【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第十一話「本当の名前」

 ノイズが発生したのを感知した響は、イーブイを伴って東京スカイタワーに向かった。

 その動きに淀みはなく、先日のフィーネとの戦闘で負った傷は完治しているようであった。

 

(あそこにおそらくフィーネは居ない……でも!)

 

 あれだけの大量のノイズを無視する事が、響にはできなかった。侵攻速度が遅く、避難は既に完了しているが……もしもの事が起きれば自分は後悔するだろう。

 故に現場に急行し、響はその拳でノイズを殴り壊した。

 

「──響!」

 

 耳に己を呼ぶ声がしてそちらを見れば、二課の装者──と、何故かクリスが居た。

 思わず顔を顰める響。

 何故彼女が、二課と一緒に。

 

「響、お前も来てくれて──」

「──近寄らないでください」

 

 歩み寄ろうとした翼を、冷たい声で切って捨てる響。

 

「ソイツと何故一緒に居るのか知らないけど、それならそれでわたしはアナタ達を信用できない」

「……」

「行くよ」

「ブイ」

 

 言う事だけを言ってノイズに向かおうとした響を──奏が彼女の前に出て止めた。

 邪魔をされたと感じたのか、響の目元がピクリと動く。

 

「邪魔をするなら──」

 

 しかし──奏はクワッと目を見開くと大声で響の言葉を遮った。

 

「あたしは天羽奏ッ! 19歳ッ! 誕生日は7月28日で、血液型はO型! 身長は169cm! 体重は秘密! スリーサイズは上から95! 62! 92! 趣味はカラオケ! 好きなものはケチャップ!」

「…………は?」

 

 突然の自己紹介にポカンと口を開ける響。

 イーブイも驚き、クリスは困惑し、翼だけが腹を抱えて笑っていた。

 奏は少しだけ赤くなった頬をそのままに、響に近づき──その手をギュッと握った。

 

「響とは仲良くしたいと思ってな。だからこうしてあたしの事を知ってもらおうと思った。結構悩んだぞ? スリーサイズまで教えるかどうか──」

「──意味が分からない!」

 

 バッと繋がれた手を振り解き──しかし諦めずに奏がその手を取る。

 

「──知って欲しかったのさ。あたしの事を、こうして手を繋げる事も。……もう、あたしが諦めないって事も」

「──」

「響──一緒に戦おう」

 

 呆気に取られる響に、奏は強く言い切った。

 もう、奏の中に迷いは無かった。

 あんな想いをしない為に、させない為に──この手、容易く放さない、と。

 

 響の瞳が揺れる。

 隠していた感情が顔を出す。

 

「……そんなの、できるわけ」

「できる……いや、させて欲しい」

 

 次に言葉を発したのはクリスだった。

 彼女もまた、響に近づき真摯な態度で協力の姿勢を見せる。

 

「……どの口が」

「アナタがわたしの事をどう思っているのかなんてよく分かっている。……わたしはそれだけの事をした。でも、フィーネを止めるまでの間だけで良いから、一緒に戦って欲しい」

 

 ──その後なら、何をしても良いから。

 

「……わけわかんない」

 

 響はプイッと顔を背けてそれだけを言う。

 しかし奏と翼はその言葉と態度からある程度察していた。

 素直じゃないな、分かっている癖に、と思わず笑みを浮かべてしまう。

 それに気づいた響がイライラし始める。

 

 そんな中、一体のノイズが彼女達に襲いかかって来た。

 狙われたのは──クリス。

 全員が構えて──その前にイーブイが立ち塞がり「まもる」を使ってノイズからクリスを守った。

 

「ブイブイ!」

「アンタ……」

 

 振り返って響に向かって鳴き、響はその意味を察する。

 今まで自分を狙っていた相手を守り、無防備に背中を晒している。

 彼は、彼女達との共闘に賛成したという事。

 それに響は呆れたように言葉を溢そうとして──止めた。

 

「──仕方ない。とりあえずフィーネを倒してからだから」

「──! うん、ありがとう」

「勘違いしないで──許したわけじゃ無いから」

 

 先に行く。それだけ告げると響はイーブイを肩に乗せてノイズの大群に突っ込んだ。

 それを見て彼女達も戦いに赴く。

 

「よし、行くぞ翼! 後輩からお許しを得たんだからな!」

「おう、そうだな! ──行こうぜクリス」

「──うん」

 

