【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
後日談的なの
【先史文明期の巫女──フィーネが起こした、通称『デルタショック』事件。
彼女が呼び起こしたエメラルド色の龍──認識コード・デルタ──による月への破壊活動は、特務対策起動部通称二課により最小限の被害で済んだ】
はい、月を壊そうとした悪いドラゴン、デルタでええええええす!!
「本当に怒るよ?」
すみませんでした。
さて現在、俺は響ちゃん他3名の少女達の前で正座……は出来ないので伏せている。イーブイボディで伏せるとか可愛いの魂かよ。さすがブイブイ。
「反省してねえみたいだな」
雷様も裸足で逃げ出すような声で奏さんが凄んでくる……こわ……。
「いや、奏が怒るのも無理ないと思うぞ? ──なんでお前が主犯扱いになっているんだ?」
翼さんもオコオコのオコだな……。彼女この中で一番低い声が出せるからそういう声出されると怖いんだよね……。
「茶化していないで真面目に答えて」
ぴえん。クリスちゃんも怖い。イチイバルを出しかねないレベルだ……。
んー、まあ、説明するとだな──これは俺の我がままだ。
「我がまま……?」
目つきを鋭くさせた響ちゃんが、こちらを見据える。もうちょっと優しい目で見てください……。
最初は弦十郎さんも反対していた。でも正直、これが一番手っ取り早いんだ。
この作った報告書の【デルタ】は存在したけど、同時に存在しない。
見た目が派手で力も派手で良いスケープコートになったよ。
「言いたい事は分かるけどよ……」
不満タラタラな奏ちゃん。
でもこればかりは我慢というか、許容して欲しい。
……俺もフィーネさんを助けたいんだ。
「フィーネ……了子さん?」
うん。もし俺がこの案を出さなければフィーネさんが一連の黒幕にされて終わると思う。
状況的にそれが一番最適だし、残った人……クリスちゃんを助けるにはそれが一番だ。
でも、それじゃあクリスちゃんの心が救われない。
「コマチ……」
だから、デルタという邪龍がフィーネ事櫻井了子を操り、クリスちゃんも利用されていた。
そして一連の黒幕は最後月を壊す為に突撃するけど月のカケラに激突して自滅。
……納得しなくて良い。でもこれが今できる俺のやり方の、君達親子を救う方法だ。
「──分かった」
クリスちゃんが頷く。
当事者である彼女が了承したからか、ツヴァイウィングの二人も不承不承ながら了承した。
残りは響ちゃんだけど……やっぱりフィーネの事許せない?
「……わたしの」
うん。
「わたしの復讐は結局……仮初のものだった。今思うと、あの人は自分を復讐相手にする事で──」
そこまで言って──響ちゃんは首を振る。
「いや、そんな事はどうでも良いな──わたしはあの人の事を許せない。結局あの人は、アンタを酷い目に合わせたから。でも」
チラリとクリスを見て、響ちゃんは恥ずかしそうに言った。
「──ともだ……同僚の親を悪く言える程、わたしは落ちぶれていないから」
「響……!」
響ちゃん……!
「わ、ちょ、アンタら!」
俺は嬉しくなって彼女の肩に飛び乗り、スリスリと体を擦り寄せる。
クリスちゃんも静かに響ちゃんに抱きついて何度もありがとうと言い続ける。
最初は戸惑っていた響ちゃんだったけど、フンっと鼻を鳴らすと抵抗をやめて受け入れた。
て、てえてえ。
素直になれない響ちゃんとお淑やかなクリスちゃんてえてえ……。
これは俺はお邪魔虫ですね。
尊い景色を崩さない為に離れようとした瞬間。
「──仲良いじゃないか、お前ら」
バサっと翼を広げるように二人に肩を回し、彼女達に囁くのは──フラットチェスト。
そして彼女は、尊い二人に怪しく微笑みながら……怪しい色を含んだ言葉を口にする。
「オレも混ぜてくれよ──可愛い子猫ちゃん達」
「なんでオレはボコボコにされているんだ?」
二人の間に挟まろうとしたからじゃないですかね?
