【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第九話「FIRE SCREAM」

『響ちゃん……もうやめてくれ』

 

 こちらを見るヒビキに対してアカシアは説得を試みた。

 

『もう君たちが泣いた顔で戦う姿を見たくない。それに、ウェルだって──』

「──安心してコマチ」

 

 ニッコリと笑顔を向けるヒビキ。

 しかしその笑顔はアカシアの大好きな笑顔とはかけ離れていた。

 

「すぐにこいつらを──ウェルさんの仇を討つから……!」

『違うよ響ちゃん! 彼女達は!』

 

 尚も言葉を届けようとするアカシアを響が手を翳して止める。

 その様子を見てヒビキは舌打ちをしてもう一人の自分を激しく睨み付ける。しかし響は臆する事なくヒビキを見据えた。

 

「アカシアさん。下がっていてください」

「お前がコマチに命令するな!」

 

 ヒビキはもう一人の自分の前だけでは感情を表に出す。それもアカシアと隣り合って立っている姿なら尚更に。

 

「命令なんかしていないよ。わたしはただ、あなたを救いたいだけ」

「まだそんな事を言っているのか! わたしはもう未来なんかいらない! 歌だって──」

「だったら──」

 

 次の響の言葉は、ヒビキの胸に鋭く突き刺さった。

 

「何でこの世界のみんなはシンフォギアを纏っているの? 何で歌う事を許しているの?」

「──」

「あなたの力なら、シンフォギアをファウストローブに変える事もできる筈──それをしなかったって事は」

 

 ヒビキは──まだ歌の事が好きで、捨て切れていなかった。

 響の言葉に、ヒビキは認めないと、認める訳にはいかないと、怒号混じりに叫ぶ。

 

「ふざけるな! そんな事ある訳──」

「分かっている筈だよ! アナタは自分の歌が、アカシアさんが好きだと言ってくれた歌が大好きで、それと同じくらいみんなの歌も好きなんだ! だからそれを取り上げる事ができない!」

「黙れ! 勘違いするな! わたしはただお前らを倒す為の戦力を──」

 

 しかしその言葉は、すぐに響が否定する。

 

「だったら何でそんなに辛そうな顔をするの!? 悲しい顔をするの!?」

「っ……」

「本当は分かっている筈だよ全部! もう自分に嘘を吐くのはやめて!」

「──うるさい」

 

 ヒビキの頬に涙が伝う。

 

「うるさいうるさいうるさいうるさい!!」

「……」

「お前にだけは言われたくないんだよ……! お前の言葉を認めてしまったら、わたしのやって来た事は無価値になる」

「……ならないよ」

「なる!」

「ならないよ!」

「なるんだよ! ──だって、お前はわたしで、わたしはお前で……! 間違っているのはわたしで、正しいのはお前──それを認めたら、認めてしまったら……!」

 

 グシャグシャと自分の髪の毛を掻きむしるヒビキ。

 しかしそれ以上に胸の中がグチャグチャで、自分のやっている事に吐きそうで、でももう後戻りできない。

 

「こんな気持ちになるのはお前が居るせいだ! お前さえ居なければ──」

「ううん。君が後悔しているのは、君が優しいからだよ。それに──」

 

 響は拳を握り締めて、少し前に見た夢を思い出す。

 今のいままで思い出せなかったが──あの時助けを求めていたのは目の前の自分だった。

 それが分かると、目の前の彼女の拒絶の言葉全てが助けを求める声に聞こえて──だからこそ、彼女はもう迷わない。

 

 拳を開いて手を差し伸ばす事を。

 

 胸にある花咲く勇気で自分を救い上げる事を。

 

「──まずはその分厚い孤独の殻を、ぶん殴る!」

 

 シンフォギアを纏い、胸の歌を信じている響が構える。

 

「そんな事、できっこない!」

 

 ファウストローブを纏い、胸の歌を信じられないヒビキが手を翳す。

 

