【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第三話「拳と弾丸、運命穿てず」

 響の記憶喪失が発覚して一ヶ月が経った。

 その間、響は何度もツヴァイウィングと衝突し……小日向未来と会ってくれと懇願され、それを拒絶していた。

 

 記憶を消したのは自分だという自覚は、協力者の手によって再び忘れさせられたが──心が覚えていた。

 だから、聞いた事のない筈の名前を聞く度に頭が痛くなり、胸が締め付けられ、彼女はより一層逃げ続ける。

 それこそが、協力者が望んでいる展開だという事に気づかずに。

 

 そんな彼女をコマチが心配そうに見つめ、頭を悩ませていた。

 

 

 第三話「拳と弾丸、運命穿てず」

 

 

 響ちゃん最近テンション低いんだよな〜。

 いや、仕方のない事なんだけど、心配なんだよな〜。

 だからなるべく傍に居て癒そうとモフモフさせてあげたんだけど……。

 

「……それで?」

 

 擽ったくて鬱陶しいから外出てろって追い出されました! 

 酷くないかな! この俺のモフモフを鬱陶しいだよ? こんなにラブリーなのに! 

 もう二課の人たちに攫われたらどうするんだよ! って叫んだらその時は絶対助けるだって! 男前かよ! 惚れるわ! 

 

「そう……」

 

 なんだか、銀髪の女の子も元気がない。

 いつものように公園で弁当を貰っているんだけど、心無しか表情が暗い。でも弁当は相変わらず美味しい! 

 

 それでどうしたの? 俺の愚痴も聞いてくれたから、悩みがあるなら聞くけど? 

 

「……っ」

 

 しかし女の子は何かを言おうとして口を閉じ、そっと俺から目を逸らす。

 んー……どうやら人に……獣に話し辛い事らしい。

 まぁそれなら無理に聞かないよ。その代わり存分にモフモフして癒されて? 

 

「っ……ごめん、なさい……」

 

 謝らなくても良いよ。友達だしね! 

 

「──とも、だち……?」

 

 あれ? もしかしてそう思っていたの俺だけだった? 

 え、待って。それは恥ずかしいんだけど。

 それと同時にショック。俺、友達って思われてなかったんだ……。

 

「あ、いや、そうじゃなくて!」

 

 そうじゃなくて……なに? 

 

「こんなわたしが友達で良いのかなって」

 

 え? 良いに決まってんじゃん(即答)。

 弁当食べさせてくれて、モフモフして、撫でてくれて。

 これで他人とか言われたら泣いちゃうぞ! 響ちゃんがドン引きするくらいに暴れ回るぞ!? 

 

「そっか……」

 

 フフッと俺の言葉を聞いた女の子は嬉しそうに笑った。え? 見たいの俺の毛玉ブレイクダンス? 

 それは得意な感性をお持ちなようで……。

 しかしすぐに暗い顔をした。本当にどうしたんだろう。

 

「──クリス」

 

 え? 

 

「雪音クリス……それがわたしの名前……友達には教えないと、ね」

 

 ふお……ふおおおおおお! 

 ようやく名前を教えて貰った! 頑なに教えてくれなかったから、名前教えて貰うの半ば意地になっていたんだよね! 

 クリス……クリスか……。

 良い名前だ! もう覚えたから忘れろって言われても、もう無理だから! 

 

「うん……それでね、コマチ。わたしと一緒に来てくれない?」

 

 お、早速お家のお呼ばりか! 

 なんか友達同士っぽい! 何気に俺友達の家に行った事なかったんだよね! 響ちゃんは家主で一緒に住んでるし! 街の人も友達というより頭の良いペット扱いだし! ホームレスは家ねえし! 

 

「……っ。うん、それで、どう?」

 

 もちろん行く! ──と言いたいけど、もう帰らないといけない。

 

「あ、時間……」

 

 そうそう。門限過ぎると響ちゃん夕食のおかず減らしちゃうからね。

 それは勘弁! 

 だから今日の所は帰るね! 

 

「……うん」

 

 でも! 

 

「……?」

 

 今日の夜、なんか流星群が見られるらしいんだ! 

 それで気晴らしに響ちゃんと見に行くんだけど……クリスちゃんはどう? 

