【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第九部 戦姫絶唱シンフォギア LAST SONG編
第一話「Synchrogazer」


 ──イヤだ。

 

 ──独りは、イヤだ……。

 

 ──わたしを独りにしないで……。

 

 ──未来……奏さん……翼さん……クリス……。

 

 ──マリア……セレナ……切歌……調……。

 

 ──……コマチ。

 

 ──お願い……誰か……誰か……。

 

 ──助けて。

 

 

 

「──き。響!」

「……未来?」

 

 午前6時。

 少女、立花響は親友である小日向未来の声により、眠りから覚めた。

 ムクリと体を起こして己の陽だまりを見ると、何故かとても心配そうにして響を見ていた。

 いったいどうしたのだろうか。

 首を傾げつつ、響は未来に尋ねる。

 

「どうしたの未来?」

「どうしたのじゃないよ! 物凄く魘されて……! それに、ほら」

 

 未来が響の頬を指差す。響は不思議に思いながらも自分の頬に触れると、何故か濡れていた。

 何故濡れているのか? その理由はすぐに分かった。

 響は泣いていた。

 眠りについたまま涙を流してしまった為、頬が濡れていたのだ。

 しかし──何故? 

 

「……どうして?」

 

 不思議そうにする響は──先ほどまで見ていた夢を綺麗さっぱり忘れていた。

 

 ◆

 

 

 立花響。

 人助けが趣味の頭に馬鹿が付くほどのお人好しで、かつては普通の少女だった。

 しかし今は様々な出会い、戦いを経てSONG所属のシンフォギア装者として日夜人助けをしている。

 そんな少女も私立リディアン音楽院高等科の三年生だ。

 未来や切歌、調と登校しながらぼやく様にして、彼女は胸の中に潜む不安を口にする。

 

「将来かー。未来のわたしってどうなっているんだろう」

 

 この年頃のこの時期の少女なら、誰もが抱く不安と期待。

 シェム・ハ、世界蛇、そしてTECとの戦いを終えた彼女の次の相手は自分の進路だった。

 しかし響の言葉を聞いた切歌が不思議そうにしながら、彼女に言った。

 

「将来も何もこのままSONGとして働くのではないのデスか?」

「うーん。それも良いとは思うけど」

「……意外と司令になったりして」

 

 調の言葉にその場に居た全員が、大人になった響を思い浮かべる。

 何故か彼女が師匠と呼び慕う弦十郎と同じ赤いシャツに赤いネクタイをつけた響の姿を。

 しかも中々に様になっており、響もそれはそれでアリかもと思っていた。

 

「後はそうデスねー……お嫁さんとか」

「オヨメサン!??!?」

 

 何故か未来が激しく反応を示す。

 

「お嫁さんかー……えへへ。それも良いかも」

「響ぃ!?」

 

 考えれば考えるほど、未来の響が無数に増えていく。まるで並行世界ができていく様に。

 響は何となくこうして、未来の可能性を思い浮かべるこの瞬間が好きだった。

 狼狽した未来にガクガクと揺さぶられながらそう思った。

 

 その後はいつも通りに、しかし三年生だからか先生達からも将来の事を考える様に言われながらも一日を終える。

 特に予定もなく、待機日では無い為、未来や他の級友とフラワーにでも行こうかと話していたその時──SONGから通信が入った。

 

 

 ◆

 

 

 時は少し遡る。

 とある地にて、翼はアメノハバキリのシンフォギアを纏いある敵と戦っていた。

 彼女は歴戦の戦士。防人。

 並大抵の輩では相手にならない。パヴァリア光明結社、ノーブルレッド。さらに並行世界に暗躍する組織との戦いを経て彼女は強くなっていた。

 

「く……面妖な!」

 

 しかし、その彼女をして──その敵に押されていた。

 翼のギアは、アームドギアは所々氷漬けにされており、緒川から習った忍法の炎で溶かしているが、それも焼け石に水。

 それだけ相手の力が──凍らせる力が強いという事だ。

 

「レジジジジジジ──レェジィアァイィスゥ!!」

 

 違法研究所の錬金術師が呼び出したのは、アルカ・ノイズとは違う兵器。

 その兵器の名は──アカシア・クローン。

 本来ならこの世界には──否。ある並行世界以外では存在しない、存在してはいけないクローンだ。

 

「氷の物怪よ。何故我が身にその刃を向ける」

「レェエジィイイ!!」

「くっ……やはり対話は不可能か」

 

