【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第十四話「流れ星、堕ちて燃えて尽きて、そして──」

「良かった……みんな」

 

 彼女たちの戦いを見守っていた者たちが居る。

 リディアン地下に居る二課の職員、そして未来だ。

 彼女たちは、カ・ディンギルが起動した後ようやく動き出す事ができるようになった。幸い、起動直後の揺れによって二課本部が()()()崩壊する事なく、全員無事であった。

 唯一負傷者と言えるのは緒川と弦十郎のみ。その彼らもアカシア由来の力によって体を麻痺させられているくらいだ。

 

 そして、通信機能以外は無事な機器を用いて外の様子を確認していた彼らは、戦況に一喜一憂していた。

 未来もまた、響が絶望したり暴走した際には流石に心配気にしていたが──それでも彼女は信じていた。

 

「了子くん……」

 

 そして、弦十郎は映像越しに見る同じ時を共にした友を想い瞠目した。

 彼女の様子を見れば、いま何を感じているのか、己の行いの末に起きる事象に対して耐えられるのか──推測するまでもなく分かり切っていた。

 

 弦十郎は拳を握って己の体の調子を確かめる。

 

(──あと、もう少し)

 

 そんななか──外では最後の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 ◆

 

 

 エクスドライブ。

 シンフォギアに搭載された決戦機能の一つ。

 それを、アカシア──否、コマチの思いと響の想いが混じり合った結果ひきおこした奇跡。

 さらにコマチの抗いが三人の少女を救い、不滅の剣が堕ちると共に、天には四人の戦姫が希望を胸に、終末の巫女を見据えていた。

 

「──アカシア様!」

 

 フィーネの声と共に、レックウザが四人に襲い掛かる。技を用いないただの突撃だが、動くだけで人を破壊する力を有する。

 

 だが。

 

「ふん!!!!」

「──!?」

 

 それを翼が胸で受け止めた。

 

「──どうした光彦。お前、ちょっと見ないうちに甘えるのが下手になったな」

 

 あり得ない、とフィーネはその光景に動揺した。

 限定解除され普段の何倍もの力を引き出すエクスドライブといえども所詮は聖遺物の欠片から作られた代物。

 ダイマックスしたレックウザの突進を受け止める事など不可能な筈だった。

 

『──良い事を教えてやるフィーネ……いや、了子さん』

「っ、念話まで……!」

『家族を受け止めるのに──大きさは関係ないんだ!』

 

 そう叫ぶと共に、翼はレックウザの頭に掌底を叩き込み、そのまま大地に沈めた。

 地が揺れ、呻めき声を上げる姿を見て、翼はへっと鼻を掻いた。

 

 その得気な頭に向かって、ブチ切れている響が手刀を繰り出した。

 それを奏が慌てて横から止めて、ガキンッと重い音が響く。翼はすぐ側で起きた音に驚き、クリスは響の凶行に目を丸くさせた。

 

「ちょ、おま!? 何してんだ響!?」

「何してんだはこっちの台詞なんですけど!? あれ、アイツですよ!? 何普通に叩きのめしているんですか!?」

「……あ」

 

 テンションが上がって細かい事をかんがえていなかったらしい。

 しかしすぐに翼は弁明し始める。

 

「いや! でも! 割とオレたちはあんな感じだったんだ! 喧嘩しまくって、それで最後は仲直り!」

「……アイツには半径5メートル近づかないでください」

「なんでだ!?」

 

 理不尽なような、妥当なような。

 外野の奏とクリスがため息を吐くなか、フィーネはさらなる指示を出す。

 

「まだだ! アカシア様、ダイドラグーンです!」

 

 竜の力を纏った台風が響たちに向かって放たれる。

 地上から天に向かって四人を包み込むようにして、エネルギーが昇っていき──。

 

「──おらぁ!」

「──はぁ!!」

 

 しかし、奏の雷とクリスのエネルギー砲がダイドラグーンを吹き飛ばした。

 

