【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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ちょっと特殊演出加えてます。


第十話「FOR THE FUTURE」

 響が過去へと跳んだその日も、皆諦めなかった。

 何か方法がある筈だと。コマチを救い、滅びの歌を止め、明日へと続く未来へと進む為に。

 マリアは寝不足で倒れそうなのを必死に堪え、セレナはそんな姉を心配しつつ手伝い。

 ウェルは死にそうな人達を何とか延命させつつ解決方法を模索し。

 切歌は調に寄り添い。

 奏や翼、クリスは世界中を飛び回り調査をし。

 二代目は錬金術師協会を管理し。

 キャロルとエルフナインハはシャトーの力で何とかできないかと想い出を遡り。

 サンジェルマン達は研究を進める。

 

 そんな中、弦十郎は未来から報告を受けていた。

 

「響くんが過去に……」

「はい。ディアルガの力を借りて歴史を変えようって」

「それができれば良いのだが」

 

 ──彼らは知らない。歴史を変えるのは不可能な事を。

 ──彼らは知らない。未来に行き、響が絶望している事を。

 

 それでも彼らは諦めず、信じて、手を伸ばし続ける。

 

「──ブイ」

「──コマチ!?」

 

 そこに、コマチが未来と弦十郎の元へやって来た。

 未来は驚き、彼に駆け寄って抱き上げる。

 引き篭もっていた部屋から出て来たのは嬉しいが、状況が状況だ。下手をすれば殺されてしまう。

 

「コマチ、今出てきたら」

「ブイ」

 

 心配から彼を注意しようとした未来だが、彼は彼女の言葉を遮って弦十郎に頼み込んだ。

 未来は彼の言葉を聞いて不思議に思い、思わず復唱した。

 

「みんなを集めて……?」

 

 コマチは──覚悟を決めていた。

 

 

 ◆

 

 

 そこはかつてシェム・ハと戦い、勝利し、彼女と手を繋ぎ──未来を奪還する事ができた場所。

 ユグドラシル跡地。関係者以外入って来られないその場所に──シンフォギアを纏った皆とアルセウス。そしてコマチが居た。

 コマチは(そら)を見上げる。あの日見た星空はなく、そこに広がるのは闇のように黒い暗雲のみ。

 雨が降り続け──まるで皆の心を表しているかのよう。

 しばらくジッと見続けて……コマチは皆に謝った。

 

「ブイ」

 

 ──ごめんね。皆に辛い選択を強いて。

 

 その言葉に皆答える事ができない。

 本当なら彼と別れたくない。彼を犠牲にしたくない。

 しかし──彼の願いを、祈りを、想いを刻み込まれた彼女達は……コマチの言葉を無碍にする事はできない。

 だから、涙を堪えて俯く事しかできなかった。

 

「ブイ……」

 

 ──みんな、響ちゃんに伝えて欲しい。

 ──勝手な事をしてごめんって。

 ──勝手に約束を破ってごめんって。

 

「──分かったわ。わたしが……伝えておくわっ」

 

 彼のお願いに、マリアは頷いて引き受けた。

 死にそうな程苦しそうな顔で、今にも血を吐きそうに。

 コマチはそんな彼女の優しさに笑みを浮かべて、アルセウスへと向き直る。

 

『……良いのだな』

「……」

 

 コクリ、とコマチが頷く。

 装者達は最期の時が来たと、目を逸らしそうになりながらも、しかし耐えて彼の消滅を目に焼き付けようとして。

 

 

 

「──うあああああ!!」

 

 響が、駆け付けた。

 コマチはその声に、ずっと聞きたかった声に、大好きな響へと振り返る。

 響は駆けながら目の前の光景を、装者達がまるでコマチを逃さない様に彼を包囲していたのを見て。

 その光景は、嫌でも響に──現実を突き付ける。

 

 通信越しに未来が言っていた事は本当だという事が。

 

「ああああああ!!」

 

 響は装者達の包囲網を突き抜け、コマチを抱き上げ、アルセウスから離れようとして──サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティ、キャロルの四人が張った結界に阻まれる。

 結界にぶつかり、尻餅を着き。

 

「響!」

 

 皆が駆け付けようとして。

 

「……どうして」

 

 ギリッと奥歯から音が鳴り響き、握られた拳からは血が滴り、響から悲しみに染まり切った声が響いた。

 

「どうして!」

 