何故か響ちゃんとクリスちゃんに抱えられた俺は、己の欲に従い愚行を為した女の敵を見下ろしていた。
いや、俺も人の事言えない状況だけど本人達が気にしていないし、所詮ペット枠ですし。
「翼。そのキャラあたしに憧れて作ったって言ったら本気で切れるからな」
「奏もオレを見捨てた……」
慰めてくれ光彦〜と情けない声を出す翼ちゃん。
やれやれ、仕方ないなつば太くんは。
響ちゃんとクリスちゃんの山脈から
抜け出し、彼女の元に駆け寄る。そして頭を撫でようと手を伸ばし──ガシッと掴まれる。
「そういえば──フラットチェストってどういう意味だ光彦……?」
──やっべ。
みがわりを使って拘束を抜け出し、とっとと逃げる。
「あ、これ可愛い……じゃなくて、待て光彦!」
みがわりを抱えたまま追いかけてくる翼さん。
「お前本当に記憶無いのか!?」
いや、本当に覚えていないんだって。
「それにしては弄りが変わっていないんだが!?」
じゃあ、アレだ。
翼さんはそういう星の下で生まれたという事──て危な!? 恐ろしく早い手刀!? 俺じゃなかったら見逃しちゃうところなんだが!?
「待てーーー!!」
この剣、可愛くない!! (怖さ的に)
◆
「……奏、実際のところどうなの?」
「アイツの言う通りだよ。フィーネの言う通り、光彦の時の記憶は残っていない。コマチの時の記憶が残っていたのは、了子さんの作ってくれた装置のおかげだ」
──ライブ事件の際、了子もまた光彦が死んだ事を悲しんでいた。
乗り越えたと言いつつも、実際はそうではなく。
彼女は己の友が何度も死ぬ事に悲しみ、涙を流していた。
……彼から託されたボールに記憶保有装置を施したのは、彼女の未練と未来に彼の隣に居る誰かへの願いだったのかもしれない。
「寂しくないの?」
「寂しいに決まっているさ──でもアイツは生きて、あたし達の近くに居る。だったら、失われた思い出ばかりじゃなくて、これからの未来を描いて行こうと思ってさ」
強がりなのだろう。本当はあの日の日常を願わずにはいられないのだろう。
それでも彼女は──彼の家族として、羽ばたく。
それが、彼が愛したツヴァイウィングなのだから。
奏の想いを聞いたクリスはそれ以上聞かなかった。
それ以上は……無粋だと思ったからだ。
「にしてはコマチじゃなくて光彦呼びなんですね」
「ひ、響……!」
しかしここで響が鋭く突っ込む。クリスが嗜めるように言うが、奏は気にしておらず笑って答えた。
「ああ。それはアイツ自身が言ってたんだ」
「アイツが?」
「ああ。自分はコマチの時の記憶しか無いけど、良かったら呼びやすい名前で呼んでってさ……相変わらず優しいな」
強く羽ばたくが──羽休めも必要だ。
だから奏はそれに素直に従い、翼と共に彼の事を光彦と呼んでいる。
「ちなみに、二課の人間は光彦呼びだ。やっぱりそっちの方が思い出深いんだろうな」
「そっか……それじゃあ、コマチって呼んでるのはわたしと響だけ?」
「……いや、未来もコマチって呼んでる。後、街の人達も」
二つの名前でよく混乱しないな、と二人は思った。
「それじゃあ、あの子は光彦って呼ばれたり、コマチって呼ばれるんだ。なんだか、不思議」
「いや、それだけじゃないぞ」
しかしそれを奏が否定する。
「弦十郎の旦那はアカシアって呼ぶらしい」
「アカシア……」
それは彼の本当の名前であり、フィーネ亡き今失われた名前でもある。
にも関わらず、弦十郎がその名で呼ぶのは──。
「何でも、一人くらいならその名で呼んでやっても良いだろう……ってさ」
「──そっか」
「……ふん。相変わらずお人好しばっかり」
つまり、そういう事だろう。
彼の優しさにクリスは目に涙を浮かべながら微笑み、響は呆れた様子を見せつつも笑みを浮かべた。
「そういえば未来で思い出したんだが、デートはいつ行くか決まっているのか」
「……いや、まだ」
「だったら、空けていて欲しい日があるんだ」
「空けていてほしい日?」
「ああ。実は──」
◆
「響、大丈夫?」
「……ん、大丈夫」
心配そうな未来ちゃんの問いかけに、響ちゃんは若干固い表情で答えた。
なので俺は周りバレないようにちょんと前足で抱えられた腕を叩く。
すると響ちゃんの表情が柔らかくなり、ふっと息を吐いた。
──うん、大丈夫みたいだ。
「凄い人の数……」
「ツヴァイウィングのライブだからね。それに重大発表もあるらしいし」
そう、現在俺たちはツヴァイウィングのライブに来ている。
それも、あの日、運命とも言うべき日に行われたあのライブ会場で。
『辛かったら断ってくれても良い。響にとってあそこは呪われた場所かもしれない。あたし達のライブはトラウマなのかもしれない──だからこそ、見に来てほしいんだ』
最初は戸惑い、怖がっていた響ちゃんだったけど──今は独りじゃない。
俺が居る。
未来ちゃんが居る。
クリスちゃんも居る。
だから彼女は──首を縦に振り、此処に居る。
首を縦に振った時、奏ちゃんはそれはもう嬉しそうにしていた。
にしても。
「ブーイ」
なんで俺は人形のフリをしないといけないんですかね……?
