【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
「なんだこいつ? ネズミ……か?」
むんずと首根っこを掴んで俺を見るハレンチなお人(柔らかめ)
その目は未知の生物を見るものであり、明らかに俺……というよりポケモンを知らないご様子。
マ、マジかぁ……!
ポケモンを認知していない世界。
可能性の一つとしては考えていたが、まさかのハードな世界。
ポケモンを認知していないという事は、ハッキリ言って俺はUMAと同類である。つまり実験動物行き。死。
「ピカチュウ、チャア!」
(ぼくかわいいポケモンだよ! かわいいよ!)
死にたくないのでこの全米を虜にしたピカチュウボディに賭ける事にした。
女の子は可愛いのが好き……! ピカチュウの甘い声にメロメロな筈だ……!
「うわ、あざとっ」
「──」
きゅうしょに当たった! 効果は抜群だ!
くそ……! くそ!
目の前の少女の言葉に俺は深く傷付いた。
いや俺だってあざといと思うけど直球で言われると傷付く。
顔がしわくちゃになるのを実感していると、突如俺を掴んでいた少女が表情を険しくさせると手に持っていた槍を薙いだ。
すると、煤が撒き散らされた。
……あれ? この煤ってもしかしてさっきのウルトラビースト……。
「ちっ。まだ残ってやがったかノイズ共……!」
ノイズ。
それがこのウルトラビーストの名前らしい。
それにしてもノイズって……!
ポケモン作品で付けるような名前ではないのでは……?
いやでもスガドーンとかツンデツンデとかウルトラビースト勢の事を考えると妥当なのか……?
それにしてもこの少女、ウルトラビースト……いや、ノイズか? 偉く恨んでいるな……。親の仇を見つけたって感じだ。
てか、普通に倒しちゃったね。
この世界はそういう世界なのか? ポケモン(もしくはウルトラビースト)と人間が共存ではなく敵対している世界。
いや、それにしては俺の事知らないみたいだし。
情報が足りないな……。
「Imyuteus amenohabakiri tron」
その時、上空から新たな歌が聞こえた。それもこれまた聞いた事ある声だ。
人だ。この少女と同じようにまた降って来た。流行ってんのか?
降って来た少女は、その手に持った
それを俺を掴んでいる少女は苦虫をしたような顔で見つめ、ため息を吐きながら呟いた。
「翼、この程度ならあたし一人で十分だって言っただろ?」
「悪い悪い。オレも初めは姐さんに任せようと思ったんだが……」
そこまで言って青髪の少女はこちらに近づき、俺に視線を向けて手を伸ばし……ン?
「ヂュウ!?」
(イテテテテ!?)
「このちんちくりんを抱えたままだと、もしものことがあるからなー」
こ、こいつ俺の頬を引っ張りやがった。「おー、伸びる伸びる」なんて言ってるけど、電気漏れないように踏ん張っているんだが!?
てか、ピカチュウのことをちんちくりんだと!? 可愛いだろうが! 可愛いだろうが!
「まっ、妹分の可愛いお節介だと思ってくれよ」
「自分で言うのかよ……」
パッと手を放されようやく解放される俺。面白がってみょんみょんされたせいかヒリヒリする。この世界ポケモンに対して厳しくないですかね?
この世の残酷さを嘆いていると着信音らしきものが二人から響く。
それを聞いた二人はそれぞれ虚空を見ながら耳を傾けた。
「ああ……ああ、そうだな……なに? こいつが?」
誰かと話していたモサ赤髪少女が、俺を怪訝そうに見つめる。青髪の少女も心無しかこちらを見つめているような……。
その後も何かしらのやり取りをした後、モサ赤髪少女はこちらを見て。
「こいつがアンノウンねぇ……ノイズを倒せるようには見えねえが……」
いや、アンノーンじゃなくてピカチュウです。
「そうだな。煮ても焼いても不味そうなのにな」
タベナイデ!
「了子さんに渡して調べてもらうか」
「……解剖されそうだな」
カイボウシナイデ!
「とりあえず戻ろう」
ギャー!