 響は信じていた皆を睨みつける。対して奏達は、彼女の視線を受け止める事ができずに視線を逸らしていた。

 

「ブイ……」

 

 ──なんで、響ちゃんが此処に。

 

 コマチは響にはこの事を教えないまま、この世界から、歴史から消えようとしていた。

 そうすればこれ以上彼女が苦しむ事も、悲しむ事もないと思って。

 装者達にもそう伝え、協力して貰っていた。

 しかし、現実は非常で響は間に合ってしまった。

 

「ごめんねコマチ。わたしが教えたの」

「ブイ……」

「やっぱりこのままだと……響は納得しないと思ったから」

 

 未来の言葉を聞いて、コマチは強く目を閉じて──響の説得を決意した。

 

「ブイ」

 

 響ちゃん、とコマチが彼女の名を呼ぶ。

 しかし響はその言葉を聞き入れず叫んだ。

 

「なんでこんな事を! なんで──なんで!」

 

 響の叫びに、コマチの心が軋む。

 迷ってしまう。悲しませたくない、と。でももう後には退けず。

 そんな彼に代わるようにして、マリアが口を開いた。

 

「彼の願いなの。歴史を修正してこの世界を、皆を救ってくれって」

「マリア……!」

 

 マリアの言葉に、響の目に怒りの感情が──否、憎しむの感情が浮かび上がる。

 

「何で……何で!? 皆あんなに必死に、何とかしようって……信じていたのに……いたのに!」

 

 響の言葉が皆の心を軋ませる。

 あれだけ信用していた皆を、好きだった皆を──受け入れる事ができなくなっていく。

 何故ここに来て皆諦めてしまうんだ。あれだけ救おうとしていたのに、考えを裏返して彼を殺そうと──。

 

 そこで響は、コマチがした事に気づいた。

 

「──コマチ。アンタまさか」

「……」

「力で、皆を──!」

「──ブイ」

 

 ──こうでもしないと、皆納得してくれなかった。

 ──だから……考えを変えて貰った。

 

 コマチはこの世界を、皆を救う為に……皆を洗脳した。

 ご丁寧に死にかけていた調を復活させて、絶対にアルセウスの力で消滅できるように、何があっても全てを──自分以外を救えるように。

 そんな彼のやり方に──響は絶望した。

 

「──ブイ」

 

 ──響ちゃん、ごめん。

 

 そしてコマチは、その力を響にも使った。

 直接触れている為に侵食は早く、ドクンっと響の心臓が、魂が脈打ち、頭にモヤが掛かる。

 ──しかし響は五千年分の執念と神殺しの呪いで、コマチの洗脳に抗う。

 

「ぐっ……」

 

 それでも、コマチの洗脳は、力は、彼の意思は諦めずに響を説得する。

 

コマチ  あきらめますか ? 

 

「……っ」

 

はい ▶︎いいえ

 

 頭に浮かんだコマチからのメッセージを、強い信念で拒絶する。

 ならばとコマチは──皆の力を借りる事にした。

 

「響……分かってくれ。光彦の願いを蹴るって事は生きる事を諦める事なんだ」

「そんな訳……!」

「あたしだって嫌だよ! でも……仕方ないじゃないか……!」

 

コマチ  あきらめますか ? 

 

 奏の諦めるなという言葉を、その諦めてしまった言葉を。

 

はい ▶︎いいえ

 

「まだ、何か方法がある筈だ!」

 

 諦めたくない気持ちが払い除ける。

 

「方法って……何だよ」

「だからそれを」

「お前だって過去に跳んで探して来たんだろ!? でも……見つけていないじゃないか」

 

 翼の言葉が、響の心を深く斬り付ける。

 

「このままズルズルと時間が経てば……想いを遺してくれた皆を、親父達の死を……無駄にしてしまうんだぞ!?」

 

コマチ  あきらめますか ? 

 

「まだ、時間はある!」

 

はい ▶︎いいえ

 

 響は残り少ない時間に縋り付いて、翼の言葉を弾き飛ばした。

 

「それって……皆が死ぬまでって事だよね?」

「……それは」

「そんな地獄を、コマチに見せるの? コマチを……孤独にするの?」

 

 クリスはこの先にある絶望よりも深い地獄を思い浮かべながら、彼により辛い想いをさせる響の言葉を否定し、撃ち砕こうとする。

 

「響は本当にそれで良いの!? 大切な人を目の前で失う痛みを、孤独になる苦しみをよく知るあなたが!?」

 

コマチ  あきらめますか ? 

