【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第六話「なお昏き深淵の底から/」

『っ……なんでウチの娘が……!』

 

 遺体のない棺桶の前で、娘を亡くした夫婦が泣いていた。

 ノイズによる被害で命を落としたようで──立てられた遺影を見て、響の心が締め付けられる。

 見ていられなくて立ち去ろうとし──そんな彼女の前に立ち塞がる怒りと憎悪に燃えた人々が居た。

 

『お前が殺した』『お前のせいだ』『なんでお前だけ』『私の子どもは殺されたのに』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』『許せない』

 

 罵倒と共に石を投げられる。水を掛けられる。叩かれる。

 しかしそれ以上に心が苦しく、もがき、助けを求めようと腕を伸ばし、グイッと引き寄せられる。

 そして──。

 

『なんでアンタが助かったの? おかげで私達までグチャグチャじゃない』

 

 こちらを強く睨みつける母によって、響は──。

 

 

「ブイ!」

「──……はっ」

 

 目が覚め、響は飛び起きて息を浅く吸った。

 冷や汗で体が濡れ、ガクガクと肩は震える。さらに瞳が酷く揺れ、呼吸もままならない。

 久しぶりに()()()()()()

 頭の中で悪夢の内容が繰り返されるなか、彼女は最後に見た母の顔を思い浮かべて吐きそうになる。

 アレは、響の妄想だ。本当の母は優しい。いつも自分を庇ってくれていた。そんな母を愚弄するかのように、夢の中母を恐れてしまっている。

 あんな事を言わないと分かっているのに、それでも──。

 

「ブ〜イ……」

「……余計なこと……しないで」

 

 前足で自分の背中を摩るコマチに拒絶の言葉を吐き捨てるも、彼女の声に力は無かった。

 

 ──今日、響は自分の故郷に帰る。フィーネを殺す為に。

 

 

 ◆

 

 

 協力者曰く、響の故郷にフィーネが潜伏している可能性があるらしく。

 コマチを伴って響は帰郷していた。コマチはフィーネにとって鬼札になるらしく、必ず連れて行けと協力者が強く勧めた故に。

 初めは気乗りしなかった響だが、復讐の為にと不承不承ながら受け入れた。

 ……もしくは別の理由があるのかもしれない。

 果たしてそれは足取りが重い理由と関係あるのか。

 

「はー……」

 

 響の視界に映る景色は懐かしいものだった。それと同時に忘れ去りたいものだった。

 公園があった。石を投げられた記憶が蘇る。

 学校があった。仲の良かったクラスメイトが罵倒してくる記憶が蘇る。

 通学路があった。帰宅時に向けられる冷たい視線の記憶が蘇る。

 ……己が捨てた母と祖母を思い出す。

 

「ブイブイ……」

 

 コマチが心配気に響を見る。明らかにいつもと様子が違うからだ。

 しかし響は反応を示さず──その余裕が無いとも言える──一歩一歩踏み締めて故郷を歩く。

 

 まずは拠点を確保して、それから──。

 

 パーカーのフードをギュッと目深く被り顔を見られないようにし、協力者から得られた情報を元に、今後の行動を頭の中で思い浮かべる。

 こうして別の事を考えなければ、意識が過去のトラウマに持って行かれてしまいそうだったからだ。

 

 ──しかし、やはりこの町は彼女にとってあまりにも……過酷で、優しく無かった。

 

「──どうして! どうしてなのよおおおお!!」

 

「……っ!?」

 

 突如泣け叫ぶ声が、響の鼓膜を震わせた。

 ほとんど反射で叫び声がした方へ向くとそこには──。

 

 喪服を着て泣き崩れる女性と、それを支えようとしながらも悲しみに暮れている男性が居た。

 そして女性が胸に抱えているのは……響と同じくらいの歳の女の子が映っていた。

 

 夢と同じだった。

 霊柩車に縋り着こうとして、しかし足に力が入らず泣き叫ぶ事しかできない。

 

「ノイズに殺されたから、遺体も灰しか無いそうよ」

「それにその灰も果たして娘さんのものか……」

 

