【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第五話「創造──人の業。人の罪。人の悪意」

 緒川の調査により、マリア達が潜伏しているであろう場所が判明した。

 それは街の外れにある廃病院。

 ずっと昔に閉鎖されたはずだが──一年程前から物資が持ち込まれているらしい。

 時期的に関係無いと思われたが、他に怪しい場所は見当たらない為、ここを調査する事にしたらしい。

 いざ突入しようとして──響、翼、奏は後ろを振り返る。

 

「どうしたんだクリス。早く行くぞ」

「あまりモタモタしないで」

 

 ガングニール姉妹が急かすが、クリスはコマチを抱き締めて一歩もそこから動かず、ブンブンッと残像ができる程に首を横に振った。

 ついでにコマチも首を横に振りまくった。

 二人とも揃って顔を青くさせてガクブルと体を震わせていた。

 

「……もしかして」

 

 響の呆れたような視線にギクリと肩を跳ねらせる。

 その反応で奏も気付いたのか、ニヤリと笑った。

 

「……怖いのか?」

「だ、だって! いかにも出そうだし!」

「ブイブイ!」

 

 抗議を始めるクリスとイーブイ。

 どうやら幽霊やお化けといった物が苦手なようだ。クリスとコマチは揃って突入を拒否していた。

 そんな彼女達を見てどうしたものかと困り果てる奏と響。

 

 しかしそこで動く者がいた。

 

「寒いのか、子猫ちゃんたち」

 

 ソッと後ろからクリスに近付き。

 

「だったらオレが温めて──」

「きゃあああああああ!?!?」

「ブウウウウウウウウウウイ!?!?」

 

 しかし抱き締めようと触れた瞬間、絶叫したクリスの本気のビンタが炸裂。恐怖によって放たれたクリスの一撃は、翼を吹き飛ばすには十分だった。

 

「へブウ!?」

「あ、翼!? ご、ごめんなさい! まさかお化けの仕業──」

「いや思いっきりアンタの仕業だから」

 

 半分錯乱したクリスが、ガクンガクンッと翼の肩を掴んで揺さぶり、翼はどんどん顔を青くさせていく。

 関わったら次は我が身と判断し、ガングニール姉妹はスルーし、コマチは響の元へと避難した。

 

「それにしても光彦がお化け苦手なのって意外だな」

「……それもありますが、おそらく」

 

 コマチの悪夢はずっと続いている。

 夜中に目を覚まし、側に響が居る事を確認し、左腕を見て、安心して眠る。

 それを何度も続けている。

 響はそれが心配で、しかし本人は詳しい事を語らず──ただギュッと抱き締める事しかできなかった。

 

 

 第五話「創造──人の業。人の罪。人の悪意」

 

 

 現在、廃病院の中には響と翼、そしてコマチが突入している。

 大技が多い奏と遠距離タイプのクリスは外で待機し、敵が逃げ出した際に捕らえるように待ち伏せする事にした。

 クリスは凄く喜んだ。

 コマチは泣いた。

 翼は疲労困憊だった。

 

「何しているんですか……」

「いや、今回はオレ悪く無いだろ……」

「ブイブイ」

 

 日頃の行いでしょう、とコマチは言う。

 そうだな、と響が同意し。

 味方が居ない、と翼が涙を流す。

 

 それはともかく廃病院の奥へと進む二人と一匹だが、心無しか空気が重い。特に響と翼がそう感じ、クリス達ではないが何か出そうだと感じ──廊下の先に動く影が見えた。

 

「ブイ!?」

「まさか、本当に!?」

「いや違う──ノイズだ!」

 

 翼が叫ぶと同時に──彼女達は胸の歌を歌う。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron」

「Balwisyall nescell gungnir tron」

 

 それぞれギアを纏い、拳と剣を構えてノイズへと立ち向かう。

 コマチも彼女達に続いてシャドーボールをぶつけて煤へと変えていく。

 このままいけばノイズを全滅できる──しかしそうはならなかった。

 

「なに、これ……っ」

「体が、重い!?」

 

