【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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日常的なの

 

 特異災害対策機動部二課。

「突起物」なんて揶揄される事もあるけど……ここの人達はその反対で、全然トゲトゲしていない優しい人達ばかりだ。

 特に風鳴弦十郎さんは──。

 

「君が我々を信じられないのも分かっている──だが、どうか信じてくれ。君も、君の大切なものも決して傷つけさせない。守ってみせる」

 

 そう言って、彼は本当にコマチを、わたしの事を守ってくれた。

 詳しい話は分からないけど、米国のエージェント達、残された完全聖遺物二つ、そしてフィーネが残した櫻井理論と記録。それらを駆使して、私たちへの干渉をとことん防いだと翼さんが言っていた。鎌倉の野郎どもざまあみろって言ってたけど、何があったんだろう。

 

 ともかく結果を言えば、わたしとコマチは二課で過ごすようになった。わたしは装者として。コマチは特異戦力として。

 同じくクリスも二課に所属し、先輩であるツヴァイウィングの二人と日々を過ごしている。

 

 

 ◆

 

 

「ふぁ……」

 

 自然と目が覚めて、起き上がる。着ていたシャツがズレ落ちてはだけているが……翼さんも居ないしそこまで気にしない。

 そして横を見ればコマチが気持ち良さそうに眠っている。その寝顔を見て思わず手が伸びて、サラサラとして毛並に指を解かす。

 普段は恥ずかしくてできないが、こうして本人が寝ている時は割とやりたい放題だ。……バレたら絶対に面倒な事になるし。

 

 それにしても、あの時と比べて……よく眠れるようになった。

 あの頃は、コマチすら拒絶した時は、目を閉じるとあの地獄が、傷付けて来る人達が現れて、とてもじゃないけど眠れなかった。

 

 でも、この日陰のおかげでわたしは──安らかに夢を見る事ができる。

 だから、ありがとうを込めてわたしは優しく手を動かした。

 

 

 しばらくするとコマチが目覚め、身嗜みを整えて食堂に向かった。

 

「おはよう響。コマチ」

「……ん、おはよう」

「ブイ!」

 

 しかし先客が居た。クリスだった。

 彼女はこちらに気づくと朝の挨拶の言葉を口にする。それに対して対照的な反応を示すわたしとコマチ。

 コマチは挨拶に応えると同時に、クリスの膝の上に乗って脱力した。それに彼女は苦笑しながらも手枷でコマチの背中を撫でる。

 

「相変わらず甘えん坊。今日も食べさせてあげる」

「ブ〜イ……」

「……」

 

 ここ最近になって見るようになった光景に、思わず自分の目が吊り上がるのを感じる。

 最初は、こんな事は起きなかった。

 ただ、昼食時に奏さんによくコマチが取られ、それにクリスが不満そうにし、関係ないけどクリスを口説こうとした翼さんが惨敗して、その次の日からそれは始まった。

 

 クリスの、コマチへのあーんが。

 

 話を聞くに、コマチは元々クリスにお昼に弁当を貰っていたらしい。……聞いてなかったんだけど。

 そしてその度に膝に乗せて存分にイチャ……コミュニケーションを取って食べさせてあげていたらしい。聞いて何故かイラッとした。

 

 しかしここに来てからは奏さんに取られて、結果朝に時間変更された、と。

 

 うん。納得できない。

 そもそもなんでアイツはされるがままなんだ? イヤなら抵抗してよ。

 

「ブ……ブ〜イ」

 

 ──滅茶苦茶喜んでる……!? 

 

 それを見て以来、わたしは何故か止める事ができず、しかしやきもきしながら眺める事しかできないでいた。

 ……わたしにはあんな事頼んでこない癖に。

 だからここ最近はむすっとした顔でご飯を食べており、後からやって来る二人に揶揄われる。

 

「おーっす。今日も響はご機嫌ナナメだな。低血圧か?」

「別に。……そうではないです」

 

 思い出したかのように敬語をくっ付けるような言い方は、せめてもの意趣返しだろうか。

 わたしの反応に奏さんは苦笑する。……この人、あれ以来わたしに対して余裕ができたな……わたしもその方が過ごしやすいけど。

 そして、この人が来たという事は……。

 

「おはよう響。今日も健康的な──」

 

 わたしの太ももに伸びる手。

 

 ──ヒュッ。

 

「おっと」

 