 彼女の耳に同列者の物と思われる会話が聞こえる。

 脳裏に今日見た夢が蘇る。

 ──響は走り出した。

 

「ブイ!?」

 

 コマチの鳴き声が聞こえたが、それに構う事もできなかった。

 走って。走って。走って。

 逃げて。逃げて。逃げて。

 人気のない公園に駆け込み、公衆トイレに入り──腹の中の物を全て吐いた。

 吐いて。吐いて。吐いて。胸には不快な感覚が残り──。

 

「──なんで、わたし、生きているんだろう」

 

 先ほどの女性の泣き叫ぶ声が、響を責め立てる呪詛へと変わる。

 特に面識のない人だった。赤の他人だった。

 

 しかし、ノイズに襲われ、命を落とした家族が居た。

 それだけで、響は心臓を揺さぶられ……平静を保てなくなる。

 

 個室から出て洗面所で口を注ぎ、洗い──それでも致命的な部分が汚れていた気がした。

 そしてその汚れを晴らす事はできない。

 

「あ……アイツ置いて来ちゃった……」

 

 コマチの事を思い出し、すぐに回収して拠点を見つけようとトイレから出た瞬間──水を掛けられた。

 バシャリと冷たい感触と衝撃が彼女の体を襲い、頭からずぶ濡れになる。

 一瞬何が起きたのか理解できず呆然とし──目の前に立つ集団を見てヒュッと息を呑んだ。

 

「あ……!?」

「久しぶり〜立花さん──まだ生きてたんだこの人殺し」

 

 そこに居たのは【セイギ】の執行人。

 加害者である悪を討つために立ち上がった者。

 もっと分かりやすく言えば──かつての響とクラスメイトだった者であり、彼女の存在をとことん否定した者たち。

 ぞろぞろと4、5人で出口を塞ぐように響の前に立ち、彼女を睨み付ける。

 

「よくこの町に戻って来れたわね」

「逃げ出した卑怯者」

「やっぱり響さんってそういう人だったんだ」

「まだのうのうと生きているなんて、どういう神経しているの?」

「また人を不幸にするつもり?」

 

 口々に響が傷つく事を的確に言葉にし、彼女の胸に刺していくクラスメイトたち。

 しかし彼女たちに後ろめたさはなく()()()()()()()()()()という快楽に似た感情が湧き上がっていた。

 だから気づかない。目の前の少女の震えに──悲しみに、怒りに、憎悪に。

 

(つらい……耐えられない……苦しい……)

 

 響の頬を涙が流れる。

 それを見たクラスメイトが、手を振り上げる。

 

「被害者振ってんじゃないよ、この悪魔が!」

 

 そして【セイギ】というの名の暴力が振るわれ、

 

「ブウウウウウ──ブインッ!?」

 

 飛び出して来たコマチの頬にバチンッと直撃し、吹き飛ばされ、その場に居た者全員が呆然とした。

 

「え? なにあれ?」

「犬? 猫?」

「なんだかモフモフしていたけど」

「訳がわかんない」

「でもなんか可愛いよね」

 

 口々にコマチの存在に疑問を持ち、目を奪われる中。

 響は倒れ伏すコマチを見て──尋常ではない熱と痛いくらいに脈打つ鼓動に囚われていた。

 そして思考はクリアになり、たった一つの感情が浮かび上がっていた。

 彼女はそれを抑える事ができそうにない──否、抑えるつもりがなかった。

 視線がコマチからクラスメイト()()()ものへと向けられる。

 視界が赤く染まる。

 心が黒く堕ちる。

 

(──コロ)

 

 激情のまま拳を握り締め──その手にそっと何かが触れた。

 

「ブイ……」

 

 それは、コマチの前足だった。

 温かい手で響の固く握り締められた拳に触れて、フルフルと首を横に振った。

 響は、殴られてもなお怒らないコマチに……響に寄り添うコマチに、彼女は──。

 

「っ!」

「あ、待て!」

 

 コマチを抱き抱えて走り出す響。

 後ろから元クラスメイトの声が響いたが、足を止める事は無かった。

 彼女は走り続けた。過去から逃げる為に。胸に浮かんだ恐ろしい感情から逃げる為に。

 から逃げる為に。

 

 

 ◆

 

 

 いたい。

 頬じゃなくて心がいたい。

 響ちゃんとハグれたと思ったら、なんか襲われていた。

 助けようとしたら思いっきりビンタされちゃったけど、ポケモンボディだからダメージはない。それどころあの子手を痛めてないかな? イーブイってそこそこ重いけど。まっ! 響ちゃん虐めてたからそれで反省して欲しいけどね! 

