【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第七話「日陰と太陽、そして陽だまり」

 デュランダル移送作戦は、デュランダルの喪失という形で失敗に終わった。

 その責を問われかけた風鳴弦十郎だったが、鎌倉の介入でそれも無くなり落ち着いた。

 実際は、鎌倉に貸しが出来てしまい素直に喜べないらしいが。

 そんな中、本部にて奏が弦十郎に詰め寄っていた。

 

「旦那、教えてくれ! 響が言っていた事は本当なのか!?」

 

 彼女は、響の言っていた事を信じたくなかった。

 しかし、あの目が、あの行動が、彼女の言葉を嘘だと切って捨てる事が出来ないでいた。

 詰め寄られていた弦十郎は目を閉じ黙っていたが──何も言わない事は不誠実だと判断したのだろう。

 彼が口にしたのは──残酷な現実。

 

「響くんの言う通り──あのライブの後、光彦くんは日本政府に引き渡される可能性が……いや、そうなっていただろう」

「なんでそんな話が……」

「鎌倉の爺が、また何か言っていたんだろう? それしかねえだろ……!」

 

 吐き捨てるような翼の言葉。彼女の私怨が混じったものだが、ほぼほぼその通りだった。

 しかし、何故光彦の有用性を知っている鎌倉、そして日本政府が……? と疑問に思う奏。

 そのおかげで彼は奏たちの側に居られた。

 

「ネフシュタンの鎧。あれを使えれば、光彦を分析して生態兵器を造った方が良いと考えたそうよ」

「──は?」

 

 了子の言葉に、奏の口から声が漏れる。

 それは──激しい怒りだった。

 

「なんで──なんでなんだよ! アイツは、自分の境遇に文句言わず頑張っていたじゃないか! それをなんで!」

「──有能過ぎたからだ」

 

 怒りを受け止めながら、弦十郎は重く、答えた。

 

「あれを大量生産出来れば国防は安泰──そう、考えたのさ」

「──んだよ、それ!」

 

 納得できず、怒りを口から吐き出すが収まらない。

 そしてこんな事を考えてしまう。

 こんな事を考える国のために、アイツは……命を賭けたのか? と。

 

「……この事を話さなかったのは、オレと奏が落ち込んでいたからだよな」

「ああ、それもあるが──それ以上にこんな事、知って欲しくないと思った。何せ──」

 

 大事な仲間の尊厳を貶めるような事だからな。

 その言葉がその場に居た全員の胸に重くのしかかり──やるせない感情が包み込んだ。

 

 

 第七話「日陰と太陽、そして陽だまり」

 

 

 無事に己の大切な日陰を取り戻した響。

 しかし、彼女の家族の様子が何処か可笑しかった。

 昨夜、一緒に寝ようとした所、いつもなら女の子に慣れていない男子のように若干照れたように躊躇してからベッドに入るのだが、今回は特に恥ずかしがる事なくベッドに入り自分の寝やすい場所を探して丸くなって寝た。

 大変愛らしいのだが──まるで犬猫のようで違和感があった。

 いや、ペットみたいなものなのだが。何なら今までの方が人間臭くて可笑しいまである。

 

 次に食事。いつものように出した所なかなか口に付けず、クンクンと匂いを嗅いで戸惑っていた。

 しかし意を決して食べると目を輝かしてガツガツと食べ始めた。

 久しぶりだったから、混乱したのかな? 

 そう思って自分が考え過ぎだと思い直し──食後の光景を見てやはり可笑しいと認識し直す。

 

 イーブイ用に盛られたご飯が残っていた。

 食べてはいる。食べてはいるが──摂取量が少なかった。

 イーブイの体を考えれば妥当な量だが、今までならペロリと平らげていたはず。

 それなのに何故。

 

「ちょっと、大丈夫なの?」

「ケップ……ブイ?」

 

 見た所不調な様子は見えない。

 満腹になってお腹がポッコリと膨らみ、少しだけ苦しそうだが。どうやら残すまいと頑張ったようだ。

 その相変わらずな所に、響は思わず苦笑し優しく撫でる。

 

「体調が悪いなら、そう言いなよ」

「ブーイ♪」

 

 擽ったいのか、体をモソモソと動かして鳴き声を出すイーブイ。

 キャッキャっと楽しそうな姿を見て響の頬が綻び──気付いた。

 

 彼の言葉を理解出来ない。

 普段なら何となくイーブイの鳴き声を聞くと、何を言っているのかが分かっていた。しかし今はそれが全く分からない。

 お互い不調はない。

 何故? 向こうに居た時に何かされたのか? それが一番可能性が高いが──響はふと気付いた。

 

「そういえば、あの時……」

 

 響が思い出すのはデュランダルを握った時の事。

 自分から大切なものを奪った相手が憎くて、それがさらに増大し、全てを壊そうとした。

 そしてその感覚はあの時が初めてではなく、身に覚えがあるものだった。

 目の前の小さな存在に救われたあの日。自分を化け物だと罵ったクラスメイトを壊そうと闇に堕ちた時の感覚。

 それが、あの日に再び蘇った。

 そして、響はあの日に一時イーブイの言葉が分からなくなっていた。

 

「もしかして、わたしがまた暴走したから……」

 

 心の何処かでまた拒絶してしまっているのか? 

