【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第五話「誰かの為のヒカリ」

 響はディアルガの力で過去へと飛んだ。滅びの歌が発動される前にコマチを止めて──あの未来を無かった事にする為に。絶望を希望に変える為に。光で闇を照らし、明日に向かう為に。

 

 そして──始まりの時で出会った日陰は──暗く、昏く、黒く堕ちていた。

 

「──コ」

 

 コマチ、と呼ぼうとして響は咄嗟に口を閉じた。

 目の前の彼は響の事を知らない。此処で下手な事を言ってしまい、それこそ取り返しの着かない事になれば……。

 だから響がまずすべき事は、何故滅びの歌が発動したのか。その原因を知る事にある。

 故に彼女は──なるべく刺激しないように歩み寄りを見せる。

 

「……わたしの名前は立花響。……わたしは貴方と話がしたい」

『……』

 

 しかし目の前の獣は、響の言葉に反応を示さない。

 ただジッと彼女を見つめている。

 何を考えているのか分からなかった。コマチの考えている事はあんなにも分かるのに──過去の彼の考えが分からない。

 それでも──響の事を警戒しているのは確かだった。響が少しだけ歩みを進めるとすぐ様に手にもった曲がったスプーンを突きつけて近づけさせない。

 

 痛い沈黙が続き──。

 

『──これで通じるか?』

「……!」

 

 ふと響の脳内に声が響いた。

 目の前の獣からだ。どうやらテレパシーで響と言葉が通じる様にしていたらしい。言語を合わせるのに手間取った故の沈黙だったらしい。

 響はいつもとコマチと話している感覚が戻った事にホッとしつつ──しかし。

 

『言葉が通じた様だな。ならばもう一度言おう』

 

 獣は響を睨み付ける。──ホッとしたのは、彼と繋がれて嬉しく思ったのは響だけだったようだ。

 

『──私の前から消えろ。人間』

 

 冷たい声でそれだけ言うと、獣は宙に浮かび立ち去っていく。

 拒絶。

 あれだけ優しくて、あれだけ人と繋がろうとしていた彼が──人と関わるのを、繋がるのを、恐れ、伸ばされた手を振り払う。

 響はそれが酷く悲しかった。

 でも、それだけではなかった。

 

(アイツは……優しいままだ)

 

 拒絶するだけなら言葉が通じる様にしなくても良かったはずだ。その身に宿す力で壊し、殺し、消せば良い。しかし彼はそれをしなかった。

 響はそこにコマチの面影を見た。

 

 諦めない。絶対に。

 

 心にそう決めた響はガングニールを纏い、獣の後を追った。絶対に未来を変える為に。

 

 ……その際、彼が食い散らかしたであろう動物の肉片は避けた。

 どうやらガツガツと食べる癖は五千年以上前から変わっていない様だ。

 とりあえず、追いついたら返り血を拭おう。

 そう心に決めた響は獣を追いかけた。

 

 

 第五話「誰が為のヒカリ」

 

 

『何故着いて来る。人間』

 

 響が獣と行動を共にするようになって三日が経った。

 初めは警戒し逃げていた獣だったが、翌日には無視し、その次の日には響の存在にイラつき始め、そして今日ついに問いかけた。

 それに対して響の答えは決まっていた。

 

「アンタを救う為」

『くだらん』

 

 しかし、彼女の言葉を獣は真面に受け取らなかった。

 

『貴様もどうせ、あの研究所の奴らと同じ目的なのだろう』

「……研究所?」

『そうやって惚けていると良い。だが──』

 

 獣がブンッとスプーンを振るうと、地面に円状に線が描かれた。

 

『この線を超えた範囲に近づけば──私はお前を殺す』

「──」

 

 響は、彼が自分に「殺す」と言った事にショックを受け。

 

『それが嫌なら──さっさと自分の居場所に帰るんだな』

 

 それと同時に、根っこの部分は変わっていない事に安堵する。

 

『私は誰も信じない』

 

 だからこそ──今の彼の姿に悲しみを覚えた。

 

 今日はそれ以上響が話しかけても──獣は応える事はなかった。

 

 

 ◆

 

 

『まだ居たのか』

「……諦めるつもりは無いから」

 

 あれからさらに一週間経った。

 獣は呆れた様子で響を見た。初めの頃に比べて獣は響に対して警戒しなくなって来た。この十数日、彼を害する事なく側に居続けるだけだった響に対して、獣の中で敵からよく分からない奴へと変わったのだろう。

 敵が近くに居る際には食事をしない獣が、響が側に居ても食事をする事からもそれが伺えた。

 

『……』

「……」

 

 先ほど狩ったばかりの獣を焼いてから食い始める獣。最近は生肉ばかりで飽きたらしい。しかし食べにくいと思っていた。

 焼いたから、ではない。響の視線が気になるからだ。

 獣の記憶の中で、響が食事をした姿を見ていない。普通の人間なら死んでいる筈だが、どうやら彼女の体の中の時間が止まっているらしく、老いる事も餓死する事もなさそうだった。

