【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~ 作:カンさん
「姉さん大丈夫?」
「何が? ――って聞くのは無粋かしらね」
カ・ディンギル跡地にて、マリア達は二課の装者が来るのを待ち受けている。
既にウェルの持つソロモンの杖によって戦いの狼煙は上げられている。ノイズの反応を探知した二課がすぐに駆けつけるだろう。
この場に調とナスターシャは居ない。
調は「付き合いきれない」と両断して切歌の居るアジトに帰り、ナスターシャは非戦闘員の為、檻の中のネフィリムを監視しながら、戦いの観測を行なっている。
そんな中、セレナが問い掛けたのは――先日の出来事。
マリアは、追って来た米国のエージェント達をガングニールの力を用いて返り討ちにした。
殺してはいない。しかしトラウマを刻み込むには十分な傷を与え――二課に回収させた。
セレナは、その事を心配していた。
優しい姉が人を傷付ける事が――心を殺して率先して
泥を被り続ける姉が心配だった。
しかし、この小さな姉は――。
「大丈夫よセレナ――わたしは立ち止まっていられないから」
「でも、もしリッくん先輩が居たら――」
「――セレナ」
マリアの感情を押し殺した冷たい声が、セレナを黙らせる。
「あの人はもう居ないの。そんな【IF】の話をしても仕方ないし――わたしは、わたしの行いを、あの人を理由にして正当化させたい訳じゃ無い。
「姉さん……」
「――わたしはあの人とは違う。わたしは――波導の勇者にはなれない」
冷たい風が彼女達の頬を撫で。
「来ましたね」
ウェルの言葉を聞き――マリア達はギアを纏った。
◆
「ブイ……」
「……どうしたの?」
響ちゃんが心配そうにこちらを見る。
どうやら俺の様子がおかしい事に気付き、気遣ってくれているようだ。
それは嬉しい。でも――どうする事もできない。
だって――。
「ブイブイ?」
「――はぁ。何度も言っているでしょ。マリアが居る以上、わたしも出張らないと勝負にならない。負けたら向こうは確実にアンタを要求してくる――絶対に負けられない」
この通り、今回だけは響ちゃんは二課で待機できないか? と提案しても却下される。
他の皆は、俺の様子を見て血相を変えて賛同したが……彼女が譲らなかった。そして結局こうして皆で出動した訳だけど……。
「……」
「……」
ツヴァイウィングの二人が暗い。
仕切りに俺と響ちゃんを気にして、辺りを警戒している。
――あのライブの事件の事を思い出しているのだろう。
不測の事態に備えて、これまでに無いくらいにピリピリしている。
クリスちゃんもその空気に当てられてか、表情が固い。
そして、それを和ませる余裕が俺には無く、そのまま――決闘の場所へと着いた。
マリアさん。セレナさん。キリカちゃん。ウェルさんが既に居り、学園祭で見た調って子は居ない。
「ああ、調くんならお留守番ですよ。代わりに僕が出張って来ました」
「ちっ。あの顔に弾丸ぶち込んでやりたかったのに……!」
おっとクリスちゃん過激なこと言っている。
……よっぽど友達への態度が腹に据えかねているようだ。
彼女の様子にキリカちゃんは複雑な顔をしている。嬉しいような悲しいような、そんな顔だ。
「ところで二課の皆さん。ここで僕から一つ提案があるのですが」
一つ前に出たウェルさんが、にこやかな、そしてメチャクチャ胡散臭い笑顔で――耳を疑う事を言った。
「我々に力を貸してくれませんか?」
『――は?』
彼の言葉に響ちゃん達だけではなく、マリアさん達も呆気に取られていた。
何を考えているんだろうあの人は。
「僕たちは別に世界を混乱させたい訳ではありません。ただ、人類救済の為に動いているのです」
「は! 救済? これから天変地異でも起きるっていうのか?」
翼ちゃんが鼻を鳴らして、睨みつけて言うが――彼はそれを肯定した。
「その通り! これから人類は滅亡の危機に瀕する――月の落下によって!」
『―!?』
彼の言葉を、俺たちは信じられない、と驚いた。
「そんな……月の公転軌道は各国機関が計測している……落下するなんて答えが出たら黙って――まさかっ」
クリスちゃんが何かに気付いた。
その反応を見てウェルさんが満足気に頷く。
「流石にフィーネの所に居ただけに視野が広い――そうです。黙ってしまうんですよ、国は。さらなる混乱を招かない為に、とか何とか理由を付けてね」
「――もしそれが本当だとしても、嘘だとしても、何でコマチを狙う?」
しかし響ちゃんにとってはそこまで重要じゃないようで、苛立ちながら尋ねた。俺を狙う理由を。
分かりきった事だと言わんばかりにウェルさんは肩を竦めて答える。
「そんなの必要だからですよ」
チラリとこちらを見るウェルさん。
「先日話した通り、彼には聖遺物を吸収する力がある――そして、それを扱う力もね」
「聖遺物を、扱う力?」
……俺にそんな力が?
