【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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ピンポンパンポーン
キミ決めよりお知らせ
作者の知識不足により見出しの順序が間違っておりました
よって章→部へと変更しました
序章は第一部になる感じです
ピンポンパンポーン
そして私はアンポンターン


第九話「おきてがみ」

「くっ……!」

 

 次元の裂け目に入り、過去から現代──を超えて未来に向かう響だが、体への負担が大きかった。

 体感時間五千年の中で幾度と無く繰り返した時間逆行にて、体への負担は慣れていたつもりだったが、今回はそれらと比べ物にならない。

 それでも響は諦めない。心が擦り切れ、人への信頼も、関心を失えど、たった一つの約束の為に。

 

「──だとしても!」

 

 輝く明日に向かって手を伸ばし、そして──。

 

 

 ◆

 

 

「……此処は」

 

 響の戸惑いの声が、街並みの声に溶けて消える。

 彼女が過去に跳ぶ際、最後に見たのは暗く沈んだ、人が住んでいるともは思えない程の──絶望が具現化したかの様な光景。

 しかし、今彼女が見ている光景は──とても懐かしい物だった。

 

「ねぇねぇ。昨日のドラマ見た? 流石光彦君だよね。流石は伝説のアイドルの息子」

「ねー? でも養子だから見た目は似てないよね」

「でもでも凄くカッコいいよ!」

 

「あ、それってSKWの新モデル?」

「そうそう。前のも使い心地が良かったけど、新しいのはもっと良い」

「いいなー。わたしもお金貯めて買おう」

 

「ママー! 今日のお夕飯はなに?」

「ふふふ。いっくんの好きなハンバーグよ」

「わーい! ぼく、ママのハンバーグ大好き!」

 

 そこにあったのは、人が当たり前に過ごす日常。争いもなく、死も遠く、絶望の無い──明日へと続く未来。希望。

 

 滅びの歌なんて無かったかの様に、人々は穏やかに、平和に、幸せそうに過ごしていた。

 

「まさか、本当に──」

 

 響の胸に温かな光が灯り始め──。

 

『──はい。私はツヴァイウィングに憧れてこの道を選びました』

 

 ──ふと、彼女の耳に、イヤに残る声が聞こえた。

 響が視線を向けるとそこには、あるアイドルのインタビュー風景を流している街頭テレビがあった。

 それを見た彼女は──何故か体が固まり、釘つけになる。

 擦り切れた記憶の中に浮かび上がるのは、自分の事を慕ってくれた……そして助ける事ができなかった一人の少女。

 

『昔、私の故郷に旅人さんが来ましてその時にお二人の歌を聴いたのが始まりでした』

『流石は伝説のアイドルユニットというべきですね』

『はい。当時幼かった私は何度も聞いていてお父さんやお母さんもちょっと呆れていたり……。でもですね、数ヶ月後に凄い事が起きたんですよ』

『以前にも話されていましたね。確か──』

『はい。何とお二人が私の故郷に偶然立ち寄って、しかも私の為だけにライブをしてくれたんですよ。それ以来さらにお二人への憧れが強くなって……』

『それでアイドル歌手になる為に遥々日本へと』

『はい! ……ただ、この道に進んだのはもう一つ理由がありまして』

『その理由とは?』

『ツヴァイウィングのお二人が来られた際に、彼女達の友人の方も一緒に来られていたんです。その人も綺麗な歌を唄って、そしてその時偶然村に潜んでいた山賊から私を守ってくれたんです。だから私もその人みたいになりたいと思って、この歌で誰かを励まして、救いたいと思いました』

『──届くと良いです。エレオノーラさんの歌』

『はい!』

『それでは最後に、今度共演するアイドル大統領ことアリア・カデンツヴァ。イヴさんに対して一言』

『マーちゃん先輩。ライブを楽しみましょう! そして負けないですからね!』

 

「──エル?」

 

 それは、あり得ない光景だった。

 エルは死んだ筈だ。その事実は変える事はできない。だからこそ、響は滅びの歌を止めようと、もう彼女の様な子を生み出さない為にと──過去へと跳んだ。

 ずっと忘れないと思い、しかし──五千年の月日が響の心から引き剥がし、そして今思い出させた。

 

 だから──何故彼女は生きている? 

