【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第六話「TESTAMENT」

 世界に侵入した響達の動きは迅速だった。

 ウェルの夢の世界が壊され、彼女達がこの世界にやって来た事は既にヒビキに察知されている、とは事前にウェルが言っていた事。

 故に彼女達はチームを決め、それぞれ別れて行動をする様にと言われていた。

 

 Aチームは奏と翼。彼女達はSONG本部に居る分裂したアカシアの一体を回収する。そのアカシアの個体名は光彦。

 

「できればウェルの言っていた援軍が来る前に片を付けたいな」

「……そうも行かないでしょう」

 

 奏の言葉に、翼はため息を吐きながら答える。

 あそこには恐らく弦十郎が居る。まず自分たちだけでは突破はできない。かと言って戦力は分けられない為、ウェルの差し向けた援軍待ちとなる。しかしツヴァイウィングの二人はその援軍の手を借りたくなかった。

 それでも、弦十郎を突破する為には必要な事な為、彼女達は不安と不満を押し込めた。

 

 次にBチームはマリアとセレナ。彼女達もまた分裂したアカシアの一体の回収任務が言い渡されている。個体名はリッくん先輩で、その所在は──おそらくこの世界のマリアと共に居る。つまり彼女達はこの世界のマリアを捕捉する必要がある。

 

「勝てるのかな、姉さん」

「そうね……切歌達の任務が終わって、合流を期待した方が良いかも」

 

 アルセウスすら倒した彼女に対して、マリア達は慎重な行動の判断を下した。一応マリアにもこの世界の刺客が放たれる予定だが、彼女達もウェルも期待していなかった。

 

 Cチーム。このチームは主に錬金術師達への対処と遊撃が求められており、切歌と調、クリス。そしてキャロル、サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティが所属している。戦況によっては他のチームへの援護も熟さなくてはならない。

 

「割とハードね」

「だが、相手が相手だから仕方ないワケダ」

「気を引き締めて二人とも」

 

 サンジェルマン達は気を引き締め。

 

「……ふん」

 

 キャロルはこの世界を見て目を細め。

 

「絶対にやってやるデスよ」

「気合十分だね切ちゃん」

「まぁ、あんなのを見せられたらな」

 

 切歌、調、クリスは決意を胸に、まだ見えぬ自分を想う。

 

 そして最後にDチームは、ヒビキの打倒と最後のアカシアの一体、個体名コマチの奪取。そして、ヒビキを止めるのは──響、未来、そしてアカシアだ。

 

「響、大丈夫?」

「うん。わたしは平気。それよりも未来は?」

「私は全然。むしろ──」

 

 未来は何かを確信し、誰かと戦う事を察し、覚悟を決めていた。

 

『──』

 

 そして一人、アカシアはヒビキを想い続ける。

 

 皆を救う為の手段をずっと考えながら。

 

 

 第六話「TESTAMENT」

 

 

「さて、無事に辿り着いたが……」

 

 奏と翼は、SONG本部が着港している港にて身を潜めていた。

 響達と別れて此処まで来るまでに、ヒビキの妨害は無かった。

 気づいていない……という事は無いだろう。妨害が無かったという事は放置しても構わないと判断された。そうとしか考えられない。

 舐められているなー、とイラッとしつつも二人は先の事を考える。

 

「で、どうする? そう簡単に入れてはくれないと思うけど」

「そーだなぁ……あっ」

 

 名案を思い付いたと奏が声を上げる。

 

「この世界のあたしって、あたしとほとんど変わらないんだよな?」

「……雪音の話ではな」

「だったらさ。コッソリと潜入してあたしがこの世界のあたしのフリしたらサクッとアカシアを取ってこれねぇか?」

 

 奏の言葉に、翼は──。

 

「いや……どうだろう」

 

 かなり微妙な表情を浮かべてそう答えた。

 

「何でだよ。結構良い作戦だと思うんだけど」

「まずこの世界のわたしとわたしは似て非なる存在。その差異は無視できない」

「あー……言われてみればそうだな」

 

 奏はこの世界の奏と翼の関係を知らない。自分たちと似ているのだろうが、確実に違う所がある。

 それはやがて違和感となり、気づかれてしまうだろう。

 翼の言葉に考えを改めた奏は頷き。

 