 最初に突撃した響の腕に紫電がバチバチと纏わり付く、さらにイーブイが「てだすけ」を使ってさらに威力を倍増。

 引き絞った腕をまるで弾丸のように突き出し、進行方向のノイズを殲滅しながら群れの中心に辿り着く。

 周囲にノイズしか居ない事を確認した響は、体中の力を一気に放出した。

 

──我流・雷塵翔來

 

「──次!」

「ブイブーイ!」

 

 肩の上でイーブイが騒ぐ中、響は淡々とノイズに殴りかかって行く。

 

「あたしも負けていられないな」

 

 それを眺めているのは同じガングニールを纏う天羽奏だ。

 響とは違い槍を操る彼女は、大振りに槍を振り回し広い範囲のノイズを斬り払っていく。それを見たノイズたちはジリジリと距離を取り、槍の射程範囲から逃れようとする。

 

「良いのか──そんなに近くに居て」

 

 しかしそれを見た奏はニヤリと笑い槍を掲げて──胸の雷をバチバチと迸らせる。

 

「あたしの万雷は──そこまで狭くねえぞ!!」

 

──THUNDER VOLT♾NOVA

 

 天から地に向かって万の雷が降り注ぐ。

 ノイズが回避しようとその瞬間には雷に穿かれ、余剰の電気が近くのノイズを痺れさせ……連鎖するかのように次々とノイズが消し炭へと変わって行く。

 

「やるなー響も奏も」

「響はともかく、奏は殲滅能力が高い」

「光彦が残してくれた力だからな──さて、オレたちも行くか」

「え?」

 

 突然翼がクリスをお姫様抱っこし、ブレードをボード状に変形させて空を飛ぶ。

 どうやら彼女たちは空のノイズを倒すつもりなようだ。

 クリスは翼の腕の中から抜け出すと大型ライフルを構えてエネルギーをチャージする。それを見たノイズ達は脅威と感じたのか、一斉にクリスに向かって襲い掛かる。

 

「そうがっつくなよ──モテないぜ?」

 

 しかし翼はそれを見事なボード捌きで避け続けて、クリスに擦り傷一つ負わせない。

 

「そら、チケットだ! 受け取れ!」

 

 それに小太刀を精製しては投げつけて、ノイズを挑発するかのようにばら撒く。ノイズ達は回避行動を取ろうとし──一ヶ所に集められていた事に気づいたのは、お互いの体をぶつけ合った時。

 

「──今」

「よし、ぶっ放せ!」

 

 ──空襲・BUSTERED

 

 翼のトリッキーな技で誘導されたノイズ達は、クリスが溜めに溜めたチャージ砲にて塵も残さず消滅させられた。

 確かな手応えを二人は感じ、お互いに顔を見て──ニッと笑みを浮かべる。

 

「即興にしては良いなオレ達」

「言えてる──次、行こう」

「応ともさ!」

 

 それぞれの力で次々とノイズを殲滅していく四人と一匹。

 しかしノイズ達も黙っていない。

 ズシンッと重く強い足音が響く。シンフォギア装者たちがそちらを向くと──超大型のノイズが響たちをまるで睨みつけているかのように佇んでいた。

 

「超大型……!」

「こいつを見るのは久しぶりだ……!」

 

 空から全容を確認し舌を巻くクリスと翼。そんな彼女たちの視界に、響が紫電を走らせながら突っ込む姿が見えた。

 

「シッ!!」

 

 拳を叩き付ける響。しかしやはり相手が大き過ぎるのかほとんど効いていない。

 おそらく奏の万雷といった大技も一度だけでは効きが悪いだろう。

 

 故に必要なのは──。

 

「響! 連携してこいつを叩くぞ!」

「──っ……そんな事、できるわけ……」

「──できる!!」

 

 拒絶しようとした響の手を、奏が掴んでグイッと引っ張る。

 その強引さに響が目を白黒させるなか、奏はなお叫んだ。

 

「響……これはあたしたちのファンサービスだ」

「……はぁ?」

「あの時ライブに来てくれたって事は、ツヴァイウィングのファンって事だろ」

「……」

 

 否定しようとして──できなかった。

 確かにライブに行く前は、響はツヴァイウィングの事を何も知らなかった。

 ライブに来たのだって、親友に誘われて──。

 

「っ……」

 

 頭に痛みが走り──すぐに気にならなくなる。

 それはともかく。

 ライブで二人の歌を聴いて──響は魅了された。ライブに。歌に。──ツヴァイウィングに。

 

「シンフォギア装者としてじゃなく、二課の人間としてじゃなく──ツヴァイウィングの奏として言う。一緒に、空っぽになるまで歌おうぜ!」

「──」

 

