【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
──夢を見ていた。
何千年も前の昔の……愛しき記憶。
『◾️◾️◾️様。◾️◾️◾️◾️様っ』
いつものように慕っている想い人とその友人に向かって、フィーネは駆け寄った。その手には花で造られた冠があり、彼女が誰にそれを贈ろうとしているのか、見て明らかであった。
二人はフィーネに気付き、歩みを止める。
『どうしたんだいフィーネ』
『あ、それって……うわー、綺麗な花冠!』
想い人は不思議そうに首を傾げ、しかしすぐに気付いた彼の友がフィーネを褒める。
褒めて褒めて褒めまくって、その存在価値を上げた所で◾️◾️◾️◾️はひょいっと友人の頭に乗せた。
『はい◾️◾️◾️。うわ、やっぱり似合っている!』
『……そうか?』
『うん! うん! 物凄く! フィーネもそう思うでしょ?』
『え? あ、その……はい』
『……そっか』
嬉しそうに己の頭の上にある花冠に触れる◾️◾️◾️。
それを見て胸が温かくなり締め付けられる感覚を覚えるフィーネ。
◾️◾️◾️◾️はそれをニコニコと楽しそうに見て──。
『不愉快だ』
それを壊す者が現れた。
腕の鋭い一振りが◾️◾️◾️に向かって放たれ、それを咄嗟に◾️◾️◾️がしゃがんで避ける事で、花冠が無惨な姿に切り払われてしまう。
それを見てフィーネが絶句し、◾️◾️◾️は鋭い目で己に茶々を入れた者を睨み付ける。
しかし、彼女──◾️◾️◾️◾️は、気にした様子を見せず、ツカツカと◾️◾️◾️◾️の元へ向かうとそっとその手を取る。
『健在のようだな◾️◾️◾️◾️。どうだ? あちらで綺麗な景色が見れる。共に見ようではないか』
『あっかんべー』
『……ふふ、相変わらず釣れないな』
もっとも、と言葉を続け、しかし目つきを変えて◾️◾️◾️を見る。
『やはり気に入らんな。お前ごときが◾️◾️◾️◾️の主だと』
『仕方がないだろう。皆で決めた事だし、他ならぬ◾️◾️◾️◾️が決めた事だ』
『ふん。ならばもっと自覚を持って──このような物に現を抜かすなど』
そう言って◾️◾️◾️◾️は足元の花冠だったものを強く踏み締めた。
それを見てフィーネは思わず叫んだ。
『お辞めください◾️◾️◾️◾️様! それは──』
『──端末風情が我に意見するのか……?』
『──ひっ』
しかし神の威光にただの人間が抗える筈もなく、フィーネは蛇に睨まれたカエルの如く動けなくなり、◾️◾️◾️◾️の手が怪しく光りそして──。
『それ以上の愚行は許さないぞ◾️◾️◾️◾️』
『ちょっとやり過ぎだと思うよ』
『即刻この場から立ち去れ』
『……ちっ』
舌打ちをして彼女はこの場から立ち去った。
威圧感が消え、フィーネが思わず腰を抜かしたその場にへたり込む。
その様子に二人は笑い、フィーネは恥ずかしくなった。
赤くなった顔を隠すために顔を背けると、それを拗ねたと勘違いした◾️◾️◾️が謝罪する。先ほどの同僚のことも含めて。
『アイツは気に入らないんだ。オレが選ばれた事が』
『適性があったのが君だけだったからね。仕方ないよ』
──今でもその適性の意味は分からない。
あの後二人はその事を口にしなかったからだ。
しかしフィーネは別に良かった。彼らと一緒に居られれば。
そして、統一言語を失いリインカーネーションにて蘇ったフィーネは、そこで初めて彼と出会った。
