【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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この最終章を考えてる時エジソンは出てないので彼らの出番は無し


第八部 戦姫絶唱シンフォギア LOST SONG編
第一話「君ト云ウ音奏デ尽キルマデ」


「ブイブーイ!」

「空気が美味しいデス!」

 

 風が優しく吹き、草原が揺れる。そんな心地よい空間をコマチと切歌が走り回っていた。

 そんな彼女達を見守る響達。

 

 今回彼女達は、アカシック教の調査並びにアカシア・クローンの保護を目的にこの国の片隅の田舎にやって来ていた。

 アカシック教の教会は山奥にある今現在も多くの人間が集まっている。しかしすぐに強襲をする事はできない。そんな事をすれば保護対象であるクローン達が使われる可能性がある。

 よって、錬金術師協会と国連のエージェント達が包囲網を築きつつ、主力である響達は村人を装いひっそりと近づき、今夜突入する予定となっている。

 

 そして現在、事前調査でアカシック教とは全く関係の無い田舎の村でお世話になる事となっていた。今夜突入時には二手に分かれて残る装者達とエージェント達が避難誘導を行う予定となっている。

 なるべくアカシック教を刺激しない為の措置であった。

 

「それにしても本当に大丈夫か? 今からでも避難させた方が」

 

 ライブ事件の事があるからか、奏が心配そうに呟く。

 それを翼が安心させるように言った。

 

「大丈夫だって──絶対に守り通すから」

 

 もう、あの日の惨劇は起こさない。

 安全を考慮すれば今すぐにでも、奏の言う通り避難させた方が良いだろう。人質にされ、殺されれば後悔しかない。

 しかし、彼らにもまた暮らしがある。こちらの都合を押し付けるには酷な話だ。だから、村の人たちの為にも、クローンを助ける為にも、翼は全力で守ると決めていた。

 

「……」

「ブイ!」

「ん、おかえり」

 

 その光景を響が黙って見ていると、走り回っていたコマチが帰ってきた。向こうでは派手に転けた切歌を調が助け起こしに行っていた。

 呆れため息を吐く響の肩にコマチが飛び乗り──そんな彼女達に強い視線を送る者が居た。

 

「わー……!」

「君は……」

「その子、かわいいね!」

 

 小さな女の子が目を輝かせてコマチと、そしてそんな彼を慣れた様子で肩に乗せる響を見ていた。

 少女はとててて……と響に近づくと、彼女を見上げながら一つお願いした。

 

「その子、触らせてください!」

「ブイ!」

 

 良いよ! とコマチが元気よく返事をした。

 本人が良いと言っているなら良いか、と響はコマチを抱えると地面に下ろす。すると少女が恐る恐るコマチに手を伸ばし、頭を撫で、次第に毛並みを堪能する様に触り始めた。

 

「ふわふわ〜……!」

「ブ、ブイ!」

 

 この子割とテクニシャン……! とコマチが悶えているのをジトっと見つめていると、少女が響に問い掛けてきた。

 

「おねーさん! この子のお名前は?」

「……コマチ」

「コマチ……! 不思議なお名前! でもかわいい!」

「ブイ!」

 

 余程気に入ったのか、少女はギューっとコマチを抱き締めた。コマチもされるがままで、少女の抱擁を受け入れペロリと頬を舐める。

 それに少女はキャッキャッと喜びながらますますコマチを抱き締める力を強くする。

 微笑ましい光景だ。響は思わず優しい笑みを浮かべて見守り、そんな彼女に後ろからこっそりと近づいたクリスが一言。

 

「……嫉妬しないの?」

「アンタわたしの事なんだと思っているの?」

「だって、普段わたし達がコマチと遊んでいたら、物陰から凄い目でこっちを見るから」

「それは……!」

 

 カァ……っと頬を赤くする響とそんな顔も可愛いな〜と内心萌えているクリス。図星を突かれてアタフタしていた響は言葉を口走る。

 

「だって、アンタ達がコマチをイヤらしい手つきで触るから」

「子どもの前で何言っているの?」

「この前だって『……コマチも男の子なんだ』って眺めてたじゃん……」

「ちょ、おま!?」

 

 慌ててクリスが響の口を塞ぐが時既に遅く、少女がコマチを抱き締めたま不思議そうな顔で二人を見つめ。

 

「コマチ男の子なの? どうやって分かったの?」

『──』

 

 遠くでその光景を見ていた翼が笑いすぎて咽せて、奏に飽きられていた。

 

「いや、その……」

「ナニというか……ナニがナニだから」

「ブイ」

 

 下品、とコマチがピシャリと言葉で跳ね除け、響達は顔を赤くしながら反省をする。

 翼は過呼吸になり、マリアが掌底を叩き込んで治療をしていた。

 少女はよく分からないとコテンと頭を傾げながら、その話題に飽きたのか響たちに問い掛ける。

 

「おねーさん達、今日は村に泊まるの?」

 

 小さな村だからか、ちょっとした変化もすぐに村人達に伝え渡る。

 響は少女の言葉にコクリと頷くと、少女はパァッと顔を輝かせてとある提案をする。

 