 それを阻むように飛来する箸。

 翼さんは寸での所で手を引っ込めて回避し、箸をキャッチ。

 そして下手人であるクリスに箸を返しながらケラケラと笑う。

 

「今日も情熱的じゃないかクリス。しかし、オレは間接キスは恥ずかしくてとても……」

「朝から盛るな。コマチの教育的に悪い」

 

 それはわたしも同意見だ。

 ……でも、そうやって抱き締めて押し付けている凶悪な代物の方が教育に悪いと思うんだけど。

 

「はあ。翼、後輩とのコミュニケーションはもう少し考えろって」

「──ふっ。オレも罪作りな女だ」

「セクハラで積んでんじゃねーよ。ほら、さっさと行くぞ」

「あ、ちょ──また昼にな!」

 

 奏さんに引き摺られながら、少年のような笑顔で手を振る翼さん。

 ……そっちの方が受けそうなんだけどな。

 クリスも同じ事を思ったのか、わたしの方を見ると首を横にブンブン振って頬の赤みを消そうとする。

 まあ、それはどうでも良いんだけど。

 そろそろ、さ。

 コマチ放してあげよう。窒息するから。

 

 

 食事を終えたら、出動が無い限り訓練室で体を動かす時間だ。フィーネが人為的にノイズを出していた時と違って、ノイズが出てくる回数は割と少ない。

 だから、より早くより多くのノイズを倒す為に力を蓄える。

 

「ふっ、はっ!」

「せい、やあ!」

 

 二課に入る前は独りで黙々と練習をしていた。コマチも協力してくれる時はあったけど、それも技の確認くらいだ。

 でも今はクリスが居る。クリスはフィーネの教育とその身に宿る才能で、狙撃手でありながら近接戦闘もできるハイブリット装者となっている。

 だからこうしてスパーリング相手としては申し分ない。

 ……ただ。

 

 バルルン。

 

「ブイ……」

 

 ぷりりん。

 

「ブイ……!」

 

 ほにょにょん。

 

「ブーイ!!」

 

 ──コマチがうるさい! この淫獣が!!! 

 こういう時コマチは、わたし達の真横に座ってジッとこちらを見て笑顔で鳴く。

 視線は言わずもがな。

 目の前のクリスも気付いているのか顔が真っ赤だ。わたしもだけど。

 しかし彼女は特に注意しない。恥ずかしがっているけど嫌がっていないという事。

 

 だからわたしが注意するハメになる。

 

「ふんっ!!」

「ブイ!?」

 

 チョップが炸裂し、コマチは痛みに悶えていた。

 え、エッチな目で見たから自業自得……! 

 わたしもクリスも胸元を隠しながらコマチをジトっとした目で見る。

 

「ブ、ブイブ〜イ」

 

 するとこちらから目を逸らしながら口笛を吹く真似をする。全くできていないけど。

 ったく……そんな事で誤魔化される訳が……。

 

「もう、仕方ないな……」

 

 !? 

 

「ブ〜イ」

「確かに気になったけど……コマチは別にそういう意味で見てないんだよね?」

「ブ………………ブイ!」

「そっか。よしよし」

 

 アンタの目は節穴か!? 

 そう叫んでしまいそうになる。明らかにソイツその、えっと、え、エッチな目でおぱ……胸を見てたんだけど!? 

 ……フィーネに育てられて、その辺の感覚麻痺しているのか……? 

 

「それにしても──」

 

 チラリとこちらを見て。

 

「──恥ずかしいからって、チョップは可哀想だよね」

 

 そしてニヤリと口元を歪ませる。

 こ、こいつ……! 

 あざとい通り過ぎて悪魔だ! 

 魔女に育てられたから性格悪いのか!? それとも素か!? 

 ともかくわたしをダシにコマチに取り入ろうだなんて……! 

