【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
戦いが終わり、二課の仮説本部へと帰投した響達。
しかし全員表情が暗く、マリア一人にほぼ押し切られたのがよっぽど堪えたようだ。
それを見かねた弦十郎が装者達に喝を入れる。
「今日の敗北は忘れられないだろう──だったら次だ! 次こそは勝てるように切り替えろ!」
幸い、人的被害は無くコマチも攫われる事は無かった。
しかし次もそうなるとは限らない。それに備える為にも、彼女達は立ち止まっている暇は無かった。
彼の言葉に、装者達も意識を切り替えた。……響は少しだけ引き摺っているようだが。
「さて、敵について話す前に……彼女、マリアは自分の事をフィーネと名乗っていたが──」
「嘘だろ絶対」
「なー? 流石に分かる」
奏と翼がすぐに否定した。
実際にフィーネと対峙し、戦った事のある彼女達の言葉は真実味があった。
「了子さんなら、光彦にあんな目にさせないだろう。何となく、あたしはそう思うよ」
「声も多分物真似だな……そうなると、過去に会った事があるのは確実か」
奏と翼に続くように、クリスも答えた。
「わたしと戦ったキリちゃん……キリカが言っていました『フィーネの事は聞いたデス……お悔やみ申すデス』って」
「ふむ……すぐ近くにフィーネが居る状況でその発言は変だな……だがブラフの可能性は?」
弦十郎の問いにクリスは首をフルフルと横に振る。
「あの時の言葉は本気だった。私の事を想って悲しんでくれていた……」
「──そうか」
ただの感情論を参考材料にする事は、本来ならあり得ない。
しかし弦十郎はそれを尊重し、良しとする。
彼の事を甘いと罵る者も居るだろう──だが、それが弦十郎という男だ。
「あと、キリちゃんアホの子だからそんな腹芸できない」
「そ、そうか……」
辛辣な評価も時には参考にする。
二課の中でマリアはフィーネでは無いと固まりつつあるなか、
「でも」
響が一つの波紋を作った。
「アイツ……マリアはコマチに──多分、わたし達と会う前のコマチに執着していた」
ギュッと腕の中のコマチを抱き締める響。
「コイツは覚えていないと思うけど──仲が良かったんだ。ずっと一緒に居たかったんだ。……でも、コイツはお人好しだから、多分」
誰かを助けて命を落とし、マリアの元から消えた。
響が語った可能性は大いにあり──彼女が実感を持って語った為に、全員がほぼ信じていた。
しかし、そうなると──。
「だったら、アイツらの目的はなんだ? 光彦と元仲間だったり、家族だった奴が、人を悲しませるような事をするなんて、オレは──」
「翼っ。……フィーネもかつてはコマチと友達だった」
「……っ」
「止まれない事もあるんだよ……」
ギュッと拳を握り締めて──クリスは言う。
「今度こそ止めてみせる──フィーネを名乗るなら尚更に」
友を想い、母を想い、クリスが覚悟を決め。
それに奏達も負けていられないと笑みを浮かべた。
「……」
「ブイ?」
ただ一人だけ、響だけが暗い表情を浮かべていた。
第四話「日常──それはきっと誰もが求めるもの」
あの戦いから一週間が経った。
武装組織フィーネはその間何かしらの行動をする事なく、不気味なほど静かに、そして当たり前の毎日が続いていた。
「……」
昼休み。響は何処までも広がる青空を見上げて物思いに耽ていた。
(……負けた)
地に伏した自分を思い出す。
(──負けた)
コマチを抱え、威風堂々と立つマリアを思い出す。
(──負けた!)
そして、自分から遠のいていくコマチを思い出す。
(もう、あんな思いはしないって、させないって誓ったのに。また、守れなかった。
わたしは何も変わっていない。弱いままだ。
マリアの気が変わらなかったら、もしくはコマチをただの力としか見ていなかったら──)
彼女の日陰は再び失われていただろう。
そう思うと胸に怒りが湧き上がり──背筋を震わせる程の寒さを覚える。
もう、独りには──なりたくない。
「響?」
「……未来」
元気がない響を気にして未来が彼女の近くにやってきた。
手には弁当箱が二つあり、一つは自分の分、もう一つは響の分だった。
響の前に座り弁当を渡すと、何かあったのか尋ねた。
「あのライブの……マリアさんの事だよね」
「……うん」
「……わたしには言えない?」
「……ごめん。一応機密だから」
未来は二課の協力者だが、あまり情報が与えられない。
下手に情報を持てば、よからぬ者に命を狙われ、危険な目にある可能性があるからだ。
響はその事を聞いて、記憶を失いながらも、未来を争い事に巻き込みたくないと強く想った。
よってなんとか説得し、現在に至る。
響の言葉を聞いて未来はため息を吐き──。
「どうせコマチ関連でしょ?」
「っ……誰から聞いた?」
翼か? と彼女は疑った。
「誰も聞いていませーん」
「だったら」
「響の事だもん。分かるよ」
「……」
「あーあ、コマチが羨ましいなー。こんなに想われて」
「……っ」
頬を赤く染めて黙り込む響。