『◾️◾️◾️◾️!? まだこの星に居られたのですか!? お願いです。あの時何が起きたのか──』
必死に声を掛ける彼女に対して、◾️◾️◾️◾️は──。
『キミは……だぁれ?』
首をコテンと傾け……絶望を与えた。
第八話「迷いの弾丸。受け止める刃」
「キリカ。あなた達との契約、今日で終わりよ」
「……ほへ?」
突然放たれた解雇宣告。
寝そべってポテチを食べつつゲームをしていたキリカは呆然とし、次にフィーネの言葉を理解すると顔を真っ青にして叫んだ。
「ほげー!? 何でデスか!? 新人のあたしの仕事ぶりに納得行かず!? これが噂に聞くハケンギリという奴ですか!!」
多分違う。
「……はぁ。そもそも、私の作戦の準備が全て終わるまでの追加戦力。それが貴方の仕事だったはず」
「デース? ……デース!」
思い出したらしい。
「全ての準備は整った──故に、これも不要」
「おっとと。これは」
フィーネが放り投げ、キリカがキャッチしたのは──ソロモンの杖。
キリカが……正確にはキリカをフィーネの元へ送った人物が欲していた完全聖遺物。
それが彼女の手にあるという事は──本当にお役御免という事。
「ふむ……つまりあたしは帰らないといけない訳デスね」
「ええ、そうね」
「……」
「少し、寂しいですね」
「──!」
今の今まで黙っていたクリスが、キリカの言葉に反応を示す。
「クリスと離れたらと考えると……」
「キリちゃん」
彼女の言葉に、クリスが嬉しいような気恥ずかしいような、そして別れへの寂しさが思い浮かび──。
「そうだクリス。せっかくだから貴方もその子に着いていきなさい」
「──え?」
「デス?」
予想外の言葉にポカンとする二人。
しかしすぐにキリカが言葉の意味を理解し表情を輝かせる。
「デスデスデース! それはナイスな提案なのデスよ!
クリスには一度あたしの家族を紹介したかったです! 博士に、調に、そしてあの子にも!
あ、クリスが居ればスマブラできるですよ!? 力を合わせて博士をボコボコに──」
「──ちょっと待って!」
興奮したキリカを、クリスが叫んで遮る。
そしてキッとフィーネを睨み付けた。
「どういうつもり? 何でそんな事を──」
「別に。ただ私、貸しを作ったままで居たくないだけよ」
「でも……!」
尚も食い下がるクリスに、フィーネは冷たい目で見つめ。
「──私の言うことが聞けないの? 平和の為でしょう」
「……」
「その程度の覚悟で、あなたの夢は叶うのかしら?」
「──っ」
それだけ言うと、フィーネはキリカに今後について詳細を伝える。
ネフシュタンの鎧の除去率と日程。戦闘データ。ソロモンの杖に関する取引。
その傍らでクリスは強く強く拳を握り締め──。
「コマチを……また攫う」
「──」
「デエス!?」
突然の言葉に今度はフィーネも驚いた。
目を大きく見開いて彼女を見て──氷のように冷たい声で問い掛ける。
「立花響に同情でもしたか?」
「違う。計画の為なら手元に置いておいた方が都合が良い──そうでしょう?」
「……」
思わずフィーネは押し黙った。
クリスの言っている事は正しく、コマチがあの状態なら可能な事だからだ。
「……やってみろ」
悩んだすえにフィーネはそう答え──それと同時にクリスは館を駆け出した。
まるで急ぐかのように。
◆
(確かこの時間ならあそこに……!)
