【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第十話「約束」

 ──それは、遠い記憶。

 

「光彦……!」

「チャア……」

 

 奏は、光彦に対して怒っていた。

 顔を真っ赤にさせてプルプルと体を震わせて、感情に支配されてどうにかなってしまいそうだった。

 しかし、目の前の家族の為にその感情を蓋にしてあくまで冷静に対処しなくてはならない。

 奏は、息を深く吸って、そして同じだけ吐いた。

 

 それを数度繰り返して──説教を始める。

 

「こ、ここここっっこここんなもの、持ってはいけましぇん!」

「ピッカ」

(噛んでやんの)

「ちぃたぁ反省しろ!」

 

 バンッと机の上のエッチ本を叩き付ける奏。

 

 どういう訳か光彦は何処からかこの本を持って来て、戦っている時の奏ちゃん、この人ら並みにえっちですよ、と丁寧に教えてくれたのだ。ふざけんな。

 そのせいでこれからの出動に支障が出てしまいそうだ。

 

「ったく……何処から持ってきたんだこんなの」

「チュウ」

(川辺)

「前の出動の時、なんか一回離れたな? その時か! てか何であるの知っているんだよ」

「ピッ……ピカピカチュウ」

(えっと……藤堯さんが前そんな話してた!)

「後であの人とも話さねえとな」

 

 藤堯、未来で死亡確定。

 ある程度の説教が終わり、奏は光彦を抱き抱える。

 

「光彦……ごめんな」

「ピ?」

「お前をこんなトコに閉じ込めて……本当は外で遊びたいだろ?」

「ピー……ピカピカ」

「ははは。こういう時は気を使うんだな」

 

 気にしていないと首を横に振る光彦に、奏は苦笑する。

 時折ふざけたり、突拍子も無い事をするが、基本この小動物は優しいのだ。

 二課の事を考慮して、行動を制限されても暴れたりしない。

 その事が少しだけ、奏は寂しかった。

 

「……いつか、さ」

「ピ?」

「外で遊ぼうぜ。ショッピング行ったりゲームセンター行ったり。あ、カラオケなんかも良いな。他にも山に行ったり海に行ったり──」

「ピッカア……!」

「はは。楽しみか? だったら楽しみにしてくれ。いつかあたし達がそうできる明日を掴んでみせるからさ」

 

 ──しかし、その約束が果たされる事なく

 光彦はライブ会場にて奏と響の命を救い──その命を燃やし尽くした。

 

 故に、奏は──響と手を取り合いたい。

 家族が命をかけて助けた彼女が地獄を見た。そして新たな心安らぐ場所を得て──奪われようとしている。

 そんな未来を穿ち、消す為に──奏は諦めない。

 

 

 第十話「約束」

 

 

 フィーネはソロモンの杖を使って、計画最後の飛行要塞型のノイズを召喚した。

 そして四方から東京スカイタワーに向けてゆっくり、じっくりと侵攻させる。

 ノイズが現れれば立花響と二課の装者、そしてクリスがそこに向かうだろう。それだけの数を投入している。もし二課本部に装者の誰かが居たとしても──完全聖遺物を()()()自分の敵では無い。

 

「これで本当に御役御免よ。アナタには延長して付き合って貰って悪かったわね」

「いえいえ。僕もそのソロモンの杖の能力を、この目で確かめたかったのでね」

 

 そう言って一人の男性がフィーネからソロモンの杖を受け取る。

 撫で回すようにしてその杖を触る男。余程嬉しいのか怪しい笑い声をあげる。

 フィーネはその男に興味を失ったのかリディアンに向けて歩を進める。

 

「ああ、そういえば」

「……」

「最近、ある国がキナ臭い動きをしているようです。魔女の手から離れた使い魔は、時に契約者すら食い殺す。夜闇には気をつけてください」

「──そうさせて貰うわ」

 

 忠告を払い除けてフィーネはその場を立ち去り、男はやれやれと肩を揺らすと端末を取り出す。

 

「もしもし? ええ、手筈通りに……はい、はい。今夜は好きにしていいそうですよ。僕も楽しみにしていますから」

 

