【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

123 / 133
第二話「Vitalization」

 協力を取り付けた事により、アルセウスは今後について説明を始める。

 

『あの世界の立花響は時間、空間、反物質の力を得ている。どの並行同位体の立花響よりも強い』

『なるほど。それだけの力があれば、其方を追い出す事はできる』

 

 ツクヨミは納得したかのように呟き、他の皆は驚く。

 目の前のアルセウスから感じる力は、かつて戦ったシェム・ハ以上だ。検知された数値からもそのデタラメさは示されており、実際にその数値を見た藤堯は卒倒しそうになる。

 

『いや……違う。私が負けたのはあの世界の装者達だ』

『何じゃと!?』

『いえ、あの世界にこの場に居るシンフォギア装者が居ると考えれば納得できます。神殺しの槍が三つ。それで削られたのでしょう』

 

 ツクヨミが驚き、アマテラスがその世界の特異性を思い出しながら納得を示す。

 

『いや……私をほぼ削り切ったのはマリア・カデンツァヴナ・イヴだ』

 

 彼女が居たからこそ私は負けたのだと言い、その言葉に彼の力を知るツクヨミ達は驚く。

 そして響達はマリアへと視線を向け、向けられた彼女は慌てながら否定する。

 

「わ、わたしじゃないわよ!?」

『いや、間違いなく貴様と同じマリア・カデンツァヴナ・イヴだ。ただ……少し貴様と違う所もある』

 

 アルセウスはあの時の戦いを振り返る、語り出す。

 

『彼女は強かった。私の力を悉く打ち砕き、仲間に攻撃する手段を与え、神殺しと波導の力で駆使する……まさに勇者であった』

『其方がそれ程まで語るとは……』

 

 アルセウスの語るマリアのデタラメさにツクヨミが絶句する。

 

『だから私も本気を出さざるを得なくなり──殺してしまった』

 

 そして、アルセウスの語った内容に響達が言葉を失った。

 

『その後は姉を失ったセレナ・カデンツァヴナ・イヴが、その次は雪音クリス。天羽奏、風鳴翼。最後に月読調、暁切歌が死に──立花響が私にトドメを刺した』

 

 悲しみ、憎しみ、怒り狂った彼女達は絶唱を、命を使ってアルセウスを倒そうとした。

 彼と戦う前に立花響と戦ったその体で。彼女を独りにし、涙を流させる事を心を痛め寄り添った筈なのに。

 結局立花響は独りになり、己以外を夢の世界へと誘い、閉じ込めた。

 それが救いだと信じて。

 

「……」

 

 語られたその悲しき結末に、装者達は悲しそうな顔をする。

 それと同時に理解した。

 彼女達は響が、アカシアが本当に大好きで、愛していて、助けたかったのだと。

 だからアカシアの決断が許せなかった。彼を消そうとするアルセウスが許せなかった。

 そしてその感情が精神リンクにより、この世界のクリス達に流れ込んで来た。

 パルキアの力で阻まれ、微々たるものだというのに感傷的になってしまう程に。

 

『勝てるのか? 其方を倒した奴らに』

 

 ツクヨミの問いに、アルセウスは響達九人の装者達を見て頷く。

 

『確かに今の立花響は脅威だが、あの世界のマリア・カデンツァヴナ・イヴが居ないのなら勝てるだろう』

「そうなのデスか?」

『うむ。私も力を貸す。可能な限り彼女の神の力を抑止する。さすれば彼女の打倒は叶い──世界は救われる』

 

 この場の戦力とあの世界の響の実力を分析したアルセウスはそう言い。

 

「違うよ──話をする事ができるんだ」

『──ああ、そうだったな』

 

 響の言葉に、アルセウスは同意を示した。

 

 何はともあれ、攻略する術は見つかった。

 

『ふむ。ならばそのアカシア・クローンはスサノオに対処して貰いましょう。彼の力なら対応できます』

『他の並行世界の者達にも伝えよう。先の戦いを乗り越えた者達ならそうそう負けはせぬじゃろうが』

 

 アマテラス、ツクヨミが響からの並行世界への攻撃に対する対応を口にする。

 

『……ともあれ、少し整理する時間が必要だ。二日後突入する』

 

 その間に他の世界への連絡、戦いの準備を整える。

 アルセウスはアカシアへと顔を向け、彼に言った。

 

『貴様は彼女達と共に過ごせ。……共に戦う仲間となるのだ』

『……うん。分かった』

 