 ──一瞬の空白の後、二つのガングニールが。

 

「──はぁぁああああああ!!」

「──うおおおおおおおお!!」

 

 激突した。

 

 

 第九話「FIRE SCREAM」

 

 

「ヒビキ……」

 

 自分自身と戦い始めたヒビキを心配そうに見つめる──ミク。

 彼女はヒビキの心中を理解していた。孤独に苦しみ、皆を夢の世界に閉じ込めている事に罪悪感を覚え、結局アカシアを、コマチを救う事ができていない事に悲しんでいる事を。

 しかし彼女は側に寄り支える事ができず──。

 

「ねぇ、あなたはそれで良いの? 大切な人が間違って、苦しんで──それで良いの?」

「……」

 

 そんな彼女に神獣鏡のシンフォギアを纏った未来が静かに問い掛ける。

 しかしミクは答える事ができない。

 力無く項垂れる事しかできず、カカシのように立っているだけ。

 

「わたしは嫌だ──わたしの響も、この世界のヒビキも助けたい。だから、わたしは行くよ」

 

 そう言って未来は空を飛び──それを遮る様に凶祓いの光が走る。

 

「行かせない──ヒビキの邪魔はさせない!」

「──わたしも同じ」

 

 アームドギアを突き付けて、未来は言い放つ。

 

「ヒビキを救う邪魔をさせない!」

 

 神獣鏡のシンフォギアとファウストローブの光が侵食し合う。

 

 

 ◆

 

 

 装者7人同士のぶつかり合いは、激しさを増していた。

 七つの旋律と七つの旋律の衝突は世界中に響き渡り、夢から覚めそうな程に激しい音楽が鳴り響く。

 

「くっ……!」

 

 苦悶の表情を浮かべるのは、この世界のマリアだった。

 アカシアとシンフォギアのデュオレリックの力。

 膨大なフォニックゲインで解放されたエクスドライブの力。

 その出力の差は直ぐに現れた。

 アマルガムやデュオレリックの力には対抗できるが、エクスドライブの相手は苦しかった。

 アカシアの力の特異性で何とか誤魔化しているが、スペックのゴリ押しでねじ伏せられている。

 加えて……。

 

「力が、抜ける……!」

 

 ヒビキの身に何かあった訳ではない。

 しかし世界が変わりつつある。

 この夢の世界が。

 

 要因はある。世界がカウンターとして解き放ったカルマ・ノイズ。そのノイズが夢を見ている人達に悪夢を見せ「夢を見ている限り幸せ」というこの世界の法則を乱している。それにより人々の意識が目覚め始めたのだ。

 

 加えて──目の前の自分達。

 

「諦めないわ! この世界を救う事を!」

「生きる事を諦めさせてたまるか!」

「ただ朽ちていく無辜の民を見捨て置けるか!」

「楽しい事はたくさんあるのデス!」

「たくさんの人と出会う事もできる!」

「いい加減目を覚ましやがれ!」

「だから、皆さんどうか──」

 

 彼女達が諦めず、訴え続けた事で──未来に絶望していた人達が『生きたい』と思い、願い、祈り、明日へ歩もうとしていた。

 そしてそれは夢を見ている人達だけではなく、この世界の装者達も同様であり──。

 

「──認めてなるものか!」

 

 カナデが叫ぶ。

 

「オレ達まで未来を見てしまったら、ヒビキはどうなるんだよ!」

 

 ツバサが叫ぶ。

 

「そんな事、できない!」

 

 クリスが叫ぶ。

 

「彼女を一人ぼっちにさせたくないデス!」

 

 切歌が叫ぶ。

 

「だからわたし達は決めたんだ!」

 

 調が叫ぶ。

 

「例え間違っているとしても!」

 

 セレナが叫ぶ。

 

「彼女と寄り添う──最期まで!」

 

 マリアが叫ぶ。

 