 連絡を終えた男の顔は──人をゾッとさせる笑みを浮かべていた。

 

 

 ◆

 

 

 リディアンに辿り着いたフィーネは、まず二課本部の機器を掌握した。この日の為にジャミング装置を作り、いつでも発動させる事ができるようにしていた。

 次にノイズ発生警報を起動させる。

 学校内はすぐに騒がしくなり、しかしすぐにシェルターへと波となって逃げていく。

 

「有象無象には興味がない──精々生き延びるよう祈っておくが良い」

 

 フィーネはその隙にエレベーターを使い地下に向かう。

 そしてそのまま発令室に向かい──。

 

「止まるんだ、了子くん」

「──やはり気付いていたか、弦十郎」

 

 隔壁を拳で突き破り、フィーネの前に立ち塞がったのは……風鳴弦十郎だった。

 お互いが相手を敵として見ている。そこに戸惑いはなく、お互いが知っていた事を示している。

 フィーネは自分の存在がバレている事に。

 弦十郎は自分がフィーネの事を疑っていた事に。

 一つ違うとすれば──。

 

「了子くん。今からでも遅くない──もうやめるんだ」

「……」

「君は何かの目的の為に動いていた──なるべく人を殺さないように」

 

 弦十郎は思い浮かべる──確かに了子は裏でコソコソと動いていた。しかし、彼女が為した事で人が死ぬ事は無かった。

 

「何を言うかと思えば。広木防衛大臣の暗殺は? ライブでの大量虐殺はどうだ? 米国と繋がりを持ち、ソロモンの杖を有する私の存在が、貴様の甘い空論を打ち砕く」

「甘く見るな。既に調べはついている。防衛大臣の暗殺は米国の暴走。故に君は彼らと手を切った。ライブの件でも、君は()()()()()()()()()()()()()()()の発生に、乗っかってネフシュタンを強奪したのみ──それに」

 

 弦十郎は思い出す。自分と部下達を守る為に手を翳した金髪の女性の姿を。そして、その後テレポートで光彦が外へ運ぶ際──流した涙を。

 

「女の流した一つの涙には、積まれた万の虚言を凌駕する!! もう一度言うぞ了子くん!」

 

 ──戻って来い。

 

 弦十郎の言葉に、一瞬フィーネの瞳が揺れ──答えは振るわれた鞭。

 襲い掛かる鞭を弦十郎はつかんで受け止める。

 

「知らないのか? 涙は──女の武器だという事を!」

「ぐっ!」

 

 フィーネが鞭を操り、それを弦十郎がいなす。

 鞭がどんどん通路を破壊していき、しかし相手には当たらない。

 

「──仕方ない」

 

 弦十郎が覚悟を決めて、攻勢に出た。

 床が陥没するほど踏み締め、猛スピードでフィーネとの距離を縮め──。

 

「──やはりお前は甘いな、弦十郎」

 

 当たる直前に拳が止まり、そして──。

 

「だがその甘さ──嫌いじゃなかったわ」

「!! りょう──」

 

 巨大な衝撃音が響き──弦十郎は地に伏せた。

 おそらく人類最強の男といえど、急所はある。

 そこを蹴られ、弦十郎は意識を失った。

 フィーネは蹴り上げていた足を下ろし、発令室に向かった。

 

「楽しかったわ──貴方との時間」

 

 聞こえない相手に言葉を残して。

 

 

 発令室に辿り着いたフィーネはその場に居た者全員を無力化した。

 唯一の難点である緒川も気絶させられ、二課の者達は縛られて動けなくなる。

 それを見届けたフィーネは機器を操作し、外の確認をする。

 どうやらリディアンの者達は全員避難したらしい。敷地内に生体反応は無かった。

 フィーネはシェルターのロックは厳重に固定し、バリアコーティングを施す。これで一定の衝撃ではびくともしないだろう。

 翼たちには、自分が録音した音声を時間差で届くようにしている。ノイズを殲滅した後、こちらに駆け付けるだろう──彼を連れて。

 

「さて……何か言いたげだな、小日向未来」

 

