【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第二話「ルミナスゲイト」

 アルセウスの言葉を信じる者は居なかった。

 

「ふざけるな!」

 

 奏が怒りを込めて叫び、アームドギアをアルセウスに突きつける。

 

「テメェ、光彦とがこれをやっただと? アイツが人を殺しただと? 殺すだと? ――そんな訳があるか!」

 

 奏は、光彦が命を賭けて、燃やし尽くして、彼の存在を全て使って救われた。

 それだけではない。

 彼女は知っている。光彦がどれだけ優しいかを。どれだけの人を救って来たのかを。どれだけ――優しいのかを。

 それを。

 それを――。

 

「適当な事言ってんじゃねぇぞ! これ以上はあたしが許さない!」

 

 奏の想いを聞いた他の装者たちもギアを構えてアルセウスを見据える。

 彼女達も同じだった。

 コマチは、アカシアは、リッくん先輩は、光彦は――絶対にそんな事をしない。できない、と。

 だから必然的に、アルセウスの言葉は自分たちを惑わす虚言と捉え、彼を敵と判断するのは当然だった。

 

 しかし。

 

『私に敵対の意思はない』

 

 アルセウスは――全く意に返さなかった。

 

『納得して貰えるように詳しく、全てを話す――だが、その前に』

 

 アルセウスの視線が、亡くなった村人へと向けられる。

 

『彼らを埋葬しよう。それからでも遅くない』

「……っ」

 

 それは、神であるアルセウスが人を慈しんだ故に出てきた言葉。

 彼もまた、かつて人と心を通わせた過去を持つ。

 アルセウスは人を愛し、人と共に生きた時があり、人を尊重する心がある。

 しかし――その姿は、奏達にとっては毒でしかなかった。

 

 アカシアが人を全て殺すと言った存在が、人を慈しむ。

 人に寄り添うその姿に好感を抱いてしまう。

 なら――先ほどの言葉はなんだ?

 戯言だと、虚言だと思いたい。

 しかし――人の死を悲しみ弔う存在が嘘を言うだろうか?欺こうとするだろうか。

 

 装者達は、脈打つ心臓の音を聞こえないフリをしながら丁寧に遺体を埋葬していった。まるでその作業に没頭する事で何も考えない様にしているかのように。

 

 

 

『さて、何から話そうか』

 

 アルセウスは力を使って、SONGのモニターに己の顔と音声を繋げた。これにより映像の中にあるアルセウスがスムーズに皆に説明する事ができる。

 アルセウスの神力が強いせいか、すぐ側に居ると人間は息苦しくなる。それ故のアルセウスの気遣いだった。

 

 その気遣いが装者達を追い詰める。

 

『まず私がこの世界に干渉したのはこの時間軸より約五千年前』

「となると、先史文明期か」

 

 アルセウスの言葉を聞いて弦十郎の脳裏にシェム・ハの姿が思い浮かばれる。

 

『そうだ。その時代――エンキ、シェム・ハが存在した時代だ』

「――っ。心が読めるのか」

『すまない。話を円滑にする為だ――私がこの世界に来た時、既にアカシアはとある技を発動させ、当時の人の命を己の糧としていた』

 

 アルセウスはエンキやシェム・ハといったこの世界の神の存在を知っていた。実際に会った事があるのだろう。

 しかし奏達はアルセウスの言葉を信じられない。

 何故なら一貫としてアカシアが人を殺すと、殺していると言っているからだ。

 

「だから、そんなの信じられないって――」

『――アカシアは一つの歌を唄った』

「歌? 何を言って――」

 

 ――瞬間、全員が押し黙る。

 アカシアは音痴でまともに歌を唄えない。カラオケに行っても音程を外して、最終的には部屋の隅に縮こまってしまい、皆で慰めるのは一種の恒例行事だった。

 

 しかし、歌の……否、音の技は問題なく使えた。

 

 うたうという技がある。その技は対象を眠りに誘う効果があり、響をぐっすり眠らせた。

 

