【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第七話「風といっしょに」

『──待ってほしいだと?』

 

 アルセウスは己が送り出した魂の異常を察知し、響達の世界へとやって来た。

 そして、そこで知ったのは──彼がこれからたくさんの人を殺すという事。

 既に滅びの歌を止める段階はとうの昔に過ぎており、アルセウスでも止める事はできない。後は原因である彼は──アカシアを消して歴史を修正する事でしか、この世界を救えない。

 

 にも関わらず、エンキとアカシアは待って欲しいとアルセウスに嘆願した。

 

『無理だ。このままではこの世界が滅ぶ。それを見逃せと?』

「違う! 俺達は諦めないと誓ったんだ! 彼女と!」

「記憶は無いけど、感情が、心が諦めたくないと言っている」

 

 彼らは希望を諦めない。

 

「もし間に合わなければ、バラルを使ってでも時間を稼ぐ」

「だからアルセウス──どうかボク達に時間をくれ」

 

 エンキとアカシアは──あの日の別れを胸に、アルセウスを説得し。

 そしてその願いは聞き遂げられ──五千年後に約束は果たされる。

 

 彼らが人類を救えないその時は、アルセウスがアカシアを裁く、と。

 

 これは、バラルの呪詛が施される一週間前の話であり。

 響がエンキとアカシア──否、コマチ達と約束をした数年後の話だ。

 

 時は遡る──。

 

 

 ◆

 

 

 ──止める事ができなかった。

 

 響の中に払いきれない闇と絶望が大きくなっていく。滅びの歌を止めて未来を変える為に過去に来たのに──自分のせいでコマチは唄ってしまった。

 

「──ぁ」

 

 そうだ──自分のせいだ。

 コマチは一度立ち止まろうとしていた。ラルメルの死に絶望し、男たちを殺した後にその事を悔いて──響が傷付いているのを見て唄った。

 

 何故響は怪我を負った? 石をぶつけられたからだ。シンフォギアを身に纏っていれば回避できた事だ。

 

 何故シンフォギアを纏えなかった? 研究者の撃った弾丸をコマチから庇った為。もっと他の方法を取っていればシンフォギアを纏う事ができた為。

 

 そもそも何故このような事になった? ラルメルが攫われたから。

 何故攫われた? 男たちがコマチに復讐する為。

 何故──彼はラルメルや響を見捨てる事ができなかった? 

 それは──響と出会い、変わってしまった為。

 

「──わたしの、せいじゃないか……!」

 

 運が悪かったと言えればどれだけ楽だろうか。

 響は自分の行動がどんどん悪い方向へと進めているようで、そしてそれがコマチを傷つけ──ラルメルを死なせてしまって、立ち上がる事ができなかった。

 

 しかし。

 

『ニンゲン──コロス!』

「──っ!?」

 

 シャドーボールを形成し、獣を見上げている村人達を殺そうとしている彼を見た途端──響は無理矢理ガングニールを纏い、跳躍して獣に抱き着いて止めた。

 

『ハナセ!』

「離さない! ──殺させない!」

『──』

「もうアンタを苦しませたくない!」

 

 そう叫んで響は獣とラルメルの遺体を回収すると、村を飛び出した。

 人気の無い所に連れて行き、獣を落ち着かせる為。そしてラルメルを安らかに眠らせる為。

 

「ああ。神よ」

「我らに審判を下すのでは無かったのですか?」

「我ら一同、いつまでもお待ちしております」

 

 そして村の人達は、走り去っていく響に抱えられた獣を崇拝しながらその様な事を呟いた。

 

 その狂った信仰は五千年後にも強く根付いていた。

 

 

 ◆

 

 

「……」

『……』

 

 周りに人気が無い事を確認した後、響はラルメルを埋葬した。

 その際力の暴走が収まった獣が彼女の体を綺麗に直し──しかし目覚める事はなく、そのまま永遠の別れとなった。

 その後、二人は何も言わず、何も語らずラルメルの眠る墓の前で黙って座っていた。

 二人の間にあるのは──後悔だった。救えなかった。変えれなかった。その思いが彼らを蝕んでいく。

 

『これで、分かっただろう』

 

 ふと獣が呟く。

 

『私と一緒に居れば不幸になる──そして』

 

