【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
第一話「烈槍──ガングニールの少女」
【グオオオオオオオオオオ!!】
雄叫びを上げる完全聖遺物ネフィリム。
このまま放っておけば、此処の人達も、ナターシャも、マリアもセレナも──全員コイツに喰い殺される。
それは……嫌だな。
「リっくん先輩……?」
親しみと敬意が混ざった結果妙な呼ばれ方をされたな──と思いつつ、今は気に入っている。
しかしこう呼ばれるのも……これが最後なのかもしれない。
大きくなった腕を伸ばし、こちらを茫然と見上げる彼女の頭を撫でる。
『アイツは絶対に止めるから、これからも姉妹仲良く元気でいてくれ』
「なんでそんな事言うの──待って! 行かないで!」
静止の声を振り切って、俺は奴の前に飛び出した。
最後にチラリと後ろを見た際、彼女は泣いていた。
そして、そんな姉妹の隣で、彼女は覚悟を決めた顔でこちらを見据えていた。
……止めても来るんだろうな。
俺は奴の前に立ち、構える。それと同時に──背後から歌が聞こえた。
「Seilien coffin airget-lamh tron」
そして、隣にアガートラムのギアを纏った彼女が降り立った。
その力で、何処か懐かしさを感じるその力で、奴を止めるつもりなんだろう。
──無理はして欲しくない。
──だが、止まらないのなら。
──先輩が頑張るしかないだろう……!
『説教は後だ──行くぞ』
「うん」
スーッと深く息を吸い──力を解放させる。
そして──。
『──波導は、我にあり』
──基地が大きく揺れた。
第一話「烈槍──ガングニールの少女」
ツヴァイウィングとマリア・カデンツァヴナ・イヴのコラボレーションライブ「QUEEN of MUSIC」。
デビューして僅か二ヶ月で全米ヒットチャートの頂点に昇り詰めた超新星。
ツヴァイウィングとコラボするには話題性も才能も申し分無し……ってこの雑誌に書いてあるね。
「ふ〜ん……そういうの見るんだ」
ん? うん、まぁ、ツヴァイウィングの事よく書かれているし、他にも注目されている歌手が取り上げられて面白いよ。響ちゃんも見る?
「いい。興味ない」
あら、素っ気無く断られちゃった。
というか、ちょっと機嫌悪い響ちゃん?
「……わかんない。でも此処に近付いたら、胸の方がムカムカして」
ん〜〜〜……体調が悪い訳じゃなさそうだけど……。
大丈夫? 無理はしない方が良い。
「いや……せっかく奏さんたちが招待してくれたから」
そう言って広げてくれていた雑誌を閉じると、彼女は椅子に深く座って目を閉じる。
う〜ん。これはしばらくソッとしておいた方が良さそうだ。俺は響ちゃんの肩から降りて、クリスちゃんの膝に座って丸くなる。すると優しく撫でてくれた。
「いやーそれにしても、まさか私たちまでお呼ばれするなんてね……未だに信じられないよ。アニメの世界みたいで」
ふと会話が聞こえる。
そちらを見ると、未来ちゃんと響ちゃんの友達、板場ちゃんが若干緊張した面持ちで会場を見ていた。
それに同意するように、彼女と一緒に招待された安藤ちゃん、寺島ちゃんも頷く。
「まさかあの駄々が通るとはね……」
「みっともなくて全然ナイスじゃなかったですけど、この状況は結果的にナイスです」
「ちょ、二人とも!? その話蒸し返さないでよ! まさか本当に行けると思わなくて──」
彼女たちは未来ちゃんの……いや、未来ちゃんと響ちゃんのリディアンでの友達だ。
街でも何度か会った事があって、俺がここに居たことに最初は驚いて「立花さんのペットだったの!?」と叫ばれて、即否定した響ちゃんには笑ったな……。
響ちゃんと三人が友達になった話も面白かったな。響ちゃん不良って思われて、でも未来ちゃんと交流があるのを見て混乱したらしい。
そこで響ちゃんを尾行して、でも途中で見失って本物の不良とエンカウントして──そこで響ちゃんに助けられて友達になった、と。
良い話だ……。
「……ちょっと、その目ヤメてくれる?」
おっと響ちゃんに睨まれちゃった。
クリスちゃん助けてー。
「うん、任せて。わたしは優しいから」
「……っ」
抱きしめられて何も見えねーけど、響ちゃんの苛立ちがビシバシ感じるぜー。
ほら響ちゃんリラックリラックス。君の友達もちょっと怖がっているよ?
