【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第七話「FAINAL COMMANDER」

「──マリアが相手と合流したらしい」

 

 セレナからの通信で向こうの戦況を把握したクリスが調と切歌に伝える。

 

 現在、彼女達は身を隠しつつ移動し、どの他のチームの救援に行ける位置取りをしていた。

 翼と奏は港。マリアとセレナは街中。そして響達はカ・ディンギル跡地に向かっている。

 サンジェルマン達はノイズの出現で混乱している錬金術師協会を囲んで袋叩きにするべく二手に別れて迂回しながら左右に展開している。

 

「どうするデスか? この世界のマリアはとんでもなく強いのデスよね?」

「救援に行った方が良いんじゃ……」

 

 本来この世界のマリアを消耗させる予定のネフィリムは一撃で倒されてしまった。生と死が曖昧になっている以上死んでいないだろうが、再び現れるには時間が必要だとウェルは言っていた。つまりアテにできない。

 

「そうだな。先にマリアの方を──」

 

 ──次の瞬間、クリスは調と切歌を庇う様にして立ち、リフレクターを展開する。その直後、彼方から飛来した炎のエネルギー砲がリフレクターに激突し、とてつもない衝撃が走った。

 

「ちっ……何と無く察していたが、向こうもかよ」

 

 クリスの視線は東京スカイタワーに、正確にはその頂上に立つこの世界の自分に向けられていた。

 あそこなら、大体の場所の狙撃も熟せるだろう。現に、錬金術師協会と戦っているノイズを撃ち抜きその数を減らしている。

 正直ノイズは倒されても良いと思っている。この世界で炭素分解されないと分かっていても、ノイズが人を襲う光景は見たく無かった。今は肉壁となって引き付けているだけだが、もし襲い出したらクリスは飛び出していただろう。

 

 それよりも、だ。

 

 向こうのクリスも遊撃を任せられているらしい。彼女を放置すれば厄介だ。

 故にクリスは、彼女を止めるのは自分だと判断する。

 

「あたしはアイツを止める! お前達はマリアの援護を!」

「クリスさん!」

「頼んだぞ!」

 

 それだけ伝えると、クリスは人が乗れる程度の大きさのミサイルを出せるだけ出してぶっ放す。そしてその一つに乗り、東京スカイタワーに居るもう一人の自分に向かって飛んだ。

 

「……!」

 

 破天荒な手段で接近してくるクリスに驚く狙撃手クリス。

 彼女はライフルをクリスに向けて狙い定まる。

 そしてスコープを除いて引き金に指を掛け。

 

「堕ちろ」

 

 クリス、ではなくその下のミサイルに向けて弾丸を放った。

 

 そしてクリスはそれを読んでおり、狙撃手クリスが撃つ直前に別のミサイルに飛び乗った。

 

「──っ」

 

 ミサイルが一つだけ爆発し、他のミサイルは依然として狙撃手クリスに向かっており、その上にはクリスが不敵な笑みを浮かべてイチイバルを構えている。

 狙撃手クリスは再びスコープを覗き、狙い定めて撃つ。今度は先ほどよりも一呼吸早く。

 しかしクリスは完璧なタイミングで回避する。

 ならばと狙撃手クリスはミサイルを撃ち堕とした後、クリスの飛び移るミサイルを予測して堕とそうとし──それすらも読まれてしまう。

 

「こうなったら……!」

 

 狙撃手クリスはライフルにエネルギーを限界まで溜めて──全てのミサイルを薙ぎ払った。空で幾つもの大爆発が起き、爆風と熱が狙撃手クリスの頬を荒々しく撫でる。

 そして──。

 

「自分の事はよぉく分かってる」

「──!」

「期待通りだ──おら、持ってけダブルだ!」

 

 ミサイルの爆発を隠れ蓑に狙撃手クリスの背後に周っていたクリス。彼女はゼロ距離で特大のミサイルを二つ作り出し──そのまま自分諸共大爆発を引き起こした。

 

 

第七話「FINAL COMMANDER」

 

 

「無茶苦茶やるデースクリス先輩!」

「でもこれでマリアの所に……」

 

 狙撃される心配が無くなった街道を切歌と調が走り抜ける。

 爆発音が続いている事から相手もクリスも未だ健在な様だ。

 しかし、この世界で遊撃に選ばれたのはクリスだけではない。

 

「──! 調!」

 

 切歌が調を掴んで後ろに跳ぶと同時に、レーザーが道路を穿つ。

 その威力に戦々恐々としながら見上げると、そこには──もう一人の自分達。

 

「──ようやく」

「──会えたデス」

 

 この世界の調と切歌は、ギアを構えると問答無用でもう一人の自分達に襲い掛かった。

 そして。

 彼女達のこの世界への侵入方法を考えれば、次に放たれる言葉は決まっていた。

 

「──よくも馬鹿助手を!」

「──よくもウェル博士を!」

『──私達の家族を!』

 

 ウェルが抗っているのは知っていた。自分達と真逆の夢を見ていたのは知っていた。ヒビキが心を痛めながら夢の世界から出られない様にしていたのは知っていた。

 でもそれで良かった。

 もう彼には頑張ってほしくない。命を賭けて欲しくない。悲しんで欲しくない。

 だから自分達が全てを引き受けて終わらせようとした。

 

