【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第八話「君が泣かない世界に」

 次元の境目に吸い込まれ、過去から現代へと送られる中、響は声を張り上げてディアルガに願った。

 

「ディアルガ、お願い! わたしはまだ帰るわけには行かない!」

 

 響は約束した。全てが解決した世界で、未来でコマチと出会うと。

 ならば、一度失敗した程度で、そういう決まりだからと、世界のルールに縛られるつもりは毛頭なかった。

 

「わたしはありとあらゆる過去で、コマチを救う方法を探し出してみせる! ──それに」

 

 響が思い出すのは、共に戦って来た仲間たち。彼女たちなら、もしかしたら響が見つける事ができなかった方法を見つける事ができるかもしれない。

 だから、現代はみんなに任せる。

 その間に、響は時間が許す限り過去で抗うつもりだ──運命に。

 

 ディアルガは響の願いを聞き入れ──彼女を再び過去に送った。

 

「──ありがとう!」

 

 ディアルガにお礼を言い、響はそれから──体感時間で約五千年間過去を彷徨う事になる。

 あらゆる時間を、あらゆる場所を。

 

 

 第八話「君が泣かない世界を」

 

 

 響は繰り返した。コマチを救う為に。

 

 しかし、見つからない。

 

 何をしても、何を探しても、何もしなくても──あの未来へと初めから決まっているかの様に歴史が紡がれていく。

 

 ラルメルを、家族を救おうとしたが絶対に間に合わず彼女は死ぬ。

 研究者たちを止めようと……殺そうとしたが、最終的に逃げられ、あの最悪の結末を迎えてしまう。

 

 その後もエンキに協力しても、シェム・ハを支援しても、フィーネを導いても──未来が変わらない。

 

 結局先史文明期ではコマチを救う方法は見つけられず、バラルの呪詛を発動させるしかなく──シェム・ハ、エンキ、アカシアの死を見届けて彼女は別の時代で救う事を決意した。

 

「次だ」

 

 その時代では真実を伝えられず、エンキに見限られたと思い込んだフィーネとアカシアが居た。

 バラルの呪詛を解除しようとするフィーネと、それを記憶を失った故に手伝うアカシア。

 

 響は彼女達の前に現さなかった。

 厳密にはできなかった、が正しい。

 フィーネが響と初めて出会ったのはずっと先の未来で、この時代で出会った素振りを見せていなかった。

 それは先史文明期のシェム・ハも同様で、結局直接会うことはできなかった。

 

 だからこの時代もそうだと分かりつつも、フィーネの行動から何か手掛かりがあるのではと行動を監視し──彼女は再び人の悪意を目撃する。

 

 統一言語を奪われ、繋がりを隔たれた人間は隣人同士で争い合い、他者を拒絶する。

 

 しかしそんな人間達でも協力する時があった──それは、アカシアを殺す時。

 

 彼らはアカシアという存在を恐れた。それも理由もなく──否。

 

 確かに普通の人間……それこそフィーネから見れば、人間は何故かアカシアを拒絶し、殺そうとする。

 しかし全てを知った響は──その理由を理解していた。

 魂に刻み込まれた滅びの歌が、人間達の本能に働きかけアカシアを恐れる。自分達を殺そうとする猛獣を恐れ、殺される前に殺すのは──人として当たり前の防衛本能。

 

 結果、彼らは無抵抗のアカシアを殺し、フィーネに、響に人間への絶望を植え付ける。

 

 それでもフィーネはアカシアと約束し、諦めなかった。

 

 それでも響はコマチとの約束を思い出し、諦めなかった。

 

 例え、その心に人への信頼を失墜させようとも。

 

 それからもアカシアは殺され続け、フィーネはバラルの呪詛を解く為に翻弄し、響は希望を探し続ける。

 

 そんな中、一つの兵器が作られた。

 それは人が人を殺すために作られた、未来では特異災害と呼ばれる──人を殺す為の兵器ノイズ。

 しかしこのノイズには人を殺す以外にもう一つ、それこそそれよりも優先して作られた機能があった。

 それは──アカシアへの殺意。

 ノイズはアカシアを見つければ、人を無視して殺そうとする機能が備えられた。完全聖遺物であるアカシアはノイズに全く負けないが、ノイズが襲った先にはアカシアが居る為、人は効率良くアカシアを祈って殺す事ができた。

