【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
「ようやく、来たか……!」
「サンジェルマンさん。みんなも、ボロボロ……」
激戦を繰り広げたからだろう。シェム・ハと相対していた弦十郎や二代目達は疲労困憊といった様子だった。
離れた場所にはノエルとキャロル、フィーネが意識はあるものの体を起こす事ができないでいた。
「だったら!」
今まで頑張っていたみんなを癒すまで。
響とコマチがラストシンフォニーの力を行使し、過去のアカシアを呼び起こす。
──モノノケ の いやしのすず!
──モノノケ の いのちのしずく!
──モノノケ の いのちのしずく!
──モノノケ の いのちのしずく!
──モノノケ の いのちのしずく!
響の傍に草とエスパーの力を有するアカシアの幻影が現れ、この場に居るシェム・ハ以外の状態異常並びに体力を全快させる。
ノエルとキャロルの体が動き、オートスコアラー達も蘇り、フィーネの完全聖遺物も修復される。
シェム・ハを討つ為の勇士達がこの場に集結した。
「お前達はSONG本部の援護に回れ」
キャロルの指示により、オートスコアラー達が戦線を離脱する。
SONGがユグドラシルにより沈没寸前まで損壊している事は通信で聞いていた。今はレイアの妹が支えているようだが、そちらに人員を回しても良いだろう。それに、キャロルの錬金術が効かない今、オートスコアラー達は戦いに着いていけない。
悔しそうな顔をしながらも彼女達はキャロル達に想いを託した。
「何をしに来た──立花響」
「未来を取り戻しに来た」
「呪いの拳──神殺しを携えてか?」
はっと彼女が鼻で笑う。
「あの怪物共と同じ事を宣うか? 大切な者を救うには殺すしかない──そう言いたいのだな?」
「──殺さない」
「何?」
ギュッと己の拳を握り締めて、ジッと見つめる響。
絶望し復讐を誓った時、大切な者を奪われ、取り戻そうとした時。彼女はその度にこの拳で障害を打ち砕き、取り戻してきた。
しかし、一番最初に取り戻したあの時は──握った拳を開いて、手を繋いだ。
それに響はもう知っている。
「シェム・ハ──呪いは奇跡に変える事ができる」
「──」
「だからわたしは──神殺しの呪いじゃなくて、花咲く勇気で、奇跡で未来を取り戻してみる」
響は──全く屈していなかった。
迷っていなかった。この力を一ミリも疑っていなかった。
日陰と寄り添う彼女は──強い。
対して響の言葉を聞いたシェム・ハは──怒り狂う。
「呪いを奇跡にだと? 歌を力に変える貴様らが。人間である貴様らがそれを口にするのか……!」
シェム・ハから計測不可能な程のエネルギーが放出される。
それに呼応する様にシェム・ハの発する光から南極の棺から射出された戦闘機械と同様の物が無数に召喚される。ディアルガ、パルキア、ギラティナという戦力を失っても顔色一つ変えなかったのはこれが理由だろうか。
シェム・ハ自身も決戦専用の武装を携える。その巨大な模様から思わずエルフナインは叫ぶ。
まさにデウス・エクス・マキナだと。
シェム・ハに従う機械群が一斉にレーザーを放った。
「うおおおおおお!」
それを弦十郎は己の腕の一振りで吹き飛ばし。
「はっ!」
二代目はアダム・スフィアを用いて錬金術で相殺し。
「プレラーティ! カリオストロ!」
「分かっている!」
「ワケダ!」
サンジェルマン達は三人の力を合わせて防壁を築いて受け止め、その後は青く燃える龍の顎で機械群に喰らい付く。
「我が欲したのはこの星でも力でも権力ではない──愛する者の未来だ!」
翼の何処までも羽撃く斬撃と奏の雷槍が機械群を次々と破壊していく。
「我は我慢ならなかった。来る絶望に何もせず、死を受け入れる彼の者に!」
クリスの炎の砲撃とフィーネのエネルギー弾が解き放たれ、機械群の中で混じり合い、弾けて襲い掛かる。
