【完結】戦姫絶唱シンフォギア ~キミに決めた!~   作:カンさん

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第十話「回帰──忘れたあの想いをもう一度」

「本当、よく生きていられるよね〜?」

「知らないの? 特異災害保険って言って、ノイズに襲われて怪我すればお金が貰えるらしいよ?」

「えー……あの子そこまでしてお金が欲しいの?」

「信じられないよね? 人殺してまで」

「人殺し……」

「金の亡者……」

「なんでアナタが生きてるの?」

「お前が死ねば良かった」

 

 ──アイツと出会って、もう見なくなった夢。

 わたしの目の前には、地獄が広がっていた。

 わたしを苦しめた人が、わたしを苦しめる言葉を吐き続けている。

 わたしは、ただ生きるのを諦めなかっただけだ。それなのに、彼女たちはそれを認めてくれなかった。

 心がクシャクシャになって、耐えられなくて──家族をめちゃくちゃにして壊した。

 

 わたしは、自分の家から飛び出した。

 それでも人の悪意がわたしに纏わり付き、足が縺れ、黒い炎がこの身を焼き尽くさんと蝕んでいく。

 

 助けて、と手を差し伸ばして何かに触れる。

 心地良い温もり。

 グイッと炎から引っ張り出され、わたしの前に居たのは……。

 

「コマチ!」

 

 やっぱりコマチはわたしの日陰だ。

 苦しい時に助けてくれる。

 ほら、今だっていつもの笑顔で──。

 

 あれ? なんで──そんなにホッとした顔をしているの? 

 なんでいつもの笑顔じゃないの? 

 なんで──そんなに申し訳なさそうな、悲しい顔をしているの? 

 

 コマチが、トンッとわたしの胸を押す。

 決して強くない、それどころか優しい衝撃に、何故かわたしは抗えず後ろへと退がる。

 

 ダメだ。

 

 行っちゃダメだ! 

 

「コマ──」

 

 手を伸ばそうとして。

 

【グチャリ】

 

 目の前でコマチは──喰われた。

 血飛沫が撒き散らされ、頬に生暖かいモノが触れる。

 それにそっと触れて、自分の手を見て──。

 

「──あ」

 

 この手は、何処までも呪われているのだと──改めて気付かされた。

 

 ──わたしが、コマチを殺したんだ。

 

 

 第十話「回帰──忘れたあの想いをもう一度」

 

 

「──何だよこれ」

 

 コマチを失い失意の底にいる二課の装者たち。

 本来なら療養して貰いたいところだが──そうも言っていられなくなった。

 弦十郎も初めは、今の彼女たちに言うつもりは無かった──しかし、間が悪く聞かれてしまい、問い詰められ、話す事となった。

 

 弦十郎が貼り付けたのは、響のカルテ。

 そこに映し出されているのは──全身を蝕むガングニール。

 シンフォギアとして纏うためにエネルギー化と再構成をした結果だ。

 

「なんで……!? 今までこんな事!」

「──響くんは、戦う時かつての光彦くんの力を使っていただろう?」

「……ああ」

 

 弦十郎の問いに、奏が胸元を握り締めながら答えた。

 今回の事で嫌でも思い出す──あの日のライブの事を。

 大切な家族を喪失し、胸に残った力。

 響は、奏と同じ状態になっている。……痛い程、彼女の苦しみが分かる。

 

「響くんのあの力はシンフォギアに干渉する力と思われていたが──正しくは聖遺物に作用する」

「聖遺物……」

 

 翼は、初めて響と戦った日の事を思い出していた。紫電を纏った拳であっさりと剣が砕かれ、意識を刈り取られていた事を。

 今のいままで弦十郎の言うようにシンフォギアに干渉し機能不全を起こさせていたのだと思っていたが──。

 

「響くんは、ずっと前からガングニールを纏っていた……それも何度か暴走して。しかしその後、今回のような侵食は見られていない──それは、彼の力がガングニールの侵食を阻んでいたからだ」

 

 先ほどの戦いの際にも、紫電は響の体から突き破って生えた結晶を打ち消していた。

 まるで響を守るように──否、実際に守っていた。

 彼女を化け物にしないように。

 ただの少女のままで居させる為に。

 しかしその力も響の憎悪で抑制されてしまった。その結果、響の激情と暴走により一気に侵食が進み──現在に至る。

 