 アルセウスが空間を元に戻し、彼自身は消えた。

 世界の外側に移動したのだろう。ツクヨミ達も一緒に行ったのか、姿を消していた。

 そして残されたのはアカシアのみ。

 

『えっと、よろしくお願いします』

 

 アカシアの言葉に、装者達は何処か戸惑っていた。

 全ての事情を知り、助けたいと言った響の言葉に同意を示している。

 しかし──精神リンクのせいか、彼に対して距離を計りかねている。

 

 響以外は。

 

「うん! よろしく!」

 

 彼女の笑顔に、アカシアは何処か救われた思いで──そう思ってはいけないと思い込もうとした。

 

 

 第二話「Vitalization」

 

 

 アカシアはSONGが用意した空き部屋で過ごす事となった。

 その部屋は偶然にも──響と過ごしていた部屋だった。

 しかし当然ながら世界が違う為、彼と彼女と過ごしていた名残はなく、最低限の物しか置かれていなかった。

 

『……』

 

 誰も居ない。響も、奏も、翼も、クリスも、マリアも、セレナも、切歌も、調も──みんな居ない。

 離れ離れになってアカシアは彼女達を、あの世界をどれだけ好きだったのかを痛感した。こうして独りで居ると余計にそう思う。

 助けたかった。でも自分の力の大半は響に奪われた。だから今アルセウスに消されても意味が無い。

 

『響ちゃん』

 

 思わず彼が呟き──扉が開く。

 入って来たのは、この世界の響だった。

 

「アカシアさん! 少し時間良いですか?」

「……君は」

 

 響ちゃん、と呼ぼうとして言葉に詰まる。

 その名で呼ぶのはややこしい……と感じる前に、この呼び方は自分の知る響にしか使いたくないと思ってしまい──こんなにも執着しているのに、消そうとしていた自分に、そしてその結果響にあの決断をさせた自分が嫌になる。

 この世界の響は彼の考えている事全ては分からない。しかし何となく彼が想っている事は察した。

 

「立花で良いですよ」

『え……?』

「同じ名前だと紛らわしいですからね! 他のみんなもそれで良いと言ってました! それに、その呼び方は仲直りしてから思う存分呼んであげてください!」

 

 彼女の、響の気遣いはとても優しく彼は深々と頭を下げて礼を言った。

 ありがとう、と。

 それに響は照れた表情を浮かべつつも、ここに来た理由を彼に言った。

 

「アカシアさん、ちょっと来てください!」

『……? 何かあるのか?』

「はい、でも秘密です! サプライズなので!」

『……』

 

 サプライズをするならサプライズと言ってはいけないのではないか? そう思いつつもアカシアはその事を口にしなかった。彼なりの気遣いである。

 

 アカシアは響の案内の元、食堂へと連れられて行く。

 人の気配が多く、静まりかえっている。今後の戦いについて改めてみんなと話し合うのだろうか? 

 そう考えていた彼は食堂に辿り着くと同時に──クラッカーと紙吹雪によって出迎えられる。

 

「「「ようこそSONGへ! アカシアくん!!」」」

『……へ?』

 

 アカシアの目の前には笑顔を浮かべる者、呆れた顔を浮かべる者、苦笑する者様々だが──全員がアカシアを歓迎していた。

 

「ほらほら主役はこっち!」

 

 そう言って響がアカシアの背中を押して中央の席へと座らせる。テーブルの上には様々な料理、飲み物が並べられていた。

 アカシアの隣に響きが着き、その反対には未来が座る。他の者達も椅子に座ったり、立ったままコップを持つ者も。

 戸惑うアカシアに響が笑顔を浮かべて言った。

 

「これから一緒に戦うのですから、もう仲間です! だから歓迎会をしようって!」

「まったく……世界滅亡の前に気楽だな」

 

 響の言葉にジュースを手に持ったクリスが呆れた様に呟き、その隣に居る翼が苦笑しながら言った。

 

「あれが立花だ。お前もよく知っているだろう?」

「……へーへー」

 

 彼女と手を繋いだからこそ今があるクリスは、翼の言葉に照れながらも同意を示す。

 

(……僕は)

 

 そんななか、アカシアは昔を思い出す。

 こういう風景はよく見覚えがある──自分が皆と繋がりたいと思い、SONGの皆を巻き込んでよくやっていた。

 その度に響は呆れながらも笑い、奏や翼、クリスは微笑ましそうにしながら参加し、マリアやセレナは優しい表情を浮かべながら手伝い、面倒臭がる調を切歌が引っ張って来ていた。