第二話「ピカチュウ の あまえる! このせかい には こうか が ないみたいだ……」
俺が捕獲されて連れて来られたのは地下に作られた秘密基地だった。
途中のエレベーターでは酷い目にあった……地震にあった気分だった……あ、俺今ピカチュウだから効果抜群じゃん……。
しかしそれも些細な事だと言わんばかりの衝撃が目の前にあった。それは……。
「むぅ……これが未知のエネルギーの正体、か……」
熊である。赤い服を着た熊である。
正確には熊みたいにデカく、そしてなんか凄い強そうな男がいた。
やべぇよ。ピカチュウボディじゃあ簡単に握り潰されるよ。この人絶対格闘タイプだよ。サイコキネシスとか「ふん!」って叫んで弾き飛ばすタイプの格闘タイプだよ。
体が人間の時より小さくなったからか、感じる違和感は一際強く感じる。
とりあえず、怖い。素早さが最大まで下げられているに違いない。
「もう、弦十郎くん。そんなにこの子を威圧しないの」
「むぅ……そのつもりはなかったんだがな」
食べられちゃうの……? とガクブルしてるとひょいと後ろから抱えられる。
あ……なんか安心感がある。具体的に言うと青髪オレっ娘には無い安心感。
む、殺気。
「それにしても謎ですね。聖遺物由来の何かでも無いのにノイズを倒すなんて」
「炭素分解せずノイズに触れられるということは、位相差障壁を突破する力はあるようですが」
デスクワークコンビっぽい男女がこちらを摩訶不思議な生物を見る目で見てくる。
よせやい、照れるやろ。
しかし解剖されなくてよかった。
今俺を抱えている女性に俺は色々と調べられたのだが、どうやら現代科学では何も分からないらしい。科学の力ってスゲーとは何だったのか。
まぁでもこれで俺以外にポケモンが居ないのは確定、もし居たとしても見つけていないって事になる。
ノイズ? アレはどうやらウルトラビーストでもポケモンでも無いらしい。
ただ人間のみを襲う厄介な奴らしい。
「上からは何と?」
「現状我々二課が管理する事になった」
「押し付けられたわね」
「まぁ、そうとも言うな……」
こんなラブリーなピカチュウなのに、扱いが酷い。
そう思っているとヒョイっと了子さん(名前覚えた)からまたもや首根っこ掴まれて、目の前に俺を初めに見つけた女の子……天羽奏ちゃんの顔が現れる。
「話を纏めると、ここでこいつを飼うって事か?」
か、飼うって……。
いや、まぁ間違いでは無いけど。
それは実験動物扱いになって解剖されてバラバラにされるくらいなら良いか……。
「んで、ソイツって何なんだ? 犬か? 猫か?」
奏ちゃんに掴まれてぷらんぷらんしている俺を、ツンツンつつくオレっ娘翼ちゃん。
や、やめろ、くすぐったいじゃ無いか!
そんな俺の様子に気付いていないのか、奏ちゃんはうーんと頭を捻って答える。
「見た目はウサギとネズミを合わせたような奴だよな……耳長いし」
「どっちも近くて遠いな……ほら見てくれよこの尻尾。雷みたいな形だ」
あっー! ダメですお客様! 尻尾はダメですお客様!
「こら! 二人とも! そんなに手荒に扱ったらダメよ!」
そう言って了子さんは奏ちゃんから俺を取り返して胸に抱える。
ふむ……ふむ……。
「……ソイツ斬って良いか?」
「翼?」
…………ふっ。
「ぶっころ!」
「翼!?」
な・ぜ・か、怒り出した翼ちゃんを奏ちゃんが後ろから羽交い締めにして止める。
それにより一瞬翼ちゃんが動きを止めるが、背中に当たっているやわーっこい感触に再び暴れ出した。
ふん、胸が弱き者め……。
「それで、そのアンノウンだが……」
「ちょーっと待って弦十郎くん! 流石にこれから一緒に過ごすのに【アンノウン】呼ばわりは酷よ」
「む……」
「名前決めましょう名前。これから長い付き合いになるんでしょうし」
おっ、ニックネームか。良いね。
実は自分の名前思い出していなかったから、助かる。
了子さんはクルリと俺の体を回すと、こちらに目を合わせて──何かを思い出すかのように頷くと……。
「そうね。この子の名前はア──」
「光彦ってのはどうだ! ピカピカ言っているし!」
「おっ! 良いセンスしてるじゃん姐さん!」
「光彦か……うむ、これからよろしくな光彦!」
「安直な気がしますが……奏さんらしいですね」
「へへへ。そうか? ピカ彦と悩んだけどこっちが良いかなって」
「──シア……って、え?」
しかし、了子さんが口を開く前に満場一致で奏ちゃんが考えた「光彦」に賛成した。
というかですね奏さんや。その筆と紙は何処から出したのさ? というか光彦って君本当にバーローなのでは……?