 アルカ・ノイズとは違った生物特有の気配を感じていたのだが、翼の言葉に耳を傾けない。

 

「なら──斬り捨てるのみ!」

 

 翼は歌いながら剣を振るい、アカシア・クローン──レジアイスと応戦する。

 別地点ではマリアとクリスも戦っていろと連絡があった。それも、自分の目の前に居る存在と似た物怪と。

 ならば即刻倒して援軍に行かなくてはと彼女は防人の歌を、刃を、翼を戦場で羽撃かせる。

 

 何故か、その胸に鋭い痛みを感じながら。

 

 

 

「レ、レジ……レ──」

「……やったか」

 

 氷の塊のような生き物はその身を両断されて、光の粒子となって消えていった。

 それを見届けた翼は肩で息をしていた。アマルガムを使ってようやく倒せる程の強敵。マリアとクリスも似たような状況らしく、通信越しに濃い疲労の色が見て取れた。

 しかしそれ以上に。

 

「何だ……この胸の騒めきは」

 

 ただ錬金術師が呼んだ怪物を倒したにしては、翼は酷く動揺していた。

 初めて見る筈なのに、初めて会った感じがしない。

 それはマリアもクリスも同じで、彼女達は知らず知らずのうちにある4つの言葉を呟いていた。

 その言葉の意味を、彼女達はまだ知らない。

 

『翼、無事か?』

「──! 司令。はい、わたしは無事です」

『そうか。なら後処理は他の者に任せて帰投してくれ──少し妙な事が起きている』

「……それは、先程の物怪と関係が?」

『分からん。だが、オレの勘だが──』

 

 嫌な予感がする。

 弦十郎のその言葉は嫌に耳に残った。

 

 響達に通信が届く前の出来事だった。

 

 

 ◆

 

 

「で、おっさん。いったい何があったんだ? というかアレは何だったんだ?」

 

 開口一番、クリスが少し苛立った様子で弦十郎に問いかけた。

 彼女も翼と同じ感触を味わいながら「レジスチル」と鳴く妙な生き物と戦い、弾丸で撃ち砕き──そのまま光の粒子となって消えていく様を見ていた。心を騒つかせながら。

 だから八つ当たりの様な言動をし、響が思わず彼女を宥めようとする。

 

「まぁまぁクリスちゃん。何があったのか分からないけど、少しリラックスして──」

「──ッ、何でお前がそうヘラヘラしてんだ!?」

 

 しかしクリスは目に涙を溜めて叫んで響に掴み掛かり。

 

「──え?」

「──は?」

 

 響の驚いた顔を見て、自分も驚く。

 クリスの行動に皆驚き、彼女は自分のした事を顧みて、掴みかかった手を放して響に謝った。

 

「悪ぃ……どうかしてた」

「う、ううん! 大丈夫だよ!」

 

 しかし妙な気まずさが発令室を包み込む。

 何かが変だ。

 それを強く実感しているのは翼とマリアだった。

 何故なら、先程のクリスの言動に違和感よりも先に共感があったから。

 まだ何も分からないが──あの生物は、ただの戦うだけの存在ではない事は確かだ。

 

「それで司令。先刻告げられた妙な事とは?」

「ああ。……翼たちが例の未確認と戦闘に入る直前、完全聖遺物ギャラルホルンが起動した」

 

 その言葉に装者達が反応を示す。

 完全聖遺物ギャラルホルン。SONGが二課時代から極秘に管理していた完全聖遺物であり、この世界と似て非なる世界──並行世界と繋ぐ能力がある。

 そしてこの完全聖遺物が起動する時は総じて繋がった並行世界側に異変が生じた時である。

 

「まさか」

「ああ。あの生物は繋がった並行世界の物だろう」

「おそらくノイズやアルカ・ノイズの時と同じ現象だと思われます」

 

 世界同士が繋がった結果、その世界からこちらの世界に脅威が流れ込んでしまう。

 それを解決するには繋がった先の並行世界の異変を解決する必要がある。

 ──ある、のだが。

 

「実は切歌くんが試しに渡ろうとしてな」

「何してんだこの馬鹿!!!」

「デデデース!? もう散々怒られたから許して欲しいデスよ!」

「だが、おかげで分かった事がある」

 

 待機日の為SONGに居た切歌と調。そこでギャラルホルンが起動した結果、一人の少女の好奇心が生んだのは──ギャラルホルンの異常事態。

 