「何故死ななくてはならぬ! 何故奴が苦しまなくてはならぬ!」
セレナのリボンとマリアの黒きマントが機械群を一か所に纏め、二人の高質量のエネルギー波が纏めて吹き飛ばす。
「我はただ、アカシアに未来へと歩んで欲しかった……!」
調と切歌のギアが一つとなり、二つの巨大な刃を形成する。そして巨大な人型が現れ、二つの刃を持つと振り回し機械群を切り刻んでいく。
「我のしている事は、彼が望まない事など百も承知!」
ノエルの弦が機械群を貫き、その弦にキャロルの錬金術が伝い、内部から破壊していく。
統一言語を失った人類が、再び繋がろうとして培って来た技術、力が、シェム・ハの神兵をどんどん駆逐していく。
アダムが足場を形成し、弦十郎が駆け抜けて拳を振りまわし。
翼と調の斬撃がプレラーティの錬金術で強化されて機械群を真っ二つにし。
マリアの波導弾とクリスの弾丸、カリオストロの光弾が次々と風穴を空けていき。
切歌とフィーネの草と茨の弦が機械群を縛り上げ、それをサンジェルマンの砲撃が飲み込み。
奏の落雷とセレナの帯電したリボンが機械群をショートさせていく。
それでもシェム・ハは止まらない。
「それでも、と! 例え憎まれようとも──我は救うと心に決めた!」
響がイグニス、ジル、カメちゃんを呼び起こし、それぞれの究極技を放ち機械群を墜としていく。
そして、響はコマチと共にとっておきの力を込めて拳を突き出し言葉を紡ぐ。
「だったら! これ以上コマチを苦しめる事は──」
「──だからこそだ!」
神鏡獣の凶祓いの光と響の神殺しの拳が真っ向からぶつかり合う。
「人が奴を殺すなら、例え奴が人に寄り添おうとも──人を殺し尽くす!」
「──っ、なんで……!」
光が拳に競り勝ち、響の肩を焼いた。
それだけではなく、シェム・ハの言葉に込められた想いに響は心を動かされ──しかし、絶対に未来を救うと空を駆ける。
「うおおおおおお!!」
「ちっ!」
高速で飛来した響の拳が、シェム・ハの光の防壁に穴を空ける。それにより、一瞬シェム・ハの動きが止まった。
それを見たキャロルが叫んだ。
「今が好機だ──行くぞ!」
その言葉に反応した奏、翼、クリス、マリア、セレナ、切歌、調。
そしてキャロル、ノエル、サンジェルマン、プレラーティ、カリオストロが飛び立ち──響とコマチと共に歌を唄い、フォニックゲインを高めながらシェム・ハに拳を突き出す。
総勢14名による、七つの旋律の挟み撃ち。シェム・ハは腕輪の力で受け止めようとするが──一つの七つの旋律をそれぞれで受け止めるので精一杯だった。
さらに響、マリア、奏の神殺しの力が徐々にシェム・ハの力を削っていき──今まさに拳が届くと思われた瞬間。
「──呪われた拳でわたしを殺すの響……?」
「──」
「──ふっ」
頭では理解していても──僅かに見えた日向の顔、声に響が臆した。
その隙を突いて、シェム・ハは纏っている巨大な武装を破壊エネルギーに変えて爆破。巻き込まれた響達は勢い良く吹き飛び、岩盤に叩き付けられる。
「人よ──いい加減眠れ!」
そしてシェム・ハは二つの腕輪を共鳴させて──全てを白銀に染め上げる光を全方向に解き放った。
咄嗟の事に動ける者は限られていて、そして大切な者を守る時──魂は呼び起こされる。
「──クリス!」
フィーネが叫び。
「──調、切歌!」
そして片方の瞳の色が変わり──キリカが大好きな人を助ける為に、フィーネと共に全てを賭けて白銀の光を受け止める。
「ぐ、あああああ!!」
「フィーネ!」
「了子さん!」
クリスと奏が叫び。
「まさか、キリちゃん!」
「もう一人のアタシ!?」
最期に聴こえたその声に、調と切歌が涙を浮かべる。
指先から徐々に銀へと変わっていくフィーネとキリカ。二人は己の最期を悟り──一言大切な人達に言葉を紡ぐ。