 

 その事を彼は忘れていた。

 人と繋がる資格は無いと思っていたから。

 

「うおっほん! とにかく今は英気を養うとするか」

 

 そう言って弦十郎がコップを掲げて。

 

「それでは──乾杯!」

「「「乾杯!!」」」

 

 響の音頭と共に、アカシアの歓迎会が開かれ皆思い思いに食べたり、飲んだりし始める。

 そしてアカシアの隣に居る響と未来は彼に話しかけ始めた。

 

「アカシアさん。もし良かったらアカシアさんの居た世界のわたしの事、教えてくれませんか?」

「ちょっと、響」

「辛いのかもしれません。でも、もう一人のわたしと話す為には知っておきたいんです。もう一人のわたしが何を想っているのか──どんな子なのか」

 

 響達は倒しに行くのでは無い。救いに行くのだ。

 だからその力の強大さだけではなく、相手の心の痛み、愛の深さ、考えを知りたいと想っていた。

 アカシアの犯した罪。響の取った選択。これから起きる破滅。それだけを知っていても意味がないと響は判断した。

 だからこうしてアカシアを歓迎し、仲間になった、その仲間の想いを、大切な人を知りたいと彼に言った。

 

 その言葉にアカシアは──まるで自分の罪を口にする様に、懺悔する様に語り始める。

 

 初めて出会った時の事。諦めず自分を救おうと未来から来てくれた事を。

 そして約束をし──やがて約束は重圧に、呪いに変わってしまった事を後悔している事も。

 

 二回目の出会いは記憶を失っていた。

 その時の彼は何故か苦しんでいる彼女を救いたいと思い、鬱陶しがられながらも付き纏い──お互いに掛け替えの無い大切な存在となった。

 こちらの響とは違い素直ではなく、彼はいつも彼女を笑顔にしようと頑張っていた。巫山戯ていた。共に笑っていた。己の犯した罪を愚かにも忘れて。

 

「でも、楽しかったんですよね? ──取り戻したいんですよね?」

『……』

「その想いはもう一人のわたしも同じだと思います。だから必ず助けましょう!」

 

 その言葉にアカシアは──答えることはできなかった。

 まだ、迷っている為に。

 そして──彼はあの日常を取り戻してはいけないと思っている為に。

 

「あの一つ聞きたい事が」

 

 未来が逆隣からアカシアに尋ねる。

 

「その世界のわたしは響を止めなかったのですか?」

『……彼女は一番響ちゃんの痛みを知っていた』

 

 だからこそ──一番最初に響に作った夢の世界に呑まれてしまった。

 響が好きだから。響を悲しませたくないから。

 その想いが強かった彼女は、響の決定に全く逆らわずに受け入れた。

 

「……そう、ですか」

 

 その話を聞いた未来は。

 

「話をしないといけないのは響だけじゃない」

「未来?」

「わたしは大丈夫──さて」

 

 ガタリと席を立ち、未来は響を連れて行く。響きが「ちょ、未来!?」と動揺するも彼女は気にせずにアカシアに言った。

 

「わたし達だけではなく、皆と話してください──皆もそうしたいみたいですし」

 

 そう言って彼女は半ば強引に騒ぐ響を連れて行った。

 その光景を見て全く似ていないのに、自分の世界の響と未来を思い出し──アカシアは泣きそうになる。

 

「隣良いか?」

「失礼する」

 

 そんな彼の隣に奏と翼が座る。

 二人はかつてツヴァイウィングとして歌い、しかし片翼を失い、そして再び出会った。

 だからだろうか、アカシアの話を聞いて欠ける事なくツヴァイウィングとして居られるもう一人の自分達を羨ましく思っていた。

 故に興味があった。自分たちを救い、そして大事にされているアカシアともう一つのツヴァイウィングに。

 

「なぁ、お前にとってその世界のあたし達はどういう存在だったんだ?」

『……姉の様な存在で、大切な家族だった』

 

 アカシアはアルセウスの力で全ての記憶を思い出している。

 故にツヴァイウィングの二人との出会い、日常、そして別れたあのライブの事も知っている。

 だからこそその喪失感は大きかった。

 

「姉、か……。考えた事も無かったな」

「翼はどちらかと言うと妹って感じだよな。寂しがりで不器用な」

「か、奏!」

 

 凛として思案する翼も奏の前では一人の少女に戻ってしまう。

 その光景を見て、奏は自分の知る奏と似ていて、翼は自分の知る翼とは違うのだと思い。

 