 くさぶえという技も問題なく使えた。どこからとも無く出した草で切歌を眠らせた。

 

 ほえるも使える。むしのさざめきも使える。りんしょうも使える。

 

 そして――恐ろしい技も使える。

 その技の名前は――。

 

『アカシアはかつて明確な殺意と憎悪を持って“ほろびのうた”を歌い、全人類を呪った。そしてその呪いは――人類の魂に刻み込まれ、人が人であり続ける限り消えない』

 

 その技は一定の時間の後に、己と対象を戦闘不能にする凶悪な技。

 そしてこの技の厄介な所は、使った本人が居なくなっても倒れても効果が残り続ける事。

 

『さらに、負の感情で増幅されたその技は全人類に、無差別に及んだ。そして――アカシアが居る限り必ず発動し続ける』

 

 ポケモンバトルでは交代すれば効果は消える。

 しかし全人類に掛けられたその呪いは交代を許さない。効果を消せない。

 さらにアカシアが存在する限り発動は止まらず、そしてアカシアは――死んでも世界に蘇る。

 殺した人間の経験値と培って来たレベルを犠牲に。

 

『故にエンキとアカシアはバラルの呪詛を施した』

 

 そうしなければ――既に一定時間が発動し、後は死ぬだけの人類を救う事ができないから。

 

『故にシェム・ハはヒトをヒトで無くそうとした』

 

 そうしなければ――アカシアを救えないから。技の対象である“憎き人類”を消し去り、アカシアが自責の念で悲しみ、壊れてしまうから。

 

『だが、ヒトはヒトのままこの星に居る』

 

 バラルの呪詛が解除され、滅びの歌が再開された状態で。

 

『このまま放っておけば、この星の人類は一週間で絶滅し――その全てがアカシアの糧となる』

 

 約70億人の人類が――消え去る。

 人に寄り添い、奇跡の力で守り、救って来たアカシアを遺して。

 

『しかし、この絶望の未来を回避する方法が一つある』

 

 その言葉に、コマチが顔を上げた。

 

『アカシア――お前の存在を最初から無かった事にする』

 

 しかしそれはあまりにも残酷で。

 

『さすれば滅びの歌が発動したという事実は無くなり、アカシアに蓄積された命は本来の流れに戻り、この世界の歴史の流れが正常の物となる」

 

 アルセウスの力を使えばとても簡単で。

 

『さぁアカシア。あの時と同じ問いを、再び此処で問いかけよう』

 

 しかし、響達には、アカシアに救われてきた者達にとってはとてつもなく難題で。

 

『貴様はどちらを取る? 世界か――それとも己か』

 

 かくして、コマチ達は選択を迫られた。

 コマチを犠牲にして世界を救うか。

 世界を犠牲に人類を見殺しにするか。

 

 答えられる者は――誰も居なかった。

 

 

 第二話「ルミナスゲイト」

 

 

 あれから三日が経った。

 アルセウスの問いかけに対して、響達は――答える事ができなかった。

 いや、答えようとして……答える事ができなくなった。

 その理由は――。

 

 

 ◆

 

 

――だと、しても……!

 

 俺は、自分でも分かる程に泣きそうな顔で響ちゃんの肩から飛び降りて、アルセウスを真っ直ぐと見据える。

 

「ブイ、ブイブイブイ!」

 

 かつての俺は貴方の言う通りに過ちを犯したのかもしれない。しかし記憶を失った今の自分はそれを自覚できない。

 だから、この選択は間違っているのかもしれない。

 だとしても、皆を死なせたくない。殺したくない。

 だとしても、死んで皆と別れたくない。まだ一緒に居たい。

 

 だから。

 

「――ブイ!」

 

 俺は、みんなを救いつつ自分も生き残る道を探す!

 

「――コマチ」

 

 響ちゃんの声が響いた。

 約束した声だ。誕生日に歌を唄って貰うって約束したんだ。ずっとずっと側に居るって約束したんだ。

 その為には俺は絶対に生き残らないといけない。消える訳にはいかない。

 みんなも救わないといけない。一週間後は俺の誕生日で、救えなかったら俺は一人ぼっちだ。

 

 そんなの、絶対に嫌だ!