「そんな……! だったら、このままだと響は!?」

 

 聖遺物との融合など、ろくな事にならないと誰もが分かっていた。

 クリスの悲鳴に弦十郎は顔をしかめ……血を吐くように言った。

 

「このまま融合が進めば──響くんは死ぬ」

「──そんな」

「そうでなくてもこのまま融合状態が続けば、それは果たして人として生きていると言えるかどうか──」

 

 

 

「──関係、ない……!」

 

 バッと弦十郎たちが会話に割り込んだ声へと振り返る。

 そこには、肩で息をし、目を血走らせた響がいた。

 彼女の名を呼び、響の元へと駆け寄る三人。

 しかし彼女はそれを無視し弦十郎の前に立つと言い放った。

 

「ここから出して」

「……何をする気だ」

「決まっている」

 

 ──アイツら全員殺しに行くんだ。

 

「っ……!」

 

 やはりか、と苦い表情をする弦十郎。

 この部屋に入ってきた彼女の目は──闇よりも昏く、ドロリとした憎悪が渦巻いていた。

 クリスたちも響の言葉に目を見開き、しかしすぐに止めるべく口を開いた。

 

「響! そんな事しても意味がない!」

「そうだ。──光彦はそんな事望まないんだ」

「思い出して……コマチの優しさを。アナタがその道を歩めばどんな顔するか……」

 

「うるさい!!」

 

 だが──彼女たちの言葉は届かなかった。

 

「止めるのか? このわたしを!」

 

 振り返った響の目を見て──全員息を呑んだ。

 そこには──何も映っていなかった。

 仲間の筈である奏たちの事が見えておらず、彼女を想った声が耳に入らず、憎悪がグルグルと廻り続けていた。

 

「意味がない? あるさ、アイツらを殺せばコマチが浮かばれる! この感情も晴れる! 

 

 コマチが望んでいない? そんな事はない! 死ぬ瞬間痛かった筈だ! 怖かった筈だ! だったらそれ以上の痛みと恐怖を与えてやる!」

 

 ツヴァイウィングの二人の言葉を否定し。

 

「アナタたちは慣れているからそんな綺麗事が言えるんだ!」

「っ! なんだとテメェ! もう一回言ってみろ!」

「やめろ翼! 響も言い過ぎだ! あたしたちだって……!」

 

 慣れるわけがない。大切な人との別れなど。

 それが分からない響ではない、のだが──。

 

「響! そんな言い方──」

「──お前が言うのか?」

「──え?」

 

 しかし今の彼女は冷静ではなかった。

 

「思い出してだと? アイツの優しさを? 

 この道を歩けばどんな顔をするかだと? 

 ──かつて、わたしからアイツを奪ったお前が、それを言うのか……!?」

「──」

「それはお前が一番分かっているのじゃないのか!? 言ってみろ雪音クリス!!」

「ちが、わたしは、そんなつもりじゃ」

 

 響の剣幕に、言葉に、クリスは顔を青褪めて、体を震わせて、しかし答える事ができなかった。

 なぜなら、響の言っている事は悲しい程に的を得ており、クリスの忘れてはならない罪だからだ。

 

「いい加減にしろ!」

 

 それに翼がついに切れ、響に掴みかかった。

 

「お前がやっている事はただの八つ当たりだ! そんな事してもどうにもならないんだよ! ──死んだ奴は、生き返らないんだよ!」

 

 翼の脳裏に一人の女性が浮かび上がる。

 

「それでも! 残された側は必死に生きていかないといけないんだ! 辛くても! 苦しくても! それが助けられた側の、託された側の義務だ!」

「──」

 

 翼の真っ直ぐな言葉に、真っ直ぐな眼差しに、ギリッと響は奥歯を噛み締める。

 胸の奥がざわつき、目の奥がチカチカし、漏れ出る息が熱くなる。

 

「響くん」

 

 そんな彼女に、弦十郎が司令として、大人として、響を止める為に想いを告げる。

 

「君の気持ちは、痛みは、分かっている筈だ──故に君を此処から出す訳には行かない」

「っ!! なんで!?」

「今の君を送り出せば、俺たちが──いや、君自身が後悔する」

 

 ポンッと響の肩に手を置く弦十郎。

 

「君は休むんだ。いや、もう戦わない方が良い。もし君に何かあったら俺たちは彼に──」

「……分かった」

 

