【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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幾千超えて変わらぬ恋、幾千超えて変わる愛。


第三部 戦姫絶唱シンフォギア 月穿つ恋文編
第一話「思い出の兆し、行方知らず」


『◾️◾️◾️様! ◾️◾️◾️◾️様!』

 

 一人の恋する女が居た。

 その女は、胸に抱くこの想いを相手に伝える勇気が無かった。

 しかしそれ以上に──不敬だと、断じられるのが怖かった。

 この想いを、他ならぬ想い人に切って捨てられるのが怖くて、巫女であるその時間に甘んじていた。

 

『フィーネ……』

 

 想い人が、自分の名前を呼ぶ。

 

『こんにちはフィーネ。今日も可愛いね。君もそう思うだろ? ◾️◾️◾️?』

 

 想い人の友が、冗談まじりに……いや、彼女の想いを後押しするかのように言葉を綴る。

 彼の言葉に彼女の想い人が照れ混じりに頷き、それを見た巫女の頬が赤く染まる。

 その様子を面白そうに、嬉しそうに見る神の友人。

 

『やっぱり女の子は一途でお淑やかじゃないとね! 君もそう思うだろう? ◾️◾️◾️?』

『ん……そう、だな。でも俺は心が綺麗なら──』

 

 何時迄も続くと思っていた時間。

 それと同時に、この時間を抜け出して想いを告げ、彼と共に次の時代を生きていたいと思っていたフィーネ。

 そう、思っていた。

 

 

 しかし、バラルの呪詛により人類は言葉を奪われ。

 フィーネは、最も心安らぐ時を失った。

 

 そして幾千年の時を経て、彼女の恋文は月へと至る。

 

 

 第一話「思い出の兆し、行方知らず」

 

 

 響ちゃんの所に世話になって約一年が経った。

 最初はギスギスとしていた俺たちだけど、ある事件をきっかけに仲良くなった。

 仲良くなった俺たちは抜群のコンビネーションで人を襲うノイズを殲滅し──

 

──我流・無明連殺

 

 殲滅を……。

 

──我流・地滅墳砕

 

 せん、めつ……を……。

 

──我流・雷塵翔來

 

 ……響ちゃんが強すぎて、俺がサポートする隙がない! 

 

「……別に無理しなくて良いのに」

 

 いやいやいや! 俺響ちゃんを助けるって言ったんだよ? 

 それなのにいざ戦闘となったら後ろからボーッと見守るか、定位置(響ちゃんの肩か頭)で見学するかだよ!? 

 男としてみっともないよ! 

 

「別にアンタに戦闘で期待していないから」

 

 相変わらず辛辣! 超ストレートな物言いで心砕けそう! 

 

「それに……」

 

 俺が嘆いていると、響ちゃんは首に巻いたマフラーで口元を隠しプイっとこちらから視線を逸らす。そして……。

 

「……傍に居てくれるだけで、良いからさ」

 

 会った時には聞けるとは思えない言葉を、何とも恥ずかしそうに言った。

 仕草と声と感情がダイレクトに当たって、俺は──。

 

「ブ────イ!」

 

 惚れてまうやろおおおおお!! 

 

「キャッ!?」

 

 響ちゃんの肩に乗って全力で頬擦りした。

 んもー! 響ちゃんはかーわーいーいーなー! 素直じゃない所もポイントが高い! コマチ的に! 

 こういうの何て言うんだっけ? ツンデレ? クーデレ? 

 なんか違うな。もっとこう、捻りが……。

 

 ──捻デレか! 

 

「なにバカな事言ってんの! 擽ったいから!」

 

 顔を真っ赤にさせた響ちゃんが俺の首根っこを掴んで引き離した。それにより頬擦りが止められた。

 うおおおおおお! もっと頬擦りさせろおおお! ペットとしてのプライドがあるんだ!! 

 

「うわ、毛玉がわたしの手で暴れ回ってる……というかペットって……」

 

 何処かゲンナリした様子で俺を見る響ちゃん。

 その表情も可愛いよね! 