「なるほど、翼が逸るのも分かる。これなら光彦を──」

「全てが今までとケタ違い。これならフィーネを──」

 

助ける(止める)事ができる』

 

 二人の強い眼差しを受けて、フィーネが思わず後ずさる。

 それでも負けるわけにはいかない。

 彼女はなお諦めずマスターボールを構える。

 

「……っ! まだだ! まだ私は──」

「──キュオオオ……」

「──アカシア様!?」

 

 しかし、レックウザはそうでもないようで、徐々に体を小さくさせてダイマックスも解かれた。

 フィーネの計算ではまだ持続する筈だった。しかし現に解かされており──彼女の脳裏に、響がデュランダルを引き抜いた時の光景が蘇る。

 あの時に、大量のフォニックゲインが奪われたのだ。

 だからレックウザは元に戻った。戻ってしまった。

 月を穿つには──力が足りない。

 

「──ならば」

 

 その不足を補うのは──彼女自身だ。

 響たちも様子のおかしいフィーネに気付いたのか、警戒する。

 

「アカシア様──失礼します」

 

 そう言って彼女はレックウザの頭部に触れ──鞭を自分とレックウザを包み込むようにして一つの繭を形成させる。

 

「──まさか」

 

 響が違和感に気づくがもう遅かった。

 ネフシュタンの浸食の力を利用し、フィーネは──レックウザと融合を果たした。

 繭から飛び出したのは、漆黒に身を包んだレックウザ──否、フィーネ。

 フィーネはその瞳に敵意を宿らせて吠える。

 

「コマチと、融合を……!」

【ふん。貴様だってそうだろう。天羽奏もそうだ】

 

 彼女の視線は、それぞれの胸……否、心臓に向けられていた。

 

【あのライブ事件の際、貴様らはアカシア様に命を助けられると同時に力を手に入れていた】

 

 奏の万雷の力と響の紫電の力。

 フィーネに言われて心当たりがある二人はそっと胸に手を当てる。

 奏はやっぱりかと自分の罪を自覚しながら。

 そして響は──。

 

「──そっか。アンタは、わたしが助けてほしい時に……いや、その前からずっと傍に居たんだ」

 

 彼の優しさに、愛に、頬を綻ばせていた。

 

「フィーネ、もうやめて! それ以上はコマチも可愛そう! それに貴女も本当は──」

【──黙れ!】

 

 言葉を遮って、フィーネは破壊光線を放った。

 月を穿つ程の威力は無いが、街を焦土に変える程度の威力はある。それがクリスに向かって威嚇目的として放たれた。

 

【既に私はこの方を凌辱している! その事を一番理解しているのは私自身だ! ──許されるつもりはない。私は】

「──全く分かっていないよ、フィーネ」

 

 響が静かに言葉を紡ぐ。

 

「アンタ、ずっとソイツと友達なのに──どれだけお人好しなのか分かっていないの?」

【──姦しい! もう黙れ! 貴様らと交わす言葉は無い! 幾千年の想いの前に果てろ!】

 

 フィーネは叫ぶと共に、装者たちに向かって突っ込んだ。それを翼と響が真正面から受け止める。

 

「どうする!? 時間をかけて優しく説得するか!?」

「──ふう。仕方ない。コイツも男の子……ちょっと痛いの我慢して!」

「ふっ──お姉ちゃんの拳骨は効くぞ光彦ぉ!!」

 

 二人の鉄拳がフィーネの頭部に激突し、再び地面に叩き付けられる。それに続くようにしてクリスと奏がそれぞれの武器を構える。

 

「止められないなら、止めてみせる!」

「アンタには色々と言いたい文句があるんだ。大人しくしやがれ!」

 

 放たれた捕獲弾が奏の雷を帯び、着弾すると同時に麻痺を付与させながら動きを阻害させる網が形成される。

 フィーネは獣の雄叫びをあげながら苦しみもがく。

 

【くっ……まだ──】

「──持ってけ。オレからのサービスだ」

 