 しかし精神はその限りではなく、腹が減らなくても目の前の肉が美味しそうだと感じるらしく垂れる涎を止める事ができていなかった。

 

 ──だから帰れと言ったのに。

 

 だが、獣に施しをする必要はない。

 獣は響の視線を無視し、そのまま全ての肉の食事を終え、結界を張ってそのまま眠りに着いた。敵が来たらすぐに起きれる様に、響が妙な事をすればすぐに動ける様に浅く、最低限体力が回復する様に。

 

 その次の日も、響はずっと獣の側にいた。

 その次の日も。その次の次の日も。さらにその──。

 

『──目障りだ!』

 

 ある日、獣は響にスプーンを突きつけながら怒鳴った。

 

『私に何をするでもなく、ただずっと側に居て──貴様は何がしたい!?』

 

 獣の問いに、響は──。

 

「アンタを救う為」

『……っ!』

 

 響はあの日と変わらない答えを口にし、それに獣は激しい苛立ちを表情に浮かべ。

 

『くだらん』

 

 彼もまた同じ言葉を、しかしあの日と少し違って心を揺さぶられながら呟いた。

 

 その日、獣は焼いた肉を残し。

 それを響に向かってぶん投げ、彼女は思わず齧り付き。

 その姿に品位もクソもないな、と相変わらず響を不快そうに見ていた。

 

 

 ◆

 

 

「何を見ているの?」

『……人間だ』

 

 あれから一ヶ月が経った。

 時が経ち、獣は簡単な受け答えなら応じる様になっていた。

 荒野にある崖上から遠くを見つめる獣の後ろから響が尋ねると、彼は答えつつ地平線の彼方をスプーンで示す。当然人間である響には見えない距離だ。

 

『この世界の人間は統一言語とやらで繋がっている。言葉を介さずに連携し狩りをするあの姿は、私の知る人間の何歩先も進んでいる』

「統一言語……」

『故に不可解だ』

 

 ジロリと獣が響を見る。

 

『種は同じなのに、貴様はアイツらを違う』

「っ……それは」

『ふん。自覚はしている……いや、知っているというべきか』

 

 興味を失ったのか、獣はこの世界の人間からも、響からも視線を外しまた当ても無く進み始める。

 響はその背中を見て──寂しそうだと思った。

 彼は他者と繋がりたくないと言いながら、こうして繋がっている人を見続ける。その瞳に情景を宿して。

 

 響はスプーンの射程範囲よりも中に入って獣の後を追った。

 獣は何もしなかった。

 

 

 ◆

 

 

『私はこの時代の未来からやって来た』

「……!」

 

 響がこの時代にやって来て半年が経った。

 流石に時間が経ち過ぎたのか。それともずっと側に居るにも関わらず害を為さない響を障害と感じなくなったのか。獣は響が着いて来ても文句を言う事がなくなった。

 それどころか、一週間に一度には響の作る料理を口にする様になった。

 美味しいとも、ありがとうとも言わないが。

 

 そんなある日の夜。獣は自分の事を語り始めた。

 

『私がこの世界に来た時、今ほどの力を有していなかった』

 

 使える力も小石を浮かせたり、マッチ程度の火を起こせたりと大したものではなかった。

 しかし彼には一つだけ特別な力があった。

 

『私には、聖遺物を吸収し我が物とする力があった』

 

 獣は響のシンフォギアを見ながらそう言った。

 彼を捉えた研究所の人間達は、どういう訳か獣の事を知っており、完全聖遺物キマイラと呼び──彼が苦しみ、悶え、泣き叫ぶ中次々と聖遺物を埋め込んでいった。

 

『痛かった』

 

 しかし大人達はやめてくれない。

 

『怖かった』

 

 しかし大人達は笑い続ける。

 

『だから私は──僕は願った』

 

 肉付けされた獣の仮面が外れ、怯えた一人の子どもが顔を出す。

 

『此処から逃げたいと。もう傷つけられたくないと。こんな目に遭いたくないと』

 

 結果──獣は研究所事、過去へと逃げ出した。

 そして、記憶の底にある獣にとっての力のある存在──ミュウの姿へと変わり、さらに傷つけられない為にミュウツーへと姿を変えた。

 

 獣は、彼は──その子どもは、少し変わった力があるだけの人間だった。

 

 それが、悪意を持つ大人達によって獣へと、力へと無理矢理変えられた。

 

 それがアカシアの正体。

 

 それが完全聖遺物キマイラの正体。

 

 万を越え、億に至る姿を変える聖遺物の力を宿した怪物。

 

 身と心を傷つけられ、癒えない恐怖と蝕む孤独感により──彼は人を信じない。

 