名探偵並の推理を繰り広げていると、了子さんにギュッと力強く抱きしめられた。
「……」
……こわ。
よっぽど名前を決めたかったのか、凄い目をしてらっしゃる。心なしか瞳が金色に光っているような……?
「ピカピー」
気にしないで〜。俺は光彦でも良いからさ〜。
そう思いを込めてピカチュウボディの小さな手で了子さんの頬に触れる。
すると、ハッとした了子さんはこちらを見て、すぐに呆れを含んだ笑みを浮かべる。
──。
……ん? なんだ今の?
「話を戻すぞ。光彦だが、しばらくの間は装者である奏と同じ部屋で過ごしてもらう」
「え、マジかよ旦那」
了子さんの表情を見て何か頭の中に浮かんだような気がしたが、弦十郎……おやっさんでいいか。
おやっさんの言葉で吹き飛んだ。
奏ちゃんに飼われるのか俺……!?
奏ちゃんも初耳なのか驚いているし。
できれば今のところ一番優しい了子さんのところが良いのですが!?
「何かあった際に対応できる人間が側にいたほうが良い。そうなると俺か翼か奏なんだが……」
「あー、旦那はいろいろ忙しいし、翼は生活能力壊滅だしな……」
姐さん!? と翼ちゃんが驚いているが、みんなの反応でだいたい察した。
そして奏ちゃんはと言うと、頭をガシガシ掻いてため息を吐き。
「あたししか居ないならしゃーないな」
「あら、私が面倒を見ても良いんだけど?」
「いや良いよ。了子さんも忙しいだろうし」
「……そうね、それじゃあお願いね」
そう言うと了子さんは奏ちゃんに俺を引き渡した。
おおん。どうやら決定みたいだ。
異論を挙げている者は若干一名居るが、本日をもって俺は奏ちゃんのペットとなった。
◆
そして夜になり、俺は奏ちゃんの部屋に連れてこられた。
女の子の部屋……と言うには少し質素な感じだ。
必要最低限の物しか置いていない。
ただ、飾られている写真立ては大事にされている事は何となく分かった。
……供えられている花が真新しいから。
「さて……」
そして現在俺は、奏ちゃんと真正面から見つめ合っている。
部屋に入って十分経ったのだが、先ほどから奏ちゃんはそわそわしている。外を何かと気にしたり、時間を見たり、「翼はもう来ないよな?」と独り言を言ったかと思えば、俺の前に座りジッとしている。
何をしたいんだ? っと思っていると……。
「〜〜〜あああ! 可愛いなお前〜!」
「ピカ!?」
急に抱きしめて来た!?
え? 何々? 何事!?
「みんなの手前言えなかったけどさ、お前可愛いよ! はあ、癒されるー……」
な、なるほど、つまり猫を被っていたというわけか。
しかし、このピカチュウボディの良さを分かっていたとは、なかなか見る目があるな。
何処かのまな板オレっこ娘とは大違いだ。あいつ、いまだにおもちゃか何かと勘違いしてやがるし。
ふっ、それにしても嬉しい物だ。やはりポケモンはみんなに好かれる。どれ、ここはサービスしてやろう。
「ピカ、チュウ!」
ピカチュウ の あまえる こうげき!
「あ、そういうの良いから」
奏 には こうか が ない ようだ……。
……何でー?
「お前は普段通りにしていた方がいいぞー。なー光彦」
げ、解せねぇ。
プライドを大いに傷付けられた俺は、その後も奏ちゃんに「可愛くあろうとするなー」「普通で良いんだぞー」「あざといだけだからなー」とチクチク攻撃されながら満足するまで抱きしめられたのであった。
いつか写真撮ってばら撒いてやる。