 それなのに。

 

 諦めない自分達が居るから。

 ウェルが諦めないから。

 ヒビキを、自分達を救おうとしたから──死んだ。

 

 もう胸の中がグチャグチャだ。

 だから──これは最低な八つ当たりだ。

 誰も喜ばない復讐劇だ。

 ウェルが一番嫌う──苦い苦いバッドエンドへの道。

 

 この世界の調が三体のドローンを飛ばし、もう一人の自分へと突撃する。

 シュルシュガナ同士がぶつかり、刃と刃が削り合う中、この世界を救いに来た調が叫ぶ。

 

「大切な人が居なくなると苦しくなる。アナタはその事を誰よりも理解している筈。それなのに!」

「黙れ偽善者──刻んであげようか?」

 

 わたしの家族を殺した癖に、と恨みが込もった視線が向けられる。

 

「っ……」

「何よりも許せないのは」

 

 頭部に備え付けられた装飾が動き、砲身が向けられる。

 

「──その顔で、その声で、わたしが、アイツを見殺しにした事が許せない!!」

 

 殺意が向けられる。

 

「──ぐ」

 

 シュルシャガナの丸鋸の側面でレーザーを受け止める調。しかし目の前の自分の想いは強く、重く、激しく。

 

「──きゃああああ!!」

 

 容易く砕かれ、吹き飛ばされてしまった。

 

「調!」

 

 切歌が吹き飛ばされた調を見て思わず叫び、それをロングヘアーの切歌がイガリマの鎌で首を刎ねんと振るい、ショートヘアの切歌は同じイガリマで受け止める。

 

「……っ!」

 

 そして、怒りに染まった目でこちらを見る彼女に、ショートの切歌は叫ぶ。

 

「アナタまでそんな調子じゃ、お気楽者のアタシ達がそんなんじゃ、みんな間違えちゃうデスよ! しっかりするデス!」

「それでも、どうにもならない事はあるのデス!」

 

 ロングヘアーの切歌も負けじと叫び返す。

 

「頑張れば頑張るほど、どうにもならなかった時辛いのデス! だからウェル博士には頑張って欲しくなかった! ずっとずっとずっと……キリカとの幸せな夢を見ていて欲しかったのデスよ!」

 

 想いを叫び、ロングヘアーの切歌はショートの切歌を弾き飛ばし、並行世界の調の元へと叩き付ける。

 

「だからもう」

「何もせず、切り刻まれて」

 

 そんな諦め切った声に──ウェルに大切なものを託された二人は、真っ直ぐ強くもう一人の自分を見据えた。

 

 

 ◆

 

 

 戦場だというのに静かだった。

 この世界のマリアはジッともう一人の自分を見る。ネフィリムを一撃で葬り去った自分を冷や汗混じりに見るマリアを。

 

「セレナ」

 

 マリアは傍に居る己の妹に言い放つ。

 

「あっちのセレナを頼んだわよ」

 

 それだけ伝えると、マリアは波導を纏って一息でもう一人の自分の前に立つ。

 

「え?」

 

 そして彼女に認識される前に掴むと、その場から跳躍しリッくん先輩と共に別の場所へと向かった。

 

「っ……姉さん!」

 

 風圧に晒されながらセレナは自分の姉の名を叫び。

 

「まるで過去の自分を見ているかのよう」

 

 自分よりも成長したこの世界のセレナと対峙する。

 

「なんで」

 

 セレナは思わず問い掛けた。

 

「あなたはそれで良いの? 本当に──」

 

 自分がこの世界を受け入れている事が信じられなかった。悲しかった。故に問いかける。彼女なら……セレナ・カデンツァヴナ・イヴなら、と。

 

 しかし。

 

「わたしだって、本当は嫌ですよ。でも……でも……!」

 

 この世界のセレナは自分の姉の泣いている姿を思い出す。

 

「あの姉さんですら絶望して涙を流した。頑張れば頑張るだけ辛くなる」

 

 だったら。

 

「このままの方が良いんです」

「──」

 

 それは優しさを履き違えた残酷な言葉で、自分の言葉にセレナは──息を飲む。

 

 負けてはいけないと強く思った。

 

 

 

 そして離れた地では、波導を纏ったマリアがもう一人の自分を抱えて着地する。

 並行世界のマリアはすぐ様離れて、何もかもがデタラメなマリアを警戒する。

 

「あら? そんなに怯える事無いじゃない」

 

 そんなマリアをこの世界のマリアは微笑ましそうにしながら言う。

 圧倒的な実力から来る余裕だろうか、と思いながらマリアはアガートラームを油断なく構える。

 

「懐かしいわね。わたしがそのギアを纏ってたのはあの一度切り」

 

 マリアは思い出す。大好きだった人との最期の想い出を。

 

 しかしそれはもう無意味な事だと思い直し、傍のリッくん先輩に触れた。

 