 さらにそこに翼の影縫いが、フィーネの影に差し込まれ遂に身動き一つできなくなる。

 

【不味い──】

 

 焦りの表情を浮かべるフィーネ。

 だが、彼女たちは待ってくれない。

 それぞれが力を振り絞り、拘束時間を持続させようと踏ん張っていた。

 

 ──彼女に繋げる為に。

 

「──勝機は今だ!」

 

 奏が叫ぶ。

 

「──取り零した手を、掴みに行け!」

 

 翼が叫ぶ。

 

「──アナタが、わたし達の切り札!」

 

 クリスが叫ぶ。

 

『アイツを──取り戻せ!』

 

 三人の叫びが重なり──。

 

「──必ず、取り戻す」

 

 響がそれに応えた。

 空を駆け、愚直に、真っ直ぐに、一直線にフィーネに向かっていく。

 

【やらせるか!】

 

 しかしそれをフィーネは辛うじて動く鞭で障壁──ASGARDを形成し、響の拳と激突する。

 

【貴様が救えるか!? その手に復讐を誓い、胸に闇と怒りを抱いた貴様が! 結局殺す! お前のような人間は!!】

「殺さない!!」

 

 障壁にヒビが入る。

 

【っ……】

「ソイツが教えてくれたんだ! わたしの力は化け物の力じゃない。大好きな歌の力だと! なら、わたしは、この力を振るう事を──もう恐れない!!」

 

 ピシリッと音を立てる障壁。

 

【っ……! 幾千年も前に誓ったのだ! その為に私は全てを捨てて此処まで来た! 想いを遂げる為に! 手を差し伸べた友を利用してでも! ただの人間が、この私に勝てる筈がない!】

「──だからこそ!!」

 

 障壁が砕かれ始める。

 

「わたしは諦めない! 例えお前の幾千年の想いが重く、強いとしても──わたしのアイツへの想い、ちっぽけだと誰にも言わせるものかぁ!!」

 

 ASGARDが、砕け散った。

 もう響とフィーネの間に──否、響とコマチの間に阻むものはなかった。

 

【なんだそれは──その腕に宿っている力はなんだ!? 私への、復讐の力ではないのか!?】

「復讐なんかじゃない。この手は、日陰を取り戻す為の──想いの力だ!」

 

 響と黒きレックウザの距離が──ゼロとなる。

 

【っ──うおおおおおお!!】

 

 苦し紛れに鞭を響に向かって突き刺すが──。

 

『──家族を!!』

「──コマチを!!」

 

 ──花咲く勇気が打ち砕き、そしてついに。

 

「奪還する!!」

 

 響の手が──コマチに触れた。

 それと同時にレックウザの体が光と変わり、ホロホロと崩れ──響の腕の中には、彼女の日陰が居た。

 

「──おかえり」

「──ブイ」

 

 ただいま。

 

 

 ◆

 

 

「ネフシュタンの鎧が……」

「起動前の状態に戻っている……?」

 

 彼女たちの目の前には、フィーネが先程まで纏っていた鎧と、そして響が引き抜いたデュランダルが覚醒前の状態で地面に転がっていた。

 起動すれば無尽蔵に、誰でも使えるのが完全聖遺物。

 それがなぜ? と疑問に思う二人。

 それに答えたのは、力無く座り込んでいるフィーネだった。

 

「……アカシア様はフォニックゲインを吸収する」

「……コマチが?」

 

 クリスの問いかけに彼女は頷いた。

 

「あの力を遺憾無く使うには大量のフォニックゲインが必要だ。その為に私はデュランダルを用意したが……まさかあのような使い方をされるとは」

 

 おかげで、アカシアと融合したフィーネが着ていた鎧も起動前に戻されてしまった。

 加えて、響たちのシンフォギアを起動させるフォニックゲインすら吸収したのか、彼女たちもギアを纏っていない。

 

「そっか……じゃあ、コマチはフィーネも助けたかったんだね」

「……え?」

 