「その通りです! フロンティアを起動させる事ができるネフィリムを吸収させ――」
そしてゴソゴソと取り出したのは――モンスターボール!?
「このフィーネが作った制御装置にて操作し、月の落下の阻止を行う――簡単でしょう? だからどうです皆さん? どうかご協力してくださいませんか?」
ウェルさんの提案の答えは――。
「Croitzal ronzell gungnir zizzl」
「Imyuteus amenohabakiri tron」
「Balwisyall nescell gungnir tron」
「Killter Ichaival tron」
戦闘態勢を構えてでの――拒絶。
俺も操られたく無いので、大地を踏み締めて拒否の姿勢を取る。
それを見たウェルさんは不思議そうな顔をした。
「おかしいですね……失敗ですか」
「いや、成功しているよ――挑発って意味ではこれ以上ないくらいにな!」
奏さんが怒気を撒き散らしながら突っ込み、槍をマリアさんに向かって叩き付けんと振り被る。
マリアさんそれを冷静に受け止めようとして――。
「――光彦!」
奏さんの合図と共に、
いきなり現れた俺にマリアさんがピクリと止まる。
その隙を突いて──フラッシュ!
「っ──」
「眩しい……!」
「まさかの目眩しデスか!」
作戦は成功したようだ。
俺は今ある技を使えるようにしている。その技はサイドチェンジ。隣の仲間と位置を入れ替える技だ。攻撃技じゃないけど、使い方次第でこのように虚を付ける!
そしてフラッシュで目が眩んだ隙に──。
「はぁああああ!!」
「ぐっ──」
今度は響ちゃんと交代して、彼女の拳がマリアに届いた!
それでも硬化させたマントで受け止められているのは、流石マリアさんと言った所だ。
響ちゃんが追撃の連打を仕掛けるけど、おそらく波導で見切られている。
「姉さん!」
「ちょこざいな!」
視界が戻ったのか、セレナさんとキリカちゃんが援護に向かう。
それを翼さん、奏さん、クリスちゃんが立ち塞がった。
「――!?」
「こいつら――まさかマリアが狙いで!?」
そう、今回俺たちはマリアさんを先に攻略する事にした。
前回、マリアさんを足止めして他の装者を倒そうとしていた俺たちだが、マリアさんのスペックによるゴリ押しにより敗北した。
そこで閃いたのが今回の作戦だ。
基本は一人の装者がマリアさんの相対するのだが――。
「一人で勝てると思っているの!?」
握り締めた槍を響ちゃんに叩きつけようとするマリアさん。
しかし当たる寸前に、俺と響ちゃんの位置が入れ替わる。
目の前にガングニールが迫り来るが――「まもる」で受け止める。
「なっ――」
動揺してマリアさんの動きが止まり、その隙に今度は翼さんと入れ替わる。
そしてそのままアメノハバキリの一閃が叩き込まれる。
「っ――」
「相変わらず化け物染みた反射速度――だが!」
翼さんの一太刀が、マリアさんに掠った!
痛みに顔を歪めるマリアさん。やっぱり俺の予想は正しかった。
マリアさんの波導の力は凄い。万能に見える。響ちゃんの雷速を捉える程だ。どれだけ速くても、どれだけ手数が多くても見切られる。
でも、瞬間移動なら虚を付ける。
マリアさんの強化された探知能力が逆に仇となっている。
だから響ちゃんの攻撃が通じる。
そして――。
「っ!?」
「ブイブイ!」
マリアさんは俺を本能的に攻撃できない。
……いや我ながら酷いと思うよ?