 

「──っ!」

 

 ざわりと響の心が波打つ。

 そしてそのざわめきは希望を絶望へ。光を闇へ。明日に続く未来を閉ざす。

 何故こんなにも落ち着けない。何故人々の笑顔に不安を覚える。

 何故。何故。何故──。

 

 響の疑問は深く深く沈んでいき。

 

「──お姉ちゃん?」

「──え」

 

 そんな彼女の疑問を答える者が現れた。

 響が掛けられた声に振り返る。そこに居たのは──。

 

「……わたし?」

 

 今の自分をそのまま幼くしたかのような少女が、響を不思議そうに見つめ。

 

「──まさか」

 

 しかし、響は彼女の言葉と──過去に遡る前の父の言葉を思い出した。

 

 ──やっぱりさ。色々と考えたんだけど、どうしてもこの子にはこの名前を付けたいと思うんだ。アイツは俺たちに家族を繋いてくれたからな。だからアイツの名前を──コマチの名前をこれから産まれてくる子に付けたいんだ。

 

 ──立花小町。女の子でも男の子でも付けられる──そして絶対に未来を諦めない強い子になれるとそう思ったんだ。

 

「──わたしの妹?」

 

 響は──十年後の未来で己の妹と初めて出会った。

 

 

 第九話「おきてがみ」

 

 

 響と小町は、近くの喫茶店に入った。平日の昼間だからか、周りに客は居らず、店員も優しそうな表情を浮かべた男しかいない。

 

「……」

「……」

 

 二人は沈黙し続けていた。

 響は目の前の妹の存在に困惑している為。自分に妹が出来た事を知ったのも過去に跳ぶ直前で、そしてその後も過去に何度も跳び、正直先ほどまで忘れていた程だ。だから目の前の少女も自分に似た他人にしか思えず──小町という名前が響の心を騒つかせる。

 対して小町は、うんうんと唸り、そして。

 

「うん。整理できた」

 

 そう一言呟き。

 

「あの、お姉ちゃん。お姉ちゃんは過去から来たんだよね?」

「──っ」

 

 その言葉に、響は眉を顰めた。

 

「……知っているんだ」

「うん。お姉ちゃんに教えられたんだ」

 

 このお姉ちゃんというのは、おそらくこの時代の響なのだろう。

 そう言われれば納得し、しかしそれと同時に一般人であろう妹に話すのか? と疑問を抱く。

 そんな響の疑問を察したのか、小町は背筋を伸ばして口を開く。

 

「では改めて自己紹介をさせて頂きます。私は立花小町。立花響の妹で、SONG所属のシンフォギア装者候補生です」

「──!?」

 

 情報の濁流で響の頭が混乱した。

 

「あ、でも残念ながら私が適正あったのはアメノハバキリなんだ。ガングニールはエル先輩で……」

「待って待って……ちょっと良く分からない」

「あ、ごめん。えっとね」

 

 話を纏めると、小町は適合者だったらしく将来はSONGの装者になるべく日夜訓練しているとの事。翼から免許皆伝すれば晴れて正式にアメノハバキリ装者になるらしい。

 そしてアイドルとなったエレオノーラもまた適合者だったらしく、ツヴァイウィングの様に歌手活動をしながらガングニール装者となってたくさんの人達を救って来たらしい。彼女のギアは奏から引き継いでいるとの事。

 

「ちなみにこの喫茶店もSONG関係のお店だから、気にしなくて良いよ」

「……はー」

 

 なんかもういっぱいいっぱいで言葉も無い響に。

 

「──お姉ちゃんはこの世界を見てどう思った?」

「──」

 

 小町は話の本題を斬り込んできた。

 響は妹のその言葉に息が止まり、答えあぐね……素直に言った。

 

