【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第三話「Exterminate」

 ──時は来た。

 

 アルセウスの力で響の世界へと向かう──この世界の響たち。

 人が居らず、空いた地を探した結果、彼女達はユグドラシル跡地に集合した。

 偶然にも、かつてアカシアとアルセウスが響達に敗れた地でもある。

 

『準備は良いか?』

 

 アルセウスの問いに響達は頷いた。

 それを確認したアルセウスは力を行使する。

 

(──響ちゃん)

 

 アカシアは自分のお日様に想いを馳せて──彼と九人の装者、そしてアルセウスはこの世界から消える。

 

 

 第三話「Exterminate」

 

 

 光の繭に包まれた一向は、まるで嵐の中を突き進むかの様に世界の壁を越えようとしていた。響の行使したパルキアの空間的閉鎖。それを突破するには相応の力が必要で、アルセウスですら容易くいかない。

 

 しかし。

 

『アルセウス』

『うむ……これは!』

 

 それを抜きにしても違和感があった。

 神故にいち早く気づいたアカシアとアルセウス。その反応に響達が尋ねようとしたその瞬間、抵抗が無くなり──彼らは空間の壁を突き抜けて世界に侵入する事に成功した。

 

 そして。

 

「こんにちはアルセウス──会いたかったわ」

『──な!? 貴様は、マリア・カデ──』

 

 アルセウス達を出迎えたのは、この世界のマリアだった。

 マリアは波導の力で全盛期の姿となり、ガングニールのシンフォギアを──神殺しの拳を握り締めていた。

 

「──はぁあああああああああ!!」

『ぐ、ぁあああああああ!?!?』

 

 そして彼女はその拳を思いっきりアルセウスに叩き込む。

 アルセウスの体から血飛沫が上げられ、神殺しの力が回復を許さない。

 アルセウスが悲鳴を上げて、地面へと落下していく。それにより響達を包んでいた繭が消え去り、彼女達は空の上で投げ出される。

 彼女達を救おうとして……神殺しの力で阻害される中、アルセウスはこの世界の異変に気づいた。

 

(何故だ。この世界は反転させられた筈)

 

 響以外の人間に夢を見せる為に、この世界は反転し……破れた世界へと変わっていた。

 故に空も、大地も、森も、海も、全てがぐちゃぐちゃになっていた。右を見れば大地、左を見れば海、見下ろせば空、見上げれば別の大地と森。そんな世界に変えられていた筈だった。

 

 しかし今のこの世界は──元の世界に戻っていた。響とアカシアが過ごしていた世界に。

 それが意味するのはただ一つ──響が世界の法則を戻した、という事。

 さらに先程のマリアの存在から察するに、彼女は夢の世界から解放されている。

 

『何故──』

 

 訳が分からず疑問を抱きながら思考を繰り返すアルセウス。そんな彼に答えを教えるのは──。

 

「──さっき負けたから。だから……皆に手伝って貰う事にした」

 

 ──この世界の響だった。

 ズシンッと彼女の前にアルセウスが血を流しながら倒れ伏し、響は空を見上げる。この世界にやって来た装者達を──もう一人の自分達を。

 

「──行け」

 

 彼女のその一言と共に、八つの影が飛び出した。その影は響の形をしておりそれぞれ色を持っていた。

 それは──コマチと響の想い出の力だった。

 八つの影はアカシアと響以外を抱えると、それぞれ散り散りになって装者達を運ぶ。

 

「くっ、この!」

「は、放すデース!」

 

 抵抗する装者達だが影は放さず、それぞれの場所で解放した。

 しかしそこは──響が用意していた彼女の仲間達の前であった。

 錬金術師協会に所属する全錬金術師が配置されているのだろう。それぞれの場所で彼女達は囲まれていた。さらに。

 

「天羽奏、か。こちらの世界と似ているな」

「……ううん。奏じゃない──敵」

 

「チッ……厄介な奴が居やがる」

 

 奏の前には、この世界のキャロルとクリスが。

 

 

「やっぱりやり辛いな。似てないのがせめての救いか」

「関係ないさ奏──相手は子猫ちゃんじゃなくて……この世界を蝕む蛇だ」

 

「この世界の先輩達かよ……」

 

 クリスの前には、この世界の奏と翼が。

 

 

「さっさと倒そう。この時間が非合理的だから」

「うん……それが正しいのデスね」

 

「二人とも……!」

 

 未来の前には、この世界の調と切歌が。

 

 