 言葉を失う響に追い討ちをかけるように、翼が続く。

 

「ふっ……ファンなら仕方ないな。任せておけ、オレはファンサービスは得意なんだ。クリス、良かったらお前も──」

「その話に乗るけど、えっちなところ撫でないで」

「い、いででで! 抓るなクリス!」

 

 どうやら翼とクリスも賛成らしい。

 あまりにもあんまりな暴論に響が答えあぐねていると、響の肩からイーブイが飛び降りた。

 

「ブイ!」

「お、お前もやるか? さて、ご主人様はどうかな?」

「──わたしはソイツのご主人様じゃ無い」

 

 ヒョイっとイーブイを抱えていつもの位置に乗せて、響はクルリと超大型ノイズへと振り返る。

 こちらに背を向けた事でダメかと思われたその時──。

 

「歌は……」

「……?」

「歌は……逆光のフリューゲルが良い──それが一番好きだから」

「──リクエスト、確かに頂いた!」

 

「聞こえますか……?」激情奏でるムジーク

 

 先ずは奏が歌い出すと同時に、槍を構えて駆け出した。

 

天に解き放て

 

 クリスを狙撃地点に下ろした翼が、雑多のノイズを空から小太刀を複数投げつけて援護する。

 二人は長年の相棒に笑みを以て応えた。

 

「聴こえますか……?」イノチ始まる脈動

 

 それに追随する響は紫電を纏いながらノイズを蹴散らしながら超大型に向かう。

 

愛を突き上げて

 

 飛行型のノイズが響を狙って突撃を行おうとするが、それをクリスが撃ち払う。

 かつて敵同士だった二人が視線を交え、顔を背けると同時に笑みを浮かべた。

 

遥か 彼方

星が

 

 響が奏に追いつき、二人は真っ直ぐと前を見て──それぞれのガングニールを突き出した。

 

音楽となった 彼の日

 

 二つの槍は見事超大型の体を貫き、反対方向まで穿つ。

 

風が 髪を さらう 瞬間

 

 クリスが超大型の頭部に一つの弾丸を放ち、翼はその弾丸に小太刀を投げつけ……。

 

君と僕はコドウを詩(うた)にした

 

 衝突すると同時に弾丸に込められたエネルギーが弾けてノイズに無数の傷痕を作っていく。

 

そして 夢は 開くよ

 

 その隙に響、奏、翼が三方向に距離を取り──突進。

 そして──。

 

見た事ない世界の果てへ……

 

 それぞれの拳、剣、槍、そしてクリスの遠距離からの弾丸が超大型にさらなるダメージを与える。

 

Yes, just believe

 

 超大型は痛みに悶えるように咆哮を上げ、他のノイズが加勢しようとするが。

 

神様も知らない

 

 クリスが狙撃地点から弾丸で次々と撃ち落とし。

 

ヒカリで歴史を創ろう

 

 響が拳の連打を大群のノイズに叩き付け。

 

逆光のシャワー未来照らす

 

 翼と奏が、長年のコンビネーションを以て踊るように幾つものノイズを斬り裂き。

 

一緒に飛ばないか? 

 

 全てのノイズが消え──残っているのは超大型のみ。

 

Just feeling 涙で濡れたハネ

 

 今度は前衛の3人が超大型に突っ込む。

 拳が、槍が、剣が、ノイズの体を壊していく。

 

重くて羽撃けない日は Wish

 

 自分の死を悟ったのだろうか。

 超大型は崩れるなか、遠方の敵を見据え──口からレーザーを放つ。

 

その右手に 添えよう

 

 それをクリスが迎撃しようとライフルを構え。

 

僕のチカラも

 

 ジャンプしレーザーの射線状に入った響……そしてイーブイが、拳と力で防ぎ切った。

 

「……っ!」

「……」

「ブイ!」

 

二人でなら翼になれる Singing heart

 

 それを見届けたツヴァイウィングの二人は槍と剣でノイズをクロス状に斬り裂き、響たちもまたそれぞれの渾身の一撃をど真ん中に叩き込んだ。

 

 

 ◆

 

 

「やるじゃないか響!」

「わたしは……別に」

 

 ノイズを殲滅し終わり、奏が響の肩を抱き寄せて喜んだ。

 響は頬を少し赤く染めながら、しかし強く拒絶する事はなかった。

 そこにクリスを回収した翼が降り立ち、キメ顔で言った。

 

