【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第四話「Glorious Break」

「……」

 

 ヒビキは、気絶して倒れ伏している響に背を向けた。

 トドメを刺すつもりはなかった。

 この世界で殺しても──死んでも意味がないから。

 だからそのまま放置して絶望し──夢の世界に囚われてしまえばいいと考えた。そしてゆくゆくは自分達が生きていく為のエネルギーになれば……それで良いと。

 ヒビキはファウストローブに備え付けられた通信機でSONGに繋げる。

 

「友里さん。他の戦場はどうなっている?」

 

 ヒビキの力で死んだ事が無かった事になり、夢の世界に出迎えられ、そして他の装者達と同様ヒビキを救う為に目覚めた友里。

 彼女は淡々と、しかしかつてあった明るさはない声でヒビキに伝えた。

 

『既に戦闘終了──こちらの勝利です』

 

 ヒビキが響を倒した時、ほぼ同じタイミングで戦いを決着していた。

 まるで世界と世界の戦いで──勝利を掴み取ったのはこちらの世界だったようだ。

 響達の世界の装者達は、完全敗北しギアを解かれて拘束されていた。中には気絶している者も居る。

 

「そう、ありがとうございます」

 

 それだけ告げると、ヒビキはマリアの元へ……アカシアの元へと跳ぶ。

 そしてマリアから彼を受け取る、愛おしげにアカシアを撫でた。

 

「コマチ、これで終わったよ……もう苦しまなくて良いから……」

『響ちゃん……ダメだよ、こんな結末は……!」

 

 アカシアが必死に彼女に呼びかけるが、ヒビキはその言葉に、声に耳を傾けない。

 彼に否定される事は分かっていた。

 だから──彼を閉じ込めてでも救うと決めた。

 ヒビキの呪われた手が怪しく光る。その手を翳し、ゆっくりとアカシアに近づけながら、ヒビキは愛を囁くように言葉を紡ぐ。

 

「大丈夫。もう何もしなくて良いから。誰も救わなくても良い。奇跡なんか起こさなくて良い。もう殺させない。死なせない。苦しませない。だからコマチ。良い子だから……さぁ──」

 

 闇よりも深い愛に、アカシアが呑み込まれそうになったその時──。

 

『──仕方ない!』

 

 アルセウスが、最後の力を振り絞って立ち上がった。

 マリアの拳でもう喋る事も立ち上がる事も──ましてや力を行使する事もできない筈なのに。

 

 ヒビキの腕の中からアカシアが溢れ落ちた。

 否。

 アカシアの体がどんどん透明になりすり抜けてしまったのだ。

 ヒビキはその光景に絶望し、強い憎しみの感情を込めてアルセウスを睨み、叫んだ。

 

「アルセウス! 何をした!」

『──彼女達がこの世界に来た歴史を消した!』

「──」

 

 消えていっているのはアカシアだけではなかった。響も、各戦場の装者達も消えていっている。

 これにより、響達はこの世界から脱出する事ができる。

 アルセウス以外は。

 

『私が此処に囚われている以上、完全な歴史の消去とはいかない──だが、今回は好都合だ』

 

 何故なら──彼女達の記憶に残ってしまうから。

 故に彼女達はこの事を覚えたまま元の世界に戻り、敗北に挫折してしまうかもしれない。

 さらに世界の滅亡は変わらず、それ所かヒビキの時間の巻き戻しとアルセウスの歴史の消去で進んでいる可能性もある。

 

 それでも。

 

『頼んだぞ──アカシア! シンフォギア!』

 

 未来への希望を絶やす訳にはいかなかった。

 

「アルセウスウウウウウ!!』

 

 ヒビキの怒りの声が響き渡る中──アカシアと響達は無事にこの世界から脱出した。

 アルセウスを犠牲にして。

 

 

 第四話「Glorious Break」

 

 

『……』

 

 SONG本部の発令室にて。

 アルセウスに逃がされた装者達の顔は暗かった。

 弦十郎は難しい顔をして腕を組み、エルフナインは心配そうにして彼女達を見ていた。

 