「クリス。あなたの成長した姿を見れて──嬉しかった。
そして、調! もう一人のあたし! 最期のちょっとだけデスけど、会えて良かったデス!」
その言葉を聞いて──三人は手を伸ばす。
待ってくれと。行かないでくれと──一緒に生きようと。
しかし二人は──。
「──愛してくれてありがとう」
これから訪れる未来を託して──白銀に呑み込まれ、砕け散った。
後に残ったのは二人だった物の破片と変わり果てた三つの完全聖遺物。
「──フィーネ!!」
「──キリちゃん!!」
「──キリカ!!」
命を賭して皆を守った巫女とホムンクルス。
しかし、それを嘲笑うようにシェム・ハが第二波を放つ。
「諦めよ」
再び白銀の光が放たれ。
「うおおおおおおお!」
それをフィーネから授かった神殺しの拳で受け止める弦十郎。
既にリミッターは解除されており、弦十郎の精神力を削っている。
「先生!」
「司令!」
「お前達……後は──」
そこで言葉が途切れ、白銀の光が消え失せる。それと同時に弦十郎は全ての精神力を使い果たし──その場に崩れ落ちた。
「まだだ」
だが──シェム・ハは止まらない。
三度目の白銀の光を放射し、響達を殺そうとする。
しかし今度は──全てのアダム・スフィアを用いた二代目が受け止めた。
「ぐ、ぬぐううううう……!」
二代目の幻が解ける。アダムの姿が保てなくなり、一人の老人が現れた。それが彼の真の姿。
醜い、とシェム・ハが見下し。
しかしそんな彼に駆け寄って魔力を供給する者たちが居た。
サンジェルマン達だった。
「お前達……!」
「何処までもお供します」
「まだ拾って貰った恩返しできていないしね」
「それに──死ぬ時は貴方と一緒にというワケダ」
四人は後ろに居る歌姫達を生かすべく──白銀の光を耐え切り、そのまま気絶した。
「──念入りだ」
そして四度目の白銀の光が解き放たれる。
それに立ち向かうのは──キャロルとノエル。二人は想出を燃やしながら黄金練成にて対抗、それどころか押し返し始めた。
シェム・ハはその光景に笑みを浮かべて口を開く。
「これを押し返すか──だが、その力、己を燃やし尽くして初めて行えるとっておきだろう?」
シェム・ハはすぐにその力の特性を見抜いた。
──それでも、と。だとしても、と。彼女達は諦めない。
『ボクだって覚悟を決めているんです! ──未来さんを助ける為に、全てを出し切って……!』
「ああ──オレも同じ想いだエルフナイン!」
エルフナインとキャロルの想いが高まり、そして──。
「──申し訳ありません。二人とも」
そんな中、ノエルは二人に謝り──黄金の輝きが白銀を押し切った。
シェム・ハのファウストローブの一部が黄金と化し、それを見届けたキャロルとノエルは──。
「取り戻せ、立花響!」
「世界を──皆を頼みましたよ、シンフォギア……!」
言葉を託して、意識を手放した。
「あああ……」
人が死に、後を託し、倒れていき──そこに広がる光景の名は。
「──ああああああああ!!」
絶望、という他ならない。
◆
フィーネとキリカが死んだ事により、クリスと切歌、調は涙を流し続け悲しみに暮れる。
弦十郎が倒れた事により、誰よりも彼の強さを知っている奏と翼が心に不安という名の闇が生まれ。
それでもと、身を挺して守ってくれた二代目達の為に、マリアとセレナが立ち上がろうとし。
響はファウストローブが解除されたエルフナインとキャロルの元に駆け寄り、抱き起こし必死に声を掛ける。
「エルフナイン! キャロル!」
しかし、呼びかけに応えない──。
「どうやらここまでのようだな」
そんな中、シェム・ハが倒れ伏した皆を見下しながら口を開き。
「──いや、これからだったな!」
ユグドラシルが稼働し、球殻からの推進噴射によって地球の公転速度が加速される。
「さあ還るのだ──五千年前のあるべき姿へッ!!」
