【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第十三話「シンフォギア」

崩壊を続ける塔。

それを絶望した表情で見る四人。そんな中、いち早く気を取り戻したフィーネがギリっと音が鳴る程強く奥歯を噛み締めて胸に浮かんだ感情を吐き捨てる。

 

「――無駄な、事を……」

「無駄だと!?」

 

 それに噛み付いたのは奏だった。奏はレックウザが目を紫色に光らせながら塔を見ている隙に、フィーネの元に駆け付け胸倉を掴む。

 

「あの子のさっきの言葉を聞いていなかったのか!? アイツは、アンタにこっ酷く捨てられても尚好きだと言って、命を賭けてアレを止めて――」

「――それを無駄だと言っている!」

 

 奏を振り解き、クリスの血で濡れた鞭を鎧と連結し、そのまま地面に叩き付ける。

 

「かは……!」

「奏!」

 

 相棒の名を呼び駆け寄る翼に向かって、フィーネは奏を投げつける。空中で激突した二人はそのまま墜落した。

 それを荒んだ感情のまま睨み付けながら、フィーネは語る。

 

「例えカ・ディンギルを失っても――月を穿つ手段はまだあるのだ。そして――貴様たちは絶対に止める事はできない」

 

 断言した後、フィーネはマスターボールを掲げてレックウザをボールの中に戻す。

 そしてとある腕輪を取り出し取り付けると、ボタンを押して大量のフォニックゲインを放出させる。どうやら、フォニックゲインを蓄積させ、状況により解放させる機能があるらしい。

 解放されたフォニックゲインは、マスターボールへと流れていき――変化が起きる。

 ボールが赤い光を発しながら巨大化していき、人の顔以上の大きさへと変化した。

 フィーネはそれを一度愛おしげに撫で付けると――。

 

「アカシア様――ダイマックスです!」

 

 かつて本人から教えられた言葉を紡ぎながら己の背後に向かって投げつけた。

 すると、中から飛び出したレックウザは、全身にエネルギーを迸らせながら巨大化し――頭部付近に怪しげな赤い雲を纏わせながら、咆哮を上げた。

 

「キリュリリリ!!」

 

 元々レックウザの体は大きい。頭部に人を一人乗せて飛翔する事ができると言えば、だいたいの大きさが分かるだろう。

 だが、今の――ダイマックスをしたレックウザはそれの何倍も大きい。巨大ビルを一飲みできそうな程――大きかった。

 

「――デカすぎんだろ」

 

 それを見た奏は、正直勝てる気がしなかった。単純にスケールが違う――神と肩を並べたという話もあながち間違いでは無いと思える程に。

 翼もゴクリと生唾を飲み、ほとんど思考が止まっていた。

 

「この方の力で貴様らを消し炭にするのは容易いが――」

 

 フィーネはギロリと天に輝く月を睨み付ける。

 

「――もう、全てを終わりにしよう」

 

 スッとフィーネが月を指差し――レックウザに命じた。

 

「アカシア様――破壊光線です」

 

 それを聞き届けたレックウザは、口を大きく開けてエネルギーを溜めていく。

 

「――キュオオオオオオオ……」

 

 そして一度だけ咆哮を上げ――それ以降はエネルギーのチャージに専念し始めた。

 

 だが。

 その咆哮は――少しだけ悲しそうだった。

 

 そして、その声を聞いた奏と翼は――そこに懐かしさを覚えた。光彦が戦う時に時折発した悲しい声。それが今聞こえた。家族が悲しんでいる。

 

 

 それだけで、二人は立ち上がる事ができた。

 

「奏――」

「ああ、分かっている」

 

 レックウザの破壊光線はもう止められないだろう。しかし彼女たちは不思議と落ち着いていた。先ほど感じていた絶対的な力の差を感じていないかのように。

 

 しかしそれも当然なのかもしれない。

 家族相手にそのような感情は不要なのだから。

 

「――響」

「……」

 

 奏の声に響は何も応えない。

 それでも彼女は――託した。

 

「後は――光彦は頼む」

「――え?」

「アイツは、お前が取り戻すんだ」

 