 クリスの言葉に、虚を突かれた顔をするフィーネ。

 

「だって、ネフシュタンの鎧は使えば使う程浸食するから……だから、それからフィーネを助ける為にコマチはネフシュタンを元に戻したんだ」

「ブイ!」

 

 その言葉を肯定するかのように、響の腕の中にいるコマチが元気に応える。

 そして、そんな彼らの人助けを後押しする為に彼女たちもフォニックゲインを差し出したのかもしれない。それも無意識に。

 

 それを聞いたフィーネは泣きそうになり──グッと堪える。

 涙を流してはダメだ。自分にそんな資格はない。だから。だから──。

 

「フィーネ……」

 

 そんな彼女をクリスが悲しそうに見つめ──。

 

「ブイ……ブイッ!」

「あ、ちょコマチ──え?」

 

 コマチは、響の腕の中ら抜け出すと──その身は光に包まれ。

 

「──ミュウ」

 

 かつて、フィーネや友と一緒に居た時の姿へと変身した。

 その姿の名は──ミュウ。

 ありとあらゆる遺伝子を持つ存在であり──アカシアと名付けられ、彼本来の姿だ。

 

「どういう事だ……? まさか、記憶が──」

「いや、違うよ翼。あれは多分──」

「──コマチの、優しさだ」

 

 しかし力を無理矢理使っているからか、コマチの顔は辛そうだ。響に救われた際に多くのフォニックゲインが消費されてしまったらしい。──それだけ二人とも記憶を失いたくないと思ったのだろうか。

 

「──アカシア様?」

「ミュウ」

 

 ふわりと彼女の前に飛んできた彼は、そのままスリスリと顔をフィーネにすり寄せる。

 それをフィーネは震える手で触れて──あの時の事を鮮明に思い出した。

 

 想い人──エンキが笑い、アカシアが彼にちょっかいをかけ、それをフィーネが傍で見守り。

 それに気付いたアカシアが彼女の手を引いて、友にくっ付かせて、エンキとフィーネはお互いに謝りながら頬を染め。

 その後やり過ぎだと、調子に乗りすぎだと二人に怒られ

 しょんぼりした顔がおかしくて、いつしか三人で声を出して笑い──。

 

「──あぁ……! あぁ……! アカシア様! アカシア様……! 私は……わ、たしは……!」

「ミュ……」

 

 ──フィーネは涙を流して、アカシアを抱き締め続けた。

 幾千年前に失われた筈の温もりを抱き締めて。

 幾千年前に捨てた筈の感情を思い出して。

 幾千年前に亡くした友の存在を感じて……。

 

 

「──自首するわ」

 

 力を使い果たし、イーブイに戻ったコマチを愛おしげに撫でながら彼女は言った。

 

「私は、もう──これ以上望む事はない」

「フィーネ……」

 

 ようやく止まる事を決めた彼女に、しかしクリスは微笑む事はできなかった。

 大好きなこの人を止める為に戦いに臨んだが──それでもやはり悲しいものは悲しい。

 

「そういえば、地下のみんなは大丈夫なのか?」

「まさか、生き埋め?」

「そうはならないように設計はさせて貰った……カ・ディンギルが起動した以上、以前のようにあそこを使う事はできないが」

 

 今頃バックアップシステムで辛うじてこちらをモニタリングしている程度だろう。とフィーネは語る。

 

「もう少ししたら弦十郎に施した麻痺も取れ、奴だけなら自身だけで此処まで這い上がってくるだろうな」

「何を言っているのフィーネ。そんな事できる訳ないじゃない」

「いくら先生でもそれは──」

「──できそうだなぁ、旦那なら」

 

 弦十郎に対する評価に響とクリスは呆気に取られる。

 果たしてそれは人と呼んでも良いのだろうか? 

