【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
響は父である洸に呼び出されて、引っ越した家族の家へと向かっていた。しかしその肩にはいつもの日陰は居らず。
その代わり、という訳ではないが……未来が付き添いとして響の隣を歩いていた。
「ごめんね未来。付き合わせて」
「ううん。良いよ。……わたしにはこんな事でしか響の役に立てないから」
そして思い出すのは――先日での出来事。
未来は神鏡獣のファウストローブを所有している。
かつての戦いの際に残った彼女の戦う力で――アカシアの歌を消す事ができるのではないかと希望が見出されていた。
未来の神鏡獣は、かつてアダムの策略で暴走した響を救った事がある。
その際に原罪とアカシアの力を掻き消した為、その力を使えば滅びの歌を無くす事ができるのではないかと試した結果は……現状が物語っている。
アカシアの滅びの歌は人類の魂と融合を果たしており、神鏡獣はそれを邪悪な力だと、不浄の力で掻き消す物と認識しなかった。
加えて、現在未来が使っているファウストローブはイグニス達アカシア・クローンの生命力で起動させられたからか、同じ力の源であるその歌に干渉する事はできなかった。
だからこそ友里は死に、未来は皆を救えない事に――ずっと涙を流していた。
「でも、だからこそ。こんな事でも響の役に立てるのならわたしは……」
「――ありがとう」
絶望の中でも二人は手を繋ぐ事ができた。
また陽だまりの道を歩ける様にと、そこに日陰も加わってくれる様にと願いながら。
そうこうしているうちに、響たちは洸達の住む家に辿り着いた。アダムの一件でSONGからの援助を受けているからか、そこそこいい物件に住んでいる。
思い出のある家は既に引き払ったが、響はこの家が好きだった。
コマチも居心地が良さそうにしており、いつかは本部暮らしからこっちに引っ越す事も視野に入れていた。
そんなあり得たかもしれない未来を見て悲しく思い、それがもう叶わないと、コマチを助けられないと自然に考えている己の頭を振って雑念を払う。絶対に、コマチを救うと響は心に決めていた。
インターホンを鳴らすと、しばらくして扉が開き洸が出てきた。
「おかえり響」
「――」
洸にとっては普段通りに声を掛けていたのだろう。
しかしその普段通りが響にとってとても大きな救いだったのだろうか。父の姿を、声を、言葉を聞いた響は――。
「――響?」
涙を浮かべて父に抱きつき、彼の胸に顔を埋めて涙を流した。
そんな娘の様子に戸惑いを見せつつも、しかし洸はしっかりと受け止める。
もう逃げ出さずに、娘を迎え入れた。
「――ごめん。しばらくこのままで居させて」
「……ああ。分かったよ」
玄関先で、響は少しだけ抱え込んでいた感情を曝け出した。
その光景を未来は黙って見つめ続け、洸は何も言わず響の涙を、悲しみを、全てを受け入れていた。
◆
一通り泣いた後、響は家の中に迎え入れられ、当然ながら家族に心配された。
無理をしていないか? 辛い時は帰ってきても良い。もうお前が我慢する事も、頑張り過ぎる事もないんだと。口々にそう言った。
アダムに拉致され人質にされた事がトラウマになっているのだろう。洸達は響の身を案じていた。それに対し、響は照れ恥ずかしく思いながらも嬉しく思い、大丈夫だと、平気へっちゃらだと答えた。
逆にコマチの事は聞かれなかった。何となく察しだのだろう。何かがあったのだと。事の顛末は語られていないが、洸達は問い詰める事はなかった。
響を傷つけたくない為に。
「というか、しばらく帰って来るなって言ったのお父さんじゃん」
「いやーその、ハハハハ……」
サプライズの為、と言い訳をする洸だが、この場に居る全員からジトッとした視線が送られていた。から笑いをする洸だが、形勢の悪さを感じたのか笑うのを辞めて肩を落とし「ごめん」と弱々しく、情けなく謝った。
その姿を見て先ほど頼もしく感じていた響は、やっぱりお父さんだと呆れながらも少し笑った。
「本当はもう少ししてから教えたかったんだ。響を驚かせて、喜ばせたかったから。でも今世界、こんなんになっているだろ?」
その言葉に響と未来は思わず表情が曇り。
「だから伝えられる今のうちにって思ったんだ」
『……?』
そして続く洸の言葉に響と未来は首を傾げ、祖母は微笑ましそうにし、母は頬を赤く染めた。
そんな中、洸は響に伝えた。
「響――今、母さんのお腹の中にはお前の弟か妹がいる」
「――え?」
「つまり――お前はお姉ちゃんになるんだ」
洸の言葉に響は言葉を失い、父の言葉を理解すると――勢いよく母へと顔を向けた。
「お母さんホントいつの間に!?!?」
「ほ、本当よ……」
母の反応からガチだと察した響は言葉を失い、未来はおめでとうございますと素直に祝福した。
そういえばと響は過去を思い出し、父と母がどこか仲が良さそうだと思っていた事を思い出す。当時はノーブルレッドの存在があり忙しく気が回らなかった様だが。
しかしまさか子どもができる程仲良くなっていたとは思えず、響はどこか現実味を感じなかった。
母の腹部を見るも膨らんでおらず、まだ発覚して時間が経っていないのだろう。父がサプライズしたいからと言っていた時期を考えるとギリギリ一月経つくらいだろうか。