 それだけ伝えると、二人はフィーネと相対する。

 覚悟を決めた二人の表情に、フィーネが顔を顰める。

 

「何のつもりだ。既に匙は投げられ、月に届く。地に縛られた貴様らではもうどうすることもできない」

 

 嫌な予感がした。目の前の二人からは先ほどのクリスと同じものを感じる。

 止めなければ、といつでも動けるようにして――サク……と翼の小太刀が彼女の影に刺さった。

 

 ――影縫い。

 

 相手の動きを縛る、翼が緒川から習った技だ。

 それも、つい最近。そして使うのは――今日が初めて。

 故にフィーネの虚をつけて――家族を止める事ができる。

 

「き、貴様ら!」

「さて、行こうか翼。あたしたちツヴァイウィングは――」

「何処へまでだって飛んでいける――それこそ天に輝く雷光にまでだって」

 

 覚悟を決めた二人が、空を駆ける。

 奏は、胸の奥に残った家族の力にて、翼はかつての家族が楽しいと笑っていた力にて。

 空高く、限界まで、天に届くまで舞い上がり――二人はこちらを見上げる家族にそれぞれギアを見せつける。

 

「さあ、来い光彦……」

「お前の我がままを受け止めるのは……」

 

 ――何時だって。

 

『オレ/あたしたち、ツヴァイウィングの特権だからな』

「! キュリリリ――」

 

 レックウザが目を紫色に光らせて二人を視界に入れて――破壊の鉄槌を解き放った。

 それを二人は二つのアームドギアを束ね――いや、シンフォギアの力全てを注ぎ込み、レックウザの破壊光線を真正面から受け止める刃を作り出した。

 ズンっと二人に衝撃が伝わり、口から、鼻から、目から、血を垂れ流し、それでもなお彼女たちは笑みを浮かべていた。

 

「どうした光彦おおおお! お前の駄々はこんなもんじゃねえだろおおおお!!!」

「しばらく見ないうちに大人しくなったなあああああああ!!!」

「昔みたいに来い! なんたって――」

「弟の面倒を見るのは――」

 

『姉ちゃんの仕事だからなあああああ!!!』

 

 だから――。

 

『――戻って来い、光彦おおおおおお!!』

 

 二人の決死の叫びと共に――ギアは砕かれ、光線は全てを消し飛ばし――月に到達した。

 

 ――ガングニール。アメノハバキリ……反応消失。

 

「か、なで……さん。つば、さ……さん」

 

 そして響は――独りになった。

 

 

 

 

「――ちっ」

 

 フィーネが舌打ちをする。

 彼女の視線の先には破壊された月……ではなく、一部が欠けた月。威力、射線がズレてしまったのだろう。たった二人の装者に妨害された事により彼女は苛立っていた――それが、月を破壊する事ができなかったのか、それとも……。

 

「――結局、貴様はその程度か」

「……」

「……私に復讐するのではなかったのか? ――まぁその感情も的外れなものだがな」

「……なに?」

「貴様が恨むべき相手は私ではないと言っているのだ。立花響」

 

 フィーネは八つ当たりするかのように語る。

 

「ライブ事件のノイズ共は、私が呼び寄せた訳ではない。ソロモンの杖も起動していなかったからな。

 並行世界から流れ込んだだけだ――大方、お前の後ろに居た奴に唆されたのだろう」

「……」

「ふん。真実を聞いても反応なし――所詮、貴様の復讐はその程度だったんだ。――だが!」

 

 彼女が最も気に入らないのは――。

 

「貴様が、そのくだらない復讐にアカシア様を巻き込んだのが気に入らない!」

「――あ」

「人間は――お前は、アカシア様を不幸にする。その身に宿した呪いで」

「――ああああ……!」

 

 響は頭を抱えて――苦しみ、悶え、叫んだ。

 クリスも、奏も、翼も――そしてコマチも居なくなった。

 ポッカリと空いた胸の穴に、自己嫌悪という()()に最も効く悪感情が埋まり――闇に堕ちた。

 