 

「わたし……?」

 

 うん! 絶対綺麗だと思うし、友達なら一緒に見たいなって! 

 それに響ちゃんと仲良くなれたら嬉しいなって思っている。

 二人とも良い子だからすぐに仲良くなれるよ! 

 ……それに、響ちゃんの気が晴れたら良いなって思っているし。

 

「──分かった。今日の夜、行くね」

 

 ありがとう! じゃあ、俺帰るね! 

 また夜に! 

 

「うん、また夜に──ごめんなさい」

 

 テンション上げて駆け出していた俺の耳には──クリスちゃんの最後の言葉が聞こえていなかった。

 そして気づいてもいなかった──彼女が辛そうにしていた事を。

 

 

 

 

 

「そんな気分じゃ無いんだけど……」

 

 まぁまぁ、そう言わずに。

 夕食を食べ終えた俺たちは流星群がよく見れる絶景スポットである公園にやって来た。

 響ちゃんは気乗りしないって言ってるけど、きっちりおにぎりを作って持って来ているから何だかんだと楽しみにしてくれている。

 クリスちゃんも来ているだろうし、楽しみだー。

 

「……そのクリスって子、わたし、仲良くできる気がしない」

 

 しかしここで響ちゃんが驚きの発言をした。

 なんでー!? 二人とも良い子だし、俺とも仲が良いから絶対に友達になれると思ったんだけど!? 

 

「……だからこそ、だよ」

 

 んー? だとしても俺は友達になって欲しいなー。

 そしてこの世界には辛いことだけじゃ無いって事を二人に知って欲しい。悩んで苦しんでいるしね、二人とも。

 

「……お人好し」

 

 響ちゃんと同じようにね! 

 

「はいはい」

 

 呆れた、しかし何処か嬉しそうな声で返事をする響ちゃん。

 ふっふーん。俺は肩の上で響ちゃんにモフッと体を寄せる。

 それを彼女は拒絶しなかった。

 

 さて、公園に着いたけど……クリスちゃんはまだ来ていないな。

 キョロキョロと見渡して探すも見当たらず。

 あの銀髪ならすぐに分か──あっ。

 

「どうしたの?」

 

 ……時間伝えていなかった。

 

「ちょっとっ」

 

 いや、興奮しちゃって! 

 あー、どうしよう。クリスちゃん間に合ってくれるかなー? 

 

「……はぁ。せいぜい祈っておきなさい」

 

 うん、そうする。

 

 

 ◆

 

 

「目標を確認──作戦を開始する」

『了解デース!』

「……ごめんね、コマチ」

 

 

 ◆

 

 

 まだかなークリスちゃんまだかなー。

 まだかなー流星群まだかなー。

 

「……流星群が先に来たら一緒に見れないんじゃ?」

 

 そうだった! うお〜〜〜流星群は待て〜来るな〜。

 来るとしてもこっちの都合が良い時間に来い〜! 

 

「無茶苦茶言う……」

 

 しかし来ないなクリスちゃん。

 こうなったらこっちから探しに行くか? 

 

「行き違いになるかもしれないから止め──」

 

 突然響ちゃんが勢いよく立ち上がった。

 どうしたの? と問いかける前に気付いた。

 

 ノイズだ。

 しかも俺たちを囲んでいる? 

 響ちゃんはすぐさま胸の歌を歌い、変身する。

 でも、俺は気が気じゃなかった。此処にはクリスちゃんが来る予定。でも全然来なくて、ノイズが現れたって事はもしかしたら──。

 

「その事は今は後! 今はこいつらを倒す!」

 

 俺を叱咤した響ちゃんは紫電を纏ってノイズに向かって突っ込んだ。

 確かにそうだ。被害が広がる……いや、出る前に殲滅しないと! 

