【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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キョダイマックスしないシンフォギア
後日談的なの


 あの戦いから数日後。

 世界各地で起きたユグドラシルによる災害に各国が力を合わせて対処している。そんな、少しだけ人類が手を繋いでいる世界になって。

 

 調と切歌、そしてクリスはウェルと共に墓参りに来ていた。

 あの戦いで砕き散った銀を墓に入れて供養している。

 

「キリちゃん……」

 

 手を合わせて目を閉じる調に、切歌が後ろから抱き締める。

 どのような形であれ、キリカの遺体が彼女達の元へ帰ってきたのは幸いであった。もし、あの戦いがなければ、どこかの国がキリカの遺体の引き渡しを要請していたのかもしれない。

 完全なるホムンクルスであるキリカに加え、三つの完全聖遺物だった物。

 研究資材としてはこれ以上ない程価値があるものだった。

 

 しかしこうして家族の元へ帰ってきた。SONGや八紘が尽力し、他の国々も彼女が人類を救った事を顧みた結果だ。

 こうして弔うことができる。キリカも……フィーネも。

 

「ウェル博士、ありがとうございます」

「いえ、礼には及びませんよ。あと博士じゃないです」

「ママとパパのお墓はあったけど、フィーネのお墓は作れなかったから」

 

 櫻井了子としての墓はあった。しかし、フィーネの墓はなかった。

 それは彼女の名が裏で知れ渡り、安易に作れなかったから。

 今はこうして櫻井了子の墓にフィーネの名を刻む事ができ──フィーネに手を合わせる事ができる。

 

「……」

 

 失った片腕は戻らず、風に揺れる袖を掴みながらウェルは思う。

 彼女達あってこそ、この未来がある。

 そして一年前に……あのフロンティアにて未来に向かって生きていくと、愛の力を信じると決意した。

 その為には何でもやると決めたし、実際にやってきた。

 それでも──。

 

(あなた達も救いたいと思うのは──傲慢なのでしょうか)

 

 寿命のない体。ネフシュタンの侵食。

 戦いを乗り越えても生き永らえるのは難しかったかもしれない。

 

 それでも。

 

 それでも──ウェルは、愛する最高傑作(キリカ)初恋の人(フィーネ)と共に、未来を見たかったと思わずにはいられなかった。

 

 今日も風が吹く。

 

 

 ◆

 

 

「すまないな、肝心な時に役に立てず」

「いや、それは良いんだけどさ……」

「先生、何でもう目覚めているの……?」

 

 奏と翼はあの戦いで気を失った弦十郎の見舞いに来たのだが──何故か既に目を覚ましていた。

 これには医者も看護婦も大混乱で急いで精密検査をし、結果は問題無し。本当に人間か疑われる中、こうして彼女達は顔を見合わせていた。

 同じ様に気絶している二代目とキャロルは目覚めていないというのに。

 

「そういえば、俺が使っていたアレは……」

「あの戦いで壊れたよ」

「でも、それはそれで良かったのかもしれないな。先生でも気絶する代物だし」

 

 弦十郎が気を失った理由は、三割がシェム・ハの攻撃、七割が籠手に精神力を奪われた為である。

 やはりこの男、人類を逸脱している。そして、奏達はその事に慣れ切っていた。

 

「折角、再び了子くんと共に戦えたのだがな……」

「……」

「……」

 

 二課時代、弦十郎達は了子のおかげで戦う事ができた。

 しかし彼女にも譲れない物があり、戦って、それでも手を伸ばして、繋がりかけて──失って。

 そして今回もまた敵対とは言わずとも、戦う理由を教えて貰えず──それでも、クリスを守ろうとした。

 

 彼女は変わっていなかった。

 

 だから──彼女が亡くなった事が酷く悲しい。

 

 病室に重い空気が漂う中、翼が口を開く。

 

「先生。オレやりたい事があるんだ」

 

 翼の語った言葉に弦十郎は目を見開き──奏は優しく笑った。

 

 

 ◆

 

 

「──有り難く招待されよう」

 

 錬金術師協会本部にて、サンジェルマンはこの場に訪れたマリアのとあるお誘いに快く承諾した。

 それが意外だったのか、パチクリとマリアは瞬きをして言葉を紡ぐ。

 

「……驚いたわ。まさか乗って来るなんて」

「ああ。正直あのような災害の後だ。多忙なのは否定しない──しかし」

 

 サンジェルマンが振り返った先では、セレナと話すカリオストロ、プレラーティが居た。

 

「……そうですか。では二代目もキャロルさんもまだ」

「二代目はあーしらを、キャロルはエルフナインを庇ったからね。……正直悔しいわね」

「助けようと思ったのに、逆に助けられたワケダ」

 

