【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第九話「大切だからこそ、アナタを傷付ける」

 ──やっぱり私が言った通りね。

 ──変な気を起こさず言う通りにしなさい。

 

 そう言われ、クリスはキリカと共に館を出た。

 今は、キリカの言う博士の隠れ拠点に向かっているところ。

 

「向こうに着いたら歓迎会をしたいデスねー! あ! だったらその前に買い物しましょう! 多分お菓子しかないでしょうから、色々買わないと。あの二人、あたしが居なかったら永遠とお菓子ばかり食べますから」

「……」

「クリスは何か食べたいものとかありますか? いっぱい作るデスよ?」

「……」

 

 しかし、クリスは答えることができなかった。

 このままで良いのか。

 何も為せず、フィーネから離れて良いのか。

 ……友を見捨てて良いのか。

 そんな彼女を見てキリカは大きなため息を吐いた。

 

「これはダメデスね……──クリス」

「……」

「クリス!!」

「ひゃ!?」

 

 反応しない彼女に業を煮やして、前に回り込んだキリカは、パチンッとクリスの頬を両手で挟み込みながら大声で呼び掛けた。

 すると、流石に衝撃と声で気づいたのか、クリスが目をシロクロさせながら意識をキリカに向ける。

 

「一度決めた事なら迷ったらダメデス! 最後まで醜く足掻く! それがアナタ達人間でしょ!?」

「キリちゃん……」

「やると決めたんデスよね。だったら一度や二度の失敗で諦めるな、デス」

 

 ほら行くデスよ。

 そう言ってきりかはクリスの背を押して、フィーネの居る館に戻るように促した。

 クリスは少し悩んで──駆け出した。

 

「ありがとう! キリちゃん!」

 

 すぐにクリスの姿は見えなくなり、それを眺めながらキリカはふうと深く息を吐いた。

 

「まさか調以外にここまであたしが入れ込むとは……思っていなかったですよ。──頑張れ、あたしの友達」

 

 彼女の言葉は風に吹かれて消えた。

 

 

 第九話「大切だからこそ、アナタを傷付ける」

 

 

 

「フィーネ!」

「……クリス?」

 

 館に戻るなりフィーネの名を叫ぶクリス。

 フィーネはクリスが戻ってきた事に驚き慌てて目元を拭うと、キッと彼女を冷たく睨み付けた。

 

「……何をしにきたの?」

「もう一度、わたしにチャンスを……!」

「何を馬鹿な事を言っているの? 何回しても無駄よ」

「それでも、わたしは──」

 

 尚も食い下がらないクリスに苛立ちを見せるフィーネ。

 なぜここまで言ってクリスは従わない。これだけ冷たくしても──自分にそんな目を向ける事ができる? 

 

「……もし私に縋りたくて、私の為と思っているのならやめなさい。そんな事をしても──」

「違う。これは私がしたいからだ」

「──」

「わたしがこのままだと嫌だからだ!」

 

 だから。

 

「計画を終えたら、あの子に、立花響にコマチを──」

「──はぁ」

 

 深く、深くため息を吐いた。

 まるで、これで最後と言わんばかりに。

 フィーネは決意した。

 その為にも──。

 

「いいわ、行きなさい」

「! フィーネッ」

「御膳立てしてあげるわ。二課の邪魔があって、また失敗してもう一度なんてされたら鬱陶しいもの──行きなさい」

 

 その言葉を聞きクリスは覚悟を決めた顔で館を出て──フィーネの視線に気付かなかった。

 

 

 ◆

 

 

 街に多数のノイズが現れ、人が逃げ惑う中、二課の装者が人々を助けるべくギアを振るう。キリカから一時的にソロモンの杖を返却して貰い、その力でノイズを操っているらしい。

 そんななか、ノイズ発生地点から離れた場所にて──響はイーブイを伴ってそこに居た。

 そして、彼女の鋭い視線の先には……クリスが居た。

 