「じゃあ、わたしのお家に来ませんか! お父さんのお家凄く広いからたくさんの人が泊まっても大丈夫なんだよ! それにそれに! わたしもっとコマチと遊びたい!」

「ブイブイ!」

「えっと……」

 

 コマチが何も考えず賛成! と叫ぶ中、響はどうしたものかと悩む。

 宿は既に取っており、泊まるところも決まっている。

 響の一存では決められず、チラリとマリアへと視線を向ける。

 すると、ピクピクと痙攣し息を吹き返した翼の治療を終えたマリアが、その視線に気づき響達の元へ歩いて来た。

 

「どうしたの?」

「実は……」

 

 事情を説明する響。話を聞き終えたマリアは少女と目線を合わせようと屈む……必要が無く、そのまま向き合い彼女に尋ねた。

 

「あなたのお父さんはあの村の村長さん?」

「うん、そうだよ!」

「……」

「どうしたの?」

「いえ、何でもないわ……」

 

 同い年か近い年齢だと思われているのだろうか。少女のその反応にマリアが渋い顔をしつつも話を続ける。

 ちなみその光景をセレナが愛おしげな表情を浮かべながら端末で写真、動画を撮っていた。

 マリアは少女の返答を聞くと、ふわりと優しい表情を浮かべながら言った。

 

「良かったわね。今日泊まらせて貰うのは、あなたのお父さんのお家なの」

「本当!?」

「ええ、本当よ」

「やったー! コマチ、たくさん遊ぼうね!」

「ブイブイ!」

 

 コマチは少女と一緒になって喜び、それをセレナが(以下略。

 

(そっか。そういえば村長には話を通しているって……)

 

 今回避難誘導を予めしなかったのもその村長の頼みあってのものでもあった。先ほど顔合わせの際にこの少女が居なかったのは席を外していたからだろうか。

 そんな事を考えていると他の者達も話を聞いて集まってきた。

 

「それじゃあ自己紹介しないとな。お世話になるのだし。あたしは天羽奏。で、こっちが──」

「オレの名前は風鳴翼。よろしく頼むよ──小さなお姫様……?」

「ふぁ……!」

 

 少女が二人を見て、興奮した様子で彼女達を見つめた。

 

「わたし、知ってる! ツヴァイウィングのカナデさんとツバサさん! この前来た旅の人が二人のお歌を教えてくれて、凄く綺麗で、ポワポワして、えっとその、大好きです!」

「お、こんな所にもアタシ達のファンが居たのか」

「それは何とも、光栄だな。うん、嬉しい」

 

 少女の言葉にツヴァイウィングの二人が照れつつも嬉そうにした。

 少女の目はとてもキラキラと輝いており、興奮し、二人に会えた事を心の底から喜んでいた。

 

「今日の夜……は難しいから、明日アタシ達の歌を聴かせてあげるよ」

「ホント!?」

「喜びなお嬢様? たった一人のファンの為のファンサービスだ。こんな豪華な事はなかなか無いぜ?」

「わー! 楽しみ! 約束だよ!」

 

 少女の純粋なその反応に思わず微笑むツヴァイウィング。やはりこうしてファンの心の込もった言葉と反応は、彼女達の胸に光を与える。

 

「アタシの名前は暁切歌と言うデース! よろしくデス!」

「月読調……別にわたしはよろしくしなくて良い」

「ちょっと調!」

 

 元気ハツラツに挨拶と自己紹介をする切歌に対して、ダウナーにマイペースな自分を崩さない調。しかし流石に年下の、それも幼い少女にその態度はいただけないのか、注意する切歌。

 

「あ、気にしないでください! 人の性格は人それぞれですからね! でもわたしは調さんの事をしっかりと覚えておきます!」

「──」

「幼女に徳の高さで負けてるデスよ調!?」

「幼女言うな」

 

 打ちのめされる調と焦る切歌。

 そんな二人に呆れつつ、マリアが自己紹介する。

 

「わたしはマリア・カデンツヴァ・イヴ。よろしくね」

「うん、よろしくー!」

「……」

「……?」

 

 見た目の都合上仕方ないが、やはりマリアは少女から同い年くらいに見られていた。マリアの外見年齢は10歳で止まっており成長も遅い。入学する際に切歌達と同学年なのもギリギリだったりする。とても22歳には見えない。

 しかし、マリアはその事を語らず、グッと堪えて笑顔を浮かべた。その健気な姿にセレナは萌えつつ自分も自己紹介する。

 

「わたしはセレナ・カデンツヴァ・イヴ。この子のお姉さんです」

「!?!?」

 

 しかしセレナの言葉はいただけないのか、グリンと振り向いて凄い顔で彼女を凝視するマリア。

 

「よろしくお願いしますセレナおねーさん!」

 

 しかし無情にも受け入れられ、マリアはセレナの妹と認識されてしまった。

 その姿を事情を知る装者達はどんまいと思いつつも、訂正する事なく見送った。

 

「雪音クリス。よろしくね」

「……立花響」

「もう、響っ。そんな無愛想な」

 

