躍する。その一瞬後に地面から──否、影から狼の顎が現れ、ガキンッと空間を鳴らす。

 それに続くようにしてエルザも姿を現し歯噛みする。

 

「何故、動きが分かるでありますか……!」

「企業秘密」

 

 そう言って調は流動する銀を操り、注意深くエルザを見据える。

 

(まだ付着させた事にバレていない……)

 

 彼女が攻撃の先読みが行えているのは酷く単純なもので、ギアの一部をエルザにくっ付けているからだ。

 しかし、それでも尚、二人がかりでギリギリだ。

 切歌とのユニゾンと先読みが無ければ、無制限に行える影から影の転移により、瞬く間にゼロ距離からの猛攻に晒され続けて負けてしまう。

 だから彼女は油断できない。

 

「何故、コマチを狙うデスか!」

 

 そんな戦いの最中、切歌がエルザに問う。

 

「今まで戦ってきてこれだけは分かっているデス──アナタ達は、アタシたちと同じ様にあの子の事が好きだと!」

「……っ!」

「だから本当に分からないのデス! 何故殺そうとするのか」

「理解されようとは、これっぽちも思っていないであります」

 

 しかし、エルザは切歌の言葉を切って捨てた。

 

「全てを知った我々はこれが正しいと判断したまで──優しくするだけが、救うとは限らないであります」

「でも──」

「──確かにそうなのかもしれない」

 

 調がエルザの言葉に同意を示し、切歌がギョッとする。

 

「調!?」

「──でも、助ける為にと、正しいからと己の心を殺して、大切な人を傷つければ、必ず後悔する。……自分も、相手も」

 

 調は、キリカに対して冷たくしていた日々の事を思い出していた。

 そして──謝る事ができず、フロンティアで別れた事も。

 だから、エルザの気持ちに共感しつつも“ダメだ”と強く断言できる。

 

「──それでも、我らノーブルレッドは!」

 

 エルザが、全ての武装を解放し──その身を白銀の人狼へと変える。

 そして、その中で吠えるように叫んだ。

 

「この道を! 選んだのであります! 人に戻る道を諦め! 大切な家族と共に血濡れた道を歩く事を!」

 

 だからもう戻れない──戻ってはいけない。

 エルザは涙を流しながら悲壮な覚悟を口にすると、己の怪物の力を最大限にし駆け回る。破れた世界、影から影への道も使い、調と切歌に捕捉されない様に。

 

「だったら!」

「あたし達が!」

『──アナタ達を救う!』

 

 しかし彼女達は──獣の少女を受け止めるべく両手を広げる。そして隣の最愛の人と手を繋ぎ、ギアの力を、アカシアの力を最大にする。

 

「新緑の力よ! 此処に!」

 

 切歌のギアから、床をびっしりと草原に変える力が張り巡り、この場に居る者達全員を回復させる。

 

「敵に塩を送るなど!」

「アナタからしたらそうなのかもしれない──でも切ちゃんの力はとても優しい力」

 

 調が壁と天井に銀の力を伝わせる。

 

「だからわたしは──間違っても止めてくれる」

「──!?」

 

 突如、エルザの足が止まる──流動する銀が纏わり付き、硬質化していた。

 糸のように張り巡らせ、何度も何度も接触し蓄積させていたのだろう。

 一瞬動きを止めれば後は調の独断場だ。次々と銀が飛来し、エルザの身動きを取れなくしていく。バキバキと銀の人狼が締め付けられ、変形し──切歌の力で無理矢理回復し、さらに強く縛られていく。

 

「これは……まさか!」

 

 エルザは──既に箱の中の鳥だった。

 調が銀の刃を、調がイガリマの鎌を構え──一直線にエルザに駆け抜けていく。

 

「少しだけ我慢してくださいデス!」

「これで──終わり!」

 

 アカシア式・滅talli禍。

 

 ザババの二振りの刃がエルザを切り裂き──アカシアの力が彼女の身からギラティナの力を引き離した。

 