 弦十郎と違い、この二人は目覚めていない。白銀に変わる事も、死ぬ事も無かったが……それに代わる様にダメージが深い。

 今はオートスコアラー達が身の回りの世話、ならびに護衛を行なっている。

 

「全てを知っているのはあの二人だけなのに」

 

 セレナが不安そうに零す。

 ノーブルレッドがアカシアを殺そうとした理由。シェム・ハが人を怪物にし端末にしようとした目的。そして、アカシアを救おうと彼女達と敵対したフィーネ達の、最後まで語らなかった真実。

 その事を彼女達が知るのはもう少し後になりそうであった。

 

 そんな三人を眺めながらサンジェルマンが呟く。

 

「ここ最近は負担を強いて来たからな──気晴らしも良いだろう。それに」

 

 ニヤリと笑みを浮かべ。

 

「共に戦った友の頼みだ。無下にはできない」

「そう。翼達も喜ぶわ」

「ああ。……それに、あまり仕事ばかりしていると怒られる」

 

 ──今は亡き、家族に。

 

 

 ◆

 

 

 昼時のSONG本部の食堂にて。

 そこでは藤堯、友里、エルフナイン、ナスターシャ達、後方支援スタッフが集まって食事を摂っていた。偶然にも休み時間が同じであり、どうせならと同席した次第。

 藤堯はカツ丼とざる蕎麦。友里は日替わり定食。エルフナインは素麺とおにぎり。ナスターシャは肉&肉と思い思いに好きな物を食べていた。

 

「ナスターシャさん、また肉ばかり……野菜も摂った方が」

「結構です」

「しかしバランス良く摂らないと」

「大丈夫です」

「ボ、ボクの素麺を分けてあげましょうか!」

「遠慮します」

 

 見慣れた光景である。偏食家であるナスターシャの健康を気にして友里達が口出しするのはいつもの事。そしてこういう時は決まって……。

 

「私よりもミスター・ウェルや天羽奏さんの方を心配した方がよろしいかと」

『いや、まぁ、そうですけど……』

 

 菓子類しか食べないウェルと過剰にケチャップを使う奏。

 そろそろ健康診断で引っ掛かり、弦十郎の雷が落ちる可能性も──。

 

 これ以上は話しても意味が無いと思ったのか、藤堯が話題を変える。

 

「それにしても、よく無事でしたね」

 

 藤堯が語るのは、あの戦いの最中、シャトーがシェム・ハによって破壊された時の事。

 戦力がシェム・ハ打倒の為に、彼女の元に集っていた為、パルキアの一撃をシャトーが耐える事は不可能だった。ブラックナイト事件にて半壊して墜落し、その機能のほとんどを世界改変能力に回していた為、防衛能力は皆無だった。

 

 にも関わらず、ナスターシャはウェル共々生き永らえた。

 気づいた時にはシャトーの外に居り、ウェルもネフィリムに片腕を侵食されながら生きていた。

 

 その後はウェルが片腕を斬り落とし、急いでエルフナイン達の元へ駆け付け、響達に弦十郎の代わりに指示を出し、全てが終わるとそのまま気を失った。

 

 後日無理をするなと調と切歌に怒られるウェルを、ナスターシャは呆れ返りながら眺めていたとか。

 

 その時の事を思い出しながら、ナスターシャは一言。

 

「奇跡が起きた──それで良いではありませんか」

 

 その言葉に全員何も意義を唱えず──そのまま食事を終え、普段通りの日常へと帰って行った。

 

 世界の復興はまだまだ続いている。

 

 

 ◆

 

 

 ──ツヴァイウィング・復活ライブ。

 

 その情報は瞬く間に世界中に広がった。彼女達のファンは、公式からのその発表に喜びを示し──しかし、世間の目は厳しかった。

 四年……いや五年前のツヴァイウィングのライブ会場の惨劇。そして一月二十一日の十万人の人々が亡くなったライブ。

 誰もが理解している。ツヴァイウィングは悪くない──しかし、彼女達のライブに行けばノイズに殺されるのではないか? と考える者が居るのは確かで。

 復活ライブを行うツヴァイウィングに対して、批判的なコメンテーターが「遺族に申し訳ないと思わないのか」「自分たちのライブは、歌は呪われていると考えないのか?」「自粛、いや引退すべきではないか」と宣う始末。

 ネットでもツヴァイウィングを叩く者が多く、それを見た響が過去のトラウマを思い出し吐き気を催す程。

 

 しかし、ツヴァイウィングは──翼と奏は「だとしても」と力強く、輝く笑顔で言い放った。

 

 どうか、自分たちのライブを見て欲しいと。

 

 世界が大変な今の時期に、と。

 