「だが──そこまで想っているという事は、向こうも同じ想いだったのだろう。だからこそ、戦場で感じた痛みは重く鋭かった」

「だな。多分あたしが翼に、翼があたしに想っているくらいには大事だったんだろうさ」

 

 しかし根幹の部分は変わらない事はよく分かった。

 二人のアカシアを見る目は優しい。あの世界の二人の様に弟に向ける感情ではない。

 しかし、もう一人の自分の想いを汲んで、彼にその想いを伝える。アカシアがその想いを受け止める資格は無いと考えているの事が分かるから。

 

「あたしにも妹が居るから、姉の気持ちはよく分かる。会ったら思いっきり甘えてやれよ。それは下の兄弟の特権で、姉の特権でもあるからな」

 

 そう言って奏はアカシアの頭をグリグリと撫でつけた。まるであの世界の奏の様に。

 対して翼はあの世界の翼と違い、真面目な顔で彼に言った。

 

「わたしは姉というのがよく分からない。しかし家族を失う辛さはよく知っている。だから恐れるなアカシア。手を伸ばす事を。その勇気を。それでも不安なら──我が剣がその闇を切り払うと誓おう」

 

 翼の絶対にしない喋り方で、あまり言わないであろう言葉で、しかし彼の知る翼と似た優しさで、彼女はアカシアを鼓舞した。

 その不器用さは──方向は違えど、彼の知る翼と同じだった。

 

「わたしの言いたい事は以上だ。後は……後輩の時間だな」

「だな」

 

 そう言って奏と翼は立ち上がり、チラチラとこちらを伺っていたクリスに微笑みかけて席を外した。

 しばらくして照れているのか顔を赤くしたクリスがドカッと翼が座っていた席に腰掛けた。

 

「ったく。お節介な先輩たちだ」

 

 そう言って彼女は粗暴な口調で乱暴に目の前にある骨付き肉に齧り付く。

 その姿は先程の翼よりも自分の知るクリスと掛け離れていた。

 というより全然違う。ショックすら受けている。

 彼の知るクリスはもっとお淑やかで、優しくて、お嬢様みたいな癒しみたいな存在だった。

 対して目の前の少女は色々とインパクトがあった。

 お胸様もインパクトがあった。そこは変わらなかった。

 ついでにさっきの翼の胸もこっちの世界の翼と同じだった。防人でも防人じゃなくてもどうやら絶壁・アメノハバキリのようだ。

 

「──」

「どうした翼?」

「いや、何か失礼な事を考えられた様な気が……」

 

 殺気を感じてアカシアは思考をカットした。

 やはり翼は翼だった。

 

「あー、なんだ。あまり考えすぎるなよ」

 

 クリスが気遣った様子でアカシアに話しかける。

 

「その場その場の判断が取り返しのつかない事になるなんて事は割とよくあるんだ」

 

 彼女にもそういう経験があるからこそ、クリスは敏感にアカシアの後悔を感じ取っていた。

 アカシアは優しすぎた。優しすぎたからこそ洗脳という手段を取った。洗脳しながらもその行為に迷いを生み、最後は装者達は響側に着いた。

 そして何より──響の想いを考えてしまった。だからこそ未来の行いに怒れず、響を説得しようとし──失敗し、大切な仲間同士の殺し合いを見せつけられ、最後は次々と死んでいく光景が繰り広げられ、響に重い決断を強いた。

 

「でもそこで諦めたらダメだ。それが分かっているからあの馬鹿に、あたし達に助けを求めたんだろ?」

『……』

「それができるだけお前はあたしよりも上等だよ。……昔の馬鹿なあたしに比べたらな」

 

 しかしアカシアはクリスの言葉に賛同できなかった。

 そしてずっと考えてしまう。もっと良い方法は無かったのかと。

 

「お前、あの馬鹿と似ているな」

『え?』

 

 クリスの視線の先には、響の姿があった。

 

「人に手を差し伸べる癖に、自分は二の次で傷ついてもアホ面晒してる。んで辛い事を抱え込んでしまうあの馬鹿に」

『……』

「だからあたしはアイツの事が放って置けなくて──まぁ、そのなんだ」

 

 友達だと想っている、とクリスは小さな声で呟いた。

 

「そして、それは多分お前の世界の奴らも──もう一人のあたしも同じなんだよ」

『……』

「だから取り戻してやろうぜ。その為の弾は十分あるからよ」

 