「……っ!」

 

 戦う力を削がれ、ダメージを負ったエルザがその場に膝をつく。

 そんな彼女に二人が近づき、エルザは──此処までかと諦めた。

 しかしそれも無理もないと理解していた。ノーブルレッドは人を殺し過ぎた。当然の報いだと。

 

 ──だから、二人が手を差し伸ばした時、目を見開いた。

 

「なんで……」

「さっきから言っているデス──アナタを助けたいと」

 

 切歌は言う。

 

「アタシは色んな人に助けられて此処に居るのデス──例え敵でも理由があるなら聞きたい。そして間違いを正し、前を向いて欲しいのデス」

「わたしは切ちゃんのついで──ああ、でも」

 

 チラリと調が見ながら言う。

 

「他人に手を差し伸ばすのは結構勇気が居る──その勇気を持って切ちゃんはアナタに手を差し伸ばしている事を忘れないで」

「──わ、わたくしめは……!」

 

 二人の言葉に、エルザは──。

 

 ◆

 

 

 地球での戦いは──人類側が優勢だった。

 神殺しを有する二人が最高戦力という事もあり、マリアと弦十郎はそれぞれ一対一で神と相対し、抑え込んでいる。

 そしてコマチは錬金術師協会組と協力し、もう一体の神と戦い気を引く。

 

 その間にキャロルとエルフナイン、オートスコアラー達がシェム・ハと未来を分離するべく隙を狙い、その隙を作る為にフィーネが前に出る。

 

「はぁぁぁぁぁぁあああああ!」

「巫女風情が! 無粋に足掻く!」

 

 ネフシュタンの鎧から繰り出される鞭による乱撃を、シェム・ハはそのままその身で受ける。そして神の力でダメージが無かった事にされ、嘲笑を浮かべる。お前の献身は無意味だと言わんばかりに。

 

「フィーネよ! 貴様、何故我の邪魔をする! 全てを知った今、抗う事こそがアカシアを苦しめると理解しているだろうに!」

「それは違う! アナタの選択は、アカシアを苦しめる! だから私は──」

「不敬な。人で無くなれば、全てが解決する。貴様の憂いも無くなる。ならば、黙し運命を受け入れよ!」

 

 両腕の腕輪から光の剣を形成し、突っ込むシェム・ハ。それをフィーネはASGARDにて防ごうとするが、片手の一振りで砕かれ、もう一振りで心臓を貫かれる。

 

「──カハ」

「便利な玩具よな。この様な致命傷を喰らおうとも死に絶えん──だが」

 

 グリッとシェム・ハが腕に捻りを加えると、フィーネは絶叫を上げながら血を吐いた。

 

「ああああああ!!」

「肉体の前に、精神が死ぬのが先か──愚かな巫女よ!」

 

 邪悪な表情を浮かべてシェム・ハが問い掛け──グッとフィーネが彼女の腕を掴んだ。

 

「ようやく──捕まえた」

「──何だと?」

「侮ったな──シェム・ハ」

 

 此処で初めてフィーネは形だけの敬意を捨て去り、ギロリとシェム・ハを睨みつけた。

 

「確かに神殺しの力でなければ貴様は殺せん──ただ、それだけだ!」

 

 壊さず、殺さず──ただ捕まえるだけなら、神の埒外の力は働かない。

 

 そして、動きを止めたシェム・ハは──彼女達にとって求め続けた大きな隙。

 

「──今だ 錬金術師共!」

 

 フィーネが叫ぶと同時に、ノエルとキャロルがシェム・ハを挟む様にして位置を取り、オートスコアラー達は至近距離で囲い込む。

 

「よくやったフィーネ!」

「これで神と未来さんを──分離できる!」

 

 錬金術の紋様がシェム・ハをフィーネ事囲む。

 それを見た彼女は、フィーネに向かって叫んだ。

 

「貴様、死ぬ気か!」

「──古より目覚めた神には丁度良かろう」

 

 亡霊が、あの世へ案内してやる。

 

