【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
「アウフヴァッヘン波形を確認! この反応は──」
「ガングニールです!」
「やはりな……!」
リディアンの地下にある二課本部にて、ノイズの反応と共にガングニールの反応が検出される。当然、未知の反応……コマチの反応もだ。
オペレーターの報告を聞いた風鳴弦十郎は、速やかに指示を出す。
「装者達を向かわせろ!」
「既に出撃しています!」
しかし、彼以上に気が逸っている者たちが居た。
報告を受けた弦十郎は仕方がないとため息を吐き、装者の二人──ツヴァイウィングの二人に通信を繋げた。
「お前ら!」
『すまない先生! 説教は後で聞く!』
『でも居ても立ってもいられなかったんだ! あたしは──』
「そうじゃない!」
言い訳を並べる二人を一喝し、彼はニヤリと笑みを浮かべて……彼女たちの背中を押した。
「しっかりぶつかって来い! オレが言えるのはそれだけだ」
『──おう!』
それを最後に通信が切れ、二人はノイズを殲滅しながら響の元へと向かう。
そんな彼に、呆れた目線を向けるのは櫻井了子。
「相変わらず甘いわね」
「性分でな」
それに──と、思い出すのは、数ヶ月前に自ら出向いた日の事。
弦十郎は、公安時代の経験とカンを頼りに響たちと接触した。
そして、彼女にシンフォギアに関する力の事を教えて共に戦って欲しいと伝えた。
しかし……。
『ブイ!』
(いいよ!)
『わたしが信じられるのはコイツだけ』
『ブイブイ!』
(みんなと一緒にたくさんの人を助けよう!)
『誰かの手を繋ぐのは──できない』
『ブイ!?』
(ちょ、響ちゃ──!?)
彼女には拒絶され、傍らに居た彼女の相棒には威嚇(違います)されてしまった。
自分にできなかった事を部下に押し付けるのは気が進まないが──彼女達ならできる気がすると思っている。
根拠のないカンだが──こういう時のカンは当たるものだ。
第二話「陽だまりに翳りあり」
響ちゃん!
「ッ……!」
俺の警告に反応して、響ちゃんはクルリと反転して蹴りを放つ。
不意打ちを狙ったノイズは塵となって消えるが……。
「数が多い……!」
それに加えて場所も悪い。大技を使えば崩壊して俺や響ちゃんはともかく、この子達は落ちて助からない。
だったら……!
俺はこちらに駆け寄ってくる響ちゃんの肩に乗る。どうやらかんがえは一緒な様だ。
響ちゃんは俺に向かってひとつ頷くと、女の子二人を抱えて──。
「え──」
「口閉じて。舌、噛むよ」
そのまま飛び降りた。
響ちゃんの忠告虚しく、二人は響ちゃんの胸の中で絶叫した。まあ、安全度外視の紐無しバンジージャンプだしね。仕方ないね。
あ、そうこうしているうちに地面が近づいてきた。
「着地、任せた」
マスターからのオーダーだ。
任されよ!
俺は「まもる」を使って、全員をエネルギーで保護。それにより着地時の衝撃から身を守って、クレーターを作りながらも無事に地面に降り立つ。
クレーターの穴から一跳びで飛び出し、平坦な地面に二人を下ろす響ちゃん。
しかし……。
「……」
「……放して」
大きい方の女の子が響ちゃんから手を放さない。
さっきのが怖くて……というには雰囲気が違う。
響ちゃんも何処か戸惑いながら、放すように言うが……。
「放さない! 絶対に!」
女の子は叫んで拒絶した。
というより……泣いている?
「やっと……やっと会えたんだ! わたしの……わたしのお日様!」
だから、と少女は叫ぶ。
「もう放さない! 離れない! 二度と!」
「──ごめん」
バチリと紫電が走り、女の子は「キャッ」と悲鳴を上げて手を放してしまった。いや、放されてしまった。
そして、響ちゃんはグイッと
「わたしには、心地良い日陰がある──あなたは、眩しすぎる」
「あ……」
「……じゃ」
その言葉を最後に、響ちゃんは振り返らず追って来たノイズへと歩み寄る。
……と、いうかさ響ちゃん。
「なに?」
泣くほど辛いなら言わなければ良いじゃん。
「うるさい。でも、何で泣いているか分かんないんだよ……」
……帰ったらゆっくり話を聞くよ。
「うん。だから今は──」
──目の前の相手に集中しないと。
涙を拭って響ちゃんがキッと目の前を睨み付けると、無数の槍と剣が降り注ぎ、ノイズを殲滅した。
途中から現れた大型も竜巻のような一撃で粉微塵になってた。
さてさて。今回も気合十分なようだ。
ちなみに響ちゃん、彼女達のもとへ行く気は?
「無い」
だよねー。まあ、あの協力者の話が本当なら、二課に行く訳にはいかないか。
だから、今日も──。
「──逃げる!」
「──させるか!」
紫電を纏って飛び上がると同時に、それを読んでいた翼さんが剣をサーフボードに変形させて先回りしてきた。
スピードは響ちゃんが確実に勝っているのに、捕らえられる……やっぱり巧い動きだ!
そして、一瞬の硬直を突いて奏さんが槍を振るってくる。
これを迎撃するのは俺の仕事!
ふんわりもこもこの尻尾を鋼鉄の様に硬くさせ、槍に叩き付ける!
「っ……また懐かしいモンを」
岩に何度も叩きつけて覚えたアイアンテール!