 じゃあな、とそれだけ告げるとクリスは言いたい事は言ったのかその場から離れた。そして満面の笑顔を浮かべた響に絡まれ、恥ずかしがり、しばらくして調子に乗るなと吹き飛ばした。

 その光景は見た事がなくて、そういえば響にくっ付くのは自分からで、その後にクリスもこっそりと加わっていたなと思い出した。

 

 それを壊したのは自分なのに。

 

「不思議? 聞く所によるとそちらの世界の響とクリスは性格が正反対だし、仕方ないわよね」

「以前共に戦った響さんとクリスさんと似た性格ですよね? それだと確かに珍しいのかもしれません」

 

 クリス達の戯れ合いを見ていたアカシアの元にマリアとセレナがやって来る。

 

『君たちは……』

「よろしくねアカシア。と言っても貴方からすれば知っている存在でしょうけど」

「姉さん。話によるとアカシアさんの世界のわたし達は……」

「……そうだったわね。少し見た目が違うのかしら」

 

 そこで二人が思い出すのは幼い姿のマリアと大人の女性となっているセレナ。

 それは二人が生き残っている世界のイヴ姉妹であり、この二人が失ってしまった可能性の世界。

 彼女達はそんな自分たちが羨ましいと思った事があり、そしてそんな「もしも」の自分達が他にも居た事に驚いていた。

 

 しかし、それよりも驚いたのは……。

 

「……それにしても未だに信じられないわ。その世界のわたしが司令と同等クラスだなんて」

 

 ギアも無いのに装者達を圧倒する弦十郎を思い浮かべて、それを自分を重ねようとして……できなかった。

 どうもイメージが湧かない。それに聞くところによると、その世界のマリアは終始強い姿で居たと聞く。

 アルセウス曰く、夢に囚われた仲間をあの世界の響は起こさないだろうと語っていた。戦力にすれば強力だが──それをしないだろうな、と

 響が全てを背負い込んでしまっているが故に。

 

「その世界のわたしは一体どんな人なんでしょう。気になります」

『えっと。優しい子だったよ。後は──』

 

 そこでアカシアは、自分を抱いて寝ているマリアに興奮したり、ウェル達と呑みに行ってゲロゲロしたり、その後二日酔いして死にそうになっている姿を思い出し──。

 

『うん、優しい子だった』

「そうなんですか……?」

 

 真実を語らない。それもまた優しさの一つだった。

 

「わたしも聞きたい事があるわ」

 

 そこにマリアが鋭く切り込む。

 

「それだけ心身共に強いのなら、その世界の立花響の行動を止めると思うのだけど……」

『マリアは……』

「……その様子だと夢の世界に居るという事ね」

 

 彼女の言葉にアカシアは頷く。

 マリアはアルセウスの語った内容を思い出していた。響はあの世界の全ての人間に夢を見せている。望む者、望まない者関係なく。

 アカシア達がこちらの世界に逃げる際、何人か抗っている者が居るとアルセウスは語っていた。その中に果たしてマリアは居るのか──それが気になった。

 

(アルセウスと戦闘をした事を考慮すると、もしかして……)

 

 マリアは自分に置き換えて、そして何より誰からも強いと思われ、頼られ続けたその世界の自分を考え──最もあり得る可能性に行き着く。

 しかし、その事をアカシアに伝えるつもりはなく、それ以上語らなかった。

 

「それにしても可愛いですね!」

 

 セレナがアカシアをキラキラした目で見てそう言った。妹のその発言に、マリアは確かにと胸中で深く頷いた。

 マリアは可愛いものが大好きだ。とある神社に行った際にはそこで祀られているウサギにうっとりとし、南極に行く際にはペンギンが載っている写真集にメロメロだった程。

 そんなマリアからしてみれば、目の前のアカシアはどストライクだった。

 

「ちょっとぎゅーっとしても良いですか?」

『うん、構わないよ』

「ありがとうございます!」

「!?」

 

 そんな中、セレナがアカシアをぬいぐるみの様に抱き締めた。マリアはそんな妹の積極的な姿に戦慄を覚える。というより羨ましいと思っていた。

 

「わ、わたしも──」

 

 思わず手が伸び。

 

「──はっ!」

 

 こちらを見てニヤリと笑みを浮かべている翼に気づき、動きを止めた。

 翼は目で遠慮するな、ほれほれとマリアを笑い、彼女はそれに対して握り拳を作ってプルプルと震える。

 

 ──あの剣、可愛くない! 