 

 それを知った響は──何でコマチはこんな奴らの為に苦しまなくてはならないのだろう? と思い。

 しかし彼との約束が彼女を踏み留まらせた。

 

 結局、フィーネの近くに居ても響はコマチを救う方法を見つけられなかった。

 

「諦めない」

 

 

 その時代では、友と出会い不完全を学ぼうとし、しかし友に対する理不尽に人類に失望し、事実を知って全てに絶望したヒトデナシが居た。

 響はそのヒトデナシ──アダムと三度接触する事ができた。

 

 一度目はアカシアの友であり、人類を見守る守護者だった時のアダム。

 

「何者なんだい、君は。妙な力を持っているようだが、ヒトにしては」

「……」

 

 アダムは響が自分を、正確には自分とアカシアを監視している事に気付いていた。しかし彼女から悪意を感じ取らなかった為放置していたのだが、やはり気になったのか接触した。

 

「そこまでしなくて良いよ、警戒は。それと席を外して貰っているよ、アカシアには」

「……!」

「悟られたく無いのだろう、彼には?」

 

 アダムは響に気を遣って、アカシアの彼女の事を伝えなかった。

 響の知るアダムなら嫌がらせか策略を疑う所だが──目の前のアダムは違う。

 

「まだだったね自己紹介が。僕は錬金術師協会統制局長、アダム・ヴァイスハウプト──君達を見守る者さ」

 

 目の前の彼には人類に対する愛が、敬意が、真摯さがあった。

 友が信じ、寄り添う人類の可能性に、完全である自分には無い不完全の可能性に興味を示している──原初の人間。

 彼が響に対して優しく声をかけるも、響の声は固い。

 

「……ごめん、わたしは名乗れない」

「ふむ……あるようだね、事情が」

 

 アダムは、響の言葉に嫌悪感も不快感も疑いを持つ事なく受け入れる。

 そういう事ならそれで良い、と。

 話せる時がくればその時に話してくれれば良いと思っていた。

 

「ともかく聞こうではないか、君の話を。僕の弟子が作ったお菓子でも食べて」

 

 変装の錬金術や料理ばかりが上手い、不詳の弟子だがねとアダムは笑いながらそう言った。

 

 その笑い声には──感情が込もっていた。

 

「アカシアと居て気付いた事、か」

 

 パキッと食しながらアダムは響の質問を繰り返して言葉にする。

 響は未来の事も、過去の事もアダムに話すつもりはなかった。

 事実を知って凶行に走った彼を知っているが故に。

 アダムは響の質問を頭の中で咀嚼し、飲み込み、自分なりの答えを彼女に伝える。

 

「お人好しだね、頭にバカが付くほどの」

 

 アダムは思い出し、笑いながら答える。

 

「彼は僕を変えたんだ、愚かだった僕を。完全ではなく不完全を選んだ神に不満を抱き腐っていた僕に言ったんだ【反省しろ】とね」

「──反省?」

「ああ。恥ずかしい話だが……僕はかつて害していた人間を。そこにアカシアが現れ、僕を叩きのめし──知らないなら知るべきだと、完全で満足するなと言った」

「……」

「そして──なったのさ、僕の掛け替えの無い友に」

 

 感謝しているのだろう。好きなのだろう。

 アカシアを語る時のアダムの顔はとても優しいものだった。

 

 だからこそ──。

 

「……時々怖いけどね、その優しさが」

「……」

 

 響はアダムのその不安に答えを示す事ができず。

 その後は大した情報を得る事ができず。

 それっきりしばらくアダムと接触できなくなった。

 

 次に接触できたのは、アダムが人間を見限った時だった。

 彼は、神の力を得て人類を支配し、二度とアカシアが奇跡を起こして死なないで良い世界を作ろうとしていた。その為に錬金術師協会を抜け、パヴァリア光明結社を設立し、様々な方法で神の力を求めていた。