未来はその姿に可愛いと思いつつ、ソッと彼女の頬に手を添えて、目と目を合わせる。
「でもね響。わたしもそれと同じくらい響の事を心配しているから──だから、無茶はしないで」
「……うん」
──何故か、響は彼女に強く出る事ができず、こうして素直に従っていた。
満足したのか未来は弁当を開けて食べ始める。響も食事を開始した。
「そういうコマチはどうなの?」
「……変わらない。相変わらず学校楽しんでいるかって聞いてくる」
答えて、深くため息。
「わたし、怖がられていて板場さんたち以外の友達できないんだよね……。
なんとか努力してみたけど、こっちを見たと思ったら悲鳴を上げて逃げたり、何故か気絶したり──」
わたし、呪われている、と落ち込み気味に呟く響だが──勘違いである。
響は人気者だ──それも百合的な意味で。
鋭い目つきに高い身体能力。さらに普段あまり喋らず、しかし進んで人助けや手伝いをする(響の努力)。
さらに何処から流れたのか、響不良説が良い感じに伝わり、まだ思春期の女の子達の胸を打ち──響はモテた。
モテにモテまくって──未来の目からハイライトが
消えた。
「……」
当然下駄箱にラブレターというテンプレなイベントも起きていたが、丁寧に検閲された後本人に返された。
本人に直接渡せない意気地無しは
帰れとの事。
告白しようとした相手も面接をした。愛の前に障害は乗り越えるものだが、未来の圧迫面接を通過した者は居ない。
何処かのツヴァイウィングの片割れも動こうとしたが未来が動く前に沈められた。
響を手篭めにしようとガチなお姉様は、未来が懇切丁寧にオハナシしてリディアンを去って貰った。
未来は、裏で色々と動いていた。
動いていたが──。
「大丈夫だよ。きっと友達ができるよ」
「だと良いんだけど」
何も語らず、いつものように過ごした。
響も何も気付かず、彼女と穏やかな時間を過ごし──。
「そういえば──」
「ん?」
「最近、こんな事言っていたなアイツ」
悪夢を見るって。
◆
時は少し流れて放課後。
現在クリスは──翼に横抱きにされていた。
「……」
「……」
夕陽に照らされる中、二人はお互いに無言で見つめ合う。
まるでそこだけ時間が止まったかのように。
「ん……」
「!?!?」
しかし突如翼が目を閉じ、口先を前に突き出して徐々にクリスへと近づき。
「な、何する気!?」
「ヘブ」
グイッと掌で顔を押し退けられ変な声が出る翼。
その際に力が抜け、クリスはその間に脱出して距離を取る。
「まったく……せっかく飛び込んできた所を受け止めてあげたのに」
「と、飛び込んだんじゃなくてぶつかっただけ……!」
「……それで? そのぶつかったクリス様は、一体何から逃げていたんだ?」
「……」
クリスが答えあぐねていると、遠くから足音が響く。
それに気付いたクリスの表情が苦いものになり、翼はそれで察したのか、彼女の手を取って空き教室に入る。
その後、クリスの名を呼ぶリディアンの生徒が通り掛かるが──そのまま行ってしまった。
「……どうやら学祭のお誘いのようだぞ?」
「……」
「まだ慣れないか? 普通の学校が」
「……うん」
響もそうだが、クリスもまた上手く馴染めないでいた。
彼女は考えてしまう。人を不幸にしてしまった自分が、戦いの場に居た自分が、平和な世界に居た彼女達の隣に居て良いのかと。
「まったく……良いに決まってんだろ」
「え?」
「お前がそう考えるのも勝手だが、伸ばしてくれてる手くらいは掴んでやれよ」
「……」
「そうしないと──フィーネが心配してまた出てくるぜ?」
了子ではなくフィーネと言ったのは──彼女を想ってだろうか。
クリスは翼の不器用な優しさにキョトンとし、しかしすぐにクスクスと笑い──。
「もうちょっと頑張ってみる」
「ああ、そうしろ! 困った時は翼先輩に相談してみな!」
彼女の言葉に、クリスは珍しく素直に頷いた。
「そういえばさっきの子達、可愛かったな。今度紹介してくれ」
「……」
すぐにいつも通りになったが。
◆
『【グオオオオオオ! ガアアアアアア!!】』
「……」
モニターの中で、聖遺物を次々と喰らい咆哮を上げるネフィリムを、顔を顰めて眺めるセレナ。
そんな彼女に背後から近付いたナスターシャが問い掛ける。
「そんなに不満ですか。ネフィリムを使う事が」
「当たり前です! だってアレはリッくん先輩を……姉さんを……!」
セレナの脳裏にあの日の光景が蘇る。
──大切な人を失ったあの日を。
ギュッと自分の体を抱き締める。もっと自分に力があればと後悔しない日は無かった。
そうすれば──。
「何事も力は使い方ですがね」
「……ウェル、博士」
「ただのウェルです──さて」
ウェルがモニターの中のネフィリムを見て──満足そうに笑った。
「どうやら順調なようですね。これなら早いうちに次のステップに行けるでしょう」
「次のステップ……」
作戦の内容を思い出し、思わずセレナが目を伏せた。
「ええ、そうです──祭りが始まりますよ」
彼らが話す中、ネフィリムは変わらず貪り尽くしていた──与えられた餌を淡々と。