そうなると出産は年末近くになると考え――。
(――あ)
そこまで人類が生き延びている可能性はーー低い事を思い出した。
アカシアの歌のせいで。
母が死ねば響の弟か妹は産まれる事はない。未来は……無い。
アカシアの歌は今生きている人間だけではなく――これから産まれてくる人間も殺すのだと、響に突きつけた。
未来もその事に気がついたのだろう。先ほどまで祝福していた笑顔が消え、表情を真っ白にさせている。
「それでな、響。これから産まれてくる子の名前なんだが――」
洸は一つ響にある事を聞いた。
「――え」
本来なら喜ぶであろうその言葉を響は受け止める事ができずに、呆然と呟いた。
「やっぱりさ。色々と考えたんだけど、どうしてもこの子にはこの名前を付けたいと思うんだ。アイツは俺たちに家族を繋いてくれたからな。だからアイツの名前を――コマチの名前をこれから産まれてくる子に付けたいんだ」
「――」
「立花小町。女の子でも男の子でも付けられる――そして絶対に未来を諦めない強い子になれるとそう思ったんだ。だから――」
「――やめて!!」
響は思わず大声で洸の言葉を止めた。
だって、このまま彼の言葉を聞いていると、その未来を想うと――コマチを否定しているようで酷く心が不安定になるから。
洸にそのつもりはないのだろう。ただ新しい家族の誕生に喜び、その喜びを響に教え、伝え、共有しようとしただけだ。
何故なら、これから産まれてくる命は彼にとって希望であり、光であり、明日へ続く未来なのだから。
しかし響は違う。
響にとっては絶望であり、闇であり、コマチを消し去った先にある未来だからだ
「響――」
「っ……!」
――それ以上の話を響は聞くことができなかった。
立ち上がり外へ飛び出していく。背後から家族と未来の呼び止める声が響いたが、彼女は止まる事なく走り続けた。逃げ続けた。
走って走って走って。
逃げて逃げて逃げて。
息が苦しくなって、心が苦しくなって。
足をもつらせて転けてしまう響。しかし彼女は立ち上がる事ができず――雨が降り始める。
「――」
響はいつの間にか路地裏に来ていた――初めてコマチと出会ったあの路地裏だ。
『ブイ!』
彼の声を思い出し――響の頬を雨の雫が伝う。
雫は何度も何度も頬を濡らし、しかし響の心の闇は洗い流す事はなかった。
「う、あああああああああ!!」
先ほどの会話で響は全てを理解した。
コマチを生かせばみんな死に、これから産まれる新しい家族を失う。
新しい家族を得る為には、コマチを犠牲にしなければならない。
他の方法は――未だ見つからず。
タイムリミットは既に迫っている。
どうしてこうなったのだろう。どうしてコマチはあんな歌を唄ったのだろう。
できる事ならやり直したい。彼女はそう強く思い、そして――。
「ディルルガァ!!」
彼女の前に――一柱の神が降臨した。
その神の名はディアルガ。
その神の力は時を操るもの。
その神は――響に救われた。
だからディアルガは彼女の前に現れた。
響が一番その力を欲しているから。
響は、目の前に現れたディアルガを呆然と見つめ、同時に目の前の神から流れてくるイメージに頭がパンクしそうになり、しかしディアルガがやろうとしている事を理解して――問いかけた。
「できるの? ――わたしを過去に飛ばす事が」
ディアルガはその問いに――頷いて答えた。
時間逆行。やり直し。響はディアルガの力を理解するとすぐにその言葉を思い出した。かつてシェム・ハも時を遡り、腕輪を二つにして自分たちを苦しめた。
なら、目の前のポケモンの力を借りればそれができる。
同じ事ができる。
もはや現状を打破するには――コマチを救いながら未来を取り返すには、歴史を改変するしかない。
「――響!」
そこに追いかけて来た未来が彼女に追いつき、ディアルガを見て――かつてシェム・ハの依代だった故に、響のやろうとしている事を察した。
「……行くんだね?」
未来は止めようとしなかった。ただ響にその覚悟を、決意を問いかけた。
響はコクンと黙って頷き――未来はふわりと笑顔を浮かべた。
「そっか……うん、そうだよね。わたしの知っている響は絶対に諦めないもんね」
「未来……」
「――行ってらっしゃい響。わたし、待っているから」
彼女の言葉に響は――。
「――行ってきます」
それだけ言うと、ディアルガから力を譲り受け、ガングニールを展開し、そして――。
第四話「Stand up! Ready!」
『――誰だ!?』
そこで出会ったのは――響の知らないコマチだった。
『人間……? また私を傷つけに来たのか?』
彼は全身を返り血で赤く染めていた。
『何故私がこんな目に遭う』
その手には巨大なスプーンを持ち。
『私が一体何をした』
その身はかつてアカシアの神の姿として知られる『ミュウ』よりも大きく、強大で、威圧的で――寂しそうだった。
『醜い人間。もう私に関わるな!』
その怪物の姿の名は――アルセウス達の世界では『ミュウツー』と呼ばれ、人間に造られた存在であり。
『何故私は此処に居る――何故、私は……!』
今のコマチと同じ様に人を恨み、憎み、拒絶し、嫌悪し。
『こんなにも乾く……!?』
人を全く信じなかった。
まるで――コマチに出会う前の響の様に。