 クリスと響も自己紹介するが、照れているのか何処か素っ気ない。

 そんな彼女の反応にクリスが呆れながらも、少女に本当は優しい子だと伝える。

 

「ごめんね? こういう性格なの」

「アンタはわたしのお母さんか」

「だって未来に頼まれているし……」

「ったく……クリスも未来も心配し過ぎ」

 

 そう言いつつも悪い気はしないのか、見えない所で頬が緩んでおり。

 しっかりとそれを見ていたコマチがニヨニヨと微笑ましそうに見て。

 それに気づいた響が、頬を赤く染め上げながらジトッとコマチを睨んだ。

 その光景に少女はクスクスと笑い、みんな仲良しなんだなと理解し、嬉しく思い、笑顔を浮かべて自分の名前を元気よく口にした。

 

「わたしの名前はエレオノーラ! エルって呼んで!」

 

 どうやら彼女の村の居る者達は、親しみを込めて彼女の事をエルと呼ぶらしい。

 少女は──エルは響達に向かって光輝くような、明るい笑顔でそう言った。

 

 

 ◆

 

 

 エルに連れられて村に戻ってきた響たち。

 道行く人たちがエルを見かけると声を掛け、旅人である響達にも気さくに話し掛けていく。

 

「エルおかえり! 今日も草原の所に行ったのか?」

「相変わらず元気ねエル」

「お、エルその動物は何だ? 可愛いな」

「あら、その人達はお友達? みんな可愛いわね」

「旅の人! 良かったらこれを持って行ってくれよ! あまり物だが味は落ちていない。美味しいぜ?」

「お、村長の宿に泊まるのか? あそこは良いぞ? 何せ村長は料理の達人だからな! 今夜は楽しみにしていてくれ」

「エルゥ! しっかりとご案内してあげるんだぞ!」

 

 先ほどは村長と少しだけ話し、荷物を置いて調査の為にすぐに村を出たが、こうしてゆっくりと歩いていると、この村がどれだけ居心地がよく、住んでいる人間が優しいのかが良く分かる。

 来て数分だが、装者達はこの村が好きになっていた。

 

「良いところだな」

「ああ、そうだな」

 

 エルもこの村とここに住む人たちが好きなのか、元気な顔で手を振り、掛けられる言葉一つ一つに返事をしていた。

 

「最近ちょっと元気がなかったけど、良かったな」

「でも仕方ないさ。何せ……」

「おい、聞こえるぞ。それに」

「あ、ああ……悪い。あの子だけじゃ無いよな」

 

「……?」

 

 だから、歓迎の言葉に混じるエルを心配する言葉とそれに続く会話に、マリアは違和感を抱いていた。

 

 

 

「やぁ、お帰りなさい。おや、エルも一緒だったか」

「パパ!」

 

 エルはコマチを響に渡すと、自分の父に飛び付いた。

 彼女の父は愛する娘の行動に苦笑しつつしっかりと受け止めて抱きかかえた。

 その光景を見ながら切歌と調がコソコソと話す。

 

「さっきも思いましたけど若いデスよね」

「うん。村長って言ったら歳を取った中年男性が普通だから」

「前の村長は、二ヶ月前に亡くなりまして……」

『!!』

 

 聞かれていたとは思っておらず、村長の言葉にピクリと反応を示す調と切歌。そんな二人にため息を吐いて呆れるマリアと、すみませんと謝るセレナ。

 村長は気にした様子は見せず、事情を説明した。

 

「そこで妻が代わりを務めましたが、その妻も先週……そこで入婿ですが、私が村長になりました。村の人たちの助けで何とかなっている未熟者ですが……」

「……」

 

 少しだけエルが寂しそうな顔をする。

 しかしそれも無理もない話だ。まだ幼い時機に祖父と母を立て続けで亡くしているのは──少女にはあまりにも酷だ。

 それでも普段明るく過ごしているのは、父の愛情と村の人たちの優しさのおかげだろうか。

 エルはすぐに笑顔を浮かべると「全然大丈夫だよ!」と言い、父親の腕の中から降りると、コマチを響ごと連れて自分の部屋に案内する。

 

「夕ご飯まで時間があるから遊びましょう! 良かったら皆さんも!」

「ブイブイ!」

「わたしは強制か……」

 

 連れて行かれる響達を他の装者達も追いかけ、村長も娘をよろしくお願いしますと笑顔で見送った。

 しかしマリアだけは残り、彼に尋ねた。

 先ほど来る途中で聞こえた会話と事前調査で気にかかっていたある事を。

 

「この村は少し前に流行り病でもあったの? 何人か亡くなっているようだけど……」

「……それは」

「話は先ほどした通りです。協力感謝しています。必ず守ります。だから、少しでも気になる事があるのなら」

「……正直分からないのです」

 

 村長は語る。

 二ヶ月前から、年配の方から徐々に亡くなり始めた。

 しかし原因は病死ではなく老衰。緩やかに苦しまず、最後は遺す家族にお別れの言葉を紡いで逝っていく。

 それだけを聞くと、最も幸せな死に方だと思うだろう。

 