 

「姉さん?」

「な、なんでもないわ!」

 

 結局マリアはアカシアを抱き締める事ができず、セレナのみが堪能し陰で大いに涙を流した。

 

 その後もアカシアは様々な者たちと語り、親交を深めた。

 弦十郎、エルフナイン、友里、藤孝、緒川、その他SONGのスタッフ達。

 皆アカシアの知っている人達で、生きていた者も居れば死んでいた者達も居た。

 彼らの笑顔が、優しさが──今は辛かった。

 その後歓迎会は終わり、お開きとなった。その後アカシアは自分の部屋に帰るが、眠られずテレポートで外に出て空を見上げる。

 

『最後に見たあの世界の空は……雨雲で良く見えなかったな』

 

 とても綺麗だと思い、かつて響達ともこういう夜空を見に行った事がある事を思い出し、それはもう叶わないのだと思い知る。

 

 それだけの事をアカシアはしてしまったのだ。

 

 だから──正さなくてはならない。歴史を。

 

「──アカシアさん?」

 

 そんな中、響が彼の背後から声を掛けてきた。

 振り返ると不思議そうな顔をした彼女が居り、しかしすぐにムッと眉を顰める。

 

 その顔が、自分のよく知る響と重なった。

 

「もう、ちゃんと寝ないとダメですよ? それにさっきもあまり食べていませんでしたし!」

『……ごめん。でも僕は食事を必要としないから』

「でもでも! ご飯は皆と食べるから美味しいんですよ! 向こうでも食べていたんですよね?」

『……まぁ、ね』

 

 そういえば、と彼は思い出す。

 あの日、アルセウスに己の罪を教えて貰ってから何も食べていなかった。

 普段ならすぐにお腹が減って響にご飯&ご飯を頼み込んで、初めは健康に悪いから、食べ過ぎは良く無いと断られ──そして最後には根負けしたかの様にこっそりとおにぎりを一つ作ってくれた。

 そしてそれが後にバレて未来やクリス、奏やマリアに怒られる。

 そんな日々を過ごしていた。

 

「ねぇアカシアさん。歌は嫌いですか?」

『……いきなりどうしたの?』

「えっとですね。あの話の後にこんな事を言っていいのかは分かりませんが」

 

 響はそれでも真っ直ぐと彼を見て言った。

 

「歌を嫌いにならないでください」

『──』

「確かにあの世界は歌のせいで皆……アカシアさんも悲しい思いをしているのだと思います。だとしても、あの世界のわたしと共に居た時間、あの世界のわたしの歌を嫌いにならないで」

 

 アカシアの居た世界とこの世界は似ているのだ。辿って来た歴史が。

 さらにシンフォギアまであるとなると、歌の力で未来を切り拓いて来たという事であり──そんな彼女達と一緒に居たアカシアが歌を嫌いになる事は悲しいと思った。

 

「アカシアさんは、もう一人のわたしの歌は好きでしたか?」

 

 それは質問というよりも確認だった。

 アカシアは誤魔化せないと悟り、白状して頷く。

 

『うん。大好きだった。誰よりも側で聴いていたいと思っていた。──響ちゃんの歌は、胸の歌は……いつだって僕を照らしてくれるお日様の歌だった』

「だったら、取り戻しましょう! 未来も、世界も、日常も! 大好きな歌も!」

『──うん、そうだね』

 

 そうなれれば良いな、とアカシアは口にしなかった。

 呟いてしまえば彼の核にある本音を悟られてしまうと思ったから。

 

「なので! 元気が出るようにこれを食べてください!」

 

 そう言って取り出したのは、一つのおにぎりだった。

 

「こんな簡単な物しか作れませんが、美味しいですよ! あ、ちなみにわたしの好きな物はご飯&ご飯!」

『──』

「ではわたしは戻りますね? 味の感想教えてくださーい!」

 

 それだけ伝えて響は戻って行った。

 おにぎりの感想と言われても、美味しかった、塩が効きすぎだ、くらいしか無いだろうと普通の人間なら言うだろう。

 アカシアは渡されたおにぎりを、包まれていたラップを剥がして口に運ぶ。

 なんて事のない普通の塩おにぎりだ。普通に美味しい。──普通に美味しい筈なのに。

 

『ああ──とても。とても……』

 

 懐かしい味だと、アカシアは夜空に広がる満天の星々を見上げながら、忘れかけていた幸せの味を噛み締めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。