 全員がヒビキの為に自分の心を殺して叫んでいた。

 それが結果的によりヒビキを孤独にし、傷付けると知りながらも。

 彼女が望んでいるからと無理矢理納得させて。

 

「──ふざけるな!」

 

 そんな彼女達をマリアが怒鳴る。

 

「間違った道を歩く仲間を殴ってでも止める──それが本当の仲間でしょう!」

 

 マリアが腕を上げるとギアが巨大な拳へと変化し、そこに他の装者達がフォニックゲインを送り込む。

 

「いい加減──向き合いなさい! 己の過ちに! そして今すぐ──」

 

 七つの輝きを放つ拳が解き放たれ、この世界の装者へと突き進んでいく。

 

「取り戻しにいけえええええええ!!」

 

 エクスドライブ七つ分の力が宿った拳を、マリア達は受け止めるべく彼女達もフォニックゲインを集束させる。

 それをマリアが波導で纏め上げ、巨大な拳を形成。そして落ちてくる拳を受け止め。

 

「それでも! わたし達は──」

 

 ──轟音と閃光が世界を揺るがした。

 

 

 ◆

 

 

「うおおおおおおおお!!」

「オオオオオオオオオ!!」

 

 拳と拳が激突し、手甲に備え付けられた機構が作動しインパクトが発生。衝撃が互いの拳を痛め付け、苦悶の表情を浮かべるが──両者共に退かない。

 

「てやああああああ!!」

「うらぁ!!」

 

 響がラッシュを叩き込めば、ヒビキはそれらを逸らして拳撃を外へと流し。

 空いた懐に入ってヒビキの貫手が響の鳩尾に突き刺し、目を見開いて息を吐くも直ぐに気合いで意識を確立させて固く握り締められた拳がヒビキの頬に激突する。

 

「くっ……!」

 

 頬の痛みにヒビキが苛立ちながら、陣を形成する。そしてそこから炎、岩石、水、風、氷柱、電撃とありとあらゆる錬金術を行使する。

 それを響は一つ一つ拳で打ち砕いて、再びヒビキと拳を噛み合わせた。

 ガキンッ! と大きな音が響き渡り、響とヒビキは再び至近距離で視線を合わせる。

 

「しつこい……! いい加減諦めろ!」

「絶対に諦めない! 約束したから!」

 

 約束。その言葉がヒビキの胸の内を騒つかせる。

 

「アナタだってアカシアさんともう一度一緒に居たい筈! だから──」

「──もう遅いんだよ!」

 

 振り抜いた腕が響を弾き飛ばす。

 

「わたしは覚悟を決めた!」

 

 もう誰も止めさせない。止まらない。止まれない。

 

「だから──消えろ!」

 

 ヒビキが手を翳す。

 すると空間に穴が空き、そこからイーブイが飛び出す。

 

「融合!」

 

 彼女の手に触れたイーブイがヒビキの中へと入る。

 

「進化!」

 

 そして逆の手には闇色に輝く光が渦巻き、彼女の全身を染め上げる。

 

「この手に呪いを!」

 

 彼女が握るのは胸の歌を拒絶する孤独な力。

 

「──ガングニィイイイイル!」

 

 ──ガングニール・アカシッククロニクル。

 ──タイプ・ロストソング。

 

「──この力で全ての歌を消してやる!」

 

 呪詛を蔓延させながらヒビキは響を睨み付け。

 

「──消えないよ。わたし達の胸の歌は!」

 

 響が握り拳を掲げると黄金の蕾が花開く。

 アマルガム。響とサンジェルマンが手を繋ぎ、花咲く勇気で信念を貫く力。

 黄金の巨大な両腕を構え、響は走り出す。

 

「無駄な事を!」

 

 叫び、召喚するのはブレイズスマッシュ。赤き影。燃え尽きた情熱。

 ヒビキの赤き影はその身を焼きながら突っ込み、響のフォニックゲインを吸収しようとし──。

 

「──させない!」

 