 そう言ったら俺を見る目が変わった。なんか、こう、不審者を見るような。

 不審者はあのホームレスで十分なんだけど。

 

「……なに? あまり変なのと会わないでよ? 危ないから」

 

 銀髪っ子と同じような事を言うのね。

 俺も響ちゃんも落ち着き、俺は定位置にヒョイっと乗せられる。

 響ちゃんの髪の毛がムズムズと鼻を擽ってちょっとこそばゆい。

 

「時間取り過ぎた。早く帰るよ。じゃないと──」

 

 また、あの人達が来るから。

 

 そう言うと響ちゃんは紫電を纏ってその場を離脱。

 景色が凄い勢いで流れていき、歪み、気が付いたら別の場所に居た。

 これで二課の人達に見つかる事はないだろう。協力者のおじさんも隠蔽しているらしいし。

 それにしても不思議な力だな、響ちゃんの紫電。

 まるでワープしているみたいだ。

 

 それにしても……。

 

「ブーイ……」

 

 響ちゃんは一歩前進した。俺に心を開いて歩み寄る事ができた。

 それでも、彼女の心の傷はまだ癒えず、次になかなか進めない。

 天羽奏さん。彼女と会う事を響ちゃんは拒絶……いや、恐れている。

 あの時の、ライブ事件で奏さんに生きろと言われ、しかしこうして復讐の道を歩んでいる事を、彼女は奏さんに知られたくなかった。

 ならば復讐を止めればいい……と簡単に言えたら良いけど、そうも言ってられない。

 

 俺自身は止めて欲しいけど。

 響ちゃんが辛いだけだし。

 

 だからこそ、奏さんと話して欲しいんだ。

 じゃないとどっちも救われない。

 

「……また何か考えているでしょ?」

「ブイ!?」

 

 いや、その、何というか……! 

 

「……言いたい事は分かる。どうすれば良いのか正しいのかも分かる。

 ただ、もうちょっとだけ待って欲しい。

 今は、この想いに集中したい。

 だから──もどかしいかもしれないけど、傍に居て」

 

 ……ふう。少し前の、耳を塞いで、目を閉じて、闇の中がむしゃらに走るよりはマシか。

 でも俺そこまで我慢強くないから、いつか手を引っ張ってでも奏さんと話して貰うかもしれないから。

 

「……うん」

 

 それに任されたしね──響ちゃんのお母さんに。

 

「──うん」

 

 俺の言葉を聞いて、響ちゃんは少しだけ穏やかな顔をして頷いた。

 

 

 ◆

 

 

 私立リディアン音楽院高等科。

 海を臨む高台に建てられた音楽学校。

 ツヴァイウィングの天羽奏がかつて在籍し、風鳴翼が在籍する有名校。

 彼女たちが目当ての者から、真剣に音楽の道を突き進む者まで、たくさんの少女たちがこの学問の戸を叩く。

 そして此処にも一人居た。

 

「今日からわたしも高校生か……」

 

 小日向未来。黒髪に大きなリボンを付けた可愛らしい少女。

 これからの未来に少しだけ夢を見て。

 

「響も、この街に居るんだよね……?」

 

 こぼれ落ちた過去を拾いに来るために此処へ来た。

 

 少女は、かつて一人の親友がいた。

 何をするのも一緒で、嬉しい時も、悲しい時も、苦しい時も、全てを共有し、無くてはならない存在だった。

 

 ツヴァイウィングのライブ事件で、それも失われたが。

 

 彼女は親友を地獄に堕としたと後悔している。

 その後、傍に居られなかった事を後悔している。

 今こうして、手を繋ぐ事ができない事を後悔している。

 

 だからこそ、彼女はこの街にやって来た。

 中学生時代はお小遣いを貯めて限られた時にしか来られなかったが、今日からは違う。

 授業が終わり、放課後になったら響を探すつもりだ。

 彼女がこの街に居る事は、先日故郷で響の母親から話を聞いて知っている。

 

『あの子の事、頼んだわ。傍に優しい子が居るから、どうか一緒に』

 

 ──私じゃあ、あの子を助ける事も、守る事もできなかったから……。

 

 後悔と共に、彼女の母は苦しそうにそう言った。

 未来はその話を聞いて絶対に響を見つけて、そして手を取ると決めた。

 一生手放さない為に。太陽を失わない為に。

 

(それにしても……)

 

 今の響の傍に居る優しい子。

 それは一体どんな人なんだろう? 

