【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第五話「UNLIMITED BEAT」

 ダイレクトフィードバックシステムとギャラルホルンを使う事により、並行世界のウェルの夢の世界へと侵入。それがあの世界のウェルの秘策だった。

 

「信じても良いのか?」

 

 今回参加するキャロルが響達に尋ねる。

 彼女は自分の世界ではウェルと出会っておらず、いまいち人となりを把握していない。故にこれから戦う世界の住人であるウェルを信用していなかった。

 

「罠だったらどれだけ良かったか……」

「……?」

 

 しかしクリスはその問いに顔を顰めてそう呟き、他の装者達も表情が暗い。その事にサンジェルマンが首を傾げる中──時間が来た。

 

 ギャラルホルンが作動し、彼女達の為に用意された簡易型ダイレクトフィードバックシステムが唸りを上げて──彼女達は夢の世界へと堕ちた。

 

 

 第五話「UNLIMITED BEAT」

 

 

「マズいデス! 遅刻デース!」

 

 とある一軒家にて一人の少女がドタバタと身支度をし、朝食のパンを咥えて玄関にて急いでワタワタと靴を履こうとしている。

 彼女の名前は暁切歌。私立リディアン女学院に通う高校生だ。そしてSONGに所属するシンフォギア装者でもあり──。

 

「ちょっと待ってください」

「ほへ?」

 

 ウェルの家族でもある。

 彼は呆れた顔をしながら、こちらをポカンとした表情で見ている彼女の元へ赴くと、曲がっているネクタイを直してあげる。

 

「むむむ。あまりキツくすると苦しいのデスよー。堅苦しくて」

「いい加減慣れてください。貴方も二年生なのですから」

 

 キュッとウェルが締めた後、切歌は己のネクタイに触れながらブーたれる。

 

「あまり過保護になると、あたしも調みたいに反抗期になるデス」

「おっと。それは恐ろしいですね」

「──って遅刻デス!」

 

 時計を見て切歌は慌てて玄関を飛び出し走り出す。

 ウェルは外まで見送りに来ると、切歌の背中に向けて言い放った。

 

「今日のデザートにシフォンケーキを買っておきますよー!」

「──ありがとうデース! やっぱり博士は最高デース!」

 

 嬉しそうに、楽しみにしてそうな顔で切歌はウェルに手を振りながら走って行き、ウェルはそんな彼女を見ながら苦笑しながら一言。

 

「まったく単純なんですから……僕も、彼女も」

 

 そう言って彼は家に戻った。

 いつもの日常を過ごす為に。

 

 

 

 一通りの家事を終えた後、ウェルは携帯を開きメールボックスを確認する。

 そこには日直の為、切歌より先に出ていた調からメールが届いており、その文面には。

 

『切ちゃん遅刻して怒られた。もっと早く起こせ。帰ったら尻を蹴る』

「やれやれ……相変わらず切歌さんに甘いのだから」

 

 ウェルは苦笑しながら、調の部屋に散乱している衣服や下着を回収していく。これも後で気づいた調が文句を言ってくるのだろう。しかし放置していると衛生上よろしくないので仕方のない事だ。

 それに、もしも本当に嫌ならギアを出すだろうし、切歌のフォローもあるだろう、とウェルはぼんやりと考える。

 

 一通りの家事を終えた後、ウェルは仏壇の前に正座をして線香を立てる。

 遺影にはキリカが写っていた。

 

「さて、君に尻を蹴られない様に頑張りますよキリカくん」

 

 それだけ告げてウェルは家を出た。

 

 

「おはようございます」

「おはようございますウェル」

 

 SONG本部に出勤して来たウェルは、己の仕事部屋に既に居たナスターシャに挨拶をしつつ席に着く。

 彼は彼女と共に、此処で聖遺物の分析、調査、実験などを行っている。

 他にもLinkerの調整やギアの整備、装者達のバイタルチェック、他のスタッフの健康管理も彼らの仕事だ。

 と言ってもここ最近は大した戦いもなく、ウェル達は暇を持て余していた。

 

 それは、彼にとって理想でもあった。

 

「ナスターシャ。体の調子はどうですか?」

「ええ。貴方の治療のおかげですこぶる健康です」

「全く。栄養の偏りで倒れるだなんて。今後は野菜もしっかりと食べてください」

「菓子類しか食べない貴方には言われたくないのですが」

 