 殴る方も殴られる方も痛いんだ。

 でも、殴られる方は……痛いだけじゃなくて、苦しい。

 そしてその苦しみに耐えている響ちゃんを、俺は助けたい。

 

「……」

 

 響ちゃんは町を眺めていた。

 彼女が俺を抱えて逃げ込んだのは、展望台だった。町がよく見え、夜になったら綺麗な星空が見えそうで。

 でも此処に来た響ちゃんは苦しそうに呟いた。

 

「ここ……わたしのお気に入りだったんだ──もう、覚えていないけど」

 

 記憶が曖昧になるほどのトラウマと怒りが響ちゃんを襲ったのだと、理解した。

 こちらを見る響ちゃんの目はいつもの強く他者を拒絶する目ではなくて、生きる事に疲れて弱り切った目だった。

 

「わたし……ある事件で生き残っちゃったんだ」

 

 そこから語られたのは──悲劇としか言えないものだった。

 ライブでノイズが発生して、死に掛けて。

 しかし何とか一命を取り留めて──待っていたのは加害者というレッテルと人殺しの烙印。

 周囲から生きている事を責められ、否定され、拒絶され。

 そしてその呪いは彼女自身のみならず、周りの人々にも及んだ。

 

 それに耐えられなくなった彼女は家族のもとを去った。

 

「そしてあのヒトデナシに拾われて、フィーネの事を知って復讐の道を取った……でも、やっぱりダメだ」

 

 クシャリと彼女の心が崩れる。

 

「此処に来て改めて実感した──わたしは、呪われている」

 

「わたしは、生きていちゃいけなかったんだ」

 

「全部わたしが、この拳で壊したんだ」

 

「わたしが悪いんだ──わたしが」

 

 

 

「ブイ!!」

(そんな事はない!!)

 

 彼女の話を聞いて俺は思わず叫んでしまった。

 イーブイの体だから伝わらないのかもしれない。それでも言わずにはいられなかった。

 

「ブイブイ、ブイ!!」

「──ごめん。アンタの言葉分からなくなっちゃった」

 

 ──普段、響ちゃんは俺の言葉を理解していた。

 いや、正確には言葉は理解していない。

 ただ、とある理由で彼女は俺の言いたい事を理解していた。

 しかし今の彼女は心を閉ざしている。翳り燻った状態でも辛うじてあった響ちゃんの本質が弱まっている。

 くそ、どうすれば……。

 

「──響」

 

 状況に困り頭を抱えていると、声が聞こえた。

 それも響ちゃんの名を呼ぶ、響ちゃんの声に似た声。

 その声を聞いた響ちゃんはビクンと肩を跳ねらせ、恐る恐る振り返り──か細い声で言った。

 

「……お、かあ……さん?」

 

 目を見開き精神が不安定になった響ちゃんは──その場から逃げ出した。

 

「響!!」

 

 母が必死に伸ばす手を振り払って。

 

 

 ◆

 

 

「整えたよ、環境と力を。後は解放するだけだ──憎しみと呪いを」

 

 

 ◆

 

 

「ハア、ハア、ハア……! 」

 

 呼吸が乱れる。ノイズとの戦いでも此処まで乱れる事が無いのに、これ以上ない程不安定になる。

 見てしまったからだ。自分が逃げ出し、捨ててしまったものを。

 自分が存在するが故に傷付けてしまったものを。

 思い出してしまった。疲れ切った家族の顔を。こちらの頭を撫でながら大丈夫だと言いつつも、隠しきれない負の感情を。

 そして、届く事の無かった背中を。

 もうどうすれば良いのか、分からなかった。

 頭の中がグチャグチャだった。

 ──生きる事を諦めてしまいそうだった。

 