 家族を失って悲しんでいる今だからこそ、と。

 

 そして周りの人々に様々な言葉、時に罵倒されながらも──ついにツヴァイウィングの復活ライブが行われた。

 

 会場は、かつて響が初めてツヴァイウィングのライブに行った会場。始まりの地。

 

 そこでツヴァイウィングが歌ったのは──双翼のウィングビート。

 

♪ 何処までも飛んでゆける両翼が揃えば♪  

 

 様々な人達が、このライブを見に来ていた。

 

♪ やっと繋いだこの手は 絶対離さない♪ 

♪ ……離さない! ♪ 

 

 ツヴァイウィングのライブを徹底的に否定してやろうと悪意を持って来た者。

 

♪ 惨劇と痛みの 癒えない記憶は♪ 

 

 ライブに参加しそのまま亡くなった娘を持ち、行き場を失った悲しみと怒りを胸抱いてこのライブに来た者も居た。

 

♪ 夢でも呻くほど 胸を刺すように♪ 

 

 ツヴァイウィングを心配し、自分だけでも支えようと思って来た者が居た。

 

♪ 互いの思い出の 写真は微笑みあって ♪ 

 

 誰もがライブを通して別の風景を見ていた。

 

♪ 今日の二人だけの一瞬を ♪ 

 

 しかし──彼ら、彼女達は圧倒される。

 

♪ 表すかのように ♪ 

 

 奏と翼が歌い出した途端、ライブ前に考えていた事が全て吹き飛んだ。

 

♪ 重なる ♪ 

 

 悪意も。義憤も。

 

♪ 色の違う砂時計 ♪ 

 

 悲しみも。怒りも。

 

♪ 「何故……?」と空を仰ぐ ♪ 

 

 同情も。不安も。

 

♪ 時は二度と戻らない ♪ 

 

 全て吹き飛び、残ったのは。

 

♪ 変わ ♪ ♪ らぬ♪ ♪ 過去 ♪ 

 

 興奮と感動だった。

 

♪ 囚われるのはもうやめて♪

 

 二人の歌は、人々の心に光を灯した。

 

♪ 歌が濁りを許さない♪ 

 

 二人の歌は、人々の心に希望を届けた。

 

♪ 両翼だけのムジーク♪ 

 

 二人の歌は──ツヴァイウィングの歌は何処までも羽撃き、人々に未来(あした)に向かっていく温かな気持ちを植え付けていく。

 

♪ 空が羽撃きを待つよ♪ 

 

 もうこの会場にツヴァイウィングを敵視する者も。

 

♪ 逆光の先へと♪ 

 

 心配する者も居なかった。

 

♪ 天へと ♪  ♪ 鳴らし ♪ 

 

 ただそこには歌に魅了された──

 

♪ 伝え合う ♪  ♪ シンフォニー ♪ 

 

 彼女達の歌に救われた人達が居た。

 

♪ 「聞こえますか……?」♪ 

 

 涙を流し、ケミカルライトを振り回しながら。

 

♪ Singing heart ♪ 

 

 人々は一つになる。

 

♪ 運命なんて ♪  ♪ ないことを♪ 

 

 それはきっと彼ら人間が持つ。

 

♪ この奇跡で示せ♪ 

 

 小さな──とても小さな、そして強い奇跡なのかもしれない。

 

「みんな、今日は来てくれてありがとう!」

「オレ達はこれからも歌っていく! どこまでも! いつまでも!」

「だってあたし達は──」

 

 歌がこんなにも大好きなのだから。

 

 ツヴァイウィングのその言葉に観客達は拍手と喝采の声で祝福し──さらにはその後数時間、延長してライブを楽しんだ。

 永遠にこの時間を過ごしたい、そう言わんばかりに。

 

 

 ◆

 

 

「──凄かったね」

「うん……奏さんも翼さんもカッコ良かった」

「ブイ」

 

 ツヴァイウィング復活ライブを観終わった後、響、未来、コマチは近くの公園に寄り道をしていた。

 今回のライブにはSONGの皆や錬金術師協会の人達と一緒に観に行った。その後は本部にて打ち上げの予定なのだが──ただ何となくこうして三人で芝生の上に横になり、夜空を見上げている。

 

「響……コマチ。わたし、二人に伝えたい事が」

「──わたしも、ある」

「──え?」

 

 上体を起こした響が、未来とコマチを見て──優しい笑顔を浮かべて言葉を紡ぐ。

 

「この伝えたい想いが一緒なら……。未来。コマチ。わたしね──」

 

 ──風が吹き、三人を優しく包み込む。

 響の言葉を聞いた未来とコマチは──照れつつも彼女を真っ直ぐに見つめて頷いた。

 

 まるで心が繋がっている様に。

 

 

 

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