 獣は泣き出しそうな声で、言葉を吐き出した。

 

『私は──これからたくさんの人を殺す』

「──っ」

『──私が存在したばかりに、人は』

 

 響はそれ以上の言葉を──悲しみの言葉を言わせたくなくて、獣に抱き締めた。

 獣は、振り払う力も、拒絶する意志も持たなかった。

 ただただされるがままで、そんな彼に響が叫ぶ。

 

「アンタは……アンタは悪くない!」

 

 ──彼は人を殺した。

 

「アンタはたくさんの人を助けてきた」

 

 ──彼は無関係の人間にも呪いを掛けた。

 

「もう十分苦しんだ!」

 

 ──そしてその罪を忘れて五千年過ごした。

 

「もう十分泣いた!」

 

 ──全てを思い出した彼は、己の死を望んだ。

 

「もう──もう……逃げてよ……」

 

 それが響はとても悲しかった。

 

「何で優しいアンタが、こんな目に、こんな思いしないといけないんだ……!」

 

 そして、救えない自分が大嫌いで。

 そんな自分を好きだと、救ってくれたコマチが大好きで。

 

「──コマチ……!」

『──』

 

 彼女は──コマチの為に泣いた。

 その涙を見た獣は──コマチは呆然と、しかし全てを理解した。

 響の存在と──この時代に、この場所にやって来たその意味を。

 

『そうか……私は』

 

 ──アナタのお名前は何て言うの? 

 

『未来でキミと出会うのだな』

 

 コマチは──愛おしげに響を抱き締め返した。

 

 

 ◆

 

 

『──っ!』

「コマチ……?」

 

 コマチは、近づいて来る強い力に反応を示し、響を庇う様に立ち上がる。響が呆然と彼の名前を呼ぶと同時に──彼女達の前に一つの流星が舞い降りた。

 

「──君たちは何者だ?」

「アナタは……」

「オレはエンキ──この星の人々の異変を察知して此処に来た」

 

 エンキはそう言って──コマチを見る。

 

「なるほど……君の仕業か」

 

 エンキは、目の前の存在から自分達と同種の力を感じ取り、それがこの星の人々の魂に宿っているのを理解した。

 響は咄嗟にコマチの前に出て叫ぶ。

 

「待ってください! コマチは──」

『待てヒビキ。……全て話す』

「コマチ!」

『どうせすぐに分かる事が──私は裁かれるべきで、彼には私を裁く権利がある』

 

 彼はそう言って響を優しく後ろにやって──エンキに全てを話した。

 話を聞いたエンキは険しい表情を浮かべる。

 本来なら彼を処断するべきなのだろう。しかしエンキは彼に同情し、そして響の嘆願を無視する程非常に慣れなかった。

 だから彼が口にした言葉は、彼らに寄り添ったものだった。

 

「……どうにか解除できないのか?」

『……無理だ。暴走した状態で行使した結果、本来の効果よりも凶悪になっている。私が死んでも必ず発動をする。──この世界の人類が繋がっているが故に、死の呪いは連鎖する』

「……繋がり、か」

 

 その言葉を聞いてエンキは一つだけ解決方法を思い出す。それはある理由から制作が進められていたネットワークジャマー。それを使えば滅びの歌の発動を止める事ができる。

 しかしそれは──人から統一言語を奪う事を意味する。

 エンキがその方法を伝えると、コマチを首を横に振った。

 

『確かにそれを使えば私との接続が切れる。その後私を殺せば滅びの歌は発動しつつも止まる──だがそれだといつかは発動する。延命措置に過ぎない』

 

 ──滅びの歌は常にカウントを進めている。術者が居なくなれば繋がりを持たずともそのひと個人の中で発動し──殺す。

 それを回避するにはコマチ自身が常に側に居て技の始動をリセットし、その後発動前に死ぬしかない。

 そうすればコマチの力は霧散し、技は発動しない。

 

 バラルの呪詛による人の繋がりの切断と、コマチの無限転生による技のリセット。この二つでようやく滅びの歌の発動を遅らせる事ができる。

 だがそれは同時に滅びの歌がコマチによって永遠と残り続ける事を意味し、根本的な解決にはなっておらず──探さなければならない。

 滅びの歌を消す方法を。

 