 だが、村長は違った。

 

「死んだ人達は──一度元気になるのです」

「元気に?」

「ええ。足が悪かった者は歩ける様に。耳が聞こえなかった者は聞こえる様に。中には寝たきりの方も居ましたがある日突然元気になり村の中を走り回る事も。さらに認知症を患っていた者もそれが治り、家族と幸せな時間を過ごしていました」

 

 ──しかし。

 

「その者達は例外なく死んでいます。悔いが残らない様に短い時間を愛する者と過ごした後に」

「──」

「妻も最期は笑って逝きました。泣きじゃくるエルに『すぐに会えるから。良い子で居てね』と言葉を遺して。……エルを慰める為の優しい嘘かもしれませんが、私は……」

 

 その話を聞いたマリアは、何故か酷く背筋が凍る思いをした。

 もしこれがこの村の善性で成り立つ奇跡ならそれで良い。

 しかし、近くにはアカシック教が居る無関係とは思えなかった。

 何かの術か呪いか──とにかく、後でセレナと待機しているサンジェルマン達に結界を張ってもらう事を決意した彼女は、村長に言った。

 

「大丈夫です。我々が解決します」

「マリアさん」

「だから、村長さんは娘さんの大好きなご飯をたくさん作ってあげてください。わたし達も楽しみにしておきますから」

 

 マリアは聖母のような表情でそう言い。

 

 

 夕飯時に食卓に呼ばれ、絶望していた。

 

「今日は腕によりを掛けて作りました! 遠慮せず食べてください!」

「わーい! パパのトマト料理だ!」

 

 そう、村長が作ったのはたくさんのトマト料理。

 マリア以外はその見た目と匂いに唆られて口に運び、絶賛する。

 しかしマリアは動けなかった。

 何故なら──彼女はトマトが苦手である。

 料理を前にカチンコチンに固まっている彼女に、隣に座っているエルが首を傾げる。しかし村長は気づいたのか、ハッとして申し訳なさそうにマリアに謝った。

 

「すみません。トマト、苦手なんですね?」

「え!? いや、その!?」

「事前に確認するべきでした。ナスは大丈夫でしょうか? 材料があるのでそちらで……」

「大丈夫だよ? パパのトマト料理は美味しいんだから!」

 

 しかしそこでエルが待ったを掛けた。村長は「こら、エル」と止めようとするが、エルは止まらずにマリアに語り掛ける。

 

「わたしも昔はトマトが苦手だったの。でも死んだおじいちゃんに好き嫌いせずに食べるって約束して、頑張って食べようとして、いつの間にかパパのトマト料理が大好きになったんだ!」

「そ、そう──そうね。好き嫌いは良くないわね。せっかく用意してくれたもの」

 

 覚悟を決めたマリアはフォークを掴み、意を決して村長の料理を口に運び──あまりの美味しさに目を見開く。

 トマトの青臭さや酸っぱさが無い。

 マリアは次々と料理を食べ始め、エルが問いかける。

 

「美味しいでしょう?」

「ええ、とっても!」

 

 見た目相応にトマト料理にぱくつく彼女の姿に皆が微笑み、セレナは興奮しながら写真と動画を撮り続ける。

 そんな中、奏はトマト料理に狂喜乱舞し持参したケチャップをかけようとし、流石に冒涜過ぎんだろとエルに見えないように翼に物理的に止められていた。

 

 食事を終え、皆が重い思いに過ごす中、エルが父のお手伝いをするべく、外に出る。明日の準備で近くの店の主人の元へお使いに行くらしい。

 まだ幼いのに立派だと感心しつつも、夜遅い為に装者達は心配になる。

 しかしこの村は良い人ばかりで危険性は無いと思いつつも、美味しい料理を食べさせて貰ったという理由で着いて行く事になり……。

 

「らん♪ らん♪ らん♪」

「ブイ! ブイ! ブイ!」

「子どもって元気だな……」

 

 眠いのかあくびしつつ、響はコマチとエルを見てそう呟いた。

 コマチが懐かれているという事もあり、響がエルに着いて行く事となった。

 他の者達は後片付けや明日の宿の仕事の準備などをして、一宿一飯の恩義という訳では無いが、村長の手伝いをしている。

 

 山奥だからか、虫の鳴き声が音楽のように響き渡り、エルの歌とコマチの声がハーモニーを奏でる。コマチは音痴だが。

 しかしエルは気にした様子を見せず、それどころかコマチと歌う事を喜んでいるのか輝くような笑顔を浮かべていた。

 そんなエルを見ながら──思い出すのは村長の話。

 彼女は優しい家族と日常を過ごしていた。幸せだったのだろう。エルの優しさから、彼女の愛情の深さを感じ取れる。

 それを失ったのに──エルは強く生きている。

 

(わたしよりも強いな……)

 

 響は己の過去を振り返り、照らし合わせてそう思った。

 自分は日常を失った時、復讐に走った。

 自分はコマチを失った時、憎しみに身を任せて暴れ回った。

 自分は家族を失いかけた時、仲間を傷つけてしまった。

 自分は未来を失いかけた時、コマチのおかげで何とか踏み留まり取り戻す事ができた。

 そう考えると──たくさんの人に支えられている事を思い出し、彼女は笑みを浮かべる。

 