「貴様ああああああ!」

「やれぇえええええ!」

 

 キャロル達の術式が発動し──二人は光に呑み込まれた。

 

 その光景を見たキャロルは──ガリィ達に叫んだ。

 

「退け! お前ら!」

 

 え? と振り返る暇もなく──極光が放たれ、射線状に居たオートスコアラー達はそれぞれ半壊しながら地面に叩き落とされる。

 キャロルとノエルも咄嗟に障壁を張り、しかし弾き飛ばされてしまった。

 地面に堕ち痛みに顔を歪めるノエル。

 

「一体何が──」

 

 彼は空を見上げ──光の中から現れたシェム・ハの姿を見て理解した。

 

「神獣鏡のファウストローブ……! あれで、僕たちの錬金術を……!」

「くそ、凶祓いか……厄介な!」

 

 神獣鏡。その光は聖遺物由来の力を掻き消す力を持つ。

 ノエルの扱うダウルダブラも聖遺物であり、キャロルのラピスも完全聖遺物キマイラ──アカシアの細胞から作り出されたクローン達の力が源だ。

 

 故に、シェム・ハの放つ光は二人の錬金術を無効化し、そして──。

 

「──カハっ」

「フィーネ!」

 

 デュランダル、ネフシュタンで何とか命を繋ぎ止めていたフィーネは、瀕死の状態で落下して地面に激突し、そのまま気を失った。

 キャロル達の錬金術を確実に当てる為に捨て身で動きを止めたのが仇となった。

 さらに、キャロル達もまた先ほどの錬金術の行使と防御で想い出の消費が激しく、一時的に出力が低下。

 

 一転して劣勢となる人類側。

 

「さて」

 

 シェム・ハは今まで相手をしていたキャロル達を無視し、離れた戦場で戦っているディアルガ達の元へ向かう。通信で状況を報告されていたのだろう。シェム・ハの姿を捉えた弦十郎達が顔を歪める。

 

「少しだけ──丁寧に、確実に、貴様らに絶望をくれてやろう」

 

 そう言ってシェム・ハは手を翳し──パルキアに力を送る。

 するとパルキアは苦しみ踠き──その身を何倍もの大きさへと変えた。

 

 ──ダイマックス。

 

 かつて操られたアカシアが行った決戦能力であり、その力は──言うまでもない。

 

「──パルキュアァァア!!」

「くっ……!」

 

 パルキアは咆哮を上げると、戦っていたアダム達を無視し空高く飛び上がる。

 移動しただけでサンジェルマン達は吹き飛ばされそうになり、何とかその場に踏み留まる。

 そして、パルキアは何かを探す様に視線を回し──何かを見つけて一点に視線を集中。

 腰ダメに構えた両手の先にどんどんエネルギーを集束させていく。

 

(いったい、何を──)

 

 コマチと共にギラティナと戦っていたマリアが疑問に思い、パルキアの視線の先を見て──気付いた。

 

「みんな! 今すぐアイツを止めて! 狙いは──」

「──ウェルか!」

『──!!』

 

 チフォージュ・シャトーを止め、三体の神の力による世界の侵食を再び行おうとしているのだろう。そうなれば戦う力を失い、世界はシェム・ハの支配に凌辱される。

 

 何としても阻止しなくてはならない。

 

「くっ!」

「させない!」

 

 弦十郎とマリアがパルキアの元へ行こうとし──その前にディアルガとギラティナが立ち塞がる。

 二人は神殺しの拳を振るうが──相手は超常の生物。確かに神殺しでダメージを無かった事にされる事はないが──ディアルガの時の巻き戻しは止められない。加えて元々体力もあり、人の力で与えられるダメージは微々たるもの。

 時間稼ぎはできるが、討伐、突破は不可能。

 

「こうなれば!」

 

 二代目がアダム・スフィアを使って黄金錬成を行う。ツングースカ級の威力を誇るが、神にダメージは与えられない。それでも攻撃を逸らす事は──。

 

「貴様、試験個体と似た力を使うな」

 