 

「……立花響」

「……」

 

 不意にフィーネが彼女の名を呼ぶ。響は無言で、しかし、はっきりと彼女の言葉を聞く姿勢を示す。

 

「私は──貴様に謝らない」

「……」

「だが、これだけは言っておく──アカシア様、いやコマチ様を手放すな」

「フィーネ……」

 

 響はフィーネの言葉に──強く頷いた。

 それに満足したのか、フィーネはふっと笑って後は弦十郎が来るのを待つのみ。

 しかし、彼女は……クリスだけは違った。

 クリスはフィーネの元に駆け寄ると、目に涙を溜めながら言う。

 

「フィーネ──わたしも償う!」

「クリス……」

「もうアナタを悲しませたくない。苦しませたくない。……独りにさせたくない。なりたくない。だから!」

 

 彼女の懇願に、フィーネが応えようとし──目を見開いてクリスを思いっきり突き飛ばした。

 

「きゃ!? フィーネ、何を──」

 

 ──クリスの言葉は、それ以上続かなかった。

 何故なら。

 目の前のフィーネの肩から──真っ赤な花が咲いていたからだ。

 それを見た奏が、翼が、響が──クリスが叫んで駆け寄る前に、銃声が響く。

 

『動くな!』

 

 硝煙の匂いを漂わせながら現れたのは──米国のエージェントたち。

 彼らは瞬く間に響たちを囲んで銃を突き付ける。

 

『ネフシュタンの鎧とデュランダル確保しました!』

『よし。あの()()()の言っていた通りだな』

『キマイラの制御装置も手に入れた。後は──邪魔者を始末するだけだ』

 

 米国のエージェントたちが次々と仕事をこなしていくなか、クリスは錯乱してフィーネに声を掛け続けていた。

 

「フィーネ! フィーネ! しっかりして、フィーネ!」

「お……ちつけ……しず、か……に」

「でも! こんなに血が!」

 

 その姿が堪に触ったのか、エージェントの一人がクリスに銃を向ける。

 自分たちを裏切った魔女に縋る女を撃つ事に、彼は何も感じないのだろうか。

 もしあるとすれば──不快感。

 敵の味方は敵だ。

 だから黙らせる為に──他のエージェントたちと共に銃を放つ。

 

 しかしそれは阻まれた。

 

「──うおおおおおおおお!!」

「──ブウウウウウウウイ!!」

 

 二人の……否、一人と一匹の漢によって。

「まもる」を使い銃弾を弾くイーブイ。体に痺れを残しながらも発勁で地面をめくり上がらせて銃弾を防ぐ弦十郎。

 

「先生!」

「旦那!」

 

 ツヴァイウィングの二人は最強の助っ人に活路を見出だし、コマチもまた嬉しそうに鳴いた。

 そして響はまた無茶をしたコマチに若干切れていた。

 

「話は聞いている──まずはこいつらを片付けてからだ!」

 

 弦十郎の人間離れした動きにより、次々とエージェントたちが倒されていく。聖遺物も制御装置もその過程で奪取される。

 このまま事件解決──するには世界が残酷過ぎた。

 

『動くな!』

「──っ、しまった!」

 

 声が響きそちらを向くと、エージェントの一人がクリスを捕らえて人質にし、銃を突き付けていた。

 動けばクリスを殺す。そう言わんばかりに。

 

「クリス!」

「っ……くそ」

 

 翼が叫び、フィーネは血を流しながら悪態を吐く。 

 

 弦十郎もまた内心舌打ちをした。

 彼の計算ではもっと早く全員倒していたはずだった。だが、麻痺によって数段動きが鈍っていた。

 それによりエージェントを二人残したまま、クリスを人質に取られてしまった。

 

『そのまま動くなよ! ……おい、やれ』

『ああ』

 

 銃声が二つ響き、弦十郎の両足から血が流れる。それでも倒れなかったのは意地だろうか。

 何はともあれさらに弦十郎の動きを鈍らせた。

 

『すぐには殺さん。貴様はジワジワと殺す。その後はフィーネ、お前の番だ』

「──っ!」

 

 フィーネを殺すと言われ、クリスは動揺した。

 このままでは、自分のせいで大切な人が殺される。

 なら──。

 