「だったらデレデレしない」
あいあい。
「アンタもあまり甘やかさないで」
「アンタ……って。響、わたし響より一つ上で先輩なんだけど。先輩って呼んで?」
「……」
「無視した……」
ムーっと頬を膨らませてあざとく拗ねるクリスちゃん。
クリスちゃんの言う通り、彼女は響の一個上だったのだ。正直驚いた。
響と同じ教室で授業を受けられない事を知って落ち込んでいたクリスちゃんだけど、翼さんが「それなら響の先輩だな。そしてオレはさらにせんぱ──」の発言を受けて、度々先輩呼びを求めてウザがられている。
見ていてメッチャ面白い。
……それにしても先輩、か。
なんだか、懐かしいフレーズだな。
先輩と言えば、彼女たちの頼れる先輩たちは緊張していないだろうか?
◆
「QUEEN of MUSIC」。
ツヴァイウィング控え室にて。
奏と翼は時間まで寛いでいた。その顔に緊張の色はなく──しかし、これから行われるライブへの高揚感、そしてコラボ相手のマリアに対する熱が抑え切れない程に燃えていた。
「二人とも、今から力を入れたら後半持ちませんよ」
「そう野暮な事言わないでくれよ、緒川さん。今回のライブはいつもとちっと違うんだ」
「いつもと……?」
奏の言葉に首を傾げる緒川。
彼の疑問に答えたのは同じ想いを抱いている翼であった。
「今日のライブでオレたちはマリアに勝ち、証明しないといけないんだ」
「証明? というか勝つって今日のライブはコラボ……」
「──オレ達の方が凄いって事を、光彦に教えてやる……!」
先日のカラオケにて、彼がマリアの曲を選んだのがよっぽど面白くなかったらしい。
加えてデビューして間も無い頃の出来事であり、つまり人気とか話題性ではなく、好きだから選んだという事。
嫉妬するには十分だった。
話を聞いた緒川はため息を吐いて苦笑い。
何はともあれやる気があるのは良い事だと判断し──一つの気配が近づいてくるのに気付いた。
少しして、控え室のドアがノックされる。
予めドア近くで控えていた緒川が対応する。
「はい」
「マリア・カデンツァヴナ・イヴのマネージャーのセレナです」
「ああ、先ほどの……どうぞ、お入りください」
話は前以て聞いていたのか、中に通す緒川。
ガチャリと開けて入って来たのは、黒いスーツを着こなしサングラスを掛けた女性だった。
セレナと名乗った女性はツヴァイウィングの二人に一礼する。
「初めまして、ツヴァイウィングの天羽奏さん、風鳴翼さん。わたし、マリア・カデンツァヴナ・イヴのマネージャーのセレナです」
よろしくお願いしますの言葉と共に、二人に名刺を渡すセレナ。
それを受け取る二人。
「はぁ……」
「これはどうも」
対抗心を燃やしていた相手のマネージャーの丁寧な対応に毒気を抜かれる二人。
そんな彼女たちに構わず、此処に来た本題に入るセレナ。
「今回、こちらのマリアとコラボして頂きありがとうございます。マリアもこの日を楽しみにして──」
「──そのマリアはどうしたんだ?」
しかし、セレナの言葉を遮る翼。
彼女の言う通り、当の本人のマリアは居らず、挨拶に来たのはマネージャーのセレナのみ。
翼の言葉を聞いてグッと険しい顔をする。
「……マリアはライブに備えて集中しており」
「ふ〜〜ん……良いご身分だな」
「おい翼。よせって」
「何言ってんだよ奏──オレはこれをツヴァイウィングへの挑発と受け取るぜ」
奏はあちゃあと額に手を当て、セレナは苦い顔をする。
血気盛んな翼がこうなる事は予想できていた。奏も同じ気持ちだが──それでも、対抗心を燃やし過ぎと言える。
光彦の件とは別に、翼もまたマリアを注目していた──ライバルとして。
だからこうしてギラギラとした笑みを浮かべている。
「……それは」
「──そう逸らないで、風鳴翼」
答えあぐねているセレナの代わりに答えたのは──マリアだった。
全員が彼女の声に振り向いた──いや、
今のいままで気配を感じなかった筈なのに、いつの間にかそこに居た。