 しかし──神はもう一柱いる。

 シェム・ハが射線状に割り込み白銀の光を二代目の黄金錬成に当てる。

 金と銀の拮抗。しかしそれは一瞬で、すぐに撃ち抜かれて二代目に襲いかかる。

 

「局長!」

 

 そんな彼を庇うようにしてサンジェルマン達が立ち、三人がかりで黄金錬成を行い相殺する。

 しかし彼女達の魔力は減衰しており、表情は険しい。

 

 そして、そうこうしている内にパルキアの力が溜まった。

 

「やれ! パルキア!」

 

 シェム・ハの声に呼応し、パルキアは破壊の鉄槌を解き放った。

 一直線に空を突き進んでいく光。それを全員が絶望の表情で見上げ──。

 

「──ブイィイイイイ!!!」

 

 コマチがその光線をその身で受け止めた。

 体に宿る神の力を総動員し、「まもる」で神の一撃を受け続け──しかし、すぐに限界が訪れる。

 

「──!」

 

 出力が違いすぎる。確かにコマチは神の力を取り戻したが、その力はかつてのものと比べると儚く弱い。神の力を取り戻しても、自分の力だけで戦わず、響と融合して戦っている事からも伺える。

 それでもコマチは必死に耐えようとする。守ろうとする。──救おうとする。その命を犠牲にしてでも。

 

「ブ……イ……」

 

 しかし徐々に光の奔流がコマチのまもるを削っていき──。

 

「──ギュオオオ!」

「──バナバーナ!」

「──カメェェエ!」

 

 その前に三つの巨体がコマチの代わりにパルキアの光線を受け止めた。

 コマチは──否、コマチとサンジェルマン達は驚きに目を見開く。

 そこに居たのはメガシンカしたイグニス達だった。死にかけで動けない筈の。

 

「──キュルルア」

 

 やがてパルキアの攻撃は止み、イグニス達は力なく堕ちた。

 それをコマチが追いかけ、サイコキネシスで受け止め──しかし、メガシンカが解けた彼らを見て言葉を失う。

 存在があまりにも希薄だった。

 シェム・ハは攻撃の手を止め、コマチに心配そうに見られているアカシア・クローン達を見て口を開く。

 

「驚愕だ。まだ生きていたか──既に鎖に全エネルギーを吸収されていると思っていた」

 

 その言葉に──サンジェルマンが反応する。

 

「──どういう事だ」

「明白だ──あの赤い鎖とそこの獣らは同じだ」

 

 繋がれた命。

 

「赤い鎖が砕け散れば、そこの獣達は運命を共にしよう」

 

 囚われた命。

 

「もがけばもがくほど、主人の命を鎖に送り続ける──我が理由もなくアカシアの紛い物を生き永らえさせるか?」

 

 闇の底から這い寄る絶望。

 

「そして──これで終わりだ」

 

 ──失われる希望。

 

「もはや止められぬ」

 

 パルキアが──第二波をシャトーに向けて集束させていた。

 神を止める事は、止める事ができる者は──もう、居ない。

 

 

 

「……どうやら此処までの様ですね」

「……ええ、残念ながら」

 

 ネフィリムの侵食に顔を歪めながら、通信越しに状況を把握したウェルは──息を吐いた。

 先ほどまで絶対に生き残ると決意していたのに──そんな人の思いを神は容易く踏み躙る。

 

 それでも、諦めないのが──ウェルという男だった。

 

 

 

 

『マリアさん、お願いがあります。これから──』

「──」

 

 ウェルは通信越しにマリアに言伝を頼み、そして。

 

『すみませんね、ナスターシャ教授。付き合わせてしまって』

『──いえ。世界を救う為です』

 

 最後に二人の会話が聞こえ、そして──。

 

 

 

 パルキアが放った光線はシャトーを穿ち──完膚なきまでに破壊し。

 世界を壊し続けていた力が霧散。三体の神の力が世界を侵食し、マリア達の力が無効化。

 そして──ウェル達の持つ端末の発信源が……消え失せた。

 