「君の声──胸に響いた」

「──響だけに?」

 

 空気が凍った。

 

「──ぶふっ!!」

 

 翼以外は。

 翼は、先程のクリスのダジャレにツボったのか腹を抱えて倒れ込んだ。

 それを奏は「えー……」と困惑した目で見て、響は自分の名前でふざけた事を言われてイライラしていた。翼が笑っているのも要因だ。

 

 そんな中、クリスが響の前に立ち──頭を下げた。

 

「──ありがとう」

「……別に」

 

 それに対して響は素っ気なく答えるが……全員が分かっていた。照れ隠しだと。

 

 四人の間に穏やかな空気が流れるなか──奏の端末が鳴り響く。

 

「もしもし? どうしたんだ旦那──」

『──大変よ奏ちゃん! リディアンが! 二課が!』

 

 その言葉を最後に、通信が途切れる。

 

「了子さん……了子さん!?」

「何かあったみたいだな」

「……」

 

 再び緊迫した空気の中、響とクリスは奏の持つ通信先の相手を想う。

 

 ──決着の時は近い。

 

 四人は、リディアンに向かった。

 

 

 ◆

 

 

 リディアンに着いた四人。

 しかし、どういう訳か学校は壊れておらず、襲撃が起きた様子が見られない。

 ただ、シェルターが作動しており、そこに人の気配がする。

 

 ──それ以上に気になるのは。

 

「了子さん! 無事だったのか」

「ふう。あんな通信受けて心配したぜ」

「……」

 

 しかし、どういう訳か了子は何も応えない。

 それに違和感を覚えるなか、クリスが呟いた。

 

「フィーネ」

「──え?」

「あれが──わたしの止めたい人」

 

 クリスの言葉に呆然とする二課の二人。

 信じたくない、嘘だと言おうとして──側の響が殺気立っていた。

 

「──もう、隠れないのか」

「──その必要が無くなったからな」

「了子、さん……?」

 

 了子の口から冷たい言葉が吐かれると同時に──変わった。

 いや、戻ったと言うべきか。

 了子からフィーネに。そしてその身に纏うのはネフシュタンの鎧。

 

 彼女が──一連の黒幕だ。

 

「そんな、了子さん! その姿は!」

「──響が言っていたのは、アンタの事だったのか」

「その通り」

 

 フィーネは一言肯定すると、ある物を取り出した。

 それは、上が赤で下が白のボールの機械だった。

 フィーネはそれを──響の肩の上のイーブイに向けていた。

 それに顔色を変えるクリス。振り向き、響に叫んだ。

 

「避けて!」

「っ!?」

 

 咄嗟に避けると同時に、先ほどまで響が居た場所を赤色のレーザーが通り過ぎる。

 フィーネは舌打ちをし、さらに構え──。

 

「奏! 翼! 絶対に阻止して!」

「ああ、もう! 何がなんだか!」

「行くしかないのか!」

 

 三人はギアを纏ってフィーネに突っ込む。

 それをフィーネは鞭で捌きながら、尚もイーブイを狙い続ける。

 響は、自分の大切なものが狙われ怒り心頭だった。

 

「この──」

 

 加勢しようと動き──。

 

「──そんなだからお前は、取りこぼす」

 

 背後からフィーネの声が聞こえ視線の先のフィーネが聞こえる。

 

「ブイ!?」

 

 耳元で己の日陰が聞こえ──重さが消える。

 響の肩の上には──何も居なかった。

 そして、フィーネの手には──Mと書かれた紫色のボール。

 

 響の膝が崩れ落ちる。

 

「確かに返してもらったぞ」

「コマチ!」

 

 クリスの叫び声に、フィーネは苛立ち混じりに言う。

 

「なんだそのふざけた名前は──気に入らない。気に入らなかった。

 私の慕う友を、コマチだと──()()だと呼ぶ貴様らが」

「──なん、だと」

 

 フィーネの言葉は──奏の心を揺さぶった。

 

「どういう事だ!!」

「──簡単な事。光彦という存在とコマチという存在は──同じという事」

 

 しかし、フィーネからすればそれはまやかし。

 

「この方は、かつて神と呼ばれる存在に認められ、我々人類と寄り添って下さった異界の人」

 

 教える気は無かったが、冥土の土産に教えてやろう。

 

「その名は──アカシア。

 貴様ら下賤な民が軽々しく触れて良い存在ではない」

 

 ──不敬だ。その罪、命を以て詫びるが良い……! 

 

 

 第十一話「本当の名前」

 

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