そうそう力負けしない……しない……しな……。
「うおおおおおおおっ!」
「っ!?」
力負けしましたー。
峰打ちなのか、衝撃だけが伝わり俺は響ちゃんごと地面に落とされる。しかしすぐに響ちゃんは態勢を立て直し、拳を構えて奏さん達を見据える。
「随分と荒っぽいですね」
「荒っぽくもなるさ──こう何度もフラれるとなぁ!」
その割には絶対に傷付けないって意思が強く感じられる。
……初めは響ちゃんに対する申し訳なさがあったけど、ここ最近はグイグイ来るようになったなぁ。
焦っている……のか?
とりあえず逃げ切る事を考えなくては。
今の響ちゃんに、彼女達は重い。
「イーーーブイ!」
いつもより溜めたシャドーボールを地面に放ち砂塵を起こす。
さらに響ちゃんの肩に乗り、俺の力を送り込み──逃げる為の足を付与させる。
バチバチと響ちゃんの脚が紫電で光り輝き、さらにダメ押しで「みがわり」「かげぶんしん」を発動。
「なぁ!? 緒川さんみたいな事を!?」
上空で待機し、俺たちの動きを牽制していた翼さんが驚きの声を上げる。
しかし発動した時点で俺たちの勝ちだ。
一斉に俺たちが街のあちこちへ走り去っていく。しかも雷光並みに速い。
結果、俺たちはツヴァイウィングを振り切った。
「……」
しかし、響ちゃんの胸には大きなシコリが残った、ように見えた。
◆
響たちを取り逃がしてしまった奏たち。
が、今回は大きな収穫があった。
小日向未来。
かつて、立花響と親友だった……はずの少女。
しかし立花響は彼女の事を忘れ、冷たく引き離してしまった。
ようやく会えたと思ったのに、未来の心中は絶望一色であった。
「……記憶喪失、か」
話を聞いた弦十郎が唸る。
そもそも立花響の来歴が特殊過ぎる。ガングニールの破片が胸に刺さり、光彦の光により蘇生。人格が変わるほどの地獄を経て、ガングニールを纏い、光彦と同種の存在であろうコマチと共にノイズを狩り続ける。
濃密な人生だ。何かしらの記憶に欠如が見られても仕方が無いと言えるが──その欠如の仕方が不自然だ。
「小日向くん」
「……はい」
「結論から言うと──彼女の記憶喪失は、彼女自身も自覚のないもの、もしくは第三者が行ったものだと思われる」
「……響が、わたしの事を恨んだからじゃ……」
気落ちした彼女の言葉を否定したのは、奏だった。
「それは違うよ」
「奏さん……」
「何度も追い掛けて、それでも無視されて、拒絶されて、逃げられているけど……アイツは優しい」
優しすぎて壊れてしまった。
「それでも、お前みたいにここまで想ってくれてる相手を……恨む事はできない」
「奏さん……」
「昔と比べてツンツンしているらしいが……根っこの部分は変わらないと思うぜ?」
そう、かつて光彦と共に居た時の自分を思い出して彼女はそう断言した。
復讐の炎で身を焦がしながら、光彦の温かい光に触れて──自分の本質を思い出して、まだ擦り切っていなかった事を知った。
そんな自分と立花響は似ていると奏は思った。
だからこそ助けたい。謝りたい。そして、ちゃんと話し合いたい。
さらにできるならば、目の前の少女との思い出を思い出して欲しい。
それが償いになるかは分からないが──光彦ならそうするだろうな、と奏はそう思った。
確信を持って答える奏に、未来は不安そうにしながらも……確かに頷いた。
心に翳りはあるが──それでも尚、諦めるつもりはなかった。
◆
そして。
響もまた、己の記憶の欠如に違和感を覚えていた。
家に帰り、荒々しく端末を操作し──通信越しの協力者へと怒鳴りつけた。
「わたしの記憶を、どうした!?!?」
『荒れているね、随分と。そんなに怖かったのかい、思い出の喪失に』
その言葉で理解した。
協力者は見ていた。先ほどの光景を。
そして知っている。響の記憶の喪失を。
「お前……!」
『そういきり立つなよ、レディが。しかし了承した筈だよ、君自身が』
「──なに……!?」
『やれやれ……遺憾だよ、全く。望んだ事なのに、君が』
協力者は煩わしそうに言う。
しかしそれと同時に嗤っていた。
まるで、予定通りと言わんばかりに。
こうなると言わんばかりに。
己よりも劣っているものを見下すように。
『持っているからね、運良く。少しだけ見せてあげよう』
その言葉の次に、妙な音が端末越しに響に伝わり──彼女は頭を抑えて、絶叫した。
「あ、あああああああああ!?!?」
「ブイ!?」
『後悔するだろうね、人間は』
響の脳内に存在しない記憶が流れ込む。
復讐の為に最も邪魔な感情を、彼女が外道に落ちるのを止める陽だまりを消した時の記憶。
怒りを無限に燃やし続け、幾千年と続く妄執を殺す為の第一歩を踏み出した時の原点。
それが頭に流れ込み、記憶の中で大切な人が──死ぬ。
ドサリと響が倒れ伏し、コマチが駆け寄り呼び掛け続ける。
「ブイブイ! ブーイ!」
『目覚めたら忘れてるよ、今の事は。しかしこれで分かった筈だ、最後の一線を超えたのは自分自身だと』
止まる事がないように頼むよ、復讐の道を。
その言葉を最後に通信が切れ、残されたのは呻き声を上げる響と傍から離れないコマチのみ。
響は結局己の記憶を取り戻す事なく──。
一ヶ月が立ち、彼女はついに掴んだ──復讐への手掛かりを。
「デスデスデース!!」
「キリちゃん……落ち着いて」
しかし、二人の少女の前で倒れ伏していた。
「ブーイ!!」
唯一手を繋ぐ事ができる日陰を奪われて。