「響の為に……やらなくちゃ」

「例えこれが、間違っていたとしても」

 

「未来さん……セレナ……」

 

 調の前には、この世界の未来とセレナが。

 

 

「申し訳ないけど、あーし達も必死なの。……ごめんね」

 

「カリオストロさん……」

 

 セレナの前には、この世界のカリオストロが。

 

 

「ジルの残したこの世界、滅ぼさせないワケダ」

 

「ヤバい相手が居るデスね……」

 

 切歌の前には、この世界のプレラーティが。

 

 

「すまないな。これも彼女の……私達の選択だ」

 

「サンジェルマン……!」

 

 マリアの前には、この世界のサンジェルマンが。

 

 そして。

 

「──叔父様」

「──何も語るまい」

 

 翼の前には、この世界の弦十郎が居た。

 

 響は確実に倒す為に、そして大事な仲間にもう一人の自分と会話させない為に分断した。

 対話による理解も、奇跡による逆転も起こさせない──そんな強い覚悟があった。

 

 そして、自分の前には──もう一人の自分とアカシアが居る。

 

「アルセウスはわたしが抑えておくわ」

「うん。お願い」

 

 そう言ってマリアはアルセウスに拳を添えて動けなくし、響は──もう一人の自分を見る。

 とても冷たい目だった。全てを諦めたような、たった一つの大切なものに縋り付いているような──絶望に染まり切った目だった。

 

「もう一人の、わたし──」

「喋るな……もう、お前の声は聞きたくない」

 

 その言葉を聞いてアルセウスは察した。

 

『まさか、貴様──』

「流石はカミサマ。察しが良いね──そうだよ。時間を巻き戻したんだ。わたし一人じゃ、アンタの狙い通り負けたから」

 

 響は──この世界の響は負けた。

 アカシアと共に来た響の言葉に耳を塞ぎ、力で全てを捻じ伏せようとした。

 でも出来なかった。だからもう一度やり直す事にした。今度は失敗しない様に──ただ日陰を取り戻してこの世界を永遠にする為に。

 

「コマチ……待っててね」

『響ちゃん……』

 

 響が錬金術を行使し、目の前の響と自分だけを閉じ込める。

 その事に並行世界から来た響は驚き、展開された結界を見る。

 

「錬金術!? わたしが!?」

「お前じゃない。わたしだ。わたしがコマチを救う為に必死に覚えた力だ──そして」

 

 ギリッと奥歯を噛み締めて、憎しみの目でもう一人の自分を見る響──否、破壊神ヒビキ。

 

「ソイツの隣に居るべきなのはわたしなんだ!! お前なんかじゃない!!」

「うっ……!」

 

 放出される神の力がプレッシャーとなって響を圧し潰そうとする。

 そして何より──恐らくヒビキ自身が絶っているだろう精神リンク。それを介さずとも感じてしまう彼女の激情。それが悲しく、激しく、寂しく、響に叩きつけられた。

 

「──だとしても!」

 

 それでも、響はアカシアとの約束を守る為にギアの力で振り払い、ヒビキへと向き直る。

 

「もうやめて! もう一人のわたし! こんな事をしても、アカシアさんが悲しむだけだよ!」

 

 そして必死に言葉を紡ぎ、手を差し伸ばそうとする。

 しかし──ヒビキはそれを振り払う。

 

「そんな事既に分かっている!」

「だったら──」

「だとしても! アイツが……アイツが生きていけない世界なら、わたしは迷わない! 壊してでも、コマチを救うと──そう決めたんだ!」

 

 ヒビキの悲痛な叫びが、アカシアの心を軋ませる。

 響も悲しそうな顔を浮かべながら、それでも分かり合おうとヒビキへと語り掛けた。

 

「わたしも大切な人を失いかけた事がある! 気持ちは分かるつもり! だから他の方法を──」

「黙れ……! 取り戻せたお前に、わたしの気持ちが分かるなんて絶対に言わせない!」

 

 もし認めてしまえば──あの未来に辿り着くと分かっているから。

 

「未来に絶望しないお前なんかに!」

 

 コマチの死を受け入れ、前に進む立花響に──ヒビキはなりたくない。

 己の妹を殺してでも。

 

「でも、そんなの悲しいよ! いつだってわたしは、立花響は拳を開いて、手を伸ばして、明日へ続く未来を掴み取って来た筈だよ! あなただってそうでしょう!? アカシアさんが愛したその胸の歌で──」

「──歌なんて要らない」

「──え?」

 

 ヒビキがガングニールのペンダントを取り出す。

 