「──風鳴弦十郎! わたしに構わずこいつらを無力化させて!」

「──なにを馬鹿な!」

「──もう、何も失いたくないから!」

 

 そう叫ぶと、クリスは暴れて拘束から抜け出す。その際に腕を噛んだ事でエージェントは怒り心頭で、クリスを見た。

 絶対に殺すと、眼でそう言っていた。

 銃を突き付けるエージェント。振り返って腕を広げるクリス。それを見て駆け出そうとする装者とコマチたち。

 そんな無防備な彼女たちの背中を撃とうとするエージェント──を発勁で無力化する弦十郎。

 

 故に、誰も間に合わない。

 トリガーが引かれ、銃弾が放たれた。

 

「──あああああああああ!!」

 

 そして、フィーネは二度クリスを庇い──血を吐いた。

 

『フィーネ! くそ! 死ね!』

 

 さらに数発の銃弾が放たれ、その度にフィーネの体が揺れる。血を撒き散らし、蹈鞴を踏んでも……倒れなかった。

 何故なら──背後にクリスが居るから。

 

「うおおおおおおお──せいやあああああああ!!」

『ぐっほあ……!?』

 

 そこでようやく弦十郎が最後のエージェントを無力化させ──しかし、間に合わなかった。

 急所に何発も銃弾を受けたフィーネは、瞳の光を失わせながら倒れ伏し、血の池溜まりに身を投げた。

 

「フィーネ! フィーネ! いやああああああ!?」

 

 自分が血濡れになる事も厭わず、クリスがフィーネを抱き起こす。しかし、フィーネは浅く息をするだけで……その命が尽きかけなのは明らかだった。

 

「ブイ!」

 

 そこにコマチが辿り着く。

 そして躊躇無くフィーネを救う為に「いやしの願い」の使用を試みる。この肉体が朽ちようとも、記憶を燃え尽きさせてでも、彼女を救う事に何ら疑問を持たなかった。

 それだけの覚悟があった。

 ──あった、のだが。

 

「──ブイ!?」

「コマチ?」

 

 突如、技の発動がストップする。

 もう一度試みるも発動せず、何度も何度も失敗に終わる。

 一体何故? 力の使い過ぎか? 

 その答えを持っているのは──やはり彼女のみ。

 大量の血を吐き、呼吸を繰り返した後、フィーネは語った。

 

「あの、制御……装置で……アナタの……力に、制……限を掛け、させて貰い……ました」

 

 ──フィーネは耐えられなかった。

 その命を燃やし、記憶を失いながら己を犠牲にする姿を見ることが。

 だから決めた。

 彼を手中に収めると同時に、いやしの願いを封印し、二度と彼が苦しまないようにと。

 もう犠牲にならないようにと。

 もう……悲しませないようにと。

 そして何より、自分を救って犠牲になられるのが一番イヤだった。

 

 しかし、結局──。

 

「わた、しも……人の事を言え、ませんね……」

「──そうだよ! 何やってんだよ! なんで、わたしなんかを助けたんだ!」

 

 クリスは泣き叫んだ。

 こんな結末を望んでいた訳ではないのに。 

 

「あら……分から……ないの、かしら」

「え……?」

「アナ、タが……言った、事よ? ……いい? 一度、しか……言わないから」

 

 フィーネは力を振り絞って、グイッとクリスを抱き寄せる。

 そして──耳元で愛を囁いた。

 

「娘を守らない母親なんて、居ないわ」

「──ぁ」

 

 じんわりとクリスの胸の中に熱が広がる。

 

「良い? クリス。よく、聞いて。

 部屋の掃除は……こまめにするのよ。そして言葉遣いもお淑やかに。淑女の方が男に好かれるから。

 料理は……いつの間にか、私より上手になってたわね。凄く、美味しかったわ」

 

 最期の力を使って、フィーネは彼女に言葉を伝える。

 淀みなく、途切れる事なく、クリスに刻み込むように。

 

