【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
「かつて、ノーブルレッドは我が本部に侵入しある物を盗んだ――アカシア・クローンだ」
錬金術師協会は、パヴァリアとの戦いの後、結社が保有していたアカシア・クローンを回収していた。他にも裏に出回っていた物も回収し、保存、ゆくゆくは治療を試みていた。
しかし、神の力を有していた彼女達により全て強奪されてしまい、協会設立以来の大失態であった。
一つだけでも戦場を支配できる巨大で……暴れていないと自壊してしまう悲しき力。
故に、彼女達は一刻も早く取り戻したかった。
「初めは、風鳴訃堂が隠し持っているかと思いましたが――結果は白。この件に鎌倉は関与していませんでした」
緒川の言う通り、訃堂はノーブルレッドにアカシア・クローンに関する命令は出していなかった。唯一捕らえ、利用したのはイグニス達のみ。
かと言ってシェム・ハが使用、保有していた様子はなく、アカシア・クローンの行方は不明なままだった。
ノーブルレッドの行動を調査していた際に、ある団体が浮上するまでは。
「ノーブルレッドが支援を受けていたのは鎌倉だけではなかった。鎌倉以外にも、彼女達に力を貸していた存在がいた」
アカシアを殺す為に、救う為に動いていた彼女達を影から支え、そして操ろうとしていた団体。その名は――。
「アカシック教。一国に必ず信者が居ると言われている。米国でも手が出せない宗教団体だ」
アカシック教。奇跡と救いの神を信仰する世界的に有名で、しかし過激的な規律、思考故に、知っているけど関わりたくないと言われる宗教団体。
彼らの意思に背けば、国に潜んだ信者が工作し国崩しが行われると根強い噂がある。かつて、マリアの扱いに口出ししたのもこの宗教団体であり――この時に弦十郎達は、彼らが信仰する神の存在を認識した。
アカシアの記録――アカシック・クロニクル。アカシックレコード。
少し考えればすぐに結びつく安直な名前。
「アカシア・クローンは、彼らにとって許せない存在だろうな」
「信仰する神のクローンだから。どうやら協会が保有していたクローン以外も独自に回収していたらしい」
弦十郎の見解に頷きながら、サンジェルマンは新たに分かった情報を彼に伝える。
そして、世界各地に存在する信者が動きを見せているらしい。巧妙に偽装しているが、とある場所に集合している。
もう少し調査をすれば、現場を抑える事ができる。
SONGは錬金術師協会と連携して、アカシック教の企みを探り、場合によっては武力行使をする事になっている。国連もかの団体の動きに警戒しているらしく、先日正式に命令が下された。
「世界が平和に向かって歩み出しているんだ――倒れていった者達の為にも」
「ああ。あの力を集めるなど碌な事を企んでいない――共に戦いましょう」
弦十郎とサンジェルマン達は決意を胸に未来に向かって歩き出す。
◆
「そういえば、そろそろアタシとコマチの誕生日が近いデスね」
「ブイ?」
3月の下旬。ふと切歌が思い出したかのように呟き、コマチが反応して首を傾げる。
「まぁ実の所、アタシの誕生日も本当に4月13日なのかは分からないのデスが――コマチは響さんと初めて会った日を誕生日にしたのデスよね?」
「ブイ!」
「まぁね。こいつに聞いても分からないって言うし」
「コマチは何度も生まれ直しているから仕方ないと思う」
調の言葉に皆が頷く。
それでも誕生日に祝うことは大切な事。その人に生まれて来てくれてありがとうと、感謝を述べる事ができる特別な日。
彼女達はその日を楽しみに、大切にしている。
「アタシ楽しみにしているデスよ! 皆さんからのプレゼントと美味しい食べ物!」
「全く切ちゃんったら」
ちなみにいつも去年の誕生日はウェルと調が張り切りすぎてしまい、彼らの後に誕生日を渡す者達が萎縮したとかなんとか。
切歌の言葉に皆が苦笑しつつも楽しみにしておいてくれと言い。
「ブイブイ!」
俺は祝ってくれるだけで良いよ! とコマチが言うと。
響がギュッと強く抱き締めてお仕置きをしながら言った。
「またアンタは遠慮して……前回の誕生日もなかなかプレゼント受け取らないし」
何故かコマチは、照れているのか自分の誕生日を嫌がる。
照れているのだろうか?