 

 だから――俺もみんなも救う!

 俺はアルセウスに覚悟を決めてそう言った。

 

『――それは貴様に記憶が無いから言える事だ』

「ブイ……!」

 

 言い返したいけど、言い返せない。

 でも諦めたくないと言う気持ちは、響ちゃん達と未来に行きたいと言う気持ちは嘘なんかじゃない!

 だから、俺は――。

 

『そこまで言うのなら――思い出してみるか? 全てを』

 

 ――え?

 

『私の力なら、貴様の記憶を復元する事が可能だ。だが」

 

 ――お願いします。

 

「――コマチ!?」

 

 背後から響ちゃんの悲鳴が聞こえる。

 うん、正直怖い。響ちゃんと同じように。

 俺の覚悟を聞いて、アルセウスがあんな事言って、それでも諦め無い俺に記憶を取り戻してみるか? って聞いているってことは……相当やばい記憶なんだろう。

 でも――俺は生きるのを諦めたくない。

 みんなとの明日を、未来を取り戻したいんだ。

 

『――良いのだな?』

 

 ――はい。

 

 

 

 そうして、俺は――僕は全てを思い出し。

 

 自分のした事を後悔し。

 

 死にたくなり。

 

 でもそれすらも怖くて。

 

 その場から逃げ出したくなって。

 

 何もできず絶望し。

 

──目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 それ以来コマチは部屋から出て来なくなってしまった。

 コマチはずっと己を責め続け、響以外の人間は入れない様に結界を貼ってしまった。

 ……それでも彼はどうにかできないかと試行錯誤をしていた。

 ありとあらゆる技を用いて滅びの歌を止めようとして、でもその方法が見つからなくて。

 アルセウスに何度も聞いて、しかし彼の力でもどうする事もできなくて。

 

 彼は自分が消えるべきだと思っていた。

 

 しかしそんな事を皆が認める筈もなく、何か方法は無いか探し続けた。

 アルセウスに頼み、コマチを消すのを待って貰うように頼み込んで。

 それをアルセウスは了承するも、時間が経てば経つほど皆が辛くなるだけだと忠告を残して一度この世界から出て行った。

 

 そして、アルセウスの忠告の通り、日が経つ毎に絶望が大きく、重く、強くなっていく。

 

 アルセウスが現れて翌日。世界中がパニックになっていた。世界各地で大勢の人間が安らかに安楽死し、この一日だけで死者数は一万人を超えた。

 ウイルス兵器によるテロか。自然発生した病か。

 原因が分からず、表の世界ではアメリカが主導で緊急事態宣言が発令される。

 

 そして日本政府は、コマチの引き渡しをSONGに要請し、弦十郎が必死に説得をし――7日後までに事態解決の方法を見つける様にと指示が出された。

 

 2日後――友里あおいが倒れた。

 ついに身近な人間にも被害で出てしまい、病室にはたくさんのSONGのスタッフが痛ましげな表情で彼女を見ていた。

 そして、彼女の事を心配しているのはコマチも同じで、彼は恐る恐る友里の元へ向かった。

 

 しかし――部屋に入った途端向けられた視線に、コマチは足を止めた。

 後から追いかけた響は、コマチを見るスタッフ達の、仲間達の視線が信じられず――叫んだ。

 

「何で……何でそんな目でコマチを見るんですか!」

『……』

 

 彼らの視線には怯えと恐れが多分に含まれ、とても今まで戦ってきた仲間に向ける物ではなかった。

 彼らの目が語っていた。お前のせいだと。

 お前のせいで友里が死んでしまう、と。

 それが響は許せず、感情任せに怒鳴ってしまう。

 

「コマチは、今までたくさんの人たちを助けて来ました! わたしだって、あなた達だって……それなのに、何で!」

「――そんな事、分かっているよ!」

 