「──気持ち悪い」

 

 響は──望んでいた世界を見て、しかし決定的な欠落を敏感に感じ取り、この世界を……未来を否定する。

 

「死んだ筈のエルが生きている。たった十年であの悲劇が……災害が無かった事の様に明るい皆が怖い」

「……」

「翼さん達だってそうだ。新聞やテレビを見たけど、皆幸せそうにしている。後輩や養子、新しい仲間に囲まれて──わたしはそれが怖い」

 

 それは、響が望んでいた事だ。

 皆と笑い合える明日の為に彼女は頑張って来た。

 それなのに──何故こんなにもこの未来を受け止めきれない? 

 

「ねぇ、アンタ」

 

 響は、目の前の妹を小町と呼ばない。

 

「──コマチは何処に居るの?」

 

 自分の日陰に縋り付いている為に。

 小町は姉のその姿に泣きそうにながらも──現実を突き付ける。

 

「──居ないよ」

 

 それは──響にとっては絶望で。

 

「最初から居ないよ」

 

 世界にとっては希望で。

 

「十年前に歌で死んだ人は──ううん。五千年以上の間で死んだ人も、殺された人も、最初から居ない」

 

 過去から未来へと紡がれる歴史であり。

 

「コマチさんは──アカシアさんは、アルセウスの力で消されて歴史は修正されたの」

 

 変える事のできない運命で。

 

「だから──コマチさんは居ない」

 

 コマチとの約束が果たされなかった明日へと続いていた。

 

 ──響の中で何かがボキリと折り砕けた。

 

 

 ◆

 

 

「──ふざけるな!」

 

 ガタンッと音を立てて立ち上がった響は、目の前の今の自分よりも幼い妹へと叫ぶ。

 認められない。受け入れられない。──諦める事ができない。

 

「それじゃあ皆が──わたしがコマチを見殺しにしたって事じゃないか!」

 

 響の脳裏にコマチとの日々が、彼が泣いて自分に救いを求めたあの時の事が過ぎる。

 

「それにアルセウスは言っていた。コマチを消して歴史を修正するとわたし達の記憶からも消えるって!」

「……」

 

 小町は一つの紙束を響に渡した。

 

「これはお姉ちゃんが集めた物」

「──わたしが?」

 

 響はその紙束を受け取り書かれている内容を見ると──目を見開く。

 そこに書かれているのは、アカシアの生涯。一目見て理解できたのは、響がずっと寄り添っていたからだ。彼を救う為に。

 

「それは【おもいでプレート】って言われている完全聖遺物。その内容のコピー」

 

 小町が語り出す。

 

「最初は世界中に散らばっていて、カケラだったの。お姉ちゃんが全部集めるまでは予言書。アカシックレコード。奇跡のレポートなんて呼ばれていた」

 

 そのうちの一部はアカシック教が所有していたそうだが、響が壊滅させた後に回収したらしい。

 

「アルセウスによってアカシアさんは消されたけど、蓄積されたエネルギーが、彼の記憶が記録となってこの世界に残ったの」

 

 だから歴史は修正されたが人々の記憶からアカシアは消えない。

 覚えている者も時が経つに連れて減っていくが。

 彼によって死んだ人間は歴史の修正で復活し、彼によって救われた人間はおもいでプレートにより救われたままだ。

 まるで彼を犠牲にして成り立っている様に。

 

「──それを」

 

 それを聞いた響は。

 

「──それを許容した未来が、この世界なのか……!」

 

 全てに絶望した。

 

 過去は変えられない。時間を遡り手を加えたと思った行動は、それは本来の歴史である。

 ならば──この世界が、この未来があるという事は、アカシアが消え、歴史は修正され、彼を犠牲にした未来が確定したという事。

 

「う、うあああ……!」

 

 響は約束を果たせなかったという事。

 

「あああああ……あああああ……!」

 

 響は──彼を救えない。

 

「──あああああああああああ!!」

 