 それをミクからの攻撃を捌きながら、未来が神獣鏡の光で消し去る。

 

「な──」

 

 神獣鏡の光は聖遺物由来の力を消し去る力を有している。

 その力はロストソングが作り出す影にも有効で、結果はご覧の通りだ。

 

「よくも!」

 

 ミクがファウストローブに備え付けられている紐状の装飾を用いて未来を攻撃するが、しかし簡単にあしらわれる。

 

 戦闘経験の差がそこにあった。

 

 未来は神獣鏡のシンフォギア装者として数多の並行世界で戦い、ミクはマトモに戦った事はない。

 フロンティアの時はウェルのダイレクトフィードバックシステムで、響達と戦った時はシェム・ハが体を動かしていた。

 だから同じ未来でもここまでの差が出る。

 それがミクは悲しかった。ヒビキの力になれない事も。自分が間違っていると突き付けられて何も言い返せず、何もできない事も。

 

「わたしは響を助ける! だからアナタに構っている暇はない」

 

 未来が光を集束させる。神獣鏡もまた聖遺物だ。その光を浴びればファウストローブは解かれてしまうだろう。

 

「はぁ!」

「──ごめん!」

 

 未来が光を放ち、ミクは何もできないと目を閉じて涙を流し、その光景をヒビキが歯を食い縛りながら見る事しかできず──。

 

「──まったく。そう簡単に折れるな小日向未来」

 

 銀の煌めきが、戦場に眩いた。

 

 

 ◆

 

 

「っ……」

 

 戦場にて、七人の装者が倒れ、七人の装者が立っていた。

 果たして、打ち勝ったのは──。

 

「──ようやくゆっくり話ができるわね」

 

 アカシアに救いを乞われてやって来た並行世界の装者達だった。

 装者達は戦意を喪失し、倒れ伏している自分達の元へと向かい──肩を貸して立ち上がらせる。

 

「何を……」

「アカシアの、立花響の所へ行くわよ」

 

 この世界のマリアの問いに、並行世界のマリアは答えた。

 

「アナタ達まっっっっっったく素直にならないから、みんなで集まって反省会」

「ふざけた事を──」

「──ふざけてなんかいないわ」

 

 怒りに顔を歪みかけた顔が止められる。

 

「アナタ達が他人の、自分自身の言葉で止まらない事は良く分かった。説得しても余計に意固地になる──だったら、せめて納得できる答えを出して貰いたい」

 

 それはこの世界の事を知った装者達が思った事だった。

 諦めて、考える事を辞めて、全てを投げ出して欲しくない。でも自分だからこそこちらの話を聞いてくれないのは分かっていた。

 だったら用意してやりたかった。アカシアとの話し合いの場を。

 

「そういう訳だからさ、もう少し頑張ってくれよ。あたしだって諦める事があるのは知っているけど、それでもさ……後悔したくないし、して欲しくねーんだ」

「……」

 

「全てが分からなくなり、ただ流されるままに、楽になりたいと思った事はわたしにもある。だがそれでは何も守れない。誰も守れない。防人で無くて良い。だが、その胸にある輝きだけは失わないでくれ」

「……」

 

「傷付けたくなくて、傷付きたくなくて、考えて考えて、最良と思った事が最悪で……嫌になっちまうよな。でもさ、それで投げ出してしまったら一生後悔する。だから考えようぜ──自分の見つけた居場所を無くさない様に」

「……」

 

「自分の優しさを弱さだと思ってしまう。でもわたしはこの優しさが、無くしてはいけない大切なものだと知っています。教えてくれました。だからどうか、あなたも……わたしも優しさを忘れないで。大好きな人達を守る為に」

「……」

 

「人との距離を見誤ってしまう。大切な人を失う事を、傷付ける事を恐れてしまう。でもそれって当たり前の事だってわたしは大切な人に教えて貰った──あなたもそうでしょう? だったら、あなたが今すべき事を思い出して」