「こんなものまで渡して、何のつもり?」

「ブイブイ? ブーイ!」

「アンタはちょっと黙ってて」

 

 響がグシャリと握り締めたのは、クリスからの果たし状。

 彼女は、響にイーブイを賭けて勝負しよう、とそれを出した。

 当然響の機嫌は悪くなり、さらに己の復讐者の関係者からの挑発とも取れるその行為にイライラしていた。

 

「わたしは、大切な人を助けたい。止めたい──その為にこの戦いは負けられない。コマチを渡して」

「──結局、また奪いに来ただけじゃないか。わたしの日陰を……!」

「今はそう取って貰って構わない。恨んでいい。憎んでいい──それでも、わたしは!」

 

 二人は胸元のペンダントを掴み、胸の歌を歌った。

 

「Balwisyall nescell gungnir tron」

「Killter Ichaival tron」

 

 ガングニールとイチイバルのシンフォギアを纏い、それぞれ拳と大型ライフルを構える。

 先制はクリスからだった、高威力の弾丸をぶっ放す。

 当然速度もあり、意表を突かれた響は回避に意識を持っていかれる。

 その隙にクリスが距離を詰め、ライフルで殴り掛かってきた。

 咄嗟に腕でガードをするが、そのガードの上から彼女は吹き飛ばされる。

 

「ブイ!?」

 

 イーブイの心配そうな鳴き声が響き、しかし響は体勢を整えて着地をする。

 思いの外重い一撃に意表を突かれたようだが、まだまだ行けると判断した模様。

 何より──今の一撃に迷いが無かった。

 覚悟の乗った重い一撃だった。

 

「──負けるかぁ!」

 

 しかし、臆していられない。

 もうあんな思いをしたくない。してたまるか。

 だから目の前の敵を──ぶん殴ってでも倒してみせる。

 

 響の腕に紫電が迸り、その拳をクリスのアームドギアに叩き付けた。

 すると、アームドギアから煙が吹き出し、嫌な予感がしたクリスはライフルを投げ捨てた。すると爆発し四散し、カケラが飛び散る。

 響の紫電の力は、ギアを壊す力を有している。

 特にクリスのライフル型のような複雑な構造をしている物にはさらに効くらしい。

 

 ──ならば。

 

「! 狙撃手が接近戦!?」

「強くなる為なら何でもしてきた!」

 

 映画見たりとか。

 

「ブ、ブイブーイ!」

 

 イーブイの前では少女二人が無手で打ち合っていた。

 以前のクリスと翼は似た動きをし、一手一手が相手の上を行こうとする組み手に近いものだったが、今の二人は違う。

 技とゴリ押しの力のぶつかり合い。クリスがいなし、響がそれを押し通そうとする激しい戦いだった。

 それにイーブイが見惚れ……。

 

 ──プルルン。

 ──バルルン。

 

「──ブイ」

 

 ──別のものに見惚れていたようだ。

 

「──フン」

「ブギャ!?」

 

 そしてそんな不埒な視線に気付いた響が、足で砂かけをしてイーブイはのたうち回っている。

 クリスは顔を真っ赤にして横目でイーブイを睨み付けていた。なんでそこは変わっていないんだと言わんばかりに。

 

「──埒があかない」

 

 打ち合うなか、響は一度距離を取り──エネルギーを収束。

 アームドギアを生成できない響は、一つの技を作り上げていた。

 それは、ギアを作るエネルギーを技として無理やり使う方法。

 無理矢理で無茶苦茶だが──存外効く。

 それこそ、大型のノイズを一瞬で消しとばすくらいには。

 

「──喰らえ!」

「っ!!」

 

 それをクリスに向かって放とうとし──視界の外から伸びた鞭が二人を弾き飛ばした。

 

「くっ!?」

「きゃっ!?」

 