 彼女の泣き叫ぶ声が──虚しく響き渡った。

 外では当たり前の日常が紡がれている。それが余計に響の心に翳りを生んだ。

 

 だから。

 

「──お姉ちゃん」

 

 そんな悲しむ姉の姿を見た彼女は──これ以上悲しませたくなくて。

 

「まだ、可能性はあるかもしれない」

 

 この世界にとっての絶望に──破滅に繋がる一つの方法を、大好きで憧れで、そして愛している姉に教える。

 

「これを見て」

 

 響は、小町が別に持っていた紙を渡される。

 それは未来の響が妹には見せたくないと隠していた一つのレポート。

 そこに記されているのは希望も絶望もなく、生も死も関係なく、夢も幻も現実すら捨て──救えずとも諦めない先にある一つの特異点。

 

「──」

「──」

「──、──」

「……──」

 

 響は妹の言葉を聞いて──しかし迷ってしまう。

 

「……でも、これだと」

「うん。この世界に、未来に辿り着かない──私は生まれない。存在しない……お姉ちゃんと会えない」

「どうして、そこまで」

 

 響が戸惑い、思わずそう問いかけてしまう。すると彼女はキョトンとした後、すぐにお日様の様な優しい笑顔を浮かべて目の前の姉に言った。

 

「だって私はお姉ちゃんの事が大好きだから。だから──泣いて欲しくない。悲しんで欲しくない。絶望して欲しくない」

「──」

「ちょっと怖いし、お姉ちゃんと会えないと思うと泣きそうになるけど──だとしても」

 

 だとしても、と響が、コマチが諦めたくない時、手を伸ばす時に口にする言葉を紡いで、小町は響の手をギュッと握り締める。

 

「今のままだとお姉ちゃん、全部諦めちゃいそうだから」

 

 小町の頬に一筋の涙が伝い。

 

「生きるのを諦めないで」

 

 響の胸にその言葉が重く重く乗し掛かった。

 震える手と温もりと共に。

 

 

 ◆

 

 

 そして響は──久しぶりに元の時間に戻って来た。

 ディアルガがなるべく過去へ跳ぶ前の時間に戻そうとしてくれたそうだが、それでも少しだけズレてしまっているらしく、一日先の未来に来ていた。

 その間に何人死んでいるのかと考え──頭の片隅でどうでも良いと思っている自分が居て、響は自分は壊れてしまったのかとぼんやり考えた。

 

「……」

 

 雨が降っていた。かつて独りになっていた時、ずっと降って欲しいと思っていた。そうすれば嫌いな自分も流してくれそうだと思い……今も同じ事を考えている。

 

「……」

 

 これからどうすれば良いのか分からない。未来の妹のおかげで一つだけ方法を見つけた。しかしそれは──選べば戻れなくなる。

 

 ──PPPPP。

 

 突如、響の持つ通信機が鳴り響く。

 どうやらSONGの誰かが響を呼んでいるらしい。画面を見ると「未来」の文字が。

 応答ボタンを押して連絡に出る。

 

「未来……」

『帰って来たんだね、響』

 

 陽だまりの優しい声が、響の冷たくなった心をじんわりと溶かしていく。

 彼女に会いたかった。会ってこの胸の苦しみを全て曝け出したかった。

 

「未来。わたし──」

『あのね響。落ち着いて聞いて欲しいの』

 

 口を開いた響の言葉を遮る未来。

 

 過去から帰って来た響におかえりと出迎えの言葉も送らず。

 

 そこで響は──違和感に気付く。

 街が……否、世界がおかしい。

 神の力で何度も時間を遡り、またその五千年の中で様々な経験を得た彼女は──敏感にその変化に気付いた。

 

 そして。

 

『わたし達ね、決めたの』

「未来、何を──」

 

 その変化は、既に。

 

『わたし達……コマチの願いを叶える事にした』

 

 取り返しの付かない所まで進んでおり。

 

『これから──アルセウスにコマチを消してもらう』

 

 ──全ての終わりが始まろうとしていた。

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