「……」

 

「お気楽者と言われて悲しくなる事があるデス。でもそのお気楽さで救える人も居るのデス。だってみんなの事が大好きだから。その大好きを壊したくないから。……だったら、あなたも暗くなったらだめデスよ」

「……」

 

「ねぇ、わたし」

 

 マリアが、この世界の自分に優しく語り掛ける。

 

「あなたは、この先も強くなれる──胸の歌を、自分の力を、そして──愛を信じて」

「──」

 

 その言葉は──かつて彼女の先輩がマリアに送った言葉と似ていた。

 その言葉を思い出したマリアは空を仰ぎ見て──彼との約束を破った事に今更ながらに涙を流す。

 

 そしてそれは他の装者達も同じで、しばらく少女達の啜り泣く声が続いた。

 

「──あれ? そういえば」

 

 並行世界のマリアは周りを見渡すが──リッくん先輩の姿は無かった。

 

 

 ◆

 

 

「シェム・ハさん……!?」

 

 呆然と響が呟く。

 かつて星の命運を賭けて戦い、呪いを祝福に変えて彼の神から陽だまりを救い、そして最後の最後に手を繋ぐ事ができたアヌンナキ。星の守護者として全てを任せたという言葉は今でも響の、未来の胸の中に残っている。

 

 そしてこの世界でも同じ事がヒビキ達の間で起きていた。

 

「……シェム・ハ」

 

 ヒビキが思わず顔を逸らしてしまう。彼女はシェム・ハから託された物を守れなかったから。結局は彼女の言う通りで、絶望しないで欲しいと、未来に向けて歩いて欲しいと言われつつ──それら全てを裏切ってしまったから。

 

「その様な顔をするな立花ヒビキ」

 

 しかしシェム・ハの言葉は優しいものであった。彼女がヒビキを見る目には失望も同情もなく、あるのは信頼のみ。

 その様子に響と未来は最悪の事態を察してしまう。

 

「まさかシェム・ハさん!」

「わたし達と戦うつもりですか……!?」

 

 思わず構えてしまう響と未来に対して──首を横に振るシェム・ハ。

 

「いや……我はこの戦いに手を出さんよ」

『──!?』

 

 シェム・ハはヒビキにも、響にも手を貸さないと言う。

 

「我はそこのヒビキに全てを託した。例えこの先の未来が滅亡でも停滞でも──我は受け入れよう」

「シェム・ハ……」

「だが、その前に我は──全てを曝け出して納得して欲しい。故に」

 

 シェム・ハは未来を見る。

 

「あの者らの戦いに、何人たりとも邪魔立てさせぬ。故に我は小日向ミクの深層意識の底から目覚めた」

 

 ──シェム・ハさん……。

 

 シェム・ハと入れ替わったミクが意識の底から彼女の言葉を、考えを聞いていた。

 シェム・ハは託したヒビキ達を尊重している。だからこそ力を貸さない。邪魔をさせない。

 

「さてどうする並行世界の小日向未来よ。あの戦いに介入するなら、我らが全力で阻もうぞ」

「くっ……!」

 

 思わず未来が歯噛みする。

 響は一度ロストソングの力に負けている。故にウェルは神獣鏡のシンフォギア装者の未来をヒビキにぶつけようとした。未来も響の手助けをしたいからこそ賛同し、この場に立っている。

 しかしミクはともかくシェム・ハを突破して響の加勢が出来るとは思えない。

 だとしてもそこで諦める訳には行かず、未来はアームドギアを構えて──。

 

「いいよ未来」

「響!?」

「シェム・ハさんの言う通り、わたしを納得させないとこの戦いは終わらない。ウェルさんは星の寿命があるから時の巻き戻しは無いと言っていたけど、納得しなかったら多分……」

 

 恐らく寿命が尽きてでも、もしくは自分の命を削ってでもやり直そうとするだろう。

 だったら響のやる事は決まっている。変わらない。そう、昔から──ずっとずっとしてきた事だ。

 