「──それとあたしとお前達じゃあ決定的に違う所があるぜ」

『!?』

 

 殺気と共に上から聞こえた声に、すぐ様その場を駆け出した。

 それと同時に奏達が先ほどまでに居た場所に、無数の槍が降り注ぐ。何とか貫かれる事を回避した二人は安堵の息を吐きつつ空を見上げる。

 そこに居たのは、この世界の奏と翼──否、ヒビキに従うカナデとツバサだった。ツバサのブレードに二人で乗り、カナデの槍で強襲したのだろう。しかし元々殺せると思っていなかったのか、もしくはすぐに終わらせる気は無かったのか、彼女達は外した事を大して気にした様子を見せずに地面に降り立つ。

 奏は、カナデに向かって問いかけた。

 

「決定的に違う所って何だよ」

「それは勿論──あたし達の家族の事だよ」

 

 カナデの言葉に、翼はアカシアの語ったこの世界の出来事を思い出す。

 

「そうか。この世界のわたし達はアカシアと時を共にしていた。確かに彼女達の言う通りだ」

「アカシアじゃねぇ──光彦だよ」

 

 翼の言葉を、ツバサが否定し、訂正させる。

 

「オレ達はアカシアじゃなくて、光彦と絆を築いて来たんだ。そしてこれからも幸せでいたい」

「それを分からないお前らとあたし達──同じ訳が無いだろうが」

 

 その認識の差は他人からすれば些細なものだが、当人からすれば譲れないものであった。

 そしてそれを怖そう自分たちの領域に入ってくる目の前の存在は──殺したい程に認められない。

 

「──光彦は渡さねぇぞ!」

「──もう失いたく無いんだ!」

 

 槍と剣を携えたカナデと翼が襲いかかる。

 

「Croitzal ronzell gungnir zizzl」

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 それを奏と翼は胸の歌を唄い、ガングニールとアメノハバキリを纏い応戦する。

 奏とカナデの槍が激突し、翼とツバサの剣が鬩ぎ合う。

 

 奏は何度もアームドギアを振り、火花を散らしながら目の前の自分に向かって叫ぶ。

 ずっと言いたかった事がある。

 

「おい、あたし」

 

 ずっと聞きたかった事がある。

 

「何でお前が」

 

 ──ずっとずっと許せなかった事がある。

 

「何でお前が──あたしが生きるのを諦めているんだ!」

 

 ガキンッと槍と槍がぶつかり合う音が響く。

 

「託されたんだろ? 助けられたんだろ? だったら──それは、あたしが最もしちゃあいけない事だろうが!」

 

 ヒビキに従い、夢の世界に逃げ、他の並行世界が滅ぶのを許容する等──天羽奏ならあってはならない事だと彼女は言う。

 それでは光彦の想いを無視し生きている事を諦めるのと同義だからだ。

 だから奏は目の前の自分が許せず──それは向こうも同じだった。

 

「うるせぇ!」

 

 カナデが怒りを込めて叫ぶ。

 

「何も知らないお前が──好き勝手言っているんじゃねぇ!」

 

 そんな事は誰よりもカナデ自身が分かっていた。

 それでも──カナデは諦めざるを得なかった。

 

「ヒビキはな、泣いているんだよ!」

 

 カナデの振るう槍が力に耐えられず、砕け散る。

 まるであの日のライブの時のように。

 そしてその破片はかつてヒビキの胸に突き刺さり、彼女の地獄の原因となった。

 カナデはその事を覚えている。忘れる訳がない。時を共に過ごせば過ごすほど──罪悪感で潰れそうになる。

 

「あたしが諦めたくないってだけで、これ以上あいつを苦しめたく無いんだよ!」

 

 砕けた槍を放り投げ、新しい槍を作り出し再び斬りかかるカナデ。

 

「あたしが死ねばあいつが助かるなら──いくらでもこの命捨ててやらぁ!」

 

 それをカナデは覚悟だと、決意だと叫びながら目の前の奏を消し去ろうとし。

 

「──」

 

 奏は──静かにカナデの言葉にブチギレていた。

 

 

 

「防人の剣、受けてみよ!」

「ちっ!」

 

──蒼ノ一閃

──蒼ノ一閃

 