「どうしてアナタ達は戦うの?」

「え?」

「ヒビキが他の世界の星命力を奪っているから? もしそうなら心配する事はないわよ。アルセウスを得た以上、少し経てばもう迷惑掛けないから」

「何が言いたいのかしら」

「邪魔しないでって言っているの」

 

 スッと細められた目がマリアに向けられる。

 

「確かにちょっとだけ迷惑を掛けたけど、それはアルセウスが逃げたから。リッくん先輩もヒビキが必ず取り戻す。そうなると、もうアナタ達がこの世界に来る意味は無いのよ」

 

 この世界のマリアの言葉に、彼女は──。

 

「アナタ──本当にマリアなの?」

「質問の意図が分からないわ──わたし」

 

 不思議そうな顔で、しかし瞳には何も映さずにもう一人の自分を見るこの世界のマリア。

 

「正直、この世界の事を聞いて羨ましいと思った。みんな弱さを抱えながら未来に向かって強く在ろうとしている姿に」

「……」

「でも、今のアナタの──アナタ達の姿は何?」

 

 各戦場で自分達を見て、その想いを、諦めてしまった姿を見て──負けてはいけないと、認めてはいけないと強く思った。

 

 本心を偽り、諦め、無為に時間を浪費する彼女達を。

 

 彼女達を認めてしまえば──アカシアの想いは、ウェルの想いは無駄になってしまう。

 

「力の差なんて関係ない」

 

 マリアが銀の腕を構える。

 

「わたしの弱さで、アナタの強さを打ち砕く!」

「──」

 

 その銀の煌めきは──今のこの世界にとって眩しく見えた。

 

 

 ◆

 

 

「──という事は、アイツらは……お前達は洗脳されている訳ではないのだな」

「ああ、そうだ」

 

 キャロルは、並行世界から来た自分の問いに素直に答えた。

 ノイズによりほとんどの錬金術師は倒されてしまった。サンジェルマン達幹部も自分自身に抑え込まれている。

 

 そしてこの戦いに初めからやる気の無かったキャロルはあっさりと負けていた。

 

「……どうして戦わない」

「虚しいからだ」

 

 自分の問い掛けにキャロルは答える。

 

「理想の世界。追い求めていた夢。それを見せられれば見せられる程──心にポッカリと穴が空いていく」

 

 夢の世界でのイヴとの時間は楽しかった。

 だが、それではダメだと想い、しかし抜け出せられない。

 だからヒビキに力を貸してくれと言われた時、すぐに夢から覚め──終わっているこの世界を見て、虚しくなった。

 

 こんな世界の為に、家族の想いを受け継いだのでは無かったのに。

 この時初めてキャロルは──自分は未来が欲しかったのだと自覚した。

 イヴ達との夢よりも……。

 

 そしてそれはサンジェルマンたちも同じだった。

 イグニスとの夢は心地良かったが――それでも心の核の部分で違うと思ってしまう。

 だから何処かこの戦いに消極的で、サポートしかしていない。

 

「かと言って立花響に逆らう事もしないとはな」

「……」

「ふん。少しそこで頭を冷やせ」

 

 それだけ告げるとキャロルは他の仲間の援護に向かおうとし、その前一つ質問をする。

 

「夢の世界から目覚めていない奴らが居るようだが、どうなっている?」

「簡単な話だ。装者の中で起きて欲しくないと思った奴が居て、それをヒビキが聞き入れただけだ」

 

 故にフィーネやノエルは死から復活しても、戦力としては復活していない。

 その話を聞いてキャロルは納得し、その場を飛び去る。

 

「という事は、だ」

 

 ヒビキは孤独を選びながらも──目覚めて欲しいと思ったという事だ。

 

 

 ◆

 

 

 キャロルの至った結論には、アダムも辿り着いていた。彼の場合は二代目が目覚めていない事からだが。

 戦力として数えるなら、目覚めさせていない者が多いのだ。

 あまりにもチグハグで、人間らしいとアダムは思った。

 

「よく分かっただろう、僕の気持ちが。でも解せないんだ、君の行動に」

「……」

「何故選ばない、アカシアだけを。何故捨て切れない、愚かな人間を」

 

 アダムの問いにヒビキは答える事ができない。

 しかしアダムは答えを知っていた。知っていて聞いていた。

 ヒビキにそれを自覚させる為に。

 彼女は──孤独の闇に入りながらも、人との繋がりを捨てられず、助けを求めている。

 

 それをアダムはかつて醜悪だと断じて壊そうとし、最後には響の人と手を繋ぐヒカリに敗れ去った。

 

 だから今の彼女は見ていられなかった。

 だから今の彼女はアダムを見る事ができなかった。

 

「どうや無駄な様だね、問答は」

 

 アダムはこれ以上ヒビキの顔を、自分に勝った相手のそんな顔を見たくなくて、力を体に巡らせて怪物の姿となり構える。

 

「だったら君を倒して代わってあげよう、この世界の神に。その後に終わらせてみせる、全てを」

「──させない」

 

 ヒビキがガングニールのファウストローブを纏う。

 

「いい加減目覚めたらどうだい、現実に」

「みんなの夢は終わらせない。終わらせたくない──お前も寝てろ」

 

 ヒトデナシと孤独の少女が──激突した。

 

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