それとも一年経つ前に死に次に移るため慣れていないせいか。彼は己の誕生日にどこか否定的で、響はそれが気に入らないので全力で祝う。
「ブイブーイ」
「全く……自分は他の人の誕生日を全力で祝う癖に」
「その辺は光彦の時と変わらないな」
そう言って奏は首元に掛けている赤い翼のネックレスに触れる。
これは、初めて彼女が貰った彼からの誕生日プレゼント。
常に身につけており、翼も青い色違いを付けている。
「わたしも貰いましたねー。小さい頃と最近にも」
「ええ、そうね。リッくん先輩はそういう所マメだから」
そう言ってセレナは銀色のイヤリングを、マリアは紺色のリボンに触れる。
調も部屋にあるおしゃれ用のピンクのメガネを思い出し、切歌もお揃いの緑色のおしゃれ眼鏡を此処ぞとばかりに取り出す。
「でも、時々え、えっちだよね」
そう言ってクリスは顔を赤くして自分が身につけている赤くてアダルティな下着を思い出す。
響の抱き締める力が締め落とすレベルまで進化した。
なお、クリスにはちゃんとした物も渡されている。
「はは……コマチらしいよね」
そう言って未来は自分が貰った紫色のマフラーを見て、次に響の髪留めを見る。それは、コマチと未来が選んだ物。渡して以来、響はいつも付けており、彼女は嬉しく思った。
「で、結局どうするの。今回の誕生日」
お仕置きを終えた響が解放しながらコマチに問う。
それはいつもの光景だった。
なかなかプレゼントを受け取らないコマチを、響が説得に説得を重ねて、彼が根負けし、いつも頼むのは――。
「……ブイ」
歌って欲しい。と彼は少し照れ臭そうに頼む。
この時だけは、彼は遠慮せず、言い訳をせず、本音で求める。
音痴で歌を唄うのは苦手だが――彼は歌が好きだ。
特に皆が唄う歌は好きで、誕生日の時に彼女達が唄うと目を輝かせて子どものように喜ぶ。
そして、みんなは……響はそれが。
「まったく仕方ないな――期待しておいてね」
その喜んだ顔を見るのが――何よりも大好きだった。
太陽のように、花が咲いたようなコマチのその笑顔が。
だから彼女達は、彼を喜ばせる為にこっそりと猛特訓をする。ツヴァイウィングの二人もライブ並みに、いやそれ以上に熱心に練習する。
全てはコマチに喜んで貰うために。
◆
「バラルの呪詛は解かれた――それは何を意味する?」
闇の中で、一人の男が言葉を紡ぐ。
まるで踊るように、歌うように。
彼は待ち望んでいた。はるか昔から、先祖の血を、想いを引き継いで。
故に狂喜した。己の代で――アカシアの望みが叶えられる事に。
五千年。五千年掛かったのだ。忌々しきエンキの手によりバラルの呪詛が施され、彼らが信仰する神の力が阻害され――最後の審判が実行されない事に。
しかし予言の通りに事は起きた。
巫女による月への一撃。堕ちた巨人による引き寄せ。フロンティアによる軌道修正。力の覚醒。そして、シェム・ハの復活と討伐――全人類が歌で再び繫がった事。
全てが――アカシック教の予言書に書かれていた事。
「それにしても――キャロルも二代目もフィーネも。愚かな人達だ」
男が吐き捨てる様に呟いた。
「我々の差し伸べた手を払い除け、あまつさえ我が神の意向に叛く等」
怒りを堪える様に呟いた。
「だから無駄に無様に死ぬのだフィーネ。貴様のその死は罰だ。我が神の意志を受け入れなかった愚かさが招いた種だ」
彼はフィーネの死を侮辱する。
「シェム・ハもだ。自分よがりに我が神を苦しめ――同じ神なら寄り添うべきだった」
アカシアを想ったシェム・ハを軽蔑する。
「シンフォギア。錬金術師協会……最大の障害であるキャロルと二代目が動けないのは不幸中の幸いだが……まだ厄介な者たちが居る」
現状、彼が特に警戒しているのは風鳴弦十郎。マリア・カデンツヴァ・イヴ。そして――立花響。
「まぁ――準備が整った今、全てが些事よ」
彼が振り返ったその先には――この地球上に存在していた全てのアカシア・クローン達。皆が苦しんだ顔を歪めているが、男は気にしない。
「――さぁアカシア様。五千年前の続きを始めましょう! もう待たなくて良いのです!」
最後の審判だ。と彼はこの場に集った全ての信者を見下ろす。
「アカシア様に幸あれ!」
――アカシア様に幸あれ!