 しかし、響以上の大声で――友里の手を握っていた藤堯が叫び返す。

 

「俺達だって信じたいさ! どうにかしたいさ! でも……でもっ!」

 

 観測されているコマチの数値が、人が死んでいく度に上がっていき。

 身近な人間がこうして突然死にかけているのを見てしまうとーーコマチを恨みたくないのに、恐れたく無いのに、怯えたく無いのに、そういう視線を向けてしまう。

 

 藤堯はごめんと一言だけ謝り、他のスタッフも血を吐くような顔で俯き――コマチは逃げ出した。そして部屋に引き篭もりなるべく誰とも会わない様にした。

 

 そしてその日の深夜0時に、友里は「光彦くんは悪くない」とだけ告げて――この世を去った。

 

 

 三日後。ようやく此処に来て二代目とキャロルが目を覚ました。

 

『――そう、か……』

『くそ。遅かった……!』

 

 弦十郎から話を聞いた彼らは――既に取り返しのつかない事態になっている事を知り、思わず表情を歪めた。

 弦十郎は、彼らの反応を見て思い出す。フィーネの言動を。

 

 もし、彼女が言っていた事が、この事なら――。

 

「おい、もしや了子くんはこの事を――」

『――知っていたとも、全て。そして私たちも彼女から話を聞き、協力していた。この事態を回避する為に』

「っ、何故言ってくれなかったんだ!」

 

 思わず弦十郎が問い詰めて。

 

『言って何になる。奴ですら解決方法を見つけられなかった。加え、アカシアに救われて来た奴らがこの事を知れば――結果は見えているだろう』

「く……」

 

 キャロルの言葉は正論で、弦十郎は押し黙った。

 彼女達はこの非常な現実を受け止める事ができなかった。

 そして何とかしようとそれぞれ過去の文献や古文書を元に調べている。

 だが――それは無駄な時間と言える。

 そのような事をしても――アカシアが人を殺す真実を突き付けられるだけだ。

 

 

 

 

「姉さん、もう休んだ方が――」

「休んでなんていられないわよ!」

 

 セレナの言葉に、憔悴し切った表情でマリアが叫ぶ。

 しかし、その言葉には普段の覇気がなく、あの日から寝ていないのか目の下には隈があり、足取りも覚束なく、いつ倒れてもおかしく無かった。

 それでも意識を手放す訳にはいかない。

 次に目が覚めたその時、リッくん先輩はもう居ないのかもしれないと考え。

 それどころか、二度と目を覚さないかもしれないと考え――そんな事を考えてしまう自分が嫌だった。だって、それでは――。

 

「リッくん先輩はそんな事しないわ! 絶対に!」

 

 マリアは世界中から集めた歴史書を波導を用いて閲覧していき、この事態を回避する方法を模索し続ける。

 それをセレナも手伝うが――彼女はマリア程熱心に調べる事ができなかった。それだけ世界中で人が死んでいる事が、友里が死んだ事が堪えているのだろう。

 

 そして。

 

「姉さん」

「……何」

「マム――もう話せなくなった……!」

 

 絶望は止まらない。

 

「お医者さんが言うには――今夜が峠だって」

「――っ」

 

 ギリッとマリアの奥歯から音が響く。

 彼女達は闇の中を歩き続け――皆と一緒に転げ落ちていく。

 それは呪いとしか言いようがなく、それを施したのが好きな人である事に――マリアは耐える事ができなかった。

 

 

 

 

「調、大丈夫デスか?」

「うん、ありがとう」

 

 ――装者の中でも症状が現れた者が居た。

 調は突然の頭の中に歌が聞こえたかと思うと――そのままバイタルが不安定になり倒れ、それ以来ベッドから出る事ができないでいた。

 ウェルがどれだけ処置を施しても、切歌がどれだけ励ましても――調はベッドの上で虚ろな目で天井を見ていた。

 

「切ちゃん」

「なんデスか?」

「手を握って……」

 