 

 ──しかし、そんな俺たちの出鼻を挫くように、視界の外から茨のムチがバチンと響ちゃんの進行方向先の地面を打った。

 

「貴方達の相手は、あたしですよ!」

 

 そして自分の存在を誇示するように現れたのは白金の鎧を着た、()()()()()()少女。バイザー越しにこちらを見据え、軽快な口調とは裏腹に敵意がビシビシと伝わってくる。

 

「……なに、アンタ」

「──フィーネと言えば伝わるデスか?」

「──」

「でも今回用があるのは、そこのモフモフです! 二課が来る前に仕事を終わらせて貰うデスよ!」

 

 

 ◆

 

 

「間違いありません──ネフシュタンです!」

「それにこれは、この反応は……!」

「──装者を急行させろ! オレも出る!」

 

 

 ◆

 

 

「……フィーネと言ったか」

「デス?」

「──わたしの前で、その名前を口にしたな!」

 

 響が、怒りに囚われる。

 拳を強く握りしめて、鎧の少女に殴りかかった。

 

「うおおおおおお!!」

「アナタの動きは既にインプット済みデス!」

 

 しかし、ネフシュタンの鞭が震われ響の拳が弾かれ、さらにもう一方の鞭が彼女の腹部を叩き込んだ。

 カフッと無理やり肺の中の空気を吐き出し、痛みに顔を歪める。

 

「ブイ!」

 

 響を助けるべく、コマチが駆け出す。

 それを見た鎧の少女が牽制の為に鞭を振るい──後方から放たれた弾丸を弾き、鞭の軌道を変えた。

 

「!? 何をしているデスか!? 狙う相手が違うデスよ! ……え? 傷付けるな? 別にそのつもりは……分かったデスよ、もう!」

 

 鎧の少女が通信で誰かと話した後、一つの杖を出し──ノイズを呼び出した。

 それを見た響とコマチは驚愕する。

 人が、ノイズを操ったのだ。

 

「ちょっと大人しくしているデス!」

「ブ──ーイ!?」

 

 ノイズがコマチに群がり拘束する。

 それを見た響が救い出そうと足を踏み締めた瞬間。

 

「──っ」

 

 森の奥から放たれた弾丸によって牽制され、動きを止めた瞬間ネフシュタンの強襲。

 腕で鞭を受け止めるが、ギチギチとイヤな音を出して徐々に押されて膝を突く。

 

「ネフシュタンは完全聖遺物! 欠片っ子のシンフォギアに負けらいでか!」

「ガッ!?」

 

 蹴りを一発貰い、吹き飛ばされる響。

 

「ブイ!」

 

 悲鳴を上げるコマチ。

 その声を聞いて、響はカッと目を見開いて紫電を纏わせる。

 このままでは、唯一の日陰が連れ去られてしまう。

 

 また、独りになる。

 

 それだけは──絶対にイヤだった。

 

「──うおおおおおおおおお!!」

「っ、フィーネが言っていた力……!」

 

 鎧の少女は前情報を思い出し、迎撃をするべく鞭の先にエネルギーを生成。

 それと同時に響が鎧の少女に向かって愚直に突き進み──。

 

──NIRVANA GEDON

 

 幾つかの小さな衝撃の後、ネフシュタンから放たれたエネルギーに飲み込まれて──爆発した。

 

「カハ……!」

 

 シンフォギアを纏っていたおかげか、響は気絶はしなかった。

 しかしダメージが深く、倒れ伏して立ち上がる事ができなかった。

 

「ブイ!?」

 

 それを見たコマチが何とかノイズの拘束から抜け出し、響に駆け寄ろうとし──背後から誰かに抱えられる。

 いったい誰が、と振り返り──コマチは言葉を失った。

 そこに居たのは、響や翼、奏同様シンフォギアを纏った雪音クリスだった。

 クリスは悲しそうな顔をしながら、コマチを抱いて動けないようにしていた。

 

「デスデスデース!!」

「キリちゃん……落ち着いて」

 

 高笑いをする少女を、クリスが咎める。

 鎧の少女はしかし、止まらない。

 

「イエ、思っていたよりも仕事が早く終わって驚いているのデス!」

「……そう。だったら早く離脱するよ。じゃないと──」

 

 

「じゃないとなんだ? 言ってみろ」

 

 

「ッ!?」

「クリス!!」

 

 目的を果たし離脱を試みる彼女達の元に、一人の装者が強襲を仕掛けた。

 空から無数の剣を降らせ、己は変形させた剣に乗り接近を試みる。

 

 アメノハバキリの装者、風鳴翼。

 

 鎧の少女は鞭を振るって剣を全部叩き落とし、翼の突撃をその身で受けて、拳で殴り飛ばした。

 直前で剣で防いだ翼だったが、相手は完全聖遺物。衝撃を抑えきれなかった。

 