 そう考え、そんな筈は無いと否定したくて、しかし手を差し伸ばしてくれた奏や翼を現に払い退けて此処に居るわけで。

 そして何より、何処までも自分を信じてくれたあの子を、響は──。

 

「ブイ!」

「っ──」

 

 思考のドツボにハマりかけていた響の頬を、ペロリとイーブイが舐める。

 いきなりの事に目をシロクロさせる響に、イーブイは真っ直ぐ彼女の目を見て鳴き声を出しながら首を傾げる。

 元気でた? と言わんばかりに。

 

「──……ふ」

 

 響はイーブイの頭をガシガシと少しだけ強く撫で付ける。するとイーブイは楽しそうな声をあげてされるがまま。

 やっぱり勘違いだった。この子は変わっていない。

 心地のいい日陰。

 

「気分転換に外出る?」

「ブイ!」

 

 やっぱり言葉は分からなかったけど、嬉しそうにしているのは分かった響であった。

 

 

 ◆

 

 

 食材を買う時以外ではおそらく初めてであろう外出。

 イーブイを肩に乗せ、パーカーを被せて隠そうとし、そういえばこの街の人と顔馴染みだと言っていた事を思い出してやめた。

 それに、パーカーを被せなければ街をよく見れると思ったからだ。

 しばらく歩いていると、小さな子ども達が響たちに駆け寄ってきた。

 

「あ!! ブイちゃん発見!」

「おい毛皮! 最近見なくて怪我したのか心配したぞ!」

 

 正確にはイーブイに、だが。

 しかしイーブイは子ども特有の元気があまりある勢いに怖気付いたのか、響の背中に隠れてしまった。

 その様子を見て首を傾げる子ども達。

 

「どーしたのブイちゃん?」

「お腹いたいのか? 母ちゃんのクッキーやるぞ?」

 

 心配そうに見る彼女達に、響は慣れないながらも助け舟を出す。

 

「コイツ……今日はちょっと調子悪いんだ。また今度遊んでくれる?」

「そっか……うん! 分かった!」

「ちょーしわるいんならしゃーねーな! 元気になったら遊んでやるよ!」

 

 ばいばーいっと大きく手を振って走り去っていく子ども達。

 それを見送って響はイーブイに言った。

 

「……人気者」

「ブイ?」

 

 その後も次々とイーブイを見掛けた人達が一声掛けていく。

 そしてその度にイーブイが引っ込み、響が説明する流れが出来ていた。さらに響の手にはイーブイ宛のお見舞いの品々があり、彼がどれだけ好かれているのかを知り……響は嬉しく思いつつも少しだけ妬いた。

 

「知ってる? アンタみたいなの八方美人って言うらしいよ?」

「ブ、ブーイ?」

 

 人差し指で頬をグリグリとしてやれば、戸惑いの声を上げる。それが面白くて響はちょっと笑ってしまった。

 

 しかし、普段とは違い遠巻きに見ている者が居た。

 

 一人は男のホームレス。

 なんだかんだと交流が続いていたのだが、最近はバイトで忙しく顔を合わせていなかった。そして今日偶然この街に来てイーブイを見つけたのだが……。

 

「……」

 

 彼は、イーブイを肩に乗せている響を見て逃げるようにその場を走り去ってしまった。

 その事に気付ける者は──今は居なかった。

 

 そしてもう一人、遠巻きに見ているのは──弁当箱を持ったクリス。

 彼女もまた、一人と一匹を見て表情を暗くさせていた。

 響達の前に出る事は──出来る筈もなく、見つかる前に帰る事にした。

 しかし最後にチラリとイーブイを見て──涙を流しながら立ち去った。

 

「お、おも……」

「ブ、ブーイ?」

 

 響の予想以上にイーブイが好かれていて、彼女の手には山のように積まれた商店街からの見舞品がグラグラと揺れていた。

 肩から降りて眺めているイーブイは、凄いなぁと感心した声を出す。

 

「アンタ、好感度稼ぎ過ぎ……!」

 

 このまま散歩するのは無理そうだな、と思い家に帰ろうかと考え始めた響に、救いの声を出す者がいた。

 

「半分持ちましょうか、お嬢さん」

「……いや、だいじょう──」

 

 申し出を断ろうとした響の言葉が途中で止まる。

 その隙にヒョイっと荷物の半分を取られ、響の隣に並び立った少女──未来は言った。

 

「ねえ、お腹空いていない? 良いお店知っているんだ」

 

 未来の問いかけに応えたのは──きゅうーっと鳴ったお腹の虫だった。

 

 

 

「おやおや、何だか珍しい組み合わせだねえ」

「おばちゃん、コマチの事知っているの?」

「コマチ……なるほど、覚えたよ。今日はよく食べる子も居るからじゃんじゃん焼くとしますか!」

 