「わたし……わたしは……」

 

 空を見上げる。いつの間にか暗雲が立ち込め──すぐに雨が降り始めた。

 響の体を濡らし、体温を奪っていく。しかし今の彼女にとって心地良かった。

 このまま雨に流され、消えてしまえばどんなに楽かと考えてしまう。

 

 しかし、世界はそこまで彼女に優しくない。

 

「見つけたわよ人殺し」

「……」

 

 先ほど振り払ったクラスメイトが追いついて来たようだ。

 雨に濡れる響を睨み付けて、傘をさしながら罵倒の言葉を吐こうとし──それはすぐに悲鳴へと変わった。

 

 ノイズが現れたのだ。

 

「ノ、ノイズ!?」

「き、きゃあああああ!?」

「なんで!? 警報が鳴ってないのに!」

「に、逃げ──」

「どいて、邪魔よ!」

 

 一目散に逃げようとしたクラスメイトたちだったが、ノイズはその()()()()を跳ねらせて彼女たちの進行方向に立ち塞がる。

 そしてその腕を彼女たちへと差し向け──。

 

「Balwisyall nescell gungnir tron」

 

 胸の歌を歌い、ガングニールと紫電を纏った響がノイズの腕を受け止め、さらに一撃を叩き込んで吹き飛ばした。

 いつものノイズと違う歯応えに思わず目付きを鋭くさせる。

 彼女は、依然として健在であるノイズを警戒しながら口を開く。

 

「早く逃げて。アレはわたしが──」

 

「化け物!!」

 

 怯え切った声と共に、べチャリとナニカが響の背中に投げ付けられる。

 視線を向けると、生卵が割れて落ちていた。

 追いかけた響に投げつけようと準備していたのだろうか? 

 いや、それよりも。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 響がゆっくりと振り返る──そこには、先ほど公園で響を見下し軽蔑していたクラスメイト達が、腰を抜かし、怯え切った目で彼女を見上げていた。

 

「い、いまノイズを殴った……!」

「あの力で生き残ったんだ」

「いや、アレで他の人を」

「そうか、やっぱり私たちは間違っていなかったんだ!」

「そうよ! だからやり過ぎてしまった訳じゃない」

 

「間違っていない」「私たちは正しい」「あいつらも分かってくれる」「掌返したアイツらが間違っている」「虐めていない」「正しい」「アイツが間違っている」「化け物」「人殺し」「人殺し」

 

 

「──さっさとあのノイズを殺して、消えてよ」

 

 その徹底的な言葉により──。

 

「──あ、ああ……」

 

 響の心は──。

 

「あああああああああああああああ!!!」

 

 闇に堕ちた。

 

 

 

 そして、それを見たヒトデナシは語る。

 

「人は無力なのだよ、呪いに。怯え、疎まれる事を嫌って求めるのさ、己よりも下を。そして滅ぼしてしまうのさ、己自身を」

 

 ああ、本当に醜いね、不完全は。

 

 

 

【グルルルル……!】

 

 闇よりなお昏き、深い怒りに身を包んだ響はギロリと睨み付けた──先ほどは守ろうとした人間を。

 反対に黒いノイズには目向きもしなかった。そのノイズもまるで次の指示を待つかのようにその場に佇み、待っていた。

 

 少女が堕ちてしまう事を。

 

「いや、いやああああああ!?」

「助けて、誰かああああああ!!」

「来ないで、来ないでえええええええ!!」

 

 彼女たちは助けを求める。しかしノイズを知らせる警報が鳴らず、雨音で悲鳴は掻き消されてしまい、届かない。それどころか、その前に獣の一撃が命を刈り取る方が速い。

 

 

 ──しかし、届いた悲鳴がある。

 それは、ずっと側に居たからこそ届いた心の悲鳴。

 距離など関係ない。

 何故なら、彼は無遠慮に、能天気に、そして決して諦めず伸ばした手で掴み取る。

 彼女の手を。

 

【ガアアアアアアア!】

 

 拳を振り抜く響──しかし直前に硬い何かが現れ、阻まれた。

 

「ブイブイ!」

 

 コマチが居た。

 コマチは響の前に飛び出して「まもる」を使い、彼女の一撃を受け止めていた。

 

「ブウウウウウウウイ」

(今助けるよ、響ちゃん!)