そして起きるのは皆既月食。
バラルの呪詛が無くなった今、シェム・ハの力は問題なく全人類の遺伝子情報から屹立し──全てが一つになる。
「太陽放射による接続障害を抑制、ここに生体端末のネットワークが構築される……。
さァ──救ってみせようぞアカシアァ!! ふふふ──はははははは!!」
シェム・ハの歓喜に染まった声が響く中──響もまたシェム・ハの光に飲み込まれていた。
ガングニールに宿る神殺しの力は、シェム・ハの二つの腕輪と神獣鏡の力で無効化されてしまっていた。それはマリアと奏も同じで──彼女達の瞳からは光が失われていた。
そしてそれはマリア達だけではなく、翼達──否、全人類がシェム・ハと一つとなり、生体端末へと変えられようとしていた。
──もうダメなのか。
──未来を取り戻せないのか。
──わたしは……。
『──』
そんな中──響の耳に……否、心に何かが聞こえた。
それはとても聞き覚えがあって、同時に初めて聴くようで、心がざわつき、安らぐ。
『──俺が』
コマチの声だった。
『──俺の』
いや、違う。これは──。
『──手で!!」
──歌だ。
コマチが何とか響を、皆を呼び起こそうとして、言葉が通じなくて──最後に紡いだのは歌だった。
その歌を聞いた響の心が温かくなる。
体に、手に、拳に──力が入る。
「──聞こえる。アイツの歌が」
さらにその歌は──皆に繋がり、コマチの元へ、響の元へと帰ってくる。
シェム・ハに囚われたまま、全人類が歌を唄った──未来の為に。
「──そうだ。わたしは独りじゃない。こんなわたしを支えてくれる皆は、未来は……コマチは、いつだって側に……!」
響のギアが光を灯す。それを見たシェム・ハがあり得ないと目を見開く。
「まさか──我の言葉を介して、アカシアの歌を!?」
握り締めた拳を胸に、響が立ち上がる。
「みんなが歌っているんだ──だから!」
地球中の人のフォニックゲインが。
「まだ歌える……」
想いが。
「まだ頑張れる!」
奇跡が。
「まだ──戦える!!」
全てが響の元へ集う。
「──未来を、取り戻せる!!」
光の翼を広げて、響がシェム・ハに向かって駆け抜ける。
それを焦燥の顔を浮かべたシェム・ハが応対する。
「能わず! その拳は呪いの積層! 神殺し!」
シェム・ハがファウストローブの装飾を振り回し、武器として響を撃ち落とさんと振るい。
響はそれを光り輝く拳で弾き、前へ前へと突き進む。
「撃てば、この身を殺して殺す!」
「──殺さない!」
『──殺させない!』
響が、コマチが叫ぶ。
「──っ!?」
「わたしは何時だってこいつと歩いてきた! 呪われた過去を奇跡へと変えた! 未来を、大好きな陽だまりを取り戻す為なら──」
しかし、シェム・ハは響の言葉を認めない──認めてはならない。
「足掻くな! 囀るな! ──言葉を紡ぐな! 我が五千年の想い。アカシアと想いたいというこの気持ち! 人風情に、貴様なんぞに──遅れる道理など、ありはしない! あってはならない!」
だからこそ、とシェム・ハは響の言葉を、全てを否定し。
「『──だとしてもぉォオオオオオオオ!!!』」
しかしそれでも響は、コマチは、だとしてもと突き進む。
「わたしの想いッ! 未来への気持ちッ!! アンタの五千年の想いよりもちっぽけだと言わせるものかァああ!!」
──響の神殺しの呪いが、未来を取り戻す為の奇跡へと昇華される。
「──取り戻す」
「取り戻すんだ……」
「未来を……」
「私たちの明日を……」
歌で繋がった全人類が──たった一つの願いを。
『──この星の、明日を!』
祈りを口にする。
「きっと、取り戻すんだ……」
調が。
「それはとっても大切な……」
切歌が。
「本能が求め、叫んでいる……」
セレナが。
「──誰もが等しくある為に」
クリスが