 バチバチと火花を散らしてブーメランを投げ合う偏食家達。しばらくしてどちらともなくため息を吐き、苦笑し合った。

 しかしすぐにウェルは真面目な顔をしてナスターシャを気遣った。

 

「……本当に大丈夫ですか?」

「……」

 

 肉体的に、ではない。精神的に、だ。

 ナスターシャは、彼女は他の者達同様アカシアとの想い出がある。故に、彼が居なくなった時──泣いていた。

 

「──大丈夫、と言うには失ったものが大きすぎます」

 

 彼は、アカシアは彼女にとって息子当然の存在だった。

 FISで死んだ時も悲しかったし、世界を救う為、滅びの歌を止める為に歴史から消えた事も──まだ納得していないし、悲しいままだ。

 

「しかし私は彼に託されたのです。マリアの、セレナの、私たちの未来を」

 

 ずっと過去にしがみ付いて、囚われたまま夢を見ていたかった。

 優しい彼と、強い彼と同じ時間を過ごしていたかった。

 しかしそれはできなかった。

 絶望した。未来が嫌になった。生きていくのが辛かった。

 それでも、だとしてもアカシアの願いを蔑ろにするのは──もっと嫌だった。

 

「だから──私は頑張ります。戦います。歩き続けます。それが」

 

 約束ですから。

 ナスターシャはアカシアの想いを胸にウェルにそう言った。

 

 彼はそんな彼女を眩しそうに見ていた。

 

 

 ◆

 

 

「はぁ……」

「どうしたのですか。また合コンでうまく行かなかったのですか」

「うぐ。何故そう鋭いんだが」

 

 食堂にて、藤堯と食事を摂っているいるウェル。

 彼は目の前の友の様子から的確に状況把握をしてみせ、図星を突かれた藤堯は嫌そうな顔をする。

 

「世界が少し平和になったから、彼女でも〜と思ったんだけどなぁ……むぐ」

「友里さんはどうしたのですか?」

「ブフォ!? ゲホ、ゲホ、ゲホッ!」

 

 ウェルの不意の言葉に喉を詰まらせる藤堯。

 何をしているんだと呆れた目線を向けながら水を渡すウェル。

 それをゴクゴクと飲み干し、咽せた喉を元に戻し息を吐くと、顔を真っ赤にさせた藤堯が彼に詰め寄る。

 

「な、な、なななななな!?」

「合コンに行って時間を潰すより、さっさと告白してくっ付けばいいものを」

「なんで知って!?」

「知らないの本人達だけだと思いますがね」

 

 はぁ、とため息を吐くウェルに、藤堯は椅子にドカリと座った。

 そして暫くして、懺悔する様に呟いた。

 

「俺には勿体ないよ──俺は、彼女が助かった時、光彦くんが消えた時ホッとしてしまったから」

「そんな最低な自分はその資格がないと? 青いですね」

「茶化さないでくれよ! 俺だって──」

「──己の愛に、人を使って誤魔化すんじゃない」

 

 ピシャリとウェルが厳しい言葉で藤堯を叱咤する。

 

「アカシアは皆に幸せになって欲しいと消えたのです。なら、彼を理由に己の幸せから、愛から逃げるのは……これ以上無い程の裏切りだと僕は思います」

「──」

「君も後悔しているのでしょう。あの時、友里さんが死んでいく中、アカシアに向けた視線を、感情を……だとしても、託されのなら己を偽らないでください」

 

 ウェルの言葉に藤堯は。

 

「……重いなぁ、色々と」

「想いとはそういうものですよ。また一つ賢くなりましたね」

「くそ、嫌みかよ。この天才が」

 

 そんなやり取りをし、二人は吹き出して笑い合った。

 悩み、苦しみ、それでも人は生きていく。時に支え、支えられながら。

 

 

 ◆

 

 

「今日も行くの?」

「マリアさん」

 

 仕事を終え、退勤しようとしていたウェルを待っていたのはマリアだった。

 彼女は腕を組み彼を見ていた。

 しかし、その姿は何処か弱々しく、かつての凛として強いマリアは居らず。

 大切な人を失い、立ち直る事ができないただの少女が居た。

 ウェルはそんな彼女に向き直り、頷く。

 

「はい。皆が否定する中、唯一肯定し、この世界を望んだ僕の仕事だと思っていますから」

「──わたし達はアカシアを、あなたをまだ許せない」

 