 

 響を助けるために。

 

 

 ◆

 

 

 響ちゃんのお母さんから伝言を貰って、その後に嫌な予感がしたと思ったら──案の定! 

 

「ブイ、ブリャア!!」

 

 とりあえずそこの人たち邪魔! さっさとどっか行って! 

 そして絶対に生き残れ! 生き残って自分のした罪を自覚して償え! 

 そう思って声を張り上げるが。

 

「う、わあああああ!」

「今のうちに!」

 

 ダメだな。やっぱり言葉が通じていない……。

 でも、こっちの響ちゃんには! 絶対に届かせてみせる! 

 

「ブウウウウウイッ!!」

 

 響ちゃん目を覚まして! 

 

【グウウウウ……ドケ】

 

 獣のような咆哮をあげるだけだった響ちゃんだったが、次第に人の言葉を口にし出した……が。

 

【ジャマヲスルナ。コロス。コワス。ワタシハスベテヲコワスンダ──ダカラ】

 

 拳を握り締めていた響ちゃんが、パッと開き、電気が迸り、それを掴んで刀へと姿を変える。

 

【ソコヲ……ドケエエエエエエエエエ!!】

 

 雷を模した雷刀による二連撃が、まもるを砕き、そして俺の体に裂傷を刻み込む。

 体が痺れ、斬られた所が痛い。

 それでも、退く訳にはいかない! 

 響ちゃんの胸に飛びつき「のしかかる」。これで動きを止める……! 

 

【オマエモワタシヲヒテイスルノカ! タエロト、アキラメルナトキョウヨウスルノカ!】

 

 そんな事は言わない。俺はただ。

 

 

 

 響ちゃんを助けたいだけなんだ。

 

【……モウムリダ。ワタシハモウダレトモテヲトリアエナイ! スベテヲコワスチカラシカニギリシメナイ!】

 

 ……響ちゃんは本当に優しいな。

 あんなに酷い目にあったのに。あんなに酷い事を言われたのに。

 

 全部自分のせいだって言っている。

 

【……!】

 

 でもね、だからこそ悲しいんだ。

 そんな響ちゃんが我慢して、傷付いて、手を伸ばさない事が悲しい。

 

【ジャア……じゃあ!】

 

 響ちゃんが俺の胸ぐらを掴んで、至近距離で睨み付けてくる。

 それと同時に怒りの感情が俺の胸に流れ込んできた。

 

「じゃあ、何も考えず! ヘラヘラと! 他人と手を取り合えって言うのか! ──できるものか! この、呪われた手で! 助けたい人を、大切な人を……不幸にしてしまう手で!」

 

 ……うん。今の響ちゃんじゃあ難しいよね。

 

「なら!」

 

 だから、響ちゃんが引っ込めた分だけ俺が手を差し伸ばすよ。

 

 陽だまりを歩けないなら、俺が日陰になって一緒に歩くよ。

 

 呪いに苦しむなら、それ以上の祝福で君を癒すよ。

 

「……は」

 

 響ちゃんが何度挫けて諦めても、俺が側で諦めない、挫けない。

 一歩一歩、ゆっくり……響ちゃんが本当の響ちゃんになれるように、ずっと側に居る。

 助けたい時に必ず助ける。

 もう君を苦しみの涙で頬を濡らせない。

 だから──俺に、君を救わせてくれ。

 

「……無理だ。わたしはもうダメだ。そう思ったから……だからこそ復讐の道に──」

 

 ──だとしても、俺は君に手を伸ばすのを諦めない。

 

「──」

 

 だから一言で良い。

 今回だけでも良い。

 言ってくれ、君の本音を。

 

「……」

 

 響ちゃんの手から雷刀が消える。

 黒く染まった闇が晴れ、いつものノイズから人々を守る響ちゃんが現れる。

 そして、俯いた顔を上げて──苦しみに濡れず、ずっと待っていた涙を溢れ出しながら、彼女は言った。

 

「──お願い、助けて」

 

 その言葉に対して、俺は当然こう答える。

 

「ブイ!」

 

 もちろん! 