 

「ブーイ」

 

 ──クリスの胸の中で蕩けたような声を出すコマチに、わたしの中のナニカがブチリと千切れた。

 そーかそーか。結局大きいのが正義って訳か。

 

「──訓練の続きするよ。コマチとクリス対わたし。実戦形式。時間制限無し。どちらかが戦闘不能になるまで」

「──え? ちょ、響……?」

「ブ、ブイ?」

 

 二人がオロオロしているが──関係ない。

 ガションと腕の装甲が稼働し、わたしの体にバチバチと紫電が迸る。

 

「ちょ、その力使うとか本気も本気──」

「うるさい。行くぞ」

「ブ、ブーーイ!?」

 

 何か言っていた気がするが、わたしは気にせず──目の前の相手を殲滅した。

 

 

 ◆

 

 

「うう……響、酷い……」

「しらない」

 

 対面の席に座っているクリスがボロボロの状態で昼食を摂っている。

 かく言うわたしもボロボロだ。

 あの後駆け付けた弦十郎さんによって喧嘩両成敗されそのまま二人纏めて叩きのめされた。

 ……なんであの人シンフォギア纏ったわたし達より強いんだろう。

 何はともあれ、さっきのイライラは消えたので、クリスからの愚痴を聞き流しながらご飯を食べ……チラリと別の席を見る。

 

「ほーら光彦。あーん」

「ブー……イ。ムグムグ」

「今日もオムライス……奏もすっかりケチャラーだな」

「光彦も前はそうだったんだぞ」

「ブーイ……」

「今は違うみたいだぞ」

 

 そこでは奏さんにご飯を食べさせて貰っているアイツと、それを眺めている翼さんが居た。

 あの二人は仕事や学校でコマチと一緒に居る時間が少ないからと言って、昼食の時は譲っている。……別に寂しくないけど? 

 それに、二年も離れていたんだ──それくらいは良いかなって最近は思っている。

 

「はい、あーん」

「なあ、光彦。次はオレの所に来いよ」

「……ブ」

「おい今どこ見て鼻で笑ったテメエ」

「おい翼。行儀悪いぞ」

 

 ……ただ、奏さんの胸を枕にする必要ある? 

 現に固いのは断るって言ってるし。

 やっぱりアイツ一回その辺分からせるか……? 

 

「そういえば響。先生からあの話聞いた?」

「……何のこと?」

「学校だよ。ほら、翼や未来の居るリディアンにって」

 

 そこまで聞いて、わたしも思い出した。

 カ・ディンギルが起動した事によりリディアンの施設は使えなくなった。

 よって別の場所に校舎を移し、学校が再開されると同時にわたしとクリスに復学を勧めて来た、んだけど……。

 

「……」

 

 正直、不安だ。

 わたしの記憶で最後に覚えている学校の思い出は──迫害と罵倒、虐めしか無い。

 未来や翼さんが居ると分かっていても、どうしても考えてしまう。

 学校に行ったらまた同じ目に合うのでは無いか? わたしの事を知っている子が居るんじゃ無いか? 

 そして何より、コマチが来れない。

 それが──わたしがその話に肯けない理由だ。

 

「──大丈夫」

 

 そんなわたしの不安を感じ取ったのか、クリスがそっと手を重ねて来た。

 

「響の過去の事は知っている。だからこそ──友達のわたしが守るから。コマチの分まで」

「……クリス」

「それに翼や未来も居るから大丈夫だよ。わたしだけじゃなくて、みんながアナタを守るから──彼処は、響が行っても良い場所。そして、たくさん思い出を作って帰る場所にしよう。ね?」

 

 真っ直ぐとこちらを見据える綺麗な目に、わたしは思わず視線を逸らし。

 

「……恥ずかしい事、よく真顔で言えるね」

「ふふふ。多分コマチのが移ったんだと思う」

「影響されすぎ──アンタも、わたしも」

 

 もうちょっと考えてみようかな、とわたしは思った。

 

 

 

「ふっ、美しいな──」

「同感だ。だから素直に座っておけ翼。また吹っ飛ばされるぞ」

「ブイブイ」

(てえてえ)

 

 ……なんか視線が恥ずかしい! 

 

 

 ◆

 

 

「ブイブイブイブーーーイ!?!?」

「こらこら暴れるな光彦。ちゃんと風呂入らないとくちゃいままだぞ?」

 

 今日はノイズが出現する事なく夕方になり、入浴する時間になった。

 そして毎度の如く奏さんに捕まったコマチが暴れている。

 

「こいつ、別に風呂嫌いじゃないのにいつも嫌がるよな」

「エッチな子ですけど、一線は超えたくない……まるで紳士」

 

 いや、紳士では紳士でも変態紳士の部類だよおそらく。

 

「こういう所はあん頃と変わらないなー」

「響と二人暮らしの時はどうだったんだ?」

 

 翼さんの問いかけに、わたしは当時を思い出して答える。

 