 胸の奥で疑問に思いながら、未来は街へと駆け出した。

 

 

 

 

 

「うーん……見つからないな……」

 

 未来の響捜索は難航していた。

 そもそも彼女とは2年間離れており、今の響がどうなっているのか知らない。

 彼女の記憶にあるのは過去の響のもの。道行く人に特徴を伝え聞いても、人柄が変われば見つかるはずもなく、時間だけが無為に過ぎ去っていた。

 

「……今日は、ここまでか」

 

 住んでる寮に帰らなければならない。明日も学校だ。

 時間なら、今までと違ってタップリとある。

 焦っても仕方ないと未来は帰路に着こうとし──空気がおかしい事に気付いた。

 

 人の気配がない。

 視界に黒い塵が待っている。

 道端に積もった人型の煤の塊。

 

「──っ」

 

 悲鳴を上げそうになる口を両手で塞ぐ。

 ノイズだ。

 すぐに此処から離れて、急いでシェルターに向かわないと。

 

「──お母さーん」

 

 しかしそこで、未来の耳に助けを求める声が聞こえた。

 視線をそちらに向けると、逃げ遅れたであろう幼い少女が居た。

 

 考えるよりも、体が動いていた。

 

 未来はカバンを放り投げ、少女の元へ駆け寄り手を繋ぐと、駆け出した。

 それに気付いたノイズが未来たちを追い始める。

 

 命を賭けた鬼ごっこが始まる。

 

 走り続ける。回り込まれる。

 下水に飛び込み、向かい岸に逃げる。

 女の子が転けて走れなくなる。背負って走り出す。

 走る。飛び越える。潜り抜ける。走る。梯子を登り、ノイズが居ないと場所へと逃げる。

 息が途切れ、呼吸が荒くなる。

 限界を超えて走って、未来の体力はほとんど残っていなかった。

 

「死んじゃうの……?」

 

 不安にかられた少女の弱音が、未来の鼓膜を震わせる。

 

 死ぬ? 死んだら、響に会えなくなる。

 それは──それだけは嫌だった。

 

「──諦めない。わたしは、諦めない……!」

 

 少女に答えるというより、己を鼓舞するかのように叫ぶ未来。

 

 しかし絶望はいつも無慈悲にやって来る。

 プギョプギョと人ならざる足音を立てて、ノイズが未来たちを取り囲んでいた。

 それを見た少女は悲鳴を上げて未来に抱きつき、未来は少女を庇うように抱き締めながらノイズを睨み付けた。

 

 それをノイズは嘲笑うように歩み寄り、そのまま腕を未来へと掲げ──。

 

「ブーーーーーイ!!?」

 

 何処からか、豪速球の如く飛来したナニカがノイズを吹き飛ばした。

 その何かはしばらく目を回していたが、すぐに意識を覚醒すると星形のエネルギー弾で周囲のノイズを一掃。そしてすぐ様包囲網を抜け出すと未来たちの前に庇うように立ち、空に向かって鳴き声を上げた。抗議するように。

 

「ブイブーイ!」

 

 それは、毛玉であった。猫でも犬でもない妙な生き物。

 状況に合わない愛玩動物の出現に幼き少女は恐怖を忘れて見入り、未来は何処かで見た事があると記憶を辿り──しかし聞こえた声に意識が全て持っていかれた。

 

「……文句言わないで。早く助けたいって言ったのそっちだし、手荒になるって言ったけど気にするなとも言った」

 

 ストンと降り立つその背中を未来は目を限界まで見開いた。

 

「ブイ!!」

「まあ、間に合ったから良いじゃん……本当に」

 

 刺々しい口調。冷めた言動。

 戦士の如く佇む姿。見た事もない装備。

 

「アンタ達は大人しくしてて──死にたくないなら」

 

 しかしその声は──その姿だけは見覚えがあった。

 忘れる筈がない。彼女の、小日向未来の太陽。

 

「──ひ、びき……?」

「──え?」

 

 掛けられた声に反応して響が振り返り、二人の視線が混じり合う。

 バチリと響の頭に紫電が舞い、未来の胸にズキリと痛みが走る。

 

 二年越しの太陽と陽だまりの再会は──。

 

「──誰……?」

「──え……?」

 

 翳りあるものだった。

 

 その再会に喜ぶのは──ヒトデナシのみ。

 

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