 その為には罪人も、悪人も、罪なき人も、善人も──関係なく平等にアダムに利用され、たくさんの人が死んでいった。

 

 響はそれを見てもあまり心が動かなかった。

 それどころか──コマチを殺す人間を思い出し、彼の痛みはこの程度ではないと思った程だ。

 

 響はパヴァリアの構成員に連れられ、アダムの執務室に連れて来られる。通された部屋は装飾が豪華で──かつて菓子を共に食べたあの部屋に比べると月とスッポン程の差があった。

 

「思っていたよ、会えるとね」

「……」

「時が経っても変わらない姿と妙な力。察するね色々と」

 

 目の前のアダムは、響の記憶の中のアダムに近付いていた。

 

「見たまえ、そっくりだろう君と?」

「……これは」

「アンティキティエラ──アカシアを救うための道具さ」

 

 アダムは──もうアカシアしか見えていなかった。

 彼と過ごした日々も。彼と語り合った夜も。彼と喧嘩した思い出も。

 それら全てを胸の奥に仕舞い込み、アカシアだけを救おうとしていた。

 そして彼を救う為には──響が必要だと思っていた。

 

「探していたんだ、ずっと。しかし見つからなかった、ずっと。──そして気付いたんだ、君の正体に」

 

 アダムは──神の摂理を知っている。

 故に、過去の改変ができない事も知っており、それと同時に人類の事も深く理解しており。

 

「──跳んだのだろう、過去へ。そして足掻いている、醜く」

 

 かつて響を気遣っていたアダムの姿はそこになく、ただ目的を遂行する為に冷徹なヒトデナシとなったアダムだけが響の前に居た。

 

「肯定するよ、僕だけは。何故なら同じだからだ、君と僕は」

 

 それだけ伝えたかったのだろう。

 響はアダムの部下によってパヴァリアから追い出され──それから結社の悪行を見続ける事となる。

 

 苦しみもがく人間が居た。響は助けなかった。こういう運命なのだからと無意識に考えていた。

 アカシア・クローンが利用され始めた。響は助けなかった。彼女が助けたいのはクローンではなく本物だから。

 

 響はコマチを助ける為に、未来を手に入れる為に。目の前の、過去の犠牲となった人間とクローン達を見捨て続け──完全に外道に堕ちたアダムと最期に言葉を交わした。

 

「──この為だったのか、君が過去に来たのは」

 

 アダムは──フロンティアでアカシアの身に起きた全ての事を知った。

 それを知る事ができたのは──響が書き記した為。

 そこに書けば彼が知る事ができると考え、動きを制限される事なく成功し──響は自分のせいでアダムが外道に堕ちたのだと理解した。

 

 アダムが過激になればなるほどアカシアを救う情報が手に入る。

 人体実験を繰り返していけば、アカシアが人を殺して悲しむ未来を見なくて済むと、そう考えていた。

 

「礼を言うよ、未来の人間。これで僕は迷いが無くなった──人類を抹殺する事を」

 

 それを最後に響はアダムと出会うことは二度となかった。

 しかし響はそれに対して何ら興味を示さず、この時代もダメだったかと次の時代に向かう。

 

「まだまだ」

 

 

 響は懐かしい風景を見た。

 彼女は、自分達がシェム・ハと戦っている時代にやって来た。

 一つ確認したい事があり、彼女は月遺跡に足を踏み入れ時が来るまで隠れている事にした。

 

「誰?」

「……」

 

 しかし調達に勘づかれてしまい──別に良いかと姿を表す。すると彼女達はホッとした表情を浮かべた。どうやらこの時代の響と勘違いしているらしい。

 だがそれよりも響が気になるのは──ノーブルレッドのエルザだ。思わずジッと彼女を見てしまい、慌てた様子で切歌と調が口を開く。

 

「ま、待ってください響さん! この子はもう戦う意志は無いのデス!」

「わたし達が説得して、着いて来て貰っている。……コマチの事が大切な響さんにとって許せない存在かもしれないけど、彼女は──」

「良い」

 