「渡れなかったんだ。ギアを纏っていたにも関わらず」

「何ですって……?」

 

 マリアがその言葉に反応を示した。

 

「ギアを纏っていれば……聖遺物があれば渡ることができるはず。本当に起動しているの?」

「はい。過去のパターンから間違いなく起動しています。……この事から推測するに」

「向こう側の世界に何かがあり、世界間の移動ができない何かが起きている……と考えるべきだ」

 

 しかしそうなると不味い。

 

「という事は──アレが何度もこちらの世界に来るという事ですか?」

「アマルガムを使ってようやく倒せる奴が、か……」

「落ち着くまで撃退──少しゾッとするわね」

 

 今の所追加個体は見られないが、もし対応できない程に流れ込んでしまったら対応できなくなる可能性がある。

 

「しばらく警戒態勢を取る。我々も捜査は続ける予定だ」

「スクルドのユリウスさんにも協力を仰ぎましょう。何か知っているかもしれません」

 

 その日はそれで解散となり、アカシア・クローンも出現しなかった。

 しかし響は何故か言いようのない不安を抱き、それは口にしない物の他の装者たちもそうであった。

 

 

 ◆

 

 

 スクルド。それは、多くの並行世界を破壊してきた世界蛇と共に戦った同盟組織である。

 その組織の一員であるユリウスは弦十郎に事の顛末を話した。

 

「様々な並行世界で出現しているだと!?」

「ああ。間違いない。この二人の世界でも出現したとの事だ」

 

 そう言ってユリウスは、この世界とは別の世界からやって来た奏とセレナに視線を向ける。二人はユリウスの言葉にコクリと頷き、事実だと述べる。

 

「妙な奴だったぜ。体全部が電気みたいな奴ですばしっこかった」

「わたしの所は竜の頭みたいでした」

 

 彼女達もまた翼達と同じ様にデュオレリックの力でようやく倒す事ができ──そして、光の粒子となって消えていく姿に言いようのない胸の騒めきを覚えた。

 

「なんかアレ見ているとイライラすんだよな……」

「わたしは……凄く、悲しかったです……」

 

 奏は自分の髪をガシガシと掻きむしり、セレナは目を伏せて語る。

 ユリウスも独自に捜査していたのか、SONGにも情報を開示する。

 

「デュプリケイターを使ってみたが入る事はできなかった。それとアレはどうやら星の命を吸い取っているらしい」

 

 ユリウスの言葉を聞いて思い出すのは──かつてニコラ・テスラが起こした事件。

 彼は全並行世界を消して一つの理想郷を作ろうとしていた。

 しかしその野望はこの場に居る装者達、そして彼女達に似て何処か違う装者達と……ニコラ・テスラの仲間で居続け、手を伸ばし、歌を届けた一人の少女によって集結した。

 それと同じ事が起きているのだろうか。

 

「だからギャラルホルンは起動したの……?」

 

 響が疑問の言葉を口にした──その時! 

 

『──それは違う』

「──!」

 

 突如、この場に居る全員の頭の中に声が語り掛けられていた。

 響達が驚く中──さらに驚く事態が起きた。

 

「──! 高エネルギー反応検知! 場所は……此処です!」

 

 藤尭が報告すると同時に、彼女達の前に三つの光が生じ──そこに現れたのは。

 

「ツクヨミさん!?」

「アマテラスさん!」

「それにスサノオだと!?」

 

 かつて並行世界の命運を賭けた戦いの際に、響達に力を貸した三柱の神。

 その神達がこの場に現れ──自分たちとは別の神の存在に驚いていた。

 ツクヨミが語り掛ける。

 

『何故今になってやってきたのじゃ──アルセウス!』

 

 ツクヨミがその名を呼ぶと共に──空間がねじ曲げられる。

 SONGの発令室が一瞬で超克の異空間へと変わり、響達は見えない床の上で慌てふためく。

 

「わ、わ、わ!?」

「何がどうなっているの!?」

 

 そんな彼女達の様子を尻目に──アルセウスはその身を現した。

 

『私もあの世界以外に干渉するつもりは無かった──だが、事は全並行世界に及ぶ』

『何じゃと!?』

『──立花響』

「ええ!? わたし!?」

 

 いきなり超常の存在に名指しで呼ばれて驚く響。

 

『どうか──彼の望みを聞いて欲しい』

「──え?」

 