「──俺も協力しよう」

『……先ほどからイヤに協力的だが』

「……君たちを見ていると分かる。優しく、互いに想い合うその姿は、俺が人に求めていたもの」

 

 完全ではなく不完全を、可能性を見せる人類のその先を──エンキは信じていた。

 

「死なせたくない、と──そう思った」

 

 だが──とエンキは悲しそうな顔をして響を見る。

 

「ヒビキ、だったな」

「はい」

「これだけは言っておく──過去は変える事ができない」

 

 ──シェム・ハはかつてディアルガの力で過去へと戻った。

 

「え……」

「君のその過去に戻ったという行為自体、本来の歴史に組み込まれているものなんだ」

 

 ──そして、もう一人の自分と会い「ああ、そういう事か」とすぐに受け入れた。

 

「──」

「だから──申し訳ないが、君が元いた世界で起きた事は変えられない」

 

 ──シェム・ハはアカシアを救う為に何でもした。しかし過去へと飛び、歴史の改変だけはしなかった。否、できなかった。

 

「そん、な」

「それがこの世界のルールだ」

 

 響に突きつけられる絶望。

 コマチは知っていたのか、視線を逸らす──響の目的、心を察して。

 

 響の目の前が真っ暗になりそうになる。

 

 しかし。

 

 それでも。

 

 ──だとしても! 

 

「──あき、らめない!」

『──!』

「わたしは絶対にコマチを救う! 例えそれが世界のルールだとしても! もしそれがダメなら別の方法で! ──コマチから貰った奇跡で、この花咲く勇気で、絶対に、明日に続く未来を掴んでみせる!」

 

 その言葉は──コマチにとっての希望になっていた。

 彼は自分は死ぬべきだと、死にたいと思っていた。

 でも、死ぬ訳にはいかなくなった。諦める訳には行かなくなった。

 

 彼は──もう迷わない。

 

『──ヒビキ』

 

 彼の声に、響がコマチを見る。

 

『お願いだ──助けてくれ』

 

 その言葉に響は──。

 

「──もちろん」

 

 当然の様にそう答えた。

 

 なお昏き深淵の底から、自分の大切な日陰を救い出すために。

 

 

 第七話「風といっしょに」

 

 

「──え?」

 

 瞬間、響の体がふわりと浮かび上がり、突然開いた次元の裂け目へと吸い込まれようとしていた。

 もうこの時代でできる事はないという意味か。それともディアルガの意思か。はたまた力の喪失か。

 理由は定かではないが──響とコマチの別れの時が来た。

 

「──コマチ!」

 

 響が手を差し伸ばすが──コマチは首を横に振ってそれを拒絶する。

 

『君と手を繋ぐべきなのはこの時代の私ではない──未来の私だ』

「……っ」

『君は未来の私を救いに来たのだろう? ──なら、こんな所で止まっている場合ではない』

 

 響が泣きそうな顔をするが、反対にコマチは嬉しさで胸がいっぱいだった。

 どれだけ邪険に扱っても、どれだけ人に絶望しても、彼女は彼の隣に居続け、そのお日様の様な温かさでコマチを癒し、花咲く勇気で手を繋いでくれた。

 そしてどれだけ絶望に侵されても「だとしても」と諦めないその姿に──彼は憧れた。

 それこそ何度も死に、殺され、拒絶され、記憶を失っても、五千年経っても彼の根幹に刻み込まれる程には。

 彼は──次からは、この力で彼女の様に人を救いたいと、寄り添いたいと想った。

 

 そんな彼の表情を見た響は──涙を流しながら叫ぶ。

 

「──必ず」

 

 響が叫ぶ。

 

「必ず助けるから! またいつもみたいにバカやって、みんなと笑い合える当たり前の日常を取り戻すから!」

 

 底抜けでお人好しで、優しくて、ちょっぴりえっちで、ご飯を限界まで食べて苦しんで、それをみんなが心配して──でも最後には笑顔になる当たり前の日常。

 それを響は──大切な居場所を取り戻すと誓う。

 

「だから──未来で待ってて!」

『──うん、待ってるよ……響ちゃん』

 

 その言葉を最後に響は──次元の裂け目の奥へと消え、この時代から立ち去った。

 約束を結んで。コマチとの日々を想って。

 

 彼女を見送ったコマチは、エンキに言う。

 