 全身を破壊衝動で包み込んだ響は、獣のように唸り声を上げ、視界に入ったフィーネに向かって襲い掛かる。

 

【ガアアアアアアア!!】

「その程度!」

 

 しかし暴走による短調な動きはフェーネにあっさりと見切られ、鞭によるカウンターが叩き込まれる。

 拳を振るっても、蹴りを放っても、紫電を迸らせても、響はフィーネに辿り着けない。

 

「キリュリリ……!」

【――! ガア!!】

 

 何度もフィーネに地面に叩き付けられた響は、鳴き声が聞こえた方向を見て、レックウザが視界に入った為に襲い掛かった。

 理性もなく、目に入ったものを壊す本能しかない。

 それをフィーネは冷たい目で見る。

 

「己の大切なものすら壊すか――本当、お前は人間だよ立花響」

 

 ――そんな彼女が、何故選ばれたのか、フィーネは苛立ち混じりに唾を吐く。

 暴走した響がレックウザ相手に勝てるとは思っていない様子だった。……それに、彼女も少し疲れていた。

 

「アカシア様――後はお願いします」

 

 フィーネの言葉に応えるようにして、レックウザが振り上げた尾と響の握り締めた拳が激突する。

 

「貴様に勝てるはずがない。ただの人間でしかないのだから。

 私は負けるわけにはいかない。幾千年の約束を果たす為に」

 

 彼女の言葉はおそらく響には届いていないだろう。

 今あるのは目の前のものを壊す衝動のみ。

 

 その、筈なのに。

 闇に沈む中――響はあることを思い出していた。

 

 一つは、未来との約束。

 そして、もう一つは――。

 

 

 

 

「――え? お母さんからの伝言?」

 

 故郷から戻り、コマチと一緒に寝る前に彼女は己の母から伝言を預かったと聞かされる。

 コマチと心通わせた響だが、結局のところ自分の故郷から、家族から逃げ出している。

 その事を思い出すと気が落ち込み、母の伝言を聞くのが怖くなる。

 

 そんな彼女の手に優しくコマチが手を乗せた。

 

「ブイ」

「――うん。ありがとう。聞かせて……お母さんの言葉」

 

 覚悟を決めたコマチに、彼女の母からの伝言を伝える。

 

 それは――何処でもあるありきたりな言葉だった。

 娘を心配し、怒り、そして愛する母の当たり前の言葉だった。

 かつて響が家族と共に過ごしていた時に言われていた言葉だ。

 

 そして最後に――手紙くらい出して、と響を想う言葉が紡がれる。

 

「……それだけ?」

「ブイ!」

 

 それだけだよ、とコマチが言い、それだけか、と響が呟く。

 

「……でも、わたし」

 

 不安な様子を見せる響に、コマチは擦り寄る。

 

 大丈夫だよ、と。

 一緒に書こう。一緒に伝えよう。

 そしていつか、家族の元に帰って――手紙では伝えきれない言葉を伝えよう、と。

 だから大丈夫だと……コマチは言った。

 それに響は――。

 

「うん。分かった。じゃあ――」

 

 

 

 

 

 ――約束だよ。

 

【――ウオオオオオオオオオ!!】

 

 雄叫びを上げた響が跳び上がり引き絞った拳を解き放ち、それにレックウザが尾を叩き付けて――世界が暗転した。

 

 

 

 

「ここは……」

 

 暗闇の中、響は意識を取り戻した。

 暗く、なにも見えない。

 しかし自然と心地良く感じた。

 

「響ちゃん?」

「え――」

 

 後ろから、自分と同じ声が聞こえた。

 そちらを振り向くと――コマチが居た。

 

「アンタ――」

「大丈夫。なにも言わなくても。フィーネの感情から何が起きているのか分かっているから」

 

 言葉を遮って説明は不要だと言うコマチ。

 そんななか、響は気づいた。コマチは口を動かしていない。

 コマチは、響のイメージを共有させて彼女に言葉を伝えている。故に、聞こえる声は響と同じものだ。

 イーブイの短い足を使って歩き、響の前に立つ。響はコマチを抱き上げようとして――フィーネの言葉を思い出し引っ込める。

 