 そう言って彼は一つのプレートを取り出し……それは光に変わり形を作る。

 そして現れたのは、この世界に現れ始めた生物──アカシア・クローンに似た雰囲気を放つ生物。

 その生物はピンク色の尻尾を振り、同じ色の体をふわりと踊らせ、綺麗な緑色の瞳で彼女を見た。

 

『僕の名前はアカシア』

 

 響は、その目を見て酷く悲しいと、辛いと、寂しいと……そして何より。

 

『どうか──世界を救って欲しい』

 

 ──愛おしいと思った。

 

 

 第一話「Synchrogazer」

 

 

 アルセウスとアカシアは全てを話した。

 ある世界で起きた悲劇を。それを止める為に一人の少女が取った選択を。

 そして──それにより生じた全並行世界の壊滅の危機を。

 

「世界を、人を殺す歌……」

「それがあたし達、いや全ての世界に広がるだと!?」

 

 セレナがその歌の恐ろしさ、悲しさに顔を青くし、奏は伝えられたその絶望的な状況に思わず叫んだ。

 

『うん。あの世界は様々な並行世界の中でも大きな可能性を秘めていた。そして、そこではたくさんの人が生きて、たくさんの人が死んだ』

 

 それこそ全並行世界と同じ人物があの世界に居るのでは? と思われるくらいには。

 そして──今あの世界では生と死の境目が曖昧になり、全ての人間が蘇っていると言って良い。

 その魂に滅びの歌を刻み込んで。

 そしてその歌はあの世界では止められているが──。

 

『精神リンクで繋がった先の平行同位体はその限りではない』

「──つまり」

『──このままでは、全ての並行世界の人間が死ぬ』

 

 だからこそギャラルホルンは起動した。起動しなくてはならなかった。

 しかし完全聖遺物程度の力では神の力を抜ける事はできなかった。

 故に装者達はその世界に入る事ができずにいる。

 

『問題は人の命だけではなかろう?』

 

 ツクヨミの確信を得ているであろう疑問に、アルセウスは頷く。

 

『同じ時間を繰り返したあの世界は──すぐに星の命が枯渇し始めた。故にあの世界の管理者は、このアカシアのクローンを使って他の並行世界の命を吸収し始めた』

 

 つまり。

 このままでは人の命も、世界の命も危険だという事。

 しかしギャラルホルンの力では侵入ができない為──アルセウスが出てきたという訳だ。

 

「できるのか?」

『あの世界を閉ざしている力は元々は私が作り出したもの。突破は容易い』

 

 クリスの質問にも律儀に答え──アルセウスは響を見る。

 

『……先程述べた通り、敵は貴様たち自身だ。覚悟はあるか?』

「……覚悟とか、そういう話じゃないです」

 

 響はアルセウスにそう返し、視線をアカシアへと向ける。

 アカシアはその真っ直ぐな目に思わずたじろいだ。

 もう見れないと思っていたから。もう捨てたと思っていたから。──もうその目を向けられる資格はないと思っていたから。

 

「アカシアさん。本当のお願いを言ってください! 話を聞いていて分かります。アナタが救いたいのは本当は──何ですか!?」

『──』

「助けたいのは──誰ですか!」

『──僕は』

 

 アカシアは──少しだけ本音を言った。

 

『響ちゃんを助けたい。孤独になってしまった彼女を助けたい』

「──分かりました」

 

 その言葉を聞いて──響に迷いはなかった。

 他の装者達は、そんな彼女を見て変わらないなと呆れつつも絶対の信頼を胸に笑顔を浮かべる。

 いつだって彼女は助けを求める誰かの手を掴み、繋いでいく強さがある。

 そんな彼女が──立花響が、迷う事など無かった。

 

「全部救おう! 全ての並行世界を! その世界を! ──そして、その世界のわたしを!」

 

 その花咲く勇気を見て、アカシアは。

 

『──ありがとう』

 

 枯れたと思われていた心に、一つの雫をこぼした。

 




スクルド。戦姫絶唱シンフォギアXDのギャラルホルン編で出てきた組織。ユリウスという男はその組織の一員。並行世界を移動する術を持ち、SONGと協力関係にある。

ツクヨミ 、アマテラス、スサノオ。並行世界を管理する神様。並行世界を作ったのはアヌンナキ達で、この三体はそのオリジナルの分身みたいなもの。人の姿をしておらず機械的
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