 

 ──こうして、俺はようやく、初めて彼女の本音を聞く事ができた。

 

 

 第六話「なお昏き深淵の底から/花咲く勇気で君を救う

 

 

♪ 真正面ど真ん中に 諦めずぶつかるんだ♪ 

 

 黒いノイズの前に飛び出すと同時に、向こうも動きを見せた。

 今のいままで静観していたようだけど、戦う意思はあるようだ。

 ……アイツから、嫌な感じがする。アレが響ちゃんを惑わしたんだ。

 絶対に、倒す! 

 

♪ 全力全開で 限界 突破して♪ 

 

 まずは突っ込んで飛び上がり「のしかかり」をする。

 ノイズはそれを腕で受け止めて、薙ぎ払う。

 宙に浮いた俺に向かって鋭く変形させた腕を突き刺してくるが。

 

♪ 互いに握るもの 形の違う正義♪ 

 

 それを「まもる」で防いで「シャドーボール」! 

 

♪ だけど 今はBrave 重ね合う時だ♪ 

 

 砂塵が舞うが、手応え的にまだまだ動けるはず。

 そしてやはりというか、普通のノイズよりも手強い。

 油断はできない……! 

 

「──下!」

 

♪ 支配され 噛み締めた 悔しさに 抗った♪ 

 

「ブイ!?」

 

 響ちゃんの警告に従い、ジャンプすると同時に地面からノイズが襲い掛かってきた! 

 しかし、ノイズの跳躍力は予想以上で、腕が俺に直撃──。

 

♪ その心伝う気がしたんだ Wow Wow Wow ♪ 

 

 ──する寸前に、紫電を纏った響ちゃんが殴り止めてくれた。

 

 響ちゃん! 

 

「見てられないから──一緒に!」

「……! ブイ、ブイブイブイ!」

 

 嬉しくて思わず何度も頷いてしまう。

 それを見た響ちゃんは呆れ顔をしながらも、口元は綻んでいた。

 

♪ 極限の 想い込めた鉄槌♪ 

 

 俺は響ちゃんの腕に乗り、彼女はそのまま拳を振り抜く。

 当たる直前に俺も「のしかかり」、二発分のインパクトが黒いノイズに叩き込まれた。

 

♪ 共に、一緒に! 解き放とう!! ♪ 

 

「……!」

 

 ここでいままで顔色(どこにあるか分からないけど)を変えた。

 本能的に俺たちに対して危機感を覚えたみたいだが……。

 

♪ I trust! ♪ 

 

 もう、遅い! 

 

♪ 花咲く勇気 ♪ 

 

 今の俺と響ちゃんは。

 

♪ 握るだけじゃないんだ ♪ 

 

 昨日の俺と響ちゃんとは違う! 

 

♪ こぶ しを 開いて繋ぎたい……! ♪ 

 

 ようやく繋がったこの手、絶対に放さない。

 

「──本当単純」

 

♪ I believe! 花咲く勇気 ♪ 

 

「だからこそ、信じる事ができた」

 

♪ 信念はたがえども ♪ 

 

 響ちゃんが構える。腕の装甲が唸りを上げて、さらに紫電がバチバチと迸る。

 今までの壊す為だった目に痛い電光ではなく、彼女本来の優しい光にように、綺麗だった。

 そう、まるで彼女の胸の歌の、俺が大好きな歌と同じ様に。

 

♪ さあ 今 誰かの為なら♪ 

 

 ならば俺も「とっておき」を使おう。

 全エネルギーを響ちゃんに送り込み、それを掴み取った彼女は黒いノイズに向かってかけぬける駆け抜ける。

 黒いノイズが回避しようとするが──遅過ぎる。

 一瞬で黒いノイズの懐に入った響ちゃんは、拳を振り抜いた。

 

♪ だとしても! と吠え立て! ♪ 

 

我流・凛々開花

 