「その手に束ねるんだ響……!」
翼が。
「旦那が、了子さん達が守ろうとした人の価値を……」
奏が。
「紡がれてきた──輝きを!!」
マリアが──未来を想って叫ぶ。
「──バラルの呪詛が消えた今、隔たりくなく繋がれるのはカミサマだけじゃない!」
この力は響だけの力ではない。
呪いの衝動に呑まれず、踏ん張り。
昨日まで、これからのなりたい自分を思い描き。
「その力──何を束ねた!?」
理解できないとシェム・ハが黒く輝く刃を振り下ろす。
「響き合う皆の歌声がくれた──」
しかし響は彼女の名の通りに、歌を、想いを、奇跡を響き合わせながら開いた手を伸ばし、刃を砕いていき、そしてシェム・ハとの──否、未来との距離がゼロになり。
「シンフォギアだァあああああああああ!!!」
強く、強く抱き締めて手を繋ぎ──その奇跡の力はシェム・ハを未来の体から追い出した。
『そんな、そんな馬鹿な──』
未来の両腕から腕輪が外れパキリと破れ──粉々に砕け散る。
『アカシア──アカシアァァアアアアア!!!』
そして、五千年から紡がれた怨念は此処に消え去った。
第十七話「神様も知らないヒカリで歴史を作ろう」
──深く、深く、海の底に堕ちていく感覚をノエルは味わっていた。
彼は理解していた。あのままではキャロルもエルフナインも記憶を失ってしまうと。
それが怖かった。自分の事を忘れ去れらる事が。
だから──彼は己の全てを燃やし尽くしてエルフナインとキャロルの負担を請け負った。
これで二人は無事だろう。しかしキャロルは流石に無傷と言わず、暫くは気絶したままだ。
それでも生きていてくれて、忘れないでくれる事が──嬉しい。
『──ノエル』
消えていくノエルの耳に──二人の家族の声が響いた。
目を開くと、こちらに手を伸ばすエルフナインとキャロルが居た。
「どうして、どうして!」
「お前、何故こんな事を……!」
二人は泣いていた。ノエルの事を想って。
彼は、その事がとてつもなく愛おしかった。
「すみません二人とも──家族に忘れられる事が怖くて」
「でも、だからって、ボク達を救う為に全てを燃やし尽くして……!」
ノエルの胸元に顔を埋めてエルフナインが泣き叫ぶ。
この戦いが終われば、無事に生き残れば──また一緒に過ごす時間があったのかもしれない。その未来を思うと泣かずにはいられなかった。
「──やっぱり最悪だ」
そんな中、キャロルが心を込めて悪態を吐く。
「家族を……失うこの感覚は……!」
「──今回は、救うことができたので、僕は嬉しいです」
ノエルは二人の頬に伝わる涙を拭い──最期の言葉を送った。
「──ありがとう。愛しき家族よ」
そして彼は光の粒となって消え去った。
彼女達はそれを強く強く抱き締めた──ノエルという優しい家族が居た事を忘れないように。
◆
シェム・ハは討伐され未来を取り戻す事はできた。
しかしそれでも──ユグドラシルは止まらない。
「世界各地にてネットワーク汚染進行中!」
「このままでは……!」
ならば──突き進むしかない。
「行こう──この星を救いに」
響、翼、奏、クリス、マリア、セレナ、調、切歌達はユグドラシル中枢部に向かって潜っていく。それはつまり地球の核に向かうと同義であり、ミシミシと重力の圧が襲い掛かる。
さらに、ユグドラシルを防衛する為のシステムか、彼女達の前に神の機械兵達が立ち塞がる。
「こんな時に……!」
「地球からの帰還。さらにシェム・ハとの戦いでこちとら満身創痍だっていうのに」
翼と奏が思わず悪態を吐く。
だとしても、進むしかない。
未来の為に。
「Rei shen shou jing rei zizzl」
覚悟を決めたその時──一つの歌が彼女達の耳に届いた。
そして天から降り注ぐヒカリが機械群を消滅させた。
彼女達はこのヒカリを知っている。この歌を知っている。