 斬撃と斬撃がぶつかり合う。

 威力は同じで蒼ノ一閃は相殺し、しかし翼は大して気にせず駆け抜ける。

 それをツバサは舌打ちをしながらブレードに乗り、空中から無数の小太刀を降らせながら距離を取る。

 

「この程度!」

 

 それを翼はアメノハバキリで弾きながら、小太刀が自分の影に入らない様に注意しながら跳んでツバサに斬りかかる。

 ツバサはそれを乗っていたブレードで受け止めて、翼の斬撃の威力を利用しながら距離を取る。

 

「なぁ、もう一人のオレ」

 

 地面に着地しながら頭上から斬り掛かってくる翼の一撃を受け止めながら言葉を紡ぐツバサ。

 

「何でお前は戦っているんだ」

「知れた事!」

 

 その問いに対して、翼は迷う事なく答える。

 

「世界を、人を守るのが防人の努め! それを忘れたか!」

「防人防人って──イラつくなぁお前!」

 

 しかしその答えはツバサにとって気に入らないもので、思わず眉を顰める。

 

「忘れるも何もオレは違う! オレは防人ってのが大嫌いだ!」

「……!」

「どうせテメェはあの家に縛られてんだろ? だからその言葉を口にする!」

 

 だがオレは違うとツバサは目の前のもしもの自分を否定する。

 

「防人の剣じゃあ光彦もヒビキも世界も守れない! 守れなかった!」

「それは……!」

「そんな時代遅れの考えなんかイラねぇんだよ!!」

 

 ツバサの一撃が翼を吹き飛ばした。

 

「それに──結局歌ですら何も救えなかった」

「──」

 

 しかし翼は──諦めず、それどころか目の前の自分の言葉に目を見開く。

 

「だったらもう……夢の世界に居た方が良いだろ」

 

 その言葉は──翼にとって到底認める事ができないものだった。

 

「──翼」

「──分かっている」

 

 別世界のツヴァイウィングがある事を決めた。

 

「これは絶対に──」

「──負ける事は許されない」

 

 彼女達の目に闘志が宿る。

 

「──それは無理だ」

 

 しかしそんな彼女達に──圧倒的な力が襲いかかる。

 濃厚な闘気に思わず翼と奏は目の前の自分達から離れて合流し、声のした方向を見る。

 そこには──赤い鬼が居た。

 赤いシャツの袖を捲り、口から漏れ出る息はまるで蒸気の様に熱を持っているかのように錯覚し、こちらを見る眼光は強く輝いて見えた。

 

 風鳴弦十郎。この世界の三つの難関の一つだ。

 

「悪いがすぐに終わらせる」

 

 その最強を前にして──翼と奏は落ち着いていた。

 

「──結局こうなるのか」

「ああ。不承不承ながら──任せるとしよう」

「……何を言っている」

 

 ツヴァイウィングの言葉に弦十郎が怪訝な表情をする中──。

 

「──果敢無き哉」

 

 ──それは現れた。

 弦十郎よりも深く重いプレッシャーが戦場に現れ、一息で彼の懐に入り込む影。

 その影は手に持った名刀で弦十郎に斬りかかり、彼はそれを間一髪で回避する。

 しかしその顔は驚愕に染まっていた。ツバサとカナデも同じだった。

 何故なら、その男はこの世界に居ないはずだから。ヒビキが解放させる訳がなかったからだ。

 

「──誠に風鳴家の面汚しよ」

「──親父殿!?」

 

 弦十郎の前に立ち、彼に刀を向けるのは──風鳴訃堂だった。

 

 

 ◆

 

 

『あの世界の裏切り者は僕だけです。故に夢から覚めている人間はヒビキさんに解放させて貰った人達。つまり、アナタ達の敵です』

 

 しかし、と彼は続ける。

 

『世界を改変した影響か、厄介なモノや人達も復活してましてね。彼女はその封印も行なっています。そこに僕の夢の世界の崩壊という綻びを作り出せば──ヒビキさんの敵が現れます』

 

 それがウェルの言う援軍だった。

 

『ヒビキさん達はその敵の対処をするでしょう。そこを利用して彼女達を倒し、救ってください』

 

 そしてウェルの語る援軍が誰なのか、何なのかを聞いた彼女達は動揺し、不安に思いながらも頷いた。

 

 