 

 ◆

 

 

「──うおおおおおおおお!!」

 

 弦十郎の雄叫びが虚しく響き渡る。

 シンフォギアも、ファウストローブも、錬金術も──奇跡も無効化されてしまった。

 戦う力を奪われた者達は絶望し、天に降臨する神を見る事しかできない。

 

「さて。思いの外楽しめたぞ。貴様らの無駄な足掻きを」

 

 シェム・ハは嗤い続ける。

 シェム・ハは言葉を吐き続ける。

 シェム・ハは──シェム・ハは……。

 

「──ブイ」

 

 ──だとしても、とコマチが立ち上がる。

 皆を守るために、未来を取り戻す為に──彼は諦めない。

 その姿を見てシェム・ハは悲しそうな表情を浮かべ、しかしそれを振り切る様にしてユグドラシルへと向かう。戦う力を失った人間達にもう興味は無いのだろう。全てを終わらせる為に、力を解き放つつもりなようだ。

 対して、倒れ伏したイグニス達はコマチのその背中に希望を見出す。

 そして。

 

「リッくん先輩……そしてイグニス達」

 

 そこにマリアが──痛みを堪える様にして彼らに言った。

 

「この状況を打破する方法がある」

「ブイ!?」

 

 本当? とコマチが問い掛けると──マリアは語った。

 

「──イグニス達の命を燃やし、その力をリッくん先輩に譲渡して……全盛期の力を取り戻つつ──連動して鎖を破壊する。

 

 そうすれば──三体の神の世界の侵略は止まり、戦力が強化される。

 その話を聞いてコマチは言葉を失い、その会話を聞き取ったサンジェルマンがマリアに近づき胸ぐらを掴む。

 

「貴様! どういうつもりだ!」

「……あの三体の神は、イグニス達が作り出した赤い鎖で操られている」

「敵の言う言葉を信じるのか!?」

「わたしも波導で見た! ……確かに生命エネルギーがあなた達からイグニス達に、そしてあの鎖に流れている」

 

 マリアでも意識して見ないと分からない程に神の力で隠されていた。

 悪辣の一言に限る。

 サンジェルマンはグッと押し黙る。自分の魔力がイグニスに流れているのは感じ取っていた。しかし、治るのならと、元気になるのならと信じ、送り続けていた。

 それが──これだ。

 

「な、なんとかできないの? アカシアの奇跡──」

 

 そこまで言ってカリオストロは、その奇跡の力すら封じられている事に気づき、言葉を失う。

 

「……それでも、相棒達が死んで鎖が破壊される可能性は」

「確かに低い。それでも──アカシアが復活する」

 

 マリアがあえてアカシアと口にする。

 

「しかしこのままでは、この子達は無意味に死んでしまう。だから」

 

 ──この子達の勇気に応えてあげて。

 マリアの言葉を聞いたサンジェルマン達は──自分たちの相棒を見る。

 行かせてくれ、と目が強く語り掛けていた。

 この世界を殺したくない。未来を閉ざしたくない。──大好きな人に、明日へと続く道を歩ませたい。

 

 イグニス達は、覚悟を決めていた。

 

「ブ……ブイ!」

 

 しかし、コマチが拒絶する。

 

「ブイブイ、ブイ!」

 

 何とかするから。

 俺が何とかするから。

 だから、命を捨てるなと──生きるのを諦めるなと訴える。

 そんなコマチを。

 

「──カゲ!」

 

 ヒトカゲが、震える体で立ち上がりコマチの頬を打った。

 パシンッと乾いた音が響き、イグニスが──死への恐怖に体を震わせながら、涙を浮かばせながら叫ぶ。

 

「カゲ! カゲカゲ! カゲ!」

 

 もうこうするしかないから、お前に力を託すんじゃない。

 こうしたいから、お前に全てを任せて逝くんだと。

 此処でコマチが失う事に怯え、イグニス達の申し出を断れば──この世界のみんなが怪物になる。未来が失われる。

 だから──。

 