 

「そんな事はさせない!」

 

はい ▶︎いいえ

 

 響は目を塞ぎ、耳を塞ぎたいと思いつつも反論する。

 

「響さん……それは優しさなんかじゃ無いです。リッくん先輩の事を本当に想うのなら──」

「だけど!」

「──よく考えてください! 本当に辛いのは誰なのかを! それでも心を押し殺して、リッくん先輩は……せん、ぱいは……!」

 

コマチ  あきらめますか ? 

 

「よく考えるのはアンタ達の方だ!」

 

はい ▶︎いいえ

 

 響は、優しさを捨ててでも彼女達を拒絶し、コマチを救おうとする。

 

「考えてないと思うデスか? ──皆必死に考えているデスよ! 博士だって死にそうになりながらも一生懸命に……!」

「でも!」

「それに! ……このままだと調が死んでしまうのデス。それは──コマチを犠牲にするのと同じくらい嫌なのデスよ……!」

 

コマチ  あきらめますか ? 

 

「わたしだって……わたしだって……!」

 

はい ▶︎いいえ

 

 切歌の涙は、響の歪んだ視界では見る事ができなかった。

 

「ここまで来て目を逸らすの? ──あなたが彼の願いを拒絶すればする程、彼の胸の苦しみは強くなる」

「──」

「だから、選択を間違えないで」

 

コマチ  あきらめますか ? 

 

「嫌だ……! 嫌だ……!」

 

はい ▶︎いいえ

 

 調の言う彼の心は、響は翳した心では触れる事ができない。

 

「──響。あなたが決断できないのなら……わたしが決めるわ」

「マリア……!」

「恨んでくれて構わない。……わたしは結局、あなたの味方にはなれなかった」

 

コマチ  あきらめますか ? 

 

「嫌だ! 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!」

 

はい ▶︎いいえ

 

 響はマリアを、皆を恐れてその場から逃げ出そうとする。

 しかし結界がそれを阻み、逃げる事ができない。

 

「響……」

 

 未来が響の名を呼ぶが、彼女には届かない。

 

コマチ  あきらめますか ? 

 

「やめてくれ! やめてくれ! お願いだから、やめて!」

 

はい ▶︎いいえ

 

 まるで子どものように響が泣き叫び、それを皆痛々しげに見る。

 

「──ブイ」

 

 コマチはそんな彼女を見ていられず、アルセウスに一言だけ呟いた。

 お願いだ、と。

 

『──良いのだな?』

 

 アルセウスの問いにコマチはしっかりと頷き──響の手からふわりとコマチが引き離される。

 

コマチ  あきらめますか ? 

 

「待って! お願い! やめて!」

 

はい ▶︎いいえ

 

 取り戻そうとする響の前に、装者たちが立ち塞がる。

 彼女達は涙を流しながら、悲しみに苦しみながら、コマチの意思に従う。

 

コマチ  あきらめますか ? 

 

「わたしから日陰を──」

 

はい ▶︎いいえ

 

コマチ  あきらめますか ? 

 

「奪わないで!!」

 

はい ▶︎いいえ

 

 

 

コマチ  あきらめますか ? 

はい ▶︎いいえ

 

 

 

コマチ  あきらめますか ? 

はい ▶︎いいえ

 

 

 

コマチ  あきらめますか ? 

はい ▶︎いいえ

 

「──ああああああああああああ!!」

 

 

 

みんな  ころして コマチ  すくいますか ? 

 

 

 

▶︎はい  いいえ

 

「響……?」

 

 ──脈打つ鼓動が煩かった。聞こえる全てが雑音に、視界に入る全てが灰色に、軋み上げる心が翳り堕ちていく。

 

「──まさか」

 

 マリアが響の波導から──彼女の愛憎を感じ取った。

 

「バルウィシェル……!」

 

 響は唄う。コマチを救う為に。

 

「ネスケル……!」

 

 響は唄う。手を繋ぐ為ではなく、拳を固く固く握り締める為に。

 

「ガン、グニィイイル……!」

 

 響は唄う。花咲く勇気を枯らしてでも。

 

「トロォオオオオオン!!」

 

 響は唄う。……大切で、大好きな掛け替えの無い仲間達を殺す為に。

 

 

 ギアを纏った響が拳を振り抜き、それを奏が槍で受け止める。

 

「何してんだ響!?」

 