 張り切ってお好み焼きを焼き始めるフラワーのおばちゃん。

 その様子に未来は苦笑し、視線を隣のイーブイへと向ける。

 

「そっか。君が響の隣に居たんだね」

「……? 知っている?」

 

 響の疑問にうんと答える未来。

 以前公園でグッスリと寝ていた所を起こした事があると伝え、毛並みがフワフワだったと伝える。

 それを聞いた響は無防備な事にため息を吐きコツンと拳を付けた。

 イーブイはよく分かっておらず、首を傾げて、とりあえず響の腕に頭を擦り付けた。

 その様子を見ていた未来が思わず零した。

 

「なんだか……響と似ているね」

「え? コイツと私が?」

 

 その言葉にショックを受ける響。

 自分はこんな風に……能天気に見えるのかと落ち込んだ。

 それに未来が慌てて、思った事を正しく伝える事にした。

 

「正確には、昔の響に、ね」

「昔の私?」

「うん。私のお日様で、温かくて優しくて、でも無理してるのを見てハラハラさせられる……」

「……」

 

 しかし、その時の彼女は──もう居ない。

 

「実はね──私、二課の人達に頼まれて響を説得してた時、別に二課に行かなくても良いと思ってた」

「……え? それってどういう──」

「──だって、響がまた傷付くと思うと怖くて」

 

 卑怯だよね、と未来は自傷気味に言う。

 

「私はあの時、響が二課に行ったらまた戦う。だからそれならって……でもどっちみち響は無茶するからって思ったら」

 

 己の罪を告白するかのような物言いに、響は──。

 

「私があの時二課に協力したのは、キミが居たからだよ」

「え?」

「あの人達は……もっと言うとその後ろの人達は信用できなかった。でも、君なら、君の言葉なら──信じて良いと思った」

「──」

「だから、結局こうやって二課から逃げて、君を裏切っているようで心苦しくて──」

「ううん、良いよ。私は、さっきの言葉で救われたから」

「……」

 

 ふんわりと笑顔を浮かべた彼女に、響は温かさと共に痛みを感じていた。

 ここまで自分の事を想ってくれている彼女を忘れてしまっている。

 その自責が響を襲い──。

 

「はいお待ち! 名付けてコマチスペシャル!」

「ブーーーイ!?」

 

 しかしそれを遮るように、耳に響く鳴き声とジュワア……と熱い音が響いた。

 そちらを見ると、イーブイの前にイーブイよりも大きいお好み焼きが置かれていた。その存在感にイーブイは体をガクブルさせていた。

 ちなみに未来と響の前には通常サイズが。

 

「この前来た時はたっっっっくさん食べたからね! 今日も遠慮しなくて良いよ!」

「ブ……ブブイ……ブブブブイ」

「……うん? どうしたんだい?」

 

 ようやく様子が可笑しい事に気が付いたのか、フラワーのおばちゃんが首を傾げる。

 それに響は深くため息を吐き、未来はよく分からず頭上にハテナが飛び交っていた。

 響がイーブイの不調を伝えると、おばちゃんはあちゃーと頭を抱えた。

 

「ごめんねえ。確認を怠ったばかりに。残して良いからね? 食べられる分だけ食べな」

「ブ……ブイ」

 

 響は分かっていた。そう言われてもイーブイは無理に食べようとする。そして食べ切れず凄く申し訳なさそうにする、と。朝もそうだったからだ。

 だから響は仕方が無いと言わんばかりに溜め息を吐き、イーブイを一度持ち上げ自分と席を入れ替える。すると自然と目の前のお好み焼きのサイズも変わる。

 

「ブ、ブイ?」

「そのサイズなら食べられるでしょ? 私はこっちを貰うから」

「で、でも大丈夫なのかい? 作った私が言うのもなんだけど馬鹿げた量で──」

「──別に大丈夫」

 

 ──だって。

 

「私は、コイツの5倍は食べる」

 

 そう言って響がコマチスペシャルに挑戦し──その横顔を、先程よりも近くなった距離で未来は微笑みながら見ていた。

 

 

 

 

「また来るんだよ! 特に響ちゃん! もっと食べに来な」

「気が向いたら……」

「ブイ!」

「ではおばさん、失礼します」

 

 食事を終えて店を出た二人と一匹。

 帰路はそれぞれ逆方向だ。

 店の前で響と未来が見つめ合う。

 

「……また、会えるよね?」

「……」

 

 その問いかけに、響は一度目を閉じ──フラワーを見て一言。

 

「全部終わったら──またここに食べに来る」

 

 その時隣に座られても──別に良いから。

 それだけを伝えると響は荷物を持ってイーブイと共に歩き出す。

 未来はその背中に。

 

「うん、分かった!」

 

 陽だまりのような笑顔を浮かべて、まるで約束だと言わんばかりに叫んだ。

 それを聞いて響は少しだけ笑い──頷く。

 

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