 彼女のお願いを聞いた切歌は、すぐに調の手を握り締めた。

 とても――冷たかった。

 人にある本来の温もりが無く、自分の体温で火傷させてしまうのでは無いかと思える程に――冷たかった。

 そしてそれは、切歌に調が死に向かっている事を深く体感させ、彼女の目から涙が、心から感情が溢れ出す。

 

「調、嫌デスよ……」

 

 お気楽者である自分が調を元気にさせる。

 その想いで無理矢理笑顔を浮かべて明るく振る舞っていた切歌だったがーー限界だった。

 

「死んじゃ嫌デスよ、調ぇ!」

 

 かつて自分が長い眠りに着いた時も、調は同じ思いをしたのだろうか。

 もしそうなら――耐える事なんてできはしない。

 もしそうなら――キリカやウェルは調を本当の意味で救っていた。

 しかし、自分はできそうにないと思ってしまう。

 何もできないまま、大切な人を死なせてしまうと――とても怖くなった。

 泣きながら体を震わせる切歌。そんな彼女を――調が優しく手を握り締める。

 

「大丈夫だよ切ちゃん」

 

 そして彼女は優しく語り続ける。

 

「大丈夫。大丈夫だから」

 

 しかしその優しさが――今はとても辛かった。

 

 切歌は調に寄り添う事しかできず。

 調は切歌の涙を拭うことができなかった。

 こんなにも心が通じ合っているのに。想い合っているのに。――近くに居るのに。

 

 

 

 

「――クソ!」

 

 ウェルは残った腕でテーブルを強く叩きつけた。

 彼は、マリアが過去の歴史書から解決策を探っている事から、別角度からアプローチを仕掛けていた。

 ウェルはSONGの保有する膨大なデータベースから、過去のアカシアの行動から解決の糸口は無いかを探っていた。

 

 しかし――調べれば調べる程、気づけば気づく程、一連の事態の真実味が増していく。

 

 まず、デルタショック事件。

 あの事件の際、アカシアはフィーネに制御されレックウザとなり装者達と敵対した。その際、月を穿こうとして奏と翼に逸らされたとあるが――よく見ると違う。

 

 アカシアが無理矢理軌道をズラしていた。

 

 彼は本能で覚えていたのだ。バラルの呪詛が解かれればどうなるかを。だからあの時月を破壊する事を阻止しようとしていた。

 

 さらにネフィリムの行動からも、バラルの呪詛がアカシアの歌を止めていた証拠となる。

 ネフィリムは一貫としてアカシアへの復讐の為に行動していた。それで起きたのがブラックナイト事件だ。

 しかしそれ以前、フロンティアでもネフィリムはアカシアへの嫌がらせをしていた。

 ネフィリムはアカシアを取り込んで、嫌がらせの手段として月を地球に引き寄せた。人をたくさん殺してアカシアを絶望させるという意味もあったのかもしれない。しかし、それ以上に――バラルの呪詛を解除して、アカシアにアカシアが寄り添い、愛した人類を殺させようとしていたのだ。

 だからあの時ネフィリムは月を引き寄せた。最高の嫌がらせとして。

 

 此処まで証拠が出揃うと芋づる式に、今までアカシアを救おうと戦って来た相手の心情が見えてくる。

 

 アダムは人を憎み、嫌っていた。

 アカシアを何度も迫害していたと言うのもあるが――彼らが居る限り、人間である限り、アカシアは絶望する未来へと歩き続けていた。

 彼が人を愛するが為に。

 

 ノーブルレッドのアカシアを殺す事で、彼を救う事に繋がると言う言葉にも納得が行く。全てを知ったアカシアは絶望した。おそらく今彼が一番求めているのは――己の死。

 しかし、例え死んでも人類は滅びの歌で死ぬから、心を苦しませながら、それすら許さず、アカシアは人を救う方法を探している。

 だからノーブルレッドは――アカシアが全てを知る前に、彼を殺そうとした。自分を憎み、苦しみ、罪の意識で涙を流させない為に。

 