 フィーネの先には強い視線で彼女を見る未来がいた。

 どうやら休日を利用して二課の手伝いをしに来たようだ。

 それでこのような騒動に巻き込まれるのだから不幸なものだと見ていると、未来が口を開く。

 

「貴女が……貴女が響を!」

「ああ、なるほど。確かにお前から……いや、立花響から見るとそうなるか」

 

 つくづく甘く……残酷な男だな、風鳴弦十郎。

 と、内心で呟くフィーネ。

 しかし──。

 

「己を忘れた相手によく執着するな」

「っ……!」

「だが──嫌いではない」

「……?」

「興が乗った──貴様の問いに三つだけ答えてやろう」

 

 突然のフィーネの言葉に驚きの表情を浮かべる未来。

 何故いきなりそのような事を? 

 疑問に思う未来だったが、何か突破口があるかもしれないと口を開いた。

 

「貴女の目的は何?」

「月を穿つ」

「え?」

「ほら答えたぞ──残り二つだ。質問はよく考えるんだな」

 

 月を穿つ。それだけではダメだ。それだけでは何も分からない。

 

「どうやって?」

「エレベーターの壁画は見たか? あれはカ・ディンギル──荷電粒子砲だ」

「荷電……粒子砲……」

「あれを地上に顕現させ放つ──シンプルだろう?」

 

 ──まぁ、今となっては手段の一つでしか無いが。

 

 これで質問は二つ。

 未来は悩んで──一番聞きたい事を尋ねた。

 

「響を不幸にさせたのは──貴女?」

「──そうだな。この私と……世界だよ」

 

 フィーネは語る。

 

「バラルの呪詛により相互理解ができない人類は隣人を殺す事で生き抜いてきた。言わば生存競争。立花響も同じだ。人の生存競争に呑まれ、負けた」

「そんなこと!」

「あるのさ──人類は醜い。幾千年も私は見てきた」

 

 しかしそれも今夜で終わる。

 

「世界が変わった時、お前は感謝するだろう──その時を待っているが良い」

 

 その言葉を最後に、フィーネはその場を立ち去り──表へと出る。

 

 

 ◆

 

 

「──なんでエンキって人……いや、神様達がバラルの呪詛を施したのか。記憶を失った今、僕には分からない」

「喋らないでください! このままでは本当に……!」

 

 フィーネの胸の中で、◾️◾️◾️◾️が口からを血を流していた。

 腹部に複数の傷痕があり、頭部からも大量の血が流れている。

 ある部族の人間を救い、そして超常の力を持つ彼を恐れた人間が与えたものだった。

 感謝の念の前に恐怖が勝ってしまった。

 それによって起きた結末。

 

「私が、貴方を信じていれば……! 私が側に居れば……!」

「フィーネ……」

「私が殺したも当然です! 私が、私が──」

 

 後悔し、泣き叫ぶフィーネに彼は言った。

 

「フィーネはさ、いつかあの月を壊すんだよね」

「……はい、そのつもりでした。しかし、結局私のような者が──」

「だったら、約束してよ」

「──え?」

 

 ◾️◾️◾️◾️は──笑っていた。

 

「色々考えたんだ──そして、キミに決めた」

 

 そして彼が託すのは一つのボール。

 

「僕は、前の僕でも、かつての友ではなく──今生に出会った最高の友、フィーネを信じる事にした」

「◾️◾️◾️◾️様……」

「この先キミは長い時を生きるのだろう。

 間違えるのかもしれない。酷い事をするのかもしれない。

 キミの側に立てないのかもしれない。

 それどころか、もしかしたらキミの前に立ち塞がって、敵として相対するのかもしれない」

 

 それでも──。

 

「少なくとも、今の僕は──キミの味方だ」

「──」

「だから月を穿つ時、どうか僕を使ってくれ。これはその時に使ってくれ──残酷な事を言っている事は分かっている。でも忘れないで」

 

 ◾️◾️◾️◾️は──光となって消えながら彼女に言葉を送った。

 

「頑張ってねフィーネ。──僕の想い、キミに託した」

 

 

 ◆

 

 

「──幾千年の想い、必ず……!」

 

 ──◾️◾️◾️◾️様。

 

 

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