 俯いた響が頷いた。

 それに弦十郎がホッと息を吐いた。危ういかと思っていたが、仲間との時間が彼女を引き止める事ができたのだと、彼は安心した。

 

「もう、いいよ……」

 

 しかしそれは。

 

「響くん?」

 

 彼の甘さが招いた──誤ちだった。

 バチンッと黒雷が弦十郎を襲い、彼は膝をガクガクと震わせながら踏ん張る。

 しかしそれ以上は無理だった。

 弦十郎はまともに動く事ができず顔を上げて──能面のように無表情の響を視界に捉えた。

 

「アイツを守れない此処は要らない」

 

 黒雷が響に纏わり付くように迸り、黒ずんだ黄色い結晶が彼女の体を包み込んでいく。

 

「アイツらを殺せない此処は捨ててやる」

 

 バキバキと結晶が砕け散りながら、歪にギアを作り上げていく。

 

「わたしは一人で行く」

 

 まるで悲鳴を上げるかのようにギアがギチギチと音を立てて、響の肉体を蝕んでいき──。

 

「いや──独りが良い」

 

 彼女は、かつての響へと戻って行く。

 翳り、闇に落ち、昏く、暗く──。

 

「──ダメ!」

 

 それをクリスが止める。

 響にしがみ付き、この場から離さないようにするが……。

 

(っ! 何これ、熱い……!?)

 

 ジュッと肉の焼ける音がし、クリスの白い肌が赤くなり、火傷を負う。

 ガングニールとの融合によって生じたエネルギーが熱となって表に現れた結果だ。

 このままではクリスに傷痕がつくのだろう。

 しかしクリスは放さなかった。

 また失うのは──嫌だったから。

 それを響は──。

 

「……」

 

 一瞬目尻を下げ──しかしすぐに目つきを元に戻すとクリスの腹に拳を叩きつけた。

 

「カハ……!?」

「クリス!?」

 

 生身でギアを纏った響の拳を受けたクリスは、肺の中の息を全て吐いて倒れ伏した。それを見た翼が急いで駆け寄り抱き起こす。

 それを横目に響が歩き去り。

 

「響」

 

 彼女の前に奏が立ち塞がり──拳を思いっきり叩きつけた。

 しかし響はびくともせず、それどころか奏の拳から嫌な音が響きタラリと血が垂れてポタポタと床を赤く染める。

 ゆっくりと拳を離すと、響の頬は奏の血で赤く染まっていた。

 

「これで目を覚ませ……!」

 

 奏は、懇願するかのように言葉を吐いた。

 これ以上仲間が傷付くのも、仲間が仲間を傷付けるのも見たくなかった。

 そして響を絶対に独りにしたくなかった。

 故に拳を持って説得するが。

 

「目なら、とっくに覚めてるよ」

 

 今の彼女には届かない。

 

「結局わたしは呪われている。その事に気付いた」

「何を言って」

「わたしが呪われているから、コマチは死んだ」

 

 楽しい言葉を交わす相手も、手を繋ぎたい相手も、この呪いで殺してしまった。壊してしまった。あの日のように。

 

「もう、わたしの事は放っておいて」

「待て……おい響!」

「ひび、き……くん……!」

 

 さよなら──わたしの温かい場所。

 

 

 

 こうして響は二課から離脱し──それを知った日本政府は立花響の拘束を命じた。

 

 

 危険因子として……。

 

 

 ◆

 

 

「成長したネフィリムの心臓を得たのは幸福でしたね。当初の予定とは違いますが、このまま作戦を進めましょう」

 

 淡々とウェルが言葉を紡ぎ、それをナスターシャとセレナが厳しい視線を向ける。

 その視線に気付いているウェルは深く深くため息を吐き、問いかけた。

 

「まだ疑っているのですか? あれは僕の策略だと」

「当然です! だってアナタは野望があるって!」

「野望があったら人間みんな悪いことするんですか〜? もう少し感情論ではなく、理論的に発言してくださいよ!」

「〜〜〜」

 

 セレナ、何も言い返せず顔を真っ赤にさせる。

 根が優しい彼女に口論など土台無理な話であった。

 そんな彼女をウェルが鼻で笑い、さらにセレナが怒る。

 

「では、私から」

 

 そこにナスターシャが切り込んだ。

 彼女の鋭い両眼が、ウェルを突き刺す。

 