 しかし響はもう何も答えず、殺す為に、救う為に前へと進む。

 響の拳と奏の槍が何度も衝突し──バキリと奏の槍が打ち砕かれる。

 

「な!?」

 

 それに一瞬気を取られた奏は、響の回し蹴りを諸に喰らい吹き飛ばされる。

 

「ぐあ!?」

「奏!? ──くそ!」

 

 響は本気だ。その事を理解した皆は彼女を止めるべくアームドギアを手に、向かってくる響に応対する。

 翼と切歌が響の行方を阻むように斬撃を振るいながら、彼女へと言葉をかける。

 

「やめろ響!」

「話を聞くデス!」

 

 しかし響は退かず、ギリギリのタイミングで回避しながら前へ前へと進み──アメノハバキリとイガリマの刃を握り締め、そして折り砕く。

 そしてその握り締めた拳で二人を殴り付け、翼をセレナの方へ、切歌を調の方へと吹き飛ばす。彼女達はそれぞれ受け止められるが、響は止まらない。

 

「翼さん!」

「切ちゃん!」

 

 殴られた仲間に気を取られた彼女達に、響の手甲が唸りをあげ、空間を殴りつける事で衝撃波がセレナ達を襲う。

 

『きゃああああ!?』

 

 四人が悲鳴を上げて、地面へと投げ出される。

 その光景を見ていたサンジェルマン達は、響を止めるべく結界を解こうとし──その前に響がギロリと彼女達を睨みつけた。

 

「──させない」

 

 響は──この五千年の時間逆行で錬金術を学び、己の物とした。

 コマチを救えると信じて、力になると思い、しかし無駄だった。

 その無駄が──何千年分の研鑽はサンジェルマン達の錬金術を掌握する。

 サンジェルマン達の逃がさない為の結界は、響の誰も入らせない──繋がりを隔てる壁へと変わった。

 

「──な!?」

「邪魔はさせない……!」

 

 空を睨み付ける響に一つの弾丸が放たれる。

 しかしそれを響は簡単に受け止め、自分を狙い穿ったクリスへと視線を向ける。

 その視線はどこまでも冷たく、クリスの熱は、炎は……届きそうに無かった。

 

 そこに波導を纏ったマリアが拳を振り抜き、響の拳と激突し、衝撃が走る。

 

「──それが、あなたの選択なのね」

「……」

 

 マリアの問いに響は答えず、力で応える。

 ガンッと音が鳴り、マリアは響の拳の力を受け流しながら後ろに飛び、未来の隣に降り立つ。

 

「響……」

 

 未来が悲しそうに、辛そうに彼女の名を呼ぶが──響は陽だまりすら拒絶し、自ら翳す。

 他の装者たちも悲しみを帯びつつも、響は止まらないのだと理解し──覚悟を決めて立ち上がる。

 

「ブイ……」

 

 それをコマチは。

 

「──ブイ」

 

 見ている事しかできず──。

 

 

 

 彼女達は血まみれになるまで殺し合いをし──。

 

 

 ◆

 

 

「っ、ぁ……」

 

 凄惨な戦いの後、倒れ伏したのは──響だった。

 彼女も、彼女を叩きのめした装者達も、皆ボロボロだった。

 マリアが居て数で負けている以上、コマチとの融合が使えない響に勝ち目はなかった。

 

 響が負けても死んでいないのは、装者達が響の事が大好きで、愛していて、仲間だと思っているから。

 

 装者達が血塗れになりボロボロなのは、それだけ響がコマチの事を大好きで、愛していて、家族だと思っているから。

 

「……お、ねがい」

 

 掠れた声で響が懇願する。

 

「ころ、さないで……」

 

 それは命乞いではなかった。

 

「け、さな、いで……」

 

 それは──。

 

「わたしから、コマチを……奪わないで……」

 

 それは──少女の祈りだった。

 

 しかし、人の祈りを聞き遂げて奇跡を起こす神は既に居らず、日陰は裁きの時を待つのみ。

 

「ブイ……」

 

 

 コマチはその光景を目に焼き付けながら、どうか自分が居なくなってもまた皆が仲良く、幸せになれるように願い。

 アルセウスに向き直り、最期の時を受け入れるべく目を閉じ、アルセウスもまた力を行使しようとし。

 

 凶祓いの光が力の行使を中断させ、黒きマントがコマチを包み込んでアルセウスから奪われる。

 

「──ブイ!?」

 