 アルセウスの力で世界を跳んで1時間足らずで帰ってきた響達。

 そこで語られた内容は──衝撃的で、どうしようもなかった。

 相手が勝つまで時間を巻き戻されてしまっては、今回の様に徹底的に叩きのめされる事が判明した。

 さらにアルセウスが捕まった事で向こうの世界は完全に閉ざされ孤立。

 ギャラルホルンで侵入できない以上──打つ手が無かった。

 そして時間が経てば──世界が終わるか、全ての人間の死が待っている。

 完全なる手詰まりだった。

 

「……ッ」

 

 そして響は一人ギュッと拳を握り締めて、ヒビキの事を思い出して、何かを思い出そうとしていた。

 それが何なのかは、まだ分からない。

 

「どーすんだよ」

 

 長い沈黙の中、クリスが少し疲れた声で呟く。

 

「どうやってあのチートに勝てば良いんだ?」

『……』

「なぁアカシア。お前の力でどうにかできるのか?」

『……それは巻き戻しの事? それとも世界への侵入の事?』

「両方だよ」

 

 クリスの問いに、アカシアは。

 

『……ごめん』

 

 ただ謝る事しかできなかった。

 ──もう死を待つしかできないのか? このまま破滅するのを指を咥えているしかないのか? 

 

 それでも。

 

「──大丈夫だよ! 絶対に何とかなる……方法がある筈だよ! だから!」

 

 響が諦めないと声を上げる中。

 

「──そうですねぇ。諦めるには早いと思いますよ」

 

 この場に居ない筈の人物が現れた。

 それに真っ先に反応したのはマリアだった。

 

「あなたは……ドクターウェル!?」

 

 メガネを掛けて胡散臭そうな微笑みを浮かべるその男──その名はドクターウェル。

 この世界のウェルはすでに死んでいる為、並行世界のウェルなのだろう。おそらく調博士の助手をしている世界の。その世界の彼女達は並行世界を跳ぶ手段を持っている。

 何故彼が此処にいるのか? と疑問に思っていると──彼の背後からもう一人現れた。

 

「そう! 僕こそが英雄の男、ドクターウェルウウウウウウウウウ!!」

「ぎゃー!? やばい方も来ているデスー!?」

 

 さらに腕をネフィリム化させた絶賛英雄故事しているウェルも現れた。こちらはシンフォギアの無い世界のウェルだろう。彼を見て元FIS組が露骨に顔を歪ませた。

 

「あの、僕も傷つくんですが……」

 

 もう一人のウェルも顔を歪めた。

 

「それで、何故君達が此処に?」

「いえね。ちょっと厄介なことに巻き込まれたというか、メッセンジャーにされたというか」

「ふん。全く以って理解できない! 今なら英雄になれるチャンスだというのに、それをドブに捨てるとは! あんなのが僕の──」

「はいはい。話が進まないので黙っていてくださいもう一人の僕」

 

 ウェルが英雄願望の強いウェルを黙らせ。

 

「とりあえず本人に聞いてください──ちょっとある部屋とある装置を貸して欲しいのですが」

 

 

 ◆

 

 

 二人のウェルの要望により、皆ある部屋へと集められた。

 その部屋はかつてエルフナインとマリアがダイレクトフィードバックシステムを用いて、マリアの記憶の中に潜り込み、Linkerを完成させた場所だった。

 現在そこでは二人のウェルがダイレクトフィードバックシステムを装着し、眠りに付いている。

 エルフナインが指示された通りに端末を操作すると、備え付けられたモニターに変化があり──そこにウェルの顔が映し出された。

 

『──ふう。どうやら素直に協力してくれた様ですね』

「あの、貴方は……?」

 

 全員状況が飲み込めていなかった。

 ダイレクトフィードバックシステムを付けたウェルが眠ったかと思えば、モニターに出てきたウェルはこの二人のウェルと何処となく雰囲気が違い、そもそも何が起きているのか分からない。

 その様子を見た──いや、二人のウェルから感じ取ったのか、モニターの中のウェルは説明する為に自己紹介をする。

 

『見た事のありそうでなさそうな皆さんは初めまして。そしてアカシアはお久しぶりです。分かりやすく言うと僕は』

『──まさか』

『ヒビキさんの世界のウェルです──皆さんに協力する為に、こうして通信を繋げさせて貰いました』

 

 ──彼は、絶望の中にある唯一の希望だった。

 

 

 ◆

 

 

「あの世界のウェル!? 何でその世界の人間が──」

 

 何かの罠か? 