同じ女性でも息を呑む感性されたプロポーション
そして──感じるこのプレッシャー。
僅か二ヶ月全米チャートの頂点に上り詰めたのは伊達では無いと言わんばかりのカリスマ性。
何より、全員が息を呑むほどの存在感。
生物としての何かが、常人と違った。
「ね、姉さん!?」
「セレナ、勝手な事をしないで。でもまぁ……」
チラリと視線を翼へと向ける。
「天下のツヴァイウィングがどんなものか気になっていたから、チャラにするわ」
「……言ってくれるじゃねえか」
バチリと翼とマリアの間で火花が散る。
しかしマリアがすぐに視線を外し、踵を返す。
「此処で格付けするのも一興だけど、今はその時ではないわ──舞台はライブで。そこでシロクロ決着付けましょう」
「──ふう。そこまで言われたら引き下がれねーな」
その背中にあくまで冷静な態度で見守っていた奏が、口を開く。
「あまり見下してると、勝機見失うぜ?」
「ふん。覚えておくわ」
その言葉を最後に、マリアはセレナを伴って部屋を出た。
それを見送るツヴァイウィングの目は──これからのライブに燃え上がっていた。
◆
「もう、姉さん! 何を考えているのですか!」
「別に。これから戦う相手を確認しに行っただけよ」
パクリとドーナツを口に入れながら、セレナの問いに答える。
しかしセレナはその答えに納得していないのか、未だに顔を顰めている。
「それに、あんな所で……」
「誰にも見られていないし、こうやってすぐに
「むー……」
「はあ……。セレナ、こちらにいらっしゃい」
不機嫌な妹を呼び寄せるマリア。セレナは言われるがままに膝を突いて、マリアに身を寄せる。
すると彼女は優しくセレナの頭を撫でながら愛おしげに呟いた。
「大きくなったわね……」
「……」
「リッくん先輩にも見せたかったわ」
「姉さん……」
過去を想うマリアに、セレナは悲しそうな目で姉を見上げる。
しかし、マリアの表情に影は無く──覚悟が決まっている、芯の通った顔をしていた。
「リッくん先輩の意志を継ぐ──なんて言い訳はしない。
わたしがしたいから。憧れるのはもうやめたから。先輩の後を追いかける弱い後輩じゃいられないから──ただのマリア・カデンツァヴナ・イヴとして、ライブも……世界の救済も為してみせるわ」
マリアの言葉にセレナはただただ──悲しそうな顔をしていた。
◆
ライブが始まった。
コラボというには荒々しく、力強く、ぶつかり合うように歌っていた。
しかしそれが逆に観客達を熱狂させ、彼女たちに没頭させていく。
一夜限りの舞台。
この時間が永遠に続くかと思われた──が。
「うわあああああ!」
「ノイズだあああああ!?」
これは序章である。
これから始まる戦いの前哨戦に過ぎない。
「どういう……こと!?」
「なんでノイズが此処に!?」
そして運命の糸に絡め取られるのは──過去の亡霊。
「狼狽えるな!!」
マリアはマイクを手に、会場の皆に、世界に、そしてこの場に居る敵に告げた。
会場に蒼い炎のようなものが広がり、その場に居た者の前髪を浮かばせ、頬を伝い、全身を震わせる力が、彼らの間を迸った
「わたしの真の名は、フィーネ! 武装組織フィーネの象徴にして、終わりの名を持つ者!」
その名の意味を知る者たちが──息を呑む。
「永年の野望を叶える為、今ここに蘇った──そして」
彼女は一つのペンダントを取り出して──胸の歌を歌った。
「Granzizel bilfen gungnir zizzl」
そして顕現するのは──三槍目のガングニール。
「そんな……!?」
「ブイ!?」
黒き覚悟を身に纏ったマリアは叫ぶ。
「この手に宿るのは烈槍──この槍でわたしは突き進む」
握り締めた拳から蒼き炎……否、亡き友から受け継いだ力──波導を纏わせながら胸の言葉を吐き出した。
「付いて来れる者……止められる者だけ、わたしに付いてこい!!」
──宣戦布告。
今日この日、フィーネを名乗る少女、組織が世界に戦いを挑んだ。
では皆さん良いお年を