「歌があったからコマチは苦しんでいるんだ……歌のせいでみんな……世界が! 全てが呪われた! だったら!」

 

 ──わたしはもう二度と歌わない。歌わせない。

 

「そん、な……」

「だからこそわたしは──お前だけは認める訳にはいかないんだ!」

 

 心の底からそう叫び、ヒビキは錬金術を行使し──ガングニールの力を解放する。

 そしてその身に戦う為だけの力を纏った。

 目の前の響と同じ装甲。神殺しの拳。そしていつもコマチを包み込んでいたマフラーは、まるで全てを拒絶するかの様にローブとなってヒビキを包み込んだ。

 

「歌わないで、シンフォギアを……!?」

「違う。これはシンフォギアなんかじゃない──これは、お前達を殺す力。コマチを取り戻す力。世界を壊す力。そして──歌を消し去る力だ」

 

 ヒビキが纏ったのはガングニールのファウストローブだった。かつてアダムに操られていた際はダイレクトフィードバックシステムと呪いで操られて身に纏っていたが──今は己の意志で纏っていた。

 彼女の言う様に歌を捨て去って。

 ガングニールのシンフォギアとガングニールのファウストローブ。

 どちらも見た目は似ており、使用者も同じ人間で、聖遺物も同じ。

 しかし──悲しい程に、徹底的に違っていた。

 響はそれが凄く胸に突き刺さった。

 

「そんな……アカシアさんはあなたの歌が好きだと──」

「──だとしても」

 

 響の言葉を遮り。

 

「それで消えなくちゃ行けないなんて──嫌なんだ!!」

 

 ヒビキが手を上に翳す。

 

「来い!」

「──」

 

 彼女の呼びかけに応えて、空間の穴からイーブイが飛び出して来た。

 ヒビキはそのイーブイを掴むと──自分に溶け込ませる。

 

「──融合」

 

 イーブイは何も言わずただの力としてヒビキの拳に宿り。

 

「──進化」

 

 そして蓄積された歌への憎しみがヒビキの胸から湧き出し、ガングニールと己を黒と紫……闇色へと染めていく。

 

「ガン……グニール……!」

 

 最後にヒビキは、血を吐く様にして、これまでコマチと歩んできた想い出を、奇跡を否定する様にして呪いの槍の名を呟き──ただ目の前の響を否定する為だけの力を顕現させた。

 その力の名は──。

 

「アカシッククロニクル──タイプ・ロストソング」

「ロスト……ソング……」

「この手には──呪いしかない」

 

 立花響は──呪われている。

 孤独という悲しき呪いに。

 

 ヒビキは全ての並行世界すら壊して──独りになろうとしていた。

 コマチの歌で誰も死なない様に──その前に世界を壊し、そこに住む人々を消し去る事で。

 

 翳り散らす呪いが、花咲く勇気に襲い掛かった。

 

 

 ◆

 

 

 戦況は芳しくなかった。

 ヒビキが巻き戻しをした事により戦力を把握されてしまった彼女達は孤立させられ、さらにユニゾンして力を増す相手、もしくは単純に強い相手と戦わされていた。さらに各戦場で錬金術師達が結界を張る事で容易に離脱、そして合流できない様にさせられている。

 

 とことんまでに効率的に響達を潰そうとしている。

 それを強く感じた。

 

『みんな……!』

 

 アカシアが力を行使して何とか状況を打破しようとしたその時、ふわりと背後から優しく抱き締められ、波導の力で彼の力が散らされる。

 

『マリア!』

「ごめんなさいリッくん先輩──もうあなたには何もさせないから」

 

 マリアに拘束され、アカシアは抜け出す事も技を使う事もできなくなった。そもそもヒビキにより分割されてしまい、彼にはほとんど力が残っていない。その状態でマリアに勝つ事自体が不可能だ。

 そして他の装者達も強敵相手に倒れない様に立ち回るので精一杯だ。アマルガムやデュオレリックの力を解放してようやく生き残っているレベル。対してこの世界の装者達はアカシアの力を使わずに温存している始末。

 

 故に、勝負の行方は響に掛かっていた。

 

「うおおおおおお!!」

 

 響は既にアマルガムを使用していた。黄金に輝く友との絆の拳を、ヒビキへと叩き付ける。

 

 しかし。

 

「受け止めろ、ワイルドビースト」

 

 ヒビキが己の影を錬成し、響のアマルガムの拳を受け止めさせる。

 その光景に響は歯噛みした。

 