響が顔を上げて、大切な者の名を呼ぶ。
「──未来!」
「わたしはもう響の背中を見ているだけは嫌だ──だから一緒に、隣に!」
神獣鏡のファウストローブを身に纏った未来は、迷いなくそう叫んだ。
そんな彼女達に本部から通信が繋がる。
『どうやら間に合ったようですね』
「この声は、くそ助手!?」
「博士、無事だったのですね!」
通信越しに聞こえたのは、シャトーと共に死んだと思われたウェルだった。
彼はナスターシャと共に命辛々救われて、つい先程SONGと合流を果たした。
それでもネフィリムの侵食を断つ為に片腕を切り落とした為、安静にしないといけないのだが──未来の想いに応える為に、ダイレクトフィードバックシステムを設定し直し、彼女を響達の元に送った。
『調さん。切歌さん。それにクリスさん。彼女は、彼女達は……』
シェム・ハとの戦いでフィーネとキリカは死んだ。一番威力のある初撃を身を挺して防いだおかげか、弦十郎も錬金術師協会の四人も生きている。
それでも彼女達の悲しみは……。
「──言わなくて良い」
「アタシ達、前に進むって決めたのデス」
「情けない姿は見せられないから」
『──そうですか』
ウェルは強い子ども達の声にグッと堪えて、ユグドラシル攻略方法を伝える。
エルフナインが、意識を失う前にキャロルから聞いたその方法を。
『その先のユグドラシルを壊しても、他のユグドラシルがメインコンピュータとなってしまうのです』
『ですので、皆さんの歌で、フォニックゲインで──全てのユグドラシルを壊してください!』
ウェルの言葉を遮り、エルフナインが叫ぶ。
キャロルが見つけた──父からの命題の答えを。
「だったら信じよう──胸の歌を!」
「わたしも響と──みんなと一緒に!」
そして彼女達は──胸の歌を唄う。
♪ 胸に手を当てて♪
♪ 思い出すことは♪
♪ 苦しみのことや♪
♪ 涙じゃなくて♪
♪ 手を繋いだこと♪
♪ 一人じゃないってこと♪
♪ 分かり合えた日々のことだよね♪
(……バラルの呪詛。繋がりを隔てる呪いさえ無くなれば、この胸の想いは全部伝わると思ってた。だけど──それだけじゃ足りないんだ)
♪ 始まりの日から♪
♪ 終わりの今日まで♪
♪ この物語に♪
♪ 意味があったこと♪
「七つの調和……ガングニール。アメノハバキリ。イチイバル。アガートラーム。イガリマ。シュルシャガナ。そして神獣鏡──まさか了子さんは……!」
統一言語を失った彼女は、七つのシンフォギアを作り出していた。それの意味する事は。
♪ やり切ったと♪
♪ 胸を張れるよ♪
♪ みんなと会えてよかった♪
「真実を伝えられぬまま、言葉を奪われた了子さんは──あらゆる方法で隔たりを乗り越えようとしていた……!」
そしてその研鑽が、今──。
♪ 何も…… 怖くない♪
♪ いつでも太陽は昇って♪
そうして生み出されたのがノイズ、歌、様々な異端技術。
ただ繋がりたかった。想いを伝えたかったというフィーネの想いは時を経て、人類全体を繋ぐ奇跡へと昇華された。
それはアヌンナキからの脱却──人類の独立を意味していた。
♪ 生きることの辛さ楽しさ♪
♪ すべて 奇跡になる♪
奇跡が起きたのか、それとも彼女達の歌の力か。
装者達の前に──彼女達の大切な人達の現れる。
♪ ありがとう……さようなら♪
(母さん……父さん……それに──)
奏の前には父と母、そして妹が居た。
三人とも今の奏を見て笑顔を浮かべ、奏は笑顔を返しながらも涙が止まらなかった。
♪ この儚い世界に♪
(──お母様)
翼の前には凛とした女性、彼女の母が現れた。
翼の事をジッと真面目に見ていたが──すぐに優しい顔をする。
翼はその姿にニカッといつもの調子で笑って、しかし直ぐに耐え切れず久しぶりの母の姿に涙を流す。
そして光彦が奏と翼の元に現れ、変わらない笑顔を二人に見せる。