既に立花響の動向は知り尽くしている。
その為、クリスは迷い無く一直線に街を走っていた。
このまま行けば響の元に、コマチの元に辿り着ける──そう思っていた。
「──そんなに急いで。デートに遅刻しそうなのかい?」
子猫ちゃん。
その言葉と共に、クリスの前に立ち塞がったのは──二課所属アメノハバキリの装者、風鳴翼。
クリスは走る足を止めてどっしりと腰を落として構えを取る。
「おいおい、ここでやるのか? 勘弁してくれよ」
翼の言葉を聞いてチラリと周囲を見渡す。
確かに一般人が多く、ここでシンフォギアを纏って戦った際にはどれだけの被害が出るか。
それはクリスの望む展開ではなく、そしてそれは目の前の翼も同様だった。
「あっちの人目の無い所に行こう」
「……」
応えなかったが、クリスは翼の後を追った。
そして通されたのは、何処かの街外れの廃墟。
確かに此処で戦えば無関係の人を巻き込む事はない。
「……二課には連絡しないの?」
道中、仲間を呼ぶ素振りを見せなかった翼にクリスが問い掛ける。
すると……。
「おいおい。女の子と会うのに仲間呼ぶなんてそんなダセー真似できるかよ」
「……っ」
チャランポランな言い分に、クリスがイラッとする。
「Imyuteus amenohabakiri tron」
「Killter Ichaival tron」
だから、すぐに風穴空けて通り抜けよう。
ギアを構えたクリスはすぐ様撃った。
構えてからの射撃が速く、一瞬翼は面を喰らう。
しかし、その弾道を翼は覚えていた。
ほとんど反射で弾を剣で弾き、地を蹴って拳を構える。
遠距離タイプである狙撃手は寄られたら何もできない。
それが普通だが──クリスは近接戦闘も強い。
「ふっ、はっ!」
「は、せい!」
拳が打ち合い、弾き、足が舞い上がり、攻防が延々と続く。
そんななか、翼が叫んだ。
「拳を交えて分かった! キミは美しい!」
「!?!?」
当然の言葉に一瞬意識が持っていかれ、その隙に翼の裏手がクリスの頭を吹き飛ばした。
しかしすぐに体勢を立て直し継続して打っていく。
「鞭のようにしなるその腕はまるで芸術品のようだ! 正直キミのような華奢な少女とのギャップに、オレは興奮している!」
「何を馬鹿な事を……!」
羞恥と苛立ちがクリスを襲う。
さっさとコイツを倒してしまおうと力が入り──。
「だから──教えて欲しい、キミが何に悩んでいるのかを」
「っ……」
パシンと拳を容易く受け止められる。
しかし、クリスは振り解くことができなかった。
翼に核心を突かれてしまい、うまく体が動かせない。
「今のキミでは、何を成し遂げても後悔する──出直した方が良い」
「──なんで」
「ん?」
「なんでわたしにそんな事を……? それに前から、その……ナンパのような」
「ああ、それか。そうだな──」
んー、と考え。
「……わからん」
「……!?」
「いや、拳交えて分かるのはいつもの事だし、それで助言するのも癖というか。ナンパもかわい子ちゃんを見つけたら癖でよくするし」
何を言っているのか分からないが、女の敵だという事は分かった。
「ああ、でも」
しかし翼は遠くを、過去を思い出しながら。
「光彦を思い出したから、かなぁ」
翼は、光彦を守れなかった事以外で後悔している事がある。
「アイツ、オレ達が留守番から帰った時嬉しそうに抱き付いてくるんだ
──それまで、背中丸めて凄く寂しそうにして、な」
記憶の中の光彦は、存外寂しがりだった。
ライブに生で見たいと言っていたのもそれが原因だったのかもしれない。
……永遠に会えなくなるのなら、一緒に街に出てたくさん思い出を作れば良いと思った。
「だからオレは後悔しないようにしている。キミに優しくするのも……後悔したくないから、かもな」
「……」
「ところでお嬢さん。お名前を聞いても?」
「……敵に教える気はない」
「ありゃりゃ」
──だけど。
「次、アナタを倒したら教えてあげる──地に背を着けて見上げる、自分を倒した者の名前を」
「──おお、怖い怖い。その日が来る前に、ぜひ攻略してみせるよ」
「──フン」
その言葉を最後に、クリスはその場を離脱した。
胸の奥にシコリを覚えつつ、彼女は走り続ける。
──コマチ、わたしは……。
クリスの言葉に応える友は──今はいない。