 友達の最期の願いくらい、聞き遂げてくれ。

 イグニスはそう言い、ジルとカメちゃんも強く頷いた。

 

「……ブイ」

 

 コマチは思い出す。イグニスとの思い出を。

 

 自分が落ち込んでいる時は真っ先に慰めに来てくれて、それでも元気が出ない時は尻尾の炎で焚き付けた。

 サンジェルマンの事が大好きで、ずっとずっと共に居たいと語っていた。

 

 コマチは思い出す。ジルとの思い出を。

 

 漫画や雑誌しか見ないコマチに、面白い本を勧めてくれたジル。

 プレラーティと過ごす静かな時間が好きで、また主人がサンジェルマンの為に努力している事を誇らしげに語っていた。

 

 コマチは思い出す。カメちゃんとの思い出を。

 

 カメちゃんは、ちょっとえっちなコマチが赤面する程の、カリオストロの猥談を語るヤベー奴だった。それでもカリオストロへの愛は本物で、響やみんなと仲良くしろよと、こちらの絆に笑顔を浮かべる優しい友でもあった。

 

 その友達が──自分に力を託して死ぬ。

 

「……!」

 

 コマチは頭が痛むほどに、悲しむ。

 彼らを死なせるのは嫌だ。それでも、この世界は守りたい。

 どうすればいい。──どうしてこうなってしまった。

 

「──私からも、頼む……」

 

 そんな彼に、サンジェルマンが──否、カリオストロとプレラーティ達もまた、コマチに頼み込んでいた。

 

「彼らの想いを汲んでくれ──頼む」

「お願い。カメちゃん達を無駄死にさせないで」

 

 一番辛い筈の彼女達の懇願に、コマチは。

 

「──」

 

 コマチは──。

 

 

 世界中でユグドラシルが屹立し、稼働していく。

 いまだにバラルの呪詛は解かれていないが──電子演算機器への侵略により、人を使わなくともシェム・ハはユグドラシルを操作、掌握していた。

 

「もうすぐ、もうすぐだ──む」

 

 その時、シェム・ハは赤い鎖からある情報を得る。

 イグニス達が死んだ。

 どうやら、彼らを殺す事で三体の神を解放しようとしたらしい。

 だが、しかし。

 

「哀れな。我が備えていないとでも」

 

 イグニス達が死んでも、赤い鎖は消えなかった。

 依然として縛り続け、シェム・ハと繋がり、世界を書き換えたままだ。

 故に、シェム・ハは気にする事ではないと捨て置き──彼方より飛来する流星に、気付くのが一歩遅れた。

 

「──キュルルルルアアアア!!」

 

──ガリョウテンセイ!! 

 

 緑色の流星はギラティナへと突っ込み──その首元にある赤い鎖にヒビを入れた。

 

「──バカな、そんな!」

 

 そして流星は──メガレックウザへと変身したコマチは友の想いを無駄にしない為にも。

 

「キュオオオオオ!!」

 

 ──く、だ、け、ろおおおおおおお!! 

 

 ──その戒めを解き放った。

 シェム・ハの鎖が一つ千切れ、縛られていたギラティナは目の色を取り戻し……そのまま世界の法則に従って出ていった。

 同時に、三体の神と形成していた世界の侵食が消え去り──戦士達が再びシェム・ハの前に集結する。

 

「何故抗う。何故救う。何故寄り添う──アカシア!」

 

 理解できないと叫ぶシェム・ハにコマチも叫び返した。

 

 ──絶対に救うと、取り戻すと……負けないと約束したんだ! 

 

 友の死で、未来を灯す為に──コマチは想いを胸に、神と相対した。

 

 

今まで出てきたグループでどれが好き?パート2

  • 博士と最高傑作(ウェルキリカ)
  • 死を灯す永遠の輝き(錬金術師組と相棒達)
  • 陽だまりと太陽(響未来)
  • 雪解けの太陽(響クリス)
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