 クリスの抱いた疑念は他の装者も同じで、しかしアカシアだけは信じたいと、彼は味方だと思いたくて尋ねた。

 

『君は、僕達の味方なの?』

『そう受け取って貰っても結構です』

『……でも』

 

 もしそれが事実なら、彼は。

 

『お察しの通り──僕は彼女にとって最低の裏切り者で、敵です』

『……っ』

 

 その言葉は、アカシアの心を軋ませるには充分だった。

 響はウェルの言葉を聞いてそれを否定した。

 

「そんな事無いです! だってウェルさんは」

『正しい事をしてると。世界を救う為に、彼女を救う為とそう言いたいのですね』

 

 どの世界の響さんも優しいのですね、と微笑むウェル。

 もう以前の様な胡散臭い笑みは、人を勘違いさせる様な笑みは無かった。

 そんな彼を変えたのは──彼の仲間達だろう。

 だからこそ彼は──裏切った。

 

『しかしそれでも僕は裏切り者です。……彼女も貴女もそう思わないでしょうが』

 

 クソッタレなバッドエンドも、ほろ苦いビターエンドも認めたくないウェルは、甘々なご都合主義満載なハッピーエンドにする為に、ヒビキの願いを踏み躙り、彼女の愛を否定する。

 

『僕は──悪い悪い悪の科学者ですからね』

 

 彼の言葉に──誰も疑えず、何も言う事は出来なかった。

 

『さて、とりあえず現状の問題点をあげましょう』

 

 一つ、時間の巻き戻し。どれだけ戦力を整えても時間を巻き戻されてしまっては勝てるものも勝てない。記憶の保持もできない為、完璧な対策で何もできずに倒されてしまう。

 二つ、もう猶予が無い。

 三つ、戦力差が大き過ぎる。

 四つ、世界への侵入手段が無い事。アルセウスが囚われてしまった以上他の手段を探さないといけない。そしてもし入れたとしてもヒビキの罠である可能性が高い上に、アカシアだけ奪われる最悪の事態になるのは目に見えている。

 

『これくらいですかね、貴方がたが感じてるであろう問題点は』

 

 細かい所はまだあるだろうが、大方はウェルの言う通りであった。映像の向こうにはホワイトボードがあり、それに先ほどの問題点を書き連ねていた。

 精神世界だからか、割と自由にイメージ映像を送り付けており、全員なんとも言えない顔をする。

 

『と言っても既に解決方法は考えています』

 

 しかし続くウェルの言葉は予想外だったのか、皆驚きの表情を浮かべる。

 

「マジかよ!?」

『ええ、おおマジですよ。では一つずつお答えしましょう』

 

 まず一つ目の巻き戻しだが。

 

『あの技はもう使われません。と言うより、使えないでしょう』

「それは、何故?」

 

 調がウェルに尋ねる。ウェルは彼女の問い掛けに、少し間を置いて答える。……彼の知る調との互を違いに少し言葉が詰まってしまったから。

 

『単純に世界が保たないからです。アレは星の命を媒体に行使されたヒビキさんにとっても苦肉の策。各並行世界に派遣されたアカシア・クローンが撃退されている現状、時間を巻き戻す事はできません』

 

 だからヒビキは絶対に負ける訳には行かず、マリア達の力を頼った。

 ウェルの言葉にホッとする皆だが、ふと未来が気付いて彼に聞いた。

 

「でも時間を操る力はあるんですよね? その、未来予知とか時間移動とかは使われるのでは……」

 