 ギリッと涙を浮かべながらマリアはウェルを見る。

 

「ねぇ、何でわたし達からリッくん先輩を奪ったの? ──まだ、ずっと、一緒に居たかった!」

「……」

「大好きだった! 助けたかった! それなのに──なのに!」

 

 マリアがウェルに掴み掛かり──しかしすぐに縋り付く様にして膝を折る。

 

「わたしはもう歩けないわ……」

「マリアさん──どうか自分に負けないでください」

 

 ウェルがそっと彼女を立ち上がらせる。

 

「アナタ達は愛が強く、深い故に立ち上がれない。未来に向かって歩いていけない。しかし、アカシアから託された愛がある」

「……」

「もう分かっている筈です──今のままではダメだと」

「強くあれ、とあなたは言うの? 負けるなって言うの?」

「そうではありません。弱くていい。負けても良い。しかし最後には、それら全てを抱えて未来に向かって歩かなくてはいけません」

 

 それが生きるって事なのだから。

 そしてアカシアは生きたいと思いながら、それ以上にマリア達に生きて欲しいと願っていた。

 

「……辛いのね、生きるのって」

「それが分からないマリアさんではないでしょう」

 

 ウェルのその言葉に、マリアは深く深く息を吐いた。

 まだ立ち直れない。歩めない。悲しみが胸を掻きむしる。

 それでも彼女は──これからも生き続けるだろう。

 

「……あなたは最低ね」

「褒め言葉と受け取っておきましょう」

 

 マリアの涙で濡れた瞳を真っ直ぐと見据えて、ウェルは悪どい笑みを浮かべた。

 彼女はそれを似合わないなと思いながら見ていた。

 

 

 ◆

 

 

 その後もウェルは装者達のメンタルチェックの為に彼女達の元へ向かう。

 奏。翼。クリス。セレナ。未来。

 全員が明日に向かって歩む事ができないでいた。調と切歌が立ち直れたのはウェルの事を愛していたが故に、アカシアの願いを聞き入れる事ができたのかもしれない。

 それだけ愛する者の言葉は心に作用する。良くも悪くも。

 全員が耳を塞いだ。全員が目を閉じた。全員が罵倒して来た。

 それでもウェルは根気良く話しかけ、恨みの感情を受け入れる。

 いつか立ち直れると信じているから。

 そんな彼の心情を理解しているからこそ、装者達は最後には必ずウェルにこう言うのだ。

 

 ごめん、と。

 

 そして最後に彼がやって来たのは、響の元。

 しかしその部屋の扉は開かず、硬く閉ざされたまま。

 故に彼はその向こうに居る彼女に、いつも同じ言葉を紡ぐ。

 

「響さん。僕は、僕たちは待っています。道を誤っていても僕たちは待ち続けます。

 正しい選択を取る事ではない。

 彼の愛から逃げない事です。

 いつか彼の愛に向き直る、どうするのか。それを考えて──再び未来へ歩む日を待ち続けます。

 だから──その花咲く勇気をどうか大切に」

 

 しかし響は彼に応えず、推し黙ったままだ。

 それをウェルは今日もダメだったかと残念に思いつつ、明日また此処に訪れるだろう。

 未来の為に。

 

 

 ◆

 

 

 そして家に帰る前にケーキを買い、ウェルはキリカの眠る墓へと訪れる。

 

「あなたが作った物よりは美味しくないかもしれませんが、僕のオススメです」

 

 そう言って供えて、線香を立てて、彼女の安らかな眠りを祈る。

 

「キリカさん。意外と難しいですよ、貴方の尊敬する父親で居るのは」

 

 しかしウェルはその約束を絶対に破らない。

 

「でも僕は諦めません。その為なら──」

 

 そこまで言って、ウェルは立ち上がり振り返る。

 

「──消滅しても構わない」

「ウェル博士……」

「……博士じゃないですよ。響さん」

 

 そこには、アカシアを連れた響が居た。

 この世界──ウェルの見る夢の世界の響ではない。

 ヒビキを救う為に、そしてこの世界を壊す為に入って来た響だ。彼女の後ろには他の装者たちも居るが……全員が表情が暗かった。

 

「不思議でしょう? 本来夢は優しいもの。普通ならキリカくんが生き残った世界で、アカシアの居る世界で……皆が幸せな世界を見る筈なのに」

 