「行くよわたし──絶対に手を繋いでみせる! そして!」

「諦めてわたし──もう手を繋ぐ事はない。そして──」

 

「アナタを、世界を救ってみせる!」

「世界を壊してでも、コマチを救ってみせる!」

 

 ──決着の時だ。お互いに全力全開の力で、拳で相手を倒す/救う。

 

 ヒビキが手を翳し、全ての自分の影を作り出す。

 ブレイズスマッシュ。

 ストリームキュア。

 ライトニングスピード。

 サイキックフューチャー。

 ワイルドビースト。

 グラスセイバー。

 ブリザードロック。

 フェアリースカイ。

 

「はぁぁぁぁぁああああああ!!」

 

 それら全ての影を融合させ、作り出すのは奇跡の具現化の影──ラストシンフォニー。

 コマチとヒビキが紡いできた想い出の結晶。

 それを響にぶつける。

 

「うおおおおおおお!!」

 

 響もアマルガムの拳で受け止めるが……押しているのは影の方だった。

 ビキビキと黄金の拳が、ギアが罅割れていく。

 アマルガムが砕かれていく。希望が砕かれていく。未来が砕かれていく。

 

「無駄だ! この力はわたしとコマチの最強の力! その程度の力で対抗できる筈がない!」

 

 さらにフォニックゲインが吸い取られていき、パキンッ……と決定的な音が響く。

 

 ──ヒビキがラストシンフォニーを使った時点で勝負は決していた。

 

「──だとしてもぉおおおおおおお!!」

 

 ラストシンフォニーはコマチとヒビキが手を繋いで初めて扱える力。

 その力は敵を、絶望を、呪いを、全てを吹き飛ばす最高の力。

 

「──な!?」

 

 だから──力だけを求めた今のヒビキには扱えない。

 最強ではなく、最高の力なのだから。

 

「そんな、ラストシンフォニーが、コマチとの想い出が……!」

 

 響のアマルガムが砕け散ると同時に、ラストシンフォニーの影が呆気なく消えていく。

 その光景をヒビキは絶望した表情で見つめる事しかできず──そこに拳を握りしめた響が突貫する! 

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 響のギアが変わる。砕け散った黄金とラストシンフォニーの力が彼女にギアへと再構築され──お日様の歌が紡がれる。

 

 それは、ソルブライト・ガングニール。

 呪いを、暴走を、絶望を乗り越えた太陽の光。

 

「く……!」

 

 ヒビキが障壁を展開し、響の拳を受け止める。

 そして反対の拳に闇の光を収束させて、目の前の太陽を翳し、呪い、消し去ろうとする。

 

「そんな光なんかに──」

 

 しかし──響のギアの変化はまだ終わっていない。

 バチリ、と綺麗な蒼い色の雷が響の胸元から溢れ出し──その身を包み込む。

 

 それは、かつて並行世界を喰らおうとした世界蛇を操る一人の少女を打倒した──託された希望の雷。

 

 ミョルニルギア。ガングニールとのデュオレリックギアであり──無限に響き渡る彼女の優しい拳。

 

「あああああああああ!!」

 

 響の拳が障壁を打ち破る。

 もう影もない。お互いの拳が届く距離だ。

 

 絶対に救ってみせると響が究極の一撃を──。

 絶対に負けられないとヒビキが全てを終わらせる呪いの拳を──。

 

 叩き込む。

 

「とどけぇぇえええええええ!!」

「ぶちこわせぇぇえええええ!!」

 

──UNLIMITED BEAT

 ──ロスト・エンド

 

 日輪に輝く雷光と孤独の闇のぶつかり合いは。

 

(──あ)

 

 ヒビキにあの日──死という闇に堕ちていく彼女を温かい雷が救い上げたあの日を思い出させ。

 

(コマ……チ……)

 