「おねーさん?」

「ん……何でもない」

 

 不思議そうにこちらを見るエルにそう返しつつ、響は彼女を促してお店に行き目当ての物を受け取る。

 そして宿に向かって歩き──異様な気配を感じた。

 平和で優しいこの村に似つかわしくない──異端な力。

 響はすぐさま意識を切り替えてエルを庇うようにして前に出る。

 

「お、おねーさん?」

 

 戸惑いと怯えを含んだ表情を浮かべるエル。

 そんな彼女に響は、自分の肩にコマチが乗った事を感じ取りながら言葉を返す。

 

「大丈夫──へいき、へっちゃら」

 

 そして──パキンッと軽い音が闇の中で響くと同時に、響の前にアルカ・ノイズが現れた。それを見たエルは怯えた表情を浮かべ──しかし、目の前から、響から聞こえた歌に魅了される。

 

「Balwisyall nescell gungnir tron」

 

 響の胸の歌が紡がれ──彼女は纏う。

 奇跡の力を宿すシンフォギアを。

 響は肩にコマチを乗せながら、唄いながらアルカ・ノイズに殴りかかり、通信で本部に連絡を取る。向こうも反応を検知したのか、返信はすぐだった。

 

「本部! こちら立花響! アルカ・ノイズと遭遇。民間人の救助の為に戦闘開始!」

『状況は把握しています! 現在そちらにイチイバルとアメノハバキリが向かっています! 付近に怪しい人物は!?』

 

 素早く周りを見渡すが、アルカ・ノイズを召喚、使役している人物は見当たらない。しかし逐一アルカ・ノイズが召喚されている事から何処かに潜んでいる事は確実。

 響は、エルの背後に近寄って来ていたアルカ・ノイズを一息で距離を詰めて吹き飛ばす。そしてすぐにエルの無事を確認した。

 しかしエルは全く怯えた様子を見せなかった。自分を殺せるノイズがすぐ近くに居るのに恐れない。それ以上に──響を輝いた目で見ていた。

 

(村の人達に危害が及ぶ前に──最速で最短で見つける!)

 

 ノイズを蹴散らしながら、響はコマチの名を呼ぶ。

 

「コマチ!」

「ブイ!」

 

 コマチが飛び上がり、響が伸ばした手と繋ぐ。

 

「融合!」

「ブイ!」

 

 そして二人の力と想いが一つに溶け合う。

 

「進化!」

『フィー!』

 

 顕現するのは陽だまりを想う力。

 

「この手に明日に続く未来を!」

 

 響はその力を叫ぶ。

 

「──ガングニィィィイイイイル!!」

 

 タイプ・サイキックフューチャー。

 明日へ、未来へと手を伸ばし続ける光が具現化した力。

 響とコマチはその紫色の眼光で見えない物を見る。

 

「『見破る』」

 

 未来すら見通す超能力の瞳は──すぐに見つけた。

 響達はその方向に向かってサイコキネシスを発動。

 

「そこ!」

「ガッ!?」

 

 バシンッと音が響いて悲鳴が聞こえる。

 するとゆらゆらと景色が歪み、ローブを頭から被った男が──野良の錬金術師が現れた。

 錬金術師はよほど自分の術に自信があったのか、見破られた事が信じられず喚き散らす。

 

「おのれシンフォギア! オレの邪魔をしやがって!」

「目的は後で聞く。今は眠って──」

「──捕まってたまるか!」

 

 男はそう叫ぶと──口の中に潜ませていたテレポートジェムを吐き出す。

 すると男の姿が消え。

 

「動くな!」

「きゃっ!?」

「──っ!」

 

 背後から男の怒声とエルの悲鳴が聞こえた。

 響が振り返ると、そこにはアルカ・ノイズを従えた男がエルを人質に響を睨み付けていた。

 

「動けばこの小娘の命はないぞ!」

「ひ、響さん──」

 

 エルが響の名を呼ぶ。

 それに響は──彼女を怖い目に合わせている事に、自分自身に怒りを覚える。

 しかしそれ以上にエルを心配し、その心を救おうとして──笑顔を浮かべた。

 

「大丈夫──必ず助ける」

 

 その笑顔を見たエルは──男に人質に取られているというのに、少しも怯えた表情を浮かべず、じっと響を見つめていた。

 

「何を戯言を──」

 

 男が苛立ったように口を開き。

 

「──テレポートは」

 

 そして一瞬で響を見失い。

 

「アンタ達錬金術師の十八番じゃない」

 

 転移で男の頭上に移動した響の蹴りを頬に叩き込まれて一瞬で意識を失い、ノイズも煤へと変えられ、エルは優しく彼女に抱きかかえられた。

 

「ごめんね、巻き込んで」

 

 響が腕の中のエルに謝ると、彼女は首を横に振り笑顔でたった一言響に言った。

 

「──ありがとう!」

 