でもこうでもしないとこの人に勝てないから。
とにかく、俺がチェンジした一人がマリアさんを強襲し、他の三人は他の装者を牽制する。
この流れを崩さないのが勝機と見た。
「――だったら!」
それをマリアさんも分かっているのか、俺を無視して跳躍する。
そしてセレナさん達を牽制している響ちゃんの所に向かい――俺と響ちゃんの位置が入れ替わる。その際にマフラーだけが瞬間移動せず、フワリと俺の体に巻き付いた。
「っ……!」
再び止まるマリアさん――。
「うおらあああああ!!」
「カフ……!?」
――に、再三入れ替わった響ちゃんの拳が突き刺さる。
直撃だ……!
痛みに顔を歪めるマリアさんに、さらに拳を振り抜く響ちゃん。
しかし次は受け止められ、距離を取られる。
「ちっ……!」
舌打ちをするマリアさん。
響ちゃんも手応えを感じているようで、拳を掲げて構えを取る。
俺はそんな彼女の肩に乗ってマフラーを返した。
――このままいけば勝てる。
そして、話を聞かせて貰うんだ!
でもやっぱり、この方法は辛いな……。
◆
檻の中でソレは目覚めていた。
近くに旨そうな気配がしている。
近くに飢えを満たしてくれそうな気配がしている。
近くに――忌々しい気配がしている。
ああ――ああ……!
そこにいたのか。
居なくなって物足りなかった。
会いたかった。
会いたくて会いたくて――涎が溢れ出る。
【――グオオオオオオオオオオ!!】
ネフィリムは咆哮し――己を縛る全ての拘束を強引ブチ破った。
そして向かうのは――極上の餌がある戦場。
◆
『――マリア! ネフィリムが!』
「マム!?」
戦闘の最中、マリアの元に緊急通信が入り――悪寒が走った。
そしてそれはマリアだけではなく、その場に居た全員が感じ取っていた。
皆が見上げる。影が現れる。戦場に獣が降り立つ。
【――グオオオオオオオオオオ!!】
咆哮を上げたのは堕ちた巨人――ネフィリム。
ネフィリムはダラダラと涎を垂らし――響達に襲い掛かった。
口を大きく開け貪り尽くそうとし、しかし避けられる。
さらにそれをネフィリムが追いかけ――その様子を見たセレナがウェルに詰め寄った。
「ウェル博士! あれは貴方の差し金!?」
ネフィリムにトラウマのあるセレナの動揺っぷりは凄まじく、ウェルを見る目は厳しかった。
それに対してウェルはフッと笑みを浮かべる。
「何を言っているんですか? 僕は何もしていませんよ?」
「白々しい……!」
「人聞きの悪い。なら、これで良いですか?」
そう言ってウェルは端末を取り出し、スイッチを押す。
するとネフィリムに電流が流れ動きを止め――電流を流している首輪を強引に掴み、引き千切った。
「あら……? 首輪が外れましたね」
タラリと冷や汗が流れる。
どうやらウェルにとっても予想外のようで、それを感じ取ったセレナも困惑する。
なら、この状況は……?
「くそ、なんだコイツ!」
「タフで固くて早い! 油断するな皆!」
翼と奏が迎撃に出るが、彼女達のアームドギアでは傷付ける事ができない。加えて動きが早く、何度か噛み付かれそうになっていた。
もしネフィリムが捕食ではなく攻撃を選んでいたら危なかったのかもしれない。
そしてネフィリムの狙いが――コマチでなければ、装者たちの誰かは片腕を喰われていたのかもしれない。
「ブイブーイ!?!?」
【グオオオオリュリュリュリュリュ!!】
何で自分を追いかけるんだとコマチが悲鳴を上げ、それすら最高のスパイスと言わんばかりに嗤いながら追いかけるネフィリム。
「コマチをいじめるな……!」
それに怒りを燃やすクリスがイチイバルの一撃を放ち、ネフィリムに風穴を空けようとする。
しかし、クリスの放つ弾丸ですらネフィリムの躯体に傷一つ付けられない。
焦るクリス。助けようと走る翼と奏。
そして、それ以上の速さでネフィリムをぶん殴る――響。
【グオ!?】
紫電を纏った一撃を喰らったネフィリムは、ここで初めて痛みに声を上げて吹き飛ばされた。
コマチを庇うように響が立ち、怒りの表情を浮かべて拳を握り締める。
響は、怒っていた。
コマチを喰らおうとした事。逃げるコマチを嗤った事。そして何より――悪意を持って追いかけている姿に、過去を思い出し、そこにコマチを落とし込まれた事が許せなかった。