「それぞれ別々に入っていました。ソイツ、自分で洗えてましたし、何なら風呂掃除とかもしてました」

「どうやって!?」

「念力とか? いや、でもあの時はまだ使えていなかった筈……」

 

 奏さんとクリスが驚いた表情を浮かべて叫んだ。

 ……いや、確かにそうだな。コマチの抜け毛とか気にして、毎回わたし、コマチの順で入っていたし。それにアイツ翼さんの部屋をずっと綺麗な状態に維持できる程綺麗好きだし……。

 

「そう言えば、一時期わたしたちの所に居た頃は……」

「ああ。誘拐した時か」

 

 

 

 

 

「……うん」

「ちょ、翼もっとオブラートに言え!」

「被害者のわたしが言うのも何ですが、翼さんそういうところですよ」

「ブイ」

「なんでオレが総スカン喰らってんだ!!」

 

 デリカシーのない翼さんは置いといて。

 クリスの話を聞く事に。

 

「わたし達の所に居た時も一緒に入るのを拒否してよくフィーネを落ち込ませていたんだけど……」

 

 何してんだあの巫女。

 というかメンタル弱いな……。

 

「でも、キリちゃん……あ、キリカって子が『獣のくせに抵抗するなデース!』って言って無理矢理お風呂に入れてたんだ」

 

 ……そういえばアイツもそこそこ大きかったな。

 

 ネフシュタンの鎧を着ていた女を思い出し、拳に力が入る。コマチめ……。

 しかし話には続きがあった。

 

「でもね、キリちゃん力加減下手くそだからコマチが悲鳴を何度も上げて、抜け毛凄くて、それでフィーネがブチ切れて……。

 キリちゃんに入れられるくらいならってわたしかフィーネと入るようになったの。

 ひとりで入っているとキリちゃんが突撃するし……あ、でも善意だから。あの子も悪気があった訳じゃ……」

 

 関係ない、次会ったらぶっ飛ばす。

 それはそれとしてしっかりと堪能してそうなコマチとは後で話すとして。

 

「時間無いし、さっさと行こ」

 

 グダグダ話していたらそこそこ良い時間になってたので促す。

 すると奏さんは改めてコマチを抱きかかえて、逃げるチャンスを失ったと気づいた彼は尚も暴れるけど──結局奏さん達に揉みくちゃにされて、悲鳴を上げながらお風呂に入った。

 

 わたしは離れた所で洗って入って関係ないふりした。

 

「ブイブイブーイ!」

(助けて響ちゃん!)

 

 あーあー、聞こえない聞こえない。

 

 

 ◆

 

 

 就寝時間になり、わたしはコマチと一緒にベッドに入る。

 この時間だけは、わたし達二人だけの時間だ。

 最初は奏さん達も抗議して来たが……コマチが理由を話すと納得して引き下がってくれた。……今思い出しても恥ずかしい。

 

「まったく。おかげでみんなの目が生優しくて、背中が痒いんだけど」

「ブッ、ブー……」

 

 えいえいと頬を突けば、コマチは変な顔で変な声を出す。それが可笑しくてちょっと笑ってしまった。

 

 ……わたしは、コマチが居ないと眠れない。

 いつも悪夢を見て飛び起きて、眠りが浅くなってしまう。

 ……コマチを攫われた時はもっと酷かった。

 見る悪夢の内容が違った。

 わたしの手から大事なものが零れ落ちて──一生戻って来なくなる夢。

 その夢を見る度にわたしはトイレに駆け込んで、腹の中の物を全部ぶち撒ける。

 

 そんな夢をまだ時々見る。

 ……夢の内容については、皆には言っていない。言ったら余計な心配させてしまうし、あの子に変に気負わせてしまう。

 

 コマチはその辺のわたしの気持ちを汲んでくれてこう言った。

 

 傍に居るって約束したし、俺が響ちゃんと寝たいんだ。ごめんね。

 

 皆も何か察したのかもしれない。だから嫉妬するんじゃなくて身を引いてくれた。

 でもその代わり変な目で見られる羽目になった。

 

「こいつ、こいつ」

 

 本当、コイツのせいで……コイツのおかげで──。

 

「おやすみ、コマチ」

「ブイ!」

 

 ──今日もわたしは、グッスリと眠る事ができる。

 そして少しだけ素直になったわたしは、コマチと◾️◾️、二課の皆と一緒に楽しい夢を見る。

 

 

 

 ──これが、わたしの新しい日常であり、守りたい時間だ。

 

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