 クリスと響は吹き飛び──さらに響の作り出したエネルギーが暴発して、爆発が起きる。

 至近距離にいた二人はそれをまともに受けてダメージを受ける。

 

「ブイ!?」

 

 二人を心配するイーブイだが……。

 

「ケホケホ……心配しないで」

「コホンコホン。これくらいじゃやられない……」

「ああ?」

「なに?」

 

 ちょっとした事で喧嘩をし始める二人。

 

「そんな余裕があるのかしら?」

 

 そんな彼女達にさらなる一撃が放たれる。

 二人はそれを察知して避けて相手を見て──クリスは叫んだ。

 

「フィーネ……なんで!」

「なんでも何も、見ていたらダラダラと戦って──もう見ていられなかったわ」

 

 ──もう、アナタは要らないのよ。

 

「っ……」

 

 傷付き、泣きそうな顔をするクリス。

 そんな彼女からすぐに視線を外し、響を見るフィーネ。

 響は──ようやく会えた相手に、笑みを浮かべていた。

 

「会いたかったよ、フィーネ……!」

「あら? これがお初だったかしら?」

「……あそこで殺そうとしても二課が邪魔をする」

 

 ──だけど。

 

「今、此処なら!」

「──! 待って!」

 

 激情のまま突っ込む響と、それを追うように駆け出すクリス。

 そんな二人にフィーネは──鞭を操り、打ち付けると同時にエネルギー弾を至近距離で放出。

 ガードをする暇も無く直撃し、二人は倒れ伏した。

 

 一撃。

 一撃でシンフォギア装者は、フィーネに敗北した。

 

「ふん。やはりこの程度か──他愛もない」

 

 そう吐き捨てると、フィーネはイーブイを見て。

 

「では、またいずれ」

 

 ──◾️◾️◾️◾️様。

 

 その言葉を最後に彼女は飛び立ち。

 

「待て……待てええええええ!!」

 

 それを響が体を無理矢理動かして追いかけ。

 

「ブイ……ブイ!」

 

 それをイーブイが響とクリスを見て悩み……。

 クリスの方へと駆け付け、何とか楽な体勢にさせようとし。

 

「行って……」

「ブーイ……」

「大切なご主人様でしょ? ほら、早く……」

「──ブイ!」

 

 クリスの言葉を聞いたイーブイは彼女を追った。

 それを見送ったクリスは目を閉じて。

 

(フィーネ……)

 

 涙を一筋流して──意識を手放した。

 

 

 ◆

 

 

 ──わあ! 君って凄い歌が上手だね! 

 

 クリスは歌が嫌いだった。

 音楽で世界を平和にしょうとした両親が死に──そんな事はただの夢だと思い知らされたと、思い込んでいたからだ。

 

 しかし、その考えを改める機会を得た。

 コマチとの出会いである。

 

 ──ねえねえ! もう一回歌って! 

 

 茶色の毛玉の鳴き声が、何故か理解できて。

 しかも歌のリクエストをしてくる。

 不気味以前にその無遠慮さに苛立ちを覚えたクリスはそのまま帰り──次の日にもあった。

 

 ──ごめんね昨日は。歌を聞かせてなんて。あまりにも綺麗だったから。

 

 歌は嫌いだが、綺麗と言われて悪い気がしなかった。

 だが、人前で(人じゃないが)歌うのは恥ずかしかった。

 

 ──ねえねえお名前教えてよ! 俺はコマチ! 

 

 しかしこの毛玉、妙な事を言い出した。

 

 ──友達になら、歌を聞かせてくれるよね! 