 

 

 そして、知った事かとコマチが響に飛び付いた。

 

 

 慌てて響は抱き留めて、その温もりを感じ――涙を流す。

 コマチは、いつだって響の傍に居てくれる。

 しかし今の響は――。

 

「わたし、どうすれば良いのか分からない」

「そっか――だったら、俺が傍に居るよ。響ちゃんが分かるまで」

 

 そう、約束したからね。

 

「――アンタ、変わらないな」

「そりゃあそうさ! ――だから、諦めないで」

 

 そう告げて、ふとコマチは言った。

 

「ねえ、響ちゃん。俺、君の歌が好きなんだ」

「――」

「ねえ、響ちゃん。シンフォニーって言葉には二つの意味があるんだ」

 

 一つは「交響曲」。

 交響曲とは弦楽器や管楽器、打楽器といったオーケストラによって演奏される大規模な楽曲の事を指す。

 

「さっきのさ、響ちゃんたちみたいだよね。四人で歌ってたくさんのノイズを倒していく姿は、歌は、凄く胸に響いた。

 そして二つ目は――」

 

 二つ目の意味は――調和。

 

「調和……」

「うん。そうだ調和だ。――響ちゃんがそのシンフォギアを纏っている限り、いや纏っていなくても君は他者と手を取り合い、調和し――前を進むことができる」

 

 だからだろうか。

 

「このシンフォギア……これは君だけの力じゃない。君が出会ってきた人々との絆、歌、想いが響き合った――温かい力だ」

「……そっか」

「響ちゃんはその力を、化け物の力って言ったけど――俺はそう思うんだ」

 

 だからコマチは――シンフォギアが好きだと伝える。

――不思議と、コマチの言葉を聞くと。

 響は心が落ち着き、拳を握り締めることができる。

 挫けそうになっても、闇に堕ちても、彼女はその度にコマチの声で――立ち上がる。

 今のいままでは聞くことができなかったが――言葉を胸に、響は目を開けた。

 

「――行くよ」

「うん。いってらっしゃい」

 

『約束を果たす為に――』

 

 そういえば、と響が意識を覚醒させるなか――。

 

(アイツの名前、ちゃんと呼んだことなかったな)

 

 自分自身に約束を取り付けて――響の心に花が開く。

 

 勇気という名の花が。

 

 

 

 

「――うおおおおおおおおお!!」

 

 響が雄叫びを上げながら()()を掴み、レックウザの体から引き抜いた。

 突然起きた事態に、フィーネが目を見開く。

 何故ならそれは本来あり得ないことだからだ。

 現在、レックウザはダイマックスし、ただでさえ大きな体をさらに巨大化させている。

 

 そこから、確実にソレを――。

 

「――デュランダルを!?」

 

 ――デュランダルを引き抜く事など本来ならあり得ない。

 しかし、響はそれを為し、天に掲げ……コマチとの絆の力――紫電を纏わせて()()()()()させる。

 

「――届け、コマチの想いいいいいいい!!」

 

 デュランダルから光が……フォニックゲインが溢れ出し、響と()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を包み込む。

 デュランダルが起動前の状態に戻り響の手から離れ地面に突き刺さる。しかしフィーネは空に輝く四つの光に目を奪われていた。

 

「――まだ戦えるだと……!?」

 

 フィーネはそれを知らない。

 

「何を支えに立ちあがる……? 何を握って力と変えた!?」

 

 フィーネはそれから目を逸らしていた。

 

「そうだ、お前が纏っているものはなんだ? 心は確かに折り砕かれていた筈……! なのに……何を纏っている!?」

 

 フィーネはそれを――忘れていた。

 

「それは私が造ったモノか!? お前が纏うそれは一体なんだ!? なんなのだ!?」

 

 フィーネはそれを――思い出す事を恐れていた。

 

 だからこそ、響は伝える。

 自分の大切なもの、日陰が愛した――その名を。

 

「――シンフォギアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

第十三話「シンフォギア」

 

 

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