♪ 生まれて……よかった♪
クリスの前には彼女の両親とフィーネが現れた。三人ともクリスを愛おしげに見つめ、クリスはその愛に応える様に優しい笑顔を向ける。
♪ みんなと出会い繋がって♪
そんな中、フィーネの近くに寄り添うのはエンキ。彼は彼女の手を取り抱き寄せ、そして響を……彼女と融合しているコマチを見た。
♪ ありがとう……さようなら♪
マリアとセレナの元にはリッくん先輩が現れる。彼は大きく成長した二人に笑顔を向け、二人は憧れの先輩との再会に涙を流す。
そしてリッくん先輩は地上に居るナスターシャとウェル達にも視線を向けた。
♪ 振り返れば星が降っている♪
調と切歌の元にはキリカが現れる。彼女は二人の仲の良さそうな光景に本当に嬉しそうにし、上に指を……ウェルに向けて指を差し「よろしくデス」と伝えた。
♪ 飛んできた勇気の空に♪
さらに彼女達の元に魂が集う。
♪ 涙を代わりに流すかのよう♪
ノーブルレッド。イグニス、ジル、カメちゃん。イヴやキャロルの家族であるアカシア・クローン達、キャロルの父。ノエル。
♪ そう……綺麗な別れの花火みたいに♪
魂の光は再会を喜んだ後天に還っていく。
そして歌姫達が紡ぐのは──絶えない唱。
♪
♪
♪
♪
「──これがわたし達の……!」
『絶唱だぁあああああ!!!』
◆
皆の歌により全てのユグドラシルが自壊を始めた。
後は生き延びるだけ──だけ、なのだが。
「くっ……このままじゃ不味いぞ!」
「響! テレポートは!?」
「さっきの地球の公転で座標がズレてしまって……!」
つまり自力で飛び立ち、この爆発の余波から逃げ切らないといけない。
しかしギアが悲鳴を上げていく。
さらに──。
『──ああああああああ!!』
「あれは……!」
「まさか、シェム──」
闇底から飛び出してきた巨大な手に装者達は呑み込まれ──。
「何故だ。何故そこまでして諦めない──未来は絶望しかないというのに」
ふと気がついた時、響は未来、コマチと共にシェム・ハと相対していた。
そして彼女は理解できないと、響達に問いかける。
「だとしても、わたしは響と──みんなと明日に向かっていきます。そして」
「──神様の知らないヒカリで歴史を作っていく。だから──未来の絶望だって乗り越えてみせる」
「──」
諦めないその瞳を見て、そんな彼女に寄り添うコマチを見て──シェム・ハはゆっくりと目を閉じる。
「ならば──信じてみよう。人の可能性を」
そしてふっと優しく笑みを浮かべ、次にコマチを見る。
「アカシア……すまなんだ。だが、我は──」
「ブイ」
言葉を遮って、コマチがぴょんと跳びシェム・ハの肩に乗る。
そして、そっと頬に口付けを落とした。
俺の事を想ってくれてありがとう、と。頑張ってくれてありがとう、と。
その感謝は、その愛は──五千年という執着を溶かすには十分だった。
「ああ──アカシア……アカシア……!」
シェム・ハは涙を流し、そして光となって消えて──。
◆
巨大な手がそっと響達を地面に下ろした。その巨大な手は砂となって消え去り。
「っ……」
「ブイ!」
意識を取り戻した響が、顔を上げるとそこには──。
「──光」
コマチの背に輝く──未来の光だった。
響はシェム・ハとの会話を思い出し、そして最後に手を繋げた事を自覚すると。
「取り戻したんだ。わたし達の未来を──」
──響達はシェム・ハから未来を奪還した。
「皆さん!」
「良かった、無事に帰って来て……!」
SONG本部のみんなが駆け寄り、他の装者達が目覚める中──響はコマチと未来を抱き締めてその事を強く噛み締めた。
これにてXV編終わり!
今まで出てきたグループでどれが好き?パート2
-
博士と最高傑作(ウェルキリカ)
-
死を灯す永遠の輝き(錬金術師組と相棒達)
-
陽だまりと太陽(響未来)
-
雪解けの太陽(響クリス)