 ◆

 

 

「何故ノイズが此処にいる!」

 

 ヒビキの世界のサンジェルマンが驚きに目を開きながら叫んだ。

 この世界に侵入した装者と自分たちを止める為に錬金術師協会総出で向かっていた所、彼女達の前に立ち塞がる様にしてノイズが現れた。

 ノイズだけでは無い。アルカ・ノイズも、カルマ・ノイズも。この世界を壊そうと襲い掛かって来ている。

 

 これは、世界のカウンターだ。

 ヒビキが未来を閉ざした結果生じた、世界自身が生きる為に行った彼女への敵対行動。

 ノイズ達は世界を守る為に、今この世界を脅かしているヒビキ達に襲い掛かる。

 

「──くっ」

 

 その光景を見たヒビキは思わず舌打ちした。

 何故邪魔をする。わたしはコマチに生きて欲しいだけなのに。

 これではまるで──世界すら彼が生きる事を許さないと言ってるようなものだ。

 

 そしてこの世界に呼ばれたヒビキの敵はノイズや訃堂だけでは無い。

 

「──久しいね、立花響」

「……お前は」

「また会えるとは思わなかったよ……君とは」

 

 ヒビキの前に現れたのは──アダムだった。

 

 ヒビキは変わらないアダムを見る。人類を嫌悪し、たった一人の友を救おうとし──ヒビキに敗北し、足掻き続けろと呪いの言葉を送り……友を託した、変わらないアダムを。

 

 アダムは変わってしまったヒビキを見る。コマチを愛し、ずっと一緒に居ると誓い──しかし残酷な真実に、滅びの歌に花咲く勇気を喪失し、孤独になり間違い続けている、変わってしまったヒビキを。

 

 ヒビキは目線を逸らし、アダムは彼女を真っ直ぐと見据える。

 

「少し話そうか、戦う前に」

 

 無機質な彼の声が、今は優しく聞こえた。

 

 

 ◆

 

 

「グオオオオオオオオオオ!!」

「姉さん! あれって!」

「ええ……ネフィリムだわ」

 

 マリアとセレナの視線の先には堕ちた巨人ネフィリムが暴れていた。最も強い姿を選んだのか、ネフィリム・ノヴァとなって人の居ない街を暴れて壊している。

 ウェルの作戦ではこの世界のマリアを抑える役目を与えられた筈だが……どうやらウェルの予想通り欲望のままに動いているらしい。

 

 アカシアを困らせる。その為だけに。

 

「グギャギャギャギャギャ!」

 

 この世界はアカシアの大好きなヒビキが作り出した世界。元々ヒビキにも恨みがあるが、それ以上に彼の大切な者が作った世界を壊す事は、彼にとって絶頂に達する程の快楽。

 故にヒビキ達の敵対よりも、アカシアを苦しめる為に暴れる。融合したからこそ理解していた。アカシアの苦しむ事を。今もまさにヒビキを止めてこの世界を止める事に、心を痛めている事をネフィリムは知っていた。

 

「グルルルルル」

 

 飽きたら装者達を喰らおうと笑みを浮かべるネフィリム。アカシアと絆を育んだこの世界の装者達も、彼に頼まれて世界を救いに来た並行世界の装モノも、どちらも喰らってやろうと目論むネフィリム。

 全てはアカシアを苦しめる為に。

 そしてその後はこの世界の神となって滅びの歌を再起動させるのも良いかもしれない。

 そんな邪悪で醜悪な事を考えていたネフィリムは──。

 

「消えなさいネフィリム」

 

 空から飛来したマリアの一撃で、断末魔を上げることも無く消え去った。

 黒きガングニールに蒼き波導。

 この世界の最強の一人、マリア・カデンツァヴナ・イヴは復活した最強状態のネフィリム・ノヴァを倒した。

 そして──もう一人の自分を見る。

 

「そうよね──わたしの相手はわたしよね」

 

 この世界のマリアの後ろにリッくん先輩とセレナが降り立つ。

 

「そうよ、わたし。──アナタには聞きたい事がある」

 

 並行世界のマリアはタラリと冷や汗を垂らしながら、自分とはかけ離れた強さを持つマリアに対して挑発的な笑みを浮かべる。

 

 ──各地で戦いが始まる。

 

 

 

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