 その言葉は──響を笑顔にした。

 

 

 ◆

 

 

 錬金術師は捕らえられ、協会が連れて行った後。

 マリアはサンジェルマン、弦十郎と今後の話し合いをしていた。

 今すぐにでも突入するか、当初の予定通りに動く、か。

 

『あの男とアカシック教に繋がりは見られなかった。単独犯と運悪く出会ってしまっただけだ』

 

 調査の結果を淡々と語り、サンジェルマンは予定通りに動くべきだと主張する。

 

「先程の戦いを察知していないのか、奴らに動きは見られない。村に張った結界のおかげだろうな。それにテレポートジェムによる転移反応もなかった』

 

 故に此処で焦って突入しても、村人を避難させてから動いても。

 激しい戦闘になるか、察知されて逃げられてしまうか、だ。

 絶対に逃さず、被害を出さない為には予定通りに動くべきだ。

 

『しかし、村の人達に迷惑が』

「……この村の村長も住民もこちらの指示に従うと言っています。今すぐに避難しろと言われれば避難すると」

『むぅ……』

 

 弦十郎が唸る。民間人の好意に甘えるのは主義に反する。だが守らなくてはならない。

 

『今から避難と突入、そして村に被害が及ばないように三つ同時進行で動くか?』

『それしか無いか』

「分かりました。すぐに皆に伝えて来ます」

 

 通信を終えたマリアは、すぐに動き出す。

 村長と大人達が集まっている彼の執務室に向かい、これからの方針を伝えるのだろう。

 それを見ながら、響はコマチを抱えながらエルと会話していた。

 どうやら先程の戦いで彼女に酷く懐いたらしく、目を輝かせて響に詰め寄っていた。

 響はそれにタジタジとなり、コマチも他の装者達も笑ってその光景を見ていた。コマチは強く抱き締められてお仕置きされたが。

 

「響さんカッコ良かったです! こう、歌を唄ってズババー! って」

「あ、あの……あまり言われると、その、照れる……」

 

 しかしそれもエルの言葉で弱々しくなる。純粋な目と言葉と感情に戸惑っているようだった。

 先ほどから戦いの様子を、その時に感じた想いを伝えられて正直響は逃げ出したかった。まぁ他の者が阻むだろうが。

 

「わたし、響さんみたいになりたい!」

「……わたしみたいに?」

「はい! 戦う事はできないと思いますが……歌で誰かを救いたいです!」

「──」

 

 本当にこの子はわたしなんかよりも強いな、と響は心の底から思った。

 響は困ったような、しかし優しい笑顔でエルの頭を撫でる。

 すると彼女は気持ちよさそうに目を細めた。

 エレオノーラという名前は、明るい光。輝く光という意味を持つ。

 彼女にぴったりの名前で、両親が彼女にどのような人間になって欲しいのか、どれだけ愛情を注いでいるのかが分かりやすく──。

 

「エルなら成れるよ。それどころかわたしよりももっと凄い──皆を照らす太陽の光みたいに」

 

 響の言葉を聞いて、エルは名前の通りの笑顔を浮かべてとても嬉しそうにしていた。

 

 

 ◆

 

 

「それじゃあ行くわよ」

 

 装者並びに錬金術師協会の戦力、話し合いの結果、突入組にはマリア、奏、クリス、響とコマチが組み込まれた。マリアと響達は対応力の高さから。奏は逃げられた際に雷速で追いかけ、クリスは狙撃で食い止める為に。現地ではサンジェルマンが監視しており、合流後そのまま突入する事となっている。

 避難誘導、防衛組はセレナ、調と切歌、翼となっている。プレラーティとカリオストロも組み込まれており、彼女達はセレナと組んで結界を張り、概念的障壁にて村で起きている不審死を防ぐ役割があった。そして調と切歌のユニゾンと翼のスピードで物理的な防衛線を築く。

 そしてSONGと錬金術師の後方部隊が村人の避難を進める事となった。

 

「響さん!」

 

 セレナ達が結界を張り、後方部隊が避難を進める中、エルが響達の元へ駆け寄って来た。すっかり響に懐いており、まるで姉妹のようだ。

 周りの皆も微笑ましそうに、面白そうに視線を送り、響はくすぐったそうにする。しかしエルは気にした素振りを見せず、響にある物を送った。

 

「これ、お守り!」

 

 エルが彼女に渡したのは不思議な形をしたネックレスだった。装飾された赤い石はまるで動物の角のようで、響はあまり見たことがない。

 表情に出ていたのか、エルが響にこのネックレスについて教える。

 

「これはねコルノって言って幸運を呼ぶシンボルだったり、魔除けの力があるの! これから響さん、大変なお仕事をするからって。だからママから貰ったこのお守りを付けていれば大丈夫!」

「──っ」

 

 受け取ったお守りが母の形見と知って、響は受け取れないと返そうとする。

 しかし──エルは顔を横に振って彼女に言った。

 