 タイプ・ロストソング。その力はタイプ・ラストシンフォニーに似ている。

 タイプ・ラストシンフォニーは過去のアカシアの記憶を歌で再現して共に戦う力。

 しかしタイプ・ロストソングが呼び出すのは己自身。コマチと戦って来た己だけを、力だけを呼び起こし、使役する力。

 その種類は全部で八つ。ヒビキは一人で八人以下の敵に数的有利を取る事ができる──ひとりぼっちの力。

 

 そしてこの力はフォニックゲインを元に作られており、ヒビキの塊はフォニックゲインの塊。

 だが、そのフォニックゲインはヒビキからの供給で顕現しているのではなく──周りから、相手からのフォニックゲインで作り上げている。

 

 つまり相手がシンフォギアなら、歌ってフォニックゲインを高める装者相手なら最強で。

 胸の歌で奇跡を起こしてきた響にとっては最悪の相手であった。

 

「また、吸われて──」

 

 ワイルドビーストがアマルガムのフォニックゲインを吸収し続けて──響のギアが強制的に元に戻される。

 そしてワイルドビーストの黒い拳が叩き付けられて、響は結界の端まで殴り飛ばされた。

 

「うああああ──っ!?」

 

 しかしヒビキの攻める手は止まらない。

 ワイルドビーストが吸収し溜め込んだフォニックゲインを用いて、彼女の影が増やされる。

 ブレイズスマッシュ。ライトニングスピード。ストリームキュア──新たに増えた三色の影は、ワイルドビーストと共に響に向かって飛ぶ。

 

「くっ……」

 

 それを響は走り出し、ヒビキの影の攻撃を捌きながら、歌いながらヒビキに向かって真っ直ぐに、最短で、最速で、一直線に駆け抜ける。

 影の相手をまともにしても消耗させられるだけ。

 だったら直接ヒビキを止めるしかない。

 そしてそれに気付かない程──ヒビキは自分を見失っていない。

 

「サイキックフューチャー」

「くっ……」

 

 未来を閉ざす為の影が新たに響を阻む。サイコキネシスでその身を拘束される。

 響が負けられないと無理矢理抜け出して歌い続ける。

 

「グラスセイバー」

「まだ……!」

 

 雑草を狩る様に、鋭い刃が響の命を断とうとする。

 響は腕の装甲で逸らし、しかし斬り砕かれてしまい、それでも歌う事はやめない。

 

「ブリザードロック」

「諦めないっ」

 

 猛吹雪が放たれ、響を永遠なる眠りへと誘う。

 それでも響は目を開いて歌い続けた。

 

「フェアリースカイ」

「負ける訳にはいかない!」

 

 甘い幻想を捨て去れと桃色の羽根が響を彼方へと飛ばそうとする。

 ギアが半壊する程に踏み込んで響はその場に立ち留まり、ボロボロになりながらもヒビキへと手を伸ばす。

 

「ワイルドビースト。ブレイズスマッシュ。ライトニングスピード。ストリームキュア」

「──だとしても!」

 

 変えられない過去が、燃え尽きた情熱が、もう走れない稲妻が、捨て去った優しさが──響の四方から彼女の体に拳が突き刺さる。

 しかし響は諦めず、負けず、だとしてもと手を伸ばし──その胸の歌で、花咲く勇気でヒビキを救おうとする。

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

 ──その開かれた手を。

 

「わたしはお前とは違う」

 

 パシンッとヒビキが払い除ける。

 そしてそのまま彼女を掴み──反対の拳を固く硬く──頑なに握り締める。

 

「だからもう──歌うな」

 

 呪われた拳に八つの影が収束、重なり──闇よりも深く、暗く、昏く、黒く染まり上げられる。

 相手を殺す為の、拒絶する為の悲しき拳が──響の腹へと深々と突き刺さった。

 

 ──ロスト・エンド

 

「──っ」

 

 そして響はそのまま吹き飛ばされ、ヒビキの結界すら突き破って──言い訳もしようもなく、完全に敗北した。

 ギアが解かれた彼女は──。

 

「もう歌なんていらない」

「だ、め──」

「アイツを生き永らえさせる力さえあれば、それで──」

 

 その言葉を最後に口の端から血を流しながら──意識を失った。




第三部・月穿つ恋文編
第十四話「流れ星、堕ちて燃えて尽きて、そして──」より。

「……アカシア様はフォニックゲインを吸収する」
「……コマチが?」

タイプ・ロストソングの力はこの力と同種です。
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