 コマチは戸惑う。何故なら、それはあり得ない行動だからだ。

 自分の力で彼女達は自分に賛同してくれている。

 だから邪魔をする筈が無い。

 それなのに──奏が、翼が、クリスが、未来が、マリアが、セレナが、切歌が、調が……響の側に立ち、涙を流していた。

 

『──何故だ。貴様らは納得したのではないのか?』

 

 アルセウスが、コマチの代わりに問いかける。

 それに対する答えは──。

 

『──している訳無いだろ!』

 

 彼女達は正気に戻ったのではない。心が変わったのではない。考えが変わったのではない。

 ただ、響の涙を見てしまった。泣いている所を見てしまった。傷つけてしまった。

 そうなるともう……ダメだった。

 人間は感情で動く。それを本能で抑え、理性で動く事もできるが──本当に大切な事は、心に従う。

 

 人間はそうやってずっとずっと生きてきた。

 

「みん、な……?」

 

 響が顔を上げて、仲間達を見る。

 

「ごめんな響。あたし達まだこれが正しいのか迷っている」

「それでもオレ達はお前を放っておけない」

 

 憎しみに囚われて涙を流し苦しんでいた響を知っているからこそ、奏と翼は今──いや、あの時から彼女を救おうとする事に戸惑わない。

 

「わたしは何度も間違えてしまう……それがあなたを傷つけてしまう──そうしてでもあなたと隣に居たい」

 

 道に迷い、撃つ弾丸を間違えても、クリスは響に寄り添いたい。

 

「同じ痛みを知っているからこそ、何が正しいのか、何が間違っているのか、分からなくなる」

「それでも。偽善と言われてでも、後悔したくないのデス。響さんを泣かせるのは、嫌だから」

 

 調と切歌が響に肩を貸し、立ち上がらせる。

 

「もう優しさが何なのか分かりません──でも優しくなくても、わたし達は」

 

 セレナがその力で響の体を癒す。その行為が罪の意識から来るのか、泣かせてしまった事に対する贖罪なのか、優しさなのか、もう分からない。

 

「もう弱いままでも、強いままでも居られない。あなたの敵でも、味方でも居られない。でも、それでも……裏切れない」

 

 マリアは弱々しくコマチを抱き締めながら、弱音を吐く。

 

 もう皆──訳が分からなくなっていた。

 狂っていると言われても仕方がない。

 それでも──響の涙を見たくない。コマチを悲しめたくないと言う気持ちは同じで。

 

「みんな……!」

「響……」

「未来……」

 

 響は、未来の伸ばした手に触れて、皆の顔をそれぞれ一人一人見て、このどうしようもない絶望の中で、崩れかけた世界に咲いた胸の歌に、応えてくれた残酷さえ抱き締める(こえ)に──。

 

『──認められない』

 

 しかしそれをコマチが否定する。

 マリアの腕から飛び出したコマチは、アルセウスの隣に浮いて戻ると──彼女達を見つめる。

 もう彼は声を出さず、テレパシーだけで一方的に彼女達に告げる事にした。

 声に出すと、感情が込もってしまうから。

 

「コマチ……!?」

『俺は──消滅してでも、この世界を救う!』

 

 その言葉を最後に、彼はアルセウスへ助力を頼み。

 響達は、コマチの言葉を、行動を認められず──。

 

「それでも、わたしは……わたし達は!」

『邪魔をするなら……!』

 

 アルセウスとコマチが光を放ち、それを止めるべくシンフォギア装者達は必死に喰らい付き、彼女達の歌は、彼の覚悟は、魂は、世界は──まるで流れ星のように、堕ちて、燃えて、尽きて、そして。

 

 

第十話「FOR THE FUTURE」

 

 

 ──動かない装者達。

 ──傷だらけになり、神殺しの力で瀕死の状態のアルセウス。

 ──そして、その地獄の中心で立つのは──血塗れになった響と、彼女に首を掴まれているコマチ。

 

『響、ちゃん……』

「……ごめん、コマチ」

 

 もう──どうしようも無い。

 皆が死んでしまった。皆がこれから死んでしまう。

 それなら、響が取れる選択は。

 

「わたしは」

 

 響は。

 

「世界を壊してでも──アンタを救う」

 

 未来を翳してでも──自分を救うしか無かった。

 

 グシャリとナニカが潰れる音がし──一つの世界が終わった。

 

 もう、誰も止められない。

 止める者が──居ない。

 

 




次回、LOST SONG編 最終話
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