「友達を作りなさい。できれば、幾千年経っても、記憶を失っても傍に居てくれる人が良いけど──もう、手に入れているようね」

 

 翼と奏の瞳に涙が溢れる。

 騙され、敵だったとしても──やはり同じ時を一緒に過ごした、あの時間は嘘ではなかった。

 

「それと恋をするのもオススメするわ。私みたいに一途でも良いけど、たくさんの男と経験するのも良いわね──ただ、最後は絶対に良い人を手に入れるのよ」

 

 フィーネの言葉を聞いていたクリスは涙を流しながらコクリと頷く。

 それに柔らかな……母の様な穏やかな微笑みを浮かべて見ると、次に弦十郎の方へと視線を向ける。

 

「弦十郎くん。ここまで騙して、酷い事をして、虫の良い事を言っているのは分かっている──どうか、クリスだけは助けてください。……お願いします」

「……」

 

 フィーネの懇願に弦十郎は応える。

 

「ああ、分かった──親子二人の尊厳、必ずオレが守ってみせる。いや、守らせてくれ」

 

 それも、クリスだけではなくフィーネを含めて。

 彼の言葉に呆気に取られるフィーネだったが、すぐに可笑しそうに笑って。

 

「まったく──アナタは変わらないのでしょうね」

「性分だからな──だが、オレはこれで良いんだ」

 

 弦十郎の言葉に同意するように頷いて──血を吐いて咳き込む。

 

「フィーネ!」

「どう、やら……これで最期のようね」

 

 ゆえに、彼女は最期に、言葉を送りたい人に、送りたい言葉を送る。

 その相手は──。

 

「クリス」

 

 最後の生で得た──愛娘だった。

 

「──絶対に幸せになりなさい」

「──はい。お母さん……!」

 

 ──こうして、フィーネは。

 最期の最期には、終末の巫女としてではなく、アカシアの友としてではなく、遙か昔から続く亡霊ではなく、たった一人の娘の、愛おしい娘の母親として──この世を去った。

 

 

 ◆

 

 

「僕も送らせてもらうよ、ド派手な線香を」

 

 

 ◆

 

 

「──ブイ」

「コマチ」

 

 突如、コマチが空を──正確には月の欠片を見上げる。

 全員が彼の行動に首を傾げるなか、コマチは光に包まれ──その身をレックウザへと変えた。

 

「コマチ!? 何をしているの!?」

「キリュリリ……」

 

 コマチは、響に伝えた。

 

 月の欠片が地球に向かって落ちている、と。

 

「……そんな!?」

 

 響からそれを伝えられた皆にも動揺が走る。

 

「マジかよ……」

「どうする? オレ達のギアは動くのか? いや、動かせるのか」

「そんな……それじゃあフィーネとの約束が」

 

 そんな彼女達にコマチは言った。

 

 ──大丈夫。何とかしてくる、と。

 

「──何言ってんの!!」

 

 それを響が叫んで止める。

 

「もうやめて! そうやっていつも自分一人で頑張って! 犠牲になって! 少しは周りの、みんなの事も考えろ!」

 

 響は恐れていた。

 またコマチが遠くに行ってしまうのではないか、と。

 また一人苦しむのではないか、と。

 

「──キュリリ」

 

 ──だとしても、とコマチはそれを否定する。

 

 大丈夫だと。絶対に帰ってくると。君に傍にずっと居るから、と。

 

 だから信じて欲しい。祈って欲しい。

 

 俺に、君たちを、俺の大好きで大切なものを守らせて欲しい、と。

 

「──っ」

 

 響は俯いて、頭をガシガシと掻き乱して、そして──。

 

「ああああああああ! もう!」

 

 叫んだ後、ビシッと指を突き付ける。

 

「──デート」

 

 響らしからぬ言葉が、彼女から出た。

 自分でもそう思っているのか、頬が赤い。 

 それでも伝える。

 