 彼が初めて起こした奇跡は誰かを救う為ではなく、自分が助かる為の独りよがりのものであった。

 

『……分かっただろう。私を救う事はできない。私と一緒に居れば不幸に──』

 

 獣の言葉が途中で止まった。何故なら。

 

『──何故、お前が泣いている?』

 

 拳を握り締めて、涙を流している響を見てしまった為。

 彼女は泣いていた。彼を想って。

 彼女は泣いていた。彼の代わりに。

 彼女は泣いていた。──泣けない彼の事が悲しくて。

 

「──アンタが、泣かないからだよ!」

『──』

 

 その涙は──獣の胸に温かく響いた。

 

 

 ◆

 

 

『──私はこの世界に来る前に、罪を犯していた』

 

 一年が経ち、獣は響に己の事を話し始めた。

 

『実は、私が異世界に来るのは今回が初めてではない。二度目なんだ』

 

 獣はかつて普通の人間だった。

 響達の世界のようなノイズはなく、ポケモンも居ない普通の世界。

 その世界で彼は普通の人生を歩んでおり、ある日交通事故により亡くなった。

 そしてその世界での記憶を持ったまま次の世界に行き、半端に記憶があるせいで早熟となり、親に捨てられる。

 さらに彼を拾った大人はいわゆる悪い人間で、その世界で10歳の時、彼はポケモンを使って悪事を働き、組織に貢献する兵士として育てられた。

 

 環境が彼を悪人にした。

 

 彼の行いが巡りめぐってたくさんの人とポケモンを死なせた。

 殺したのではなく、死なせたという表現は、実行犯は組織の長であり、彼の行いは組織全体から見れば他の者の行いと大差ないものだった。

 しかし──罰を受けたのは彼だけだった。

 その時にたくさん死んだ人間の中に──彼以外の組織の構成員が含まれていた。

 彼を拾った大人も、彼を兵士として育てた大人も、彼と同じ境遇だった少年少女も──彼以外死んだ。

 

 彼だけは運良く──否、運悪く生き残った。

 

 生き残ってしまった彼は──その罪全てを背負わされ、罰を与えられ──組織の被害者に、組織を許せない正義の心を持つ民衆に、その正義に乗っかった人間達に殺された。

 

 そして彼は──アルセウスにより、この世界に送り込まれた。

 

『何故あの人が私をこの世界に送ったのかは分からない。哀れみか。それとも犯した罪に対する罰か。または神による気まぐれか』

「……」

『だからヒビキ』

 

 一年も経てば情が湧き、その人間を理解し、好み──だからこそ彼は彼女を拒絶する。

 

『私を救う必要はない』

 

 かつてコマチは響に言った。

 罪を犯した者が罰を受けるのだと。

 そしてその者を救う必要は無いのだと、獣は優しく響に語りかけた。

 

「──だとしても」

 

 しかし、それでも響は。

 

「わたしは、アンタを諦めない……!」

『──』

 

 その言葉を聞いて獣は、彼女の優しさと獣を想って悲しむその心に嬉しく思い、思わず「五文字」の言葉を送ろうとし──その資格が自分には無いのだと、己を戒めて、それ以上は何も言わなかった。

 

 

 それから二週間後。

 二人は運命の──未来を決定づける出会いをする。

 

 




コマチと響が始めから会話できていた理由。
第一章翳り歩む日陰編でコマチと響が何の障害も無くスルッと会話できたのは過去に飛んだ響とかつてのコマチ、獣がテレパシーでチャンネルを合わせて、それが五千年後も生きていた為。尚他の装者達はコマチの意志を身振り手振り、声のニュアンス、筆記、波導、そして魂に刻みがれた歌により理解しています。シンフォギア装者達がコマチの意志を難なく理解できるのは彼女達が装者だからであり、響だけがコマチの言葉を理解している。

【「あらゆる聖遺物が彼に与えられました。姿を変える力。人を殺す力。力を操る力。生き物を生み出す力。できる事を増やせば、願いの幅も広がると信じていたのでしょうね」
 
 しかし、度重なる実験に嫌気が差し、ある日キマイラは消え──すぐに見つけた。】

第三章 波導・ガングニール編 第五話「創造──人の業。人の罪。人の悪意」

これは本編で語られている通り、アカシアがまだ人間の姿でこの世界に来た際にFISに完全聖遺物キマイラとして捕らえられ実験動物にさせられて、過去に逃げて、そして五千年後にFISに再び捕まったという訳です。
また、第三章第五話のタイトルはウェルがホムンクルスを作ったからこのタイトル、という意味の他にこの話の本質を表しています。

そして本編の解説ですが
主人公は現実世界(ポケモンがゲームとしてある世界)→ポケモン世界→シンフォギア世界へと転生をしている、という意味です。
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