「わたし今まで寂しかったの。お爺ちゃんがお星様になって、お母さんも居なくなって。それでそのお守りをずっと持っていたら、お母さん達が近くに居る気がして寂しく無くなって──でも、響さんみたいになりたいから、ちょっとでも強くカッコよくなりたいから! だからね、これからみんなを守る響さんの力になってくれたら、凄く嬉しいの!」

「──」

「わたしも頑張るから、響さんも頑張って!」

 

 興奮した様子で己の想いを伝えたエル。彼女の純粋な想いを聞いた響は、受け取ったネックレスを身につけて──エルの想いをしっかりと受け止めた。

 

「すぐに終わらせて帰ってくるから──そしたらツヴァイウィングのライブだ。一緒に楽しもう」

「わーい! 約束だよ! 奏さんもクリスさんもマリアちゃんもね!」

 

 エルは笑顔で響、そして他の皆と約束を結ぶと父の元へと帰って行った。そして他の村人達と避難しつつ、響達が見えなくなるまで手を振り続けた。

 そんな彼女を見送った響に、奏が肩を組んで笑いながら絡んでくる。

 

「響〜。なぁにあたしらのファンを横取りしてんだぁ?」

「うざ絡みしないでください……」

 

 エルの懐きように奏がニヤニヤし、響は心底鬱陶しそうな、しかし頬を赤くしてくっついて来る奏を引き離そうとしていた。

 そんな二人をクスクスと笑いながらマリアとクリスが眺め、二人も口を開く。

 

「二人とも仲の良い姉妹みたいだったわ」

「エルちゃんが妹だと、響も少しは素直になるのかな?」

「好き勝手言って……!」

 

 ヒクヒクと米神に青筋を浮かべながら、しかし響はふと呟く。

 

「あんな子が妹だったら、確かに楽しいかも」

 

 彼女のその本心に、先ほどまで揶揄うような表情を浮かべていた奏達が優しい表情を浮かべる。

 守らないといけない。彼女の日常を。明日を──未来を。

 

「ブイ!」

 

 コマチが行こう! と促すと響達は頷いて山奥へと向かった。

 

 予めルートを頭に叩き込んで来たのか、妨害もなくスムーズに目的地へと辿り着いた。

 茂みに身を潜めるサンジェルマンを響達は見つけ、合流し彼女に問いかける。

 

「動きは?」

「無い」

 

 マリアはサンジェルマンの答えに、やはりと頷く。

 道中罠は無く、アカシア・クローンもアルカ・ノイズも現れなかった。

 それだけ自信があるのか。それとも気づいていない? 

 不気味に思いつつもマリアは波導で建物を見て──結界に阻まれて中が見えなかった。

 

「これは、ノーブルレッドの隠れ家やバルベルデであった……」

「ディー・シュピネの結界だ。……これを使っているという事はいよいよきな臭くなって来たな──アカシック教」

 

 そして戦力が整った今──監視に努める理由は無い。

 

「──行くぞ!」

 

 サンジェルマンの掛け声と共に、響達は建物の中に入る。

 扉を開けたその先は荒れ果てた礼拝堂で、しかし少し前まで人が居た痕跡がある。

 しかし外に出た様子も転移した反応も無い。

 中に入ってしまえば結界の効果はなく、マリアは波導ですぐに地下に続く道を見つけた。

 

「こっちよ!」

 

 マリアを先頭に、響達は階段を降っていく。

 石造りの階段は音を反響させて、彼女達の鼓膜を震わせる。恐らく相手にも気付かれているだろう。故に素早く駆けつけ無力化させなくてはならない。

 階段を降りた先には道が続いており、マリア達は駆け抜ける。そして大きな扉に辿り着き、迷う事なく開け放つ。

 

 そして。

 

 彼女達は。

 

 部屋に敷き詰められた無数の遺体を発見した。

 

『──っ』

 

 全員が絶句していた。

 誰が想像できようか──自分たちが駆けつけたその先で、自分たちが捕らえようとした組織の人間が全滅している等。

 

「──違和感はあった」

 

 ふとマリアが呟く。

 

「波導でどれだけ見ても見当たらなかった」

 

 生きている人間には等しく波導が宿っている。

 しかし──死んだ人間には無い。

 マリアはこの建物に入ってから響達以外の波導を感じ取れなかった。

 人間も。アカシア・クローンも。

 マリアがたくさんの人間の遺体から、それも幸せそうな表情で死んでいる遺体から視線を外し──祭壇を見るとそこには亡骸のように崩れ落ちている大量の砂があった。

 

「何が起きたんだ……此処で!」

 

 ──少なくとも。此処にアカシア・クローンは居ない。全て殺されたと見るべきだろう。壁や天井、床に描かれた術式は発動後特有の反応を示しており、アカシア・クローンを作り、錬金術師であるサンジェルマンは嫌でも理解させられた。

 

「くそ……何が起きているんだ!」

 

 しかし──何故アカシック教の人間達が死んでいる? 

 術式が暴走でもしたのだろうか? 