「あの子、未来と約束したんだ。全て終わったらデートするって──コマチ、アンタもね」

 

 だから──。

 

「──必ず帰って来て」

 

 真っ直ぐと見据えて響がコマチに約束を取り付ける。

 

 そこに彼女達も乗っかる。

 

「おいおい、あたしたちも混ぜろよ」

「ふっ。可愛い女の子がたくさん居るのなら、オレという存在は不可欠だな」

「翼は留守番してて。……わたしも行く。フィーネとも約束したし」

「ちょ、アンタたちは別に呼んでいな──」

 

 ワイワイガヤガヤと騒がしく、姦しくなっていく少女たち。それをコマチが茫然と見て、弦十郎が微笑ましそうに見ている。

 

「女の子とのデート……すっぽかしたら後が怖いぞ?」

「……キリュウ」

 

 コマチは弦十郎の言葉に苦笑し──覚悟を決めた顔で空を見上げる。

 騒がしかった四人も彼を見上げて──祈った。

 強く強く祈った。

 彼と──コマチと明日を過ごす当たり前の未来を。

 

 ──その祈りは、届いた。

 

 コマチの体に強いエネルギーが宿り、その身を変える。

 天空を支配する龍の真の姿。

 その名は──メガレックウザ。

 迸る力を溢れさせながら──彼は空を駆ける。

 

「いってらっしゃい──コマチ」

 

 祈りを、想いを受け継いだコマチは、地球を脱し、こちらに向かう災厄の石に向かい──激突。

 画竜点睛。

 皆の幸せを完了させる為に、彼はその身で以って仕上げの一撃を叩き込んだ。

 

 砕かれた月の欠片は、果たして──。

 

 

 第十四話「流れ星、堕ちて燃えて尽きて、そして──」

 

 

「コマチ……」

 

 ──響ちゃんの悲しそうな声が聞こえる。

 

「──コマチイイイイ!!」

 

 そして泣きながら俺の名前を叫んだ。

 

 なので、ココから出る事にする。

 

「ブイ!」

 

 はい、呼ばれました! コマチです。

 

『…………え?』

 

 え? 

 

「……ブイ?」

 

 なんで皆不思議そうにしているの? 

 皆言ってたじゃないか──必ず戻って来てって。

 デートするって。俺楽しみすぎて──帰って来ちゃったよ。

 

「コマチ!」

 

 響ちゃんが駆け寄り、俺を強く抱き締める。

 

「──良かった」

 

 ──約束したからね。

 ずっと傍に居るって。

 

「光彦!」

「よく戻ってきた、流石オレの友!」

「良かった……本当に良かった!」

 

 奏さんたちも嬉しそうにこっちに駆け寄って来て──ってその勢いで来たら響ちゃん事倒れて──って言わんこっちゃない! あ! 誰だ俺の尻尾にぎにぎしているの! なんか触り方いやらしいぞ!? あ、待って! なんかポヨポヨしたのが当たってる! やわっこくて気持ち良いけどちょっと待ってほしい! む、壁もあるな。固いなこれ──殺気!? というか皆一度落ち着いて、ちょっと──誰か男の人呼んで──!? 

 

 

 

 

 そうしてオレたちがしっちゃかめっちゃかしてる頃、弦十郎さんは壊れたマスターボールを手に思い耽っていた。

 

「──そうか、了子くんはコマチくんの記憶を消すのではなく──保存していたのか。

 

 もし、再び記憶を失うような事があれば、それを防げるように。

 コマチくんを想う誰かが傷付かないように。

 コマチくんが傷付かないように。

 ──ありがとう、コマチくん。君のおかげで──皆の明日を手に入れる事ができた」

 

 ──とりあえず助けてください!! 

 

 

 ──こうして、俺たちの戦いは終わった。

 世界ではまだ人間同士が争い、ノイズの脅威も残っているけど。

 

 ──俺達は、当たり前の日常を歩んでいく。

 




これにて原作無印は終了です
三話くらい番外編投稿したら原作G編に突入します
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