 アカシアの話ではその世界のシェム・ハは時間の逆行にて己の力を二倍にしていた。

 それと同じ事や未来予知で今回の様にアドバンテージを取られるのでは無いかと心配していた。

 

『時間逆行はしないでしょう。もしするのなら巻き戻しを使わずに既に使っている』

 

 つまり時間逆行では勝てないと判断したのだヒビキは。

 そしてこの場の戦力でそこまで追い詰める事も可能だという証明にもなる。

 

 そして未来予知については、アカシアが答えた。

 ヒビキは絶対に未来予知をしない、と。

 

『響ちゃんは確定した未来を見るのが怖いんだ。もしその未来が自分にとって絶望の未来だったら……立ち直れないから』

 

 だからこそ彼女は未来を諦め、夢の世界に皆を閉じ込めた。

 それを聞いて皆が悲しそうな顔をする。

 

『二つ、もう猶予が無い、ですが。これはどうしようも無いですね。負けたら終わり。勝てたらアルセウスの力で元通りです』

 

 つまり気にしないで良い、と彼は言った。

 

「しかし」

『そちらに気を配るくらいなら、如何に勝てるかを考えてください。世界が心配で実力が出せませんでした、では笑い話にもなりません』

 

 ウェルの言葉に封殺され、皆押し黙るしかなく、渋々納得した。

 

『三つ目、戦力差についてですが……できれば後四人程追加してください。できれば錬金術師が良いです』

「錬金術師デスか?」

『ええ。相手は錬金術師がたくさん居ますからね。その対処をして欲しいのです』

「しかし、たった四人の助力で戦況を覆す事ができるのか?」

『それは貴方達次第です』

 

 主戦力をサポートする錬金術師達は放って置くと、分断や妨害によりこちらが不利になると彼は言った。

 故に、彼らよりも強い錬金術師達で一掃できれば、と考えている。それでもあちらにも強力な錬金術師が居るが……。

 そして翼の疑問に、ウェルはキッパリと答える。

 

『今回はこちらから攻める番です。前回の様に分断される前に、各個撃破してください。そして、倒すべきなのは──自分自身』

「──!」

『ただ勝つだけでは意味がありません。彼女達とぶつかり合い、精神的にも勝たなくてはなりません──あの世界は、今はそういう状況です』

 

 そうすれば、後に説明するアカシアの力を取り戻す方法へと繋がると彼は言った。

 ──正直不安だった。自分たちとは違う強い力を持ち、意思も固い。さらに一度負けてしまっている。

 それでも……自分自身には一言言ってやりたいと思っていた。

 

「……」

 

 そんな中、響だけは一人考え込んでいた。

 

『後は、こちらの世界からも援軍が来るので頑張ってください』

「援軍だと?」

 

 怪訝な表情で呟く奏に、ウェルは肩を竦めながら言った。

 

『あまり信用しないでください』

「お、おう」

『さて、最後にこちらの世界への侵入方法ですが──』

 

 そこで語られた方法に──その場に居た者達は言葉を失った。

 

 

 ◆

 

 

 ウェルからの指示により、装者達は戦力集めの為に各並行世界へと赴いていた。

 

「──という訳で、おっさんだけでも来れないか?」

 

 クリスがやって来たのは装者の居ない世界。

 彼女は英雄志望のあるウェルを送り届けるついでに、弦十郎とフィーネに助力を訴えかけていた。

 しかし……。

 

「ごめんなさい。助けたいのは山々なのだけど、私たちもアカシア・クローンの対応で精一杯なの」

「すまんな……」

 

 申し訳なさそうにフィーネと弦十郎が断った。

 しかしクリスはそれも予想していたのか、大して気にした様子を見せる事なく頷いた。

 

「いや、良いよ。他の世界にも声を掛けてみるから」

「そう言ってくれると助かるわ……ところで」

 

 チラリ、とフィーネが荒れに荒れているウェルへと視線を向ける。

 

「あれが! 僕!? 認めない! 認めないぞ! あれが僕なんて!!」

「……どうしたの、あれ?」

「あー……」

 