「アカシア様に栄光あれ!」
――アカシア様に栄光あれ!
「アカシア様に未来を!」
――アカシア様に未来を!
熱に浮かされた信者たちの声は――山奥の教会に響き渡り続けた。
まるで――呪いの様に。
◆
『――そうか。シェム・ハが死に、バラルの呪詛が解除されたか』
世界の境目にて、時間も空間も反物質も無意味と化す異空間――超克の時空にて。
ディアルガ、パルキア、ギラティナは――コマチ達の世界で起きた事、起きている事全てを話していた。
その報告を聞いたあるポケモンは――瞠目し、思案し、残念そうに呟いた。
『そうか……そうか』
彼は悲しそうに目を伏せた。
『アカシアは――私との約束を守れなかったのだな』
ならば。
『約束の時だ――裁きを与えよう』
その言葉を残し――そのポケモンはコマチ達の世界へと向かった。
全てを終わらせる為に。
◆
今日も一日が終わり、響ちゃんとベッドに横になって待っていると俺はふと思い出した。
ねぇねぇ響ちゃん。最近お父さんの所に帰っていないけど大丈夫?
「……うん、大丈夫。電話で連絡を取っているし。というか、暫く帰らないでくれって頼まれたし」
「ブイ?」
え? なんで? どういう事ですか?
あいつまた変な事言い出したの? 俺のモフモフ尻尾鋼鉄化させて叩いてあげようか?
「物騒……いや、なんかサプライズするからって」
「……」
「……」
「……ブイ?」
サプライズするのに本人に教えたら意味無いんじゃ……?
「まぁ、アンタが考えているような悪い事じゃ無いから安心して。ほら、寝るよ」
そう言って響ちゃんは電気を消してベッドに入り、俺を抱き寄せる。
もうすぐ四月とはいえまだ肌寒い。俺を抱いて寝ると温かくて安眠できるとか。モフモフ最強かよ。
「……コマチ」
「ブイ?」
「アンタは誕生日を祝福されるの嫌がるけどさ――ちゃんと祝いたいんだ、わたし」
「……」
「わたしはアンタに救われた。……でもわたし素直じゃないからさ、こういう日じゃないと素直に想いを伝えられないから。だから」
「ブイ」
響ちゃん。
言葉にしなくたって通じてるよ。
「……」
いつも一緒に居るから何となく分かるんだ。
いつも君の歌を聴いているから分かるんだ。
お日様の様に温かい君の想いが、いつも俺に元気と勇気を与えてくれる。
でも、大好きな響ちゃんに言われたら、俺も意地張っていられないな。
「コマチ……」
誕生日、楽しみにしているね。
俺が言うと、響ちゃんは優しい笑顔を浮かべて俺を抱き締めると。
「ずっと一緒だよ――コマチ」
そう囁いて――そのまま静かに眠った。
俺も響ちゃんに続くように眠りについた。
こんな日々がずっと続く事を祈りながら。