 この夢は優しくなかった。

 ひたすらに辛く、誰にも優しくなく、残酷な現実を突き付けていて──しかし未来があった。

 

 ウェルは信じていた。皆が大切な者の死を、アカシアの消滅を乗り越えて未来に向かって歩んでいける事を。

 その為ならウェルは何でもすると誓っていた。

 罵倒を受け入れてその激情を受け入れる事も。悩み、これで良いのかと道を迷う者の隣に立ち、一緒に歩いていく事を。

 

 そんな世界を──ウェルは壊せと彼女達に言った。

 しかしそれができないから──そのまま彼の夢を見ている事しかできなかった。

 

「辛く、ないのデスか?」

 

 精神リンク、ではないだろう。

 しかし、自分に似た存在が幸せそうな顔を見ていると共感してしまい、思わず涙が浮かんでしまう。

 切歌が泣きながら彼に叫び、問いかけた。

 

「消滅が怖くないのデスか! 自分が居なくなる。忘れられてしまうかもしれない! そう思うと自暴自棄になってしまうものデス!」

 

 かつての切歌は、己がフィーネの器だと思い込み、調達の思い出から消えていく恐怖に挫けてしまった。

 だから問わずにはいられない。

 

「そうですね──確かに怖いです」

「だったら」

「それでも──自分の消滅よりも怖いものがあるのです」

 

 それは──託して逝った最高傑作(愛娘)との約束を守れない事。

 それは──家族の未来が永遠に来ない事。

 それは──孤独という呪いに蝕まれ、苦しみ続ける少女を救えない事。

 

「だからどうか──僕の大切な人たちをお願いします」

 

 そんな彼の願いを。

 

「──分かったわ」

「マリア!?」

「他に手段が無いのは本当よ」

 

 そう言ってマリアはウェルの前に立つ。

 

「──恨んでくれても構わないわ」

「──いいえ、感謝しますよ」

「っ……」

 

 穏やかな表情でそう告げる彼に、マリアは唇を噛み締める。

 最低な英雄だとは言えなかった。最高の英雄だとも言えなかった。

 

「……最後に遺したい言葉は?」

 「そうですねぇ……」

 

 マリアの問いにウェルはこれまでの人生を振り返って。

 

「ケーキ、届けられなかったですね」

 

 それだけ言うと、白銀の刃に貫かれ──彼の夢は終わった。

 

 

 ◆

 

 

 ──ふむ。これが死……ですか。意外とあっさりしていますね。

 ……いや、ヒビキさんの力ですね。生と死が曖昧になっているから、消滅までにこうして一刻の猶予がある。

 

 それにしてもやはり心配ですね。

 調さんも切歌さんも悲しむでしょう。

 調さんは平気なフリをして、一人で泣いて。

 切歌さんは凄く泣いて、しばらく何も手付かずで。

 でもいつか二人は立ち上がってくれる。──そして未来へと歩んでいける。

 僕はそう信じています──だからどうか、未来に絶望しないで欲しい。君たちにはまだまだできる事が、なれる自分が居るのだから。

 

 ……さて、ヒビキさんは大丈夫でしょう。アカシアも、響さんも居る。

 必ず彼女の事を救ってくれる筈です。

 僕ができる事は全てやりました。

 

 だから──もう良いでしょうキリカくん。

 

 僕、自分で言うのもなんですが頑張りました。

 何度も命を賭けて、最期にはこの命を使った。

 かつて憧れた英雄というべき行いかもしれません。別世界の僕は否定しますけど。

 父親としても……まぁ及第点をください。

 

 だから。

 

 だから……! 

 

「ようやく会えますね──キリカくん」

 

 ──その言葉を最期に、僕の命は……消滅した。

 

 

 ◆

 

 

 ──ウェルの夢の世界を破壊し、世界に侵入した響達。

 世界に降り立つと同時に──響は叫んだ。

 崩壊する直前、ウェルの想いが、言葉が魂に流れ込んで来ていた。

 

「──うおああああああああああ!!」

 

 そして振り返って──涙を流しながら皆に言った。

 

「──絶対……絶対にこの世界を救う!」

 

 彼女の言葉に、涙を流している装者達は力強く頷いた。

 

 

 ──世界の滅亡を懸けた戦いが、今始まる。

 

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