「翼!」

「大丈夫だ! それより……」

「ああ。あの鎧はやっぱり……!」

 

 ツヴァイウィングの表情が険しくなる。

 しかしそれも無理はない。目の前にあるのは、

 自分たちの至らなさで失ったもの。そして思い出すのは──救うことのできなかった命。

 

「厄介ですねー。ターゲットを抱えたまま玄人の相手は辛いデス」

「……」

 

 装者としてのレベルを考慮し、鎧の少女は状況の悪さに舌を巻く。クリスも無言で頷き、状況の打破を考え。

 

「──せ」

 

 地獄の底から出したと錯覚するほどの声が響いた。

 

「わたしの……日陰を……返せ……!」

 

 その声の主──響は口の端から血を流し、目を鋭くさせながら……。

 

「返せえええええええ!!!」

 

 闇に、呑まれた。

 

「──暴走!?」

「ピンチですが──同時にチャンスデス!」

 

 黒く染まり、獣に成り果てた響がクリスに突進するが、それを鎧の少女が鞭で絡め取り、そのままツヴァイウィングに投げ飛ばした。

 いきなりの事に三人は激突し、すぐ近くの二人を邪魔者と判断した響は、二人に向かって拳を振るう。

 

「ちょ、待て!」

「オレたちを攻撃してどうする! 狙いはあっちだろ!」

 

 しかし二人の言葉は聞き取って貰う事ができず、彼女たちは響の相手を余儀無くされる。

 その隙にクリスと少女は離脱を始める。

 ツヴァイウィングが追おうとして、響の咆哮が聞こえ──このまま彼女を放って置いた時の被害を考慮し、追跡を断念した。

 

「あたしが止める! 翼、時間稼ぎを!」

「仕方がないな! どれくらい持てば良い?」

「5分集中させてくれ!」

「3分!」

「──ああ、分かった」

 

 剣に乗り、翼はヒットアンドアウェイを繰り返して響の注意を引く。

 その間に奏は手に持った槍を空に向けて目を閉じ──意識を胸の奥に沈める。

 

(──光彦、アイツを救いたいんだ……力を貸してくれ)

 

 バチリッと奏の身に黄色い電気が走る。

 それは時間が経つと共に激しくなり、彼女の身にビリビリとした痛みが走る。

 感覚が麻痺して、倒れてしまいそうだったが──奏は耐え切った。

 槍に電気が集まり、奏は目を見開いて叫ぶ。

 

「避けろ! つばさああああああ!!」

「──おう! 延長して待った甲斐がある!」

 

 響の拳を受けて体の所々に傷を負った翼が、全力でその場を離脱した。

 それを見た響が翼を追おうとして、気付く。

 空にできた大きな暗雲に。そして時折顔を覗かせる雷光。

 

「これでちったぁ頭冷やせ!」

 

──THUNDER VOLT♾NOVA

 

 万の雷が広範囲に渡って降り注ぐ。

 回避しようとする響だが、動きが短調なのと範囲の広さによって被弾。そこからは次々と雷が直撃し──収まった頃には、響は元の姿に戻っていた。

 それを見た奏は急いで駆け寄った。手加減したとはいえ奥の手。怪我がないとも言い切れない。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 奏の言葉に、響は──。

 

「大丈夫な訳──無いだろ!!」

 

 涙を流して奏に掴みかかり叫んだ。

 

「わたしの……わたしの日陰が奪われたんだ!!」

「っ……」

「アイツが……アイツだけがわたしを助けてくれた! それなのに! それなのに!!」

「お、落ち着け! お前がそんな調子じゃ──」

「──わたしは、もう嫌なんだ! 置いていかないで……傍に……居て……よ……」

「あ、おい!!」

 

 体力の限界だったのか、そこで響は意識を落とした。

 奏が咄嗟に支えるが──酷く震えている奏の雷による痺れではなく、まるで吹雪のなか凍えるように体を小さくさせて震えていた。

 

「……コイツに、オレ達と同じ想いをさせちまったな」

「……ああ」

 

 焼き焦げた戦場のなか、二人はやるせ無い表情で佇み。

 弦十郎たちが駆け付けるまで、静かに響を見守っていた。

 

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