 シェム・ハは分かりやすい。

 彼女は人を怪物にする事で滅びの歌の効果範囲から外そうとしていた。

 そうすればアカシアは人を殺すと言う事実が無くなる。苦しまなくて済む。

 そう考えての行動であった。

 

 そして。

 これだけの神が、超常の存在が動いていたにも関わらず――人類を救う手がかりは全く見つからなかった。

 

「――クソ」

 

 ウェルは悪態を吐きながら、希望を探し続ける。

 その身に救う呪いが、蝕んでいる事に気づきながらも――。

 

 

 

 

「コマチ……こっちおいで」

 

 部屋の中で、響が優しく語りかける。

 しかしベッドの上に居るコマチはシーツの中から出て来ず、反応も示さない。

 そんな彼に――響が語りかける。

 

「わたしは――信じない」

 

 響はずっとコマチに寄り添っていた。

 

「わたしはアンタに何度も救われた」

 

 響はずっとコマチと一緒に居た。

 

「ずっとアンタの事を見てきた」

 

 だから、コマチの事を何でも知っていると響は言った。

 

 響から見ればコマチは妙な生き物だ。

 普通の小動物とかけ離れた思考をし、ご飯&ご飯が大好きで、ちょっとエッチで、戦いに臆病で。

 誰にでも優しくて、他人を救う為なら自分の命を犠牲にして、奇跡で何人もの人々を救ってきた。

 

 だから信じない。信じたくない。

 

 コマチが、人を殺すなんて。

 

 もしそれが真実だとしても、何か理由があったのだろう。

 

 そうしなければならない理由があったのだろう。

 

 だから響は。

 

「アンタは悪くない! 悪い奴なんかじゃない! わたしを苦しめて来た故郷の奴らの方がずっとずっと悪い人間だ! だから、アンタみたいなお人好しがこんな事する訳ない!」

 

 その叫びに対して、コマチは。

 

『――僕がやったんだ』

 

 完全なる否定で応えた。

 

「――」

『響ちゃんは僕の事を悪くないって言うけど――本当に僕がやった事なんだ。だから僕は死ぬべきだ。罰を受けるべきだ』

「――だとしても! アンタは! 今まで何人もの人を救って来た! だから――」

『――たくさんの人を救ったのなら、人を殺して良いの?』

 

 テレパシーで直接投げかけられたその問いに――響は応えることはできなかった。

 

 アカシアは殺した人数よりも多くたくさんの人を奇跡で救って来た。

 しかしそれ以上に間に合わず、救えなかった人が居た。

 そんな救えなかった人の数よりも、彼を拒絶し、迫害し、殺してきた人間が存在し。

 

 そしてアカシアは、そんな人間よりもずっとずっとずっとーーたくさんの人々をこれから殺す。

 

「そんな、でも――」

『それにね、響ちゃん』

 

 コマチの言葉を否定しようとする響に、彼は。

 

『罰を受けるのは悪い人じゃないんだ』

 

 絶望し切った心で。

 

『罪を犯した人が罰を受けるんだよ?』

 

 見えない未来を見て――どうしようもなく己の犯した罪の重さを教えた。

 

 響は――応える事ができなかった。

 

 




各章のキャッチコピーの伏せ字、並びに込められた意味の開示。
序章。滅亡のカウントスタート。
第一章。歌には血が流れ、詩には魂が宿る。歌う事で血が流れる。つまり死を意味し、詩には魂が宿る。は人類はずっと滅びの歌を抱えていたという事。
第二章。現在は開示条件を満たせていないので省略。
第三章。喪失──さよならバイバイ。わたしの光。わたしの光、つまり未来が喪失しているという意味でもあります。
第四章。世界を殺す為の歌がある。滅びの歌の事。
第五章。死を灯す永遠の輝き。つまりアカシアが生き続ける事で滅びの歌もまた灯り続けたという意味。
第六章。繋ぐこの歌には──人を殺す力がある。はい滅びの歌滅びの歌。
そして最終章は、あえて言うなら【明かされる罪と罰】
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