 妙な雰囲気に徐々に響達の心に不安という闇が生み出されていく。

 何かがおかしい。此処に居てはダメだ。──空気に当てられてはダメだ。

 

「──ブイ?」

 

 そんな中、コマチは──己の変化に戸惑っていた。

 体調が頗る良い。

 それどころか身体中に力が漲り、自分の中の何かが成長していく感覚があった。

 コマチはその感覚を知っている。

 そして──それは、絶対にダメだという事を本能が理解していた。

 

「ブイ! ブイブイブイ!」

「コマチ!? どうしたの!?」

 

 突如、コマチが体をガタガタと振るわせて叫び出す。

 肩に乗せていた響は、コマチのその反応に戸惑い、そして。

 

『──奏。奏!』

 

 そこに、翼から奏に──否。混乱しているのか、動揺しているのか、全装者に一斉送信で緊急連絡用の通信が入る。

 

『エルが──みんなが!』

 

 その悲鳴を聞いて響達はサンジェルマンと増援のエージェント達にこの場を任し、急いで村へと引き返した。

 

 

 そして。

 

 

 第一話「君ト云ウ音奏デ尽キルマデ」

 

 

 そこに広がっていた光景は──先ほど響達が見た物と同じだった。

 

「セレナ! 早く回復を!」

「それが、全然効かなくて……!」

 

 翼が叫ぶも、セレナは顔面蒼白で首を横に振り。

 

「プレラーティ、どう!?」

「──ダメだ。死んでいる」

「くそ──次よ! まだ間に合うのかもしれない!」

 

 次々と村の人達を見て周り、錬金術で治せないか試みるカリオストロとプレラーティ。

 

 そして。

 

「博士! どうにかできないデスか!?」

「お願い。その子はとっても優しい子なの……だから!」

 

 絶望し、しかしそれを信じられないとウェルに縋り付く調と切歌。

 

「……すみません──もう、手遅れです」

 

 この場に駆け付けたウェルは、血を吐くような声で立ち上がり──響達の目に映り込んだのは。

 

「──え?」

 

 安らかな表情を浮かべて──永遠の眠りについたエルの姿だった。

 

「おい……どういう事だよこれ……!」

 

 奏の声が震える。

 

「何が起きたの……?」

 

 クリスは目の前の現実を受け止めたくないのか、困惑し切った顔で呟き。

 

「まさか、アカシック教の仕業?」

 

 マリアが一番可能性の高い原因を口にすると。

 

 響が怒りのままに地面を殴り付けた。

 地面は粉々に砕け、しかしそれ以上に──響の心は乱れに乱れていた。

 

「なんで……なんで!」

 

 響はエルと約束をしていたツヴァイウィングのライブを楽しもうと。

 響はエルに憧れていた。自分みたいになりたいと言ってくれて恥ずかしく思いつつ嬉しかった。

 響はエルが頑張っている事を知っていた。大切な家族を失っても未来に向かって明るく過ごしていた。

 響は。響は。響は──。

 

「──うあああああああああ!!」

 

 しかし──仇は居ない。アカシック教の人間は既に死んでいる。

 つまり、エルは、村の人たちは彼らの行いに巻き込まれて死んだのか? 

 もしそうなら許せない──許せないのに、この拳を向ける相手が居ない。

 

「なんで、エル達が死なないといけないんだ!」

 

 響の泣き叫ぶ声が、夜の闇に響き渡り──。

 

『──その者らが命を落としたのは、彼の者達の仕業ではない』

 

 ──光が闇を照らし、神々しい声が響の言葉を否定した。

 夜に関わらず、“ソレ”が現れた事でその空間は“ソレ”の発する力で昼間のように明るくなる。

 

『高エネルギー反応を確認! これは……まさか!』

『パターン照合──シェム・ハと酷似! 間違いありません。アレは……! 

 』

 

 SONGのモニターに『GOD』の文字が映し出される。

 そう……響達の前に現れたのは正真正銘──神。

 そしてその神の名は──。

 

『我が名はアルセウス。この世界で起きている全てを知る者』

 

 アルセウスは、コマチを見る。

 見られたコマチは思わず響の体に隠れた──酷く怯えた様子で。

 

「ブ、ブイ……!」

「コマチ?」

 

 響がコマチの様子に言いようのない不安を覚える。

 何故だ。

 何故──こんなにも心がざわつく。

 そんな中、マリアが臆す事なくアルセウスに問いかけた。

 

「あなたはさっき、エル達を殺したのがアカシック教の人間ではないとそう言ったの?」

『そうだ』

「だったら誰がこんな事を!」

 

 マリアもまた怒りに燃えていた。年齢を誤解されていたとはいえ、エルとは年齢関係なしに友達になりたいと思っていた。

 それだけ彼女に好感を抱いていた。

 だから、彼女を、彼女達を殺した者を許せなかった。

 マリアの問いかけに、アルセウスは素直に答えた。

 

『アカシアだ』

 

 ──音が消えた。

 

『この者達を……彼の者達を殺したのはアカシアだ』

 

 アルセウスは、到底彼女達が信じる事ができない真実を語る。

 

 そして。

 

『そして──この星の全ての人間を殺すだろう』

 

 絶望の未来を──呪われた彼女達に、全人類に告げた。

 

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