 どういう訳か響と翼の攻撃を受けたノイズが、炭素分解されずそのまま現界し続けている。

 加えて装者たちの動きも鈍く、息切れをし始めた。

 

「ブイ!?」

 

 彼女たちの不調に、コマチは嫌な予感がして前に出る。

 そして何発もシャドーボールを放ち、ノイズを倒していく。

 その間に響たちは後ろに下がり、自分たちの不調を調べてもらう。

 

『響さん、翼さんの適合係数が低下しています!』

『それによりギアの力を引き出せていないと思われます』

 

 オペレーターの報告を受けて苦虫を噛み潰したような顔をする二人。このまま無理して戦い、さらに大技を使おうものならバックファイアで装者の身が持たない。

 つまり現状まともに戦えるのはコマチだけ。

 それを彼も分かっているから前に出た、という事。

 二人は不安に思うが、戦力的には問題無い。コマチはノイズ程度なら傷付けられる事は無く、むしろダメージを与えられた事はなかった。

 

 このままなら何も問題ない──このままなら。

 

「──っ! コマチ、避けて!」

 

 最初に気付いたのは響だった。

 響の声に反応したコマチが、その場から跳んで後ろに下がると同時に、先ほどまで居た場所に何かが襲い掛かった。

 床をバリバリと噛み砕き、何も喰えていない事を確認したソレは、すぐに回避したコマチに襲い掛かる。

 

「オラッ!!」

 

 そこに翼が横から割って入り、返す刀で弾き飛ばす。

 彼女のアメノハバキリはしっかりと斬り込み傷を付けた筈だった。しかし──。

 

「アームドギアで斬ったのに炭素分解しない!?」

「という事は、ノイズじゃない……?」

 

 彼女たちの推測は、闇の奥からの拍手が答えた。

 

「聡いですね。流石はあのフィーネを倒しただけはある」

「お前は……」

「ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス。親しみを込めてウェルと呼んでください。以後、お見知りおきを」

「以後なんて無い──アンタ達は今日ここで潰す」

 

 コマチが狙われているからか、響の言葉にはトゲがある。

 しかしウェルは余裕の表情を崩す事なく、ある装置を取り出し──コマチに喰いつこうとしていたネフィリムに強い電流を流す。

 

【グオオオオオオオオオオ!?!?】

「大人しく戻りなさいネフィリム。今はまだその時ではないのですから」

 

 電流を流すのを止めると、ネフィリムはコマチの方を強く睨み付けてから檻の中へと戻った。

 これでようやく話ができると一息ついて、ウェルは彼女達──否、コマチへと視線を向ける。

 

「それにしても随分と愛されていますね──キマイラ」

「──ブイ?」

 

 その呼称にコマチは不思議そうに首を傾げ、それを見たウェルが「ああ、そうでしたね」と思い出したかのように呟き、深い笑みを浮かべる。

 

「人を助けて記憶を失っているんでしたね……ククク」

「──何がおかしい」

 

 その笑みに強い不快感を覚えたのか、響が目付きを鋭くさせて前に出た。

 

「おっと勘違いしないでください。可笑しくて笑っているんじゃありません。嬉しくて笑っているんですよ」

「……」

「傷ついた人を助け! 惜しまれながら逝く! それを先史文明期から幾度となく続ける──奇跡の体現! 救いの英雄! これが笑わずにいられましょうか!」

「……っ」

 

 ギリっと音が鳴るほど奥歯を噛み締める響。

 人助け? 奇跡? 救い? 英雄? 

 ──冗談じゃない。

 アレは、そんな生優しいものじゃない。

 アレは、肯定してはいけない。

 アレは──褒め称えて良いものではない。

 何故なら──()()()()の為に、響は、大切な家族を失いかけたのだから。

 

「しかし、それも失われた──本当に残念です。フィーネも余計な事をしました」

「──いますぐ口を閉じて潰されるか、潰されてから口を閉じるか決めろ」

「ん?」

「好きな方を選ばせてやる……!」

 

 だから、ウェルのその言葉に響は我慢する事ができなかった。

 迸る敵意を胸に抱いてウェルに今にも飛びかからんとばかりに、拳を握り締めていた。

 