 響ちゃんの歌の力、紫電、そして俺のとっておきが混ざったエネルギーが相手の体を駆け巡り。

 黒いノイズは、俺と響ちゃんが花咲く勇気によってそのまま自壊した。

 それを見届け俺はピョンッと響ちゃんの側へと飛び跳ね、意図を理解してくれた響ちゃんは気恥ずかしそうに手を出して──パチンッとハイタッチをした。

 その時俺は笑顔だったと思う。それは当然響ちゃんも。

 

 

 ◆

 

 

「あ、あ、あ……」

 

 とある離れた路地裏にて先ほどまで少女だったモノが、命と思い出を枯らして倒れ伏していた。

 それを成した存在は持っていたハンカチで口を拭いていた。

 意味がないのに。する必要がないのに。

 

「陸でもない思い出しかありませんねー。これではお腹壊してしまいます」

 

 そんなものありませんが、と彼女は一人呟く。

 

「それにしても厄介ですねー。マスター以外に使われるのは」

 

 思い浮かべるのはヒトデナシ。彼女のマスターと何かしらの交流があるらしいが……人形でしかない彼女の伺い知るところではない。

 

「さて」

 

 人花は、その美しい美貌を晒しながら、醜く倒れ伏した者たちに言う。

 

「あなたたちは殺しませんよ。それでは救いとなってしまうので」

 

 クルリと反転して歩き去る。

 

「散々苦しめたのですから、ご自分達も経験なさってください」

 

 耐えられるものなら。

 その言葉を最後に──残ったのは少女だった者たちだけで──三日後彼女たちの行方を知る者は誰も居なかった。

 

 

 ◆

 

 

 故郷に留まる事を辞めて、俺たちは家に帰った。

 あの黒いノイズを倒した後、協力者から連絡があったのだ。

 フィーネは去ってしまった。次に備えよう。

 当然固定電話は響ちゃんの拳で粉々に粉砕されてしまった。まー、仕方ないかな。

 そして家に帰っていつもよりちょっぴり豪華な(ご飯のジェットストリームアタック!)を食べて、風呂入って寝る……所なんだけど。

 

 あのー……響さん? 

 

「……なに?」

 

 いや、なにってそれは俺のセリフだったりするんですが。

 現在俺はいつもの押し入れではなく、響ちゃんの部屋の、ベッドの中の、さらに彼女の腕の中に居る。

 あの、寝たいんですけど……。

 

「……い」

 

 え? なんだって? 

 

「此処で……寝ればいいじゃない」

 

 でも、押し入れで寝ろって言ったの響ちゃんじゃん。

 

「……家主として、それはどうかと思い直しただけ」

 

 あ! それはお構いなく! まるでドラ◯もんみたいで好きだし、体小さいから別にせままままま!? 

 ちょっと響ちゃんぎゅううううってしないで! 中身出ちゃうから! ご飯&ご飯、追加ご飯が! 

 

「……アンタが言ったんじゃない」

 

 え? 

 

「アンタを抱き枕にしたら、よく寝れるって」

 

 いや言ったけどアレ結構冗談でしって、だって年頃の女の子の布団に潜り込むとか割と淫獣だとおもももももも!? 

 

「……ずっとそばにいるって言ったじゃん」

 

 ……。

 ……ふぅ、たしかにそうだな。

 俺は力を抜いて響ちゃんに体を任せた。それを感じ取ったのか、彼女は込めていた力を抜いて、優しく俺を包み込む。

 

「ねぇ」

 

 なに? 

 

「わたしが苦しかったらまた助けてくれる?」

 

 絶対助ける。

 

「わたしがまた暴走したら止めてくれる?」

 

 絶対止める。

 

「……ずっと一緒に居る?」

 

 もちろん。

 

「……そ」

 

 その言葉を最後に彼女のは眠った。

 ……おやすみ、響ちゃん。

 

 

 ◆

 

 

 その日彼女は夢を見た。

 悪夢ではない。遠き日に見た日常の風景。

 そこでは彼女は笑顔を浮かべて誰かと居た。

 それが誰かを思い出すのはもう少し先だが──久しぶりに、響は、次の日寝坊する事ができた。

 

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