 しかし響は、二人の言葉を遮った。

 彼女の事は──今なら響の方がもっと理解しているから。

 

「今なら──何となく分かるから」

「ほっ、良かったデス」

 

 何も知らない切歌が安堵し、響と一緒に目的地へと進もうとする。

 

「じゃあ、一緒にコントロールルームに──」

「ごめん、行けない。先に行っていて」

 

 響はそれだけ言うと、エルザ……そして切歌と調を順番に見た後走り出した。

 

 今はもう見る事ができない光景で──時間逆行の繰り返しにより摩耗した精神が少しだけ色付いた。

 

 切歌達は不思議そうにしながらも立ち去っていき。

 

「……」

 

 響はそれを黙って見送った。

 

 そして暫くし、シェム・ハにより月遺跡が爆破され、この時代の響達が脱出した後に──時を止めた。

 自分とメインコンピュータに侵入したシェム・ハ以外の時を。

 

『──これは』

「久しぶりシェム・ハ──と言っても、アンタにとっては今さっき会っただろうけど」

『貴様は──いや、そうか。そういうことか』

 

 シェム・ハは神の視点から全てを察した。

 時を止める力。目の前の少女から感じる気配。そして紡がれる言葉。

 何より──己と同じ目。

 

『そうか。貴様全てを知ったな。そして歴史を変えようと未来から訪れたのだと』

「……」

『そうなると──我は負けたのだな』

 

 だから響はシェム・ハの前に存在し、そして絶望をその瞳に宿しながらも諦めていない。

 ならばシェム・ハが彼女を敵視する理由は無くなる。

 己を超え、地獄の底で足掻く様を楽しむ趣味はなかった。

 

『それで、何用だ?』

「一つ聞きたい──バラルの呪詛が復活したら滅びの歌は止まるの?」

『無理だな』

 

 響の問いにシェム・ハは即答する。

 

『一度解かれた以上、もはや止められぬ。例えバラルの呪詛を再び起動させようとも人の死は止まらぬ』

 

 加えて、シェム・ハを倒す際に響とコマチは全人類と歌で強く繋がった。

 今更その繋がりを隔てようとも歌は発動し人を殺す。

 

「……そう」

 

 響は大して落胆する事なく、確認事項を確認し終えたように頷くとシェム・ハに背を向ける。

 

『もう行くのか?』

「立ち止まっていられないから」

『そうか──貴様の行く道に幸あらん事を』

 

 その言葉を最後に月遺跡は爆破され、響は時間跳躍で立ち去った。

 

 

「約束したんだ」

 

 響は何度も何度も過去へと戻り続ける。

 

 シャトーを調べるついでにウェルとナスターシャを助けた。

 錬金術師の元へ赴き、世界を識る為の歌について調べた。

 哲学兵装「アルモニカ」を利用できないかとアリシアという女性と相対し、争った。

 とある発明家のメイドを救い、彼の頭脳でどうにかできないかと相談した。

 

 全て無意味だった。

 誰も、何も、どれも──未来を救う手立ては見つからなかった。

 

「どうして」

 

 約五千年という月日は、響を、彼女の花咲く勇気を枯らすには、そこで見聞きした人の悪意は、アカシアへの拒絶は──十分すぎるほどだった。

 何より堪え難かったのは、彼女の手でアカシアを殺さないといけない時があった事だろう。

 祈りで死を望まれるアカシアだが、時折その祈りが届かず苦しみ続ける時があり──その度に響は神殺しの手で彼を殺した。

 楽にさせる為に。苦しまないように。次は今よりも幸せでいてと願いながら。

 

 だがそれももう──疲れた。

 過去をどれだけ変えても未来は変わらない。

 

「未来が変えられない──未来……」

 

 ──未来? 

 

「過去は変えられない──でも未来なら」

 

 ──未来なら、皆が救われた未来なら、自分たちの世界を救えるのではないか? 

 響は──藁に縋る思いで。

 

「ディアルガ──お願い」

 

 過去へと飛ぶことをやめて──自分の知らない時代へと飛んだ。

 果たして響に待ち受ける未来は──希望か。絶望か。

 もしくは──。

 

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