「落ち着け響」

「止めないでください、アイツは」

「良いから止まれ──それは、後に取っておけ」

「……!」

 

 肩に手を置き止める翼に対して、苛立ち混じりに視線を向ける響。

 しかしすぐに目を見開いた。

 いつも後輩の前では飄々とした態度を取っている翼が──ブチ切れていた。響の肩に置いている手にも力が入り、爆発しそうな怒りを必死に押さえ込んでいた。

 

 しかし、それも無理もない。

 

 翼は、大切な人を助けて欲しいと願い──そして叶えられた。救われた。奇跡をその目で見た。

 それと同時に、大切な家族を失った。

 嬉しかったと思った事はない。良かったなんて口が裂けても言えない。

 

 笑える訳が無かった。

 

「ずっと気になっていた事がある──キマイラって何だ?」

「んん?」

「デルタショックの時、米国のエージェントも言っていた──そっちに居た時の、光彦の名前か?」

 

 もしもそうなら──合成獣(キマイラ)と、研究機関がそう名付けたのなら、黙っていられる自信が無かった。

 

「ふむ、難しい事ではありません。僕たちが彼の事を【完全聖遺物キマイラ】と呼んでいただけです」

「──完全、聖遺物?」

 

 何の冗談だ、と翼の頭の奥が白く染まった。

 

「おや、その辺りの情報は隠されていたようですね。相変わらず固執していたようですねフィーネは」

「どういう事だ! 光彦は、ずっと昔から生き続けた──」

「何を勘違いしているんです? ()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 誰もが勘違いをしていた。

 

「フィーネは否定していましたが、キマイラは先史文明期から、いやそれより以前から活動していた生きる聖遺物! 一度起動すれば誰もが扱える完全聖遺物と何ら変わらない! 奇跡を起こす願望機!」

 

 ノイズを倒せるのは──聖遺物の力。

 触れられても炭に変わらないのは、聖遺物だから。

 

「誰もが求めた! その力が欲しいと! ──そしてFISは手に入れ、さらなる力を求め──ある力を発見した。それは──聖遺物を吸収する力」

 

 響の脳裏に、デュランダルを吸収したコマチの姿が浮かび上がった。

 

「あらゆる聖遺物が彼に与えられました。姿を変える力。人を殺す力。力を操る力。生き物を生み出す力。できる事を増やせば、願いの幅も広がると信じていたのでしょうね」

 

 しかし、度重なる実験に嫌気が差し、ある日キマイラは消え──すぐに見つけた。

 その際に捕らえた時の姿は、随分と変わり観測される力も強くなっていたが、彼らからすればどうでも良かった。

 実験さえできれば。

 実験の際に、他の子ども達に手荒な真似をすれば暴れると言われた際には、実験施設を複数に分けて人質とし言う事を聞かせた。

 全て、実験の為だった。

 

「それもネフィリムの騒動を機にキマイラが()()し消滅した事で終わりましたが──」

「──」

「こうして十全に動いている姿を見て、僕も安心しました」

「──」

 

 二人の怒りのボルテージが上がっていくが──ウェルは気付かない。

 

「ああ、そうだ。キマイラには──いや、アカシアでしたね。アカシアには随分と助けられました。君の細胞は、僕の研究で大いに活躍しましたよ」

 

 そしてニッコリと笑って──お礼を言った。

 

「おかげで僕の野望も後一歩という所まで進みましたし、お小遣いも稼げました──どうも、ありがとうございます」

 

 ──彼女たちの逆さ鱗を激しく刺激する様に。

 

『──いい加減その口を閉じろ!!! このクソ野郎がぁああああ!!!』

 

 二人は激昂し──散布されたAnti Linkerを物としない程の力を解放した。

 

 

 ◆

 

 

「うぇ!? 何で怒っているんだ!?」

 

 いや、あんな言い方すれば怒るでしょ? 

 二人の怒気にビビり散らすウェルって男。

 響ちゃん達はさっきの不調が嘘の様にノイズをブチのめして、真っ直ぐにウェルさんに向かっていく。

 

「くそ……!」

 

 そして──ってアイツがソロモンの杖を持っていたんかい!? 