 かつて雷が、日陰が少女の孤独を消し去った様に……ヒビキの呪いの拳は穏やかに響の温かい掌に包み込まれて──翳りは晴らされた。

 

 

 ◆

 

 

「わたしは……わたしは……!」

 

 響に負けたヒビキは膝を着き、涙を流しながら……その胸の中にある悲鳴を吐き出す。

 

「──イヤだ」

 

 平気な筈ではなかった。 

 

「──独りは、イヤだ……」

 

 神様になってたった独りの神様になる事など、できはしない。

 

「──わたしを独りにしないで……」

 

 皆を夢の世界で捕らえる事もしたくなかった。

 

「──未来……奏さん……翼さん……クリス……」

 

 しかし、先のないこの世界で皆を起こしたくなかった。

 

「──マリア……セレナ……切歌……調……」

 

 その想いを、並行世界の自分に連れて来られて聞かされた装者達は──死ぬほど後悔した。

 彼女だけに重荷を背負わせた事に。支える事ができなかった事に。──救うどころか、追い詰めた事に。

 

「──……コマチ」

 

 ヒビキは自分を救ってくれた日陰の名を呼ぶ。 

 

「──お願い……誰か……誰か……」

 

 そして自分を、日陰を、世界を。

 

「──助けて」

 

 救ってくれる誰かを呼んだ。

 

 

 

 そして、それに響が応える。

 

「ねぇ、手を差し伸ばして──大丈夫。へいき、へっちゃらだよ!」

 

 お日様の笑顔で、響はヒビキを闇の底から引っ張り上げる。

 

「正直、この世界を救う方法も、アカシアさんを助ける方法も分かっていない」

 

 彼女は助けを求める声に必ず答える。

 何故ならそれが彼女の趣味で、人助けをするのは立花響という少女だからだ。

 

「だとしても! わたしは絶対に諦めない! だから──一緒に探そう! そして歌おう! アカシアさんの好きな歌を!」

「──」

 

 その言葉に、希望に──ヒビキは胸の想いを、溢れる想いを抑えることができなかった。

 

「わたし一人じゃ、何もできない……」

 

 それは彼女の本音。

 

「なんとかしようって、頑張ってきたけど、全然うまくいかないんだ……」

 

 自分自身だから、本気でぶつかって来てくれたから言うことができた。

 

「五千年かけて過去を遡っても無理だった。コマチと一緒に居られる未来が無かった。だから世界を閉じ込めて、夢の世界にみんな閉じ込めて──でも本当は、苦しいよ、辛いよ、独りは……」

「うん、そうだよね。よくわかるよ」

 

 同じ気持ちだと、ヒビキの気持ちを分かってくれる彼女に、ヒビキは救われる。

 

「歌が好きだった──ううん、今でも好きなんだ。コマチが好きだと言ってくれた歌が。でもその歌のせいでみんな苦しんで、だから捨てようとして……でもできなくて、どうしようもなくて──もう奪いたくない。傷つけたくない」

 

 だから、とヒビキは目の前の自分に求めた。

 

「お願い、助けて──」

「──もちろん!」

 

 その言葉に響は当然の様に答える。

 

 かつてコマチがヒビキを救った様に。

 

「ほら! そうと決まったら手を繋ごう!」

 

 仲直りの握手! と響が笑顔で手を差し伸ばし、ヒビキは涙を拭い、目元を赤くさせながらおずおずと手を伸ばし──。

 

『──悪いけど、その手は繋がせない』

 

 しかし、それを止める者が現れた。

 上空に現れたソレは、その身に宿す力──神の力を開放する。

 すると、ヒビキが有していた神の力が強奪され──この世界に囚われていたアルセウスが解放された。

 そして、ソレは──アカシアは自分の神の力でアルセウスの傷を癒し、ヒビキを見下ろす。

 

「コマ……チ……?」

『響ちゃん──お別れの時だ』

 

 ──日陰が、世界を包み込む。




次回、第十話「Acacia」
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