『私は一度死に、滅びの歌をリセットする』

「……それは」

『ああ。私の蓄積された全てが無くなる。力も。記憶も』

 

 それはつまり響との想い出も手放すという事。

 しかし彼に恐れは無かった。

 彼女と約束したからだ。

 彼はその未来に向かってどこまでも歩き続けて、大地を踏み締めて、目指したあの夢を掴むまで──諦めない。

 

 だから今は──(うた)といっしょに立ち止まる時だ。

 コマチの力が高まり──彼の最期の願いが、彼を包み込んでいく。

 

『次は──強くなくて良い。

 凄い力があっても人を殺すだけに特化した今の私ではなく。

 凄い力があっても誰かを助ける為の力を、誰かと手を繋ぐ事ができる私になりたい。

 人が恐れる私でなくて良い。

 見るだけで逃げ出すような大きな体も、威圧する姿もいらない。

 小さくて、人が簡単に抱える事ができて、抱き締める事ができる私が良い。

 そして──響ちゃんみたいになりたい。

 花咲く勇気を胸に人に手を伸ばして、人を恐れず、人を信じ、人を愛する事ができる様になりたい。

 そんな──価値のあるものに変わりたい』

 

 コマチの願いは聞き遂げられ、そこにエンキに一つお願いをする。

 

『エンキ、私に名前を付けてくれ』

「名前……しかし君は」

「コマチは私に付けられるべき名前ではない。コマチは今私に付けられるべきではない。

 あれは彼女と彼女の隣に寄り添う未来の私だけのものだ。

 だから──どうかよろしく頼む』

「──分かった」

 

 エンキはコマチの願いを承諾し──神からの祝福を送った。

 

「アクシアという言葉がある。価値あるものという意味を持つ言葉だ。

 しかし今君にそれを送っても、君の中にある後悔がそれを受け入れないだろう。

 だから一つ文字を変えて──アカシア。

 俺の知っている花の名前であり──これから隣に立つ俺からの友情の証として、どうか受け取って欲しい」

 

 アカシアの花言葉は友情、豊かな感受性、気まぐれな恋、そして──秘密の恋。

 これからはエンキだけが知る彼らの事を、その想いを名前に込めて、いつかの未来で彼女に届く様にと……そんな願いが込められた名前。

 コマチはその名を魂に刻み込み。

 

『──ああ。私には勿体ない名だ。

 ありがとうエンキ。そしてさよなら──そして、これからもよろしく頼む』

 

 その言葉を最期にコマチは光に包まれ──。

 

「──ミュウ?」

 

 ──アカシアとなった。

 

 

 ◆

 

 

「ミュ? ミュウミュウミュ〜ウ」

「やぁ、初めまして」

「ミュウ!?」

「俺の名前はエンキ。君の名前は?」

「ミュウ……」

「そうか。名前が無いのか。……良かったら俺が名付けようか?」

「ミュウ!」

「そうだな。君の名前は──」

 

 こうして、アカシアをエンキは温かく迎え入れた。何も知らない。忘れる事を選んだパートナーを。

 響との約束を守る為に、守らせる為に、未来を掴む為に。




第二章。幾千超えて変わらぬ恋、幾千超えて変わる愛。これはフィーネの事であり、エンキの事であり、響の事であり、コマチの事でもありました。

名前について。
彼の本当の名前がアカシアなのは確かです。コマチと名付けられたのはあくまで未来。しかし彼の心の中では一番初めはコマチと思っていました。それだけの強い想いがあり、結果……。

 ──コマチのシャドーボール! 
 ──アカシアのサイコキネシス! 
 ──アカシアのはかいこうせん! 

第四章 獣の奏者キャロル編 第十七話「世界を識るための歌」にて、
アカシッククロニクル、タイプ・シンフォニーで過去のアカシアを再現した際に、初代・ミュウツー(コマチ)。二代目・ミュウ(アカシア)三代目・エムリット(アカシア)と一番古い順番に技を出した際に出てきました。

そして基本可愛いポケモン系のマスコットタイプが多いのは、彼が強さよりも人と寄り添える姿を願ったからです。

今話のタイトルはミュウツーの逆襲より「風といっしょに」です。
ミュウツー繋がりなのと、始まりの歌の歌詞から来ています。
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