 クリスはどう説明して良いか悩み、言いあぐねる。

 ウェルがイライラしているのは、世界へ侵入する方法に不満があるからだろう。話が終わった途端、あの世界のウェルに向けて酷く罵倒しながら目覚めたものだ。

 だがクリスはそれも仕方ないと思っていた。

 それだけ──あのウェルは、この世界のウェルにとって認められない存在なのだから。

 

(──もし)

 

 もし自分が同じ立場に居たら──穏やかな気持ちに居られないだろうな、とクリスはやり切れない表情でそう思った。

 

 

 ◆

 

 

「すまねぇな。そっちを手伝う余裕がない」

「そうか……」

 

 翼は、もう一人の自分とクリスの世界にやって来ていた。この世界の二人は、あのヒビキの世界に居る翼とクリスと似ている。その為戦力になるかと思ったようだが、アカシア・クローンの対応により不参加となった。

 

「それと、どのみちオレ達は行かない方が良い」

「……何故だ」

「アンタより似ている分、共感してしまうからさ──下手したら向こう側に着いてしまう」

「うん……正直アカシア・クローンと戦うのも辛いくらいだから」

 

 この世界の翼とクリスの語る内容に、翼は目を見開いた。

 精神リンクが切られているにも関わらずここまで影響が出ているという事は、彼女達は頼れない。

 

「分かった。二人ともすまない」

 

 しかしそうなると、戦力集めは難航するのでは無いか? と翼は不安になる。

 

 

 ◆

 

 

「だいたい分かったよ、話はね。ならばあの四人を連れて行くが良い」

「良いのか?」

 

 奏の問いに、アダムは頷く。

 

「その世界の四人とこちらの四人は似ている様で違う、装者達と違って。恐らく僕の存在だろう、大きな相違点は」

 

 あの世界のアダムはパヴァリアを率いて終始サルジェルマン達と敵だった。その違いは大きな差となり、歩んで来た道にアカシアの有無が重なり、サンジェルマン達はあの世界で問題なく戦えるとアダムはそう判断していた。

 奏もまた同じ理由で、あちらの世界の奏に引き摺られる事が無かった。

 翼が死んだか死んでいないかの違いが。

 

「さて、他はどうかね」

 

 

 ◆

 

 

「そちらに加勢はできないけど、あなたの世界を守ってあげるわ」

 

 小さいマリアは、セレナの勧誘を断った後にそう言った。

 

「攻めるのも良いけど、その間の世界はどうするの?」

「それは……」

「……少し意地悪だったわ。とにかく、あなたには借りがあるし、可愛い妹だから助けてあげる。だから──わたしの分までわたしを殴って来て」

 

 小さいマリアの激励にセレナは強く頷いた。

 

 

 ◆

 

 

 マリア達や翼達と同じ理由で、ウェル助手の居る世界の調と切歌も世界への侵入には参加せず、響達の世界を守る事となった。

 しかし調はそれよりも気になる事があった。

 

「何しているの?」

「もう一人の僕に頼まれた事がありましてね……はぁ」

「……随分と気を落としてるデスね」

 

 切歌の言葉に、ウェルは当然ですよと答える。

 

「だってあの世界の僕──死ぬつもりですよ?」

 

 呆れ切った顔でウェルはそう返し、調達は眉を顰めて何が起きるのか彼に尋ね──返されたその内容に思わず息を呑んだ。

 

 

 ◆

 

 

『こちらの世界に入るのは簡単です。僕の夢の世界に入って、そのまま壊してください』

 

 生と死。夢と現実が曖昧になったあの世界で、夢の世界の崩壊は──存在の消滅を意味する。

 

「な──」

『そうすれば最後のチャンスを得られます』

 

 皆が絶句するなか、ウェルは当たり前の様に己の死を口にする。

 

『頼みますよ──彼女を、ヒビキさんを救ってください』

 

 彼は──当たり前の様に言った。

 自分を犠牲に世界を救え……と。

 

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