「こらコマチ。大人しくして。じゃないとライブ見れないよ」
響ちゃんの腕の中にいる俺に向かって、クリスちゃんがこっそり注意してくる。
そりゃあライブは見たいけどさ、もっと他に方法はなかったの? というかこの作戦考えた翼さんはちょっと頭おかしい。でも奏さんは笑いながら懐かしそうにしていたけど……。
「というか、何でわたしがこの役をするの?」
「似合っているよ響?」
「……嫌なら変わるけど」
「は? そうは言っていないじゃん」
ほらほら喧嘩しない。
ライブは楽しくね。
あー、それにしても。
──ようやく、生で二人のライブ見れるのか。
ふと浮かんだ記憶は泡のように消えたが──感情だけは胸に残った。
◆
「──ようやくだな、翼」
「──ようやくだな、奏」
あたし達は、揃って体を震わせていた。
緊張? 武者震い? 歌いたいのを抑えきれない故の激情?
どれも合っていて外れている。確かにそれらの感情を抱いているが──あたし達には、今日のライブはそれ以上の意味がある。
「二年か」
「二年だ」
あの日、光彦の願いをあたし達は叶える事が出来ず、それどころかその機会を永遠に失ったかに思われた。
あの日ほど泣いた日はない。あの日ほど怒りに身を任せた日はない。……あの日ほど後悔した日はない。
「それにしても」
「ん?」
「まさかオレの作戦が、二年越しに採用されるとはな」
くつくつと翼は笑いを堪えて腹を抱える。確かに言われてみればそうだ。あの時は翼が慕っている子を使おうとして失敗して──今は信頼できる仲間に託している。
思えばこいつも変わったな。あたしの後ろを追いかけていたこいつが、今では隣に立ち一緒に歌っている掛け替えのない相棒へと成長した。
そんな翼となら、最高のライブで全力で歌える。
そんな翼となら、何処へだって、世界の果てまでだって飛んでいける。
でも。
今日は。
今だけは──。
「それじゃあ、行きますか」
「ああ。あたし達の家族との──」
──約束を果たしに。
◆
コマチは、響の腕の中で見て、聴いていた。
皆の声援と想いを一身に受け、輝き続ける彼女達二人の姿を。
その姿はとても眩しく、しかし優しくずっと見ていたくて。
雷光に照らされて初めて輝いていた二人は、自らの光で皆を魅了していた。
「ブイ……」
それを見てコマチは──。
『──ピカ、チュウ……!』
光彦は、とっても楽しそうにツヴァイウィングのライブを楽しんで──終わるまでずっとずっと笑っていた。
ありがとう、奏ちゃん。
ありがとう、翼ちゃん。
ありがとう──ツヴァイウィング。
君たちの羽ばたき──確かに見届けたよ。
ライブが終わり、ツヴァイウィングが世界へ羽ばたく事を発表した際、コマチは涙を流して祝福した。
思い出はなくとも、感情が覚えている故の──涙。
かくして、幻と消えた夢の舞台は蘇り、彼らに尊き思い出がまた一つ追加された。