だから響は手加減しない。
「はああああああ!!」
紫電を纏い、四方八方から拳を叩き付ける響。
ネフィリムも対応しようと、気配のした方へと口を開き噛みつこうとするが、尽く回避されダメージが蓄積されていく。
紫電がバチバチと鳴り響き、まるでそこは台風の目。
響の拳が当たる度にネフィリムの肉が削ぎ落とされていき、このままでは破壊される。
誰もがそう思った時――ネフィリムの口角が上がった。
まるで悪魔が嗤ったかのように。
「これで、最後――」
渾身の一撃を叩き込む響――しかしその一撃は、ネフィリムが体内から放出した紫電によって阻まれる。
――響によって蓄積されたのはダメージだけでは無かった。
彼女自身が何度も流し込んだ雷を、ネフィリムは最後の最後に使った。
拳を突き出したまま、体が麻痺し動けない響。
「響!!」
それをネフィリムは悠々と大きく口を開け――。
「逃げろ、逃げるんだ!!」
「くそ、間に合わ――」
仲間たちが悲鳴を上げるなか――鮮血が舞った。
◆
――来る痛みに対して、思わず目を閉じてしまった。
グジュリグジュリと肉を貪り食う音が直ぐ近くでする。
グロテスクで、鼻につく血の匂いに吐き気を催し――違和感に気付く。
痛くない。
感覚が麻痺したのか? と思い――彼女は自分の両腕が、それどころか体全体の何処にも痛みが無い事に気付いた。
目を開けて、自分の両腕を見下ろす。
綺麗な手がそこにあった。
しかし。
視界の隅に、血があった。
ネフィリムはその血や毛すら余す事なく腹に収める為か、地面事それを喰った。
響が顔を上げる。
ネフィリムが、血に濡れた口を動かし咀嚼していた。
口の端に――見慣れた尻尾があった。
肩に乗った際にクルンと巻き付けて来る――温かくふんわりとした尻尾。
それが血に濡れて根本が赤く染まり――それすらネフィリムがゴクンと飲み込んだ。
――何が起きた?
――何でわたしは無事なの?
――アイツは、何を喰った?
その答えは――仲間の叫び声で理解させられた。
「――
クリスが叫んだ。
響はその声がした方へ向き――涙を流し、絶望した表情をしているクリスを見つけた。
そうだ、コマチ。アイツは何処にいる?
ネフィリムに狙われているんだ。早く居場所を確認して助けないと。
そう思って響は辺りを見渡して――見つける事が出来なかった。
視界に映るのは、泣き叫んでいる翼、奏、クリス。
顔を青く染めて茫然としているセレナとキリカ。
驚きの表情を浮かべてポカンとしているウェル。
そして、血が出る程拳を握り締め俯いているマリア。
居ない。何処にも居ない。
仲間が保護している訳でもなく、敵が捕らえている訳でもない。
視線を再びネフィリムに戻し――響は気付いた。
ネフィリムの足元に、彼女のマフラーがある。
首元を触り、何も無い事に気付き――思い出した。
コマチとのサイドチェンジで時折、響のマフラーだけ取り残される事があった事を。
響が激しく速く動く事、そしてコマチがいまいち使いこなせていなかった事により起きた現象だ。
しかし響はその事を気にしていなかった。
コマチがすぐに返してくれるし、自分に巻き付いた響のマフラーの温もりに喜んでいた姿を見て早く技を完璧に習得しろと言う気が無くなったからだ。
――だが、そのマフラーが示していた。
喰われかけた響がサイドチェンジにより、別位置に移動した事により難を逃れた事を。
そして何より――コマチが、ネフィリムに喰われた事を。
【――クギャギャギャギャ】
嗤う。
【ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ】
悦ぶ。
【ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ】
――勝ち誇る。
ネフィリムは、かつて自分を下した相手を貪り食う事により――満たされた。
ご満悦なネフィリムに対し――響は。
「――ああ……」
ただただ現実を受け入れる事ができず。
「ああああああああああああああああ!!!!!!」
泣き叫ぶ事しかできなかった。
第八話「喪失──さよならバイバイ」
話の内容によりタグの「イーブイ」を外しました