「元々意志があり制御の難しいアカシアと、暴走はしますが機械的制御ができるネフィリム。合理的に物事を進めるアナタならどちらを選びますか?」

「もちろんネフィリムです」

「ほら!」

「でも知らないんですよね〜。それはあくまで状況的に見た可能性。証拠も何もありません。そもそもネフィリムを持ち出し、計画に使うと決めたのは貴方方ではありませんか?」

 

 ぐっと言葉に詰まるセレナとは対称的に、ナスターシャはそれこそが証拠だと言う。

 

「どういう事です?」

「アナタはアカシア制御装置を持っていた。だからこそ彼を使う作戦を立案した──しかし」

 

 ギロリと彼女がウェルを睨む。

 

「アナタの、我々の目的とは別の目的を達成する為の前準備と考えたら……?」

 

 ナスターシャの推測にセレナがハッとする。

 思えばウェルが参加してから全ての筋書きが彼の言う通りだ。

 そこに不安要素に見せかけたテコ入れをして、自分にとって有利に進める事など──。

 

「買い被りすぎですよ。僕にそんな大それた事はできません」

 

 ナスターシャの推測を否定するウェル。

 しかし、ただ……とウェルは一言添えて。

 

「ネフィリムを使うのに策略を企てるというのは──僕もそう思います」

「……私がそうだと?」

「いえいえ。貴女ではありませんよ」

 

 もっと別の方です、とウェルはそう吐き捨てた。

 

 

「そういえば、そちらのマリアさんは? それにあの卵も」

「あの子は卵と一緒に部屋に居ます」

 

 へぇ、とウェルが笑った。

 

「それはそれは──」

 

 なんとも微笑ましいですね、と呟いた。

 セレナはそんな彼に肩を震わせる。

 

 ちなみにキリカは先に調の居るアジトへと帰らせられている。

 

 

 ◆

 

 

 マリアは歌を歌っていた。

 妹とよく歌っていた故郷の歌を。

 そして、彼との思い出の歌を。

 

 戦場にいる時とは打って変わって、穏やかに、ただの優しいマリアが、大好きな歌を歌っていた。

 

「……」

 

 歌い終わったマリアは、膝の上に乗せた卵を優しく撫でる。

 ほのかに温かく、時折揺れ動いている。

 特に、先ほどAppleを歌っていた時は、歌に合わせて動いているように思えた。

 

「ふふ……」

 

 マリアは思わず笑ってしまった──昔を思い出して。

 

「この歌好きだったものね……記憶を失っても、歌が好きなのは変わらないのね──リッくん先輩」

 

 マリアは卵を優しく抱えながらベッドで横になり、腕の中の温もりを感じながら目を閉じ──遠い日の事を夢で見始めた。

 

 

 ◆

 

 

 そして、同時刻。

 その日は雨が降り続いていた。

 響は自分が濡れるのも構わず、灰色の空を見上げていた。

 

「コマチと会ったのも、こんな感じな雨が降っていたっけ……」

 

 響は、コマチと初めて出会った裏路地に来ていた。

 此処に来ればコマチと会える──とは思っていない。

 ただ、自分の起源を思い出せると思ったからだ。

 孤独で戦うあの日々の事を。

 全てに怒り、復讐にのめり込んでいた日々の事を。

 

 そして思い出す──失われた日陰。

 

「……」

 

 ──ジリリリリリリリーーン……! 

 

 彼女にとって耳障りな、しかし待ち望んでいた音が響く。

 響はすぐに現れた固定電話を手に取り、叫んだ。

 

「協力しろ、ヒトデナシ……!」

『挨拶も無しかい? 久しぶりなのに。語ろうじゃないか、存分に』

「うるさい黙れ。お前はわたしに手を貸すだけで良い」

『ふむ……ちなみに聞いても良いかな? 君の目的を。面倒だからね、認識のすれ違いは』

「決まっている……!」

 

 響は──かつてと同じ言葉を協力者に伝えた。

 

「復讐だ……! わたしから大切な物を奪ったアイツに!」

 

 それに対してヒトデナシも愉快に、爽快に、面白そうにこう答える。

 

『楽しみだね、君がこれから踊るのは。見せてもらうよ、特等席でね』

 

 禁断の果実に触れた者の末路は──果たして。

 

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