 ウェルさんはソロモンの杖でノイズを呼び出すと、壁の様に設置していく。

 時間稼ぎか? と思っていたら病院が激しく揺れた。

 いや、違う。これは外か……? 

 俺の疑問に答える様に、響ちゃんと翼ちゃんに通信が入る。

 相手は──奏さんだ。

 

『響! 翼! こっちにも敵が!』

「なんだと!?」

『それにコイツは──うわ!?』

 

 通信が途切れると同時に、再び病院が激しく揺れる。

 そしてウェルさんの近くの壁が破壊され、そこから白いギアを纏った女性──確かセレナさんが入ってきた。

 新手の登場に、二人は構えを取る。

 それに構わず彼女はウェルさんを抱えた。

 

「どうもありがとうございます。このままだと僕の命も危なかったもので」

「……アナタが協力者でなければ、引き渡したいところです」

「あらら? 随分と嫌われていますねえ」

 

 何やらブツブツと言い合いながらも……セレナさん達は外へ逃げて行った。

 やばい、追わないと! 

 

「コマチ!」

「ブイ!」

 

 響ちゃんの呼び掛けに応じ、彼女の肩に乗る。

 そして二人は外に出てウェルさん達を追って──マリアさんの前で膝を着いている二人の元へ駆け付けた。

 

「奏!」

「クリス!」

 

 二人を助け出そうと翼さんがマリアさんに斬りかかり──割り込んできた()が受け止めた。

 

「──!? この、刀は……!?」

 

 翼さんが驚いた顔をする。

 しかしそれも無理もない。

 だった、翼さんの刀を受け止めた刀は、それを為したキリカちゃんは──。

 

「なんと──アメノハバキリ、デス!」

 

 ──翼さんと同じ、アメノハバキリのシンフォギアを纏っていたのだから。

 アームドギアで翼さんを斬り払い、キリカちゃんはマリアさんとセレナさんの近くに降り立つ。

 奏さん達も痛む体を抑えて下がった。

 

「どういう事なんだ、これは!?」

「どうもこうもねえよ。それに──」

「キリちゃんが使えるのは──アレだけじゃない」

「──何があったの?」

 

 混乱が抜け出せない俺達に──キリカちゃんは自分の力を見せつける。

 

「こういう事、デス!」

 

 アメノハバキリを解除し、懐から

 別のコンバーターを取り出し、──アレって奏さんが持っているのと同じLinkerを使った!? 

 一瞬痛みに顔を歪めたキリカちゃんは──歌を歌った。

 

「Killter Ichaival tron」

 

 この歌は──クリスちゃんの歌!? 

 自分の耳を疑っている前でキリカちゃんは──イチイバルのシンフォギアを纏った。

 

「──イチイバル……だと!?」

 

 動揺を隠せない俺たちに、ウェルさんが興奮した様子で叫んだ。

 

「どうですか僕の最高傑作は!? 僕の開発したキリカくん専用Linker! フィーネからくすねた聖遺物で作った数多のシンフォギア! そして──」

 

 イチイバルを纏ったキリカを指差し──俺たちは信じられない言葉を、彼は履いた。

 

「僕と調博士が作り上げた過去! 現在! 未来において最高にして! 最優にして! 最善な作品!! ──()()()()()()キリカくん!!」

 

 キリカちゃんが──ホムンクルス。

 

「それって──」

「人造人間って事か?」

「人に作られた──人間」

「……」

 

 俺達の動揺を他所に、キリカちゃんはギアを構えて──()()()を揺らして襲いかかってきた。

 

 

 ◆

 

 

『調はアタシが守るデース!』

『いつまでも一緒デスよ?』

『──奇跡があるのなら、生きたいデス』

『ごめんデスよ調──どうか、生きて』

 

「──切ちゃん」

 

 過去を想い、胸を痛め、見上げる調の先には──。

 

「……」

 

 生命装置を付けられた()()の切歌が目を閉じて、穏やかに眠っていた。

 ずっとずっと──親友を置き去りにして。

 




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