 

 そこから奇妙な関係が始まった。

 クリスは頑なに自分の名前を教えず友達にならないようにし。

 しかし向こうはいつの間にか友達認定し。

 ひょんな事から弁当を毎日作るようになり、それが褒められる事が嬉しくて。

 

 いつからか、自分の歌を聞いてほしいと思った。

 

 

 だからクリスは誓った。

 友達を、大切な人を絶対に救うと。

 その思いの強さは、かつてクリスの両親と同じくらいに、尊く、強くなっていた。

 

 

 ◆

 

 

 目を開ける。視界いっぱいに翼の顔があった。

 

「〜〜〜〜〜〜〜!?」

 

 驚いて飛び上り、声にならない悲鳴をあげるクリス。

 

「──!?」

 

 続いて周囲を見渡して自分が魔境(翼の部屋)に居る事を自覚して二度目の悲鳴を上げた。

 

 その後、別室の掃除をしていた奏が飛び込んできて、翼が説教されるまでそう時間は掛からなかった。

 

 

「なんでわたし、拉致した相手の部屋を片付けているの?」

「拉致なんて酷いな。保護したんだよ保護!」

「拉致か保護はともかくお前の部屋で寝かせるな翼」

 

 現在、奏とクリスは翼の部屋を掃除していた。

 滅茶苦茶な部屋で話はできないというのと、クリスが置かれた状況が可哀想。あり得ない。と家事スキルを発揮した為だ。

 翼は参加させていない。さらに汚す為。

 30分後ようやく片付き、一息つく事に。

 

「やっと片付いたな」

「お前が言うな翼!」

「やっぱりアナタとは合わない」

 

 二人にキレられショボンとする翼。

 部屋の隅で丸くなり、その間に奏はクリスに説明した。

 聖遺物の反応に駆け付けてみればクリスを発見。翼が保護をすると言い、弦十郎も賛成したこと。

 そして怪我の手当てをしようとし、そこまでの傷がなかった事。

 

「……」

「答えたくなければ良いのさ。ただ──響と会ったんだよな」

 

 アイツは──どうだった? 

 その問いかけにクリスは首を傾げる。何故敵である自分に? 

 そう思いつつも助けられた手前黙っているのは居心地が悪く素直に答えた。

 

「怒りで燃えてて凄く元気だった」

「そっか……」

 

 奏はホッとしたような悲しそうな顔をする。

 それを見てクリスは、フィーネから聞いた話を思い出す。

 奏は、響に対して強い負い目がある。だから彼女に対して消極的になる。

 それを思い出して、見て──少し前の自分を思い出して、つい言葉が出てしまった。

 

「──助けられたお礼に、助言をする」

「え?」

「──迷ってないでぶつかって。逃げてばかりじゃ話ができない。止めたいならぶつかるしかない。諦めたらダメ」

 

 ──わたしの友達なら、そう言うから。

 

 その言葉を聞いた奏はパチクリと目を瞬かせて、しかしすぐに笑みを浮かべると立ち上がりすれ違い様に彼女の頭を撫で付ける。

 

「そうだな──ウジウジしている暇なんてないよな」

 

 ありがとう。それだけ伝えると、奏は部屋を出て行った。

 それを見送り、今度は翼が彼女の前に座った。

 

「なあ──オレたちと一緒にこないか?」

「え?」

「見る限り、お前の大将とは決別してんだろ? ……いや、違うな。止めようとしているのか」

「……」

「だったら──手を組もう。オレ達もソイツを何とかしないといけない。響も止めないといけない。だから──力を貸してくれ」

 

 翼はクリスと拳を交え、その心を読み、信頼できると思っていた。

 弦十郎もまた話を聞き、クリスの事を調べ上げ、翼の意見を尊重すると言っていた。

 クリスは、翼の差し出した手を──叩いた。

 

「!!」

「勘違いしないで」

 

 しかしすぐに力強く握り締めた。

 

「フィーネを止める為に──アナタ達を利用するだけだから」

「──ふっ、相変わらずおもしれー女」

 

 クリスの不敵な笑みに、同じように笑って翼は応えた。

 

 

「それにしても柔らかい手だな。まるでお姫様──」

「やっぱりアナタとは合わないっ!!」

 

 再び手が叩かれた。

 

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